彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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なんとも不運な奴

 

 

 それは平馬がレオーネ宛にフクロウゴーレムで手紙を送った日のことだった。

 

 自室のある二階からウンガロが階段を降りていると、承太郎とポルナレフの声が聞こえてきた。こっそりと彼が階下を伺ってみると、二人はどうやら電話をしながら話をしていたようだ。

 電話自体はすぐ受話器を置いてしまい、二人はなにやらジョセフの自室の方へと、廊下を歩いていった。

 

 その後ろ姿を見送ったあと、首を傾げつつウンガロがリビングに入ると、其処ではリキエルとドナテロ、弟達がテレビゲームで遊んでいる。

 

 

「なあ、承太郎兄ちゃんが誰と電話していたのか知ってるか?」

 

「えー? 俺知らないよ」

 

「リキエルは?」

 

「んーん、知らない」

 

 

 コントローラーを操作している二人の視線は、テレビの画面に注がれたままだ。ウンガロはリキエルの隣に腰を下ろし、テーブルの上のスナックをつまんだ。

 

 

「何か気になるの?」

 

「気になるな。承太郎兄ちゃんだけならまだしも、ポルナレフさんも一緒に話してた」

 

「ふうん……確かに、気になるね」

 

 

 必殺技を繰り出し勝ち星を得たリキエルが、コントローラーをテーブルに置く。もう一回と再戦をねだるドナテロを笑って流し、グラスのコーラを一口飲んだ。

 

 拗ねるドナテロをウンガロが宥めていると、そういえば、とリキエルがつぶやいた。

 

 

「承太郎兄ちゃんがいつから電話しているかわからないけど……僕、その前にレオーネ兄ちゃんと話していたよ」

 

「レオーネ兄ちゃんかぁ……」

 

「電話は来客があったから終わったけど、もしかしたら」

 

 

 レオーネに来た来客が、承太郎とポルナレフに何かを伝える必要があったのではないか。そう仮定した二人は、拗ねるドナテロの両脇を抱え外の庭へと出ていった。

 

 

 

 庭の土にドナテロが掘り出した記憶では、レオーネが承太郎に電話している場面を見つけることはできた。だが、通常の盗聴を警戒してなのか、言葉を伏せて話しており大まかな事態は把握出来ても、予備知識が無い故に彼等には詳細がわからなかった。

 

 

「話している内容って、多分ヘーマパパのことだよね?」

 

「ヘーマパパって、イタリアのシーザーさんの所にいるんじゃあなかったの? なんか、物騒な感じだ……」

 

 

 真剣な表情の承太郎達の記憶を見下ろし、顔を曇らせるリキエルとドナテロの隣で、ウンガロは静かに会話の再現を見つめていた。

 

 

「ドナテロ、前にヘーマパパが家に来たときの記憶を掘れるか」

 

「前……承太郎兄ちゃん乱心事件の時の?」

 

「そうだ。あの時は、今回関わっていそうな人物が全員揃ってる。聞き耳を立てそうな俺達も出かけていたし、きっとそのときに詳細を話し合ったんだと思う」

 

 

 そして、ウンガロの予想は的を射ていた。少年達は兄であるハルノの所在と、パッショーネというギャング、そしてディアボロの存在を知ることになる。

 

 

 慕う平馬達に危険が迫っている。だが、スタンド使いとしてまだまだ未熟な自分たちでは、彼らの側に駆けつけても助けになるどころか足手まといになりかねない。

 

 悩みに悩んだ少年達は、兄貴分の一人であるウェスに相談した。育ての親であるジョセフに相談をしなかったのは、きっと気にするなと言ってその後の行動を止められると考えたからだった。

 ウェスはウンガロ達の話を聞くと、スタンドに疎い自分だけでは力になれないと判断し、すぐに兄のプッチに連絡をとってくれた。

 

 弟から連絡を受けて急いでやってきたプッチは、平馬達の身が危険と知るやいなや、快くスタンドでの協力を了承した。記憶を抜き取る能力については、ウンガロ達も知っていたからである。

 

 

