【まえがき】
茜色の約束/いきものがかり があるとなお、お楽しみいただけますです。
「ひっく……えっぐ……うぅ……」
オレンジ色に空は染まっていて。
「あーもう、いいかげんなくなって」
「……だっでぇ、うぅ~~」
小さな影二つは、手をつないで歩いている。
「はぁ、ったく、ほら――」
あれは、いつの頃、だったのかな――
* * * * * *
検温完了を教えてくれる体温計のアラームが鳴った。
その液晶に表示された数字は、
「ええっ大変、お母さん39度近くあるよ!? 絶対、寝てなきゃダメだよ!!」
身体を起こそうとしたお母さんの触っただけで熱い肩を布団に押し戻す。
「ごほっ、こほっ、……でも……」
お母さんの言いたいことはわかる。私とお父さんだけで店番が出来るのかって聞いてるんだ。
――きっかけは、ある日店に来てくれたお客さんが、すごく有名なブログを書いている人だったことからなんです。
実は結構由緒正しい老舗の和菓子屋な私の家、「穂むら」は家族で経営しているちっちゃなお店なんだけど、それがきっかけで現在すごく困っちゃってる結果になってます。
お店の写真やお菓子自体の写真を撮ってブログに掲載してもいいですかって申し出があって、お父さんとお母さんたちの間で話し合った後、結構軽い気持ちでOKを出したらしくて、
たぶんお母さんたちもまさかこんなことになるとは夢にも思ってなかったんだと思うけど、そのお客さんのブログに掲載されたのは大きな反響があったんだって。
そしたら、びっくりするぐらい初めてのお客さんがいっぱいやってくるようになっていって、おまけにそのブログの記事は他のインターネットのサイトでも話題になって、口コミって言うのかな? お客さんがお客さんを紹介するような感じに、なっちゃったんだ。
もちろん、いろんな人にうちのおまんじゅうとか、
どんどん忙しくなっちゃって、もちろん私も雪穂も空いてる時間はぜんぶ使って手伝ってたけどそれでも全然手が足りなくて、結局お母さんにみんな負担がいっちゃったんだと思います。
そのせいで、いま苦しそうな顔で咳き込んでいるように、お母さんは体調を崩して、とてもじゃないけど今日はお店に立てる状態じゃありません。
もちろん、いつもなら、本日は都合によりお休みを頂きますって表に貼って、お店自体を閉じちゃえばいいんだけど、今日だけはそれができないんです。
というのも、
「でも……今日はテレビの取材がある、でしょ? 穂乃果、一人でも……大丈夫?」
そう、なんです。
よくある行列の出来るお店特集というやつで、うちのお店を取り上げさせてもらいたいと、テレビ局の人がお父さんの昔の知り合いを通じて連絡を取ってきちゃって、引き受けざるを得なかったみたいなんです。
日付を変えてもらおうにも、あっちにはあっちの都合っていうのがあるらしくて……、結局そのまま今日やってくるということになりました。
ものすごく状況はピンチです。
お父さんは職人ってタイプだし、口下手だから、そういう応対できないだろうし、雪穂がいてくれればいいのに、一昨日から海外にホームステイ中でそもそもこの国にいません。おばあちゃんも歳だから、この暑い時期にあんまり無理はさせられません。
μ’sのメンバーにお手伝いをしてもらおうともしたんですけど、あいにくみんな今日はどうしても外せない用事が重なっていて、万事休すでした。
最後の頼みの綱は、襖を開けて顔を出した、
「すみませーん。呼んでも誰も出てこなかったので、勝手に上がらせてもらいました」
「あ、ユキちゃん……っ」
ここ一ヶ月まともに顔を合わせていなかった、ユキちゃんだけだったんです。
「…………はぁ、ったく」
互いに正座で向かい合って、乱暴に頭をかくとユキちゃんは、
「もっと早く言えっての」
「いたっ」
私にデコピンをしてきました。
おでこを押えながら、
