軽く放置気味でした。すみません。
『これはまた、凄いですね…』
外に出ると、暴風が駅全体を覆っていた。
どうやら中よりも外の方が風の被害が大きそうですね。
『……さて、私も行きますか』
眼下で翼を生やしたハッピーさんとナツさんが飛んで行くのが見え、私もその後を追った。
エルザさん達の方は魔道四輪がありますし、大丈夫でしょう。
飛べる者は、空から先に行ってますよ。
私は背中から生える白い翼を一撫でし、高く飛ぶ。
あまり見られたくありませんからね。特にギルドの仲間には。
……あ、マカロフさんとギルダーツさんは別ですよ?
もう私の正体を知られていますからね。
『っと、しかし難しいですね…』
ナツさん達を見失わない様に飛んでいますが、これが結構難しいです。
人間の姿でバランスを取るのがこれほど難しいとは予想外でしたし。
あと単純に、私の方がスピード出るんですよね…。
つまり追い越さない様に加減するのも難しい。
この依頼から帰ったら練習しないといけませんね。
「ウオォオオォォオ!!これがハッピーのMaxスピードだァ!!」
ふう、やっとエリゴールに追いつきましたね。
ナツさんも炎を推進力にしただけあって、速い速い。
私は一度近くの岩場に隠れ、翼を身体の中へと戻した。
『ん、』
これ、ちょっと痛いんですよね。
要は無理に骨を動かして皮膚を裂いているわけですから。
回復にも数秒ほど時間を費やしますし。
『……ふう』
おおよそ、人体では絶対に鳴らないような音が終わり、翼が生えていた場所を軽くさする。
よし、傷も回復しましたし痛みも引きましたね。
「チクショー!フラフラ飛びやがって!降りてこい!」
「調子に乗るなよ、蝿が!」
『調子に乗ってるのは貴方の方です……よッ!』
「ぐは…ッ!?」
全く無警戒だったエリゴールの背後に跳躍し、その背中を殴る。
油断してくれたお陰で、綺麗に入りましたね。
ふっ、私もストレスが溜まっているんです。覚悟してもらいましょう。
「ルーツ!エルザ達は?」
『今頃、魔道四輪で此方に向かっていますよ』
「そうか。……ん?ルーツはどうやって来たんだ?」
『そんなことより、今は目の前の敵ですよ』
「おう!それもそうだな!」
意外と鋭いナツさんの質問をはぐらかし、エリゴールに意識を向けさせる。
これは後で言い訳を考えておいた方がいいですね。
「チッ、邪魔な蝿がもう一匹…」
『この先の街へは行かせません。貴方はここで倒します』
【曉】を抜き、その切っ先をエリゴールへ向ける。
これでも龍ですから、戦闘は大好きですよ?
無意識に口角が上がっていくのが分かった。
「行くぜ!オラァ!」
「フン!」
最初にナツさんが手に炎を纏って攻撃する。
エリゴールは背後に居る私を警戒しながら、その攻撃を鎌で防ぐ。
見ている限り、やはりナツさんより戦い慣れていますね。
暗殺系の依頼ばかりを受諾しているだけのことはあります。
しかし…
「ぐ…ッ!」
『空へは行かせません』
戦闘経験も殺し合いの経験も、私の方が上ですよ。
ナツさんと距離を離し、再び空へと行こうとするエリゴールに斬りかかる。
今の私達に空を飛ぶ方法はありませんからね。
一度制空権を取られてしまうと、攻撃の手段が無くなってしまいます。
『ナツさん!今です!』
「よっしゃー!火竜の……」
「っ!?あのガキ、コイツごと攻撃する気か…!」
「咆哮!!」
「ストームウォール…!」
エリゴールが咄嗟に風の壁を展開させ、ナツさんの咆哮を防ぎ切った。
魔風壁といい、相当強力な防御魔法をお持ちのようですね…。
「テメェも邪魔だァ!
『な、……か、はッ!』
咄嗟に攻撃を防ごうとするも、風は私ではなく、私の足元そのものを崩した。
バランスを崩した瞬間、エリゴールは私を線路の上から蹴り飛ばした。
線路の下は、どこまでも続く奈落。
『ッ…
「ぐあぁああぁぁぁあ!!」
下に落ちる直前、エリゴールに向かって雷を放つ。
仕方ありません。後はナツさんに頼むことにしましょう。
「ルーツ…、ルーツ!!!」
線路から身を乗り出し、声を荒げるナツさん。
いや、貴方まで落ちたら本当に洒落にならないので止めて下さいね?
