太陽が中天に差し掛かったころ、三人の神殺しは共にコロニア・アグリッピナを出た。
恐るべき大敵を前にして、三人の顔には余裕があった。
緊張感を持ちながらも、決して未来を悲観しない。戦い自体はなるようにしかならないと、達観している風でもあった。
「へえ、これが護堂の新しい権能か」
黒く燃える水墨画の馬車の荷台に乗り込んだサルバトーレは、感心したように言った。
「ホウドウだったっけ。日本の神様の権能なんだろう?」
「何で知ってるんだよ。後、アイツは神様ってわけじゃない。『まつろわぬ神』ではあったけどな」
「それは報告書を読めばね。今時、神様と戦えばすぐに世界中に情報が出回っちゃうのさ」
「それは分かってるけど、あんたは上手く誤魔化してただろ。ヌアダとジークフリートの権能以外は基本的に口外してこなかったじゃないか」
サルバトーレは四柱の神を弑逆して権能を簒奪したということは知られていたが、どのような権能を簒奪したのかという点については徹底的に情報を秘匿していた。
「護堂だって、未だに化身系の発動条件とかは知られてないだろ。似たようなものだよ」
「そんなことないだろ」
どんな権能を持っているのかすら謎であるのと化身の発動条件が知られていないのとでは雲泥の差がある。
サルバトーレの残り二つの権能のうち一つはすでに体験済みだ。もう一つは原作知識もあって何かは知っている。とりあえず、護堂に悪影響はまったくない。
「お二人とも分かり合っているんですね」
「まあ、僕と護堂は永遠の好敵手ってヤツだからね。お互いにより高みに臨むため、意識しあっているのさ」
「そうなのですか? それは、またすばらしいことです。熾烈な戦いの中ではぐくまれる友情ですか。戦いはよくありませんが、切磋琢磨という点では大切ですよね」
サルバトーレが的外れなことを言うものの、アイーシャはそれを頭から信じて仕切りに頷いている。困ったことに、このアイーシャという女性は「仲がいい」と感じられるものを全肯定してしまう。護堂がサルバトーレに斬り殺される可能性について、まったく考えようともしない。カンピオーネでありながら、恐ろしいまでに思考を争いに結び付けないのである。
「こういう人がカンピオーネになるからなぁ」
「何ですか?」
「いえ」
アイーシャはきょとんとして護堂を見るが、護堂は苦笑いを浮かべて曖昧に誤魔化す。
戦いから無縁そうな思考、性格をしているのに、カンピオーネなどという修羅の道に足を踏み入れ、百年近く生存している。それは、極めて驚異的なことだろう。
むしろ、こういう性格だからこそアイーシャは面倒事を引き寄せるのだろう。
引き寄せるというよりも、飛び込んでかき回すといったほうが近いか。
とはいえ、今回はその飛び込んでいく才能にこそ期待している。
「この馬車、アイーシャさんの思った通りに動くようにしているので、アルティオ探し、よろしくお願いします」
「はい。お任せください。無益な争いを止めるためにも、早く説得しないとダメですよね」
にこやかにアイーシャは馬車を走らせた。
全員が荷台にいて、御者はいないという不可解な馬車だがアイーシャの思念と連動して平原を駆け出した。
アイーシャが持つ幸運の加護の権能は、彼女が求める結果を最短で導き出してくれる。旅をするにはうってつけであり、もの探しにも効果覿面だ。相手が『まつろわぬ神』なのでどうかとも思うが、むしろカンピオーネと『まつろわぬ神』の因縁を考えれば、思いのほか容易に出会えるのではないかとも考えられる。
「振動もなくて、乗り心地のいい馬車ですね」
「この時代の馬車はガタガタいって酷いですからね。さすがに、権能で作ったこいつとは比較にならないですよ」
護堂の生み出した水墨画の馬車は地面に接していないかのように滑らかに進んでいる。整備されていない平原は、湿地であったり、大小様々な石が落ちていたりと馬車に乗っていれば尻を傷めるような悪路以外の何ものでもないのだが、護堂の馬車はそういった路上の問題をすべて存在しないかのように進んでいる。
おまけにその速度は、競走馬の全力疾走を軽く凌駕する。
背後に消えていく景色。
特に代わり映えのしない同じ景色なので感覚が鈍くなるが、速度そのものも高速道路を走る自動車くらいは出ているのである。
「それで、アイーシャさん。アルティオは見つかりそうですか?」
護堂は尋ねてみた。
馬車が走り出して、小一時間が経ったころだろう。サルバトーレは暇を持て余して居眠りを始めている。
「そうですね。うーんと、分かりません」
