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ネルガル・・・・・・それがアカツキの組織の名だ。
正確には、『ネルガル重工』という。
一夏には、その名に覚えがあった。
それもそのはず、ネルガル重工といえば、誰もが知っている電気メーカーの名前だ。しかもそれ以上に、ISが開発される前から宇宙開発に取り組んでいる会社でもある、世界でも有名な組織だ。
アカツキは自分がネルガルの会長だと言うと、ボロボロの状態の一夏でもさすがに驚いた。
まさか目の前の軽薄そうな男が、『あの』ネルガルのトップだとは・・・・・・
一夏は最初こそ信じられなかったが、自分を助けたのがアカツキだと言うことを思い出すと、会長かどうかは分からないが、それなりの権力をもっていると推察した。
そしてアカツキが言うには、ネルガルでもISを開発しているらしい。
そのテストパイロットとして、実戦のデータを一夏に取ってきてもらいたいらしいのだ。
兵器にとって、実戦データはとても貴重な物だ。それが命がけの戦いなら尚更に。
一夏にとってもこの話は重畳なことだった。
一夏自身も覚えている、『ISを男でも動かせる方法』を確立されたこと。これにより、
『北辰』も当然ISを使ってくると・・・・・・何故だか一夏は確信していた。
ならば奴を殺すには同じISで無ければ戦えない。そのためにはISが必要だった。
まさに一夏にこの話は天啓であった。
この話を一夏は即座に受諾した。
アカツキもそんな一夏の反応に満足した。
そして一ヶ月後。
一夏は日常生活を何とか送れる程度には回復した。
相変わらず味覚と痛覚が無いままだが、一夏は気にならない。一夏は北辰を殺す以外に何の関心も抱かない。ただ殺す、それのみが彼を動かしていた。
退院と同時にアカツキに連れて行かれたのはネルガル本社の地下研究所だった。
そこで一夏は対面する。
自分の刃(やいば)を・・・・・・
「こいつは・・・・・・・・・」
一夏の目の前に置かれているのは人型だった。
ショッキングピンクが眩しく彩りを与え、足のふくらはぎ辺りにキャタピラのようなローラーが付けられている。
「確かISはまだ完成していないと聞いたが?」
「もう出来てはいるんだよ。ただ・・・・・・せっかくだから派手に宣伝したくてね」
そしてアカツキはこの機体の名を言う。
「これが我が社が開発したIS『エステバリス』だよ。中々イカすでしょ」
ここでアカツキはこのISを使うための条件を言い出した。
今から約二年後にIS学園に入学してもらい、そこでこのエステバリスをお披露目すると。そのために今からでも使ってはいいが、人にはできる限り見られないこと。当然反抗もしないようにと一夏は言われた。
何故二年後にそんなことをするのかと言えば、世界初の男性操縦者として表に出てもらうためだ。そうすればエステバリスにも泊がつくというもの。少なくても二年経ってもISを操縦できる男が居ない前提の話だが。今すぐにでも北辰を殺しに行きたい一夏だったが、さすがにこの衰えボロボロの身体では勝てないと踏み、一年は訓練と操縦に時間を割くことにした。そして後の一年から動きだそうとも、決意した。
そう計画を立てている一夏を尻目にアカツキが自慢そうに言うが、一夏にはこのISが奇妙な物に見えた。
通常、ISというのはシールドで全身を守られているため、装甲はそこまで必要ではない。
しかしこの目の前のISは全身装甲なのだ。
そのことを悟られたのか、アカツキは更に説明する。
「こいつはまさに、『実戦用』さ。こいつには通常のシールドは無いけど、絶対防御は何とか働くようにはなっているよ。シールドの代わりに、我が社で開発した特殊なフィールド『ディストーションフィールド』を持ってる。これがあれば実弾だろうが光学兵器だろうが、重力子砲だろうが、何だって防げる・・・・・・理論的にはね。少なくとも、現在あるISよりも最強だと思っているよ、僕は。例外を一つ除いてね」
そう答えるアカツキの表情が少し陰る。
「例外?」
「君も分かってるからこの話を承諾したんだろ。そう、奴等『亡国機業』、それもその中の一組織、『クリムゾングループ』の実働部隊。奴等はきっとISを使う。そしてそれには、このエステバリスでも勝てるか分からない」
「何故だ? 強いんだろ、このISは」
そう一夏が聞くと、アカツキは少しおかしく笑いながら話し始めた。
「恥ずかしい話なんだけど、元々ネルガルとクリムゾングループは一緒の組織だったんだ。それが離反して今のようになった。向こうも僕たちと同じ技術を持っているというわけさ」
同じ技術を持っている以上、同じような能力を持った機体が作れるということ。
同じ能力同士がぶつかり合った場合、勝つのは能力ではない。それを使う技術に他ならない。
「だから君が彼奴等と戦って勝てるかは保証できないんだ」
そうアカツキは言うが、一夏はそんなことを気にしたりはしない。
「別にいい。勝てるか勝てないかじゃない。殺せるか殺せないかだけが重要だからな」
そう一夏は淡々と応える。それ以外の答えを一夏は持ち合わせない。
「うん、実にイイ応えだ。これなら君にこいつを任せられる」
アカツキはとても満足な様子で一夏を眺めていた。
一夏は目の前のエステバリスを見て、悪鬼のような笑みを浮かべていた。
「これで・・・お前を殺せる。待っていろよ、『北辰』」