【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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【あらすじ】
避難民に同行しようと思ったものの、
子供のファラに泣き付かれて断れず、
戦場へ向かう事になりました。


本編の10年前 神ネレイド戦

 ネレイド神に肉体はありません。精神のみの存在です。なので人に憑いて行動します。とは言っても、完全に肉体を乗っ取る訳ではありません。その人の精神は残っています。精神を上書きしたり、相手と融合したりする憑依ではありません。相手を自分と同じ物にする同化と言えるでしょう。

 要するに、人格は失われないのです。ネレイド神に憑かれた村長さんも、人格は残っています。村長さんの子供であるファラを見れば、自身の娘と認識できるでしょう。しかし、ネレイド神がファラを殺そうと思えば、憑かれている村長さんも娘を殺そうと思うに違いありません。

 そんな村長さんを発見しました。体から黒いモヤを立ち昇らせて、明らかにボスっぽい雰囲気です。村長を止めるために残った、猟師のビッツさんは見当たりません。あっちこっちに転がっている、黒焦げステーキの中に含まれているのでしょうか? 村は火に包まれて、暑苦しくなっています。 

 小人さんにお願いして、辺りにフリーズランサーを撃ってもらいましょう。なんて考えたものの、そんな事をすれば村長さんに気付かれます。ここは熱いのを我慢して、村長さんを仕留めるべきです。そう思った私は小人さんに、村長さんに向かってフリーズランサーを放つようにお願いしました。

 

「小人さん、小人さん。あそこにいる人に向かって、フリーズランサーをお願いします」

<おやすいごようです>

 

 あいさつ代わりにフリーズランサーを打っ放します。空中から氷が湧き出ると、村長さんに発見されました。村長さんに晶霊術の発動を感知されたのでしょう。しかし村長さんは攻撃体勢に移りません。それを不審に思った私は身を隠すのを止め、その場から走り出しました。すると地面から、炎が吹き上がります。

 晶霊術の規模から察するに、下級ではなく中級の晶霊術でしょう。思っていたよりも、使用できる晶霊術は強いようです。せいぜい下級のファイアボールを使える程度だと思っていました。村長さんはクレーメルケイジを持っていないので、ネレイド神の力を用いているのでしょう。

 危うく火だるまになる所です。髪に燃え移ると困ります。もしも火の晶術を受けたら、火傷を負うのです。ゲームのように体力が減るだけ、なんて事はありません。私は回復用の晶術を使えないので、怪我や火傷を治すことはできません。私は攻撃された事を、村長さんに抗議しました。

 

「いきなり何をするんですか。危うく火だるまになる所です」

「ビッツの次は君か! 君も私の邪魔をするのか!」

 

 あらら、やっぱり猟師のビッツさんは退場していたようです。それにしても、村長さんが返事をするとは意外でした。ネレイド神に憑かれて、会話が出来ない訳ではないようです。そうは言っても、村長さんの説得は無意味でしょう。ネレイド神という巨大な精神体は、人の精神で抗える物ではありません。

 ネレイド神に憑かれていると分からない人から見れば、村長さんの変わりっぷりに驚きます。ストレスを溜めすぎて、弾けちゃったと思われるでしょう。自分の手で村を壊滅させて、どんな気分ですか? 泣いて悔しがっていますか? 気になるので聞いてみました。

 

「村長さん自身の手で村を壊滅させるなんて、そんなに溜まってたんですか?」

「邪魔をするなぁ!」

 

 まるで話が通じません。村長さんは剣を持って、こちらへ駆けてきます。ネレイド神に憑かれていても、村長さんの剣技が衰える事はありません。剣も魔法も使える魔法剣士タイプに進化しています。とりあえずフリーズランサーを発動させて、カカカカカッと村長さんに撃ち込みました。

 フリーズランサーは点ではなく、面による攻撃です。村長さんは回避できません。いいえ、回避は出来るけれど、下手に避ければ怪我を負うでしょう。なので村長さんは剣を振るって氷の槍を迎撃し、壊し切れない分は火の玉を飛ばして破壊しました。そうして私のフリーズランサーを切り抜けます。すごいですね。

 

「すみません。甘く見ていました」

 