てへ、とアイーシャは舌を小さく出して笑う。
「ええ、まあそうですよね。そう簡単にはいきませんよね」
少しばかり当てが外れて残念ではある。
もともと、何の手掛かりもない捜索だ。アイーシャの権能頼みであったため、それがダメとなると代案がない。リリアナに頼んで魔女の力で探してもらうというのもあるにはあるが。
などと考えているときのことである。
北方の地平線に、黒い熊の群れが現れたのだ。
恐るべき巨体だった。以前、フランク族と戦っていた熊よりもさらに巨大で、大きいものでは二十メートルにはなるのではないか。
「当たりを引いたみたいですよ、アイーシャさん」
「そのようですね」
笑みを浮かべてアイーシャは頷いた。
全身に力が漲ってくるのは、『まつろわぬ神』が近くにいる証拠である。
『まつろわぬ神』もまた、カンピオーネを察知する能力を有する。アルティオに至っては、世界中にいるカンピオーネをつぶさに観察するほどの感知能力を持っているようだった。であれば、当然ながら三人ものカンピオーネが纏って進軍している状況を理解できないはずもない。アイーシャの幸運が、「運よく」アルティオの感知網をすり抜けて彼女の間近にまで至れたのか、それともアルティオ側が逃げも隠れもしないと意気込んでいるのかは分からないが、目と鼻の先に決着を付けるべき相手がいるのは敵も味方も正しく理解しているところであった。
「うーん、よく寝た」
サルバトーレがもぞもぞと動き出した。
「おい、緊張感がないな。いるぞ、アルティオが」
「分かってるって。でもさ、いつも通りでいいだろう。僕は毎回こんな感じさ」
余裕を崩すこともなくサルバトーレは言い切る。適度に肩の力を抜いた彼は、しかしすでに抜刀の体制を整えているように感じる。両手は空で、柄に手を添えているわけでもないが、事あれば一秒とかからずに剣を抜けるだろう。
「そうだ、護堂。一つ相談があるんだけど」
「こんなときになんだよ」
「君、剣をいくらでも出せるんだろ。一本、僕に使わせてくれないかな?」
サルバトーレは棒切れでも名剣の如く使いこなせるのが一流、などと言うスタンスの剣士ではなかったか。
彼が身に帯びている剣も、斬れはするものの、名剣とは言い難いただの剣である。呪術的な加工が施されているというわけでもない。それは、彼の権能が如何なるものも両断する切断能力を付与するものだからであり剣の性質の如何を問わず必殺魔剣となる。よって、剣にわざわざ加工を施す必要もないのである。一方で、護堂の権能で生み出される刀剣類はすべて神具としての性質を有し、人間の手では一生かかっても作り出すことはできない最高峰の呪術アイテムである。同じ剣であっても護堂とサルバトーレでは「剣」に対する用途と目的意識が決定的に異なっている。
「あまり意味はないと思うけど」
意味があるとすれば、攻撃ではなく防御の面だろう。少なくとも神具である護堂の剣はサルバトーレの剣ほど脆くはない。武器を破壊されるという可能性は抑えられる。
「ほらよ」
護堂は手早くサルバトーレの剣と同じ形状の剣を作り出し、投げ渡した。膨大な呪力を内包した神剣は、サルバトーレの既製品を棒切れのように思わせるだけの完成度と力を持っている。美しさはないが実用的な美は兼ね備えている。
「うんうん、これなら百人力だ」
「何がしたいんだよ」
「二つの権能を合わせたら強そうだろ?」
「漫画みたいに上手くいくかっての」
そう言いながら、護堂の能力には複数の権能を融合させて新しい能力を発現する天叢雲剣があるので強くも言えない。
実際に、これでサルバトーレが強くなるのならば儲けモノである。こちらの負担は大きく減るのだから。
馬車を止めて降りてから、護堂は権能を解除した。霞にでもなったかのように、強烈な存在感を醸し出していた馬車は姿を消してしまう。
さて、と護堂は顔を上げる。
二百メートルほど先に、大地の女神が立っている。
「アルティオか」
サルバトーレに斬られたという傷は、まだ残っている。再生能力を阻害するサルバトーレの魔剣の力もあるが、あの傷を治せないくらいに女神の力が弱まっているという証だろう。
「息子」の名代に命を分け与えた影響が出ているに違いない。
それでも、大地の女神の力は本物だ。
従えるは百を越える大熊で、唸り声の大合唱は並の戦士の戦意をそぎ落とすほど恐ろしい。
その大熊が、アルティオの合図もなしに襲い掛かってくる。先手必勝を期してのことか、涎を撒き散らし、屈強な肉体と爪と牙で護堂たちを食い物にしようとしている。
そのような中で進み出たのはアイーシャだった。
