宏斗は混乱と動揺に陥っていた。
本来の目的を終え、姉の友人のお手伝いに軽い気持ちで付いて来ただけなのに、それが今、夕焼けの赤色に染まる《黄昏》ステージに立っている。
そして目の前にはこの場所へ連れ込んだ橙色の振り袖姿のアバターが存在していた。
「このアバターの名前は《フローライト・モルフォ》。私もあなたと同じバーストリンカーです。
さぁ!何の目的でこの場所へ来たのですが!」
「お、落ちついて下さい、日向さん。確かにバーストリンカーだったことは隠していたけど、
俺は鷹乃さんの頼みでここへ――」
「まさか!?
「!?」
宏斗はその言葉に驚きを隠せなかった。 この世界とはブレイン・バーストのことだろう。
そしてそれが本当なら鷹乃さんは元バーストリンカーだったということだ。
「ちょ!?ちょっと待って!日向さん、その話を詳しくっ――」
「問答無用。先手必勝です。」
そういうと日向の操る橙色のアバターは俺目掛け体当たり・・・するのではなく傍にある石柱へ体当たりした。
石柱は脆いせいか一撃で壊れた。 ただ石片が頭に当たったのか日向は頭を押さえうずくまっていた。
「ゔゔゔゔゔゔゔっ・・・痛い。」
「あの~、日向さん大丈夫?」
「大丈夫じゃ・・・・ハッ!! あなたに心配されずとも、これは計算内です。」
よかった。言葉の通り大丈夫そうだ。 でも対戦なのに対戦相手の安否を気遣うのもおかしな話だ。
アバターを最初見た時の凛としてたのに、いきなり弱々しくなったギャップのせいかな。
「これで、私の必殺技ゲージが溜まりました。」
「え!?まだ5%しか溜まっていな――」
「お願い力を貸して。《オブサベイション・フェアリー》!!」
モルフォの必殺技ゲージが全て消費され突如、袖元から目玉模様の青い蝶が現れた。
その蝶は俺の元まで飛んで来て・・・・・飛んでいるだけた。
「え~と、日向さんこの技はどんな効果が――」
「まだまだです!」
そう言って、日向はまた石柱に向かって体当たりを繰り返す。
石柱を壊す度、痛そうな声を出しながら必殺技ゲージを溜めていく。
「こ、これならどうです。《フレア・フェアリー》!!」
今度はの必殺技ゲージを30%程消費して、袖元から翅先がギザギザしている赤い蝶が9匹出現した。
その蝶も俺の元まで飛んで来・・・・・また周りを飛んでいるだけだった。
「・・・・・。」
「えー、これも攻撃技じゃないのぉ~。こうなったらもう体当たりしか!!」
日向は意を決したのだろう、全力で宏斗に体当たりを仕掛けてきた。
が、動きが遅かったので宏斗は軽く避けてから後ろから羽交い締めにし拘束する。
計10匹の蝶は特に主人を守るわけではもなく今も俺の周りを飛んでいる。
「離してください!!」
「日向さん、落ちついて!! 俺らの目的はおそらく
「え?」
日向は振り解こうと抵抗していたが宏斗の言葉に大人しくなった。
それから宏斗は一昨日バーストリンカーになったこと、その翌日親である姉がブレイン・バーストを失ったこと、これから姉の仇を討つ為に動いていることを説明した。
「嘘・・、私と全く同じ・・・・。」
「やはり、鷹乃さんもバーストリンカーだったんだね。」
「はい、そしてお姉ちゃんも同じく昨日確認したらブレイン・バーストのことを知らないようでした。」
「つまり、姉さんも鷹乃さんも一昨日、秋葉原で何者かに襲われてブレイン・バーストを
無くしたってことか・・・。」
二人が一緒に秋葉原に行っていたのだからおそらく、姉・由貴を襲ったのも鷹乃を襲ったのも同一人物であるのは間違いない。 しかし、その話が事実であるならば相手は高Lvバーストリンカー2人を倒せる実力がある者か、複数いるということだ。
宏斗は最終目標に大きさにこの先の不安を感じた。
「――あの~、宏斗さん?」
「あ、ごめん。考えごとをしていたから。対戦時間もあと少しですし、
ドローにするために何発か攻撃していいですよ。」
「?? あの、ドローってどういうことですか?」
「え?」
日向が何のことか分からないという仕草をしていたので、HPゲージが互いに等しい場合ポイントの変動は起きないことを説明したが、日向はそれでも分からないとう感じだった。
「日向さん、ひとつお尋ねしますが鷹乃さんからはブレイン・バーストについて
どんなことを教わりましたか?」
「お姉ちゃんが教えてくれたことは、使用すると景色がいろんな姿で見れることと。
