カンピオーネ~生まれ変わって主人公~《完結》   作:山中 一

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中編 東方の軍神編 Ⅱ

 護堂の下を去ったウルスラグナは、『鳳』に変身して空を切り裂き、自分と相性のよさそうな地点を探した。

 決戦するなら、最高のコンディションで挑める場所でしたい。

 候補地は二箇所。

 一つは、この国で最大の火山である富士山。

 《鋼》と相性のよい火山は好むところだ。それに、霊峰というのがいい。『まつろわぬ神』は、霊力の集まる土地を好み、場合によっては自分の伝承とは無関係な聖地に陣取ることもある。メルカルトがそうであった。

 そして、もう一つの候補地は、江の島。

 偶然、神殺しを尋ねる際に通りがかり気に入った。

 どうやら、《蛇》の神格を崇めている土地らしく水と大地の精に溢れている。これもまた、《鋼》が性を昂ぶらせるのに向いている。

「まあ、ここでよいか」

 ウルスラグナが選んだのは、江の島。

 理由は、近いから。

 一刻も早く戦いに望みたいというのが、ウルスラグナの思いだ。ここなら、島ということで人気を排除するのも容易。邪魔が入ることもあるまい。

 ウルスラグナは、神力を解き放ち『少年』の化身となった。

 彼が最も好む化身でもある。

 その能力は、加護と支配の言霊。万物を言葉によって従えることができるのだ。

「命ある人の子らよ。我の戦場から疾く去るがいい」

 ただ、それだけで、江の島は瞬く間に無人の城と化した。

 これで、舞台は整った。

 神殺しが現れるまで、まだ時間があるだろう。その間に、この島を要塞にでも変えてしまおうか。

 一瞬、そんな考えが脳裏に浮かんだが、即座に一蹴する。

「我は障害を打破する者。メルカルト神のように篭城するのは性に合わぬ」

 かつて、メルカルトは傷ついた身体を癒すために洞窟の中に結界を巡らせ己の城とした。思えば、あそこで神力を使ってしまったことが、手痛い反撃を許すことになったのかもしれない。

 だが、だからといって、自分も同じ戦法を採ることはない。

 ウルスラグナは敵を打ち砕き正義を示す者。

 城に篭って戦うのは、彼の言葉通り性に合わないことである。

 故に、待つ。

 ウルスラグナはひたすらに、自らが打倒すべき敵の到来を待ち続けるのであった。

 

 

 

 

 □ ■ □ ■

 

 

 

 

 ウルスラグナの出現は、衝撃と共に東京の呪術師たちに伝えられた。

 特に護堂が受けた衝撃たるや、事情を知らない他人では想像することもできまい。

 原作知識がある護堂はウルスラグナを知っている。主人公草薙護堂が、最初に倒した神であり、原作で最も重要な役割を果たしていると言っても過言ではない神格なのだ。

 メルカルトに倒されて、終わったのだと思っていたが、そうではなかった。

 むしろ、原作での護堂の不死身さを考えれば、復活するのは当たり前だ。なぜ、原作のウルスラグナは『雄羊』の化身を使わずに護堂に敗北したのだろうか。何か、ウルスラグナが敗北する伏線はあっただろうか。それが思い出せればいいのだが、残念なことに十六年も昔の話だ。細かいところまでは覚えていなかった。

 護堂は祐理や合流した恵那と共に車で移動している。

 目的地は、江の島。

 日本を代表する観光地の一つだ。

 どうやら、ウルスラグナはそこを決戦の地に選んだらしい。

「よく、風になったウルスラグナの居場所が分かりましたね」

「神様の居場所を探るのは、それほど難しくありませんよ。明日香さんほどの術者になれば、かなり細かい地点まで探れます。なんといっても、莫大な呪力の塊ですし、姿を隠すつもりもないようですしね」

「ああ、そうか。確かに……探り当てたの、明日香かよ」

 居場所を探るだけなら、相手がどれだけ速く動いて、飛び去っても問題ない。

 大雑把な位置ならば、それなりの呪術師にも探れるという。ただ、明日香ほどの呪術の巧みであれば、さらに細かい市町村の番地まで絞り込めるらしい。

 ウルスラグナ自身も、自らを隠すような真似はしない。彼は真正面から障害を打破する者なのである。

「それにしてもウルスラグナか……」

「日本ではマイナーな神格なのに、ご存知みたいですね」

「ええ、まあ。メルカルトと戦ったときに、名前を聞きましたから」

 護堂が原作という名の平行世界の知識を持っていることを知る者はいない。

 誰にも伝えていないし、伝える意味もないと思っている。すでに、護堂の知る原作ネタは品切れ状態であり、もはや意味そのものを半ば喪失している。

 そんなときにやってきたのがウルスラグナだった。

「ウルスラグナは、ゾロアスター教に現れる《鋼》の軍神ですね。中級神ヤザタの一人で、一〇の化身に変身して戦うといいます」

「今日、俺たちの前で見せたのは、『強風』『山羊』ってとこですか。確か、山羊は印欧語族の雷の象徴でしたよね?」

「ええ、ゼウスなんかも山羊と縁深い神ですし。太陽を運ぶ馬と雷の山羊はあの辺りの神話が共有する類型の一つでもあります」

 ウルスラグナが見せた化身はまだ二つだけだ。一〇の化身を持つのであれば、残りは八つ。一応、すべての効果を知っているが、まつろわぬウルスラグナがそれを使ったとき、どれほどの脅威になるか想像もできない。

