僕と君とのIN MY LIFE!   作:来真らむぷ

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#16 なかまあつめ

 

 

 

 

 

「慣れって恐ろしいもんがあんな……」

 

 どうにかμ’sのファーストライブを終え(ちなみに、ライブ終了後、俺は風となってとにかく音ノ木坂を去った。いつポリスがお家にやってくるのかとビクビクしていたが、まだ来る様子はない)

 最初の週末、我が家の居間には幼なじみ共が顔を揃えていた。

 

 昔に戻ったと言えばそれまでだが、互いにもう高校生だ……はぁ、なんかもうあーだこーだ言うのが面倒になってきた。流れに身を任せる、人、それを諦めと言う。

 

「――ほんで、あの後、反響みたいのはあったのか」

 グラスに差したストローを橙色の液体が通過し、

「あ、うん、なんか来てくれたみんなが友達とかにも話してくれたらしくて、結構色んな人から、次は絶対見に行くからねって言われたよ!」

 

 一口飲み干すと、穂乃果はえへんと胸を張った。

 

 あら、あらあら、この子ってばちょっと調子に乗ってるんじゃないかしら。やっちゃってくださいよ、海未姐さんにことり姐さん。

 

「そうですよ、穂乃果。珍しく行人くんの言う通りです。勝って兜の緒を締めよ、油断大敵です」

「珍しくは余計だぞ?」

「うん、でも、やっぱりそう言ってもらえると嬉しいよね」

「ガン無視は泣いちゃうぞ?」

 

 成功、か。

 

 結果的に見れば、十二分にそうだろう。こっそり数えていた人数は三十四人、俺を含めていいのなら三十五人があの場に観客として、いた。

 学園祭でバンド組んで全校生徒の前でライブデビューとはわけが違う。単独公演で、ずぶの素人が集めた人数なのだ。海未の言葉を借りれば、これを勝ったと言わずしてなんと言うのか。

 ……もっとも、胸を張って勝ったと言えないのは、こいつらも重々承知しているだろう。辛くも、ぎりぎり、間一髪、そんな類いの言葉が枕につく。

 あの例のアナウンスがなければ、はたしてどうなっていたのだろうか。

 

「……なぁ、あの時のアナウンスって誰がしてくれたって、わかったか」

 

 その言葉に、全員が一斉に視線を落とした。窓の外から、廃品回収車のひび割れた音声が室内まで聞こえてくる。規則的に繰り返すその声が遠くに行くまで、俺たちはおそらく皆あの瞬間のことを思い出していたのだろう、沈黙を保っていた。やがて、おずおずとことりが切り出す、

 

「ううん。最初は英子ちゃんかなって思ったんだけど、ずっと講堂の音響室にいたから校内の放送なんて出来なかったって言ってたし……」

「あのライブの後、すぐに放送室へも行ってみたのですが、鍵が閉まっていて、誰もいませんでした」

「うん、正体がわかったら、ちゃんとお礼言いたいのにね」

 

 飲み干したグラスから穂乃果はストローを抜いてクルクルさせる。こら、飛び散るし、行儀が悪いんだよ、やめろ。

 

「まぁ、わからんもんはわかんないか……」

 正体を現わさないなんて、それはそれでおかしな話だけどな。動機もまったく想像がつかん。友人なら堂々としてやればいい。他人ならば何故……ってなると、俺はどうなるんだってブーメランか。

 いかんせん、情報が出てこないなら仕方あるまい。

 

「あ、ユキちゃん、それでね!」

 無理矢理思考から現実に引き戻されて、

「なんだよ」

 研鑽し続けてきた嫌な予感センサーが反応しないから、まぁ大丈夫だとは思うが、いつでも逃げ出せる心構えをしておく。

 立ち上がり、天井へ届けと言わんばかりに人差し指を突き上げる穂乃果は――

 

「やっぱ、次は、新しいメンバーを募集しようと思うんだ!」

 

 

 

 

 

 

    ◆#16 “なかまあつめ”◆

 

 

 

 

 

 

 その後、ひとまずライブも終わったし、たまには今日の午後練習を休みにしましょうと提案したのは他ならぬ鬼教官、園田海未氏だった。もともとことりが、今日はひな子さんと夜は外食しに行くということで、早退を申し出たのだが、それならばいっそのこと休みにしてしまおうと、思考の末至ったらしい。