 正直に言うと、最初のフリーズランサーで勝てると思っていました。ネレイド神に憑かれていると言っても、村長さんに素質はありません。素質がないので、闇の極光術を使える訳ではないです。それなのに、そんな小技で私のフリーズランサーを切り抜けるなんて驚きました。フリーズランサーの弾幕が薄かったのですね。

 私は背後に大きな魔方陣を展開します。そこから無数の槍が、先端を覗かせました。そして村長さんに向かって、大量の氷を撃ち出します。魔方陣を背後に展開したのは、私の視界を塞がないためです。それほど数多い氷の槍は、村長さんの姿を覆い隠しました。

 しかし氷の隙間から、村長さんの姿が垣間見えます。「うおー!」という声も聞こえました。氷の槍を弾きながら、こちらに向かってきています。もちろん全ての槍を弾かれている訳ではありません。村長さんの体に当たっている槍もあります。それらの槍は村長さんの体を貫くことなく、当たった瞬間に弾かれていました。

 その現象に対して、闇の極光術を私は疑います。闇の極光術は、ネレイド神の使う神の力です。それは晶霊を体内で混ぜ合わせ、反発させる事で大きな力を生み出します。どこぞの魔法教師が使う、気と魔力の合一のような技です。その晶霊を取り込む過程を利用して、フリーズランサーを分解しているのかと思いました。

 しかし本編に、そんな描写はありません。晶霊術を無効化するなんて力はないはずです。そんな力があったら、ネレイド戦が大変な事になります。テイルズオブファンタジアに登場したラスボスさんのように「物理攻撃を受けると体力が回復する」のではなく、「魔法攻撃を受けると体力が回復する」ようになるのかも知れません。そうなると、私のような晶霊術士が使えない子になります。でも、そんな事はありません。

 魔法無効化能力という可能性も考えます。どこぞのアスナ姫のように、晶霊術を無効化しているのでしょうか? 光の極光術に「極光壁」という、次元の壁を作り出して敵の攻撃を無効化する技があります。しかし、ネレイド神の用いる「闇の極光術」で、何かを作り出すことは出来ません。「闇の極光術」で、次元の壁を作り出すなんて事はできません。おまけに「闇の極光術で晶霊術を無効化できる」なんて話も聞いた事がありません。

 

「ああ、剛体ですか」

 

 答えは、もっとシンプルな物でした。剛体もしくはスーパーアーマーと呼ばれる状態でしょう。その状態になると攻撃を受けても怯まず、詠唱を中断される事もありません。そんなスーパーな状態に村長さんがなっているのは、ネレイド神の仕業でしょう。とりあえず、ダメージは蓄積しているはずです。

 村長さんは私に近付きつつあります。なので空飛ぶ氷の槍を踏んで、私は空中へ登りました。槍を足場に代えて、空へ駆け上がります。足を止めれば私の体は、槍から滑り落ちるでしょう。射出される氷を踏むのは難しいのです。最初の頃は、そうでした。しかし今では慣れたものです。

 村長さんの体も浮き上がります。ああ、そう言えばネレイド神も空を飛べました。大地を隔てる空の海面まで、浮き上がる力を持っています。これは厄介です。私はフリーズランサーの射出を行いつつ、空を駆け上がります。さらにフリーズランサーも詠唱を始めました。

 とにかく逃げ回って、詠唱の時間を稼ぎます。村長さんの撃ち出すファイアボールと、私の撃ち出すフリーズランサーが衝突しました。村長さんに照準を合わせるのは難しく、空中におけるフリーズランサーの命中率は下がっています。まあ、闘技場に出現するハーフエルフのように、見当違いの方角へ射出されるよりはマシでしょう。

 フリーズランサーの射出を止めて、足も止めます。そうして落下を始めた私に向けて、村長さんが浮き上がってきました。真下に村長さんが居ることを確認すると、私は足下に魔法陣を出現させます。魔法陣はクルクルと回り、平面に広がりました。魔法陣の向こうに村長さんが見えます。

 

「おお、地の底に眠る死者の宮殿よ、我らの下に姿を現せ」

 

 格好つけて詠唱します。意味はありません。全く関係のない呪文です。どこぞのフェイト人形の、石柱を喚び出す呪文でした。そうして魔法陣から出現したのは、先端の尖った巨大な氷です。フリーズランサーの、でっかい版です。山のように大きな氷の槍は、村長さんに直撃しました。

 

「うおー!」

 