「王さまもつくづく神様に好かれる人だよねぇ……」

「別に俺は好かれたいわけじゃない。むしろ、無視してくれればありがたいんだけどな」

 恵那の言葉に、護堂はため息をついて答えた。

 サルバトーレのように、明け透けに戦い最高、と言えればいいのかもしれない。しかし、残念ながら、護堂の性格はそこまで戦いを好むものではない。

「ですが、草薙さんも神々に挑戦されることもありますし、避けることができるのに避けないというのもどうかと」

「そ、それは仕方ないだろ。どうしたって、向こうから来るんだから、その場で避けても意味ないんだよ」

 祐理の言葉に、ぎくりとしながらも取ってつけたような言い訳をする。

 草薙護堂のこの一年間の所業を振り返れば、巻き込まれたものもあるが、護堂から喧嘩を売った戦いもいくつかある。一概に、被害者だと言えない事情があるのだった。

 そうして、車内で話をしている間に時間が過ぎて、やがて目には見えない気配というべきものが漂うようになった。 

 車の進む先には、緑の覆われた美しい島と砂浜。

「見えてきました、ああ、この辺りまでくれば、私でも感じられますね」

 冬馬は車を停める、小波の奥に浮かぶ江の島を見る。

 護堂の身体にも、強い力が湧き上がってくるのが分かる。

「人がいないね。冬だからかな」

 夏に来れば、人がたくさんいて戦いどころではなかっただろう。今は真冬だ。好んで海に飛び込む者もそういない。

 しかし、どうにもそれだけではないらしい。祐理が首を振る。

「どうやら、先に人払いされたようです。ウルスラグナ様の神力を感じます」

「戦う気満々と言ったところですねェ。どうします、草薙さん」

 冬馬に問われた護堂は、シートベルトを外して言った。

「もちろん、戦いますよ。そうじゃないと、東京に太陽を落とすとまで言ってんですからね」

「はい、では避難誘導などはこちらにお任せください。江の島周辺は、完全封鎖しますので」

「よろしくお願いします」

 護堂は車を降りた。

 恵那がそれに続き、実体化した晶もまた神槍を携えて現れた。

「清秋院も晶も、前には出るなよ」

「分かってるよ、王さま。ヒットアンドアウェイ。神獣が出てきたりしたら、こっちに任せてくれればいいよ」

「後ろは気にしないでください、先輩」

 恵那と晶が、それぞれの武器に陽光を反射させる。

 後ろは二人が守ってくれる。だから、護堂は前方、ウルスラグナだけに集中する。

 

 

 江の島は島ではあるが、江ノ島大橋で陸と繋がっているので、船を使う必要はない。

 護堂たちは、橋を渡って江の島に渡った。

 江の島は古くからの霊地として、信仰を集めてきた。

 特に弁才天と五頭竜伝説の地であり、《蛇》の神格が崇められている土地なのである。

 しかし、そうした霊地という特性の他に、観光地という側面も持っている。緑豊かな土地で、マリンスポーツも盛ん。そうした背景があるから、橋の先は大きな駐車場や商店街、そして広いヨットハーバーという人工的な光景になっている。

