風の聖痕 新たなる人生 作:ネコ
綾乃たちは、リストの最後に記載された場所を見て立ち止まる。
その表情は、二人して有り得ないと物語っていた。
それというのも───
「ここじゃ無いわね」
「そうだね……ここは重要な場所みたいだから、一応入れてたのかな?」
その場所には、人が住むには小さく、小屋と言っても差し支えない程の建物が鎮座していたからだった。
風牙衆は、少なく見積もっても未だ数十人はいたはずであり、決して目の前にある小さな小屋に入りきる人数ではない。
しかし、居ないことが分かっていても、確認はしなければならない。そのため、柚葉はその小屋に向けて声を掛けた。
「中にいる方は大人しく出てきてください。出て来ない場合は、相応の対応を取らせていただきます。また、出てくる際には両手を上げ───」
「もういいでしょ」
綾乃は柚葉が言い終える前に、一瞬で小屋を燃やし尽くす。止める間もないとはこの事で、あまりの一瞬の出来事に、柚葉は注意することも忘れ、呼び掛けている体勢のまま口を開けて固まってしまう。
低い確率であろうとも、一般人がいる可能性があるのだ。簡単に決断すべきことではない。
しかし、止めるにはあまりにも時間が無さすぎた。
呆気に取られた状態で、柚葉は燃え尽きる様を見ていると、これまでとは違う現象が起きる。
燃えた小屋の後からは、今まで感じることの無かった妖気が一気に溢れだし、周辺一帯へと拡がり始めたのだ。
これに驚いたのは柚葉ではなく綾乃だった。小屋の中を含めて完全に燃やしたにも関わらず、その場所から妖気が溢れてくるなど、自分の技量に自信があっただけに、到底信じられるものではない。
「えっ? なんで……」
「綾乃ちゃん! 拡がらないように囲って! 早く!」
柚葉は焦りを含んだ声で素早く指示を出すと同時に、自らも対応すべく動く。柚葉が言ったことを綾乃が出来ないとは全く思っていない。ただ、綾乃の驚きの表情から、行動に移すために少しの時間が必要と判断しただけだ。
綾乃たちを避け、逃げるように拡がっていく妖気を、柚葉は懸命に防ごうとするが、妖気の全体物量からして防げるのは微々たる量に過ぎない。焼け石に水であり、柚葉の体力的に言っても、何時までも続くものでもなかった。
柚葉は顔に大量の汗を滴らせ、逃がさぬように妖気を次々に取り込んでいくと同時に、取り込んだ妖気をそのまま攻撃に転化していく。
すぐに自分の力に還元することはできないが、そのまま流用することは出来る。
ほんの数秒のことではあるが、綾乃は我に返ると神炎を見える範囲の妖気に向けて振るった。
今度は念入りにとばかりに、炎は消えることなく存在し続け、全ての存在を消滅させる。それは妖気ばかりではなく、その場にある物質も含めてという念の入れようだった。
「最初からこうやってれば良かったわね。でも、どうしてあんな妖気が出てきたのかしら?」
綾乃は首を傾げて、小屋の後に向かう。そこには、辛うじて原型を留めていた石があった。
「あ~。これは失敗したかも。まさか、社があるなんて……」
その石を見て、何故燃やし尽くしたはずの場所から妖魔が出てきたのかを察した。
本来神炎で燃やせぬものなどはない。しかし、耐えることができるものはある。
そのひとつが要石などの特殊な石だ。要石は、悪しきものを封じる際によく用いられ、綾乃のような例は別として、一般的にはその封印を解くことは難しい。
しかし、綾乃は力業とはいえ解いてしまった。
その封印を解けばどうなるか───
取り敢えずは近くにいる柚葉へと相談することに決め振り返ると、そこには先程まで立っていたはずの柚葉が倒れていた。
慌てて近付き、胸に手を当て口に顔を近付けて呼吸を確かめる。
胸の鼓動と、微かな息遣いにホッと胸を撫で下ろし、綾乃はどうしたものかと、そのまま座り込む。
祠を壊した影響で飛び出した妖魔は、既にいない。
全てを浄化できたわけではなく、最初の数秒で力のある妖魔には逃げられていた。
全体の半分以上を浄化出来たとはいえ、かなりの失態だと言えるだろう。
無かったことにするためには、妖魔を討たねばならない。だからと言って柚葉を置いていくわけにもいかず、綾乃は途方に暮れるのだった。