「お願いです、落ち着いてください!」
その声は草原を吹き抜ける風に流れて消える程度でしかなかったが、強烈な魅惑の呪力が篭っていた。
このお願いがアルティオの眷属に効いた。
人間を相手にするほどの効能は得られないが、戦いに狂っていた大熊が沈静化し、その歩みを止めてしまう。
百を越える猛獣の群れを一瞬にして手なずけるという神技も、権能ならではの不条理であった。
「ほう、我が眷属を言葉一つで……これは、妾に対する挑戦と受け取るべきよな」
「ち、違います。わたくしは、あなたに挑戦しにきたわけではありません」
ニヤリと笑うアルティオに慌ててアイーシャは言った。
「では、何ゆえにここに来た。後ろの神殺しは武具を手に携えておる。我が息子とその配下ともども決着を付けに来たということであろう?」
「そうではありません! わたくしはあなたと友だちになりに来たのです! 不毛な戦いは止めにしましょう。戦ったとしても、何も残らないではありませんか! 徒に血を流すことはありません。どうか、言葉を交わし、友好を結びましょう」
アイーシャはアルティオに向けてさらに進み出て、真摯に言葉を投げかける。護堂やサルバトーレと異なり、彼女は本当にアルティオと戦う意思は持っていなかったのである。
「ふむ、なるほど。神殺しでありながら、妾との交友を望むか。珍しいことではある」
「あ、はい。そうです。戦うなんて野蛮なことはなしにしましょう。未来志向で、手を取り合って進むこともできるはずです」
「手を取り合う、か。だがな、神殺し。無害を装い妾の懐に入り込まんとするは見事ではあるが、聊か逸り過ぎたな。妾を篭絡することはできぬよ。その魅了の毒は貴様の権能であろう。大した役者だ。誉めてやろう」
アイーシャの笑顔や声には魅了の力が宿る。それはアルティオにも届いていたのだろう。だが、彼女は曲がりなりにも『まつろわぬ神』の一柱だ。呪力への耐性は眷属の大熊とは比較にならず、アイーシャに魅了されることもない。
そして、彼女からすればアイーシャはにこにこと笑って無害なふりをしつつ、媚薬を嗅がそうとした不埒者でしかない。
「あの、いえ、そんなつもりではなくてですね」
「いや、責めているわけではない。戦に於いて詐術も重要……正面から戦うことしか知らぬ神殺しにしては珍しいと感心するくらいじゃ。とはいえ、狩りの神にして軍神たる妾は正面から返礼するしかないな。芸はないが、これも戦と思うがいい」
などと言って、アルティオは呪力を迸らせた。
アイーシャの言葉にアルティオは力で応えるつもりなのだ。
「あの、そうではなくて、違います! 決してそのようなつもりでは……!」
アルティオの呪力は瞬く間に沈静化していた大熊たちを奮起させた。アイーシャの呪縛から解き放たれた大熊は、獰猛に唸り、猛り、襲い掛かってくる。
「交渉決裂かい? なら、ここから先は剣の出番だね」
「アイーシャさんは下がってください!」
大人しく静観していたサルバトーレは護堂の神剣を振りかざして駆け出した。大熊には目もくれず、アイーシャを目掛けて疾駆する。
護堂はサルバトーレを追いかけることはせず、向かってくる大熊に無数の神剣を乱打した。
降り注ぐ剣の数々に近接戦しかできず、肉体一つで戦いに出る大熊はなす術なく貫かれて倒れていく。打ちのめされた大熊を乗り越えて次の大熊が進み出る。
戦場に描き出された地獄絵図にアイーシャは項垂れて、
「麗しの乙女よ、恐るべき秘教の門を開け給え」
咄嗟に聖句を唱えていた。
それはペルセポネの春の権能を反転させる禁呪であった。
今、護堂の剣によって大熊の突進は押さえられ、サルバトーレの疾走によってアルティオの視線はアイーシャから外れた。
直感的に、これはまたとない好機であると判断してしまったアイーシャは、ついつい呪力を放出する。
速やかに反転を終えたペルセポネの権能は豊穣を約束する春の力から冷酷で凄惨な冬の猛威を再現する。吹き込む風は肌を刺すように冷たく氷、大地は大きくひび割れて奈落に続く大穴を作り出す。
「うおあ!」
危うく巻き込まれそうになったサルバトーレは飛び退いて地割れから逃れた。護堂は幸いなことに効果圏外だったらしく巻き込まれる心配をする必要はなかったが、その分だけ地獄絵図を目の当たりにすることとなった。
割れた大地に吸い込まれるようにして大熊の群れが引きずり込まれていく。
落下とはまた違う。指向性のある重力のようなものが大熊を捕らえて奈落の底に引きずり込んでいるのである。
「これが、ペルセポネの権能だって……」
