僕と君とのIN MY LIFE!   作:来真らむぷ

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#11 μ’s

 

 

 

「えぇ~!」

 

 校門前でのビラ配りの途中でいきなり声が上がり、何事かと海未が見やると、スマホを片手に口をへの字に曲げる穂乃果の姿があった。

 

「どうしたんですか、穂乃果?」

「今日、ユキちゃん練習来てくれないんだって!」

「え、そうなの……?」

 

 即座に駆け寄ってきたことりと共に海未は、穂乃果の差し出したスマホの画面に表示されたメッセージを注視する。

 

『すまん、今日はこれから人と会う予定があるんで、行けないんだ。明日は付き合うから、がんばれよ』

 文の下には、キャラクターが土下座しているスタンプが添えられていた。

 

「……仕方ありませんよ。行人くんにだって予定というものがあるでしょうし」

「朝会った時はそんなこと言ってなかったのにぃ~」

 

 頬をふくらませる穂乃果をなだめていると、ことりは難しい顔でまだ画面を見つめていた。

 

「どうしたんです? ことり」

「あ、ううん。何でもない。ごめんね、海未ちゃん」

「それはいいのですが、「あー、海未ちゃん、まだ全然減ってないじゃん!」

 

 穂乃果は自分やことりのに比べて明らかに分厚いままの海未のビラ束を指差して叫ぶ。

 

「う、それは……」

 思わず海未は目をそらし、真面目に配ってはいるのだが、みんながもらってくれないのだと説明する。

「え~、本当?」

「本当です。見てて下さいっ」

 

 こちらにラクロスのスティックを担いだ数人のグループが向かってくるのを受け、海未はその進行ルート脇に立つと、

「だよねだよねー!」

「あっ、帰りにアイス食べてかない!?」「あの……」

「賛成ー。あたし今日は三段にしちゃうよん」

「おぉ、豪快ですなぁ」「ライブ、やります……」

 わいのわいの。

 

 と、物の見事に背を丸め、極力気づかれないようにしている海未の姿がかくして残された。

 

「声が小さいよ、海未ちゃん!」

「それにもっと積極的にいかないと、もらってくれないよ?」

 ごもっともに過ぎる穂乃果とことりの意見に海未は、うっと言葉に詰まる。

 

 普段はそうでもないのだが、ちょっと目立つようなことをするとなると途端に恥ずかしがって消極的になってしまうのである。小学生の時にやった劇ではクラス中に主役を推薦されながらも、結局やったのは木の精Aだった。爆笑した行人が、その様子をカメラで撮っていたことが海未本人にバレた際には八つ裂きにされていたのを穂乃果もことりも鮮明に覚えている。

 

 そんな海未の玉にキズの部分なのだが、これから人前で歌って踊るスクールアイドルをやるというのにいつまでも放置しておく訳にもいかない。

 

「じゃ、海未ちゃん。私とことりちゃんが今までやってた感じでやってみるから、ちょっと見ててよ」

 

 言うが早く、穂乃果はタイミングよく通りかかった二人組に「こんにちはー」と元気よく声をかけると、「今度講堂でライブします。ぜひ見に来て下さい!」と物の見事にビラを受け取らせることに成功する。

 

 それに負けじとことりも「よぉし」と気合いを入れ三人組に近づいていくと「あの~」と話しかけ、反応するとすぐに穂乃果と海未を指し、「今度私たちスクールアイドルをはじめることにしたんです。良ければ今度ライブに来てみてください」好感触と判断するとチラシをそれぞれに手渡し、接客業だったら文句なしの100点スマイルでもって見送るという離れ業をこなす。

 

 ふぅーっと息を吐き出した穂乃果とことりが海未に向き直ると、

 

「いいんです。人には向き不向きがあるんですよ……どうせ私なんて……」

 たんぽぽに話しかけながらいじけていた。

 

「あちゃー……」「あはは……」

 前途は多難だった。

 

 

 

 

 