 おおっと、耐えています。村長さんは、氷の槍を押し返そうと頑張っています。質量的に考えて無理だと思うものの、さすがネレイド神です。おかげで、氷の槍の落下する速度が遅くなりました。このままでは氷の槍を逸らされるかも知れません。せっかく出したのに、それは勿体ないでしょう。

 

「これで終わりだと思いました? 残念、倍プッシュです」

 

 何をしたのかと言うと、氷の槍を追加しました。先に射出された氷の槍に、新しく作り出した氷の槍を衝突させます。すると村長さんは押し切られ、そのまま地面に叩き付けられました。氷の槍の上に乗っていた私は、轟音に対して耳を塞ぎます。ラシュアン村の周辺に地震が起こり、役目を終えた巨大な氷の槍はカラカラと崩れ始めました。

 ラシュアン村もペッタンコです。晶霊術を用いて作った氷は長続きしないものの、地面が大きく凹んでいます。村長さんの晶霊術で焼かれた建物も、圧し潰されて瓦礫の山になっています。あとで雨が降ると、大きな水溜りができそうです。ちょっと地形に問題があるので、村の場所を変える必要があるでしょう。

 

「そんちょーさん、あーそびーましょ?」

 

 そう言うと、黒いモヤが立ち昇りました。あらら、まだ生きていましたか。死んだと思っていたのにビックリです。次は如何しましょうか? そう思っていると、黒いモヤが人の形を作り始めました。背後霊もといネレイド神でしょう、その力が強まると共に、村長さんの体は壊れ始めました。勝手に肌が裂け、出血を増やします。これは、もう、助かりません。

 

『受けよ! 極光の洗礼を!』

 

 村長さんの声に、ネレイド神の声が重なります。「闇の極光術」の発動です。しかし村長さんに、「闇の極光術」の素質はありません。あるのならば、「光の極光術」の素質を持つリッドくんに触れた時、キラキラと光っていたはずです。つまり、むりやり発動させているのでしょう。

 これは困りました。「闇の極光術」の素質を持っていない村長さんが、まさか闇の極光術を発動できるとは思っていなかったのです。神の力である極光術に対抗できるものは、極光術に限られます。今の村長さんにフリーズランサーを撃っても無効化され、問答無用で即死判定を受けるでしょう。

 光の極光術の特性は「創造」で、闇の極光術の特性は「破壊」です。これもセイファート神に寄った表現と言えます。ネレイド神から見れば光の極光術の特性は「束縛」で、闇の極光術の特性は「解放」でしょう。創造によって「形のない物」に形を与えることで物として束縛し、その物を破壊することで「形のない物」は解放されるのです。

 要するに、ネレイド神の用いる「闇の極光術」を受けると死にます。その極光術を防ぐ方法を、私は持っていません。まさか私も「闇の極光術」の素質があるというオチはないでしょう。何の事かと言うと「闇の極光術」の素質を持っていれば、闇の極光術を無効化できるのです。極光術は同類に撃っても効果がありません。

 まさかテイルズ伝統の強制敗北イベントなのでしょうか。これは困りました。危なくなったら逃げようとは思っていたものの、今から逃げても手遅れです。空を見上げると、巨大な剣が虚空から突き出ていました。あれはHPを1まで減らされる大技です。これならば即死する事はないでしょう。でも万が一、即死すると困ります。30年間プラス10年の苦労が水の泡です。なので、やれる事はやっておく事にしました。

 

「小人さん、小人さん。私と一つになりませんか? 貴方もハッピー、私もハッピー。そんな素敵な御提案です」

<えっちなのはいけないとおもいます>

 

「嫌じゃない? それなら、おっけーという事ですね。では、やりましょう」

<あーれー>

 

 小人さんの体を、私は片手に収めます。小人さんの胴体を、片手で握り締めました。すると小人さんはビクビクと震えて、ダーとズボンを濡らします。しかし、こんな事もあろうかと私は、小人さんの胴体を握っているのです。でも、そのままだと汚いので、小人さんのズボンを剥いてポイッと捨てました。小人さん、泣かないでください。

 

「憑依合体! 小人さん!」

 

 どこぞのシャーマンキングのように、私は小人さんを体の中に取り込みます。単純に体の中に取り込んだのではなく、私の精神と混ぜ合わせました。私と小人さんの境界を崩して、一つになります。これで私と小人さんの精神は一つになりました。小人さんになった私は、フリーズランサーの呪文を唱えます。

