FAIRY TAIL~龍と妖精~   作:雲珠

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休みの日にすることが小説とゲームと漫画しかない超インドア派作者こと雲珠(うず)です。
でも仕事は重労働。ニートだなんて言わせないぜ!


第二十五話 時間稼ぎ

 

「魔力が……ワシの魔力が…」

「じっちゃん!」

「マスター!!」

 

正直目を疑いましたが、落ちてきたのはマカロフさんだった。

あれほどの魔力が何故か枯渇し、衰弱しているのは一目瞭然。

 

『退いて下さい!』

 

マカロフさんの傍に寄っている人達にそう声を掛け、私は咄嗟に大気中に漂っていたマカロフさんの魔力を掴み取った。

掴めたのは僅かばかりだったが、それを彼の身体へと還す。

今のマカロフさんは、言わば正常に呼吸を出来なくなったのと同じ。

例え気休めだろうが無いよりはマシという状態だ。

 

「マスター!しっかり!」

「ありえねえ!どうやったらマスターがやられるんだ!?」

「一体、上で何が…」

 

マカロフさんがやられたことで、ギルド内に動揺が広がる。

逆に、相手側の士気は一気に膨れ上がった。

 

「いけるぞ!これで奴等の戦力は半減だ!」

「今だ!ぶっ潰せ!!」

 

此方側に隙が出来たことを見逃さず、怒涛の如く攻め始めるファントム達。

まさに形勢逆転の展開。このままでは本当に潰されかねないと私が危惧した時、エルザさんが立ち上がった。

 

「撤退だ!全員ギルドに戻れ!!」

「バカな!」

「漢は引かんのだー!」

「オレはまだやれるぞ!」

「私も!」

 

言葉は好戦的だが、心の迷いは吹っ切れていない。

動揺したままで勝てるほど、恐らくファントムは弱くない。

マカロフさんを倒した敵もいることですし、このままでは分が悪いでしょう。

 

「マスターなしではジョゼには勝てん!撤退する!命令だ!!」

 

現状を冷静に判断したエルザさんがそう指示すると、渋々だが撤退の気配を見せ始めた。

相手もそれが分かったのか、追い打ちをかけてくる。

 

「逃がすかァ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

私は撤退する彼等とは逆方向、つまり相手に向かって走る。

撤退命令に背く訳ではありません。

けれど誰か1人がある程度の時間を稼ぐ必要がある。

 

『エルザさん!先に行って下さい!』

「な…っ、ルーツ!お前1人では…!」

『大丈夫です。殿は任せて下さい』

 

向かってくる相手を何人か薙ぎ払い、振り向きざまに笑う。

何か言おうとしたエルザさんですが現状を見て、私の役目が必要だと悟る。

そして苦渋に迫られたような顔をして、一言だけ言い放った。

 

「必ず帰って来い!」

『承りました』

 

ここで負けるつまりは毛頭ありません。勿論、勝つつもりもないですが。

私の役目はあくまでも時間稼ぎですから。

 

「逃がすな!やれー!」

「おおぉおぉ!!」

『行かせませんよ』

 

唯一の入り口の前に立ち、行く手を阻む。

撤退した彼等を追うには私の後ろを通らないといけない。

無論、私に通す気はありません。

 

「たかが1人だ!」

「そうだ!やっちまえ!」

 

攻撃してこようとしている彼等に対して、静かに笑みを見せる。

敵の足を止める事に関しては、少しばかり自身がありますよ。

何も武力行使だけが強さでは無いと教えて差し上げましょう。

 

『―――Стоп(とまれ)

「「「ッ……!!!」」

 

殺気に龍の力を織り交ぜ、言葉を紡ぐ。

魔力が一切こもっていない、ただの声。

けれど意味有る言葉は時に絶大な力を持ち、影響を与える。

人の間ではこの力を“言霊”と言っていましたね。

 

『それ以上近付いたら、相応の覚悟をしてもらいましょうか』

 

【曉】を真っ直ぐ伸ばし、切っ先を相手に向ける。

得も言われぬ静寂の中、ごくりと固唾を飲んだ音が聞こえた。

 

『(これで時間稼ぎにはなるでしょう)』

 

獲物を見るような目で彼等を見ながら、内心は穏やかに笑っている。

この力は万能ではありません。所詮はただの言葉に過ぎませんし、強い意志さえ持っていれば簡単に突破出来ます。

それが出来ないのは、無意識の内に私の方が格上の存在だと認めているからです。

非暴力による拘束。時間を稼ぐ上で、これがもっとも有効な手段です。

私にとっては、ですが。

 

「ハッ…!」

『!』

 

嘲った笑い声が頭上から聞こえてくる。

私は咄嗟に【曉】を盾にし、落ちてくる攻撃を防いだ。

攻撃してきた人物に、少しばかり驚愕した。

 

