※今回の注意点
完全虚化は『白一護』と表記します。
では、どうぞ。
弾けたのは、お互いの地面。
完全虚化ーーー白一護がその手に持っていた斬魄刀であろう黒い天月と、ウルキオラの白い天月が鍔迫り合いになったのは、刹那の時であった。鍔迫り合いによって、暴風の如き風圧が虚夜宮の天蓋の上全体に吹き荒れる。
『クハッ!!』
「………」
反転した黒い瞳が、ウルキオラを捉える。それを、翠の瞳で眺めるウルキオラ。
今此処に、幕を下ろした筈であろう戦いの火蓋が切られようとしていた。
ーーー再戦、開始ーーー
『オラァ!!!』
「ッ……」
鍔迫り合いが長く続く事は無かった。以前の戦いでウルキオラの切り札である
『ヒャッハァァァァァァ!!』
「!」
白一護の奇声と共にその斬魄刀から迸る赤を纏った黒い月牙。響転を使わずに、唯の脚力によって一瞬でウルキオラとの間を詰めた白一護はその勢いのまま、黒い天月を振り落とす。
それに対抗する為、ウルキオラは天月から翠を纏った黒い月牙を迸らせ、再び鍔迫り合いとなる。その後は、ウルキオラと白一護による響転を織り交ぜて姿を消し合う超高速の打ち合いが始まった。
基本スペックは全て完全虚化状態の白一護にアドバンテージがある為、ウルキオラは一合一合の打ち合いにて全てを受け流しで対応するしか方法が無い。数十合打ち合った後、最後は最初と同じ鍔迫り合いで止まったが、形勢は若干ウルキオラの不利となっていた。
『オイオイ、こんなモンかァ!?』
「……ちっ」
その最中、白一護の呆れた様な発言と共に膂力によって再び吹き飛ばされるウルキオラ。此方側の形勢が不利である事を悟っている彼は僅かに舌打ちする。
そして、着地しながら白一護の様子を伺ったウルキオラは僅かに目を開く。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』
天に向かっての咆哮。
それは、莫大な霊圧による咆哮。
その咆哮だけで、白一護を中心とした地形が破壊されて行く。
何より、ウルキオラは知っている。完全虚化した相手に何者と問い、その返答がこの咆哮だった事に。
そしてこの咆哮こそが、
「……!」
それを悟ったウルキオラは即座に虚閃を放つ為、指先に莫大な霊力を収束させて行く。
ウルキオラの放つ虚閃は、星霊である白夜叉の放つ閃光を相殺出来る程に威力が高い。二、三流程度の死神なら、この砲撃で駆逐出来るだろう。
相手がその程度であれば、の話だが。
『ーーーーー』
やがて、天に向かった咆哮を終えた白一護は、その黒い仮面をウルキオラへと向ける。
それと同時に、双角へと莫大な霊力が収束された。
逸早くそれを察知し、先に虚閃を放つ準備を終えていたウルキオラは、白一護よりも先に虚閃を放つ。
しかし、計り知れない膂力と共に霊子操作も速い白一護相手では、僅かの誤差でしか無かった。
ーーー【虚閃】
刹那、紅を纏う白の閃光が翠の閃光を埋め尽くした。
拮抗は無い。翠は抵抗虚しく紅白へと呑み込まれ、そのままウルキオラを呑み込まんと迫り来る。
だが、ウルキオラはその場から一歩も動かなかった。目の前に紅白の閃光が迫って来ているのにも関わらず。
ウルキオラには分かっていた。
「………」
紅白の閃光が、
以前の戦いにおいて、刀剣解放・第二階層の状態であるウルキオラの
だがウルキオラはそれを見越した上での行動を取っていた。
以前の戦いにおいての相手の行動パターンをある程度読み、こちら側から先に仕掛ける。相手が幾ら霊子操作において速かろうが、僅か一瞬でもこちらから先制出来ればそれで良い。
虚閃の対抗策は、『初動』であるからだ。