「取り敢えず、電話かなぁ……」
携帯をポケットから取り出し、電話を掛ける。
電話は数コールも待たずして繋がった。
溜め息が出そうになるのをグッと堪えて話しを切り出す。
「リストに上がった箇所は全部回ったけど、風牙衆は一人たりとも居なかったわよ?」
『ご苦労だった。───ところで、何故綾乃が電話をしてくるのだ?』
「───柚葉は体調が悪いみたいで寝てるわ」
横に寝かせている柚葉を見直し、少し間を開けて綾乃は答える。
内容的に嘘は言っていない。しかし、分かるものには分かってしまうようで───
『では、戻ってきてから詳細を聞くとしよう。因みに、最後に向かった場所にある祠は無事であろうな?』
詳細───の部分を強調した後に、もしかして、という疑惑。それを払拭するため問い質した言葉。
それは、端的に望んでいたものとは真逆の答えで返される。
「何もないわよ?」
『───なに?』
重悟は信じられない思いから再度問い返すが、答えが変わることはない。
「綺麗さっぱり何もないから」
『──────』
しばらく重悟からの返答はなかった。
綾乃は、携帯からの沈黙に対して気まずそうに答えを待つ。
携帯の向こう側で何か話し合っているのではと、神経を尖らせ携帯に耳を押し当てたところで、大声が帰ってきた。
『この……バカもんがあああ!!!』
「きゃあ!!」
あまりの大きな怒声に、思わず持っていた携帯を取り落とし、落としてもなお漏れ聞こえてくる説教に綾乃は頬をひくつかせる。
どれ程の時間携帯と睨み合いを続けていたか……。ようやく静かになった携帯に恐る恐る耳を近付ける。
『すぐに戻ってこい』
「はい!」
滅多に怒ることの無かった重悟の怒鳴り声に、綾乃は否定の言葉を出せず、すぐさま返事をすると、携帯の電源を切った。
「あんなに怒るなんて……。結構やばかったのかしら?」
ひとり呟き、気を失ったままの柚葉を見て、綾乃はため息を漏らすのだった。
和麻の前では、走馬灯のように過去の景色が流れていた。
流れる景色の内容は、前世の子供の頃から始まり、現在の転生に至るまで。それを和麻は、目を反らすことなく、感情の窺えない表情にて眺めている。まるで他人事のような、と言うよりも完全に他人事と割り切っていた。
「人の記憶を覗き見て楽しいか?」
和麻は唐突に、虚空へ向けて言葉を発した。
和麻の周囲には誰もおらず、返答は無いように思われるが、何処からともなく返事が戻ってくる。
『同一化のためだ』
「そんなことは俺に関係ないな」
返ってきた言葉に対して、即答で拒否を返すが、相手も聞く気はないようで何も答えない。
和麻は相手の返答を待つつもりはなく、自分のいる空間を認識し、自らの意思を具現化した。
具現化と言っても何か物が出来たわけではない。ただ、元いた平野へ戻るための空間を繋いだにすぎない。
和麻は激しく響く警鐘を無視すると、その空間の裂け目とも言うべき場所を潜り抜けた。
和麻が意識を失ったのは僅かに数瞬のこと。
体の調子を確かめるように瞑想する。
空間を移動する際の警鐘は、ただ鳴っていたわけではなく、和麻に対して十分な違和感を感じさせるものだった。
和麻は違和感の正体を確かめるように、ゆっくりと目を開けると、力を解放した。
和麻が違和感を感じるほどのもの。それは目で見える形として現れる。
和麻の意図した範囲を越えて竜巻が発生し、周囲にあったものを根こそぎ空高くへ舞い上げてしまったのだった。
和麻は自らが行ったことに、軽く驚き次いで眉間に皺を寄せる。
「微風のつもりだったが……。このままでは制御に難有りだな……」
自分の置かれた状態を確認した和麻は、依頼を終えるために周囲の情報を集めるべく、知覚範囲を広げたところで片眉を上げて、問題のある場所を見やった。
そこには、気を失ったままの煉とその横に倒れた厳馬がいた。それだけであれば問題はなかったのだが、その近くには死んだと思っていた兵衛がいたのである。