 

    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――お待たせいたしました。お客様。ショコラワックフルーリーとストロベリーワックフルーリー、クッキーワックフルーリー、そしてダブルポテトでございます。……お客様?」

「え、あ、はい、すいません」

 

 なんとなーく、ことほのうみの三人娘が今まともにビラを配れているのか心配してたら、店員さんの声に反応が遅れた。まぁとりあえず大丈夫だろ……と信じたい。

 謝りつつもトレーを受け取り俺は階段を上る。禁煙は二階か、よし。

 

 待ち合わせ場所で合流したはいいが、三人であのまま外にいるわけにもいかないので、とりあえずどっか入るかという流れになり、近くのファストフード店に入ったのだ。

 店内は放課後の時間帯ということもあり、多くの学生が目に入る。そう大して見た目に差のない制服ばかりのせいで二人を探すのが困難――にはならない。鮮やかな金髪はたとえどこにいようと、この黒髪主義(クロカミズム)の国の中では目立つのだ。もっとも、

 

「行人さーん、ここでーす!」

「ちょ、ちょっと亜里沙。声が大きい」

 

 亜里沙ちゃんを慌てた様子でたしなめるのは彼女の姉である、絢瀬(あやせ)絵里(えり)

 どっかの誰かさんたちを彷彿とさせるやりとりに苦笑しつつ、俺はその席へと向かう。

 

「お嬢さん方、ご注文の品をお持ちいたしました。なんつってー」

「ハラショー! やったぁ♪」

「ありがとう日高くん、でもポテトって……頼んでたかしら?」

「んにゃ、これはまぁ……お店のサービスってことにしといて」

 

 腰を下ろし、それぞれの前に、亜里沙ちゃんにストロベリー、絢瀬にはショコラ、そしてボクチンにはクッキー、そして真ん中にポテイトォと置いていく。

 

「へぇ、凄いのね……」

 ちょっと待ちなさい。なんか普通に納得されちゃったんですが。いくらジャパンのサービスは世界一とはいえ、そんなサービスはございませんことよ。

 どうすべきなんだこれ、今更訂正するのもこっ恥ずかしい。なんで難しい表現を使ってしまったんだ俺。

 

「え、行人さんが買ってくれたんじゃないんですか?」

「いや、まぁ……はは」

 

 さすがだよ亜里沙ちゃん。だが君の発言を正解にしてあげたいのはやまやまだが、不正解でもある。その証拠に、ようやく意味するところを察したらしい絢瀬は、自分がとんちんかんな反応をしていたことに頬を朱に染めている。

 

「ご、ごめんなさい……」

「いや、別に気にしないで。ここのポテトうまくてさ。このフルーリーにつけて食べると、甘じょっぱさがくせになるからおすすめなんだよ。もちろん単品でもうまいけどね」

 

 ありがとうございますっ、いただきまーす。とさっそく、もきゅもきゅ食べ始めた亜里沙ちゃん。やだもうこの愛娘、テイクアウトお願いします。ってかほんと目尻下がっちゃうわ、これじゃパパじゃなくて、じぃじだよ。

 

「そ、そうなんだ」

 やがて、隣の亜里沙ちゃんがにこにこしながら食べてるのを見届けてから、おずおずとポテトへ手を伸ばす。言われた通りに自分のフルーリーにそれを絡ませると、不思議そうな顔で、ぱくり。

 もぐもぐとあごを動かしながら、目を見開くと、

「ハ、ハラショー……っ!」

 

 うわぁ、家族って結構妙なとこが似てしまうもんだが、そこのリアクションか。さしずめ、美味しくて、美味しくて、震えるって感じ。

 まぁでも、うまいと思ってもらえたなら良かったんだけどさ。

 

「良かった良かった。あのさ、絢瀬って、ファーストフードとか食べないの?」

「あ、うん。そうなの、実はあまりこういったお店には入ったことなくて……」

 