「うぅ……だってだって、ユキちゃん最近なんか忙しそうだったから……」
いつも少しは他人に気を遣えって言ってくるから、せっかく私なりに今回は迷惑かけないようにしようって思ってたのに。
「あのな……だからって、こんな状況ならいくらでもすぐ手伝いに行くっつうの。この前お袋に会った時、忙しいって言ったんだってな。はぁ、昨日それ聞かされて、海未やことりに詳しく聞いてみたら、案の定で……心臓に悪いったらない」
どうやら、その気遣いは裏目に出ちゃったみたいで、思わずうなだれていると、
「で、今日は何を手伝えばいいんだ?」
「――え?」
そう言ってくれるってことは、
「……いいの?」
「よくないなら帰るわ」
「わわっ、待って待って!!」
立ち上がろうとしたユキちゃんの手を掴んで座らせます。むぅ……すぐにいじわるするんだもん、ひどいよ。
私の言葉を待つようにむっつり黙っているユキちゃんに、素直に、
「ユキちゃん、あのね、今日うちにテレビの取材が来るんだけど、お母さんも風邪で倒れちゃって、それで人手が足りなくて……」
だから? と目で訴えてくるから、
私は両手を合わせて、
「お願いっ、手伝って!!」
「ああ」
頷いてくれてから1秒後ユキちゃんは、固まって、
「…………テレビっつった?」
「うん!!」
「帰る」
「わぁっ、ダメだよ!! 今、頷いてくれたじゃ――ん!!」
「くぉ、離せ、なんか他に手伝ってくれそうな奴見つけてやるから。俺はお断りですぅ!!」
「ダメ~~~!!」
そんな引っ張り合いをしていると、お父さんがやってきて、いきなり頭を下げました。
「すまん……。今日だけは、手伝って、ほしい」
私は生まれて初めて、あのお父さんが誰かに頭を深く下げているところを見たかもしれません。
真剣にお願いするお父さんの姿を見て、ユキちゃんは、
「頭を上げてください。さっきのは……冗談です。俺でよければいくらでも、手伝います。たかが1日、どうってことは、ありませんよ」
私との時とはまったく違う態度でそう答えるのでした。
やっぱいじわるだ……。
肝心なお菓子自体を作るお父さんとそのお手伝いをお婆ちゃんにお願いして、お客さんへの対応を私とユキちゃんでやる、ということになりました。
いつもは制服の上に三角巾をかぶる私も、今日は白の作務衣に着替えました。ユキちゃんの方は、お父さんのお古はちょっとサイズが大きかったからお婆ちゃんに少し手直しをしてもらって、同じく白の作務衣と和帽子の姿になってもらいました。
「わぁ、ユキちゃん似合ってるね!!」
「マジで? イケてる職人さんぽいか? ちょっと写真撮ってくれ」
むしろこれから動画で撮られるんじゃないかなと思いつつもせっかくだからユキちゃんの携帯と私の携帯で写真を撮ると、店の近くに止まった車からテレビ局の人たちがやってきて、
「今日はよろしくお願いします~」
レポーター役のお姉さんとディレクターさん、カメラマンさん、音声さんなど色々な荷物を抱えた人たちが、あまり広くないお店に入ってきたせいで、息苦しい感じになってます。
「それじゃあ、開店までの間に店主様がお菓子を作り上げる所をですね、撮らせて頂いてですね。その後で、混み合うお店の様子やご試食なんかをさせてもらうということで、どうぞよろしくお願いします!!」
ディレクターさんにお任せするまま、スタッフの皆さんがお父さんの厨房の方で撮影している間、私たちは手分けして、品物を並べたり、お店の前の通りを掃いたりして開店準備を進めました。
そして、いよいよ――開店です。
まず開店早々にやってきたお客さんは、ご近所の坂本さんのお婆ちゃんで、
「あらまぁ……穂乃果ちゃんと行人くん、今日はお店番なの? 二人ともお揃いの格好で、すっごくお似合いよ?」
「あはは、ありがとうございます。坂本さんのお婆ちゃん、今日は何にしますか?」
「そうねぇ、皮膚科の先生にちょっとお礼をしたいから、この最中の詰め合わせ、頂ける?」
