第4十刃が異世界に来るそうですよ?   作:安全第一

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今回は私の独自解釈がございます。
その点だけを踏まえてお読み下さい。

では、どうぞ


10.天月の正体、そして黒き仮面

 とある山奥。人気の無い場所にて、一人斬魄刀の両端を両手で添え座禅を組み瞑想している者がいた。

 

 第4十刃、ウルキオラ・シファーである。

 

 何故、彼がこの様な人気の無い山奥に来ているのか。それは、斬魄刀『天月』と対話をする為であった。

 

 ウルキオラの復活、異世界移動、全体的能力の飛躍的上昇、斬魄刀の変化、斬魄刀の始解、斬魄刀の名、その現象はウルキオラでは原因を掴められる要素が一切無い。

 唯一、この現象の原因を知るのは己の斬魄刀だけだと判断したウルキオラはノーネーム本拠から抜け出し、遠く離れた人気の無い山奥へとやって来たのだ。その際に書き置きを残していたので、幾らかは大丈夫だろう。本来、書き置きなどする筈が無いウルキオラだが、これも『無駄』の一環としてやった事だ。

 明日に控えているギフトゲームならば問題は無いだろう。雑魚同然の敵に、飛鳥、耀、ジンの三人ならば苦戦を強いられるこそすれ、負ける事は無い筈だ。

 ジンは元々非戦闘員故に仕方が無い。耀と飛鳥は強力なギフトによるアドバンテージがあるものの、まだ戦闘経験の薄いとなると幾ら相手が雑魚(ガルド)とは言え圧勝など出来る筈が無い。最低でも誰か一人は脱落するだろう。しかし、負けはしない。それがウルキオラの見解だった。

 そしてその間に、斬魄刀との対話をしておくべきだとウルキオラは考え、この山奥へと足を踏み入れていたのだ。この場所ならば、誰にも邪魔されることは無い。念の為に探査回路(ペスキス)を使用したが、ウルキオラ以外の霊圧の反応は無かった。

 そして斬魄刀を添えて座禅を組んで瞑想しているウルキオラは、既に己の精神世界へと赴いていたのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 ーーー精神世界

 

「……ほう、初めて精神世界に来たが、寄りにも寄ってこの場所とはな」

 

 その誰も居ない世界の様子を見て、ウルキオラは一人呟いていた。

 その場所は、仮初めの天蓋に浮かぶ三日月の光が白黒の空間を照らし、ドーム型の巨大な建物にその周りは砂丘が広がっていた。

 

 ーーーその世界は、虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上であった。

 

 此処はウルキオラは絶望的な力の差で黒崎一護を圧倒し、そして彼の完全虚化にて圧倒され、敗北した場所。

 

 そして完全に消滅する間際に、心を悟った場所でもあった。

 

 その因縁深い場所が、ウルキオラの精神世界の舞台であった。その事実に、ウルキオラは複雑な面持ちであったのだった。

 

「………」

 

 ウルキオラは腰に挿さっている斬魄刀を一瞥する。この斬魄刀は一体何を知っているのか。そして、一体何を語るのか。それはこの斬魄刀にしか分からない。

 

「……出て来たらどうだ?」

 

 突然、ウルキオラがそう呟く。普通の者から見れば何を一人で呟いているのか、と思うだろう。しかし、ウルキオラは既に感じ取っているからだ。

 

 彼の斬魄刀の気配を。

 

「久方振り……いや、初めましてと言うべきだな」

 

 不意にウルキオラの後方から声が聞こえた。それを聞き、ウルキオラは静かに後ろを振り返る。

 そこには黒いコートを纏い、フードでその表情ごと覆っている青年の姿が居た。フードを覆っている所為でその表情は伺えない。

 

「……成る程、貴様が天月か」

「その通りだ。俺の名は天月、黒崎一護とお前の力によって生まれた斬魄刀だ」

 

 ウルキオラの問いに青年、天月は肯定と共に自己紹介をした。その雰囲気、霊圧はウルキオラですら強大なものだと認識する程だった。

 

「……俺がこの世界に来た理由は承知の筈だ」

「無論だ。お前が何故、黒崎一護の力を携えこの異世界へとやって来たのか。それを俺は知っている」

「……ほう」

 

 天月のその言葉に、ウルキオラは眉を顰める。どうやら天月は事実を隠す素振りは愚か、自ら話そうとする姿勢を取っていた。天月からすれば、余り重要な事実では無いのかも知れない。

