ぼくの名前はインなんとか   作:たけのこの里派

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連続投稿。
主人公は基本軽い。


第一話 黒髪ツンツンじゃなくて白髪サラサラだった件について。

 ――――――学園都市。

 総人口230万人。「記憶術」や「暗記術」という名目で超能力研究、即ち「脳の開発」を行っている都市である。大勢の学生を集めて「授業の一環」として脳の開発を行っており、学生の数は総人口の8割に及び、その全員が何らかの超能力を持っている。

 学園都市には科学の街という一面もあり、学園都市の中と外では科学技術が30年以上の開きがあるとさえ言われるほどに進歩している。その科学力は超科学と言われ、その科学技術を初めて目の当たりにした者は『自然科学』と呼び、最早オカルトの域と称するほどだ。

 

 そして同時に、学園都市は超能力者の街である。

 超能力とは、学園都市の研究者が薬品や脳開発等を用いて学生達の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)と呼ばれる「認識のズレ」によって、ミクロな世界を歪めることで、マクロな世界に超常現象を引き起こす異能力。

 前述した様に、学園都市の学生はただ一人の例外を除いて全員が能力に目覚めているのだ。

 

 そして学園都市では、能力の強さから以下の段階に分けられている。

 

 無能力者(レベル0)。学生の約六割方はこれに当てはまり、例外を除いて全く『無い』という訳ではないが能力的には所謂落ちこぼれである。

 能力を使用しても殆ど効果が無く、役に立たないのが現状だ。

 低能力者(レベル1)。 かなりの多くの生徒がコレに該当し、スプーンを曲げる程度の力を用いることが出来るが、日常生活に殆ど使えないレベルがコレである。

 異能力者(レベル2)。 低能力者(レベル1)と同じく日常ではあまり役には立たない。戦闘などにもまるで使えないが、しかしレベル1と比べると明らかに違いが分かる。

 強能力者(レベル3)

 日常では便利だと感じ、能力的にはエリート扱いされ始めるレベルだ。

 この辺りの人間は喧嘩等に能力を使用する者が出始め、レベル0に対して差別をし始める段階でもある。勿論全てのレベル3がそうである訳ではないが、そう言う人間が存在するのもまた事実である。

 大能力者(レベル4)

 軍隊において戦術的価値を得られるレベルだ。

 この辺りに行けば無能力者では殆ど勝てなくなる『強者』だ。

 

 そして最高位である超能力者(レベル5)

 学園都市でも七人しか存在せず、一人で軍隊と対等に戦える程の力を有する『化物』である。

 学園都市の頂点で、基本学生達にとって憧れと同時に畏怖の対象だ。そしてこの超能力者(レベル5)の大半が暗部、又は学園都市の闇に関わりを持っている。内二名は暗部に所属している程だ。

 超能力者(レベル5)はそれ以下の能力者とは隔絶した実力を持っており、その戦力は一人で軍隊と戦えると言われる程である。

 超能力者(レベル5)には順位が現在一から七まで存在し、上位二名以外は戦力ではなく『学園都市』――――正確には『学園統括理事長(アレイスター)』に対してどれだけ利益を挙げられるかで決められている。

 しかし、超能力者(レベル5)の上位二名はその中でも飛び抜けており、頂点である『学園都市最強』に至っては核の嵐でも傷一つ付かず、その気になれば世界を滅ぼせる位の力を持っているとさえ言われている――――――――。

 

 

 

 

 

 

第一話 黒髪ツンツンじゃなくて白髪サラサラだった件について。

 

 

 

 

 

 

 

 皆元気かな? 学園都市第一一学区、陸路物流基地前から御送りしている、インなんとかさんだよ―!

