しかし皆さん流出と創造を間違えている方が非常に多かったですね。
ということでどう足掻いても絶望を表現出来ているか不安な、首輪戦後編です!
上条達が黄金の光に呑み込まれた先には、先程の光と同じく黄金色に染まった世界があった。
黄金の獅子も、世界を統べる槍も、戦死者の城も何もない。
ただ只管の黄金の空と大地。
「なんだ……此処」
完全に理解が追い付いていない上条は思わず言葉を漏らすが、中途半端に知識がある他の魔術師は絶句して立ち尽くしていた。
そもそも魔神が何をしたのか?
文字通り『場を整えた』だけである。
もしかしたら、上条が首輪を破壊できるかもしれないという所でこんなことをされれば悔しがるかもしれないが、ハッキリ言ってソレは魔神が本気を何一つ出せなかったからこそ言える台詞なのである。
あらゆる可能性を持つ魔神が、高々神話の武具や事象の再現程度の魔術で全力全開な筈がない。
魔神とは魔術を極め、人の身でありながら神格へと至ることで、位相を操り世界改変を行える程の力を得た者のことである。
魔神は『真なる科学の世界』と無数の位相から成る既存の世界の上に、新しい位相を差し込むことで「世界の見え方」を変え、世界を歪める存在だ。
問題は、位相を操作できても細かいところまで完全に掌握しているわけではないらしく、一度改変した位相を完全に元通りにすることは魔神でも困難であるということである。
それこそ幻想殺しという『基準点』なんてモノが必要になるほどに。
そして自働書記によって制御された防衛手段は、あくまでも『知識に対する侵入者の排除』が目的。世界を歪めるなど以っての外である。
ならばどうする。
そこで自働書記が目を付けたのが、本来存在しないはずの記憶。憑依者としてのインデックスの記録である。
勿論大半がブラックボックスになっており、特に原作知識などは遠隔制御霊装であってもその知識を引き出すことは無理だろう。その知識が高次元の物故に。
だが、高次元の記憶である『彼』の思い出などは無理でも、低次元のソレ等は別だった。
そう。二次元の、『彼』が記憶した数多の創作作品の知識である。
その中に、まさに自働書記にとって極めて都合が良い物があった。
とある神殺しの男が、「全力を出したい」と渇望し具現化した世界。
一つの宇宙を短時間で創り上げるその事象は、まさに全力が出せない魔神にとって『都合が良い』代物だったのだ。
10万3000冊によって補助、そして最後のピースである黄金錬成の知識も手に入れた。
その結果が『
修羅道至高天、黄金の獣の世界の一端が生まれた。
勿論あくまで魔術での再現。限界はある。
黄金に従う修羅達や、軍も城も存在しない。
世界を支える覇王や世界を統べる聖槍も存在しない。が、態々理まで再現する必要はない。
位相をフィルターに言い換えるならば、この黄金の世界はシールの様なものなのだ。
故に消そうと思えば基準点など必要無しに消せ、かつての世界は姿を現すだろう。
尤も、殺害した魂は取り込むが。
「………いや、ちょっと待てよ……」
そして、その牙は直ぐ様上条達に襲い掛かった。
「――――『計都・天墜』。完全発動まであと三秒」
星が、墜ちてきた。
第十一話 魔神
「アレも魔術なのかよ! 何でもありかァ!?」
「占星術の極致か。流石はインデックスだ」
「ええ。星は魔術において非常に重要なもの。十万三千冊によって魔神の域となったあの子なら、星そのものを落とすことさえ可能なのでしょうね」
「必然。寧ろあの子にとってはこれが本来の力なのだろう」
「惚れ直すな、流石インデックス」
「お前らホントインデックスの事好きだよなァッ!!!?」
上条が頭上の迫りくる巨大な隕石を見ながら叫ぶ。
流石に上条でもあれだけの大質量を右手で受け止める程バカではなかった。
「アウレオルス、アレを何とか出来るか?」
「間然。どうやらインデックスが起こした魔術には『玉音錬成』が上手く作用しない。元々黄金錬成には世界のシミュレートが必要だ。この黄金の世界と元の世界の差異がソレを阻害しているのだろう」
「流石に私もあの大岩を両断しても、後の対処は出来かねます」
「万事休すかよ!」