足取りは重く遅いが、その身体のほとんどはスライムのような不定形な塊と化しており、時おり距離を確認するためだろう、その塊から覗かせる顔で分かるくらいで、通常であれば分からないほどのものへと成り果てている。しかし、方向は確実に厳馬たちに向かっており、その距離も十数メートルにまで近付いていた。
(世話が焼ける……)
和麻との距離は数百メートルほど離れているが問題はない。
兵衛に向けて手を伸ばし、一直線に風の刃を飛ばそうと周囲の風の精霊に意思を伝えようとしたところでその手が震える。
自分の意思よりも遥かに膨大な量の風の精霊が集まってきたからだ。
制御をしようにも、意思が追い付かないほどの集まりに、流石の和麻も、伸ばした手を顔に当て、頭痛を堪える。
和麻の意図したものではなかったが、和麻がいつも通りに周囲へと放った意思力は、和麻の力が強大になったことにより、精霊たちへの影響力も遥かに増えたのだった。
和麻の強靭な意思力により、精霊たちを従わせようとするが、止まることを知らずに集まってくる精霊たちに、和麻の意識は割かれてしまう。
そのため、厳馬たちへ向かう兵衛の対処など出来ようはずもなかった。
その様なことなど露知らず、兵衛は真っ直ぐに厳馬たちへ向けて進む。
その間に、障害と言えるものは何もない。
兵衛は、厳馬の元に辿り着くと、その身体に覆い被さり、包み込み始める。
その身体を以て、厳馬を吸収するためだ。
しかしその兵衛の行動も、一瞬後には終わりを告げた。
突如として発生した炎に飲み込まれ、燃え尽きてしまったからだ。
炎の跡からは、衣服をところどころ溶かされた厳馬が身体を起こし、自分の身体を見て溜め息を吐くと同時に、膨大な力に気付き顔を向ける。
「これは……」
おもわず漏れ出た言葉は、信じられないという思いが込められていた。
つい先程相対した神が再び何かをしようとしているのかと、厳馬は厳しい視線を力を感じる方に向けながら身構える。
多少なりとも練っていた力は、見覚えの無い敵に浪費してしまった。
今感じている力の差に、厳馬は思わず歯噛みするが、その想いを力に変えて、僅かに回復した残り少ない体力を振り絞って立ち上がる。
勝てる可能性は低いかもしれない。
しかし、神凪の直系として生を受けた以上、逃げることは許されない。
厳馬はゆっくりと歩み始めた。
厳馬がその場所に着いてみれば、神の姿など何処にもなく、膨大な力が集結したその中央には、見覚えのある姿があった。
膝を着き、顔の半分を手で覆っているが間違えようもない。和麻本人である。
しかしながら、感じる力は封印されていた神のものでもあり厳馬は戸惑いを覚えたが、確認せねばと更に近づいていく。
近づく間にも、火の精霊を呼び寄せ見に纏っていった。
風の特性は速さ。
火の特性は攻撃力。
その早さの部分を補えれば、厳馬にも勝算はある。
「和麻。状況を説明しろ」
「…………」
暴風が吹き荒れた痕跡の残る地で、厳馬は和麻に問い掛けるが和麻は答えない。
「説明できないのであれば、お前は敵に捕らわれたものと判断する」
「…………」
それでもなお、和麻は答えない。その間にも、和麻の周囲には風の精霊が集まってきていた。
厳馬は敵対行動を続けるつもりであると判断し、その力を和麻に向けて振るう。
「苦しまずに一瞬で終えてやる。私の全力だ」
厳馬の放った神炎は、和麻を今度こそ逃がさず完全に包み込む。
しかし、和麻を包む風も和麻の意思に関係なく、炎の精霊に対して対抗し始めた。
その量は軽々と厳馬の炎を退けると、邪魔だとばかりに厳馬を弾き飛ばす。
厳馬には、その風に対抗するだけの力はなく、なされるがままに飛ばされ、そのまま意識を失った。
その後、風はゆっくりと縮小していき、和麻の中に収まっていく。
「はぁ……」
和麻は余計な手間を取らせた根源に悪態を吐きたくなるが、既にそのような存在はいない。
溜め息を漏らし、和麻は厳馬たちの状況を確認するべく視野を広げた。
ほんの少し前までいたはずの人物はおらず、そこに倒れているのは煉のみであり、厳馬の姿は見えない。
どこに行ったのかと、更に広域を視たところで、和麻は厳馬を見つけた。
(灯台元暗しとは言ったものだが……何故こんなところで寝てるんだ?)
