第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

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やっと投稿出来ました……

今回は説明会なのでちょっと進展が無いかもです。


2.虚無、箱庭の外門を潜る。

「ゼェ、ゼェ……あ、有り得ないのですよ。まさか話を聞いてもらう為に小一時間も消費してしまうとは。が、学級崩壊とはこの様な状況に違いないのデス」

「いいからさっさと話せ」

「はい……」

 

  あれから問題児三人は小一時間程、黒ウサギのウサミミを彼女が精根尽き果てかけるまで弄られた。その間、ウルキオラは自身の力の深部の隅々まで確認を行っており、黒ウサギの助けなど耳に入っていなかったのだった。哀れ黒ウサギ。

 

  まず最初に気付いたのは、自身の持つ霊力や膂力、その他全般の力が飛躍的に上昇していた事だった。

  ウルキオラ自身、信じ難い事であったが気に留めておく必要は無かった。やはり最初の自身が生きている事実を突き付けられていたが故に既に耐性が付いていたのだろう。その臨機応変さは伊達では無い。

 

  そして、次に気付いたのは己の斬魄刀。この事がまだ記憶に新しい存在である彼を引っ張り出す切っ掛けになった。

 

 

(……黒崎一護)

 

 

  そう、彼の卍解した時の斬魄刀である『天鎖斬月』

  その斬魄刀が鞘に納められた状態でウルキオラの腰に挿さっていたのだ。

  カラーリングこそ彼の象徴である黒とは真逆の白であったが、刀の鍔の部分が卍の形を模していたのが何よりの証拠だ。

  当然、ウルキオラの力の核たる『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』に何ら支障は無い。だが、その他に別次元の力が込められていたのだ。

  原因は一切不明。ただ、ウルキオラ自身に思い当たる事が有った。

 

 

『お前が俺に近づいたからかも知れねえな』

 

(戯言だと思っていたが、まさかな……)

 

 

  それはウルキオラが『心』というものを悟った故の影響か。はたまた彼が破面の身で『人』に近づいた為の影響か。それは知る由も無い。

  だが『心』を悟った為、ウルキオラ自身に変化が有るのは紛れもない事実である。兎も角、本人がそれに気付いているのかどうかで言えばまだNOである。彼はつい最近になって『心』を悟ったのだ。これで気付いていると言う方がはっきり言って異常であろう。

 

  それはさておき、その別次元の力が齎された事によって己の斬魄刀の変化や自身の力が飛躍的に上昇した原因であろうと推測した。

  ウルキオラ自身、力が飛躍的に上昇しようが何も問題無い。力の制御は完璧でありその精度も遜色ない。

  元々ウルキオラはノイトラやグリムジョーの様に執拗に戦いを求めている様な戦闘狂では無い。必要な時にだけ戦う為である他に、自衛の手段として用いているだけに過ぎないのだ。故に全体的に力が飛躍的に上昇した今回も、己の手札が幾つか増えたという程度の認識でしかない。

  確認の次いで、問題児達三人が黒ウサギのウサミミを弄くっている間にその変化した斬魄刀の柄を掴み鞘から抜刀したのだが、不思議と手に馴染んでいた。

  その事にウルキオラは少々感心しつつ、再び納刀した。そのお陰(?)で問題児三人の興味はウサミミから彼の斬魄刀に移り、解放された。そして現在に至る訳である。

 

  その後、黒ウサギがこの世界をアピールしながらこの世界についてのルールと常識を説明した。

  先ず、この世界は箱庭と呼ばれる世界である事。

  箱庭たるこの世界は様々な修羅神仏や悪魔、精霊等から与えられた『恩恵(ギフト)』と呼ばれる力を持つ者達が跋扈している。そして、その特異な力を用いて『ギフトゲーム』なるもので競い合うゲームが存在しているらしい。

 

 つまり、人を超えた者達が参加する事が出来る神魔の遊戯、『ギフトゲーム』でこの世界が成り立っていると言う事だ。法と例えても過言では無い。

 

 ギフトゲームの構造は至ってシンプル。そのギフトゲームの勝者は“主催者(ホスト)”が提示した賞品を手に入れる事が出来る。

 だが高がギフトゲームと言えど、唯のゲームでは無い。このゲームはシンプル且つ奥が深い。“主催者”によるが、暇を持て余した修羅神仏が人を試す為の試練と称して開催されるものも有れば、団体である『コミュニティ』の力を誇示する為に独自開催するケースも有る。

 勿論、ギフトゲームによる難易度は此れも“主催者”によって左右されるが、凶悪且つ難解なものも有れば、簡単なクジ引きまで多種多様に存在している。

 主に難易度の高いギフトゲームには死の危険が付き纏い、リスクも相当高い。但しその分の見返りは大きく、新たな『恩恵』を手にする事が出来るのも夢では無い。

 

