いつか丸焼きにしてやる…。
場所は村長さんの家へと移り、私達は村長さんと向かい合うように座っている。
お互いに一息ついた所で、村長さんが口を開いた。
「さて、まずどこから話すべきか…」
「最初っからだ」
「そうだな…」
村長さんは目を閉じ、数秒ほど経ってから開けた。
その目はしっかりと私達を見据えている。
「始まりは二ヶ月ほど前になる―――」
◇ ◇ ◇
―――二ヶ月前
ミオナは元々小さな“村”だった。
段々と人口が増えるにつれ、いつの間にか“町”と呼ばれるほどになったのだ。
「村長ー、こっちの木はどうしますか?」
その名残か、町の人達はいつまで経っても町長じゃなくて村長呼びだ。
「そこの木は雨に強い。家の建築に使おう」
人口が増えたことで、我々は土地を広げようと開拓に励んでいた。
勿論、村であった頃の自然の豊かさを破壊しない様に細心注意を払って。
森に住む動物を驚かさないよう、開拓は人の手だけで行っていた。
何年掛かるか分からなかったが、それが自然に対する私達の敬愛の念であった。
「西側も大分片付きましたねー」
「あぁ、最初の頃は何年掛かるかと思っていたがな」
「人間やれば出来るもんですね」
笑いながらも、手は休めない。
そして町から大分離れた時、それは起こった。
「おい、なんだアレ?生き物か?」
男の1人が少し先を指し、首を傾げた。
その指の先を追って行くと、鮮やかな色をした何かが動いていた。
木に阻まれよく見えなかったが、チラチラとまるで踊るように動いている。
「風か何かかじゃないか?」
「でも今は時期じゃないだろ。それに、風も吹いてない」
鮮やかな色というのは町の人間には見慣れた物だ。
毎年、春から夏にかけて数百種類もの数の花が芽吹く。
だが今は秋。花は咲くどころかゆっくりと紅葉と共に枯れ、散っていく。
「見に行くか」
「それしかないな」
そう言って、私達は鮮やかな色をした何かに近付いて行った。
この頃の私達は、森に住む動物に対しての恐怖心があまりなかった。
どちらかと言えば同じ森に住む仲間。共存していける生き物だと持っていた。
けれど二ヶ月前のこの日。その認識は覆された。
<~♪~~♪>
それは歌いながら踊っていた。
リズムを取り、軽快な足取りでステップを踏んでいる。
その行動だけでも驚きなのに、ヤツの体は優に8mを超えていた。
喉元の大きな袋を目一杯膨らまし、ラッパのような口で歌っている。
体と同等に大きい足に踏まれ、地面に倒れていた大木が悲鳴を上げて潰れた。
「なんだ、あれは…」
無意識の内に呟いた言葉。
返答など返ってくるはずもなく、無言が流れる。
耳の横をすぎる風が、妙に大きく聞こえた。
<♪~~♪~>
<ウッホ!ウホウホ!>
「バルカン!?」
動けずにその場を見ていると、鳥の声に誘われたのか森バルカンがやってきた。
二体、三体……と数を増やしていく奴等を見て、私達は「マズい」と直感した。
そして奴等に見つかる前に、その場を静かに退散した。
「ど、どうするんですか、村長…」
「……魔導師ギルドに依頼しよう。私達の手に負えるものではない」
少しだけ考えた挙句、私は魔導師ギルドに討伐の依頼をする事に決めた。
◇ ◇ ◇
「しかしこの町に来た魔導師は全員、ヤツが操る怪物に倒されてしまった…」
『成る程。それで難易度が上がったという訳ですか』
「はい。もはや並の魔導師ではどうしようも出来ないと思いまして」
確かに、あの鳥だけを倒すなら未だしも、呼び出されたモンスターとも戦わなければならない。
半ば強制的な一対多数の戦闘は予測不可能なため、かなり戦い辛いものだろう。
「フン。行くぞ、ルーツ」
『はい』
事情を聞き終えた私達は、さっそく討伐に行こうと立ち上がる。
話を聞いてなお事も無げな様子の私達に、村長さんは椅子を倒しながら身を乗り出した。
「っ、今からですか!?ヤツは手強い…。それ相応の準備をしてから…!」
「今まで誰が来たかは知らんが、俺をそんな雑魚共と一緒にすんじゃねェよ」
『彼はS級魔導師です。その称号は伊達ではありませんよ』
ラクサスさんの眼光にたじろぐ村長さんに、私はそっと微笑んだ。
全く、一般人にそんな威圧をしては駄目ですよ?
村長さんはあくまでも依頼人なんですから。
「それだけではありません!ヤツは特定の縄張りを持たない。森に詳しい人を案内人に…」
『御心配は無用です』
「ですが…!」
『覚えていますから』
森も、臭いにも。
大体の森の構造はこの町に来る前に把握している。
村長さんの“ヤツ”という正体も、今の話を聞いて確信した。
やはり予測が当たりましたね。
「さっさと行くぞ」
『あ、置いて行かないで下さいよ』
早足で村長さんの家を出て行くラクサスさん。
私は呆然としている村長さんに軽く会釈し、後を追いかけた。
「…それで?」
『え?』
私の方を見ずに、ラクサスさんはそう言い放った。
思わず首を傾げれば、目線で答えを催促してきた。
あぁ、気付いていたのですね。
『推測ですが、名前はクルペッコ。強さはそこそこですが、自身はあまり戦わず、他のモンスターを呼び出します』
ラクサスさんは見ていない様でよく見ていますね。
いつ私が知っている事に気付いたのでしょう?
まぁ、知られて困ることはないですが。
「聞いたことねェな」
『でしょうね。私が前に居た場所だけに生息するモンスターです。絶滅したとばかり思っていましたが…』
場所、というよりは世界…でしょうか?
それより、私はクルペッコが存在していることに驚きを隠せませんよ。
二ヶ月前というと、私がココに来た時期より少し後ですね。
もしかして他の彼等も来ているのでしょうか?
クルペッコという前例がある分、否定は出来ませんね。
『話を戻しますが、彼等は火、または雷を発生させる器官を持っています』
「何?」
『両翼に火打石と呼ばれるモノがあって、それを打ちつけて発生させているみたいですね』
「どっちにせよ、最初に翼を使えなくすれば訳ねェな」
『えぇ、そうですね』
私はラクサスさんの言葉に頷きながら、まだ見ぬ彩鳥に向かって同情の念を送った。
種族が違うとはいえ、同じく翼を持つ身ですからね。
鳥の正体、発覚!
まぁ鮮やかな鳥といえばピン!と来ていた方も大勢いるでしょうが。
そしてやっぱり短い。
集中力が続かないせいですねー。
次話からは、いよいよ討伐に入る……とイイナァ。