 その奥に進んでいくと、緑豊かな霊地となる。

 戦うならばどちらか。

 考えるまでもない。

 護堂たちはヨットハーバーのほうへ歩きながら、ウルスラグナの気を探る。

 いた。

 探すまでもなかった。

 ウルスラグナは一五歳の少年の姿で、ヨットハーバーに停めてあったヨットの上に腰掛けていた。

「来たか、草薙護堂。すっかり待ち侘びてしまったわ」

 暇を持て余した軍神は何をするでもなくこの場でぶらぶらとしていたらしい。

「待ち伏せもなし、罠もなしか」

「当然じゃろう。聖戦に卑怯な手管は使わぬよ。我はウルスラグナ。悪を挫く、正義の軍神故な」

 ならば、この島に何かしらの結界などが仕掛けられているということはない。 

 目の前の軍神以外に脅威はないということだ。

 護堂は恵那と晶の二人と目配せし、下がらせた。神とガチンコで戦うのは、あくまでも護堂である。

「ふふふ、良き目じゃ。この島国に来る途上、南洋の島でキルケーと戦ったが、やはり魔女よりも神殺しのほうが戦いがいがある」

 護堂は眉を顰める。

 キルケーという神に心当たりがないこともあるが、南洋の島というのが気にかかった。

 それは、おそらく晶の父親が調べていた島が消失した事件のことでないか。

 なるほど、それならば上がってきた情報とも一致する。ウルスラグナが黄金の剣と太陽の力で島ごとキルケーという魔女神を沈めたのだろう。

「その事件も知ってるけど、結構前だろ」

「うむ。あの魔女神めにしてやられてな。討ち果たしたが、取り戻すのに多少苦労したのじゃ」

「取り戻す?」

「ふふ、まあ、そう聞くな。もはや過ぎ去った過去のことぞ。今はただ、目の前の戦いにのみ力を注ぐがいい」

 少年神は優美な笑みを浮かべて、ヨットから飛び降りた。

「それに、どうにも我はお主と戦わねばならぬような気がしての。《鋼》と神殺しという宿縁を越えた何かを感じるのじゃよ」

「そら、勘違いだと思うぞ」

 言いながら、護堂は神槍を一〇挺、周囲に展開した。

「ふむ、では行こうか」

 ウルスラグナの宣言に、先手を打つべく護堂が神槍を掃射した。躊躇いなく放たれた刃は、ウルスラグナの身体を刺し貫き、その臓腑を撒き散らすために疾駆する。その刹那、やおら右手を挙げたウルスラグナは、呪力を言霊に託して命ず。

『退け』

 ウルスラグナの言霊が、護堂の刃を弾き返した。

「言霊の権能!?」

「うむ。我が『少年』の化身の力じゃ。お主のほうもなかなか見事な武具じゃな。さぞや名高い鍛冶神を討ち果たしたのであろうよ」

 ウルスラグナの目が鋭くなる。見透かすような視線に怖気を感じた護堂は次なる剣を生成して放つ。

 何度も同じ手が通じるかと、ウルスラグナは言霊を使う。

『退け』

 一言だけの命令でいい。この程度の剣であれば、それだけで弾き返せる。だが、その言霊に対して、護堂もまた言霊で反撃した。

『穿て』

 護堂の『強制言語(ロゴス)』がウルスラグナの『少年』の言霊と激突し、対消滅する。 

 そうなると、当然剣の迎撃はできない。

 迫り来る刃を前にして、ウルスラグナは動じず姿を消した。

 獲物を捕らえそこなった剣は、ヨットを複数台巻き込んで粉塵を上げる。

 風はない。消えたのは、『強風』に変身したからではなく――――『鳳』の神速だ。

「オオオオッ」

 護堂は身を前に投げ出し、受身を取りながら起き上がる。

 一瞬前までいた場所を何かが通り過ぎて行った。

 肩口を掠めたのか、血が噴き出す。

「我が言は衆生を導く教えなり。我が呪言は、万象貫く法にして罪人を討つ裁きの剣なり」

 ガブリエルの聖句を唱えて直感を研ぎ澄ます。神速にすら対応する、先読みの力で、ウルスラグナの動きに合せて身体を動かす。

 舞い踊るように、最小限の動きで『鳳』の羽ばたきをかわすと反撃とばかりに神槍で突く。どこにくるか予想して放った突きは、しかし素人の技故か易々と避けられた。

 護堂の頭上を越えたウルスラグナは、再び少年の姿を取る。

「雑な使い方じゃのう。神の武具をそのように」

「生憎と武芸は苦手でな」

「それで、数多の神と対峙してきたのか。ハハハ、やはり神殺しは我等の天敵じゃな。それでこそ、心躍る戦いになるというものじゃ」

 ウルスラグナが大地を蹴る。神速ほどではないが、速い。三歩とかからず、護堂の懐に飛び込めるだろう。それを許さないよう、護堂は剣群を投射する。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ」

 対するウルスラグナは咆哮する。衝撃波となる咆哮は、それだけで剣を駆逐し道を開く。我が目を疑う護堂に向かって襲い掛かるのは一頭の大猪だ。体長二〇メートルほどの巨体で、猛進する。『猪』の化身に変身したのだ。物理的破壊力は、ウルスラグナの化身でも随一。怪力の化身など持たない護堂は、当然これを受け止める力などなく、咄嗟に発動させた土雷神の化身で地中を移動してどうにかやり過ごした。

「なんて威力だ」

 地上に再出現した護堂は掘削機で削ったような大地の有様を見て唖然とする。

 大猪は突進力だけでなく、重量も尋常ではない。それが全力疾走すれば、こうなるのも当たり前か。

「ほう、変わった技を使う。それもまたお主の権能か」

 ズンズンと足音を響かせて、ウルスラグナはこちらを向いた。

「なるほど、雷神に纏わる力を感じるの。じゃが、不思議なことに、視えぬ。先の言霊と同じ力が邪魔をしておるようじゃの。念の入ったことよ!」

 襲い掛かる大猪は、ヨットハーバーのヨットを粉砕し、地面を掘り返して大暴れする。圧倒的な破壊力に、人間の作り上げた施設は為す術もなく倒壊し、瓦礫の山に変わっていく。