「はーい」
在庫の山の上から掴んだ小箱を紙で包もうとしていると、
「ほんとに大きくなって……ついこないだまであんなに小さかったのにねぇ。行人くんも今度――」
何かを言いかけた坂本さんの続きを聞く前に、
今度は常連の小倉さんご夫妻が入ってきて、
「あ、いらっしゃいませ――!!」
「穂乃果、坂本さんのやつはやっとくからあっち頼む」
「うん、お願い、ユキちゃん!!」
そこからはもう目まぐるしい展開で次から次にやってくるお客さんに二人で応対している姿をいつの間にかテレビのスタッフさんたちは撮影していて、でも、忙しいから落ち着くまで相手もできませんでした。
ようやくお昼近くになって波が去ってくると、タイミングを見計らっていたらしいレポーターさんが軽くお店の説明なんかをしながら私たちにマイクを向けてきました。
「穂むらさんは、本当にすごい人気ですね!!」
「えっと、はい。とてもありがたいです!!」
「こちらのお店の看板娘、穂乃果さんです。ご実家が老舗の和菓子屋ですけど、それについてどう思っていますか?」
どう思ってる、か。
「私、お婆ちゃん、お母さんって受け継がれてきたこの『穂むら』ってお店が大好きなんです。だからできることなら、これから先もずっと、この街でおいしい和菓子を提供できていけたらいいなって思います」
「なるほど、10年100年と続くようなそんなお店にしたいというわけですね。そんな穂乃果さんですけれど、なんでも学校ではかなり有名なスクールアイドルでいらっしゃるとか?」
いきなりスクールアイドルなんて紹介されてびっくりしちゃったけど、前にもμ’sを紹介された時のことを思い出しながら、どうにか答えます。
「μ’sってグループで、がんばってます」
「皆さん、ご存じのあのμ’sですよ!! すると、このお店に来るお客さんの中には、穂乃果さんを目的にいらっしゃる方もいるんでしょうか?」
「え、えっと……」
そんなことを言われても困っちゃうな。もちろんアイドルとしてはPRとかした方がいいのかもしれないけど……今の状況で、お菓子が目的じゃないお客さんが増えちゃったらもう、
「すみません。そこら辺に関しては、あまり触れないで頂けますか?」
ユキちゃんがレポーターさんと私の間に割り込んで、
「お願いします。このお店も見ての通り、いつも手一杯でこれ以上はちょっと」
「あ、失礼しました……」
「お菓子に関することだったら、こいつに遠慮なく何でも聞いてください。そういう特集ですもんね? これは
「は、はい、えっと、それじゃあ……」
お礼を言う間もなく、悪いちょっとトイレ行ってくるわとユキちゃんは裏に戻ってしまいました。リポーターさんから改めて試食の感想や質問を聞いている間、ずっとそれが気にかかってて、
上手く答えられていたかは、全然、自信ないかも……。
夕方にもなると、今日一日分の生のお菓子なんかはほとんどが売り切れてしまって、すっかり寂しくなったガラスケースに頬杖をついていました。
テレビのスタッフさんは、次のお店に向かうスケジュールの都合上、午後早くに撤収していきました。嵐が過ぎ去った後というのはきっとこんな感じなんだろうなぁ。
そう思いながら、私は外で打ち水をしてくれているユキちゃんの姿を見ていました。もしも今朝、ユキちゃんが来てくれなかったら、間違いなくパンクしてたと思います。
――ほんとに、ありがとう。
いや、ちょっと違うかな。
――いつも、ありがとう。
ガラス越しには絶対聞こえないはずの言葉をつぶやくと、いつの間にか隣に来ていたお父さんが、
「穂乃果。行人が水を撒き終わったら、今日はもう店を閉めるぞ。そしたら、……あいつを送ってやれ」
お父さんがそんなことを言うなんて珍しいから、私は、
「うん、わかったけど、どうして?」
