「――さて、んじゃ始めるぞ」
「はーい!」「はい」「はい♪」
俺たちは現在、各自の家にいながらメッセージアプリ「Link」のボイスチャットによってつながっている。
家で鼻くそほじりながらでも、多人数と無料でおしゃべりできるこの文明の利器を初めて使った時の衝撃は凄かった。女子がいつまでも長電話する理由が理解出来た気がしたものである。
まぁそんなことは置いといて、
「えーまず「バリッ、ボリッ」、おい、人が話そうって時にせんべい食うんじゃありませんよ!」
「えぇっ!? なんでわかったの!?」
音でバレバレだし、その度お前のアイコンがピカピカって光ってるんだよ、
「こんな時間に間食なんて、太りますよ穂乃果」
「えぇ~せっかくおしゃべりするんだから、お菓子欲しいよ~」
あかん。ダメだこいつ。趣旨をまったく理解しておらんではないか。夜中にLinkでグループ通話しようといったのは、楽しくおしゃべりしようね♡ って意味じゃねーから。
「ったく、今一度趣旨を説明してやr「パリッパリッ」今度はポテチかい!!」
「すごーい! やっぱユキちゃんって耳いいんだね」
「誰だってわかるわ!! ええい、話が進まん!」
くそっ、こんな夜中に、うまそうな音立てやがって、これはもうテロですよテロ。俺はテロには屈しない、そう断じて!!
「いいか、よく聞けサクカリッ」
「あの、行人くん。気のせいか今似たような音がそちらから」
「むぐっ、気のせい。ガリッ」
「ゆーくん、アイコン光ってるよ?」
「だから気のせいだって、誰がこんな時間にじゃがりっ子なんて食べるかよ。お子ちゃまか」
「えぇ!? ユキちゃん、じゃがりっ子食べてるの!? ずるーい!! 私も食べたーい!」
俺は優雅に10センチくらいのそれを人差し指と中指にはさみ、気分はシガレットで出るわけない紫煙を吐き出した気になった。
「貴様が悪いんだ。俺にこんな冷酷な手段をとらせるとはな。やっぱりサラダは至高だわ」
「えぇ~チーズだよ~」
「何ッ!? 貴様ぁ~……よくわかってるじゃないか」
「この二人は放っておきましょう、ことり」
「あはは……、そだね」
海未は、一拍置いて、
「とりあえず現状の確認をしましょう。ひとまず約一週間後に新入生の歓迎会があります。そこで、新入生たちは午後の五六時間目を使い各部活動の見学などをして回ります。本当なら、その時間帯でライブが出来れば望ましいんですが、」
まぁそりゃあ、考えるのはみんな同じだろうな。誰だって一番費用対効果の高い所を狙う。CMだってそうだ、一番スポンサー料が高いのは人気局のゴールデンタイムの人気番組なのだから。
「はい、その時間はもうすでに他の部活動に取られていました。もっとも、仮に空いていたとしても正式な部活動ではない私たちが取れたとも思いませんが……」
補足することりによると、三人は音ノ木の生徒会長にアイドル活動をかけあってはみたが、正式な部活動として認可を受けるためには少なくとも部員が五名必要であることを理由に突っぱねられたらしい。
何しろ三人だからなぁ。さすがに無理は通らないだろう。正式ともなれば予算も下りる。仲良し三人組がノリで作ったよくわからん部活動が乱立しては
「にしても、お前らの話しぶりだと。その生徒会長さんってなんつうか……あんまお前らのことよく思ってないのか?」
「うん、ちょっとぐらいいいじゃんね。ぶ~ぶ~」
「穂乃果はちょっと黙っててください。そうですね……生徒会長も廃校の件に関して以前から色々と考えて行動していたみたいですから、いきなり横から現れて虫のいいことを言う私たちをあまりよく思わないのは……当然かと」
「うん……前にそこら辺の話をお母さんが少しこぼしてた……色々な企画をしてくれているけど、あまり効果がないみたい」
上に立つ人は地位に付随する責任を背負うことになる。こいつらには悪いかもしれないが、音ノ木の生徒会長には少し同情する。
「あーあー、真姫ちゃん入ってくれないかなぁ。そうすれば四人!」
「それでもまだ一人足りないよ穂乃果ちゃん。それに一週間で二人も増えたら、ちょっと衣装が間に合わないかも……」
おっと、話がずれてたな。
「そのお前らの部活動の認可云々はおいとこう。海未」
「そうですね。ええと、そう、さっき言った理由があって、私たちが講堂を使えるようになるのは放課後ということになりました。帰ってしまう新入生、在校生もいるとは思いますが、それでもまだ学校に残っている子たちはいるはずです」
放課後か……、大丈夫だろうか。
「――行人くん? 聞いてますか?」
「あ、いや、悪い、続けてくれ」
やる前から縁起でもないことを考えるのはやめておこう。