『動作』の最も弱い部分は『初動』だ。同時に、『動作』に置いて最も重要な部分である。
走る事に置いても、『初動』が遅ければ加速が遅れ、スタートダッシュが出来ない。『初動』を潰されると、それ以降の行動が全て崩され何も出来なくなる。
攻撃においてもそう。刀を振る時の『初動』が遅ければ、相手に読まれ容易く躱されてしまう。『初動』を潰せば、それは致命的な隙となる。
要はその原理だ。
ウルキオラが先に逸らす角度から虚閃を放ち、白一護が放つ虚閃の『初動』を潰したのだ。
威力、攻撃力共に通常のウルキオラを遥かに上回る故、『初動』を潰していても消し飛ばす事は愚か、此方が逆に消し飛ばされる事は自明の理。しかし、それはウルキオラにとって予想の範囲内だ。
ウルキオラの狙いは、初めから『軌道を逸らす事だけ』だったのだから。
そして狙い通り、虚閃は逸らせた。その隙をウルキオラは確実に突いて行く。
ウルキオラは
迅速に、尚且つ的確に。
直様ウルキオラは響転を発動させ、白一護の遥か後方へと移動する。その様子を白一護は動く事無く、唯それを見ているだけ。
ウルキオラはそのまま、掌に収束させた霊力の剣を投げ付けた。
『
その霊力の剣は第三宇宙速度の速さで音を置き去りにし、白一護へと肉薄する。斬魄刀と同等の質量を持った霊力の剣が白一護へと衝突する寸前ーーー
ーーー翠の火柱が辺りを焼き尽くした。
その翠の火柱は、打刀の切先から物打までの部分のように見えた。かつて山本元柳斎重國が放った『破道の九十六・一刀火葬』を彷彿とさせるそれは広範囲かつ高威力であった。
以前のウルキオラならば、工夫を加えた虚閃など思い付く筈も、ましてはそれを使う事など無かっただろう。
ーーー浅知恵を効かせたつもりだろうが、無駄な事だ。
(……その浅知恵を、俺が効かせる事になるとは……
これは心を悟っただけでは無く、奴への敗北の影響なのかも知れん)
そう言っていた己が、まさかその
しかし、完全虚化という
ならば、ここで畳み掛けるのみ。
間髪入れずに天月から翠の月牙を迸らせ、月牙天衝を放つ。それによって何かしらの行動を取るであろう白一護へ、今度は月牙天衝と『
以前の戦いにおいて、ウルキオラは完全虚化の唯一の弱点を見出していた。
それは仮面の双角のどちらかを斬り落とす事。
あの時、ウルキオラの捨て身の攻撃によって双角を斬り落とされた一護は完全虚化の状態が解除され、超速再生によって胸の孔が塞がった。それが内なる虚である白一護ではどうなるのかは分からないが、どちらにせよその一撃で勝敗を決する事になる。
ウルキオラは天月から月牙を迸らせ、月牙天衝を放とうと横薙ぎの構えを取るーーー
『おい』
ーーー事は無かった。
「!」
響転。
ーーー速過ぎる。
経験はしていたとは言え、やはり筆舌に尽くし難く、この一言だけでしか表現出来ない。
『何だァ? そのチマチマした攻撃はよォ!!!』
ーーー【一閃月牙】
一撃に特化した月牙天衝の威力を保ちつつ簡略化したそれを白一護がウルキオラへと振るう。
「……ちっ」
対するウルキオラは舌打ちと共に反射的に攻撃を
だが、それが悪かった。
『悪手だなそれはァ!!!』
「……ッ」
白一護は斬魄刀を持っていない方の手で、ウルキオラの斬魄刀を持っている手首を捕らえる。これで距離を取る事も斬魄刀で攻撃する手段も封じられた。
ウルキオラはこれも反射的に反対側の手で『
『ヒャハッ!!』
「ぐ……」
だがその手すら、白一護の斬魄刀によって手首を突き刺され封じられてしまう。白一護の言う通り、月牙での防御は悪手であったのだ。
『ほらよ、オマケだァ!』
「!」
そして双角へ莫大な霊力の収束。打つ手が無いだけで無く、零距離。
