三好長慶の野望~何とかして生き残りたい~   作:三好長慶

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自分で何書いてるのか分からなくなった。勢いで書いた。反省はしている。だが後悔はしていない)キリッ。
 では、本編を……。


第一章 平和

 長慶の八歳の決意から一年が過ぎ、長慶は九歳になった。

 長慶がこの一年間やってきた事といえば、もっぱら武芸の鍛錬と書物での勉強に尽きる。

 武芸の方はまだ九歳であるため、そこまで上達していないが、勉強の方は順調であり現段階で並の大人よりも知識は豊富にある。

 家中の者達からは『神童』と呼ばれているほどであり、将来有望の後継ぎとして尊敬されている。

 

(といっても、前世の記憶もあるし子供にしては頭が良すぎるっていうだけだがな)

 

 長慶はなるべく自室に籠もって勉強するようにしている。

 もちろん、外にでないという訳ではない。

 武芸の鍛錬は外でやるし、父・元長と馬で遠乗り(領内を馬で走ること)に出かける事だってある。

 しかし、やはり自室内で過ごす時間の方が多い。

 長慶も出来ることなら九歳らしく外で遊んでいたいが、それをさせないのが自らの運命である。

 全ては生き残る為とはいえ、長慶にも辛いものがあった。

 

「ったく、本当に嫌になるぜ……」

 

 小言を呟きながら今日も勉強するため、本のページを捲っているとドタドタっと床を蹴る音が聞こえ、その音は次第に大きくなっていくように感じた。

 

「兄上!」

 

 バンっと勢い良く扉の障子が開き、その奥には、九歳である長慶より小さい男の子がいた。

 

「千満丸か。そんなに急いでどうした?」

「は、は…うえ…が…」

 

 余程走ってきたのだろう。

 息が整っておらず言葉も途切れ途切れであった。

 

「落ち着け。息が整ってからでいいから何があったかゆっくり話せ」

 

 長慶がそう言うと、千満丸はゆっくり深呼吸を始め、やがて千満丸の息は整っていた。

 

「落ち着いたか?で、母上に何があった?」

 

 長慶が促すと千満丸はつばを飲み込み、意を決して話す。

 

「…母上が子供を産みそう」

「産気づいたか」

 

 長慶がそう言うと産気という言葉を理解できていないのだろう、千満丸は首を傾げていた。

 まだ、五歳なのだから仕方がないだろう。

 

「分かった。今から本を片付けるから少し待っていてくれ」 

 

 長慶は立ち上がって本を自分の本棚に片付け始めた。

 

「そんなにゆっくりしてて、大丈夫なのかよ!?」

「大丈夫だ。子供はすぐには生まれない」

 

 不安なのだろう。

 千満丸は廊下をしきりにうろちょろしていた。

 いつもは生意気な千満丸のその姿を見ると長慶は微笑ましく思え、自然と笑みが出てくる。

 

「な、なに笑ってんだよ!」

 

 からかわれまいと必死に強がろうとする弟はますます微笑ましく長慶は笑みを浮かべたまま本の片付けを済ませる。

 

「さ、片付けが終わったことだし行くぞ」

「う、うん…」

 

 いつもとは違い元気のない千満丸の手を引いて、長慶は皆がいるであろう部屋へと向かった。

 

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 長慶が部屋に行くと、侍女達や家臣たちが待っていた。

 皆、四人目となると緊張も薄くなっており表情も千満丸の時と比べると幾分か和らいでいた。

 長慶が生まれそうな時は今の千満丸を笑えないほど狼狽していたようだが。

 

「あにじゃ〜」

 

 長慶が部屋に入ると、千満丸より一歳年下の弟、今年で四歳になる神太郎が迎えてくれた。

 

「神太郎、いい子にしていたか?」

「うん!」

 

 元気よく返事をする神太郎の頭を長慶が撫でると、気持ちよさそうに目を細めていた。

 

「仙熊丸様」

 

 次に出迎えてくれたのは宿老(古参の臣や家老など重要な地位に就く者のこと)の篠原長政こと爺であった。

 

「爺、いつも弟達が世話をかけるな」

「なぁに、仙熊丸様は世話を焼かない子供でしたから千満丸様達の方がやりがいがあって楽しいですわい」

 

 そのことを言われると弱い、と長慶は肩をすくめた。

 爺は今は千満丸達の世話をしているが元は長慶の傅役(養育係のこと)であった。

 だが、前世の記憶がある長慶は我が儘はあまり言わず、自分に出来ることは自分でやるようにしていたので傅役に任命された爺は暇で仕方がなかったのだ。

 心なしか長慶の傅役をやっていた時より生き生きとしている。

 長慶はその姿を見ると何故か申し訳ない気持ちになるので触れられると困る話題であった。

 

「父上は今回も帰って来れないのか?」

「はい…。畿内の情勢が不安定で、大殿は事態の収拾に忙しく……」

「…そうか」

 