「慌てるな今代の。確かにあちらには干渉できなくとも、此方には干渉可能だ――――『装飾出現、指定:ステイル=マグヌスのルーンのカードを1兆枚配置』!!」
アウレオルスがそう叫ぶと同時に、ステイルの服からあり得ない量のルーンカードが吹き出した。
「成る程―――イノケンティウスッ!!」
ステイルの声に呼応して、紅蓮の巨人が出現する。
しかもその姿は以前上条が戦ったソレとは比べ物に成らないほど巨大になっている。
イノケンティウスの力は刻んだルーンの数に比例する。1兆ものルーンに支えられた炎の巨人は普段の三メートルから数百メートルに大きさを増大させている。
「燃やし尽くせ!!」
接触した瞬間に物体が蒸発する摂氏三千度の業火が、隕石を支えるように抱き締めた。
「うおっ!」
莫大な量の蒸気に顔を顰めながら、隕石の蒸発を見届ける。
炎の巨人はそのまま魔神を捕らえるために手を伸ばした。
「ってステイル!」
「喧しい素人! あの子の『歩く教会』はこの程度の炎ではビクともせん。しかし如何に魔神と云えど酸素が無ければどうにも出来ない筈だ!」
酸欠による気絶。
元より純粋な魔術戦では勝てないのだ。しかし戦いとはただの魔術の比べ合いではない。
「このまま一気に大気を焼くが、このまま上手くいくとも思えない。上条当麻、貴様はこれまで通り只管走れ! 神裂達はコイツのフォローを。アウレオルスと僕はあの子の魔術を抑え続け――――――ッ!?」
そこまで言いかけたステイルが崩れ落ちる。ソレと同時に、イノケンティウスが掴まえた魔神の身体に一瞬で呑み込まれた。
「なッ……!? ステイル!」
「余所見をするな聖人!! 来るぞッ!」
魔神は上条達を無機質な瞳で睥睨し、掌を合わせる。そしてゆっくりと開きながら現れた 碧炎の槍を、上条達の方に構えた。
「火山の女神の権能『大地を飲むもの』による熱無効で侵入者の魔術の対処完了。術式『
魔神から放たれたその衝撃に、聴覚が消え、視覚が消えてそのまま残りの五感全てが機能停止する。
悲鳴を上げることすら叶わない絶対的な暴威。
ギリシャ神話の天空神の雷霆に匹敵する一撃が、上条達を襲った。
◆◆◆
「っ………かっ………」
「チィ…………!」
人の焼ける臭いが充満する中で最初に意識を取り戻したのは、やはり肉体的強度が最も高い聖人である神裂とワルキューレであるブリュンヒルドだった。
「私は……、ッ! インデックスは!?」
「相変わらず……健在だ。それより」
そう。それよりも、何故自分たちが生き残れたのか。
黄金の世界だからこそ周囲の心配が無いが、もし本来の世界で今の一撃を放たれれば日本は藻屑と化すだろう。
ならば何故神裂達は五体満足か。
「! 上条当麻!!」
「脱帽だな……これが幻想殺しか」
上条が神裂達を庇うように前に出て、その右手で防いだのだ。
勿論、その代償は大きかった。
「………ぐッ……あッ…」
呻き声で、漸く二人は現状を把握した。
上条の右手が酷く焼け爛れ、呻き声を漏らしているもののその激痛で意識が無い。
しかしそれ以外の傷が無いのは――――
「ぐッ………必然。流石に右手には適用されぬか……!」
「アウレオルス……!」
放たれる寸前、アウレオルスが玉音で本来の着弾点の遥か手前にて起爆。更に神裂達の肉体の治癒をダメージを受ける前にすることで、何とか五体満足で生き延びることが出来たのだ。
でなければ幾ら幻想殺しと言えど、直撃を少しでも打ち消す事など出来はしなかった筈だ。
だが、アウレオルスも限界である。
確かに『黄金錬成』は万能である。下手をしなくとも全能に届きうる程に。
しかしあくまで人の持ちうる錬金術、魔術である。
魔神でもない限り力の総量は限られ、大規模に使えば使うほど魔力は削られ、特に先の一撃は本来後数十度使える程の魔力が根刮ぎ持っていかれるほどに消耗する。
「おそらく……後二度が限界だ」
「ッ……!」
「ボサッとするなッ! 来るぞ!!」
トッ、と魔神が黄金の大地に降り立ち、同時に二人の超人が弾かれるように跳びだした。
「『
魔神の両脇から剥き出しの黒い短刀の様な刃が千本出現する。
一つの山を一瞬で容易く解体する黒刃が、二人を迎撃した。