 そこで天月が、ウルキオラに提案をする。

 

「教えてやっても良いが、その代わりに俺の頼みを聞いてくれるか?」

「……内容によれば、聞いてやろう」

「なら良い。まあ頼みと言っても、これはお前にとって無益なものじゃないって事だけは言える」

 

 天月は口元に不敵な笑みを作りながらそう言う。何を企んでいるのかは不明だが、その時はウルキオラが直々に対処すれば良いだけの事だ。

 

「じゃあ、先ずは順を辿って教えてやる。最初は何故お前が復活した大本(おおもと)の理由からだ」

「………」

「まずお前はこの精神世界の舞台でもある虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上にて、完全虚化した黒崎一護に敗北し、止めを刺されずにそのまま消滅した」

「……その時点で、俺はあの世界から完全に消え去った筈だ」

「いいや、違うな」

「……何だと?」

 

 以前の世界からの完全なる消滅。それはウルキオラ自身分かっていた事だが、それを天月が否定した。その事にウルキオラは少しだけ目を見開き、訝しげな表情を作る。

 

「確かにお前の存在は消滅した。だがそれだけだ(・・・・・)

「……どういう意味だ?」

「あの世界にはまだお前そのもの(・・・・)は消滅していなかった、と言う事だ」

「!」

 

 それはウルキオラにすら知ることの無かった事実であった。ウルキオラはその事実に僅かながらに驚愕する。

 

「お前そのもの、と言っても残留思念程度のものしか残っていなかったが」

「……そうか」

「そして、お前の残留思念がある場所に流れ着く前に、現世の空座町ではお前達十刃を率いていた藍染惣右介が侵攻していた。という事は知っているな? まあ浦原喜助の転界結柱によって本物の空座町は尸魂界へと隔離されていたが」

「無論だ」

「話を長くするのは好きでは無いから割合するが、藍染惣右介は崩玉の覚醒と融合に至り、更なる次元へと進化した」

「……藍染様が」

 

 ウルキオラは虚夜宮の守護を任されており、現世への侵攻の状況などは知る由も無かったが、崩玉を覚醒させた事に関してはウルキオラも驚愕せざるを得ない。

 

「そして、その超越した力を持って相対していた護廷十三隊達を退け、本物の空座町が隔離されてある尸魂界へと侵攻した」

「………」

「その際に断界を渡り、『拘突』を破壊した」

「……まさか」

「そう、お前の残留思念はいつの間にか断界内に漂着していた」

 

 断界とは、現世と尸魂界の間にある空間の事である。そしてそれは虚などの外敵を防ぐ為に『拘流』という霊体を絡め取る気流で満たされ、更に7日に一度『拘突』という強力な侵入者排除気流が現れる。外界よりも濃密な時間軸が働いている為、外界との時間差は2000倍にも及ぶのである。

 

「お前の残留思念が漂着した時期は、丁度黒崎一護がその断界にて修行を終え、藍染との決着を着けた直後だ」

「……修行だと?」

「そう。お前と戦った後、黒崎一護は現世へと移動し藍染を迎え撃った。

だがお前との戦い以降、虚化の性能が低下していた一護は十分に戦えず、藍染の部下である市丸ギンに見逃された」

「……奴も、少なからず絶望していたという事か」

「その通りだ。今の一護では、崩玉の覚醒と融合に至った藍染を倒す事など不可能だった。しかし、一護には最後の可能性が残されていた」

「……崩玉と融合した藍染様をも圧倒する可能性を、か?」

「そう、『最後の月牙天衝』だ」

「……最後の、月牙天衝……」

 

 崩玉と融合した藍染を殺す事はほぼ不可能となり、打つ手が無くなったと思われた矢先に一護の父である黒崎一心が伝えた可能性。それが『最後の月牙天衝』である。その習得を可能にしたのは藍染が断界の『拘突』を破壊し、『拘流』を一心が食い止めていたからだ。

 

「そして、『最後の月牙天衝』を会得した一護は崩玉と融合した藍染すらも上回る圧倒的な力を手にした」

「……奴が、藍染様を上回ったのか……」

「どうした? 黒崎一護が藍染惣右介を上回った事が、不思議に思えるか?」

「……いや。奴ならば、藍染様を超える存在になり得るかも知れんと思っていなかった訳では無い」

 

