僕は夢を見ていた。
記憶を失う前の僕のであろう人らしい記憶だった。正直、今の僕からは考えつかないくらいに人間らしい僕の記憶だ。
約束とはなんだったか?
信用とはどんなものだったのだろうか?
友情とは?愛とは?
今の僕には思い出せないモノばかり…。しかし、コレだけは理解できた。このユメを見せているヤツは僕を苦しめ陥れたいに違いない。
恨みや妬み…。そんなドロドロとしたヒトらしい感情なんて僕には…もう、あまり感じないというのに。
『何故、恐レナイ?何故、恐怖シナイ?アンナニニモ死ヲ恐レテイタハズナノニ何故?』
恐怖はしている。感情が心まで届いて来ないだけで精神体であるこのからだの手は今もカタカタと震えている。
「恐怖はしてますよ。でも、恐怖するだけではなんの情報も得られないでしょう?だから観察してるんです。僕を無理矢理にでも呑み込もうとしているこの
恐怖するだけならいつでも出来るんだ。
とにかく冷静に思考し、状況を判断して結果を出さなければあっという間に死んでしまうような世界に今までも教えられてきたのだからフツウなこと。
「僕はただ知りたい。なぜキミがこんなにも僕を恐怖させ自我を塗り潰そうとしているのか…。塗り潰さなければならないのかを…。もし、もしもだ。僕に、たった一つの簡単に塗り潰せてしまう意識に少しの、ほんの少しだけでも
ドロドロとした怨念の流れの中、僕は見えてすらいない人物に話しかける。きっと、彼は疲れ果てている。そうでないとこの状況に理由がつかない。
「───っ、お前は…。いいだろう。説明してやるよ。まぁ、お前は前提すらも理解していないだろうからそこから説明するけどな」
姿の見えなかった謎の怨念の渦の奥深くから聞こえる機械的でおぞましい声がどこかで聴いたことのあるような理性的でとても優しい声質へと変わった気もする。
「まず、俺の名前はゼロ。姿が見せられないことはすまないと思っているがこれでもお前の中に潜んでいたノアの遺伝子である〈恐怖〉のメモリーだ。」
姿とか正直、僕はどうでもいいんですけど…早く顔合わせしたいものですね。
それと、遺伝子とか言ってましたけどその割には魂に偶然にも引っ付いて来ちゃった感があるような気がします。なにせ、今回と同じくらい苦痛に感じる頭痛と悪夢は何気に前世からずっと受け続けてた気がしますし…。
「…恐怖の、
「そうだ。ノアに覚醒してしまった者は必ず覚醒するキッカケとなる
〈ノアの記憶〉と〈キッカケ〉
まぁ、『ない』といったら嘘になりますね。
僕はずっと恐怖で人を支配する悪魔の下で育てられ転生するまでそこで生活してたんですから。
「まぁ、心当たりがあるかどうかは正直どうでもいいんだ。大切なのは自分のメモリーの属性を覚えておくことだ。はっきり言うとノアに覚醒した者はノアになった時点で自分の力は理解する。因みにお前はまだ半端なノアだから能力は使えない。」
は、半端って…。
うん、まぁ…なんとなく完全にノアに覚醒したら後が怖いから別に構わないけど…。
「ノアの特徴として一番分かり易いのは褐色に染まる肌の色と額に浮かぶ聖痕だ。あと、例外もいるようだが基本的にノアは金色の瞳を持っているな。」
これは重要ですね…って僕の瞳の色は元々、金色なんですけどノアに敵対する人たちがその情報持っていたら疑惑がある時点で処刑されてしまうじゃないですか。
「…ノアのメモリーってどれくらいあるんですか?」
「あー、たぶん13だ。幾つかダブりもあった気がするが…だいたいそれくらいだったはずだ。」
な、なんだか回答が曖昧だなぁ。
ノアらしき人物が13人以上現れても驚かないように心構えくらいはしておこう。