「なっ!?」
「くっ!」
音速を容易く超えて対象の獲物を粉微塵にする千の刃が殺到し、それを超人二人はそれぞれ魔術、技術、そして膂力で、それなりの深手を負いながら対処する。
音速超過が可能な二人だからこそ生き延びることが出来たが、対処に全力を使わなければならない。
聖人とは聖痕を解放し一時的に人間を超える力を振るう者達を指す言葉。
つまり長時間もその力を使えない事を意味している。
唯でさえ全開で力を行使しているのに、指先一つ動かさずあしらわれ、しかもその度に決して浅くない傷を負わされていては話にならない。
神裂達の勝利条件は、上条当麻の右手を届かせるだけ。
だというのに、それだけが余りに遠い。
「『
そして間髪入れずに万もの黒い杭が、魔神を中心に何重もの円を描くように展開、掃射され―――――如何に聖人やワルキューレといえど、流石にコレは躱せきれなかった。
「ぐあッ!!」
「ぎッ……! コレは……!?」
そしてその攻撃は、一本でも喰らってはいけないモノだった。
「石化の、杭ッ……!?」
穿たれた箇所は腕や足。肩などで、致命傷は辛うじて避けられたものの、そこから侵食していくように石化が拡がる。
待っているのは、怪物メドゥーサに挑んだ勇者や兵士達と同じ末路。
つまりは、死。
「『自陣全対象、全快せよッ!!』」
そんな結末を覆したのは、アウレオルスの『玉音錬成』。
「……助かる」
「感謝します!」
拡がっていた石化は瘡蓋の様に剥がれ落ち、傷一つ無い綺麗な肌が覗いた。
更に肉体に掛かっていた負担もなくなり、文字通り全快した状態に神裂達は戻る。
「ぬぉっ……」
「クソッ……まさかイノケンティウスごと魔力を持って行かれるとはね……!」
勿論、各々気絶していたステイルと上条も。
「ぜえッ……! ハァッ……!」
しかしアウレオルス自身に、玉音錬成は作用しない。
否、やり方を整えればアウレオルス自身も回復する。
『玉音錬成』の構造は銃に例えられる。
望む結果を銃弾とし、言霊という引き金を引く。本来コレは短い言霊でも望む現象を起こすための措置なのだが、満身創痍のアウレオルスには『皆を全快させる』という思考に自分が入って居なかった。
一度振り出しに戻ったとはいえ、上条の右手の負傷は治癒していない。
とはいえ、やはり心の支えとしてだけでも、『玉音錬成』は心強いモノとなっていた。
しかし、魔神はその脅威を決して見逃さなかった。
「―――――『
時が止まった。
思わずそう錯覚した。
『――――――――ッ!!!?』
回復したステイルも。
歯を食いしばって起き上がろうとしているアウレオルスも。
上条の道を必死に開こうとしている神裂とブリュンヒルドも。
上条以外の全てが限りなく動きが遅延している。
神裂達の中で動いているのは、時間停止に等しい停滞を齎されたが故に加速した知覚のみ。
「……神裂、アウレオルス? ブリュンヒルド!? ステイル!!」
「『
時間停止に等しい時間の停滞に一人囚われず、しかしそれによって取り残された満身創痍の上条は困惑するしかない。
しかし、迎撃装置でしかない魔神は、そんな上条に詰みの一手に手を掛ける。
その言葉と同時に、魔神が右手を頭上に翳す。その瞬間、『世界』に溢れる黄金が魔神の掌に集まった。
「―――――『
いつの間にか魔神が握っていた鋸の様な刃の青銅剣に、黄金が纏いながら形を成していく。
現れたソレを、上条は『剣』だと思えなかった。
出来上がったのは、剣というより円柱状の刀身を持つ突撃槍のような形状の何か。
そしてそれら自体が巨大な力場である三つの円柱が回転し、空間変動を起こす程の時空流を生み出していく。
ハッティの神話に於ける地の王、後に生命と泉の意味名を持つ深淵の主の宝剣。
彼の者を神々の王座から引き摺り下ろし、嵐神の軍を滅ぼす為に産み出された天に聳え立つ、怪物ウルリクムミを天地ごと切り裂いたエアの鋸。
数多の神話の武具の中で最も規模の大きな、まさに最強の名も無き『剣』。
曰く、宇宙ごと斬った。
曰く、神々でさえ斬った瞬間を知ることが出来なかった。
世界創世の権能、天地開闢の理の具現。
インデックスは、これを乖離剣と呼ぶだろう。
