ピクテルが用意した服は子供サイズの甚平だった。確かに体格あわせやすいし、着せやすかったけどさ。和風もいけるのね、この子。仮面が洋風だからそっちにいくと思ってた。
子ども達を着替えさせて、布団に寝かせて毛布をかける。流石に五人分を着替えさせるのは大変だった。体力的にも、精神的にも。
やっぱり、これって俺が誘拐犯なんだろうか。
ソファーに腰掛けて、ちらりと子ども達を見る。年齢は上は小学校低学年、下は一歳ってところだろう。迷い込んでくる原理はさっぱりわからないが、子ども達にすれば突然見知らぬ所に来て、知らない大人がいるんだ……やべえ、泣かれる未来しか浮かばない。
ま、一人……もしくは二人ほどは見た目通りの年齢かはわからないんだけど。特徴的な格好ーー学帽と鎖の付いた長ラン姿ーーをしていた一番年上の少年に視線を移動させると、バチリと視線が合った。
……すでに起きてらっしゃる。
少年は鮮やかな緑の目で俺に向かってガンつけている。何この迫力、小学校低学年とは思えない。相当喧嘩に慣れているとみる。
「おい」
「はい、何でしょう」
「アンタの名前は」
「平馬ですが」
ついつい丁寧語になる俺を凝視して、少年は眉間に皺を寄せている。うん、顔はジョナサンやジョセフそっくりなんだけど、雰囲気がぜんぜん違うな。前二人は柔らかいとか軽いのに、こっちは岩石だよ。
「じじいが言っていたのはこれか……」
「……ジョセフのことかな」
「ああ」
「じじい……あいつもうじいさんなのかぁ……」
なんていうか、半月で五十年経ってると浦島太郎状態だよなあ。俺が見たジョセフの姿は十三歳だったから余計にそういう気分になるのかもしれない。
「じじいから伝言だ。わしらは元気じゃ、だと」
「今は一人称わしなのか。ま、元気ならいいや」
遠い目をしていた俺に、いくらか視線が柔らかくなった少年がジョセフからの言伝を伝えてくれる。
わしら、ってことはつまり『二人とも』元気なんだろう?
ならこれ以上良い報告はない。
「う……」
ニコニコしながら少年を見つめていると、もうひとり起きた子がいるようだ。声の方向に視線を向けると、片方だけ前髪が長い子が布団から起き上がって、頭に手を当てていた。どうやらまだぼんやりしているのか、頭を横に振っている。
「起きたみてぇだな」
「その顔……もしかして承太郎かい?」
「ああ。で、テメエは花京院であってるか」
「そうだが……これは何かのスタンド攻撃なのか?」
「多分だが違うぜ。そっち見てみな」
先に起きていた少年の言葉に、次に起きた子が俺のほうを振り返る。視線がしっかり交差したとき、少年の目が見開いた。
「DIO……!?」
「あー、人違いだ」
「何言って――」
「まあ、混乱するのも分かる、というか君らが百年前に生きていたディオのことを何故知っているのかわからないが……俺は中野平馬。この家の家主だ」
少年――おそらく花京院くんの驚きを見て思うのは、やっぱりディオ生きてるんだぁ、ということだった。首だけで生き延びれるってやっぱり吸血鬼の生命力ハンパないわぁ。でも俺も半分以下だけど吸血鬼っぽいんだよな、太陽大丈夫だけど。
え、やっぱり俺もそのうちびっくり生物になっちゃうのか?救急車送りになってから目の視力もあがって裸眼で大丈夫になったし、腕力も随分と……訂正、心なしか上昇した。それでも美喜ちゃんのほうが力あるけどな。あの子の先祖にはきっと鬼がいるに違いない。
「もしかして、ジョースターさんが言ってた」
「多分だがな」
「え、アイツ俺のことなんて言ったの」
花京院くんの気になる言葉に質問すると、少年二人はそろって目を俺から背けた。何故。
ジョセフ、アイツ……孫達に何吹き込みやがった?