 とまぁ、自虐になってしまうネタをやってみたりしている、自分こと年齢不詳密入国パツギンイギリス人(仮)のインデックスだ。

 ん? インなんとかさんと全く別人? 当然だ、中の人が違う。

 まぁぶっちゃけ、よくある転生憑依ものと考えてくれればいい。

 

 しかしこれがよくある神様転生なら良かった。特典で無双出来るなら楽だった。

 しかし残念ながら不満の捌け口の神様は現れることは無く、この世の理不尽に耐えるしかなかった訳だが。

 それでも、一般家庭に生まれればずっと楽観的で居られたが、何の因果か目が覚めたらイギリスの街中で倒れており、頭の中には御丁寧に魔力が無ければほぼ使えねェ知識の山が。

 これだけあれば、自分がどんな状況にあるか流石に判る。

 

 禁書目録ェ……。

 

 長編人気シリーズである【とある物語の人物目録】のメインヒロインにして、常人が目を通しただけでSAN値チェックが発生する魔導書を十万三千冊記憶している魔導書図書館。

『日常』、『帰るべき場所』という立ち位置を主人公上条当麻に定められている事からメインヒロインにあるまじき出番の少なさから、ファンから付けられた渾名がインなんとかさん。

 物語のタイトルだというのに、巻を探せば数ページ処か数行なんて目も当てられない惨状もあったりする。

 そして原因不明でそんな人物になってしまったわけだが、ここで重要な事が一つ。

 

 TS転生ではない。

 ここが重要だ。

 

 TS転生とは、よくある二次創作で前世は男なのに今は女になってたり、又はその逆を指すであろう言葉。

 イヤ、自分もあんま分かんないんだけども。

 

 そしてインデックスは本来女性。幼児体型で色気無しと感じるだろうが、素っ裸を至近距離で見た我等がヒーロー上条サン曰く、ちょっと胸は膨らんでたらしい。

 そんなヒロインのインデックスさんに憑依? した自分の自意識は男性のソレ。当然上記のTS転生に当て嵌まる筈だ。

 

 しかし、今の自分は銀髪碧眼の中性的な容姿の美少年。

 原作ではアイアンメイデンと化していた『歩く教会』も、ご丁寧に白いシスター服から神父服に変わっている。

 

 何でや。

 勿論混乱したが、そんなことを考えている暇は無く。

 原作通り自分の追っ手として神裂とステイルが襲☆来してきたのだ。

 それを何とかとっさの機転と小細工で逃げ切り、この世の理不尽に嘆き苦しみながら、でもまぁ学園都市のモルモットの『置き去り(チャイルドエラー)』よりはマシだと開き直りつつ、色んな国を転々としながら途中考える限り最強の友達に出会ったり、聖人とワルキューレの二重属性の北欧魔術師ブリュンヒルド=エイクトベルと出会い、彼女が追われていた元凶である北欧五大魔術結社をイギリス清教が潰してくれる様に神裂ねーちんとステイルを誘導したりした。

 

 お蔭で北欧五大魔術結社はロンドン塔で殆ど処分。

 彼女を排除するために一般市民さえ手に掛けていたことから、その末路は完全に自業自得なので全く同情はしなかった。

 各上層部のクソ野郎はブリュンヒルドにミンチにされたし、それに乗じて自分が金を奪ったりしたが罪悪感など微塵も感じなかったのである。

 

 問題はブリュンヒルドが自分に少々依存しちゃった事なんだけど、無理もないと思う。

 本人に確認してはいないが、神裂ねーちんと同い年ぐらいの女の子が、理不尽極まるとしても自分が口実で仲間を皆殺しにされ、死体すら殺し尽くされて、自分と出会う四年間たった一人で逃げ続けていたのだ。

 当時たった十四歳の少女にとって、それは何れ程辛かった事だろうか。

 当時体感逃亡生活一年以内の自分には、想像も出来なかった。

 

 それに逃亡生活一年以内とは言え自分も当時独りだったことから辛く当たることなど出来ず、寧ろグイグイ優しくしてしまい依存度がヒャッハーしてしまった。

 

 其処から半年間と数ヶ月が過ぎ、そろそろ学園都市に向かわないといけないと考えながら八極拳の鍛錬の帰りに、片眼が前髪で隠れる程度の金髪の青年が倒れていた。

 見て見ぬ振りは出来まいと、その青年に蹴りをブチ込み強制的に目覚めさせ、青年が泊まっているらしい近くのホテルまで連れて行った。

 へー、相棒に食事抜きで放り出されたんだー。すごいねー。とか適当に会話しつつ、青年に凄まじい既視感を覚えながらホテルに付くと、エプロンを着たパツギンのねーちゃんが。

 