 ウルキオラ自身考えていた訳では無かったが、無意識に頭の何処かで僅かにそう思っていたのだ。護る為に戦い続けた奴が、『無駄』を棄てなかった奴が、ウルキオラの主である藍染惣右介を超えるかも知れないと。

 そして天月からの話ではあるが、黒崎一護は藍染惣右介を超えた。何故かウルキオラには、自然にその事実を受け入れられる余裕があったのだ。此れも、『心』を悟った影響なのだろうか。不思議なものだ。

 

「その後、一護はその『最後の月牙天衝』を放ち、藍染をこれ以上に無い程に追い詰めた。そして最後は戦いの際に打ち込んでおいた浦原喜助による封印の鬼道が発動し、藍染自身も崩玉により力を奪われ封印された」

「……藍染様の最後は、その様なものだったか……」

「まあ、あくまで封印だ。その後は二万年の間、『無間』にて投獄される羽目になったが。だが、話の視点はそこでは無かったな」

「……構わん」

 

 己の主である藍染が黒崎一護との戦いを繰り広げたという事実もウルキオラにとっては収穫があるものだった。それ故に、ウルキオラは話の脱線を気にする事は無かった。

 

「さて、その『最後の月牙天衝』だが、その威力は余りにも規格外だった。それを踏まえる前に、その時の断界は『拘突』を藍染に破壊され、断界内に二○○○時間ものタイムラグが生じていたのは分かっているな?」

「……無論だ。だが貴様の話を聞く限り、俺の残留思念はその戦いが終わった直後だと言う。『拘流』を食い止めた事によって黒崎一護の修行が実現したと言っていたが、再び『拘流』が発生した断界に俺の残留思念が漂着出来る筈が無い」

 

 ウルキオラは破面故に、死神の特性も持っている。その死神の特性を持っている為、この事に関する知識も持っているのは当たり前である。それ故に藍染が断界内にて『拘突』を破壊したことによる二○○○時間のタイムラグが生じる事も知っていた。

 そしてウルキオラが言う通り、断界には虚などの外敵を防ぐ為に『拘流』という霊体を絡め取る気流がある。『拘突』を破壊したからとは言え、『拘流』がまだ存在しているのならばウルキオラの残留思念が漂着する可能性など零に等しい。

 

「そう。タイムラグはまだ残っていたが、再び『拘流』が発生した断界では、お前の残留思念が漂着出来る訳が無い」

「……成る程、そこで『最後の月牙天衝』か……」

「その通り。一護の放った『最後の月牙天衝』の斬撃はあらゆる空間を引き裂き、断界にすら届いた。その時に『拘流』ごと消し飛ばしたのだ。

極め付けに、余りにも規格外な威力だったものだから、丸々二週間は『拘流』が発生しなくなった」

「……その間に、俺の残留思念が漂着したのか」

「そう言う事だ」

 

 これでウルキオラが復活に至る大本の理由が判明した。だが、これだけでは無い。まだ黒崎一護の力が宿っている理由と異世界にやって来た理由が残っているのだから。

 

「さて、次にお前が何故、黒崎一護の力を宿していたか、という理由だったな」

「……だが、その断界の状況で大体は察することが出来る」

「それはそうだ。何せ断界を守る為の役割を担う『拘突』と『拘流』が消え去っているんだからな」

「恐らく、俺が黒崎一護の力を宿しているのは『最後の月牙天衝』の霊圧と霊力が断界内に集束し、俺という残留思念に引き寄せられ、融合したからだろう」

「流石は第4十刃、明答だ」

「……幾ら分散していったものとは言え、藍染様すらも上回る霊圧と霊力が集束し、俺という残留思念と融合すれば、残留思念から元の魂魄へと再構築出来る事など容易い」

「追加補足しておくと、一護の修行に丸々二○○○時間を使った訳じゃ無い。あの時点で、残り二週間分の時間が余っていた。二週間もあれば、魂魄から元の超高密度の霊体へと再構築する事も余裕で可能だ。

それに、分散した『最後の月牙天衝』の霊圧と霊力の8割方が断界内に集束していたものだから全体的なポテンシャルの上昇にも繋がり、俺という斬魄刀も生まれた訳だ」

 

 二つ目の理由であるウルキオラが黒崎一護の力を宿していた事に関してはあっさりと解決した。そして、最後は何故この世界にやって来たのか、と言うものなのだがこれに関しては天月は神妙な表情をしていた。表情は見えないが。