「でかい的だ!」

 護堂にとっては大きな的でしかない。直撃しなければ、突進力も意味がない。土雷神の化身による神速と『強制言語』による空間圧縮を駆使して大猪の突進をいなしつつ、護堂はその身体に神槍や神剣を突き立てる。

「オオオオッ!」

 ウルスラグナが吼える。衝撃波の弾丸が、民宿の屋根を吹き飛ばし、木々を薙ぎ倒す。

 伏せてかわした護堂は、返す刀で神槍を射出する。二〇の刃が大猪の毛皮に突き立つ。原作の猪ならばまだしも、この大猪はウルスラグナそのものだ。防御力は『まつろわぬ神』のそれ。神獣とは比較にならない。

 爆発的な加速。

 飛び上がるウルスラグナは、自らの重量で護堂を押し潰そうと飛び掛る。土雷神の化身を使ってこれを回避する。大猪の巨体は地震を引き起こし、道路を陥没させた。

「さすがに小回りが利かんと当たらんな!」

 ブルブルと頭を振って土を落としてから、ウルスラグナは別の化身を使った。今度は筋骨隆々な『雄牛』の化身だ。牛頭天王と同じような、人身牛頭の怪物へと姿を変えた。

 大猪に比べれば小さいが、それでも二メートルほどの巨人だ。ウルスラグナは、自分が破壊したヨットハーバーの瓦礫を掴むと徐に持ち上げた。

「その化身は怪力だったか」

「如何にも。大地に縁深い牛は、豊穣の証。また、剛力を有するものも多いぞ。我だけではない」

「知ってるよ!」

 ウルスラグナの投撃を、護堂は転がってかわす。

 避ける続けるのは現実的ではないので、楯を作り出して前面に押し出す。ウルスラグナが如何に怪力を誇り、投げる瓦礫が音速を超えたとしても、ただの瓦礫に神具を砕く力はない。

「製鉄神の権能、なかなか多芸じゃな! よし、ならば組み討ちと行こう!」

 ウルスラグナはその大きな手で鉄棒を引き抜いた。拉げた鉄棒は、おそらくは建物に用いられた鉄筋の残骸だろう。三メートルほどの長さのそれを、見せ付けるが如く回転させる。

 それから、ウルスラグナは地を蹴った。怪力の権能を駆使した猛然とした疾走と、その勢い、筋力、そして軍神の才覚を用いた鉄棒の一閃は、神槍の一撃に等しい精度と威力で護堂の楯を殴り、弾き飛ばす。

「我は鉄を打つ者。我が武具を以て万の軍をまつろわせよ!」

 護堂は一目連の聖句を唱えて武具を強化する。呪力を練り、神槍を生み出して至近距離からウルスラグナに射出する。

「ぬん!」

 ウルスラグナの鉄棒はあくまでも人工物。神槍には耐えられない。それを理解しているウルスラグナは、真正直にこれを受け止めず、刃の腹の部分に鉄棒を沿えて押す。怪力がこれに加わるので、いとも容易く神槍は逸らされてしまった。

「正気かクソ!」

 護堂は飛び退いて距離を取りつつ、言霊を投げかける。

『穿て!』

 護堂の言霊は、ウルスラグナを狙ったものではない。呪力への耐性から弾かれる可能性も高い。そのため、護堂の言霊が狙ったのはウルスラグナの手元。鉄棒である。鉄棒を一撃の下に粉砕する。

 追撃を仕掛けようとした護堂の前でウルスラグナが大きく地面を踏みつけた。

 その瞬間、護堂とウルスラグナの足場が砕けて、粉塵が立ち上った。左右に、モーゼが海を割ったときのように、地割れが生じた。大地が裂け、護堂は足を取られた。そこに、ウルスラグナが攻め込んだ。拳を握り、護堂の頭を砕かんと豪腕を振るう。