使用するのにポイントが消費されるってことと。特別な力が使えることと、
他の人にはブレイン・バーストについては他言しないことの4つかな。」
(鷹乃さん、感じな所を端折ったな・・・・)
「まず根本的な話、ブレイン・バーストは格闘対戦ゲームなんだ。そして日向さんが知っているポイントは
使用するだけじゃなくて対戦の勝敗によって敗者から勝者へポイントが移動するんだよ。」
「あ、それでお姉ちゃん、
鷹乃はおそらく、日向に対戦ゲームとしてではなく一種のフィーリングツールとして使用させていたのだろう。 そして使用させるためにポイントを譲渡していたに違いない。
「そういうわけだから、ドローにしてポイント変動なし対戦を終わらせようか。」
「いえ、それなら尚更ポイントは宏斗さんお譲りします。私の勘違いで挑んでしまったことなのですから。
・・・あの宏斗さん、立て続けに不躾で申し訳ありませんが、私に対戦の仕方を教えて頂けませんか!!」
――――寧々森邸・日向の部屋
あの後、日向の申し出に承諾してしまった宏斗は対戦のレクチャーの為と、鷹乃のお願い通り日向を家へお送る為に寧々森邸へ来ていた。 まだまだ知らないことが多く、宏斗も教わらなければならない
立場だった為、日向の申し出を最初は断ろうと思っていたのだが、日向が「レクチャー代としてポイントを譲渡する」と申し出た為、宏斗は即座に承諾したのだった。 なお、日向のポイントは鷹乃が譲渡により少し余裕にあるらしい。
(ポイント欲しさに咄嗟に承諾してしまったが、困ったな・・・)
宏斗は初めて入る姉以外の女の子の部屋にドキドキしていた。
また、よくよく考えれば女子と密室で2人きりという展開に更に心臓の鼓動が速くなり、顔が熱くなる。
「どうかしたんですか?」
「い、いえ。な、何でもないです。」
「ひとまずホームサーバのゲートを開けてました。
私個人のホームサーバですのでそこなら内密にお話できます。」
「り、了解。え~とっサーバへアクセスする前に一つ言っておくけど俺のアバター見ても驚かないでね。」
「???、わかりました?」
「「ダイレクト・リンク!!」」
レクチャーにするにあたって2つ問題することがあった。
宏斗の身体がネットワーク用のアバターに姿を変えると、窓と思われるところから夕焼けが射している。
そこは本棚がずらりと並ぶ空間が存在していた。大きさ的に図書室というよりは図書館である。
「これはすごいな。この本の数、図書館並みじゃないのか?」
「――っといっても、中身があるのは半分ぐらいで後の半分がグラフィックだけなんですよ。
中身も漫画とか小説とかの電子ファイルしかありません。」
後ろから聞こえたその声に宏斗は振り向いた。
そこに立っていたのは白のブラウスに黒のチョッキとスカート姿の日向だった。
その姿からこのホームサーバに合わせた司書風の格好なのだろう。
「そういえば、アバター見ても驚ろ・・・ ーーーーーーーっ(言葉にならない悲鳴)!!」
やはり驚かれた。 これが問題点その1。
俺のアバターを初見で見た女の子は必ず悲鳴を上げる。 理由としてはアバターがボロボロのフードに中身が白骨化というホラー的な姿であるからだ。 昔ハマっていたゲームのモンスター『リッチ』のダークな雰囲気惹かれリアルに作ったのだが女子受けが相当に悪い。 姉からも「お前の感覚はどっかズレている」と言われた。
動く骸骨とかいかにもファンタジーっぽくてかっこいいと思うのだが・・・。
宏斗は日向が落ち着くのを待ってから、ブレイン・バーストついての説明を始めた。
なお、日向からは「そのアバター変えたほうがいいですよ」と言われてしまったので少し妥協してみようかと少々落ち込んでいる。
そして、基本的なことの説明が終了し続いては問題点その2。 日向のアバター《フローライト・モルフォ》の特性を見つけなければならない。 予想としてはおそらくあの2種類の蝶がモルフォの特性なのだろう。
詳細な特性を知るには実践で検証するのが一番だ。
「それじゃ、お代権日向さんのアバターの特徴調べに一戦します。」
「はい、お願いします。 それじゃ、バースト・リンク!!」
――――数分後
「これで何とか、戦えそうですね。」
「俺としては完璧に判明できればよかったんだれど。」
