FAIRY TAIL~龍と妖精~   作:雲珠

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連載漫画の1巻と現在出ている最新刊の絵柄を見比べて「あぁ…」と妙な感動を抱いている作者こと雲珠(うず)です。
え、私だけですか?


第二十一話 龍、帰還

『これは、また…』

 

ラクサスさんが居る場所に来ると、焦土が輪にかけて酷くなっていた。

足元にあった黒焦げの木の破片を掴むと、大した力を入れている訳でもないのに音を立てて割れ、砂へと還って行った。

これはもう木炭とかそういう域を越してますね。灰です灰。

 

「テメェの方も終わったのか」

 

近くの無事だった木に寄りかかり、魔力の回復を図っているラクサスさん。

戦闘中に服が破れたのか、上半身裸のまま普段のコートを羽織っている。

ミオナにラクサスさんサイズの服ってありましたっけ?

 

『えぇ。お疲れ様です、ラクサスさん』

「…お前それ以上近付くなよ。血生臭ェ」

『え?……あぁ、すみません』

 

しかめっ面をしたラクサスさんに言われ、自分の姿を見直す。

そういえば注意を引くために返り血を浴びたんでした。

血って中々色が落ちない上にしばらく臭いが残るんですよね…。

私もミオナで服を調達しないといけませんね。

 

「行くぞ」

『すみませんが先に行ってて貰えませんか?』

「あ?」

『少々用事がありまして』

 

歩けるまでには魔力が回復したのか、町の方へと歩を進めるラクサスさん。

やはり若いと魔力の回復力が早いですね…。

ま、それはそれとして、私は静かにラクサスさんに笑いかけた。

一瞬怪訝そうな顔をしたラクサスさんですが、無言で私から視線を外した。

これは勝手しろ、ということでしょうか?

 

『すぐに戻ります』

 

ラクサスさんの背中にそう言葉を掛け、私はある方向へ足を向けた。

そこはラクサスさんが最後に放った攻撃の先。

つまりは、あのクルペッコの所。

 

私は足に力を入れ、焦土になった道を駆ける。

もう手遅れかもしれませんが、確認したいことがあるんですよね。

 

『ん、アレですね』

 

黒焦げの木に囲まれ、力無く倒れているクルペッコ。

もう立つ体力も残されておらず、虫の息だ。

だが微かに呼吸の音が聞こえる。

私はクルペッコの傍に腰を降ろし、語りかけた。

 

『《我が声が聞こえるか?》』

<っ、かの……りゅう…?>

 

聞こえづらいが、話せる。

私はそのことに安堵し、矢次に言葉を紡いだ。

 

『《そうだ。我が問いに答えよ、彩の鳥》』

<なにゆえ…ひと、に……>

『《答えよ、彩の鳥。どうやってここに来た》』

 

彼の言葉を無視してしまったが、もう時間が無い。

こうして話せるだけでも奇跡に近い。

蝋燭の炎が最後に激しく燃えるのと同じ現象が彼に起こっているだけに過ぎない。

 

<やみに、よばれ……きづいたら…>

『《…そうか。済まなかったな》』

 

闇に呼ばれた。

恐らくは私と同じく、あの謎の黒によってここに連れて来られた。

原因も理由も分からない。その正体すら掴めない。

むしろアレは自然現象の一部なのか、それとも何らかの人為的作為が働いたものなのか…。

自然の現象ならば良い。だが人の手が加えられているのなら、放っておくわけにはいかない。

黙って踊らされているというのは、癪に障りますし。

 

<たのみが……きいて、ほしい…>

『《申してみよ》』

<このみを、くらって……もらい、たい>

『《我で良いのか?》』

<しらぬものども、より…どうきょうの……あなたの、かてに…>

『《彩の鳥…》』

<くろうて、くれ……たの…む……>

 

クルペッコはそれっきり口を閉ざし、命を終えた。

私は死した身体を愛おしく撫でながら、微笑んだ。

 

『頼まれずとも、私はアナタを喰らいましたよ』

 

同郷という理由だけではない。

未知の世界に来てなお、己が種の本能を忘れなかったアナタだからこそ、私が喰うに値する。

糧というならば、存分にその力を私の中で発揮すると良い。

 

『いただきます』

 

私はそう言って、クルペッコの身体に齧り付いた。

血肉が魔力の回復を促進し、各部分が私の堅殻をより強固なモノへと変化させていく。

人間時では見た目的な変化はありませんが、皮膚の下の筋肉がより硬くなっていますね。

まぁ今回は微々たるものですが。取り込めたのは電気石くらいでしょう。

 