『…先程、気配の薄い方と本部に戻られたのでは?』

「ギヒヒッ。そのつもりだったんだが……なァ!」

 

両手を鉄に変え、何度も打ちこんでくるガジル様。

ふむ。これは少々キツイですね…。

 

「こんな所でのんびりしてていいのか?白銀」

『おや、それはどういう意味でしょう』

「本部にいる女のことだよ」

 

本部…。

あぁ、そういえばルーシィさんを捕まえたと話していましたね。

けれどそれについて心配することは1つもありません。

 

『ルーシィさんは逆境に屈するほど弱い方ではありません』

「捕まるような奴が弱くねェだと?面白い冗談だな」

『それと、』

「あ?」

『私の仲間を、あまり嘗めないで下さい』

 

ルーシィさんの話を聞いていたのは私だけではない。

もう一人、聴覚に優れた方がいる。

 

火竜(サラマンダー)か」

『えぇ、ナツさんなら必ずやってくれます』

「フン。それよりテメェは、自分の心配をしたらどうだ?」

 

攻撃を防いでいると、不意に彼がニヤリと笑った。

その様子を怪訝に思っていると、私の耳に嫌な音が聞こえてきた。

 

『……ッ!』

 

私は周りに紅雷を放電さえ、その隙にガジル様と距離を取った。

そして、手に持っている【曉】を横目で見た。

まさかコレを狙っていたとは、本当に驚きですよ。

 

「ギヒヒッ!もう使いモンになんねェなァ!」

 

そこには、刀身の中央に深い亀裂が走った【曉】の姿。

同じ場所ばかり集中的に攻撃していると思ったら、破壊が目的ですか。

 

『中々やりますね』

「さっさと来いよ。隠してんのか知らねェが、テメェも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だろ」

『!!』

 

武器を破壊されたことにも驚きましたが、ガジル様の今の言葉の方が驚きが強いですね。

一体いつ、私が龍に通ずる者だと分かったのでしょう?

あまりそれらしい行動はしていなかったと思うのですが…。

 

『正確に言えば、私は滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ではありませんよ』

「シラを通す気か?」

『いいえ、真実ですよ』

 

穏やかな笑みを彼に向け、【曉】を頭上に掲げた。

雷が流れるように【曉】へと蓄積され、漏れた雷が不規則な音を立てながら輝く。

その強烈な光に影が行き場を失くし、まるで光から逃げるように私を中心に伸びて行く。

 

『出来れば避けて下さい』

「上等だ。来いよ」

 

目が眩むほどの光はその場を白に染め、一瞬にして消えた。

残ったのは、静寂。

 

・・・・・・・・。

 

「……………あ?」

 

たっぷりと間を置き、声が響く。

その張本人はルーツがいた場所を見た。だが、そこには誰もいない。

 

「あ……あのクソ野郎!逃げやがったな!?」

 

役目通りに時間稼ぎを終えたルーツは、目眩ましの合間に撤退していた。

何とも言えない空気の中、鉄竜の叫び声が木霊した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

『時間稼ぎは出来たでしょうか?』

 

一定のリズムでフェアリーテイルのギルドへと走る。

アレ以上の時間稼ぎは少々難しいですね。

ガジル様が言霊を破ったことで、相手側の空気も緩み始めていましたし…。

それに、私も武器を失ってしまいました。

 

『まさか破壊されるとは予想外でした…』

 

よくよく考えてみれば作ってから一度も修理・修繕をしていませんし、壊れた原因も当たり前といえば当たり前ですね。

自業自得な結果とはいえ、武器を失ったのは厄介です。

 

『……手加減、どうしましょう…?』

 

武器が無いということは、つまり私自身が戦わないといけない。

不味いです。非常に不味いです。

ここ最近は武器の使い難さを理由に、私自身の手加減を忘れかけている。

いや、ちょっと本当に待って下さい。人間相手の手加減ってどれくらいでしたっけ…?

 

『帰ったら早く直してしまいましょう』

 

加減を間違えてしまう前に。

こればっかりは人間の中で暮らす上で死活問題ですねー。

 

『っと、』

 

考え事を終えると、丁度ギルドに辿り着いた。

追手のことも考慮に入れていたのですが、どうやら杞憂になったようですね。

ほっと安堵の息を吐き、鉄の釘が除去されたギルドに足を踏み入れる。

 

「あー!痛ェ!」

「まさか俺達が撤退するハメになるとは!」

「悔しいぜえ!!」

 

傷を負っているものの、どうやら皆さん無事なようですね。

 

「ルーツ!」

「帰って来たのか!怪我はねェか!?」

「1人だけで無茶しやがって!」

『ただいま戻りました。マカロフさんは?』

「ポーリュシカさんの所に運ばれたぜ」

『そうですか…』

 

まだお会いになったことはありませんが、腕は確かだと聞いたことがあります。

マカロフさんも古い知り合いだと言っていましたし、心配することは無さそうですね。

 