「俺ちっちぇぇ!?」
胡乱な目で顔を背ける少年二人を見ていると、次の子が起きたようだ。というか、寝起きで凄いテンション高いな。
「うるせぇ」
「承太郎も小さい!?でも目つきワリィ!」
「起きてすぐに元気だね、レオーネ……」
金髪の少年は驚いてます、と全身で表現しながらなにやらわたわたしている。本人は凄く驚いて焦っているんだろうが、身体が小さいせいか傍から見ると物凄く微笑ましい。
む、でも先ほどから騒いでいるせいで、残りの子も起きたようだ。
「……ママ?」
「うー?」
しかし、どうも様子が先に起きた子達と違う。起きてすぐに流暢に話し始めた三人とは違い、残りの二人はきょろきょろと周りを見回している。心なしか段々表情が泣きそうになっているような……
「まま、どこぉ……」
「あぅ、ちぇー……うぇ」
あ、やぱい。
「ふえぇぇぇぇぁああ!」
「うぇぇぁぁぁぁああ!」
やっぱり泣いたー!?
慌てて二人の傍に寄り、胡坐をかいて膝に乗せ抱える。大泣きしている彼らの背中を撫でながら、俺はつとめて優しい声を出した。
「よしよし、寂しかったなー。大丈夫、きっとママに会えるからなー」
背中を撫でて、頭を撫でて、大丈夫だと怖くないと何度も何度も言う。次第に泣くのにも疲れたのか、気持ちが落ち着いてきたのか……ちみっこたちはぐずる程度になっていた。
「と、止まったか?」
金髪の少年が恐る恐るソファーの背から顔を出す。何をそんなに怖がってるんだ君……よく見ると横に頭が二つあるな。お前ら三人何やってんだ。
「ごめん、僕一人っ子で」
「同じく」
「俺も俺も」
つまり対処法がわからないと言いたいらしい。それで逃げるを選んだか……将来結婚したときに苦労するぞ、お前たち。
困った顔をする花京院くんと承太郎くん、レオーネくんを手招きして呼ぶ。
こわごわと近づいてくる三人の足元を指差すと、何故か三人とも其処に正座する。……座れって意味しか含めてないつもりなんだけど、まあいいか。
「右から自己紹介。はいどうぞ」
「え、俺から?レオーネ・A・ツェペリでっす」
「花京院典明です」
「空条承太郎だ」
うん、ひとり意外だったけど三部だな!
……いやいや、其処重要じゃない。もっと今耳を疑うようなことがあっただろう。
「俺は中野平馬です。ところでレオーネくんは、シーザーの……?」
「あ、父さん知ってんだ。息子でーす」
「息子ぉぉぉぉッ!?」
行き成り叫んだせいで、膝の上の二人がびくりと反応した。驚かしてごめんなぁ。
まって、孫じゃなくて息子?アイツ、ジョセフと年齢離れてないよね。なのに承太郎くんと同じくらいの息子が……ああ、彼ら小さくなっているんだった。
もしかしたらレオーネくんは承太郎くんよりもずっと年上かもしれないな、よし落ち着け俺。
「レオーネくんや。いま何歳?」
「十八だけど」
「希望は潰えた……」
「なんで!?」
がくりとうな垂れる俺。シーザーは若い嫁でも貰ったんだろうか。あれだろ、大体五十歳ぐらいの時に生まれた計算だろ。……現代だとそんなに珍しくはないな。
次に腕の中の子達だな。下を向くと、二人そろってこちらを見上げている。なにこれあざとい。
「どうしたー?」
「パパ」
「ぱー!」
満面の笑みになった二人に反応することもなく、俺は石像のように凝固するしかなかった。くいくいと服を引っ張られる感触で我に返る。
「若く見えるけど、子持ちだったんだな」
「産んでない!」
「男が産めるか」
レオーネくんの言葉に反射的に返すと承太郎くんからツッコミが入る。そうだった、いま俺男だった。
平常心平常心と自分に言い聞かせながら、ちび二人に向かって笑顔を浮かべる。
「えーと、俺はパパじゃないぞ?」
「パパなの。しゃしんそっくりだもん」
「ぱーぱ。だっこ」
写真にそっくり……俺が?写真の父親に?
顔を上げると驚愕の表情の三人の少年。レオーネくんはこちらを指差して口をぱくぱく動かしているし、典明くんと承太郎くんは固まったままだ。
「お、なまえ教えてくれるかな?」
「しおばな はるの!」
「うーがろ!」
きっと引きつっていた俺の笑顔を気にもせず、二人はこぼれんばかりの笑みで言った。
パパの名前聞いたつもりだったんだが。それはともかく――なんてこったい。