 長慶の父・元長は管領・晴元に出仕しているが、何年か前に元長と晴元の関係が悪化したため畿内は緊迫した雰囲気に包まれている。

 事の発端は現足利将軍・足利義晴とその弟である足利義維との争いであった。

 足利義晴側には細川高国、足利義維側には元長と細川晴元が付いて激しい争いの末、足利義維側が勝利し、晴元と元長は堺に新しく政権を作り上げた。

 

 このまま足利義維が将軍になるかと思われたが、何を血迷ったのか細川晴元が足利義晴と勝手に和睦しようとしたのだ。

 当然のことながら元長を筆頭とする足利義維側の大名からの猛烈な抗議が細川晴元の下に押し寄せられた。

 そんなことをすれば足利義維の立場がないし、自分達の面目も丸つぶれであることが明白であったからだ。

 

 かくして、元長と晴元との関係は深い溝が出来るほど悪化した。

 要は、晴元が余計なことをしてしまったために、畿内の情勢が不安定化してしまったのだ。

 一応、元長の元の主君・細川持隆が関係を修復しようと努力はしてくれているが、成果は芳しくなく、ますます溝は深まるばかりであった。

 それでも、持隆は諦めようとはせず、細川晴元と元長の間を何年も奔走してくれている。

 

(本当に持隆様には感謝だな。)

 

 長慶がそう思うのは無理がなかった。

 持隆は阿波の守護代で、実質的に阿波を治める細川家の一門だった。

 昔から元長の人柄を快く思っており、元長を名代として自分の軍勢を与え、畿内での自由な行動を許してくれた。

 正直、持隆がいなければ三好家は畿内に名を轟かすことなど無理であったはずだった。

 今回の関係修復の件も絶大な力を有する細川晴元と対立しようとしている元長を想ってのことだ。

 感謝しても仕切れないくらいである。

 

「父上も大変だな…」

「はい…。生まれてくる子供の顔も見ることさえ許されない大殿はなんとお労しいことか…」

 

 元長は長慶以外の子供の顔は生まれてから数ヶ月したあとでしか見たことがない。

 仕方がないとはいえ、これは父親として悲しいことで元長は帰ってくる度に子供や妻に「ごめん」と何回も謝るのだった。

 いつもは、偉大な父として振る舞う元長もこの時ばかりは背中を丸くして子供のようになるので、長慶はそれを面白そうにその光景を眺めていた記憶がある。

 

「今回も父上の泣き言が聞けるといいな」

「…えぇ、本当にそうですな」

 

 今回も無事に帰ってきてほしい。

 長慶のそんな思いを込めた言葉を、読み取り爺は肯定の言葉をだした。

 

 長慶にとって元長は尊敬できる父親なのだ。

 子供にしては頭が良すぎる自分を異常者として見ず、逆に「流石は俺の息子!」と長慶が欲しい本を片っ端から買ってくるなど、親バカな一面を持っていた。

 死んでほしくないし、また元長と遠乗りにも出かけたい。

 とにかく、無事に帰ってきてほしい。

 そう、長慶は願うしかなかった。

 

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 爺との話が終わった後、千満丸と神太郎の面倒を見ること三辰刻(六時間ほど)。 

 来たときにはまだ明るかった外の景色も今は真っ暗な闇に包まれていた。

 待ちくたびれたのだろう、千満丸は長慶の肩に寄りかかって、神太郎は長慶の膝を枕に眠っている。

 起こすのも悪いと思い、長慶は侍女に頼んで弟達に羽織りをかぶせてもらう。

 

「本当に世話の焼ける弟達だな…」

 

 弟達の寝顔を見て長慶は微笑みながら嬉しそうに呟いた。

 長慶は自分を慕ってくれる弟達を愛していた。

 何事にも、「兄上!」や「あにじゃ〜」と長慶のことを呼びながら寄ってくる弟達が大好きだった。

 

(このまま歴史が動かず、皆と仲良く暮らせたらいいなぁ)

 

 長慶はあることに気づいていた。

 それは、この戦国時代が自分が知っている戦国時代とは若干違うことについてである。

 例えば、第一子であれば性別が関係無く後継ぎになり、天皇陛下もこの戦国時代では姫巫女という名になっており、また、本願寺も本猫寺と名前も思想も違っていた。

 もしかしたらこの世界はパラレルワールドなのかもしれない。

 そう長慶は感じていた。

 

(この世界ならば歴史どおりに進むことがないかもしれない)

 

 三好家は史実のように信長にほろぼされず、長慶もこのまま兄弟や家臣達と共にひっそりと暮らせるかもしれない。

 また、管領の細川晴元とも闘わずにすむかもしれない。

 最初は天下を目指そうとした長慶も、家族や家臣達と触れ合うにつれてその考えは改まっていた。

 