 

「三つ目の事なんだが、これは正直俺にも不明瞭な部分が多い」

「……何?」

「お前の霊体の再構築が完了して三時間程経過した後だった。断界内に突如として奇妙な空間の裂け目が発生した。何らかの術式が施されていたが、鬼道でも縛道でも無かった。どちらかと言えば、穿界門や黒腔に似通っていたが」

「……異世界と異世界を繋ぐ穴の様なものか」

「その裂け目を不思議に思っていた俺だったが、その時点からお前の意識が目覚め始めていた。そして、お前の意識が覚醒すると同時に、あの裂け目に吸い込まれたと言う事だ」

「……それが、俺がこの世界にやって来た原因という訳か」

 

 三つ目はどうやら天月も分かり切っていない。だが、三つ目の異世界にやって来た理由は正直知ろうが知るまいがどうでも良かったのだ。重要なのは一つ目と二つ目の理由だけだ。

 そして、話を終えた天月がウルキオラを見据え、予め言っておいた頼み事を提示する為に口を開いた。

 

「話も終わった事だが、改めてお前に頼みたい事がある。何、小難しい事じゃない」

「……言ってみろ」

「お前にはとある奴を屈服させ、習得して貰いたいものがある」

「……何だ?」

 

 

 

 

 

「ーーー『卍解』だ」

 

 

 

 

 

「何だと?」

 

 卍解の習得。それは斬魄刀を実体化させ、直接戦い屈服させる事で習得出来る。

 だが此処は精神世界。少なくとも始解の習得なら可能だろうが、卍解の習得など不可能であった筈だ。

 

「生憎と、俺は例外の存在でな。一段階目(・・・・)の『卍解』なら精神世界での屈服でも習得出来るんだよ。

不思議とは思わなかったか? 対話をした事など無い筈なのに、斬魄刀が始解の状態だと言う事に」

「………」

 

 成る程、対話もした事が無い斬魄刀が最初から始解の状態という謎も、どうやらこの斬魄刀の例外が働いているらしい。

 この世界でもいつウルキオラを倒せる存在が現れても可笑しくは無い。ならばその想定外の事態に備えを増やす事も吝かでは無い。

 

「……良いだろう。だが、一つ聞く」

「何だ?」

「卍解を習得する。その事に意味は有るのか?」

 

 ウルキオラの問い、それはこれが意味の成す『無駄』なのだろうか。それとも意味の成さない『無駄』なのか。唯それだけであった。

 天月はその問いに、不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「無論だ。この世界にはちと厄介な存在がいる」

「………」

「今此処で言ってやっても良いんだが、そろそろお出ましの様だ」

「!」

 

 天月が不敵な笑みと共にそう言った瞬間、ウルキオラの背後から突如として強大な霊圧を感じ取った。そして、ウルキオラはその霊圧を知っていた。

 

(……この霊圧、あの時の……。まさか……)

 

 感じ取った覚えのある霊圧。それはウルキオラの感覚からすればつい最近のもの。

 

 

 

 

 

『……よォ。久しぶりって所だなァ、ウルキオラァ……』

 

 

 

 

 

 響き渡るその言葉に、ウルキオラは静かに後方を向いた。

 

 

 

 【白】

 

 それは肌と死覇装。ウルキオラと同じ白い肌と死覇装。

 

 【黒】

 

 それは仮面。深淵の闇から落とされ、闇を裂く白いラインが入った黒き仮面。

 

 【双角】

 

 それは双角。歪に突き出した双角のフォルム。

 

 【長髪】

 

 それは白き長髪。穢れ無き美しき白の長髪。

 

 

 

 それを彷彿とさせるものは唯一つ。

 

 

 

 ーーー『完全虚化』

 

 

 

「……!」

 

 ウルキオラは目を見開く。そして今日一番の驚愕かも知れない。それ程までの、圧倒的存在。先程戦った白夜叉など可愛く見える。

 

 魔王など、生温い。

 

『折角呼び出されたんだァ……。テメェが俺達の卍解の使用者に相応しいか、見せて貰おうじゃねぇかァ!!!』

 

 

 

 

 

 瞬間、何かが弾けた。

 

 




やっちゃった……(震え声
とんでもないヤツ呼び出しちゃったよ!(錯乱

さて、ウルキオラはどうなってしまうのか!?
次回に続く!

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