 これはひいきのにおいがすると穂乃果と具体的な法廷闘争のプランを練っていた所、にっこりと海未に微笑まれてしまい、俺はあえなく話し合いで解決し、最後は二人で握手しなさいとアドバイスするに留めた。

 

 まぁそんなことはどうでもいい。

 かくして奴らから解放された俺は、午後はゆっくり街に繰り出すことにしたのである。もっとも、慣れ親しんだ我らが秋葉原だがな。休日の賑わいはうっとうしく感じる人もいるだろうが、俺は案外嫌いじゃない。

 

 さぁ、どこに行こう、何をしよう。自由っていいな。意味もなくお尻とか振っちゃうぞ、はっはっは。

 

 ホコ天を闊歩しながら、あまりの開放感に人目を気にしない無敵モードに入っていた俺は、ある名案を思いつく。

 

「おっ、そうだ、小遣い入ったしA-RISEの昔のアルバム買うか」

 

 ――なんだかんだで先日購入したA-RISEのニューアルバムはリピートしまくっている。アイドルのアルバムってどうなんだと食わず嫌いしていた俺に、あのアルバムの出来はかなりのショックだった。

 

 逸太に教えてもらったところ、1stアルバムの「ARISE」はスクールアイドルのCDとしては記録的なヒットを飛ばしたらしい。このご時世にゴールドディスクレベルとは思わず目ん玉が飛び出そうになった。しかも正直、あと少しでプラチナにも届く勢い。スクールアイドル、されどスクールアイドルである。その頂に立つA-RISE様クラスともなると斯様なことも可能になるのだ。

 そして、それだけ売れもすれば当然ぜひ2ndを、という話にもなる。「BE」と題された2ndは、そのタイトルが表す通り、「何かに、なる」をテーマに作り上げられたコンセプトアルバムだった。インスト曲である表題曲「BE」から幕を開け、「Light Bride」「Versus Prince」「Flower Punishment」といった珠玉のダンスミュージックを経て、最後、「Born Again」という全十一曲を締めくくるに相応しい名曲でもって閉幕する。

 

 これには完璧にやられた。

 だいたいコンセプトアルバムというのは、あるテーマに沿って作られているため、バラバラのテーマで作ったシングル曲を収録する通常のアルバムに比べ、曲全体のまとまりがある。だから、アルバムという単位で作品を見た場合、評価が高くなりやすいのだ。

 1stの時点で既に音楽評論家の注目を集めていたらしいが、この「BE」は、スクールアイドルの金字塔とまで賞されるほど絶賛の嵐だったのだという。

 

 その気持ちもわかる。これではアイドルというよりアーティストだ。まったく一回聴いて固まって、すぐに二回目聴き直して感動が襲ってくるなんて体験、したことなんてなかったっての。うらやましい限りだ。

 ほとばしる才能に嫉妬しつつも、聞くのをやめられない。

 

 これがいわゆるハマるってやつなのか。……くれぐれもあいつらにはバレないようにしないと、どうなるかわかったもんじゃない。A-RISEのCDは我がムフフな宝物庫の中にしまっちゃおうね。

 

 それはさておき、俺が持っていない1stには、現在代表曲とされる「Private Wars」が収録されている。曲自体はネットにアップされているライブ動画などで耳にしたことがあっても、公式のCD音源を聴いたことがない。つまりこれは俺に1stを買えという思し召しに違いない。

 

 よし、善は急げと俺は進路を変えて、先日訪れたアイドルショップへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アイドルショップ アルテミス』

 前回、初めて来たときは平日だったにも関わらず、かなり濃い雰囲気を漂わせていた店は、日曜ということもあり、より一層空気が濃厚になっていた。

 

 なんかおそらくどっかのアイドルの衣装を着込んだ――おっさんが今、普通に入ってったけど大丈夫なんでしょうか。とりあえずスマホで110までは打ち込んだぞ。合図をくれたらいつでもいけ――