『縮』

 バランスを崩したことで大地から足が離れている護堂は、空間を圧縮して難を逃れる。飛び移った先はウルスラグナの懐だ。

「鋭く、速き雷よ! 我が敵を切り刻み、罪障を払え!」

 咲雷神の化身を発動させる。どこかで、建物なり木なりが両断されて倒れただろう。咲雷神の化身は、高い物体を生贄にすることで発動するのだ。

 咲雷神は、雷の切断力の神格化したもので、化身は雷を以て敵を斬り裂く力を持つ。

 紫電が奔り、稲妻の斧がウルスラグナの胸板を襲う、その刹那、精妙なる風がどこからか吹き込んできた。

「ぐ、ぅ……!?」

 気が付けば、空に跳ね上げられていた。

「まさか、風になりやがったか!?」

 風は斬れない。実体化を解いて、致命的な咲雷神の斬撃を受け流したのだ。

「いや、驚いたぞ。神殺しよ。あれを受けるのは、さすがの我も危ういのでな」

 空中で実体化したウルスラグナが、踵落としを放ってきた。護堂は、これを楯で受け止めたが、失策だった。ただの蹴りではない。『駱駝』の化身による強大な蹴りだった。

 流星のように地面に墜落した護堂は即座に若雷神の化身を使って身体を修復する。

 よろめきながらも立ち上がる護堂に、ウルスラグナは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「なるほど、不死性の権能だな。それもまた雷神。なるほど、お主の力はこの国の雷神、火雷大神より簒奪したものじゃな。そして、厄介な言霊の権能はガブリエル。ふふふ、バビロニアの蛇神を起源とする大天使か。確かにこれは大物じゃ。あといくつ隠し持っておるのかの」

 どのように『強制言語』の秘匿能力を破ったのかは分からないが、アテナも見抜いたのだ。ウルスラグナが見抜いたところで驚くには値しない。

「教えねえっての」

「で、あろうな」

 ウルスラグナはますます微笑みを深くする。それから、護堂に駆け寄って、蹴りを放つ。速い上に鋭い。神すら蹴り殺す『駱駝』の蹴り。カンピオーネの頑丈さだけで受け止めるにはあまりに危険。

 護堂は血流の加速を感じた。

 集中力がさらに鋭くなり、直感が冴える。どのように身体を動かせばいいのか、感じ取って動けるようになった。

『足払いだ』

 脳裏に響くアテナの声に、従って護堂はウルスラグナに足払いをかける。

「ぬお!?」

 上段蹴りをかわされた直後の足払いを受けて、ウルスラグナはふら付いた。そこに、護堂は生成した神剣を突き込んだ。素人のそれではなく、達人の剣筋での刺突をウルスラグナは尻餅をつくことで避けた。あのまま無理に体勢を立て直そうとしていたら、首を刎ねることができただろうに。

 ウルスラグナはそのまま後転して立ち上がり、さらに一歩退く。

「ハハ、なにやら胡乱な力を使いおったな。組み打ちの力を持っておるのではないか!」

 面白くなってきたと言わんばかりに嬉々としたウルスラグナは、臆することなく近接戦を挑んできた。

 アテナから得た力と『強制言語』を駆使してウルスラグナを相手に一歩も引かずに激しい打ち合いをする護堂は、それでも徐々に形勢が不利になっていくのを感じていた。

 打ち合い自体は互角だ。

 だが、身体の頑丈さで負けており、さらにアテナの力を使ったことで制限時間が発生した。勝負を急がなければ、何れ身体が動かなくなってしまう。

 『神便鬼毒酒(フォッグ・オブ・ザ・インタクシケイション)』で破魔の霧をばら撒き、ウルスラグナの力を弱めようとしたが、効果を発揮する前に『強風』の化身が霧を内側から吹き散らした。暴風に曝されて、護堂の身体も跳ね飛ばされて地面を転がる。瞬間的にあらゆる台風を凌駕した突風を生み出したのだ。

 相手に合せて手札を切る。それがウルスラグナの戦い方だ。それは護堂と似通ったものではあるが、自分と同じような戦い方がこれほど厄介だとは。サルバトーレのように、一つの必殺技に託けて突撃してくれるほうが幾分かやりやすい。