 英国王室直属近衛メイドの聖人、シルビアさんじゃないですかやだー。

 その相棒は、原作通りだと当然オッレルス。あ、やっぱり。

 

 聖人とは生まれた時から神の子に似た身体的特徴・魔術的記号を持つ人間であり、それ故に『神の力の一端』をその身に宿した世界に20人と居ない魔術世界における戦略兵器である。

 そんな聖人でさえ遠く及ばない、神格を有するほど魔術を極めた超越存在である魔神一歩手前の男がオッレルスなのだ。

 知識ばかりの魔術を使えない自分が相対できる相手ではない――――と、()()()()()()()()()()()()

 

 まぁその後自分が誘拐されたと勘違いして突貫してきたブリュンヒルドを宥めつつ、その後自分の『首輪』関係の事情を知っているシルビアから、その解決方法を提示した自分とかそういうやり取りの後、オッレルス達が自分を学園都市まで連れていってくれる事に。

 

 そして現在。

 自分は学園都市に侵入する事に成功した今に至る。

 勿論目的は『首輪』と『自動書記(ヨハネのペン)』の完全破壊の為の“幻想殺し”ただ一つ。

 原作でトールさんが侵入経路言っててくれて、ホント助かった。

 

 そして今、暗闇の中見かけた地図を頼りに上条さんの居る第七学区に向かって走っているのだが、しかしどうしよう。

 

 原作通りにするならば、明日の晩には上条さんの部屋のベランダに干されてなければならない。

 まぁ今までの逃亡生活を考えたら一晩野宿ぐらい何ら苦ではないし、ATMから金を出せる今ならばホテルに泊まればそれで済む話なのだが、問題は上条さんと会って――――――――それからどうするかだ。

 

 そもそも原作とは性別というあまりにもどうしようもない乖離要素があり、そして何より原作通りにすれば、上条当麻は戦いの余波で脳に障害を負い記憶を永久に喪う。

 それを解っていながら自分の首輪の破壊だけ行うのは、余りに虫の良い話だ。

 幾らなんでも外道過ぎるし、そこまで下種に成り下がった覚えはない。

 しかし破壊しないのは自分が困る。

 兎に角、原作の事を除いて全てを話し、尚且つ上条当麻が記憶を破壊されない様にするしかない。

 取り敢えず、そもそもかおりとステイルに説明して協力を仰がなければならない。

 

 しかしブリュンヒルド達が足止めしていると考えれば、明日までに自分に追い付くことは出来ないだろう。

 そんな事を考えながら思考の渦に囚われていた自分は、行き成り目の前に飛んできた物体を反射的に蹴り返してしまった。

 

「…………何コレ?」

 

 よく見れば、その飛んできた謎の物体Xは、学園都市の路地裏を漁れば何処にでも居そうな不良だった。

 その折れた右腕が持つ、ひしゃげたナイフを除いて。

 

「――――あン? 何だァオマエ」

 

 前を見れば、同じ様に体の何処かを不可解に歪めている不良が沢山。

 そして不良達が屍の様に倒れ伏す暗闇の中で、君臨するかのように存在している『白』。

 黒い半袖に白い長ズボンを履いた、色素が消え去った白髪から覗く血の様に真っ赤な瞳が、此方を直視していた。

 

「……あり?」

 

 よく解らん状況に陥った自分は、頭を傾げながら暫し状況の把握に努めた。

 自分が求めていた無能力者(最弱)の対極の超能力者の頂点(最強)

 

「随分愉快な格好してるみてェだが、オマエもコイツ等と同じか?」

「いや、コイツ等と何が一緒で何をせにゃならんのか激しく疑問なんだけど……」

 

 すなわち学園都市最高の頭脳の持ち主。230万人の頂点に君臨している学園都市最強の超能力者(レベル5)

 

「飯行こうぜ!」

「はァ?」

 

 ――――一方通行(アクセラレータ)とカチ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方通行は珍しく困惑していた。

 何時も通りに()()()()()()()後、腹が減ったので近くのレストランで食事を取ろうとして足を進めていると、毎度の様に学園都市最強の地位が欲しい不良達に囲まれ、毎度の様に蹴散らしていたのだが、その内の一人を半殺しにしながら蹴り飛ばした先に、学園都市に余りにも場違いな白い祭服姿の銀髪の外国人少年が不良を叩き付けていた。