 奥さん、聞きました? こういうお店にはあんま来たことないんですって。いや、だってここファストフードっすよ? どこの駅前にも必ずあるチェーンだし。どうして、やっぱピロシキないとダメなの? と口に出かかったのをどうにかこらえて、

 

「そっか」

「う、うん……」

 会話しゅーりょー。

 

 うーむ。

 病院で初めて会ってからもう二年ちょいぐらいか。割かし機会を設けて会っている亜里沙ちゃんとは別に、彼女とは亜里沙ちゃんがたまに連れてきた時にしか顔を合わさないから、なんというか、向こうは俺との距離感をいまだに測りかねてるのだろう。それくらいは俺にもわかる。

 

 歳は俺と同じく、花も恥じらう高3の17(セブンティーン)だったはずだ。学校は奇遇にも音ノ木坂に通っているということは知っているが、そこで何をやってるかまでは踏み込んだことはない。

 

 なんと称すべきか――知り合い以上友達未満、そんな妙な関係なのかもしれない。

 

 少し思考にふけっていたからか、黙った俺に対し自分からもキャッチボールをしないとでも思ったのだろう。絢瀬は意を決したように口を開いた瞬間、

 

「あ、お姉ちゃん! 見て、A-RISEだよ!」

 店内の液晶ディスプレイにA-RISEのPVが流れ出し、それに反応した亜里沙ちゃんに先を越されていた。

 

「あ……うん、そうね」

 結果的に言えば話題が出ることにはなったので、絢瀬も苦笑しながら亜里沙ちゃんの指差す方へと目を向ける。

 

「亜里沙ちゃんも、やっぱスクールアイドルは好きなの?」

「はい、やっぱりスクールアイドルは歌って踊れて、キレイで、すごくかっこいいと思います!」

 

 おーおー、瞳を輝かせちゃって、天真爛漫ってのはこの事か。まぁああいったものに一番憧れる年頃だしな。うん、お兄さんも経験がありますよ。

 

 だが、その一方で絢瀬の眼差しは真剣そのものだった。普通のファンなら漫然と、わーすごーいで流すような、A-RISEの身体の芯の運び方、喉の動きにいたるまで一挙手一投足をその碧眼が逃さぬとばかりに追っていた。

 

 思わず息を飲む。

 

 静かな迫力に気圧された俺はフルーリーをかき混ぜ、ただ渦を作ることに心を傾けようとする。

 

 

 

 

 

 

「――わからない」

 

 ぼそっとつぶやいた絢瀬の声が耳朶(じだ)を打った。

 

 いったいどういう意味なのだろうか。あれだけ真剣に見入っていたというのに。

 聞き返すべきか、否か。逡巡する。それははたして踏み込むべき領域なのかがわからなくて、

 

「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに」

 

 逃げるように去るその背中を、俺は無言で見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

    ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 穂乃果とことりが根気よく励ました結果、いきなり大人数ではなく、個人、それも新入生に狙いを絞ったらどうかということになった。

 

 羞恥心を湧き起こす一因は何かと二人に問われた海未は、自身でも理解している普段は真面目で堅物な所とアイドルをやるという事のギャップを、どう思われるかと考えると恥ずかしいんです……と答えたのである。

 ならばと、二人はまだ学校に入ったばかりで、海未のことを知るよしもないであろう新入生なら大丈夫ではないかとアドバイス。

 

 それを受けて、ふがいないという自覚があった海未は、や、やってみますと、ようやく立ち上がる。

 

 すると、今にも校門を抜けようとしている小柄な背中が目に入った。

 

 あどけなさの残る黒髪にツインテールが特徴的な生徒。

 それはきっと、私服登校だった中学の時の気分がまだ続いている証左に違いない。余裕のなくなっていた海未は参りますと穂乃果とことりに言い残し、同じ手と足を一緒に出すというガチガチな状態で近づいていった。

 

 ――平常心平常心、集中集中、そうこれは弓道の「澄まし」のようなものです。深呼吸。吸って、吐く、吸って……吐く。よし、今です!