「あ………」
上条は即座に理解した。
アレは防げない。アレは振るわれた瞬間、斬られた認識すら出来ず上条達の命ごとこの黄金の世界を切り裂くだろう。
可能性が有るとしたら、アウレオルスの『玉音錬成』で剣を振るわれる前に魔神の知覚領域から逃れる事のみ。
しかし『玉音錬成』はあくまで言霊。
言葉を紡ぐには、時間の流れが遅すぎる。
神裂やブリュンヒルドも、圧倒的に引き延ばされた時間に抗うことが出来ない。
万策尽きた。
もう、勝てない――――――、
◇
そもそも神と人の差とは、確固とした唯一つの事実によって隔たれている。
成る程怪物ならば英雄が倒すだろう。
成る程英雄ならば人が倒すだろう。
しかし、古今東西あらゆる神話伝承において半神などの例外を除き、人や英雄は決して神に勝つ様子が描かれたことはない。
天災や神権授受などを筆頭に、人間にとって神とは決して抗えず、賜り祭り鎮める存在である。
寧ろ人間では絶対に勝てない『人の権威を打ち砕く』象徴だ。
故に人に神は絶対に殺せないのである。
◇
――――――横合いから突如『世界』を吹き飛ばしながら現れた『槍』が、魔神の『剣』を粉砕するまでは。
「…………!?」
その驚愕の声は誰のものか。
しかし周囲の理解を置いてきぼりにし、『槍』は『剣』と共に粉々になり、黄金の世界は時間の停滞と共に壊れ、学園都市の風景に戻っていた。
「新たな敵兵を確認。解析を――――」
「遅い」
「――――!!」
高いソプラノの、成熟する前の美しい女性特有の声が響く。
魔神は瞬時にその魔術を理解した。
北欧神話に於ける女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液から作られ、それ故にこの世から存在しなくなったとされる魔法の紐。
神喰らいの悪狼を縛ったとされる足枷だ。
宝剣を破壊された魔神は地に縛り付けられ、身動きを封じられる。
しかし、僅かな時間だけ。
「敵兵の魔術の解析が完了しました。対北欧系術式の構築を開始しま――――」
「やらせませんッ!!」
そして超人達はその僅かな時間を決して見逃さなかった。
拘束を引き千切る前に魔神に七本の鋼糸と、神裂本人が再び動きを封じる。
「乗れッ! 幻想殺しッ!!」
「アァッ!!」
同時に上条が数十センチ程跳び上がり、ブリュンヒルドはその大剣を上条を乗せるように差し込んでサーフボードの様に上条を乗せ、
―――――ビルすら振り回せるワルキューレの全力を持って、振り回す軌道で大剣を薙いだ。
「―――――ッ!!」
奇しくもそれは、正史に於けるある一幕と同じモノだった。
砲弾の様に飛んだ上条は、ただ右手を伸ばす。ただソレだけで、全ての片は付いた。
(神様。この世界がアンタの作ったシステムの通りに動いてるんだってんなら――――――――)
友人とハイタッチするように優しく気軽に伸ばされ、骨が軋むほど握りしめられた右手は、
(――――――まずは、その幻想をブチ殺す!!)
バキンッ!!! と、インデックスの頭部に直撃し吹っ飛ばした。
あれほどの理不尽を振るってきた出鱈目な存在相手に。
本当に、一撃で何もかも一切合切決着した。
「――――警、告。……『 自動書gg、』致命的な、破壊……再生………不hdhgsghfddhh……――――」
そして、ただ致命的な破壊程度で納得するほど、
「インデックスを『完全解放』せよッ!!!」
追い討ちの如く、アウレオルスの最後の一言でインデックスに仕掛けられたあらゆる縛りは消滅した。
世界は残酷である。まるで予定調和の如く、約束されていたかの様に、その運命はやって来た。
―――――一枚の羽根が上条の頭部に落ちてくる、という形で―――――――。
最後のは誰なんだー(棒読み)
という訳で首輪戦はこれにて終了、次回は本編エピローグです。
今回出した他作品の術の出展は『神座万象シリーズ』、『魔法先生ネギま!』、『型月作品』、『BLEACH』でした。
選考基準は、
余り動かない。
唯の魔術師なら即死級。
最後の以外惑星破壊級ではない。
その作品を自分をよく知っている。
でした。
修正点は随時修正します。
感想待ってまーす(*´ω`*)