『……ふう、ご馳走様でした』

 

口周りに付着した血を拭い、その場を立つ。

もうここに用はありませんし、早くミオナの町に戻りましょう。

あまり遅いとラクサスさんの機嫌を損ねますし。

 

血しか残っていない跡をそっと見直し、その場を去った。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

ミオナに着くと、すぐにラクサスさんを見つけた。

どうやら村長さんと話し合っている最中みたいですね。

 

「え、えーと……森の一部が壊滅…ですか」

「あぁ」

 

……なんとも間の悪い時に帰って来てしまいました。

そして破壊した本人は一切の悪気も反省も見られませんね。

まぁ私も気にしていないので人のことを言えた義理ではないのですが。

 

『ラクサスさん』

「ルーツ、かえ「ひっ…!だ、大丈夫ですか!?」

 

ラクサスさんの言葉を遮る村長さん。意外と勇者ですね。

一瞬とはいえ怯えられたのはショックですが、流石に血濡れの状態では苦笑するしかありません。

普通に考えれば、これが一般的な反応ですし。

 

『えぇ、問題はありません。もしよろしければ、井戸かシャワーをお借り出来ますか?』

「私の家でよければ使って下さい」

『ありがとうございます。ご好意に感謝します』

「いえいえ!滅相も無いです!」

 

凄い勢いで首を横に振る村長さん。……痛くないのでしょうか?

私は村長さんの首を心配しながら、ラクサスさんの方を見た。

 

『依頼の報告はどうなったのですか?』

「説明はした」

「はい、受けております。それで、その……森の一部が壊滅、という話ですが…」

『正確には壊滅というより焦土と化しています。申し訳ありませんが、森の再生には少々時間が掛かると思います』

「再生…。そうですか、分かりました。この度は討伐の依頼、町を代表して感謝致します。今晩はどうぞ私の家でお休み下さい」

 

丁寧に頭を下げ、クルペッコが討伐されたことを町の人達に報告しに行った村長さん。

いやー、穏便に話が終わって良かったです。

アレ以上話しを引き伸ばされるのと後が面倒臭いんですよねー。

 

「おいルーツ」

『はい。何でしょう?』

「あの森が再生するのに何年掛かる?」

『ざっと200年くらいです』

「……お前な…」

 

ラクサスさんの質問に軽く答えると、酷く複雑そうな顔をされた。

嫌ですね、嘘は言っていませんよ?森の再生には時間が掛かると言ったじゃないですか。

え?“少々”?龍にとっては100年や200年なんて“少々”の時間ですよ。

そもそも最近の定義も龍の間では1000年単位ですし。

 

『土や木、それを含めた自然系の魔法を使える魔導士がいればもう少し早いですよ』

「そりゃそうだが…。まぁ、俺達が考えることじゃねェな」

『助言する程度で良いと思いますよ。それより、私は早く水を浴びたいです』

 

もう血も渇き切って瘡蓋みたいになってますね。

服も硬くなってますし、早く新しい服を用意しないと。

あ、そうそう。服と言えば……

 

『ラクサスさんは服、どうするんですか?流石にコートだけ、という訳にもいきませんよね?』

「テキトーにそこらで買う」

『では、ついでに私の分もお願いします』

「あ?なんで俺が…」

『私が行ったら確実に入店拒否されるでしょう?サイズはラクサスさんよりワンサイズ落とした物でいいので』

「……チッ、仕方ねェな」

『ふふ。お願いしますね』

 

不機嫌そうに歩いて行くラクサスさんに笑いかけ、私は村長さんの家に向かった。

家は無人でしたが、先程シャワーの許可は頂いたので気にせずお風呂をお借りした。

流石は村長なだけあって結構広いですね。

 

『よいしょっと』

 

身体にへばり付いた服を無理やり脱ぎ、近くにあったカゴに入れる。

渇いたと言いましたが、服と密着していた部分はまだ粘り気がありますね。

長時間も血に塗れていると流石の私でも不快ですし、早く入って落としてしまいましょう。

 

『えーと、シャワーの取っ手は…』

 

未だにお風呂は慣れませんね。

浴槽は熱いですし、シャワーの威力は弱い。

普段は湖に飛び込んだり、滝で洗い流しているからちょっと物足りないです。

水の冷たさは申し分ないですが。

 