 

「すみません、私達スクールアイドルとして今度ライブをするんです! よろしければ、ぜひ来てください!」

 

 追いついた小さな背中に、先ほどの二人のやり方を参考に組み立てた文章を一気呵成にまくしたて、頭を下げながらビラを差し出した。微妙な無言の後、その指先からビラが抜かれる感触に、喜色をたたえた海未の顔が上がり、

 

 三年生のリボンが目に入るのだった。

 

「ルァイブでぇすってぇ~!?」

 

 もの凄い顔をしていた。

 

「ア・ン・タたちが、やるわけ?」

「え、え、あ、はい、一応…………です、けれど」

 

 ビラ自体に食いついてはくれているが、完全に予想とは違う展開に海未は穂乃果とことりに助けを求めようとする。しかし、すでに二人とも他の生徒たちへのビラ配りにいそしんでおり、こちらを見てはいなかった。

 

 ――は、薄情者~~~~!

 

 これは、あれだ。小さい頃、自転車に乗れるようになるために、行人に練習を手伝ってもらった時に似ている。後ろの部分を絶対に、絶対に離さないで下さいと厳命しながら押してもらい、ようやく乗れたと振り返ったら後ろに誰もいなかったという在りし日の思い出。

 

 ――そのままどうにか一周し、元来た道を爆速で戻って、駄菓子屋の前で「ち、またアウトだよ~」とか抜かしながらバットチョコを頬張っていた行人くん目がけて直進し、絶望の表情を浮かべさせたんですよねあの時はあははうふふ――

 

 固まり、現実逃避を始めた海未とその向こうの穂乃果とことりを一瞥すると、先輩はフンと鼻息荒く踵を返し行ってしまった。

 

 そして穂乃果とことりが全てを配り終えて戻ってきた時になって、ようやく海未に再起動がかかる。ハッ!? と我を取り戻した海未を待っていたのは二人の白い目だった。

 

「海未ちゃん、……なんでせっかく配ったのに固まってたの?」

「ち、違うんです。これは、予期せぬ事態が、想定外で」

「私たちもう終わっちゃったよ?」

 

 言い訳をいくら繕ったところで、それが現実だ。すみません……、とシュンとしてしまった海未に、二人は目配せしあうと、

 

「いいよ、海未ちゃん、残りをまた三つに分けてがんばろう?」

「うん。まだ時間はあるから、大丈夫だよ。海未ちゃん」

「はい……、ありがとうございます。二人とも……はぁ」

 

 すっかり落ち込んでしまった海未がビラを分配しようと、

 

「――あ、あの!!」

 

 半分裏返ったような声が飛び込んできた。三人が声の主を探すと、ことりの背後で眼鏡をかけた新入生が恐々としていた。

 

「どうかしましたか?」

 優しく微笑みかけることりに、新入生は、

「あのぅ……えと、わ、私にも、そのチラシを、く、ください!!」

 

 三人は思わず顔を見合わせる。どう見ても、上級生三人に対し、おとなしそうな下級生が必死に勇気を振り絞って話しかけたようにしか見えなかった。その姿に、一歩進み出た海未は、

「どうぞ。今度、ライブをやるんです。もしよければ、ぜひ来て下さいね」

 ごく自然な動作で笑みを浮かべながら、ビラを手渡すことが出来た。

 

「は、はい! ぜ、絶対、行きます!!」

 まるで賞状のようにそれを抱きかかえて、下級生は何度も頭を下げる。そこに、

 

「かよちーん、待ってよぉ~!」

 勢いよく駆け込んできた新しい陰は、

「いきなり走り出すなんてひどいにゃー!」

 友人のおかれている状況を理解できていない様子で首を傾げた。

 

