「メイドさんは好きですか?」
この質問をぶつけた学生の方、ごめんなさい。
※この前書きは3カ月くらい前に書いたものを流用してます。
「お兄ちゃん。返答しだいじゃ死ぬわよ?」
それは死ぬ、ではなく殺すと宣告しているようなものだ。
「待ってくれキャスターちゃん!?そんなに怒ることなのか?」
衛宮宅の夜。
藤村大河と間桐桜が帰った後に二人は土蔵まで足を運んでいた。
今日の夕食は日本食をメインとしたもので、初めて食べたキャスターも食に対する幸福感を改めて知る、団欒の一時であったが、問題は就寝前に起きた。
キャスターは衛宮士郎が工房としている土蔵でまた体を休めようとしていたが、その折に現在敷いてある回復の魔法陣の効果をより高めようと考え、土蔵の内部を詳しく把握しようと周囲を見渡した時
あり得ないものを見つけた。
凡百な魔術師なら土蔵に散らばるガラクタを『ただのガラクタ』と気にも留めなかっただろう。
されど彼女は神代の魔女だ。
こと魔術の絡む事柄には現代に生きる魔術師など及びもしない才がある。
故に、何でもない鉄パイプが
空のビデオデッキが
フレームのみの機械が
包丁が
木刀が
全て魔術により作成されたものだと判断できた。
だが、理解が追いつかない。
ゼロから個体を作る魔術は投影魔術か。
しかし投影魔術とはその名の通り、水面に映る月のように、僅かでも波紋が打たれれば形は崩れ、僅かな時と共に消えゆく定めだ。
ならば目の前に映る埃を被ったこの山は何だ?
具合から見るに数ヶ月、数年間は経過していようこのモノはどう説明しよう。
いくらこの場を工房とし、特殊な空間としていると誤魔化そうが、そんなことは不可能だと断言できる。
あの落ちこぼれの魔術師、衛宮士郎にそんな異界を作る知識はもとより技術もない。
何より、この土蔵は、単に回復の魔法陣が隅に敷かれていただけの、魔術師から言わせれば工房ですらない場所だ。
彼の養父の手か?
あり得ない。
そのような形跡は一切見当たらず、魔術も敷かれていない。
ならばこのガラクタは衛宮士郎の魔術による製作物と見るより他は無い。
『俺が扱える魔術は強化だけだ。』
衛宮士郎はそう言っていた。
しかし、それだけではない筈だ。
現に彼に助けられた際、体の形跡を後で調べ『精神同調』の魔術を使われたと分かった。
それで本人を呼びつけ問いただそうとしてみれば素知らぬ顔で空気を外されたのだ。
殺意も覚えよう。
「ん?ああ、このガラクタか。強化の魔術を練習してるときに頭休めみたいな感じで俺が作ったんだ。いつもその程度にしか考えてなかったから、使える魔術の範囲から無意識に外してたんだった。」
「これは何?」
なおも険しい表情でキャスターはガラクタの山を指さす。
「何って、だから俺が作ったもので……投影魔術って言うんだっけ?」
「これは何?」
「っ………」
漸くキャスターの怒気と殺気に気がついたのか、息を飲み思わず後ずさる。
「お兄ちゃん。結論からいえばこれは『真っ当な投影魔術』じゃ、まずあり得ない物よ。」
「まっ…とう?」
言葉の意味が解らないのかきょとんとした顔で聞き返してくる士郎にキャスターは続ける。
「そう。本来、投影って言うのは儀式に使う道具なんかを、その場凌ぎの代価品として術者が魔力で編みあげる模造品を指すの。」
「ああ、確か親父もそんな事言ってたな。作っても中身は空っぽでえらく使い勝手が悪くて、その上燃費も悪いって言って。」
「ええ、その通りよ。……本来ならね。」
「本来も何も、ここにあるやつだって、中身はほとんど空っぽだぞ?」
ビキリ
と、キャスターのこめかみから青筋がたつ。
「その場しのぎの代価品がこんなに埃を被る?」
「それは―――――済まない。普段から掃除しておくべきだったな。」
儀式などで使用する筈の魔術をそんな雑に扱われたことに怒っていると勘違いし、そんな的外れな感想を口にする士郎に、とうとうキャスターは手に持っていた鉄パイプを振り下ろす。
真一文字に振り下ろされた鉄パイプを士郎はギリギリのところで回避する。
ガギン!