もはや唖然とするほかない。
一撃必殺どころの話ではなかった。直撃を食らえば、護堂もただでは済まないだろう。これほど大規模な攻撃を、戦意の欠片も見せずに唐突に発動するのだからえげつないと評されるのも分かる。
「口では友好条約を結ぼって言いながら核をぶち込むようなもんだぞ、これ」
さらにはアイーシャ自身は生存能力が非常に高いというのが厄介だった。
これを生き延びて反撃しようにも、アイーシャを補足するのが難しい。
冬の地割れはさらに大きさを増していき、ついにはアルティオを飲み込まんとする。
「冥府神の力か。小癪なものを」
アイーシャの権能に対して、アルティオは呪力を振り絞って耐えた。大熊のように簡単に飲まれることがなかったのは、彼女もまた冥府神の系統に属する女神だからだろう。属性が同じために、効果が薄いのだ。やはり、大地の女神を相手にするのならば、《鋼》に属する権能が効果的だ。
「今のうちに!」
護堂は身動きを制限されたアルティオに向けて、言霊の剣を投げかける。
「女神アルティオは俺たちがスイスの名前で知る地域――――ヘルベティアで暮らしていたケルト系民族ヘルヴェティイ族が崇めた大地の女神だ。狩猟の神であり、冥府の女王であるアルティオは、ギリシャのアルテミスと深く繋がる神格で、その名は熊を意味する。ケルト人にとって熊は戦士の代名詞だった。アルティオが軍神となるのは、熊を聖獣とする女神だからだ」
黄金に煌く星の刃が、アルティオに殺到する。
神々の来歴を解き明かし、その神格を斬り裂く神殺しの言霊はあらゆる神々に対して猛毒となる。無論、弱体化したアルティオならば、一撃で葬り去ることも不可能ではない。
落ちる流星のように大気の壁に軌跡を描き、アルティオ目掛けて飛んでいく言霊の刃は女神が生み出した石と土の防壁をバターのように斬り裂いていく。
「な……!」
目を丸くして言葉に詰まるアルティオは回避する間もなく黄金の刃の餌食となる――――その未来を覆したのは、颯爽と飛来した青と白銀の刃であった。
無数と評するに値する黄金を、白銀に輝く剣の一撃が蹴散らした。地響きすら伴い、形勢をたったの一振りで覆すかのように強大な力。
「最後の王か」
護堂は唇を舐める。
先入観から臆した先日とは違う。
「サルバトーレ、出たぞ!」
「よし来た!」
嬉々としてサルバトーレが最強の《鋼》に向かっていく。その進軍を留まらせたのは鉄の竜巻だった。
初めて見る怪異だった。
鉄の臭いをばら撒く竜巻はサルバトーレの前に躍り出るや、内部から多種多様な剣戟を放ってくる。風を纏った軍神が、刀剣の高速回転で攻撃していると護堂が理解するまでの僅かな時間でサルバトーレと竜巻は二〇合も刃を交わしていた。
サルバトーレの剣は一振り、対する軍神の剣は渦巻く旋風によって巻き上げられた土埃で見えないが複数本あるように見える。あるいは、そう錯覚させるほどの高速連撃か。いずれにしてもその驚異的な技量に剣一振りで食らいつくサルバトーレの技の冴えはいつか戦ったときよりも鋭くなっているようにも思えた。
護堂の神剣をさらにヌアダの権能で強化したサルバトーレは白銀に輝く腕を振るう。斬撃は軍神の剣を斬り落とし、さらに竜巻を半ばから断ち切った。この世に斬れないものはないと豪語するサルバトーレの絶大な殺傷力の具現である。
と、斬り裂かれた竜巻から飛び出てきたのは人型の『まつろわぬ神』だった。全身を包帯で覆い隠し、面を被るという徹底振りである。最強の《鋼》はその名と正体を秘匿しているというが、主も主ならば部下も部下だ。
飛び出た風の軍神は、空中で反転しながらサルバトーレを斬り付ける。甲高い金属音が鳴って、軍神の剣が弾かれた。
「ふ――――」
軽く吐息を漏らしたサルバトーレは無造作な刺突を放った。最小の動きで最大の効果を発揮するよう、心臓を目掛けて突き出したのである。
その剣を軍神は手の平で横から叩いて逸らす。
火花と鮮血が咲き乱れる。
サルバトーレの刺突は軍神の脇腹を掠めたものの、突き刺さるには至らなかった。それでも、あらゆるものを斬り裂く権能が発現しているために、刺し貫かれなければならないはずだったが、軍神の肉体はサルバトーレと同じく《鋼》の守りを持っているらしい。結果として、浅く傷を付けるだけに終わった。
「へえ、僕と同じタイプの権能か。でも――――」
ひゅんひゅんとサルバトーレは剣を振るう。無謬の技を繰り出した剣士に風の軍神はステップを踏んで回避に専念する。