お父さんは和帽子を外しながら、何かを迷うようなそぶりを見せてから、横目で汗を
「実はな――――」
「あ~さすがにクッタクタだわ~。疲れた……」
「…………」
肩を回しながら、ユキちゃんはずっとしゃべり続けてて、
「つうか、お前聞いた? 店開けてからさ、坂本さん来たろ? すっかり大きくなってねぇ~行人くん、今度良ければお見合い受けてみない、だってよ。いやいやさすがにまだ早いですよって断ったけどな」
まぶしい夕焼けにユキちゃんは目を細めながら首の後ろで腕を組もうとして、
突然、
「――おい」
「……え? ど、どうしたのユキちゃん!?」
「どうしたも何も、いきなり袖を掴んでどしたってのはこっちのセリフだ」
言われて初めて、私、ユキちゃんの袖をぎゅっと掴んでたことに気づいた。
「わっ、ごめんね……」
「……まぁいいけどさ。どした?」
覗き込んでくるユキちゃんの目を正面から見ることもできないで、
「ユキちゃん、…………外国行っちゃうって、ほんと?」
ユキちゃんも私も、オレンジ色の世界の中で足を止める。ゆっくりと息を吐き出しながら、
「――そっか、おじさんから聞いたのか?」
「……うん」
お父さんが話してくれたのは、ユキちゃんが大学を休学して世界中を旅しに行ってしまうってこと。しかも、その出発が明日だって。
「どれくらいの、間?」
「さあな、一年か、二年か、決めてないよ」
「……他のみんなは知ってるの?」
「ああ……、なんか送別会やってくれるって話だったんだけどな。……ま、今日こっちを手伝うからって朝、断った」
「……なんで、教えてくれなかったの?」
それが1番聞きたかった。
「一応、出発直前に手紙を送ろうと思ってたんだけどな……、お前に会ったらなんか心配で、決意が鈍りそうだったからさ」
そうだったんだ。
「お前覚えてるか? 昔さ、ちっさかった頃、お前よく家出してさ、海未の家とかことりん
うん、覚えてる。お母さんとかお父さんとかとよく口ゲンカしちゃって、すぐ家を飛び出ちゃってたんだよね。
「泣きじゃくるお前の言い分を聞いてさ、それから謝りに家に帰るのをついてってやったりしたけど、あの頃から、ははっお前成長したな」
そんなの、
「今日一日見ててわかった。もう心配するのなんて失礼だったな。いやはや参った参った俺もヤキが回ったもんですよ」
なんで、そんな言い方するの。
「海未もことりも相変わらずいるし、真姫も花陽も凛も、雪穂も亜里沙ちゃんもいる。呼べば絵里も希もにこもすぐ飛んでくんだろ」
――なんも、問題ない、よな。
それが、限界だった。
「…………よ」
「あ?」
聞き返してくるユキちゃんに、
「あるよ……、そんなの、問題あるに決まってるじゃん!!」
思ってることがどんどん口から出てくる。
「どんなにみんながいても、ユキちゃんがいないのなんて……私、やだよ!!」
私、考えたこともなかった。
いつか、ユキちゃんが……どこか行っちゃうなんて。
大学生になって、社会人になって、そしたらもう、会えなくなっちゃうとか考えたことなかった。
ずっと、当たり前だと思ってた。
昔からずっと見ていたこの背中は、いつだって同じ距離の所にあるもので、いつか遠くに行っちゃって、手が届かなくなっちゃうなんて絶対ないって思ってた。
だから、いやだ。
ユキちゃんがいなくなるのなんて、絶対やだ。
鼻がつーんとしてきて、涙がぽろぽろ溢れてくる。
「いつもいつもいじわるだよ!! 私にも教えてよ!! そしたら何回だって行かないでってお願いできたじゃん!! いきなりお別れなんてやだよぉ!!」
まるで子どものわがままみたい。
でも、それでいいよね。
そんな子どもっぽければ、成長してなければ、ユキちゃんは心配だから行かないって言ってくれるかもしれない。
だったら、私、いくらでも子どもになるよ? わがまま言うし、誰かの言うことなんて聞かないし、言う通りにならなかったら泣きじゃくるよ?
