彩る世界に絵筆をのせて   作:保泉

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柔らかいのとトゲトゲのと2

 

 

 少年たちと話し合いの結果、よくわからないことがわかった。

 

 少年たち、ジョナサンとディオが住んでいたのはイギリスで、気がついたら俺の家のリビングに立っていたとのこと。

 

 これだけでも訳が分からないのに、生きていた時代が十九世紀終わり頃って……どういうことなの。

 

 

 今が二十一世紀始めの日本だと伝えるがなかなか信じなかったので、その当時なかったはずのテレビや洗濯機、冷蔵庫を見せてみる。少年たちはひとしきり驚いた後、好奇心の赴くままにペタペタと触っていた。

 

「これはなんだい?」

 

「……こんなところに爺さんの秘蔵DVDが。子供は見ちゃいけません」

 

 危うくセクハラするところだった。俺見たことないけど、禁止年齢マイナス三歳位までダメだよね、多分。

 

 

 

 一通り触って満足した少年たちが落ち着いたのを確認してから、もう一度俺の部屋に来た状況を尋ねた。

 

 ……やはり、廊下で少年たちが顔を突き合わせたら、気がつけばリビングに立っていた、としか分からないのようだが。

 

 そして少年たちはこの家から出られないらしく、実際に見せてもらったが窓から手を出そうとしても、見えない壁みたいなものに遮られているようだった。

 

 そんな状況で混乱しているところに空き巣のおっさんが登場し、手荒に拘束したみたい。アグレッシブだな少年たち。もしかして、おっさんいなかったらそれは俺に向けられていたってか。ナイスだおっさん。

 

 

 

 

 ちなみに、空き巣のおっさんについてだが。

 本来、警察に突き出すのが正しいのだけど、おっさんをフルボッコにした少年たちについての説明が非常に面倒なため(なにしろパスポートもない)、今回限りで見逃すことにした。

 

 但し氏名年齢生年月日、免許証のコピーなど身元の情報は控えて、次はないと念入りに脅してもらった。金髪の少年ことディオに。

 

 

 いや、ほら、言葉が通じないと何言ってるかわからなくて怖いでしょ?元々、おっさんは少年たちに怯えていたし、効果てきめんだった。

 

 

 

 

 

 おっさんを放逐し、少し休憩をと緑茶をいれて少年たちにも勧める。緑色がまずかったのか警戒する少年たち。俺が平気で飲んでるのを見て、恐る恐る口をつけている。

 

 もう少し落ち着くまで待っていてもいいが、そろそろ時間も遅くなってきた。着地点は決まっているのだから、さっさと終わらせた方が良いだろう。

 

 

「さて、二人とも俺の家からでられない以上、ここに住むしかない」

 

「……そうですね」

 

 

 カップをソーサーに置き、ディオが最初よりも丁寧に頷いた。なんか、いきなり丁寧になって気持ちわる……猫被り下手くそだな。

 

 

「別に敬語はいらないよ。鳥肌たったじゃん……ああ、薄ら寒い。

 まあ、俺が言いたいのは、衣食住と引換に絵のモデルやってくれないか、ってこと」

 

「モデル、かい?」

 

「そう。俺、絵を描くのが好きなんだよね。ジョナサンもディオも美少年だし、できれば頷いてもらいたい。

 嫌なら家事をしてもらうことになるけど、どう見ても坊ちゃん育ちだろうし、キツいと思うけどな」

 

 

 ただでさえ家事をしたことがない上、百年以上未来の台所なんか未知の世界だろう。

 ふふふ、これでモデルゲットは確実……!

 

 

 少年たちはしばらく悩んだあと、やたら決心した表情でモデルをすると言った。はて、なにゆえジョナサンは悲壮感漂っている?ディオもなして睨むの?

 

 

「なんか、力入ってないか?ヌードではあるまいし、そんなに決意が必要か?」

 

「違うのか!」

 

「変な覚悟しちゃったよ……良かった」

 

「ちょっと待て。お前ら俺に対する印象をはっきり言ってみろ」

 

 

 途端に視線を逸らす二人に、肩を落とす。ひょっとしなくてもこれはアレだよね?変態扱いされてたよね、俺。

 

 気まずそうなジョナサンと、未だ警戒を解かないディオ。……わんこ型ににゃんこ型だな。

 

 ささやかに逃避しつつ、野生動物を手懐けるなら餌付けかな、と俺はもらった惣菜をレンジで温めるべく立ち上がった。

 

 

「そういえば、二人とも日本食食べたことないよな。箸使ったことあるか?」

 

「ないかな。日本食も初めてだよ」

 

「僕もないな」

 

 

 うーん、それじゃ夕飯だけフォークとか使ってもらって、明日は箸講座だな。小豆確かまだあった筈だし、使えるようになったらぜんざい作ろう。

 

 

「おかずはお裾分けがあるから、ご飯と味噌汁だけ作るからちょっと待ってな。パンが良ければ食パンならあるけど、どうする?」

 

「僕はパンがいい」

 

「えっと、パンで」

 

 

 二人ともパンか、まあそうだよな。なら俺一人分だけ炊くより、キャベツ切ってコロッケサンドを作ろうか。 

 

 六切りの食パンにからしマヨネーズを薄く塗り、千切りしたキャベツとレンジで温めて崩したコロッケを挟んで、薄めたソースをかけてから半分に切る。

 

 スープはインスタントのワカメでいいか。明日は真面目に作ろう。

 

 

「即席で悪いが許せ。コロッケサンドとワカメスープだ」

 

 

 ありがたく食らえ子供達。俺の晩飯分けてるんだから。

 そう言うとディオとジョナサンは微妙な表情を浮かべた。何故に。 

 

 

「どうした、量が足りないか?なんだったらペペロンチーノでよければすぐに作れるぞ?」

 

「いや、足りるから大丈夫だよ」

 

「変な奴だと思っただけだ」

 

「ひどい!」

 

 

 なんてことだ、俺の印象が「変」で固定されてしまっている。というかディオ、敬語いらないって言ったのは俺だけどさ、もうちょっとオブラートに包むっていうか、隠すっていうか……しまった、外国人に求めるものじゃなかったこれ。

 

 

 少年達はきちんと出されたものを食べきり、空いている部屋――じいちゃんの部屋だったところと客間に案内した。定期的に布団は干しているし、大丈夫だろ。

 

 

 

 

 自分の部屋に戻って、少年達にあってから引っかかる何かについて考える。んー、どうも見たことがあるような気がするんだけど、何だったっけなぁ。

 

 

 似た芸能人でもテレビにいたか、とパソコンを起動して検索してみるが、あたりと思えるものはヒットしなかった。

 知人の名前を思い出しても、どうも該当がいない。考えすぎていると頭が痛くなってしまった。あほか。

 

 

 ベッドに転がって枕元にあった漫画に手をとる。唐突にひらめくキーワード。

 

 そう、漫画だ。漫画に関する何かだった。前に思ったことはなかったか?『昔』と違ってあの漫画が連載されてないって――

 

 

 俺はベッドから飛び起きた。

 

 

 

 『ジョナサン』と『ディオ』。

 

 

 

 そう、何故忘れていたんだ。何故気づかなかった。

 

 

 

 『ジョナサン・ジョースター』と『ディオ・ブランドー』!

 

 

 

 『昔』の世界にはあって、今の世界にはないあの漫画!

 

 

 

 

 

 

「『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部の主要キャラじゃないか……」

 

 

 どうなってるんだ、と痛む頭を抱えて俺は再びベッドに身を投げ出した。

 

 




気づきました。

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