「錬鉄戦士殿。UR(ウルトラオレンジ)の貯蔵は充分でござるか!」

「デュクシ、見たまえこのシュワちゃんもかくやと言わんばかりのコマンドースタイルを。七色全て取りそろえている、万事抜かりない」

「オウフ、これは失敬www。それでは行くでござるか、我らの約束された地(カナン)へ」

「覚悟はいいか――俺は出来てる」

「あ、でもその前に腹ごしらえでござるな。錬鉄戦士殿は何か希望は?」

「雁川」

「委細、承知の助ナリ~」

 

 

 え、何、今の、何が店から出てきたの。キャラがブレブレでまったくわからなかったんですけど。やっぱここは魔窟過ぎる、俺のレベルではやはりダメだ。瞬殺される。

 ダンジョン周辺のモンスターでレベリングしたいけど、現実ではそんなすぐ人間は慣れない。次第に堕ち……順応していくのである。

 

「うん? じゃ俺どうすればいいの」

 途方にくれかけたが、冷静に考えてみると、何もここで無理に買う必要ないことに気づいた俺は、急に元気を取り戻した。

 そうだよ、最初に挑んでしまったからてっきり買うならやっぱココ、みたいに思い込んでいたが、まったくそんなことはない。

 ここは戦略的撤退ですよ。

 

「あばよ、カジノでメタル系の最強装備を揃えたら、また来る」

 ニヒルに決め、クールに去るべく踵を返すと、

 

「…………」

 得体の知れない物が目の前で動いてる時の顔をしている――西木野さんがいた。無敵時間は脳内のBGMと共にあえなく終了した。

 

「いや、だから違うんですって、マジで、本当に」

 なんでこの子いつも俺の隙をつく形で現れるんでしょうか神様。

 

「……別に、何も言ってないけど」

 いやいや、その表情、あんたの心の内はわかってるけど、それはこっちの台詞よって言ってますよお嬢さん。

 

「き、奇遇だね。初めて会った場所で再会するなんてさ」

「犯人は犯行現場に戻るって言うわ」

「待とう。なんで俺、やらかした後みたいになってんの」

 

 何、俺、いつの間にか手を汚しちゃってた系ですか。自覚ないけど、もう一人の俺ってのがいるパターンすか。いやー怖いなー、隠された本当の能力(チカラ)開放しちゃうわー。魔族の血とか流れてんのかな俺。

 

 嘆息する西木野さんは、出会ったものはしょうがないとばかりに、

「この前のあの人たちのライブ。なんであの時、あの場にいれたんですか」

「え、マジ聞いてくれる? 話す話す、聞くも涙なんだけどね?」

 

 ずっと愚痴れる相手を探していたのだ。この機を逃すわけにはいかん、西木野さんの存在はまさに飛んで火に入る夏のむ――じゃない、渡りに船である。氾濫した思いの丈――ありえないよねだって女子校だよ、もうほんとに死ぬかと思った、今こうしてるのが不思議、ひな子さん様々結婚したい、あいつら簡単に言ってくれやがったけど俺がいつもいつもハイただいま~って馳せ参じると思ったら大間違いなんだからね! などなどを早口でまくし立てていると、

 

「わ、わかったから、もう~~ちょっと、距離が近い!」

「おっと失礼」

 思わず気持ちが高ぶりすぎて詰め寄っていた。まったく、冷静沈着な俺のキャラが壊れちゃう所だった危ない危ない。

 

 うろたえる西木野さんに押し戻された俺は、逆にこちらから質問する。

「今度はこっちから。西木野さんは、あいつらのライブ、どう思った?」

「ど、どうって……」

「だって、君もちゃんと見に来てくれただろ?」

 

 正直、嬉しかった。これまで彼女のスタンスは、曲は作る、が、後は知らないといった、あくまで引き受けたこと以外のことはしないものだった。穂乃果が何度もライブに誘ってるけど断られてると口にしていたことから、そういうつれない子なんだなと俺は勝手に思い込んでいたのだ。

 

「ごめん。正直、俺は君が来てくれると思ってなかったんだよ。でも、ああやってちゃんと来てくれたから、聞いてみたかったんだ」

「べ、別に、あの時はたまたま傘を忘れちゃって、家の人に迎えに来てもらうまでヒマだっただけよ!! そ、そしたら放送が流れてきて、せっかく曲を書いたんだから少しぐらい見とこうかしらって、ただの気まぐれ! たまたまなんだから!」

 我慢できず、笑ってしまった。

「そっか」

 なんとなく、西木野さんが、どんな子なのか見えてきた気がする。

 

