FAIRY TAIL~龍と妖精~   作:雲珠

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サブタイの候補を考えた結果、多くなりすぎて逆に面倒になってきた作者こと雲珠(うず)です。
最終的な思考:Simple is the best.



第二十四話 龍と幽鬼の支配者

喧嘩し、怒られ、また喧嘩し、それでも尚、背中を預けられると信頼出来る仲間。

仲間は家族で、ギルドは帰る家だ。

だから私は“いつも”のようにそれが続くのだと思っていた。

 

―――目の前の光景を見るまでは

 

『こ、れは…』

「俺達のギルドが!!!」

 

巨大な鉄の釘を何本も打たれ、建物としての形を保っているのがやっとだと思えるほどに破壊されたギルド。

マグノリアに帰って来た時、街の人達が私達を見てひそひそと話しているのは聞こえていましたが……。

 

『これが原因だったのですね』

 

流石に予想の範疇を超えていますよ。

闇ギルドならまだしも、正規のギルドに喧嘩を売ってくるなんて考えもしませんでしたからね。

多少の小競り合いならあるとは聞いていましたけれど。

 

「ファントムよ」

『ミラさん…』

「悔しいけど、やられちゃったの……」

 

悲しみと、怒りと、悔しさと。

複雑な感情が入り乱れる顔をし、瞼を伏せるミラさん。

ナツさん達はミラさんの言葉を聞いて、事の原因を問い詰めようとギルドの中へと急ぎ足で入って行った。

私はもう一度ギルドの現状を見直し、破壊の原因である鉄の釘に手を触れた。

 

『……成る程』

 

鉄の属性なんて初めて見ましたが、龍の属性も混ざってますね。

ですが私たち龍とは少々異なる力……恐らく、ナツさんと同じ。

とすると、これをした相手は滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ですか。

 

『龍の子に、あまり手を出したくは無いのですが…』

 

私にとって滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)はヒトと龍の共存を体現してくれた、可能性のある愛しい人間。

出来るなら戦いたくない。敵になりたくもない。

どうかここで手を引いて欲しい。私がまだ、理性を押さえることが出来る内に。

 

「ルーツ、」

『!』

 

後ろから声を掛けられ、我に返る。

振り返ると、どこか心配そうな顔をしたミラさんが居た。

おや、ナツさん達と中に入らなかったのですね。

 

「何を考えてるのか分からないけど、あまり思い詰めないでね」

『……ふふ、私なら大丈夫ですよ。ありがとうございます』

「なら良いけど…」

『私はこのまま帰ります。マカロフさんに動く気は無いのでしょう?』

「えぇ。ギルド間の武力抗争は評議会で禁止されてるから」

 

それを聞いて安心した。

恐らく今回の被害はギルドの建物のみ。

ギルドの仲間に怪我人はいなさそうですね。

もしいたらマカロフさんが黙っているはずありませんし。

 

『では、今日はこれで失礼します。依頼の報告は後日に』

「待って、ルーツ」

『?』

 

踵を返そうとした時、ミラさんに止められた。

何か用事でもあるのだろうかと振り向いた時、私の身体は静止した。

 

「おかえりなさい」

 

笑顔。

先程までの複雑な感情を全て覆い隠すほどの、笑み。

私もその顔に釣られように笑った。

 

『はい』

 

返事をし、今後こそ本当に踵を返した。

そして寝床へと帰る途中、私は認識を再確認した。

 

『やはり人間は強く、愛おしいな』

 

そんな暖かな心とは裏腹に、現状は悪い方へと歩みを進める。

私の淡い期待など、簡単に踏み潰して……。

 

 

 

 

 

次の日、それはマグノリアの南口公園で起こった。

偶然近くを通りかかっていた私は、驚きと戸惑いの声に誘われそこに向かった。

だが公園に着くと、自分の目を疑うような光景があった。

 

「レビィちゃん…」

「ジェット!!ドロイ!!」

 

私より先に来ていたルーシィさん達が、中央に生えている大木を見上げている。

いや、正確には大木に磔にされている三人。同じギルドの仲間を。

痛々しい傷と共に、レビィさんの身体に付けられた、とあるギルドマークが目を引いた。

 

『……ファントム』

 