「あ、ご、ごめんね、凛ちゃん!」

「お友達?」

「は、はい、そうです!」

 かよちんと呼ばれた少女は凛という少女の隣に並ぶと、軽く自己紹介を始めた。

「い、1年1組に入りました、こ、小泉、花陽です! よろしくお願いします」

「え、えっと? 同じ1組の星空凛です?」

 

 事情を飲み込めぬままとりあえず右へならえで合わせた凛に、三人から思わず笑い声が漏れた。だが、すぐに、

 

「2-2の高坂穂乃果です。この学校のスクールアイドル、やってます!」

「同じく2組の園田海未です。ええと……み、右に同じです」

「南ことりです、よろしくね? 私も二人と一緒にやってます」

 

 結局全員で自己紹介をすることになった。

「先輩方と、かよちんは知り合いなの?」

「い、いや、そんな恐れ多い! わ、私は先輩方がライブのチラシを配ってたから頂けないかなって、思って」

 

 ライブ? と疑問の声を上げた凛にも海未はビラを渡す。それを一読し、得心がいったのか、

 

「あぁあの掲示板の所に貼ってあったポスターの!」

「あ、見てくれたんだ、ありがとう!」

 

 えっへんと制作者である穂乃果は胸を張るものの、海未が色使いは最悪ですけど、まぁ目立つは目立ちますからねぇとこぼすのを聞いて抗議する。

 

「えー、うちにあるマーカー全部使ったんだよ!?」

「そういう問題ではありません。まったく。だいたい、私が指摘するまでグループ名やメンバー募集中の記載をするのを忘れていたでしょう!」

「それはそうだけど……あの箱作ってたら、忘れちゃったんだから仕方ないじゃん!」

 

 しかも徹夜でだ。おかげで穂乃果は午前中の授業の記憶が全くない。

 

「グループ名、決まってないんですか……?」

 言い合いをやめない穂乃果と海未をよそに、花陽はことりに尋ねる。

「うん、色々と考えてはみたんだけれど、これだっていうのが出てこなくて……」

「わ、私も協力できればいいんですけど……あまり、こういうのは……」

 

 そう易々と出てくるものではないのはもちろんことりたちにもわかっている。だが、早く決めなければいけないのもまた事実だった。

 

「うん、ありがとう。さっきも箱の中を確かめたんだけど、一つも入ってなかったし、しょうがないのかも……」

 どうしようと、眉尻を下げることりに、話を聞いていた凛が、あっけらかんと、

 

「あのー、それならさっき、入れてる人がいるところを見ましたよ」

 

 全員が、固まった。

 

「え「えぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!!???????????」

 その場一帯にいた通行人が振り向くくらい、誰よりもデカい声を上げた瞬間には、もう既に穂乃果は駆けだしていた。それを「穂乃果ちゃん!」「穂乃果!」と続く形で、二人が追いかける。

 

 校庭を吹き抜ける一陣の風となって、玄関口に飛び込み、上履きに履き替えることすらせず靴下のまま廊下に上がって、すがりつくように穂乃果は箱を抱える。

 

 その中には、

「――、あったぁ……!」

 

 二つ折りにされたルーズリーフが確かに転がっていた。

 

 ごくり。

 

 ツバを飲み込み、穂乃果はそれをつまみ上げて開く。

 

 

 

 

 

「はぁはぁ穂乃果!」「っはぁ、ほ、穂乃果ちゃん!」

 穂乃果から遅れること、3テンポ。息も絶え絶えの様子でやってきた海未とことりは、箱の前で紙片を両手に立ち尽くしている穂乃果の横について、

 

「な、なんて書いてあったんですか!?」

 緊張の一瞬、

「よ、」

 二人の体制が前のめりになる。

「「よ……?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「読めない……」

 ズコ――――――ッとその場で器用にこけた海未は、立ち上がるや否や穂乃果が差し出す紙をひったくり、ことりと共に、そこに書かれた文字を覗き込んだ。

 

 

『μ’s』




彼女たちはとんでもないものを盗んでいきました。
私の心です。

\A-RISE!/

いたた、物を投げないで……っ

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