金属音は土蔵の中で反響し、掻き消えて行く響きが後から襲ってくる重圧をさらに高める。
「投影魔術はね、例えこんな頑丈そうなものを模造しても、ガラス細工程度の強度にしかならないの。」
キャスターは士郎を睨みつけながら、そう説明する。
しかし、そんな投影魔術の常識など衛宮士郎は知らない。
故にあり得ない方法を口にする。
「硝子程度って……そんな訳ないだろう?あくまでも基本骨子を想定して、作成の工程を再現しているんだから少なくとも下手な読み違いをしない限り、そうそう脆い出来栄えになんてならないだろ?」
「え?」
「作成にかかる年月を想定して、理念に共感し、模倣する。空想を魔力で形取り、現実として概念強化の魔術を行使。元々空っぽの中に魔力を詰め込むんだから神秘は、空想で蓋をして現実を満たす。」
「何を、言って――――?」
「金属なんかは割と簡単だ、ただそこにあるだけで構造も材質もすぐに解る。」
キャスターは目の前の少年の才能をここに垣間見た。
目を閉じて語る口調はただ静かに。
いつもの魔術訓練の中で頭の中で考える方法を口にしただけだったのだろうが、それは最も魔術の最奥に届く可能性のある頂に片足を突っ込んでいるのも同然だ。
他の魔術なんて成功した試しがない。
そうか。なら、彼は。
「――――お兄ちゃん。明日から魔術の訓練は投影のみにしなさい。やり方はいつのも方法に、私の意見を聞きながら。」
「お兄ちゃんは、一点特化の資質があるわ。」
* *
「っつー訳で、間桐の屋敷はもぬけの殻だったぜ?」
桜が屋敷にいない。
アヴェンジャーにしてみれば、珍しく詳細な報告をしてくれたものだ。
しかし結果は私の不安を大きくさせるものだった。
桜だけではない。
あの引き籠っていると予想していた慎二も、間桐の妖怪爺も、誰一人としてその地を守る者はいなかったというのだ。
しかも
「やけに詳しいのは別にいいんだけど、それでも魔術師の屋敷の中まで調べるなんて、あんた本当の馬鹿よ!一歩違えれば、いくらあんたがサーヴァントでも下手すりゃ無事じゃなかったのよ!?」
こいつは三騎士とは違って対魔力も殆どないし、キャスターのように魔術の頂点に君臨しているわけでもない。
宛らアサシンより少しはマシ、程度の力しかないのだ。
下手をすればライダーにすらあっさりと破れてしまいかねない。そんなサーヴァントなのだ。
「あぁー……凛たん?誰が直接屋敷の中に入ったって言ったよ?そこら辺はいくら俺でもしっかり対策立てたぜ?」
「へ?」
「簡単な呪術なら扱えるからよ?とりあえずそこらへんのカラスや飼い犬、猫を使って屋敷を物色しまくったってわけだ。」
「………」
だから魔術師は不在だと。
正直、肝が冷えた。
そうだ、いくらこいつは御茶らけた面が強くても、そこそこの頭は回る奴なんだ。
それに、簡単でも呪術が扱えるなら、こいつの有益な面が見つかったと、ポジティブに考え評価することだってできる。
「あ。その動物たちには念のために魔術師が入ってこないか見張るように屋敷の中に常駐させて置いたぜ?」
「カラスに特攻させたらあっけなく窓ガラスが割れてな?後は犬猫大名行列で隅々まで糞尿を撒き散らかせたんだ。流石にここまでやって姿を現さない魔術師は糞以下だと思うんだ。」
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「凛たん?」
「あんたはアホかぁーーーーーーー!!!」
ど、どど、どうしよう??!どう桜に謝ったらいいのよ!?
また関係が冷え込んじゃうじゃない、この馬鹿サーヴァントがっ!!
ワカメとは打って変わって、緊張感のない2組。
正直、こういう系を書いてる方が楽しいwww