同格の防御力を持っていても、攻撃性能ではサルバトーレに軍配が上がるのか。殴り合いになれば、必殺の一撃を持つサルバトーレが優位に立てるようだ。
「と、眺めてる場合じゃないか」
サルバトーレと軍神の戦いの最中に、神速で大地を疾走する白銀の戦士がいる。
『弾け』
護堂はガブリエルの言霊を迫る剣士に叩き付ける。ほんの一瞬だけ、剣士の動きが緩んだ隙を見て刀剣を三〇挺も生み出して叩き付ける。四方八方から軍神を包囲して、串刺しにしようというのである。
『縮』
トン、と護堂はアイーシャの襟元を掴んで背後にジャンプした。空間を圧縮して、一歩で百メートルを飛び退いた。一瞬の後には、目の前に巨大なクレーターができているではないか。
銀色の閃光は音もなく大地を抉って見せた。ランスロットが振るった光と同等かそれ以上の力である。
「やっぱり一撃が重過ぎる相手ってのは、面倒だな」
護堂の剣を撃ち落すだけでなく、護堂とアイーシャを丸ごと討ち取ろうとしたのである。
「アイーシャさん。大丈夫ですか?」
「は、はい、何とか……」
アイーシャは一瞬にして景色が飛んでしまったので困惑しているらしい。
「俺はアイツをやりますので、下がっていてください」
護堂はそう言って、右手に呪力を集める。
「天叢雲剣、頼むぞ!」
『応ッ』
強大な《鋼》が敵となったことで、天叢雲剣も本格的にやる気になったようだ。
「千の竜と千の蛇よ。今こそ集まり、剣となれ!」
晶からの呪力補助もあり、解き放たれた大質量の重力星は恐ろしく巨大で空を覆わんばかりである。強すぎる重力が、光を捻じ曲げて空に浮かぶ雲の象すらも歪んで見える。
超重力星はそのまま最強の《鋼》に向かって落ちて行く。大地に近付くごとに重力は強くなり、アイーシャが生み出した地割れはさらに大きく深くなり、崩れた岩盤が捲れて吸い上げられている。
それは、あたかも世界の終わりにも似た光景だった。
護堂はサルバトーレとアイーシャを重力の効果圏外に設定するように操作しつつ、アルティオと最強の《鋼》を纏めて薙ぎ払うように重力星を叩き落す。
「つ、く……大地の精よ、妾と息子をこの地に引き止めよ!」
アルティオが大地の加護を祈る。重力に対抗して、地に足をつけるための言霊だろう。さらに空から落ちてくる大質量に対しては最強の《鋼》が対応する。煌めく剣の切先から放たれる白銀の稲妻が、黒き重力星の失墜を圧し止める。
強大なエネルギーのぶつかり合いが、世界を軋ませる音が響き渡る。
力と力が空で衝突する。その直下では、サルバトーレと風の軍神が技と技を競っていた。サルバトーレは重力の標的外であるが、風の軍神はそうではない。通常ならば恐るべき重力の影響を受けて大なり小なり動きが鈍るものであるが、彼の動きにはその影響はまったく感じられなかった。重力の枷に左右されない変幻自在の風の神だからこその芸当であろう。
『王よ、来るぞ』
「ああ、上は任せるぞ」
重力星の制御を天叢雲剣に任せて、護堂は右手に剣、左手に楯を呼び出した。
最強の《鋼》は白銀の光を維持したままで神速に突入し、護堂の眼前に迫ってくる。ランスロットですら必殺の武具としていた聖なる剣の光を無造作に放つのみならず、放ちながら別の行動が取れるというのはそれだけ彼の能力が高いことを示している。
だが、一つ護堂は安心した。
どうやら最強の《鋼》は白銀の光を同時に複数発使うことはできないらしい。できているのならば、今頃この辺り一帯は灼熱と光に埋め尽くされている。
が、それは護堂も似たようなもので、重力星を維持している以上、大威力の攻撃は使えない。火雷神も大雷神も使用は控えなければ、重力星の威力が弱まってしまう。
ならば、敵と同じく近接戦に打って出るしかない。
「アテナ、頼むぞ」
『ついに彼奴とめぐり合ったか。あなたが、この道を行くのならば、最後に立ちはだかるのはあの軍神で間違いないとは分かっていたがな』
アテナから授かった力を使う。女神の英雄を導く力で勝機を掴み取るのである。迫る軍神の刃を、護堂は楯で受け止める。さらに剣で軍神の首を狙って袈裟切りに斬り付ける。楯を目隠しに使い、影から相手の虚を突いたのだが、さすがに簡単に受けてはくれない。最強の《鋼》は半歩下がって護堂の斬撃を避けた後、返す刀で上段から剣を振り下ろしてくる。
「く……!」
歯を食い縛って楯で受け止める。バチバチと白銀に染まった火花が接触した箇所から飛び散っていて、刀身そのものが非常に熱を帯びているのが分かる。
だが、気圧されることもない。気持ちの問題は乗り越えた。アテナの導きがある今、接近戦であっても後れは取るまい。