 反射的にやってしまった、と言わんばかりの綺麗な動きだったので、他の不良達と同じ様に問い掛けたのだが――――――――

 

「――――いやぁー、学園都市のレストランつっても、別段『外』と変わんないのなー。まぁ冷凍食品だろうがレトルトだろうが、美味いモンは美味いから全く以って構わないけど」

「つゥか、何でオマエはオレと一緒に飯喰ってンだよ」

 

 店員により次々と運ばれ、ブラックホールでも備わっているのではないかと思うように食事が少年の口に吸い込まれ、運ばれてきたソレを再び口に吸い込む様に食べていく白神父。

 

「だってさ、一人で飯食うよりも誰かと食べた方が楽しいじゃん? 折角の三大欲求、楽しもうよ」

「オマエのせいでオレは食指が萎えてンだけど」

「ごめんちゃい」

「叩き潰すぞ」

 

 思わず少年を殺してしまいそうになるが、死体を晒してこれ以上食欲が無くなるのは御免被るのでそのまま自分の食事を口に入れる。

 

「そンで、何なンだよオマエ」

「おっと、自己紹介がまだだった。自分の名前はインデックスっていうんだぜい」

「意味判ってンのかオマエ」

 

 明らかに偽名極まりない名前であることに、そもそも意味の理解を確認した一方通行だが、インデックスと名乗った少年は更に言葉を続けた。

 

「正式名称Index-Librorum-Prohibitorum――……まぁ、生まれた時からこの名前だったのか、それとも人間らしい名前があったのか、生憎一年以上前の記憶が無いんで解らんね。まぁ役職名みたいなもんだけど、それ以上に自分を示す名前が無いってだけなのさ」

「あァ?」

「記憶喪失ってヤツ? まぁ意図的に思い出だけを消されたのを記憶喪失って言って良いものか分かんないだけど」

 

 そこで一方通行に疑問が生じた。

 

 思い出だけを消されたと少年は言ったが、記憶とはそんな簡単に部分的に消せるものだろうか?

 それこそ、学園都市第五位の様に精神系能力者の頂点に存在する超能力者ならば可能だろうが、少年の口振りから『外』から来た事がわかる。

 それに外部で超能力開発が行われているとは思えない。

 

「『クロウリーの書』だっけ? あるいは『記憶消去』のルーンなのかな。推測でしか出来ないけども、イギリス清教の総本山ならそんな魔術使える魔術師なんてそれなりにいるだろうし」

「――――はァ?」

 

 そこから一気に話が飛躍した。

 

「ふざけてンのか?」

「オカルトが信じられない? 別の法則とはいえ、超能力(オカルト)の総本山に居るのに」

「……オカルトと能力開発は別だろォが」

「端から見たら変わらないさ。一定の法則に添って異能を現実にする(さま)に、一体何の違いがある? 超能力も魔術も使えず知らない人間からしてみれば、呪文を唱えて手から炎出すのと、頭ん中で演算して手から炎出す過程を気にする奴はいないよ。実際この街を『テレマ僧院』とすればある程度説明がつく」

 

 確かに、外の人間からすれば違いなど解りはしないだろう。

 明らかなオカルトを語りながら、しかし嘘には思えない程淀みなく自然な口調。

 それに超能力の事も理解出来ている風な少年に――――しかし科学の結晶たる一方通行は否定した。

 

 理由は簡単。

 見てもいない戯言を信じる理由なんて無いのだから。

 

「だったら証拠見せてみろよ。そのマジュツってのをよ」

「フム。まさかソレを君に言われるとは思わなんだなぁ。しかし自分は諸事情で魔術が使えんのだよ。要はMPゼロのキャラが魔法を使えないのと同じ道理だな」

 

 ソレ見ろ。やはり嘘っぱちではないか。

 態々付き合ってやる必要も無かった。時間を無駄にした。

 一方通行はそう口にして去ろうとするが、しかしそれより先に少年は、()()()()()()を口にした。

 

「だから、別の方法で証明することにしよう」

 

 

 ――――――『歩く教会』だ、と。

 

 

 

 




誤字脱字があれば修正します。
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