なのに、ユキちゃんは、優しい目でずっと私を見ていて、
「ごめんな。でも、決めたことだから」
ただ謝って、それ以外何も言ってくれない。
「……っ」
私は唇を噛みしめる。
そうだよね、
「……大学もつまんないわけじゃないけどな、やっぱ色んな世界を見て回りたいんだよ。この街にずっといるだけじゃ、味わえないもの、それを探しに行きたいんだ」
ユキちゃんは、一度決めたら、ガンコだもんね。
私たちの街。生まれてから、育ってきたこの街。
うちがあって、学校があって、友達がいて、思い出があって、何でもあるこの街が私は大好きだけど、ユキちゃんはそれだけじゃ満足できなかったんだね。
きっと外国にはここにはないものがいっぱいあると思う。
写真に撮っていつも眺めたくなるような絶景はここにはないし、言葉が通じなくてまったく私たちとは違うような文化を持った人たちはここにはいないもん。見た目はへんてこだけど、実はすっごくおいしい果物とか、思わず聞いただけで踊りたくなっちゃうような音楽とか、こんなものどれだけの昔の人ががんばって作ったんだろうって建物とかもないもん。
きっと楽しいと思うよ、ユキちゃんなら。
きっと楽しめると思うよ、ユキちゃんだから。
おかしいな、でも、やっぱ涙は止まんないよ。
だって、そんな長い間、会えなくなっちゃうようなことなかったんだよ? しょうがないよね。
涙はほっぺを伝い落ちて、足下に小さな小さな水たまりを作り始める。
「あーもう、いい加減泣くなって」
「……だって、うう……」
こすってもこすっても出てくるんだもん。
「なんか昔もこんなことあったなぁ」
言いながら、ユキちゃんは、私に小指を差し出して、
「ほら」
「ぐすっ……なにこれ」
いつかの記憶と同じような顔で、
「――約束してやる。1年だ。1年だけ、我慢しろ」
そしたら適当に切り上げて帰ってきてやるよ。
いつも通りの、そんな少しふざけた言い方でユキちゃんがにへらって笑うから、
ああもう、泣いてたのに、思わず笑っちゃった。
なんかもう、悲しいから涙が出てたはずなのが、おかしいからなのかよくわからなくなって、
「約束だよ? それ以上はさみしくなって、こっちから探しに行っちゃうかも」
「マジかよ。お前が出国したら速攻で帰国するからよろしく」
「えぇ、ひどいよ!! もぉ――!!」
決めた。
せっかくユキちゃんがもう心配するなんて失礼なんて思ってくれたなら、笑わないと、笑って送り出してあげないと。
そんなことしかできないけど、許してね?
昔、家出をしてそれからお母さんに謝りに戻るとき、ユキちゃんが言ってくれた言葉、実はずっと覚えてるよ。
『ったく、ほら、おまえ、笑ってたほうがかわいいんだから、のーてんきに笑ってろ。そうしてれば、おれも安心して笑える』
ほんと、ほんっとうに、昔からいじわるなんだから。
でも、そんなユキちゃんが私は――
私は差し出された小指に自分の小指を絡ませて、
「行ってらっしゃい。ユキちゃん」
♪MUSIC:茜色の約束/いきものがかり♪
* * * * * *
「穂乃果ぁ、お店開けるから、お水撒いてくれる――!!」
その店の奥から、そんな声が聞こえると、柄杓と水の入ったバケツを持った彼女が表の通りに出てくる。
うーんと伸びをして、夏の日差しに目を細めて、アスファルトを濡らしていく。その背中へと、
「――いやぁ、戻ってきても暑いっすね。手伝いましょうか、お嬢さん」
大好きなその声の主に振り向いて、
「お帰りなさい!! ――ユキちゃん!!」
【あとがき】
遅れてごべ――ん!!(ワンピ泣)
穂乃果、誕生日おめでとうかゆ……うま……いそが死……
へんじがない ただのしかばねのようだ。