ただ、思いついた事だけを書き殴る。
まあ、ちょっとした黒歴史です。

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本当にただの思い付きですので、それでも読んでみようと思って下さった方に
心からの感謝を。


思いつきの短編集

転生

 

 

 

ソワソワとしてしまう今日という日。

ふと思い返せば、あれからどれほどの時間が経っただろう。

切欠は、所謂テンプレ転生というやつだ…

 

ありふれたオタクが、ありふれた車事故にあい。

ありふれた死ぬべきではない定めにより、ありふれた転生をした。

もはや、これを読む皆にとっていまさら語る意味もない始まりだろう。

だが、今でも過去の自分の行動について褒めてやりたくて仕方がない。

ありふれていたとしても、それが無ければ

今の喜びを噛み締めることができないのだから…

 

 

 

転生に伴い、叶える願いは3つ。

そして願ったものはあまりに異質だった。

 

一つ、女に成りたい。

二つ、破壊兵器にならない普通の料理が出来る才能が欲しい。

三つ、今、ここで二つの願いを叶え今作りたい物の材料と器具、本が欲しい。

 

まったくもって意味が分からない。

一つ目と二つ目は分かる。どんな世界に行くかは言っていないが

あって損するものでもない。叶えようではないか。

だけれど三つ目が分からない。とはいえ叶えない意味もない。

ちょっとした戯れと、ジョークのつもりで願いを全て叶えた。

 

そして、これこそが今日の始まりである。

 

 

 

平均身長のデブオタクが願いを叶えたことで変化する。

…と言っても、別に目を引くような容姿ではない。

野暮ったくも、輝かしくも無い普通の黒髪ストレート

スタイルについても、あえて語るほどのものでもなく

平凡そのものである。

 

強いて言うなら、漫画に描いたような厚手のメガネが

少しばかり自己主張が強いくらいだろう。

 

 

さて、彼…もとい彼女は何をするつもりなのか。

そんな興味本位の自分の視線をものともせずに、

彼女は自分の容姿を目視でおおよそ確認すると

用意した本を読みながら作業を始めた。

 

初対面の彼からは想像できないほど真剣に、

本を読み。手順を確認し、順序を踏んで作業をする。

その表情は、本気でこそあれ肩肘張ったそれではなく

ありのままの自分の全力で物事に当たる姿勢を示していた。

 

テンプレに従うなら、おおよそこの状況には似つかわしくない。

普通、願いを叶えた後は世界を渡りそこで何かを成すのが流れ。

なのに彼女は、世界を渡る前に今、ここで、作業に勤しんでいる。

 

ますますもって意味が分からない。

 

 

 

一時間か二時間か、慣れぬ作業に戸惑い、失敗しながら

彼女の手が止まるまでにそれほどの時間が経った。

手に持っている物の全体を目視で確認、納得いった様に

一度頷くと、それを持ってこちらに近付いて来る。

 

「えっと、お待たせしてすみませんでした。」

 

ぺこりとお辞儀、十人並み以下の容姿とはいえ

しっかりとした敬意を持った姿勢に少しばかり嬉しくなる。

 

「ああ、いや構わん。元々願いを叶えただけだ。大して時間も経っていない。」

 

さて、彼…もとい彼女は何がしたかったのか。俄然興味が湧いてくる。

 

「それで、君の願いはこれで叶えた事になるのかね?」

 

好奇心からの質問。彼女はそれに頷きを返す。

 

「はい、やりたいことはできました。」

 

晴れ晴れとした笑顔。元がオタクの男とは誰も思うまい。

綺麗な笑顔…その顔にではなくその表情に込められた

屈託の無い素直な感情に胸の奥が熱くなる。

 

「…それでは、もう異世界に送っても良いのかな?」

 

確信を込めた確認。何をやっていたのかは気になるが

それは送る準備をしてからでも改めて聞けば良い。

そう思い、先に問うた。

 

しかし、返ってきた答えはあまりにも意外だった。

 

「その前にこれ、受け取ってください。」

 

またもやのお辞儀と共に、先ほどまで作っていたであろう物が

前に出される。そのことに、少しばかり面食らった。

 

「いや、しかし…それは君が作っていた物ではないのかね?」

 

そう、それは彼女が自分の為に作った物のはずであり

それが何故、自分に渡されるのかが分からない。

意味が分からず戸惑う自分に彼女は清清しく微笑んだ。

 

「貰ってください。元々そのつもりで作りましたから。」

 

分からない、理解できない、読めない、考えられない。

初めての感情に恐怖さえ覚え始めた自分を真っ直ぐ見つめながら

彼女はその胸の内を訥々と語った。

 

 

 

彼は騒ぐのが好きだった。でも友達付き合いが苦手だった。

彼はイベントが好きだった。しかし参加できる相手がいなかった。

彼は恋に憧れていた。だが異性との機会に恵まれなかった。

 

どこにでもある話で、これもまたありふれた話。

 

だから、今までやってみたかったことを

今日と言う機会を経たことで、やってみることにした。

それがこの答えなのだと…

そう彼女は語る。

 

「死んだのに、もう一度の命をくれた貴方に。」

 

一歩前に出る。

 

「私みたいな、小さな存在を気にかけてくれた貴方に。」

 

物が私の目の前に差し出される。

 

「男のときにできなかった。ありがとうの感謝を込めて…」

 

プレゼントをしてみたくて、喜んで貰いたかったのだと。

 

 

 

予想外、斜め上どころか直情に飛んで行かれた様な事態に

頭の中は空白のまま、体だけは慣れた様に異世界に飛ぶ準備をする。

思考は戻って来ないまま、彼女からのプレゼントだけは

離さぬとばかりに両手に持って、ただ呆然と作業に勤しむ。

 

そして、彼女はバイバイと右手を小さく左右に振り。

異界へと旅立って行った。

 

 

 

改めて、心落ち着き彼女のプレゼントを開封してみる。

出てきたのは、チョコレートと一枚のカード。

 

【仕事大変かもしれませんけど、身体を大事にしてくださいね。】

 

はじめて食べたチョコレートの味はとても甘く。

本当に久しぶりに貰った感謝の言葉は、例え様もなく甘美なものだった。

そう、だから自分は人間を嫌いになれなかったのだと。

いつの間にか、テンプレと言う作業の一部になっていたはずの

根底にあった動機を思い出し、改めて自分…【神】は人間のことが好きになった。

 

 

 

 

 

あれ以来、二月十四日の日には彼女の世界と自分のいる狭間を繋げるようにした。

彼女は、あちらの世界に行ってしまった後も…ずっとずっと、自分への

感謝を忘れることなく持ち続けてくれていた。

 

年に一度の、彼女の思いが貰える日。

年に一度の、好きな人間からのプレゼント。

 

ソワソワ…ソワソワ…

 

そんな自分の前に、今年もまた小さな箱が現れる。

中身はローブを着た私を模したチョコレート。

茶色の背景に、白い線で描かれて、今年も自分はその甘さに酔いしれる。

 

 

ああ、どうか人間よ自分を忘れないでくれ。

自分は君を忘れないから、どうかその心に自分だけの居場所をくれ。

たった一年、されど一年、待ち遠しい私の喜びの日。

どうかこの日がいつまでも続きますように。

 

Happy Valentine's Day!

 

 

【たった一人は嫌だから、どうか私と一緒に祝ってください。】



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