 次に、この箱庭で生活するに至って数多と存在する団体、『コミュニティ』に必ず属する事である。

 先程も述べた様に、主にギフトゲームを主催する為には団体である事が重要視される。個人としてギフトゲームを主催する事は例外では無い。だが、それを行えるのは暇を持て余した修羅神仏のみである。

 ギフトゲームを主催するコミュニティは少なからず箱庭に名を連ねている。即ちネームバリューと言う名声が必ず存在するのだ。名声が無いコミュニティがギフトゲームを主催しても参加者など来る筈も無く、それはゲームとして成り立たない唯のギフトゲーム“ごっこ”で終わってしまう。

 故にこの世界では少なからず名声が必要となり、自然と団体が出来るのだ。言わせれば『個人としての力では達成は不可能だが、団体として力を合わせれば目的を達成する事が可能だ』と言う様な具合である。

 

 その様な理由でこの箱庭には数多のコミュニティが存在している。それを踏まえて黒ウサギが所属しているコミュニティへ属する事になった。その時に十六夜が断ったが、黒ウサギが断固としてそれを否定した。

 

 この時点でウルキオラは黒ウサギが必死になっている事を見抜いていた。先程からその兆候は有ったのだが、この様子でそれは確信に変わる事になった。

 だが、ウルキオラはそれを察していながら断る事をしなかった。群れる事は好まないが、それが断る理由にはならない。それにウルキオラの目的はその様な神魔の遊戯をする為では無く、『心』を完全に理解する事。些細な事に対して興味も関心も持たないウルキオラは黒ウサギの所属するコミュニティの状況がどう有れ、関係の無い事なのだ。

 それに、個人で行動するか団体で行動をするのかと言う中でのメリットを天秤に掛けるとすれば、それは後者に傾くだろう。

 まずコミュニティと言う時点で本拠地、つまり拠点が有る事は事実明白。ウルキオラは破面故に、睡眠や食事等の行為は必要性が皆無である。しかし、新たなる力を手にしてからそれは否定される事になった。

 

 

 新たなる力、それは『完全なる死神』へと至る力である。

 

 

 破面と言えども、虚である面影が残っている。虚閃や虚弾を放てる事が何よりの証拠だ。

 つまり、破面とは虚としての力が半分、死神としての力が半分と両立している存在である。

 そして新たな力である完全なる死神化。その影響で食事や睡眠が必須になったのである。

 

 だがウルキオラはこの事実に不満など何も無かった。

『心』を完全に理解する為にはその様な『無駄』が必要になって来るからだと、この世界に来た当初から決め込んでいたからだ。

 何よりも『この様な事も偶には悪くない』と自然に思っていた事が大きな要因となっていた。

 以下の理由から拠点の確保という名目でウルキオラは黒ウサギのコミュニティに属する事を決めたのだった。

 

 箱庭については大体の情報を得た。途中、黒ウサギが四人を挑発する様な発言が有ったものの、それは全く通用していない。これも無駄というものだが全くの別物だ。

 

 最後に、十六夜が質問する。その質問はルールやゲームについてのものでは無かった。

 

「そんなのはどうでも良い。腹の底からどうでも良いぜ黒ウサギ。ここでお前に向かってルールやゲームについて問い質した所で何かが変わる訳じゃねえ。世界のルールを変えるのは主に革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえよ。俺が聞きたい事はたった一つ、手紙に書いてある事だけだ」

 

 十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回す。そして青空と太陽によって照らされる都市に向けて一言、

 

 

「この世界は、面白いか(・・・・)?」

 

 

 ウルキオラはその言葉に何も思わなかった。この少年は好戦的な部類だが、流石に戦闘狂では無い。そんな奴らは同じ十刃であるノイトラやグリムジョーで十分だ。

 

 ただ、その発言は何処から来ているのか気になった。十六夜は見た目から好戦的ではあるが、常に戦いを欲する様な雰囲気では無い。

 では何故、その様な質問をするのか。それがウルキオラには分からなかった。

 

 

(この餓鬼の発言も、『心』有るが故の発言なのか……?)