自分でも驚くほどの低い声が、唸り声のように空気を這う。

手を引いて欲しいと願った。敵にはなりたくないと思った。

けれど、仲間(かぞく)を傷つけられたのなら、いくら同胞でも許しはしない。

 

「ボロ酒場までなら我慢できたんじゃがな…」

「…マスター」

「ガキの血を見て、黙ってる親はいねぇんだよ」

 

群がる野次馬から、マカロフさんが姿を現す。

言葉は冷静だが、反対に沸騰しそうなほどの魔力が身体を包みこんでいる。

マカロフさんの持っていた杖が、悲鳴をあげて砕け散った。

 

「―――戦争じゃ」

 

その一言で、私の中の何かが引き千切れる音がした。

精々今の内に楽しんでおけ、亡霊。

これから、本当の地獄が待っているのだからな。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

フェアリーテイルとファントムは仲が悪いのに、ギルド同士はそこそこ近い距離にある。

つまり何が言いたいのかというと、襲撃するのには丁度良いということだ。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃああぁぁあっ!!!」

 

ファントムのドアをナツさんが特攻よろしくぶち壊し、マカロフさんがそう宣言する。

そして、戦いの火蓋は切られた。

 

「な…っ!」

「おおぉおぉぉお……らあッ!!!」

「ぐわあぁあ!」

「て、てめえ…!!」

「誰でも良い!!かかって来いやァ!!」

 

ナツが両手に炎を纏い、敵の方へ突っ込んでいく。

驚きで固まっていた何人かはその攻撃で机ごと吹っ飛ばされた。

ふふ、流石はナツさん。

 

「調子に乗るんじゃねぇぞコラ!!!」

「ア?」

「ぬぅおおおお!!」

 

そしてグレイさん、エルフマンさんも敵陣へと身を乗り出す。

それを皮切りに、次々と妖精と亡霊が入り混じる戦闘があちこちで始まる。

私も背中の【曉】を抜き、刀身に紅雷を纏わせた。

 

『【災厄紅雷(さいやくこうらい)】』

 

仲間に当たらない様に気を配りながら、広範囲に電撃を放出する。

倒れた屑共には目もくれず、次の獲物に視線を走らせる。

攻撃を逃れた何匹かはマカロフさんの所へ向かったが……実力も計れんのか?

 

「ぐあぁああっ!!」

「ば、バケモノ…!」

「貴様等はそのバケモノのガキに手ェ出したんだ。人間の法律で自分を守れるなどと、夢々思うなよ」

「ひ…っ!」

 

案の定、巨人化したマカロフさんにあっさりと潰され、戦意すら失った。

恐怖しか残らない奴等に、立ち上がる勇気は無い。

 

「ジョゼー!!出て来んかァ!!!」

「どこだ!!ガジルとエレメント4、どこにいる!?」

 

マカロフさんとエルザさんが敵の名を叫んでいる。

私は怒りのまま【曉】を振り抜き、周囲を見渡した。

それらしい強さを持った者は此処にはいない。

……いや、1人だけ居るな。まだ嗅ぎ慣れない臭いが、1つ。

 

「エルザ!ここはお前たちに任せる。ジョゼは恐らく最上階。ワシが息の根を止めてくる」

「お気を付けて」

 

マカロフさんが上へと続く階段を昇って行く。

そしてその姿が見えなくなった時、臭いが唐突に近付いてきた。

 

「はァー!!」

「な、なんだアイツ!味方まで!?」

 

腕を鉄へと変化させ、自身の味方ごと攻撃する。

恐らくアイツが、私達のギルドを襲った張本人。

頭がそう認識すると、瞳が焼けるように痛みだす。

 

『があアァあぁアッ!!』

 

視界が紅く染まり、爪と牙が僅かに伸びる。

閉じ込めたハズの龍の力が、微かに漏れ出しているのを感じる。

 

だが、それがどうした。

 

「ウ、ぐ…!」

 

紅雷を纏った【曉】が龍の子の腕に当たる。

鉄と剣が鈍い音を立ててぶつかる。

お互いに龍の属性を帯びた武器だ。

大した決定打ではなかろう。

 

『誰に牙を向けたのか、分からせてやろう』

「ハッ、クズの分際で…!!」

 

剣を受け止めている腕が、不自然に膨れ上がる。

私は剣を引き、その場から後ろへ下がった。

と同時に、鉄が枝分かれしたように周囲へ飛んでいく。

その攻撃は先程と同じく仲間まで巻きこんでいる。

 