ウルキオラは白一護の『一閃月牙』での攻撃に対して月牙での防御では無く、そのまま月牙天衝を放たなければならなかった。そうしていれば、力負けしようとも距離が取れる手段が残り、判断する一瞬の間が取れたのだ。
これは、ウルキオラの失策であった。
ーーー【虚閃】
その結果、ウルキオラは紅白の閃光へ呑み込まれて行くーーー
『
ーーー直前でウルキオラは封じられたまま、それを放った。
巻き起こる盾の形状をした翠の閃光と紅白の閃光。先程の虚閃同士の拮抗が無きものとは違い、紅白の閃光に押されながらも相殺した。その場に、両者の姿は居ない。
再戦開始から、三十六秒間の出来事である。
「……」
ウルキオラは響転で柱の上へと移動していた。そして、己の失態に対し内心で舌打ちする。
(……この俺が、まさか失態を犯すとは)
咄嗟の判断により、虚閃の性質を剣から盾へと変換して放つ事によって難を逃れた。
『
元々、『
以前のウルキオラであれば、この特殊な虚閃を開発する事は出来なかった。この二つの虚閃を開発し扱う為には、繊細かつ複雑な霊子操作技術と
恐らく、それによってウルキオラは油断していたのかも知れない。
油断、それはこの上なく無駄なものだ。
(……幾ら無駄であろうと、油断は
ウルキオラは目を閉じ、己の中に有る油断を完全に払拭した。冷静かつ的確な切り替えこそ、油断を払拭する確実は手段なのだから。
ウルキオラには、この戦いを通して今の状態で何処までやれるのかを試していた。ただ、その試す為の台が星霊である白夜叉に、現在対峙している完全虚化状態の白一護というある意味豪華な面子である事に間違いは無いが。
どうやらこの状態であろうと、大体の大立ち回りは出来るらしい。この通常状態の為、圧倒こそされたものの、咄嗟の判断と機転で倒される迄には行かなかった。
この状態での検証は終わった。
「………」
ウルキオラの向かい側、相対している柱に黒き仮面と双角が象徴の白一護の姿がそこにあった。戦いを求めている彼は、今の状態のウルキオラでは物足りない筈だ。
しかし、この通常状態でここまで善戦したウルキオラが帰刃の状態になれば、恐らく勝てるだろう。
既に、この戦いの結末は決まっているのだ。
それでも白一護がウルキオラへ戦いを挑むのは、その
ウルキオラは本能のまま戦いを興じる事を好まない。彼は破面であり、唯の虚では無いのだから。理性を持ち、冷静かつ的確に相手を翻弄するのがウルキオラの戦闘スタイルだ。それは彼が虚の時代から身に染み付いていた鉄則とも言える。
ならば己の鉄則に従い、その本能に応えよう。
ウルキオラは天月を波紋無き水面の如く静かに構え、斬魄刀の
そして静かに、解号を唱えたーーー
ーーー
※ウルキオラの開発した新たな虚閃。
これには繊細かつ複雑な霊子操作技術と複数処理能力が必要となる。
『剣虚閃(グラディウス・セロ)』
掌に霊力と霊圧を収束させて斬魄刀と同等の形状をした剣を作り上げる。
破道の九十六・『一刀火葬』と同等の威力を誇る。
近接武器としても使用可能。
『盾虚閃(エスクード・セロ)』
掌に霊力と霊圧を収束させて使用する防御及び緊急回避型の虚閃。
完全虚化の虚閃を防ぐ程の耐久力を持つ。
星を砕く威力の攻撃にすら耐えられる為、重宝される事になる。
という訳で、次回は帰刃状態のウルキオラと完全虚化状態の白一護の決着となります。
最近思っていること。
ウルキオラをブラック・ブレットの世界とクロスさせたいなー、という妄想が浮かんでいます(笑
なんとなくプロットまで作成してしまっていました(笑
問題児が有る程度更新されれば、此方を書く可能性もアリです。
まあ、あくまで予定は未定ですが(汗
では、次回にて。