「しかし、私はイタリアの土地勘がない。現地に行ったとしても、そのディアボロの居場所は見つけることはできないだろう」

 

「んー、それなんだけど、ちょっとやってみたいことがあって」

 

 

 ウンガロはドナテロにディアボロの姿を掘ってみるように頼む。彼は頷き、アンダー・ワールドの腕が地面を抉ると、赤い髪を長く伸ばした男の姿が現れた。

 

 

「リック兄ちゃんに試して貰いたいのは、この過去の姿から記憶を抜き取れないかと思ってさ」

 

「……なるほど」

 

 

 それは確かめたことはなかったな、とプッチは感心した。そして彼は赤い髪の男に向かって手を伸ばし――――

 

 

「――――それで、やってみたら出来たと」

 

「らしいよ。あの子等から連絡を受けたとき、俺がどれほど愕然としたことか。

 あの親父さんに頼んで居場所を探し出して、記憶……というか、主人格をなくして途方にくれているドッピオを見つけたんだよ」

 

 

 ひどく疲れた顔のレオーネ……どうやらウンガロ達は随分と彼の仕事を増やしたようだ。ドンマイ。

 

 しかし、主人格ねぇ……俺はチラリとドッピオに視線を向ける。顔は整っているのが大半とは言え、十人以上の男達から良く言って好意的でない……正確に言うなら殺意を込めた視線で刺され、彼は額に汗を滲ませている。そりゃあ恐ろしい思いをしているのだろう、気持ちはわかるが頑張れよ。

 

 少し臆病そうな少年の姿は、演技によるものとは感じられない。それにウェスの例もある、どこまで抜き取られたかはわからないが、もしかしたらこれが本来のディアボロの性格なのかもしれない。

 

 おそらくは、ドナテラさんと出会った頃の、彼女が好きになった優しい青年。

 

 

 それが……引きこもり体質の、自分以外は絶対に信用しないような、後ろ向きまっしぐらな性格になるなんて。なんということでしょう。

 

 

「苦労したんだなぁ……」

 

「え、あの?」

 

 

 しみじみとした思いのまま、ドッピオの頭を撫でる。俺の行動に困惑するドッピオと、何故か俺を見る目が遠いギャング達はとりあえず置いておいて、と。

 まずは今の内に、厄介なボスのスタンドを封じておかないといけない。いつまでも彼の記憶を抜いておくわけにはいかないし、何が切っ掛けで……プッチ以外の手で記憶が戻されるかもわからない。

 何が出来るか全く予想がつかないのがスタンド使い、能力の類似はないとは言い切れないため用心するにこしたことはない……隙を見てディオがドッピオからDISCを取り出さないためにもッ!

 

 

 それからドッピオをなだめすかして誘導して、どうにかスタンドを封印することに同意してもらう。

 

 この詐欺に最も助力をしてくれたのは、ピクテルの微笑みながらの色仕掛けだろう……おま、いつそんな色香の出し方覚えた、誰から教わったんだ……犯人ディオしか浮かばねえな。

 

 睨みつけると、彼は口元を吊り上げるように笑った。クッソ、ジョナサンに怒られてしまえ。

 

 

 面倒なので別室に移動せずに、この場で作業をしよう。あと、皆へと俺の能力について簡単に説明しとこうか。

 

 

「じゃあ、実演。まずまっさらなキャンバスをとりだします。次にドッピオにスタンドを出してもらいます。ピクテルがスタンドを掴んだらキャンバスに放り込んで……額縁を付けて完了」

 

「……」

 

「これでドッピオはスタンド能力を使えなく……待った、待て待てドッピオを攻撃しようとしない! 全員しまえ、スタンドッ!」

 

 

 俺の作業は黙って見ていたというのに、モノは試しとばかりにスタンドを構えた面々から、俺は慌ててドッピオを背中に隠す。それを見て舌打ちをするプロシュートとギアッチョ……おまえ達、隙あらば仕留めるつもりか。何この人達、めっちゃ物騒。

 

 

「まったく…………おい、イルーゾォは鏡から出て来い」

 