 しかも『まつろわぬ神』のウルスラグナは原作の権能となったものと異なり化身を連発してくる。正直に言って、これは反則だ。

「まあ、一柱の神様がいくつも技持ってるわけだし珍しくもないけどな!」

 そう言って、護堂は己を奮い立たせる。

 しかし、次第に身体が重くなってくる。恐ろしいまでの倦怠感が、護堂の反応を遅らせていく。

「どうした。動きが鈍くなってきたな、神殺しよ!」

「そりゃあ、気のせいだ!」

 気合を入れて、神槍を振るうと、ウルスラグナは飛び退いてかわす。何度も繰り返してきた光景だ。

 そこに、これまでと異なる化身を発動する。

 右手に雷光を集め、一息に聖句を唱える。

「今ここに顕現せよ。天を翔け、地へ降り下る者。蛇にして豊穣の主。地下深く眠る死者の総帥よ、大いなる雷の神威を我が前に顕し給え!」

 八つの化身の中でも最強の一撃を可能とする大雷神の化身だ。その閃光は大地を蒸発させ、通り過ぎた後には何も残らない。

 この脅威に勘付いたウルスラグナもまた対処する。『鳳』で避けるか、それもありだが、ここは正面から受けてみよう。

 発動する化身は、『山羊』。

 護堂と同じく、雷を操る祭祀の化身だ。

 雷光を束ねて、ウルスラグナは紫電を放って迎撃した。

「ぬ、う……さすがに重いの! だが、それでこそよ!」

 歓喜するウルスラグナは、聖句を唱えて力を底上げしつつ、眩い白の輝きに目を輝かせる。

 威力は護堂のほうが上だ。このまま続ければ押し切れる。護堂は呪力を振り絞って大雷神の化身をさらに強める。

 異変があったのはその直後だ。

「な……ッ!?」

 大雷神の化身が急速にしぼんでいく。まだ、発動限界に達していないはず。

『ウルスラグナだ。雷を操る祭祀の力で、あなたの雷を奪っているぞ!』

「嘘だろ、なんでもありかよ!」

 アテナの言うとおりだ。ウルスラグナは護堂の雷を迎撃しつつ、その力を奪い取っていた。さすがに、再利用することは能力の限界を超えているが、避雷針のように他所に飛ばして威力を分散させることはできていた。

 それは奇しくも、護堂がアテナにしたのと似ている。

 そうして、カンピオーネの雷と『まつろわぬ神』の雷は相打つ形で消滅した。

 最悪なのは、護堂はこれで日が変わるまで大雷神の化身が使えなくなったことである。

「ふふ、いやはや凄まじい威力じゃ。我が右腕がほれ、この通り」

 ウルスラグナは右手を護堂に見せる。

 彼の右手は、赤黒く焼け爛れていた。護堂の雷撃を正面から受け止めた代償だ。

 だが、それはつまりその程度の手傷で防ぎきったということでも在る。

 残りの手札の中で最大火力は火雷神の化身か重力球。対して、ウルスラグナには『白馬』の化身がある。撃ち落されない可能性がゼロとは言い難い。

「お主が切り札を切ったというのに、我が切らぬわけにもいかんか」

 ウルスラグナの周囲に黄金色の星が現れた。

 目視しただけで、その恐ろしさが分かってしまう。

「何を斬るべきか考えどころであったが、やはり火雷大神は見過ごせぬ。まずは、その多彩な力から斬り裂くとしようかの!」

 ウルスラグナの手に集った光が剣となって燦然と輝く。

「火雷大神は、この国の神話に語られる典型的な雷神じゃ。創造神たるイザナミの身体から生まれ、八つの蛇神にして神格を一にする雷神。それは、雷が持つ八つの側面をそれぞれ神格化したものじゃ」

 光の粒と光の剣が、神々しい輝きを放つ。

 神格を斬り裂く言霊の剣。

 ウルスラグナは火雷大神の権能を丸ごと斬り捨てようとしている。

 対処法は三つ。

 ひたすら避けること。あえて火雷大神の権能をぶつけて対消滅させること。そして、まったく別の権能で迎撃することだ。

 最も現実的なのは三番目。

 護堂は、『武具生成(アームズ・ワークス)』を全力展開。質ではなく数のごり押しで言霊の剣を押し切ろうとした。

 あの黄金の剣は、あくまでも『(エイト・アス)(ペクツ・オブ)(・サンダーボルト)』を斬り裂くためのもので、他の権能には影響を与えない。

「行けェ!!」

 護堂は吼えて、黄金の剣に向かって掃射する。

 無数の刃に対して、ウルスラグナを守るように展開して黄金の星は、激突してあらぬ方向に弾き飛ばされていく。だが、消えない。護堂の刃は言霊の剣を弾くのみで消滅させるには届かない。

「ハッ、この剣の性質に即座に気付き、手を打ってくるとは驚きじゃ! なればこそ、堂々とお主を斬り捨てる喜びがあるというもの!」

 ウルスラグナは剣を片手に、前進してきた。類希なる武芸の才が、ウルスラグナの目に安全圏を映し出す。鋼の群れの中をすり抜けるように進む主に遅れを取るまいと、黄金の剣が怒涛となって特攻してくる。

 使えば使うほど、切れ味を落としていく黄金の刃をこのような形で犠牲にするとは思い切ったことをする。

 ウルスラグナは黄金の剣を二つの集団に分けた。

 前面に展開された黄金の剣はとにかく楯として機能することを目的としたもの。これが刃の雨を弾き返している。その後ろで、ウルスラグナ自らが率いる本隊が漸進してくるのだ。