(天下なんてどうでもいい。平和に暮らすことがなによりの幸せだ)

 

 それが長慶の何よりの願いだった。

 弟達も、いずれは他家に養子にでると思うが今のような関係が続いて、兄弟仲良く幸せにくらしたい

 今から生まれてくる子供にも同じ事を願わずにはいられなかった。

 

「申し上げます!」

 

 廊下を走ってきた侍女が息を切らして、部屋に駆け込んできた。

 

「奥方様、無事に御出産!男の子でございます!」

 

 この知らせを聞いた家来達は一同に安堵の息をもらした。

 なんだかんだと言って、皆それなりに心配しており報告を聞くと、途端に破顔して笑っていた。

 長慶も無事に生まれた新しい弟の誕生の報告を聞くと喜んだ。

 

「千満丸、神太郎。起きろ」

 

 長慶が弟達の肩を揺さぶって無理矢理起こす。

 

「ふぁ〜。……兄上、どうしたの……?」

「……あにじゃ、あと半刻(三十分程度)………」

 

 眠そうに弟達は起き上がる。

 寝かしてやりたいが、新しく弟ができたのだ。

 長慶の弟であると同時に、弟達の弟でもある赤ん坊がだ。

 一度、顔を合わせておいたほうがいいだろう。

 そう思った長慶は、しばらくしたら母上に会いにいくと弟達に伝えた。

 

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 弟達を連れて、長慶は母が寝ている部屋へと向かった。

 部屋に入ると、布団で横になっている母とその隣で寝ている赤ん坊が待っていた。

 

「母上、御出産おめでとうございます」

「ありがとう仙熊丸。貴方も弟達の面倒を立派に見ていたらしいわね。偉いわ」

 

 長慶の母は愛おしそうに長慶を見ていた。

 長慶はその目線が気恥ずかしくなり、下を向いて頬を掻いた。

 

「千満丸や神太郎も心配をかけてごめんね。母さんはもう大丈夫だから!」

 

 子供を産んで疲れているにも関わらず、それを思わせないかのような笑顔に、弟達も「えへへ〜」とつられて笑っていた。

 母は長慶に目線を戻し、微笑みながら言った。

 

「仙熊丸、この子を抱いてくれない?」

 

 母は侍女に頼み、侍女は新しく生まれた弟を長慶の下へ運んできた。

 恐る恐ると長慶は手を伸ばし、左手で赤ん坊の頭を支え、右手で体を支えるようにして赤ん坊を抱いた。

 顔を覗き込んで見ると、赤ん坊の安らかな寝顔がそこにはあった。

 弟が出来た。

 そんな実感が胸から湧き出て、顔が綻んでしまう。

 隣から弟達も覗き込んで「おぉ〜」と目をキラキラさせながら赤ん坊を見ていた。

 

「名前は決めたのですか?」

 

 長慶がそう聞くと、母は頷いた。

 

「元長様が『男だったら又四郎にしよう!』って言っていたから又四郎にするわ」

「又四郎とは…。父上にしてはまともな名付けですね」

 

 ふふ、そうでしょ?と母は面白そうに笑った。

 元長は名付けには特殊なセンスを持っており、曰わく、「千の願いを満たす子になってほしいから千満丸」や「神をも凌駕する子になってほしいから神太郎」などである。

 意味不明の名付けであるが、本人は大真面目なので救いようが無さ過ぎる。

 

「本当は元長様にもこの子を見せたいのにね…」

「……仕方がないですよ。父上にもお務めがあるのですから」

 

 そうね…、と母は寂しそうに呟いた。

 やはり、母も夫がいなくて寂しいのだ。

 一刻も早く帰ってきてほしい。

 長慶は改めてそうおもった。

 

「ねぇ、あにじゃ。この子抱いてみていい?」

「ず、ずるいぞ神太郎!そこはお兄ちゃんに譲れよ!」

 

 長慶と母の話が一段落つくのを見計らって神太郎が提案をしてきた。

 千満丸も同じ事を思っていたらしく、自分にも、と赤ん坊に手を伸ばしていた。

 

「いいよ。でも先に神太郎に渡す」

「えぇ〜」

「文句いうな。赤ん坊は逃げたりはしねぇよ」

 

 やった!、と神太郎が長慶と同じように赤ん坊を抱いた。

 渋々、長慶の言葉に従った千満丸は隣で「まだかな〜」と赤ん坊を眺めていた。

 

「早くも人気者ですね、又四郎は」

「本当にそうね…」

 

 弟達のそんな光景を見ながら、長慶と母は笑っていた。 

 いつまでも、こんな幸せだといいな。

 長慶は心の中からそう思った。

 

 

 




ここまで読んで下さりありがとうございます!いや、本当にありがとうございます!
自分の文章能力のなさに絶望しました。
こんな作品ですが、これからも応援してくださると助かります。

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