後半は決して病んでません。
むしろ恋する乙女はこれがデフォルトだろう?
「よう遠坂、遅刻ギリギリなんて珍しいじゃん。」
遠坂たるもの常に優雅であれ。
ごめんなさいお父様。聖杯戦勝序盤で早くも余裕がありません。
そして美綴り、あんたはそんなに私が息絶え絶えで登校してきたことが嬉しいの?
その満面の笑みと今の私が無くしてしまった優雅さを寄越しなさい。
「ええ、今日は朝から知人が訪ねてきていたので…私も会話を楽しんでいる内に時間を忘れてしまったの。」
何とか取り繕ったぎこちない表情で無理矢理いつものキャラを演出する。
「ぶっははっ、いいっていいって。そんな肩で息してるような状態で無理な余裕顔見せられたって、違和感しかないよ。」
ぐぅ、……なんだかものすごく負けた気分だ。
それもこれも全部アヴェンジャーのせいだ。
強引に令呪で強制送還させようとしたら『そいつは勘弁だ。今令呪を使われるのはまじぃ。』とか言ってあっさりと聞き入れてしまった。
その割に戻ってくるのはめちゃくちゃ遅いし。
なにをしていたのかと聞けば『ん?コンビニでおでん喰ってた』しかも私の財布からお金を拝借していた始末。
ふ・ざ・け・ん・な!!!
あの不審者全開の姿であんたはコンビニに入ったのか、そして私のお金を使ったのか!!
アイツの思考回路は、いけないことはとりあえずやってみようかと考える中学生のチンピラか?
「まったく、間桐兄はいつも通りのサボりかと思えば妹の方はやけに挙動不審。皆勤賞バカの衛宮は欠席、でお次は息絶え絶えの遠坂なんて、今日はなんかイベントでもあるの?」
「え?」
枯れたとはいえ、聖杯戦争システムの最重要、根幹となる術式気盤を作り上げた間桐君は巻き込まれないようにするために籠城するのは何となく予想していた。
もしも外来のマスターが聖杯戦争に大胆かつ最も容赦のない形で介入してくるとすれば、一番手っ取り早いのが間桐への襲撃だと推測できる。
現在の間桐にいる正統な魔術師は老獪の間桐臓硯只一人。
いくら年齢不詳の何十年という歳月を積み重ねた魔術師だろうと街中でサーヴァントに襲われたらひとたまりもないだろう。
籠城策に出るのはある程度予想していた。
だけど、聞き捨てなら無い一言が確かに聞こえた。
桜が学校に来ている?
どういうことだ?
養子とはいえ間桐を名乗る以上、あの馬鹿(慎二)が強引に当主を名乗っているとしても桜には危険が付きまとう時期だ。
それをまるで合戦前の平野に放り出すようなマネをするなんて魔術師の家系でもしない筈。
学校にくる。
それだけで登下校間に危険は付きまとう。
増して日が落ちるのが早い冬のこの季節、学校が終わるころには辺りも夕闇に包まれると言うのに。
衛宮士郎、たしかそいつの家にしょっちゅう上がり込んで献身的に押し掛け妻宜しくしているという話は聞いたことがある。
ならば今聞いた挙動不審という言葉も納得しただろう。
だけど、それは遅れてでもその衛宮君が学校に来ていればの話だ。
当の本人が学校に来ていないのに、何故間桐桜は学校にくる必要があるのか?
解らない、…が、推測できないわけじゃない。
昼休みになり屋上へ出向き霊体化しているアヴェンジャーに声をかける。
「ああ?なんだよ凛たん?あ、もしかしてその弁当くれんの?ひゅー、とうとう凛たんの弁当をこの足で踏みつけることができるとか、マジついてるね。」
やらんわボケぇ!!
しかも食べるんじゃなくて踏みつけるのか。つくづく救えない外道サーヴァントだ。
「ちょっと調べたいことがあるの。」
「へぇ、そいつはまた物騒な話題だな。んで、お駄賃は?」
「今朝のおでん代でチャラにしてあげる。」
「ちぇっ、踏み倒してやろうかね?」
「殺すわよ」
「へいへい、凶暴なマスターは頼りになるなぁ。」
まったく、こいつはいちいち漫才のようなやり取りをしなければ会話が出来ないのか?