『仲間まで攻撃するか、龍の子』

「避けられねェようなクズが悪いのさ」

 

言い方は悪いが、ある意味正論ではある。

そもそも邪魔にならないように逃げればいいのだ。

それを、何を思ってか近付いてくる奴も悪い。

所詮は同士討ち。自滅し、数を減らしてくれるのは好都合だ。

 

「テメエのことは知ってるぜ、白銀のルーツ」

『そうか。龍の子の耳に入っているとは嬉しい限りだ』

「実際見たが、テメエのどこが“白銀”なんだか」

 

龍の子の言葉に違和感を感じ、ふと自分の髪を見る。

白いが……一部、紅が混ざっている。

 

『っ、』

 

その色に心が揺らぐ。

私は紅く染まった髪を握り締め、静かに息を吐いた。

落ち付け。私は誓ったはずだ。もう二度と、あんな惨劇は起こさないと。

 

頭が冷静になっていくのと同時に、紅い視界が他の色を取り戻していく。

僅かに漏れ出していた龍の力も、少しずつ塞き止められていく。

 

「隙だらけだぜ!」

『この程度、隙とは…』

「ガジルー!!俺が妖精の尻尾(フェアリーテイル)滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だァ!!」

 

剣を構え直そうとした時、ナツさんの横槍が入って来た。

凄い勢いで飛んでいく龍の子……いえ、ガジル様に、私は何だか笑いがこみあげてきた。

 

「ルーツ!コイツよこせ!俺がやる!」

『ふっ、く……ッあははは!』

「る、ルーツ…?」

『あははッ、あー…可笑しい。ふふ、ナツさんのお好きにどうぞ』

「おっしゃ!」

 

やる気に満ちた顔でガジル様の方を見るナツさん。

よこせ、なんて…。一応獲物を横取りする自覚はあるんですね。

私は怒りの毒気を抜かれ、クスリと笑った。

 

『ありがとうございます。ナツさん』

 

仲間を傷つけられた怒り。

同胞の子に会った愛おしさ。

 

その二つの感情が私の中に存在している。

敵に向けるには、あまりにも矛盾した感情。

だから自分の心を制御し切れずに怒りに狂った。

あのままだと、私は昔の私に戻るところだった。

 

「オラァ!!」

『気配の消し方が甘いですよ』

「ぐえっ!」

 

襲いかかって来たファントムの一員を【曉】で払い飛ばす。

そして、慈しむように笑った。

確かに敵ではありますが、彼もまた私が愛でる人間の1人に過ぎません。

勿論、レビィさん達を傷つけた代償は支払ってもらいますが。

 

『掛かってくるのならお相手致しましょう』

 

剣を握り直し、周りを見渡す。

その時、地面が唐突に揺れ始めた。

圧倒的な魔力に建物が堪え切れなくなり、所々に罅割れが走る。

 

「な…何だ!?」

「地震!?」

 

慌て始めるファントムとは対照的に、フェアリーテイルの全員は口元に笑みを浮かべる。

分かっているからだ。この地震を引き起こした人物を。

 

「これはマスター・マカロフの“怒り”だ。巨人の逆鱗……もはや誰にも止められんぞ」

「ひ…ひぃ!!」

「ウソだろ!?ギルド全体が震えて…ッ!」

「覚悟しろよ。マスターがいる限り、俺達に負けはない」

 

力強い魔力に、フェアリーテイルの士気が高まる。

しかし、何故でしょう。安心感とは裏腹に、嫌な胸騒ぎがします。

こういう勘ほど外れていて欲しいものですが……。

 

『!!こ、れは…ッ』

 

物凄い勢いで、空気中に魔力が放出されている。

この消費されている魔力の持ち主は、私が先程感じた人物と同じモノ。

 

『マカロフ、さん…?』

 

私がそう呟いた時、背後から何かが落ちてくるような音がした。

 




ルーツは龍も人間もどちらも好き!
でも今はフェアリーテイルが仲間兼家族なので、傷つけられたら怒ります。
という訳でちょっぴりキレさせました。本気じゃない、よ…?(多分)

取り敢えず、ファントム編に入れて満足。
記念に白ミラさんをデートに誘ってくる!
玉砕したら誰か慰めてね!(知らんがな)

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