「つかお前の方はどうなんだよ」

「あの人数相手に足止めしてたんだろ?」

『武器が壊されました』

「武器だけかよ。化け物か」

「いや、化け物だろ」

『あはは、酷いですね。しまいには泣きますよ?』

 

若干引き気味の彼等に冗談を飛ばし、もう一度周りを見渡す。

そして、部屋に置くに座っている彼女を見つけた。

傍らにはナツさんも一緒に居る。

 

『お帰りなさい。ルーシィさん、ナツさん』

「あ……ルーツさん」

「ルーツ!テメェ1人だけファントムに残りやがって!ずるいぞ!」

『ふふ、それはすみません』

 

怒るナツさんを言葉だけでさらりと避ける。

私の声にゆったりとした動作で顔を上げるルーシィさんですが、その表情は暗い。

随分と浮かない顔をしていますね。

 

「どーした?まだ不安か?」

「ううん。そういうのじゃないんだ……なんか、ごめん…」

 

ルーシィさんの表情に気付いたグレイさんとエルフマンさんが近付いてくる。

 

「まぁ、お金持ちのお譲様は狙われる運命よ。そしてそれを守るのが漢」

『お金持ちのお譲様?』

「そういや、ルーツはまだ聞いてなかったな」

 

エルフマンさんの言葉に首を傾げると、グレイさんが説明してくれた。

どうやらルーシィさんはこの大陸でも有数のお金持ちで、ハートフィリア財閥の令嬢とのこと。

私自身はお金に興味が無いので漠然としたイメージしかありませんが、結構凄い家のお譲様らしいですね。

そして、ファントムはルーシィさんの父親からの依頼で、彼女を連れ戻そうとしている……と。

成る程。それでルーシィさんは自分に負い目を感じているのですね。

 

「ルーシィ、何で隠してたの?」

「隠してた訳じゃないんだけど……家出中だからね。話す気にもなれなくて」

 

それはそうでしょうね。

自分が家出した話をするほど、ルーシィさん自身も割り切っている訳では無さそうですし。

 

「パパが私を連れ戻すためにこんなことしたんだ。最低だよ。……でも、元を正せば私が家出なんかしたせいなんだよね…」

「そ、そりゃ違うだろ!悪いのはパパ「馬鹿!」……あ、いや、ファントムだ!」

「私の身勝手な行動で皆にこんなに迷惑かけちゃうなんて…。本当にごめんね。私が家に帰れば、済む話なんだよね……」

「そーかァ?」

 

黙ってルーシィさんの話を聞いている中、ナツさんが笑いながら話す。

彼女の迷いと決意を、分かった上で。

 

「この汚ねー酒場で笑ってさ、騒ぎながら冒険してる方がルーシィって感じだ」

「……!」

「ここに居たいって言ったよな。戻りたくねェ場所に戻って何があんの?妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィだろ。ここがお前の帰る場所だ」

『そうですよ。ルーシィさんはルーシィさんです。貴女がどこの家の人だとか、そんなこと誰も気にしていませんよ』

「ナツ…ルーツ……」

 

ルーシィさんが堪えるように目に涙を浮かべる。

え、あ……な、泣かせるつもりは無いですよ!?

どうしましょう!?私、人間のあやし方なんて知らないですよ!?

 

「泣くなよ、らしくねえ」

「そうだ!漢は涙に弱い!」

「だって…」

 

取り敢えず、すんと鼻を鳴らすルーシィさんの頭をそっと撫でた。

人間が泣くのは体温調節の他にストレスの軽減になると誰かが言っていましたし、ここは我慢せずに泣いてもらいましょう。

ずっと自分のせいだと気を張り詰めていたようですしね。

 

しかし、そんなことも束の間。

どこからか鈍い音と共に地響きがギルドを揺らした。

 

「な、何だ!?」

「外だー!!!」

 

外を見張っていたアルザックさんの言葉に、全員がギルドの外に出る。

そこで、全員が目の前の光景に驚愕した。

これは流石に、予想外過ぎますね…。

 

「想定外だ……まさか、こんな方法で攻めてくるとは…」

「ど、どうする!?」

 

目の前には、六足歩行で移動する建物。

一番上に掲げられているギルドマークから察するに、恐らく幽鬼の支配者(ファントムロード)のギルド本部そのもの。

 

『まさか拠点ごと移動してくるとは、考えもしませんでしたね』

 

こちらの動揺など気にも留めず、相手の攻撃が無慈悲に開始された。

 

 




今回は文章の長さをいつもより気にして書いてみました。
少しは長くなったでしょうか?

MH4のイベクエでミラバルカンが出たそうですね。
今の作者の装備では行けないことが悔やまれます。
ちくせう。


あ、白ミラさんとのデートは楽しかったですよ!
太っ腹なプレゼントも貰いました!ひゃっほーい!

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