「この一週間で私たちは、ライブの告知や準備をしていかないといけません」
「衣装はことりちゃんが作ってくれるし、準備はヒデコちゃん、フミコちゃん、ミカちゃんも手伝ってくれるって言ってたし、曲だって真姫ちゃんが作ってくれる。うん、大丈夫!!」
そうだなと頷きかけて――、
「あれ、つか素朴な疑問だけどさ。西木野さんって歌詞もつけてくれるのか?」
「「「え?」」」
いや、曲だ曲だと騒いでいた俺も悪いんだが、何故そこでハモるのキミタチ。
「ちょ、ちょっと真姫ちゃんに訊いてみる!」
別れ際に連絡先を交換していた穂乃果が西木野さんにそのことを訊いてみると席を外し、すぐに戻ってくる。
「『歌詞ぐらいはそっちなんとかしなさいよ!!』だって」
「えぇ!? どうするんですか!?」
しくったな、どうするべきか。
「歌詞……歌詞、詞、詞……詩? あっ」
俺のつぶやきを察したのか、すぐさま、
「歌詞ってようは歌の詞だよね! ことりちゃん!?」
「うん、そうだよ穂乃果ちゃん!」
「な、適任者いるよな?」
「え、だ、誰ですか!?」
そして訪れる沈黙。
「え、何故、みんな黙るんですか」
「いやぁ……だってそりゃなぁ?」
「うん、――海未ちゃんしかいないよ!」
また沈黙が訪れる。意味を咀嚼してるな……はい、そろそろ理解しまーす。
「無理です!! そんなの絶対無理です!!」
声デッカ! 慌てて俺はボリュームを下げる。
「出来るよ! 海未ちゃん小さい頃からノートに詩みたいの書いてたじゃん」
「な、何故それを……ッ」
「今でも学校で時々ノートの隅に書いて、すぐ消したりしてるよね海未ちゃん♪」
「こ、ことりッ!?」
「うん、あのな、ノートのタイトルんとこに『詩集』って直接つけちゃうのはやめといた方がいいと思うよ俺も」
「○!※~□◇#△!」
昔、穂乃果に貸した漫画を返してもらおうとしたら、海未の家に持って行ってそのまま置き忘れたとか抜かしたことがそもそもの原因なんですよ。無性にその漫画を読み返したくなった俺はわざわざ海未のお婆ちゃんに許可をもらい、悪いと思いつつも留守中の海未の部屋へと上がらせてもらったことがある。本棚の目立つ所に置いてあった漫画を首尾良く発見し、そそくさと退散しようとした俺は海未の机の上に1冊のノートがあるのも見つけてしまう。
表紙に書かれた綺麗な文字はすなわち「詩集」だった。
――国語のノートか? でもそれだったら国語って書くだろうし、あの堅物の海未だ。きちんとタイトルと内容はそろえてくるだろう。
ついつい好奇心に負け、開いてしまった俺はパラパラとめくる内に全身に鳥肌が立つの感じ、そっとそれを閉じた。
そのまま亜音速で自宅に帰宅した俺は毛布を被ると、一晩中明かりを付けっぱなしのまま、俺は何も見ていない俺は何も見ていないと唱え続ける羽目になった。もし電気を消したら髪の長い女が「よくも……見ぃたなぁ……!」って、凄まじい形相で襲いかかってくるのではないかと思うと怖くて眠れなかったのだ。
だが、あれから幾星霜を経た俺は恐怖を乗り越える。
「リリカルポエマーなお前ならきっと出来る、海未!」
「ファイトだよ! 海未ちゃん!」
「応援してるね! 海未ちゃん♪」
「…………はぁ、わかりました。どうせ、嫌だと言っても受け入れないんですよね」
うぉ、やったよ、なんかやけに物分かりがいいぞ。これは、ことほのゆき大勝利の気配……?
「ありがとー! 海未ちゃん!!」「よかったね、穂乃果ちゃん!」
「いやぁめでたしめでたし」
軽く拍手をした俺の元に、家のインターホンが鳴るのが聞こえた。む、こんな夜中に何やつだよ。今日は俺一人でお留守番の日なんだから、手間をかけさせるんじゃありませんよ。
「……ただし……」
「あ、すまん。ちょっと来客みたいだから一旦席はずす」
海未がぼそぼそ言っていた気がするが、まぁいいや。
俺は玄関の電気をつける。念のため、覗き穴から礼儀知らずのツラを拝んでやろうとするが、どういうわけだか、扉の向こうには誰もいない。
怪訝に思いつつ外に出た俺は、辺りを見回すも、やはり誰もいないことに首を傾げ、
背後。
「……ただし、」
振り返ったそこには、
「手伝ってもらいますから……さっきの話を聞かせてもらった後で、ね」
――行人くん。
スマホを片手に凄まじい形相を浮かべた髪の長い、
「た、たしけ……っ!!」
てと最後まで言うことが出来ず俺、は、
「んー、ゆーくん遅いね、穂乃果ちゃん」
「ほんとだね。何してるんだろー? 海未ちゃんもいなくなっちゃったし」
「「んー?」」
二期開始の勢いで書き上げてしまった……。
#10に入れるか、ボツるか考えたんですが、せっかく書いたので間のお話ということで投稿させていただきます。