『知ってのとおり、彼奴は万全ではない。あの《鋼》は女神の命と大地の精気を糧に力を得る。アルティオは自らの命のすべてを捧げるほどの覚悟はなかったと見えるな。もっとも、命の大半を失った状態のあやつでは《鋼》の刃を完全に鍛えることなどできはしなかっただろうがな』
視界の隅でアイーシャとアルティオが睨み合っている。大熊の支配権はアルティオにほとんど奪われた状態ではあるが、アイーシャは別に巨大な鎧の怪物を召喚して戦争状態に突入してしまっていた。自らが倒れればフランク族に危害が及ぶと、事ここに至って戦う覚悟を決めたのだろうか。
少しばかり、そんなことを考えていたら目の前で再び火花が散った。
白銀の剣が護堂の楯の表面を削ったのである。
アテナの軍神としての力を護堂の身体で再現する。楯はアテナの象徴であり、楯と剣による戦いこそが女神アテナの真骨頂。最も得意な戦い方で、最強の《鋼》と鎬を削る。
『古の地母神が批准し、神殺しを殲滅する……盟約の大法を彼奴はまだ使えぬはずだ。アルティオが余計な手出しをする前に畳み掛けるべきだ。攻め立てよ』
「盟約の大法か。あの白銀の光以外にも奥の手があるのかよ……!」
半ばショックを受けながら、護堂は前に踏み出した。最強の《鋼》の動きに合わせて、彼とすれ違うようにその脇をすり抜けつつ、回転を加えて斬り付ける。
はらり、と最強の《鋼》の前髪が風に舞った。
「まず一発入ったな」
剣の調子を確かめるように柄を握り直し、楯と共に構え直す。
「見事な腕前だ、少年。しかし、解せない。君とは昨日戦ったばかりだが、これほどの武術に精通しているようには見えなかった。よければ、種を教えて欲しいところなのだが」
「お前、喋れたのかよ」
「口数は多いほうではないから、そのように誤解されることもあるだろう」
涼やかな声色だった。
精悍な顔立ちの高貴な身分の青年といった印象の軍神だった。それまで護堂が出会ってきた軍神は多少なりとも戦いに酔っているところがあって、荒々しさが言動の端々に滲み出ていた。所謂まつろわぬ性というものに侵されて、神話とは異なる荒ぶる神となっていたのである。ところが、この最強の《鋼》にはそれを感じない。《鋼》でありながらも戦いを倦み、嫌う。己の運命に疲れきった男の顔だった。
「それで、僕の問いには答えてもらえるのだろうか?」
「あんたの名前を教えてもらえるのなら、考えてやってもいいぞ」
「それはできない相談だ。すまないが、僕の名は軽々に口にしてよいものではない、とされている」
その言い分は、どこか自分の運命を他者に委ねているような響きを感じさせた。名前のことも、誰かに命じられているとでもいうようだった。
「いろんな神様から応援されて、神殺しの殲滅活動か。あんたも大変だな。いい加減、疲れたんじゃないのか?」
「君たち神殺しの豪傑は、いつの世も何かしらの影響を世界に与えてしまう。天上の神々としては、捨て置けないのだろう。僕に与えられた使命も、世界の命運を左右するものだと思っている」
「別にあんたでなくても『まつろわぬ神』ってのは皆強いから、ほかのヤツに任せてもいいと思うけどな」
事実、神殺しよりも『まつろわぬ神』のほうが格上だ。
神殺しが生き残れるのは『まつろわぬ神』よりも強いということではない。単に、その時その時の運がいいというだけである。
「君の言も一理ある。中々難しいが、今後の参考にはさせてもらおう」
そう言いながら、最強の《鋼》は剣を構えた。
中段の構えである。
アテナの剣術を警戒して、攻撃にも守りにも使える臨機応変の構えを取ったのだ。
一方の護堂は楯を全面に押し出しつつも攻勢を仕掛けた。
ガブリエルの権能による空間圧縮で軍神との距離を零にして、楯を使った高速体当たりを敢行する。待ち受ける軍神は剣を水平にして楯の中心を突く。
激しい金属音。
ここで、目を剥いたのは軍神のほうであった。
白銀の剣が予想以上に容易く楯を貫いたからである。
『固定』
小さく命じる護堂に従って、楯がその場に縫い止められた。楯を置き去りにして、護堂は生身を曝す。剣の柄を両手で握り締めて、軍神に斬りかかる。
「なるほど、そうくるか!」
軍神は剣を引こうにも固定されて動かず、かといって手を離せば最大の武器を失うことになる。究極の選択の中で軍神は咄嗟に刀身から白銀の光を解き放った。
極大の光を回避することができたのは、慣れ以外にはないだろう。この状況では、彼がこう出ると予想して、逃走の準備もしていたからこそ蒸発させられることもなかった。