ブレインバーストは加速するにも、対戦するにもポイントを消費する。 ポイント節約の為検証対戦は1試合に留めた。 この検証対戦でモルフォのステータスと先程見た必殺技2つのうち1つが判明することができた。 何とかして1戦で日向のモルフォについて完璧に判明させてあげたかったのだが仕方がない。
「仕方がない、少し不安度が増したけど最後の仕上げと参りますか。」
「仕上げ?」
「練習じゃなくて、本当の対戦を実施します。」
「ほ、本番!? だ、大丈夫なのでしょうか?」
「その為のレクチャーだったのでしょ。それにちょっと作戦を考えたから今回は俺も交えたタッグ戦でいこう。
俺も全然初心者で絶対に大丈夫とは言わないけど・・・、勝てるように全力を尽くすよ。」
「わかりました。何だか宏斗さんが言うのであれば勝てそうな気がします。」
「そこまで大層な作戦じゃないんだけどな。ちなみにここから外部グローバルネットに接続って可能かな?」
「はい、可能です。 ・・・今、接続完了しました。」
「対戦相手は作戦もあるからこっちでの選択するよ。よしそれじゃ、いくよ。」
「「バースト・リンク!!」」
バシィィィ!!と音と共に今いる空間が青くなる。 宏斗はマッチングリストをすばやく参照する。
日向に宏斗が知っているだいたいの知識と、日向の必殺技が1つ判明したとは言えやはりそれだけじゃ勝ちをもぎ取る要素としては不安定なことは変わりない。 それでも宏斗は対戦するからには少しでも勝率を上げるため名前から相性のよさそうな相手を詮索していた。
その時、一度見た名前を見つけた。
《カーマイン・コーンシェル & オークル・ギター》
カーマイン・コーンシェルは2戦目で宏斗が狙撃により討ち取られた相手だ。
一度負けはしたが相手の一人がが狙撃タイプであるなら、宏斗が想定している作戦にピッタリだ。
また、ステージ次第では宏斗の
「それじゃ、日向さん。対戦相手はこの2人でいこう。
割りこまれたら大変だから作戦は対戦開始したらすぐ説明するよ。
それから
「了解です。
「よし、試合開始だ!」
宏斗は選択欄の中から《カーマイン・コーンシェル & オークル・ギター》を選択しDEULボタンを押すとネットワーク用のリッチ姿のアバターから、黒曜色の宏斗ブレインバースト専用のアバター《オブシディアン・バイパー》に姿が変換された。
【FIGHT!!】
宏斗がバイパーに変換され、辺りを確認すると隣にも同じくブレインバースト専用のアバター《フローライト・モルフォ》に変わった日向が傍にいた。 空には大きな丸い月が出ており、建物は西洋風のレンガ造り、周りには花びらが乱れ舞う程の花々が生い茂っている。
「わぁ~♪ 綺麗な場所ですね。」
「多分、《妖精郷》ってステージなのかな。」
「名前も素敵ですね。」
「おっと、それじゃ大まかだけど作戦を説明するよ。作戦は――」
――――某塔屋上
「おや、見たことない名前だNE♪ シェルっち何か情報ない?」
「ほぉ、この前の《豪雪》で対戦した奴だな。」
「OH!、シェルっち、もう対戦済みかYO♪」
「あぁ、片方は初だが、このバイパーってのは俺が一方的に狩らせてもらった。」
「HAHAHA、例のあの技か。おっそろしいNE♪」
「俺はここから狙撃する。いつものよう頼むぞギター。激しく暴れてこい。」
「了解♪ 俺の激しくてCOOLなSOUND聞かせてやるYO♪」
赤と黄色のアバター、カーマイン・コーンシェルとオークル・ギターがバイパーとモルフォを倒すべく
動き出した。
ここまで読んで頂きありがとうございます(`・ω・)ゝ
本当ならこのまま戦闘パートも書く予定だったのですが、予定していたよりも文字数が多くなったので
2話に分けてお送りさせて頂きます。
なお、この回で伏せられている設定内容は次回の話で盛り込むよ。
今回は投稿頂きましたアバター案より『オークル・ギター』を採用させて頂きました。
投稿者様におきましては案を頂きまして有難うございます。
タッグ戦なので、もう片方も投稿案を採用したかったですが、なかなか赤系のアバターで
話にマッチするものがなかったので『カーマイン・コーンシェル』は自分で考えました。
《PS.》最近AWのアナザーストーリーが増えてきた事と、本作が今の所原作との絡みがない事から、
タグを分かりやすくする為「原作沿い」を「サイドストーリー」「原作設定順守」に分けました。