 そりゃそうだよな。東條の言う通りだった。第一ロハで一曲書いてくれる人間がどこにいるんだよって話だ。穂乃果たち、ちゃんとお礼したんだろうな。どうせしてなさそうだし、お礼ついでにμ’sにもう一度誘えばいいんじゃないだろうか。今後活動していくうえで、作曲担当は欠かすことの出来ない存在なのだから。

 しかも、あのクオリティで、となるならば。

 

「あの曲のギターとかは、打ち込み?」

「? そうだけど……」

「ピアノだけのプリプロから、アレンジされて、凄いよくなってたよ。脱帽した」 

 あらかじめ、次会ったら伝えようと思っていた言葉はすらすら出てきた。後は、上手いこと表情を操作するだけだ。

 

「う"ぇぁっ!? あ、ありがと……」

 褒められてないのか、気恥ずかしそうにそれだけ返すとそっぽを向かれてしまう。意外だな、あれほどの才能なら、以前から賞賛を受けてそうなもんなのに。

 

「そ、それより、今日は何しにここに来たのよ!?」

「え、いやまぁ、買い物しようかと思って」

 思ってたけども、ちょうど考え直した矢先に現れたのが目の前の少女である。

 ってか、むしろこの店って買い物以外にもなんかできんの? デュエルとか? いや、何をかけて決闘するのかは知らないけど、命とか魂あたり?

 

「じゃあ、そういう西木野さんは?」

「わ、私も、買い物、だけど……」

 

 あらら。さすがの俺もこれには苦笑い。

 微妙な空気になりかけた時、俺の頭に電撃が走った。それはまさしく、天・啓。

 

 赤信号、みんなで渡れば大丈夫!(注 ダメです)

 そう、一人じゃ出来ないことも誰かと一緒なら出来るよ!(決してやってはいけません)

 

 俺だけでは太刀打ち出来なかった、この店。西木野さんという助っ人がいれば、彼女が前衛、俺が後衛を務める陣形で制覇が可能なのではないか。

 はわわ、我ながら完璧すぎるアイデアに打ち震えてしまう。

 

「よし、じゃあ一緒に入ろう。ほらほら入った入った」

「ちょ、や、押さないでよ……!! ア、アンタ、さっきまた来るって言ってたじゃない!」

 なんか言ってますが、聞く耳ございません。俺は華麗に彼女の向きを変えると、盾にしながら店内へと突入した。途端に、聞こえてくるのは店内で大音量でかかっている、スクールアイドルと思しき少女たちの歌声。そんな音のカーテンをくぐるようにして、俺はとうとう二度目の魔窟進入に成功したのだ。

 

 喜びに両手でガッツポーズした俺から解放された西木野さんは振り向くなり、

「もう、何すんのよ!」

「いやぁ~、ありがと西木野さん! やっぱり仲間っていいもんだね! 人って字は支え合ってるって実感したよ」

「思い切り押してたじゃない!! 意味わかんないわよ!!」

「まぁいいじゃないか。どうせ目的は一緒だろ?」

「……アナタもなの?」

 

 そりゃそうだ。俺もこの店で買い物をするという目的があったのだ。入る前までは勇気がわかなかったけど、入ってしまえばこっちのもんですよ。要するに、無敵タイム再び、だ。

 

 だが、それにしても……休みということも踏まえてもやけに店内は混んでいる。さながら、混沌の坩堝(るつぼ)といった様相で、老若男女を問わず人間が、フロア自体は広いのにも関わらず商品の陳列の関係上、通路が狭苦しいせいでごった返していた。

 なんか、あったのか? 新製品の発売直後みたいになってるぞ。

 

「それで……何買うの?」

「うん、俺はまだ持ってないからA-RISEの1stアルバム買おうと思ってさ」

 西木野さんは首を傾げると、

「まだ買ってなかったわけ?」

 ありえないと言外に告げている顔でそう口にした。

「まぁ、そうだね。俺は君にゆずってもらったあの2ndアルバムでハマッたから。まだまだ初心者なんだよ」

 そこを否定しても仕方ない。

「そ、それなのに、どうやってあのライブのチケット手に入れたってのよ!?」

 