『あぁ、これですね』

 

シャワーの取っ手を捻ると、頭上から水が降ってくる。

その冷たさに興奮していた身体が鎮まっていくのを感じた。

しばらく水を浴び、髪にこびり付いた血を乱暴に擦った。

結構力を入れないと落ちないんですよねー。

毛先だけなら切ってしまえば良いのですが、今回は頭から被っちゃいましたからね…。

 

『丸刈りに出来れば楽なんですが』

 

無駄に長い自分の髪を摘まみ、呟く。……まぁ出来ないんですけどね。

髪なのに結構な強度ありますし、例え切っても次の日になったら元通りに生えてくる。

我ながら面倒臭い髪ですよ、本当に。

 

『さて、もう良いでしょう』

 

鳴くような音を立ててシャワーを止め、髪の水を絞る。

足元の排水溝から赤い液体が流れていくのを何気なく見た後、お風呂場から脱衣所へ出た。

着用していた服をタオル代わりにして髪を拭いていると、居間の方へ続くドアが開いた。

 

「……ルーツ…」

『あぁ、ラクサスさん。服を買って来てくれたんですね。ありがとうございます』

「………」

『ラクサスさん…?』

 

呼びかけてみるも、返事が無い。

というより何故かガン見されている。

 

『あの…』

「男、だな」

『いや男ですよ!?何でそんなにしみじみと!?』

 

正確には雄ですが、性別の括りに関しては同じ意味合いです。

むしろ何故そんな事を言われたのかが不思議ですよ。

ハッキリ言って心外です。

 

「つか意外と戦闘傷多いんだな、お前」

『生きていれば色々とありますからね。それより、そろそろ服を着たいのですが…』

「ほらよ」

『ありがとうございます』

 

片手に持っていた紙袋を差し出され、私はその中身を取りだした。

白のカッターシャツに黒のスラックス。そして少し長めのえんじ色のパーカー。

私はそれに着替え、着ていた服を紙袋の中へ仕舞った。

 

「ついでに受け取っとけ」

 

ふとラクサスさんなら何かの束を投げられた。

手に取ってみると、お金である。

 

『……まさかこれ、報酬金ですか?そうだとしたら要りません』

「あ?」

『元々ラクサスさんの依頼でしたし、私はそれに同行させて頂いた身ですから』

 

私はラクサスさんの手にお金を返す。

本来なら受けられなかった依頼ですし、むしろ私の方が報酬金を払いたい位です。

丁重にお金の受け取りを拒否すると、ラクサスさんが苛ついた目で私を見た。

 

「安く見てんじゃねェよ」

『ラクサスさん…?』

「報酬っつーのは依頼の完了だけじゃねェ。依頼を完了した自分の能力を含めての金額だ。正式の依頼じゃねェならまだしも、テメェの力はタダ同然か?あ?」

 

ラクサスさんの言葉に、私は思考した。

正直、自分の力に価値があると思ったことはありません。

あくまでも生きて行く上で身に付けた必要最低限のこと。

空気を吸うのと同じ感覚の必要性。

もし私自身に価値を見出すとしたら、それは爪や牙、鱗などの身体の部分。

力自体に価値があるとは思いもしませんでした…。

 

『……分かりました』

 

けれどそれが人のルールであるならば、受け止めましょう。

私はラクサスさんから拒否した報酬金を頂き、紙袋の中に入れた。

 

「それじゃあ俺は行く」

『え?泊まっていかれないのですか?』

「この先に用があったからついでに受けた依頼だ。居る理由はねェ」

 

S級をついで扱い、ですか。

なんとも末恐ろしい限りですね。

……あぁ、だから私の同行も許可して下さったんですね。

 

『そうですか。ではお気を付けて』

「ハッ、誰に言ってやがる」

 

軽く笑って踵を返すラクサスさん。

私は彼を町の入り口まで見送り、一日をミオナで過ごした。

 

そして次の日、フェアリーテイルへと帰還した。

 

 




今回はいつもより長く書けました!少しだけですけど!

最近、ルーツがあの口調のせいか書いている私すらも性別が迷子になりそうだったので再認識・再確認。
それに伴い、ラクサスがキャラチェンジ!
いやー、絶対にこんなこと言わないなー。と思いながらも書きました。
キャラ壊れとから知らねーです。

よし。こうなれば白ミラさんに再び癒してもらうしかない。
久々のデートだぜ!

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