『あの光を使った以上、空の光は弱まる。この機を逃すな』
空の打ち合いで天叢雲剣が発する黒の光が優勢になる。白銀の光が押し潰されるようにして、徐々に落下しているのである。
「分かってるよ」
護堂は唇を舐めて、剣を構えなおした。
重力星の力も大分落ち着いてきたと見える。白き太陽を喰らい付くし、地上に落とせば護堂のほうに勝機が見えてくる。
とはいえ、地上の軍神もどうにかしなければならないことに変わりはない。
アテナの力が効果を失うまでの間で、何とか決着を付ける。
護堂は天叢雲剣を持って、軍神に向き合った。
どちらともなく、足を踏み出す。神速の権能を駆使する軍神を前にすれば、彼我の距離など何の意味も持たない。護堂はガブリエルの直感とアテナの技量の限りを尽くして最強の《鋼》の動きを見切り、斬り返す。漆黒の斬撃は、空の重力星から零れ落ちた程度の出力しか持たないものの、それでも威力としては十二分である。
黒と白の剣が、地上でも火花を散らした。
両者共に空に呪力を使っているために十全に威力を発揮できていない。それが分かっているからこその近接戦だ。恐らく、護堂も最強の《鋼》も条件は同じに違いない。
ならば、斬り合いにこそ活路を見出すべきだろう。
遠距離での射撃では、どうあがいても勝ち目はない。それはランスロットとの戦いで十分に理解しているところであり、本調子ではない状態で重力星と拮抗する光を放てるという時点で出力に差がありすぎる。
「我は最強にして、全ての勝利を摑む者なり。全ての敵と、全ての敵意を挫く者なり」
斬り合いの中で、ウルスラグナの聖句を口ずさむ。
あらゆる障碍を打ち砕き、勝利をもたらす軍神の権能。
ウルスラグナの言霊の力はまたの名を戦士の化身とも呼ばれ、その力は眼前の敵の詳細な観察眼を護堂に備えさせてくれる。ここにアテナの力が加わることで、護堂は瞬間的に超一流の戦士として戦いに没頭できるようになる。
刃と刃が削り合う。
共に《鋼》を謳う鋭い神剣である。どちらに軍配が上がるということもなく、剣戟の音を響かせ続ける。
その最中、護堂は心の奥底で仲間に思う。
――――頼むぞ、晶。
そして、護堂の期待を受けて戦場に足を伸ばしたのは、護堂の式神である高橋晶だった。
空には重力の嵐と拮抗を維持する白銀の太陽があり、地上は神殺しと神々の総力戦という地獄絵図だ。どこからともなく飛んでくる流れ弾に当たるだけで、常人は愚か神獣ですら蒸発してしまうのではないだろうか。
穿たれた大穴は十を越え、地形もまっさらな平原はいつの間にか凹凸の目立つ地形に変わってしまっている。
「まったく、傍迷惑な人たちですね」
と、晶は呟きながら可能な限り気配を消して戦場に近付いていく。
彼女の手には大きな槍が握られている。
「我は最強にして、全ての勝利を摑む者なり。全ての敵と、全ての敵意を挫く者なり」
狙うはアイーシャと獣を挟んで対峙する大地の女神。
護堂の命に従って、横槍を入れさせてもらう。
遊撃こそが晶の役目である。
ウルスラグナの聖句を唱え、黄金の呪力を槍にこめた晶は必殺の呪文と共に神槍を投擲する。
「南無八幡大菩薩!」
轟と大気が呻きを上げる。
《鋼》の神槍が纏うのは、黒々とした式神の炎と黄金に輝く言霊の剣だ。
その一投は『まつろわぬ神』にすら届く晶の最大威力攻撃であり、護堂が晶に託した切り札でもあった。
自分に向かってくる強烈な神槍の気配をアルティオは察して頬を引き攣らせる。まさか、神殺しがもう一人いるという発想はなく、気配もなかった。
晶は護堂の式神ではあるが、そうと分かって探さなければ感じることは難しいだろう。
なぜならば、アルティオの権能を封殺するウルスラグナの言霊の力をその身に纏ってたからだ。
晶だけが有する護堂の権能の一部を弱体化させた状態で再現する力によって、アルティオの探知能力を無効化していたのである。
虚を突かれたアルティオはそれでも大地の女神であり軍神である。容易く敗れることはない。
「大地の精よ。妾の前に壁となれ!」
避けるには遅いが自らの手足にも等しい大地を操る程度は造作もない。
咄嗟に生み出した壁が三重の守りとなって、アルティオの前に出現する。が、これは悪手であった。ウルスラグナの言霊を纏った神槍は、アルティオの守りを軽々と食いつぶして女神の腹部を穿つ。胸を貫くはずの神槍が致命傷にならなかったのは、アルティオが寸前で回避しようと身を捻ったからである。
「ぐ、……が!」
それでも晶の神槍は女神にとっては猛毒であった。