「間桐の家の周辺を調べてちょうだい。勿論敷地にまで入る必要はないわ。500メートル圏内に使い魔やその類が居ないかどうかを調べてくるだけでいいから。」
「あん?何だよ気になるお年頃の凛たんはまさかこの俺を使ってすトーキングか?」
「ボケかますのも状況を読みなさよ。間桐って言うのはアインツベルンと同じ御三家の一角だった所よ。」
「『だった』ってこたぁ、今は違うのか?」
「間桐は土地の霊質が合わなかったのか、次世代に魔術師の因子を引き継ぐことが出来なかったのよ。」
「ふぅん。で?んな没落魔術師の家に何のゴヨウが?」
「あの家にはまだ妖怪魔術師ジジイが一人居るのよ。だから聖杯戦争の契約システムとか貴重な魔術資料が残ってるわけ。」
「成程、つまり下手に狙われるとこっちが不利になるから監視しておけってことか。ありゃ?でもそんなら俺がぶっ殺しの皆殺しにして家ごと潰しちまえばそんなめんど癖ぇ真似する必要ないじゃん?」
「それはこっちの事情よ、もう聖杯戦争に出ることがない間桐なんて魔術の知識があるだけで一般人と変わりないじゃない。そんな相手をあえて殺す必要なんてないわ。……心のぜい肉だけどね。」
「ひひひ、何だよ凛たん『勘違いしないでよね』みたいなセリフは吐かないのかよ?」
「うっさいわね!!いいからあんたは私が家に戻ったら監視を始めなさい。」
「…凛たんのニューヨクシーンを?」
「死ねぇっ!!」
そして人の話を聞け、このエロサーヴァントめ。
* *
先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない先輩はロリコンなんかじゃない
そうだ、先輩はロリコンなんかじゃない。
いつも私が起こしに行くと決まってバツが悪そうに股を抑えて、ちらっと私の胸を凝視して目を逸らすんだ。
それって私の胸に興味があるからでしょう?
私の体に興味があるからでしょう?
見た目が小学生の美少女に優しくするのは先輩のいつもの癖。
正義の味方なんだもの。
小さい子を護るのも立派な勤めでしょう?
確かにあの子は見た目の容姿に似合わず胸があったみたいだけれど、私の方が断然大きいもの。
バスト85センチのEカップは伊達じゃないんだから。
兄さんが言ってたもの、男は巨乳に憧れるって。
きっと先輩に限って小さい胸が好みだなんてことはないわ。
でも、今日はあの子のために学校を休んで二人っきりで一日を過ごすらしい。
そんなの絶対にいや。
私だってもっと先輩と一緒にいて、一緒に料理を作って一緒に宿題をやって一緒にテレビを見て一緒にお風呂とかお布団とか―――――
あの子はまだ小さいし、先輩とそんなことまで平気で出来るのだろうか?
うん、先輩は優しいし迫られればきっと流されちゃう。
髪が独りじゃ洗えないとか言って、一緒にお風呂に入ることも、寂しくて一人じゃ眠れないとか言って先輩のお布団の中に入ることも――――
悔しい。
それが率直な感想だ。
聖杯戦争さえ終われば、私の最後の一手さえ終われば後は何の憂いもなく先輩に告白しに行けるのに。
そうすれば先輩と一緒に暮らすこともできるのに。
いいや、考えが先走り過ぎてる。
まずは先輩の気持ちを大事にしなきゃいけない。
いきなりの急展開に先輩が心にもなく私を拒絶することだって考えられる。
そうよね。
いくら先輩が優しいからって、それに付け込むようなマネはしたくないもの。
まずは私がどう魅力的に自信を表現するかって言うことが重要だものね。
藤村先生が『就職担当の先生が自分をどのようにアピールして魅力的な商品として売り込むかが重要だと言う話を一日中していて疲れる』って話していたっけ。
そう、今まさに間桐でなくなった桜(私)にはこの状況が当てはまる。
自分をどう魅せるか。
先輩にどう見てもらうか。
一後輩じゃなくて、女の子として女性として異性として見てもらって、そこから私と付き合いたい、自分だけの女にしたいって思ってもらわなくちゃいけない。
その為には………
今日の晩御飯はメイちゃんが来たお祝にうんと御馳走を作ろう。
内助の功
勿論、先輩の家計に負担をかけないように工夫に工夫を重ねるのも忘れちゃいけない。
将を射んとするならまず馬から
メイちゃんに私という存在がどれ程先輩に必要なのか、それを認識させなくちゃいけない。
まさに一石二鳥
家庭的な女の子らしさで、それでいて密かに先輩の味を越えている料理を振舞うことで心をわしづかみにしちゃおう。
「ようよう、巨ぬーのじょーちゃん。間桐ってヤツの家は何処だかしらね?しらばっくれると乳挟むぜ?」
いきなり後ろから聞き慣れた声で、絶対に聴かないセリフを聞いた。
☆
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