 

『フリーズランサー』

 

 この術式を肉体に取り込みます。とは言っても、人の肉体のままでは晶術を取り込めません。内部で暴発して、肉体はパーンするでしょう。なので小人さんの晶霊としての力を用いて、一時的に肉体を変質させます。どこぞの吸血鬼が開発したという、闇の魔法と呼ばれる技法です。本来は自身の魔力を用いるものの、この世界に魔力はありません。マナを生み出す世界樹がありませんからね。なので晶霊である小人さんの力を借りました。それを用いて変質させた肉体に、フリーズランサーの術式を取り込みます。

 

『かんりょーです』

 

 ネレイド神のように、声が重なって聞こえます。これで万全の状態です。そこで空から落ちてきた巨大な剣が、地表に突き刺さります。それは漆黒の衝撃波を撒き散らしました。その衝撃波に対して、さきほど出した巨大な氷の槍を、通常のフリーズランサーのように乱射します。もはや対軍用フリーズランサーと言える、それは山でも削れそうな勢いです。しかし巨大な氷の槍も、剣の放つ黒い衝撃波に飲み込まれると消えました。残念な事に、まったく効果がありません。

 撃ち出した氷の槍は掻き消され、黒い衝撃波に私も飲み込まれます。そんな事だろうと思っていた私は、流れに身を任せました。諦めたとも言います。ゴリゴリと体を削られる感覚は、思っていたよりも早く終わりました。発動者の村長さんが、「闇の極光術」を満足に発動できる状態ではなかったからでしょう。でも、フリーズランサーを取り込んだ事で氷と化していた肉体は、あっちこっちが割れています。このまま人に戻ると大怪我なので、余った部分の氷で埋め合わせました。

 そろそろ私のTPもとい集中力が切れそうなので、憑依合体を解除します。小人さんの精神を、私から分離しました。村長さんの姿を探して辺りを見回すと、荒野が見えます。村の跡はなく、瓦礫すら残っていません。巨大な剣の落ちた場所を中心として、大きなクレーターが出来ていました。

 そのクレーターの斜面に、村長さんは倒れています。もう黒いモヤは見当たりません。どうやら、ネレイド神は去ったようです。まだ呼吸は止まっていないため、村長さんは生きているのでしょう。私は村長さんに近寄って、様子を探りました。裂けた肌から流れ出た血で、村長さんの体は赤く染まっています。

 

「村長さん、私の声が聞こえますか?」

「ああ、ロナ。君に、止めてもらえて、よかった」

 

 ロナは私の名前ではありません。ロナと勘違いしているようです。きっと意識が曖昧なのでしょう。村長さんの怪我を治そうと思っても、私は回復用の晶術を使えません。使える晶霊術はフリーズランサーだけです。「闇の極光術」の反動でボロボロになった村長さんを、助ける方法はありません。なので話を合わせてあげる事にしました。

 

「はい、ロナですよ。なにか言いたい事はありますか?」

「子供達に、子供達のせいじゃ、ない。封印は、破られていた。伝えてほしい」

 

 最後に言い残す事が、それですか。どこぞのチビのように「じつはヒメが好きでした」なんて告白するのかと思っていました。そういえば、ネレイド神に憑かれている間のことも、憑かれていた人物は認識できるようです。本編でネレイド神に憑かれていた人も、ネレイド神に憑かれている間のことを恥ずかしく思っていました。

 

「封印は破られていた。子供達のせいじゃない。ですか」

「そうだ。封印は、破られていた。子供達のせいじゃ、ない」

 

「分かりました。安心してください」

「そう、か。ああ、安心し、た」

 

「安心してください」

「ああ、ロ、ナ」

 

「はい、ロナです」

「   」

 

 

だまして、ごめんなさい




▼フリーズランサー巨大化
 「倍プッシュだ!」をやりたかったのです。

▼「晶術」となっていた部分を「晶霊術」に直しました。
 晶術だと、テイルズオブデスティニーに登場する術の名称になります。

▼『ぜんとりっくす』さんの感想を受けて、「ぞうなると→そうなると、な件」に気付いたので修正しました。こんな小さなものに、よく気付いたものだと作者は感心します。
 ぞうなると、私のような晶霊術士が使えない子になります→そうなると、私のような晶霊術士が使えない子になります

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