アルティオ殺しの権能を纏う《鋼》の神槍は、その役目を終えて消えていく。残された傷口からは血と共に黄金の呪力が零れ落ちていくではないか。
「おのれ、神殺しの縁者か……! 妾の不意を突くとは!」
してやられたとばかりに獰猛に牙を剥くアルティオは、直後目の色を変えた。
僅かに映りこむのは、恐怖にも似た戸惑いだった。
晶がうまくアルティオの身体に傷をつけたことで、最後の突破口を見出した。
護堂は内心でほくそ笑み、そして天叢雲剣に命じた。
「アルティオの呪力を使え、天叢雲剣! アテナは道を作ってくれ」
『応とも。《蛇》をまつろわすのは《鋼》の宿命。刃鋭き軍神よ、貴様の力も借り受けるぞ!』
『あまり好ましいとは思わんが……勝利のために手を尽くすのは当然か。アルティオよ、運がなかったと思うがいい』
天叢雲剣の刀身が白銀に光る。
最強の《鋼》が目を見開くのも無理はない。その輝きは、まさしく救世の神刀が有するべき魔王殲滅の光なのだから。
天叢雲剣は最強の《鋼》の剣を複製し、己が刀身に再現する。さらに、その能力の一部を利用して、アルティオの傷口から呪力を際限なく吸い上げる。
これは、聖杯の機能の模倣でもある。
「あが、な、……貴様、神殺し! 妾の呪力を、ぐ、む、おのれ、ぬ、ああああああああああああ!」
離れたところでアルティオが悶絶し、その身体を黄金の光に変化させる。
もともと弱りきっていた身体を無理矢理動かしていたのだ。そこに救世の神刀と天叢雲剣の《蛇》を食らい糧にする権能を受ければ当然持たない。
「我が母を食ったか、恐ろしいことをする!」
「あんたに言われたくはないな!」
最強の《鋼》は地母神の命を奪うことで、その力を最大にまで引き上げる。大地から呪力を奪う能力に於いてはあらゆる《鋼》を凌駕しているともいう。今回は聖杯に呪力を奪い尽くされたアテナの残した智慧と導きの権能の補助があったからこそ優先的に護堂がアルティオの力を奪い尽くせただけで、本来ならば、アルティオの呪力は尽くが彼の剣に吸い尽くされていたはずだ。
地母神の呪力を食らったことで、能力を上昇させた天叢雲剣は白銀に輝く刀身を再び漆黒に染め直す。莫大なる重力の刃は最大出力となり、切先に一点に集中させる。
「だらああああああああああああ!!」
魔王殲滅の勇者は堂々と受けて立つ。
白熱の剣を突き出して、護堂を斬り捨てようとする。それを、護堂は紙一重で回避する。直感と智慧の合わせ技だ。手に入れた莫大な呪力を燃料に、黒の神剣で最強の《鋼》を斬り付けた。切先に集められた重力の波動が最強の《鋼》の肉をそぎ落とし、両断する。
上半身の実に七割を失った最強の《鋼》はぐらりと倒れて地に伏した。
「なる、ほど。今回は、君の勝利のようだ」
「まだ、喋れるのかよ」
空の光は消えていた。
さすがに、身体の大半を失って実体を維持できるわけもない。
「僕ももう限界だ。やはり仮初の降臨では、君を満足させるに足る戦いはできそうにない。すまないな」
「いや、満足させてくれる必要はないし、あんたとはもう戦いたくない」
「かもしれない。が、君が神殺しとして生き続ける限りはどこかで出会うこともあるだろう。生憎と僕は、神剣さえ無事ならば蘇ることができてしまうし、然るべき手順を踏めば神剣の状態にも左右されない」
「反則だな」
通常の『まつろわぬ神』も不死といえば不死である。彼らは世界に紛れ込んではいても本質的には神話の世界の住人である。この世での命を終えれば、再び神話の世界に戻っていく。しかし、この最強の《鋼》はほかの神々とは決定的に異なる。この世で死を迎えることがなく、蘇った場合も過去の記憶を引き継いでいる真に不滅の勇者なのである。
「なんで、そんなことを俺に教えてくれるんだ?」
「君は僕に勝利した。勝者には相応の報いが必要だろう。僕はほかの神々とは異なり、君に何の恩恵も与えられないから、せめてこの程度の情報くらいはと思ったのだ」
律儀に答えてから、最強の《鋼》の姿が消えていく。
薄らと陽炎のように揺らめいた後で、その存在は大気に溶けてきた。残されたのは一振りの神剣の骸だけだった。
今回は辛うじて勝利を拾った護堂だったが、この状態でも不完全だったとなると全力の場合はどうなるのだろうか。
空恐ろしい思いに駆られる。
主を亡くしたためか、風の軍神も戦場から去っていく。
神速となった彼にはサルバトーレと雖も追いつけない。ほどほどに打ち合いを楽しんだようだ。
二十一世紀から迷い込んだ三人の魔王はやっと揃い、目下の敵もいなくなった。後は待ちに待った帰還の途につくだけだ。
やっと終わるよ古代編