 言霊の剣は、使えば使うほど切れ味が悪くなる。

 だからウルスラグナは、使い捨てる剣と、温存する剣に分けて運用しているのだ。まさか、このような使い方があろうとは。

「くそ……!」

 ここは一旦撤退するのが懸命だろう。これ以上戦ってはジリ貧だ。アテナの力を使ったことによる反動で身体が重すぎて格闘戦はできない。

 護堂はここで土雷神の化身を使い、ウルスラグナから距離を取ろうとした。

 それを見計らったかのように、ウルスラグナが地面を斬り裂いた。

「なッ……!?」

 護堂は目を見開いて驚いた。

 ウルスラグナが剣を振るった直後、土雷神の化身が解けたのだ。

「実体を解く類の権能は、総じて魔術破りに弱くての。我が剣は天敵じゃろう。土と呪力の繋がりを絶てば、お主の雷神の足は使えぬ」

 そうこうしている内にウルスラグナはかなりの距離にまで近付いている。剣群では足止めにならない。

「黒き星よ。一掃しろ!」

 起死回生を狙う。なけなしの呪力を、この一撃にかける。

 右手に構える漆黒の刃を振り下ろし、最強の重力球を顕現させるのだ。

 出現した黒き星は、ウルスラグナに向かって墜ちていく。辺り一帯の地盤をひっくり返し、ヨットを吸い上げ、何もかもを無に帰そうとする。

「な、に……なんと、これほどの力を!?」

 さすがにウルスラグナも足を止めて黄金の剣で自らの身体を覆い、護堂の重力球からの干渉を防ぐので手一杯の様子だ。

「あんたは、化身を二つ纏めて使えないだろ。その剣を出している今、この創世の剣は防げないぞ」

「いいや、まだじゃ。まだ、我の敗北と決まったわけではない!」

 東の空に暁の光が差した。

 膨大な呪力と共に、白熱した槍が降り注いでくる。

「な、太陽だって!?」

 ウルスラグナの『白馬』の化身。それは、暁を模した擬似太陽からの太陽フレアとなって顕現する。

 灼熱の焔が槍と化し、漆黒の重力球と激突する。激しい力のぶつかり合いが周囲への破壊を更に加速していく。

 護堂は信じられんとばかりに目を剥く。

 ウルスラグナは二つの化身を同時に使えないはず。それが、この軍神の数少ない弱点なのだから。

 事実、ウルスラグナは苦悶に顔を歪めている。『戦士』の化身と『白馬』の化身を同時に使うことによって、想像を絶する負担が彼を襲っているのだ。

 それはつまり、押し切れる可能性があるということだ。

 ウルスラグナをこのまま重力球で圧倒し、押し潰す。そうでなければ、こちらは圧倒的に不利なってしまう。

「墜ちろ」

 残された呪力を、重力球の制御に回す。

 ともすれば暴走しそうになる強大な力だけに、繊細なコントロールが必要だ。だが、今はそんなことに構っている余裕はない。とにかく、ウルスラグナのいる辺りを纏めて潰し、尚且つ暁の光を撃退するようただそれだけを念じる。

 ひたすら、重力球に集中していた所為で、足元が疎かになった。

 ウルスラグナが呟く。

「我の勝ちじゃな」

 護堂の足元の瓦礫の中から、黄金の星が飛び出して護堂の身体を斬り裂いた。

「ぐ、うああああああッ」

 ごっそりと力が持っていかれる感覚。呪力が急速に衰えていく。重力球が『白馬』に抗しきれなくなって溶け落ち、黒と白は互いに喰らいあって消滅した。

 残されたのは、疲弊の極みに陥り立つこともままならない護堂とまだ動けるウルスラグナ。

「ハ、ハハハ! いや、楽しい戦いじゃった。このような死力を尽くした戦いは久方ぶりじゃ!」

 ウルスラグナの身体が膨れ上がり、怪力の化身へと変わる。

「草薙護堂。我を楽しませた神殺しよ。せめてもの礼に、念入りに殺してやるとしよう!」

 護堂は今、火雷大神の権能が使えない。呪力も満足に練れないほど疲弊した状態では、あの怪力を喰らった瞬間に死んでしまう。若雷神の化身が封じられた護堂は、もう再生することができないのだ。

「させるかッ!」

 牛の怪人に晶が斬りかかった。

 晶の神槍は護堂の権能で作ったもの。刃がウルスラグナの腕に突き刺さり、血を滴らせた。

「ほう、先の式神ではないか」

「あの人には、絶対に触らせない! 清秋院さん!」

 晶の呼び声に応えて、恵那も飛び出した。

「先輩を!」

「アッキー、死なないでね!」

 血相を変えて、護堂に走り寄った恵那は護堂の身体を背負って走り出した。

「む、ここまできて逃げられるのはいかん。小娘、道を開けよ」

 『雄牛』の怪力であれば、撫でるだけで人間をすり身にできる。

 本来であれば、神に刃を向けた罰を与えるところだが、最高の戦いを与えてくれた男の所有物を壊すのは気が引ける。だから、少し手加減してやろうと思い、腕を動かして驚いた。

「小娘、お主、そこまで人を捨てたか」

 晶の身体を水墨画のような濃淡ある黒が覆っていた。刺青のように晶を侵食する黒い呪力が、次第に形になり、軽装の鎧を思わせるものになったのだ。

「お主のような者をこの国では鬼だの生成りだのというらしいの」

 ブオン、とウルスラグナは腕を振るい晶を振り払った。

「ぐ、く……」

 信じがたい怪力に晶は歯を食いしばり、顔を歪めた。

「行かせない。絶対に!」

 大地から呪力を吸い上げて穂先に込め、神槍を振りかぶった。

「南無八幡、大菩薩!!」

 