和麻から少し離れたところで倒れている厳馬を怪訝な表情で確認した和麻は、取り敢えず携帯を取り出し連絡を取る。
「……こっちは終わった。……ああ、一応五体満足ではあるな。───これは過去の清算だ。それ以上でも以下でもない。───休憩するくらいの時間だったらな」
和麻は厳馬の元に歩くと、その身体を脇に抱えて再び歩き出す。
厳馬はそれなりに大柄な人物であるが、和麻は全く重さを感じさせることなく、荷物のように抱えている。
次の行き先は煉の元。
神との争いにより荒れ果てた地面ではあったが、移動にはそれほどの時間が掛かることはなかった。
神凪邸においても、これ以上の襲撃は無かったことから、結界の再構築が始まっていた。
「───そうか。よくやってくれた。礼を言う」
重悟の顔には疲れの色が見えていたが、連絡を受けた内容に、顔を綻ばせている。
「すまぬが、迎えにいかせる故、待っていてはもらえぬか? ───ありがとう」
重悟は携帯の通話を切ると、それまで保っていた緊張を少し緩める。
霧香は会話の内容を聞くような野暮な真似はしなかったが、重悟の雰囲気の変化からおおよその事を把握していた。
「無事解決……とみてよろしいですか?」
「うむ。霧香殿には世話になったな」
「私は職務を遂行したにすぎません」
「そう言ってもらえると助かるが、そうもいかぬ。
手に終えぬ事があれば相談に乗ろう」
「ありがとうございます」
霧香は表面上、いつもと変わらぬ微笑を浮かべていたが、内心では小躍りしたいほどの興奮状態になっていた。
(協力なパイプをゲット!! これで少しは上の奴等も大人しくなるってものよ!)
霧香の事はさておき、重悟は空を見上げる。
(これで、長年の因縁を断ち切ることは出来た。風牙衆がいなくなってしまったことは残念ではあるが、けじめはつけねばなるまい)
今回の出来事で損壊した敷地内を見渡しながら、重悟は今後のことに思いを馳せるのだった。
風牙衆の謀反から数日後。
神凪邸では宴会が繰り広げられていた。
その席には怪我で動けない者を除き、今回の事件の関係者が集まっている。怪我で動けない者の中には、厳馬や煉もいたが、宴会の席でそれを持ち出すものはいない。
ほとんどのものは手に酒を持ち、今回の出来事を振り返っていた。
「風牙衆ごときが我々に歯向かうとどうなるかよくわかるものだったな!」
「ハッハッハ! 言ってやるな! 羽虫のごときか弱い存在なのだ。そのような知能もあるまいて」
「我々神凪に祝福を!!」
「「「祝福を!!」」」
席のあちらこちらであげられる乾杯の発生とは打って変わり、確実に浮いている空間があった。
「和麻~。お酒ばかり飲まないで、こっちも美味しいよ~。はい、あーん」
「和麻。おかわりはいかが?」
その浮いている席は上座にあり、他とは違ってそれほどの喧騒はない。
上座の中央に重悟。その横から順に綾乃、和麻、柚葉。反対側には雅人に霧香と並んでいる。
この配置も最初は違ったが、宴会が始まってから相当な時間が経っており、席を移動したためになったものだ。
「雅人様の事は噂で聞き及んでいますわ。物凄くお強いとか」
「私などまだまだですよ。旅をして知りましたが、私は井の中の蛙であると思い知らされました。
世の中は広い。純粋な力が無くとも軽くあしらわれるのですから……」
「それでも、私からすれば遥か高みにいらっしゃいますわ」
「そこまで持ち上げられると照れますな」
酒が入って気分が良いのか、雅人は頭を掻きながら赤い顔を下に向ける。
そんな照れる雅人へ、霧香はもたれ掛かるようにして酒を注ぐ。