 

 

 此れも、心を持つ人間だからこそこの様な発言が出来るのか。

 やはり心と言うものは奥が深い。先程説明されたギフトゲームの奥の深さとは明らかに段違いだ。

 

 

(……心とは非常に複雑だ。悟ってもなお、まだ理解の外だーーー)

 

 

 心の理解は容易では無い。それは凶悪且つ難解であるギフトゲームよりも難解だろう。

 だが、もしも心が単純なもので有ったならばそれは理解する価値など無い。

 

 

(ーーーしかし、『心』とはそうでなくてはならないのかもしれん)

 

 

 心の理解の一歩目を踏み出したウルキオラ。それは彼の中で不思議と清々しいものがあったのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 その後、黒ウサギの案内により四人は森の中を歩いていた。その際に十六夜は不意に何処かへと姿を消したが、他三人は気に留めずに進み続けた。

 

 

 その結果がこれである。

 

 箱庭の外門の前で待機していた緑髪の幼い少年の前に辿り着くや否や後ろを振り向いた瞬間カチン、と固まってしまう黒ウサギであった。

 

「あ、あれ? もう一人いませんでしたっけ? 何か“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が……」

「ああ、十六夜君の事? 彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”とか言って駆け出して行ったわよ?」

 

 飛鳥が指差す視線の先は空に放り出された際、上空4000mから見えた断崖絶壁である。

 

「何で止めてくれなかったんですか!」

「止めてくれるなよ、と言われたもの」

「どうして黒ウサギに知らせてくれなかったんですか!」

「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」

「う、嘘です! 絶対嘘です! 実は面倒臭かっただけでしょう!」

「「うん」」

「oh……」

 

 二人の一糸乱れぬ物言いに黒ウサギは言葉を失い、項垂れる。そして顔を上げ、ウルキオラの方向に視線を移す。

 

「ウ、ウルキオラさんもです! 何で一言も声を掛けてくれなかったんですか!」

「……何だと?」

「ッ……!」

 

 黒ウサギの発言にウルキオラの鋭い視線が彼女に突き刺さる。その視線に黒ウサギは軽く怯んでしまった。

 

「俺は知らんが、この餓鬼共を箱庭へ呼び出したのは他でも無い貴様だ。ならば餓鬼共を管理する義務が貴様に有るのは当然だ」

「で、ですが……」

「言い訳を口に出す時点で、この餓鬼共を管理し切れていない貴様が悪い。それとも、その頭に付いている耳は唯の飾りか?」

「うぅっ……」

 

 呆気なくウルキオラに言い負かされた黒ウサギは再び項垂れる。これは仕方の無い事である。その良く聞こえそうなウサミミが有るにも関わらず、十六夜の行動に気が付けなかったのだ。非は完全に黒ウサギに有るだろう。

 そんな黒ウサギとは対照的に、緑髪の少年は断崖絶壁の方向に視線を向け蒼白になっていた。

 

「た、大変です! 世界の果てには確か……」

「分かっておりますジン坊っちゃん。その代わり、御三人様のご案内をお願いします。私はその問題児様を捕まえに参りますので!」

 

 ジンと呼ばれる少年がそう呟くと、ゆらりと黒ウサギが立ち上がり、その艶の有る黒髪を淡い緋色へと染め上げた。

 そして一気に走り出し、弾丸の速度を持ってあっという間に四人の視界から消え去って行った。その様子を飛鳥が感心した様に呟く。

 

「へぇ、箱庭の兎は随分と速く跳べるのね」

「はい、ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから」

 

(……あの程度の速度が速い、か)

 

 二人がその様な会話をしている中、ウルキオラは先程の黒ウサギの弾丸の速度で駆け出して行く姿を見ていたが、彼の中では速いと言う程の速度では無いと思っていた。あの程度の速度なら卍解をした状態の黒崎一護の繰り出す速度の方が断然速い。そしてその速度を容易く上回るウルキオラの目には“遅くは無くとも速くは無い”という風に映っていたのだった。

 

「あ、僕はコミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。それで三人のお名前は?」

「私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えている人と真っ白で無表情な人が」

「春日部耀。よろしく」

「……ウルキオラ・シファーだ」

「では自己紹介も済んだ所で、箱庭の中をご案内致します」

 

 軽い自己紹介の後、四人は箱庭の外門を潜って行く。その間、ウルキオラはこの幼い少年がリーダーを務めている事に、黒ウサギのコミュニティの評価を下方修正していた。

 

(……この様な餓鬼が組織を纏める者とは、世も末だと言う事か)

 

 この少年がコミュニティのリーダーとは何とも哀れな事か。彼の主であった藍染惣右介の足下にも及ばない上に次元が違う。それ以前に比べる価値も無し、と判断していた。

 だが、このジン=ラッセルはあのヘッドホンを頭に付けた金髪の少年、逆廻十六夜がどうにかしてくれるだろう。何故かウルキオラはその様な予感を抱きながら外門の中を歩き続けて行ったのだった。




ウルキオラの判明した情報

:ウルキオラの斬魄刀が天鎖斬月(?)に変化
※『黒翼大魔』そのものには影響無し。

:新たな力(完全なる死神化)が宿った。
※判明しただけで詳細は不明。

:新たな力の影響で少なくとも睡眠と食事が必須となった。

:ウルキオラの霊力、膂力、その他全般の力が飛躍的に上昇。
※本人はさして重要視していない。


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