 

 

 ■ □ ■ □

 

 

 

 後方で大きな呪力が炸裂したのを恵那は感じた。

 晶の呪力なのだろうが、今までのそれとは比較にならない規模の力を解き放っていた。おそらく、護堂の式神としての力を解放したのだろう。護堂自身が、まだ掌握していないので限定的なものになっていると言っていたが、この力で限定的とは恐ろしい。

 だが、相手はまつろわぬウルスラグナ。

 敗北を知らない、討ち果たす者だ。

 晶の心配をしつつ、護堂を背負った恵那は江の島大橋を風のように駆ける。

 とにかく護堂を回復させなければならない。

 背負う護堂の息は弱く、話しかけても反応が鈍い。意識が朦朧としているのだ。

「王さまもアッキーも死なないでね、ほんとに!」

 内心で焦りを抱えながら疾走する恵那を、呪力を宿した風が追い抜いた。

「ッ……!」

「逃がさぬよ。我が障害はここで打倒する。さあ、神殺しを置いて去るがいい。人の子よ」

 少年の姿になったウルスラグナの言葉に、恵那の身体が縛り付けられる。

「な、し、支配の言霊!?」

 身体が軋む。足が止まり、護堂を地面に降ろしてしまう。必死に呪力を練り上げながら、これに対抗する恵那は、全力でスサノオの神気を呼び込んだ。

「いやァ!!」

 草薙剣を振るいウルスラグナの支配を断ち切る。

「むむ、先ほどの鬼の娘といいお主といい。人の身でそこまでに至るとは大したものじゃ。神殺しに忠義立てせねば、格別の加護を授けてやっただろうに」

「アッキーを……さっき、あなたと戦った娘はどうしたの?」

「あの娘なら、寝ておるよ。何、ここまで我を相手に時間を稼げたのが奇跡じゃろう」

 護堂からの加護がほとんど枯れている状態で、あそこまで善戦したのだから晶は確かに仕事を果たしたと言えるだろう。だが、それでも尚ウルスラグナには届かなかった。

 恵那は剣を構えながら懸命に思考を働かせる。このまま、護堂と無事生きて帰る方策を思案する。

 だが、何も思いつかなかった。恵那は本能に任せて動くタイプで、交渉事はまるっきり苦手なのだ。これが、馨だったなら、上手いこと弁舌で切り抜けたかもしれないのに。今は、その力がない自分の無力さが悔しい。

「ここで、見逃してもらえないかな?」

「ならんな。我が温情は我を信奉する民にのみ与えられるもの。お主や、まして神殺しには与えられぬ」

 ウルスラグナは、一瞬にして恵那との距離をゼロにした。

 神懸かりをした恵那ですら、満足に反応できなかった。ウルスラグナは恵那の腹部を軽く小突く。恵那は息が止まり、膝をついて屈した。

「が、……あッ」

 呼吸が乱されて、集中力が削り取られた。神懸かりが解けて、恵那の身体の守りが失われる。

 それでも、護堂を守ろうとした恵那は、うつ伏せのままウルスラグナに手を伸ばす。

 その恵那の顔に、鮮血が降り注いだ。

「あ……」

 呆然と、恵那は惚けたような顔をした。

 ウルスラグナに持ち上げられた護堂。その胸から、ウルスラグナの腕が生えていた。護堂の口から、血の塊が零れ落ちる。

 護堂は最期の抵抗とばかりに自らを貫くウルスラグナの腕を両手で握ったが、それもすぐに力尽きた。

「お主の戦いぶりに我は最大の敬意を送ろう。さらばじゃ、神殺し、草薙護堂」

 ウルスラグナはそのまま、護堂の身体を放り投げた。

 護堂はそのまま、抵抗することもなく海の中に落ちた。

「うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 恵那が血を吐くような顔つきでウルスラグナに斬りかかった。

 だが、そのような殺意を振り撒く特攻が功を奏するはずがない。

 ウルスラグナは軽く恵那の腕を捻りあげると、手刀で当身を食らわせて意識を刈り取った。

 崩れ落ちた恵那を確認し、ウルスラグナはぐらついた。

 その額からは玉のような汗が噴き出している。

「ふ、ふふ。神殺しめ。本当によくやってくれたものじゃ」

 勝利はした。だが、ギリギリだった。あのとき、黄金の剣が敵を斬り裂いていなければ、敗北したのはウルスラグナのほうだったはずだ。

 まさに危機一髪。

 勝利の女神が微笑んだのは、やはり神殺しではなく神のほうだったのだ。

「我も暫し身を休める必要があるか」

 そう呟いて、ウルスラグナは『強風』に変わって飛び去ったのだった。

 

 


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