「良い飲みっぷりですわね。どうぞ」
ぐいぐいと自分をアピールする霧香の姿に触発され、綾乃と柚葉の行動も段々と度が越え始める。
「和麻には私が飲ませてあげる」
「和麻とはこうするのも久し振りだね」
綾乃は和麻の手を抱えるようにして和麻の口へ御猪口を運び、柚葉は反対側の腕を抱えるようにして和麻の手を自分の手と重ね合わせる。
「柚葉……。一度身を引いたからには、遠慮と言うものが大事だと思うの」
「綾乃ちゃん知ってる? 早い者勝ちって言葉。それに進展がなかったら脈が無いってことだと思うよ?」
睨み合う二人の間には火花の幻想が見えるほどであったが、和麻は気にした様子もなく酒を飲む。
かなりの量を飲んでいるにも関わらず、和麻に酔った雰囲気は感じられない。
「和麻はこれからどうするのだ?」
和麻の両隣の意識が反れたのを見計らい、重悟は和麻に声を掛けた。
「幾つかやり残しがあるからそれを片付ける」
「やり残しか……。差し支えなければ聞いても構わんか?」
「ただの人探しだ」
「人探しか……」
重悟は僅かに寂しそうな表情で和麻を見る。
和麻を自分の息子のように思っている重悟にとって、昔は頼られたが、今では全く頼られない事に寂しさを覚えたのだった。
そんな意識もすぐに取り払い、重悟は自分の娘に視線を向ける。
数年ぶりにあった綾乃は、神凪にいた頃が遠い昔であったかのように成長していた。
姿は身長が少し伸びて丸みを僅かに帯びた程度だが、見方を変えれば、膨大な精霊を従えているのがわかる。
無意識でそれほどの力を有するその姿は、まさしく神凪にとって正しい姿である。それこそを目指すために日々鍛えていると言ってもよい。
しかし、気掛かりなことに、綾乃には常識的なことが欠落している節が多々あった。
被害を度外視した行動。
自分を基準とした考え方。
こうなった分岐点は、何処だったのか……。
重悟は後悔よりも、今の最善を尽くすことを決意する。
「綾乃」
「何?」
睨み合う視線を外し、綾乃は重悟を見た。
「お前には来週より学校に通ってもらう」
「えっ?」
思いもしなかった言葉に、綾乃は呆ける。
そんな綾乃へ重悟は再度、通告する。
「此度の件でお前に常識が足りないことがよくわかった。お前には学校にて常識を学んでもらう」
「何で今更なのよ! この年になって学校なんて行きたくない!」
「ふむ。では、今回お前が壊した物の弁償と、解き放った妖魔の始末をつけてもらおう」
「何でそうなるのよ! 大体、あんなに簡単に消滅するような物作る方が間違ってるでしょ!」
「普通の物であれば構わなかったが、最後の社に関しては値段などつけようもない。それに加えて妖魔を見逃し、同行した者に負担を掛ける。それではただの我が儘な子供にすぎん」
「私だってちゃんと頑張ったんだから!」
「結果の伴わぬ頑張りなどに意味はない。寧ろ悪化させているとさえ言える」
「うう……。和麻……」
聞きたくないと耳を塞ぎ、和麻の腕で顔を塞ぐ。
完全に閉じ籠ってしまった綾乃に重悟は大きな溜め息を吐いた。
「和麻に後で話がある」
「話……ね」
我関せずと、柚葉に注がれた酒を飲んでいた和麻は、重悟の言葉を反芻する。
重悟の視線から、誰が絡んだ件か和麻は察する。
「内容については後で話す。それより、和麻からも何とか言ってもらえると助かるんだが……」
「俺の干渉するような事じゃないな。お互いの意思次第だ」
「…………」
重悟はお猪口に手を伸ばし、横手に控える者へ注がせると、それまでの事を忘れるように一気に口の中へ流し込んだ。
描写が書ききれてないけど許してください。