 あらま、なんか過敏な部分を刺激してしまったらしい。といっても、俺は逸太からもらっただけだから、ほぼまったく何もしてない。でもそれは西木野さんみたいな熱心なファンからしたら、理屈では納得できても……ってやつなのかもしれない。と考えてると、

 

 西木野さんの向こう側で、眼鏡をかけたおとなしそうな子がこちらをちらちらと窺っていた。声をかけるべきか、否か、逡巡するようにその足は一進一退を繰り返している。うん? あの子、どっかで見たことある気がするな。

「なぁ西木野さん、あの子知り合いだったりする?」

「え――」

 手で指し示すと、背後へ振り返った西木野さんは、あっ、と目を見開いた。

 

 あー、どうやらビンゴだったご様子。

 

 向こうは向こうで存在に気づかれたことでいよいよ覚悟できたのか、こちらへとやってくると、

 

「こ、こんにちは!」

 俺と西木野さんの間で瞳を行ったり来たりさせつつ、その子は勢いよく頭を下げた。

「小泉さん……?」

「はいっ、よかった、覚えててもらえてて……」

 

 関係性を予想するに、同学年の知り合いって所だろうか。口ぶりから察するに、知り合ってから間もないのかもしれないな。

 

「えと、あの、は、初めましてですよね。私、あの、西木野さんとクラスメイトの小泉花陽と言います」

 これはこれはご丁寧に。クラスメイトってことはやっぱり西木野さんとは知り合いだったんだな。ってことは年下か……先に自己紹介されてしまうとはミスったな。

「どうも、日高行人って言います」

 日高さん、と発音して確かめる小泉さんは、もう一度西木野さんと俺を交互に見つめてから、

 

「お、お二人はその……いわゆるそのぅ……そういったご関係ですか?」

「そういった、ってぇと……」

 あ、これはまずい予感。

 

「か、彼氏さんと彼女さんってやつ、ですか?」

「ち、違うわよ!! なんで、こんな変な人と!!」

 

 早い。早いっす、西木野さん。食い気味で反応してました。変な人は悲しいです。

 

「え、そうなんですか!? てっきり私はその……お邪魔しちゃ悪いかなって……」

 俺の方にも返答を視線で求められ、

「あーうん、いわゆる恋人じゃないよ。西木野さんとはえーと、」

 何が適当なんだ。恋人は論外だが、友達にはまだ距離があるし……でも、知り合いってのは味気ないしな。うーむ…………あ、はっはーん、いいこと考えた。

 

「似た者同士、みたいな?」

 すぐさま肩を引っ張られ、

「な、なんでまた余計なこと言うのよ!!」

「さ、サービス精神……」

「意味わかんない!! ただの知り合いでいいでしょ!!」

 

 手を耳に当てて小刻みに揺らす、あーあー聞こえなーい戦法をとる俺を、なおも西木野さんは責め続けてくる。なんでそんなに怒るんだ、一緒に変な人でいようじゃないか。

 そんな俺たちがどういうわけか面白かったのか、小泉さんは口元を隠すように笑った。

 

 それ以上やったら、より笑われるだけだと理解した西木野さんは、フンとコミュニケーション拒否の意思表示をすると、顔だけじゃなく身体ごと俺から背けてしまった。こりゃ、嫌われちゃったかな。

「すいません、ちょっと通ります」

「あ、すいません」

 

 本当に混んでるな、今日は。二回しか来たことがなくても、さすがにこれはちょっと異常とわかる。

 

「やっぱ、凄いですね……うぅ大丈夫かなぁ……」

「……そうね、この人数だと」

「西木野さんもやっぱそうなんだね。えっと……日高さんも?」

「そうなんじゃない。知らないけど」

 

 どうやら、小泉さんと俺の話題をするぶんにはギリギリセーフらしい。まったくやっぱ優しいなこの子は。

 しかし、二人とも、この混みようでは買い物に不安を覚える様子。まぁ、確かに。何か起こってしまいそうだもんな、頷いておこう。

「やっぱりみんなA-RISEのメンバーと握手したいですもんね」

 

 そうそう、みんなA-RISEのメンバーと握手したいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……うん?

 

 

 

 

 

「――あれ、どゆこと?」

 

 

 その声は周りのガヤにかき消されたのは言うまでもない。

 

 




起が終わり、こっからは承です。
さぁ、上げてこうか

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