 

 ドッピオに先を促そうと俺が振り向けば、彼の後ろにある戸棚の、小さな鏡の中で見つかったイルーゾォが不満そうにため息をついていた。

 

 油断も隙もねえ……他に奇襲が可能そうな二人に視線を向ければ、無表情とニヤニヤとした笑みを返される。リゾットはともかくメローネ、お前はスタンドをどこかに忍ばせているんだろうなぁ、パソコン手元にあるし。

 

 これは早々に話を進めた方がいいな、そう思った俺がレオーネに視線を向けると、先ほどまで立っていた場所に彼はいなかった。

 

 さてどこにいるかといるかというと。

 

 

「兄ちゃんだぁ……」

「ハルノだぁ……」

「し、しま……」

「ちょ、ちょっとレオーネ兄ちゃん力緩めて! ハルノ兄ちゃん苦しそうだよッ!」

 

 

 二人ともハルノに抱きついていた。随分探していたから嬉しいのは同感であるが、締まっているぞレオーネ。

 ドナテロとリキエルに救助され、噎せているハルノに慌てて謝る二人。ブチャラティチームの面々が面白そうに見つめるのもよくわかる。いいなあ、あっち明るくて。

 

 

 シーザーからDISCを受け取り、さくっとドッピオに差す。

 スタンドが隔離された状態で、記憶のDISCを戻す。これはウェスも経験しておりその時は問題は発生しなかったが、今回は人格が分離している状態……どういう結果になるのかは不明だ。

 突然記憶が追加された衝撃にか、うずくまってしまった彼を見下ろしつつ、俺はチラリと隣を見る。

 

 まあ、様子を見ている暇はないのだけれど。

 

 

「さあて、しつけは頼むぞディオ」

 

『ふふん、任せておけ』

 

「…………はッ! おい待て私を離せッ!?」

 

 

 ディオは軽々とドッピオを小脇に抱え、スタスタと部屋の出口へと歩き出した。

 記憶の統合が完了したのか、暴れるドッピオを気にもとめず、愉しげに笑いながらディオは扉をくぐっていった。

 

 彼はこれからディオの教育を受けることになる……ストッパーのジョナサンもついているが、厳しい調きょ……教育となるだろう、強く生きろよ。

 そっと目の端を拭うと、ホルマジオがボスをどうするつもりなんだと聞いてきた。

 

 

「ンー? おいおい、間違えてほしくないな。アイツはボスじゃあなくて参謀だろう」

 

 

 ボスは『昔から』俺なのだから。

 そういう風に皆言っていただろう? そう返す俺に苦い顔をする主に暗殺チームの面々だった。

 

 

「つまり、『参謀』を始末するつもりはねぇ、と」

 

「俺がボスであることを証明するにあたって、組織の全容を把握している『参謀』の協力は不可欠だ。それとも、お前達は『参謀』の代わりが務まると断言できるか」

 

「……チッ」

 

 

 構成員の誰にも姿を晒さず、パッショーネ程の組織を作り上げる。それは難易度が高いってものじゃあない、常人には到底不可能だ。

 それをやってのけたドッピオの能力は非凡で、得難いものだ。それに気付いているからこそ、ディオは彼を生かすことに了承した。

 

 ……了承、したよな……? スタンドはすでに封印しているから、流石に諦めたよな?

 いや、その分の八つ当たりがドッピオに降りかからない……そんなことはありえないな。すまん、ドッピオ。考えが甘かった俺を許してくれ。

 

 

「ドッピオに幸あれ……」

 

「ボス……」

 

 

 顔色を変えた俺に何かを察したのか、ブチャラティが沈痛な表情を浮かべる。まだボスであったディアボロへの敬意は残っているらしい。そりゃあ反乱を起こしたリゾット達と比べるのも問題か。

 

 

「そういや、承太郎達は? 来ていないのか?」

 

「ああ、戦闘中のようだ」

 

 

 ソファーに足を組んで腰を下ろしているシーザーに尋ねれば、そう返答された。

 

 …………誰と?

 

 

 

 

 


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