『頼みましたよ!』
ナツさんの姿が見えなくなる前に、私はそう叫んだ。
そして濃霧に包まれ完全に姿が見えなくなった時、空中でクルリと一回転して止まった。
背中からはバサバサと風の音が聞こえてくる。
『本日二回目、ですね』
翼を傷つけない様に気を付けながら、【曉】を背中にしまう。
さて、どうやって上に登りましょうか…?
◇ ◇ ◇
「ルーツ!!」
『頼みましたよ!』
そう言って、笑いながら落ちて行ったルーツ。
あのルーツが簡単に死ぬとは思えないが、この高さから落ちたらタダでは済まないだろう。
「クソ!エリゴール!!」
本当は今すぐにでも助けに行きたいが、その前にエリゴールを倒さなければならない。
葛藤の中、ナツは自分の感情に身を任せた。
仲間を傷つけられた怒り。その感情は魔力となり、ナツの力を一時的に増加させた。
「
ナツの魔力が上がったことを察したのか、エリゴールは全身に風の鎧を纏う。
だがナツは構わず、そのまま攻撃に移った。
「火竜の鉄拳!!」
「フン、こんなものか」
「どうなってんだ!?炎が、消えちまう!」
「まるで効かんな」
風の鎧にナツの攻撃は掻き消され、エリゴールに届く事はない。
「
「んだと?」
「炎は風には勝てねェんだ!!」
風が強さを増し、ナツの身体をジリジリと後ろに下げる。
一瞬でも気を抜けば吹っ飛ばされそうな程の強風。
ナツは腕をクロスにして防ぎながら呟く。
「くそったれ、まるで台風みてェだな…」
「もはや炎は届かん!ストームシュレット!」
「クソ!この…!」
自身の防御を固めたまま、エリゴールは風の弾丸を打ち出す。
ナツも必死に攻撃を避けながら、反撃する隙を見つける。
「うおぉおおおぉ!!届けェ!!」
炎を推進力に使いながら、空にいるエリゴールに近付く。
しかし、攻撃が届く前にナツの身体は吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた。
その様子を、エリゴールは高笑いしながら見下した。
「ハッハッハ!何をやっても無駄だァ!」
「炎どころか、俺が近付けねェ!クソ…!」
「どうした小僧。そんなものか?もう少し骨のあるヤツかと思ったが…」
エリゴールはそう言いかけると、何かを思い出したように笑った。
まるで、侮辱するかのように。
「あぁ、白銀のルーツも大したことは無かったからな。当然か」
「っなんだとテメェ!!」
「今頃は奈落の底でくたばってるだろうよ!」
「アイツが……ルーツが、そんな簡単に死ぬわけねェ!!」
ナツはそう言いながら、自分の拳を堅く握りしめた。
それはまるで、自分に言い聞かせているみたいに。
事実、ナツはエリゴールの言葉を完全に否定出来なかった。
あの高さから落ちたらタダでは済まないと、自身さえも思ったからだ。
だが認める訳にはいかない。
今自分に出来るのは、ただ信じるだけ。
ルーツは頼むと言った。頼まれたからには……やり通す!
「同じ所へ送ってやるぜ!全てを切り裂く風翔魔法“
「
ナツの後ろにいたハッピーが、エリゴールの魔法に驚く。
しかし、もう魔法は止まらない。
……いや、止まる筈が無かった、というべきだろうか。
「ぐ…ッ、あの時のか…!」
突然エリゴールが苦しげな呻き声を上げ、その場に膝をついた。
エリゴールの脳内には、ルーツが最後に放った攻撃の光景が映し出されていた。
ようやく、その時の痛みが身体へと現れたのだ。
そして同時に、エリゴールが纏っていた風が勢いを弱めた。
「うおぉおおぉぉおお!!!」
ナツはその隙を見逃さず、エリゴールへと突っ込む。
「火竜の……」
「しまっ、」
「劍角!!!」
全身に炎を宿し、突進する様はまるで―――竜そのもの
そんな攻撃を受けたエリゴールは呆気なく空中へ飛ばされ、地面へと叩きつけられた。
その衝撃で懐にしまっていたララバイがカラリと音を立てて転がった。
「どうだハッピー!」
「あい!流石は
ルーツが全然出てこない…。
あれ?こんなはずではなかったのに。
ま、いっか。
白ミラさん、かーわーいーいー
もう何度も会いに行っちゃうね!