ぼくの名前はインなんとか   作:たけのこの里派

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出来たので投稿しました。
自分の稚拙な文章に、3000を超えるお気に入り登録と数多くの感想を頂き、有難うございます。



第十話 黄金

 学園都市第二十三学区。

 学園都市の航空、宇宙開発分野の為に区画ごと占有している一般人立ち入り禁止の、スタンプのような丸い枠の中にいくつかの四角形を重ねた図形がエンブレムの学区に、バキンッ!! と、何かが砕ける音が木霊した。

 それまで倒れ伏していたソレは、ゆらりと立ち上がり、瞳に魔方陣を刻み全くの無表情で虚空を見上げた。

 感情を一切感じられない機械的な抑揚の言葉が口から洩れる。

 否、壊れかけの機械音が。

 

『防壁……全貫通、自動書ッ、防衛……首輪……全損……侵入者、排除、排除排除排、除排除排除排除排除排除排除ハイggggggggggggggggggg――――――』

「構えろ! 来るぞッ!!」

 

 長い金の髪の北欧系の『現代にある素材を使って中世ヨーロッパの鎧のシルエットを再現した』ような姿の女性――――ブリュンヒルドの声が、その戦いに挑む者達を現実に戻す。

 ナニカを破壊した張本人――――上条は拳を握り、そして魔神(インデックス)の眼前に瞳のソレと同じ二つの魔方陣が重なる様に展開され、理解不能な領域の音を漏らして、中心から縦に何も無い空間が割れる。

 

『――――敵性を確認』

 

 その亀裂の()から出た何かが放った、屋根を容易く吹き飛ばした竜の一撃が夜空を裂いて、この物語の最終決戦は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

第十話 黄金

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に一筋の光の柱が走り、偶然か故意か軌道上の学園都市製の衛星が一機、粉々に破壊された。

 

「いきなり竜王の殺息(ドラゴンブレス)か……中々にハードじゃないか」

「余波に気を付けて下さい!」

「頭部だけには気を付けろ上条当麻」

「アレがインデックスの言ってたヤツか、気を付けなくちゃな」

 

 上条は、光の柱を中心に空から天使の様な白い羽根が落ちるのを眺め、改めてインデックスを見据える。

 上を向いたままの魔神の視線は、ギョロリと瞳だけで上条達を射抜く。

 そして直後、上空に撃ち出されている竜王の殺息(ドラゴンブレス)を、そのまま首と共に剣の様に振り下ろした。

 

『ライザーソードッ!!』

 

 もしインデックスに意識があれば、こう口にしていただろう。

 

「なッ!?」

「上条当麻!!」

「判ってる!」

 

 上条が右手を頭上に上げ、すると吸い込まれる様に竜王の殺息は右手に防がれる。

 だが、

 

『敵性に北欧系と十字教の混合術式を確認。対抗術式―――豊穣神の剣を構築。発動まで後七秒』

 

 ブォンッ!! と、インデックスの周囲に光輝く白光が漂い、凄まじい勢いで飛来した。

 北欧神話においてその剣を所持していた神は決して負けることはなく。

 その剣を奪われる事で漸く死した、神話において敗北した逸話のない不敗の神剣、その三振り。

 それが敵性存在を確実に殺すために殺到する。

 

「――――救われぬ者に救いの手を(Salvere000)ッ!!」

 

 唯閃。

 神裂がその七天七刀から繰り出した一撃。

 それは独特の呼吸法で魔力を練り上げることにより、自身を人間の限界を超えた体の組織に組み変え、そこから繰り出される必殺の抜刀術。

 『特定の宗教に対し別の教義で用いられる術式を迂回して傷つける』という手法を取ることで対神格用術式としても機能し、一神教の天使を切断、人間の『内部(精神)』に宿った“大天使”ごと相手を切り裂くことすら可能な神裂火織の使用する奥義である。

 だが、

 

「駄目だ神裂!!」

 

 ステイルの叫びが響く。

 その光は直線的な軌道から、突如蛇の様なぬるりとした生物的な動きに切り替わり、唯閃の斬撃を潜り抜けた。

 北欧とその流れを汲むケルト神話に特有の、自動的に宙を舞い確実に敵の息の根を止めてくれる武具である。

 面攻撃ならともかく、線の攻撃を潜り抜けるのもたやすいのだ。

 そして彼女も敵と判断したのか、その光はそのまま神裂の喉元へと向かっていく。

 

「ぁぁああァあああああォおおおぉッ!!!」

 

 それを見た上条が、インデックスのアドバイスを脳裏に思い出しながら動いた。

 

『もし幻想殺しでも受けきれない莫大な力でブッ放されたら、無理に受けきる必要は無い。寧ろソレを利用するんだよ』

 

 受け止めきれておらず、右手が悲鳴を上げていた竜王の殺吹(ドラゴンブレス)を、手首を捻りながら神裂に迫る光に向かって受け流した。

 白い光は竜王の殺息に弾かれ飛んでいく。

 勿論竜王の殺息は受け流されたままではなく、再び上条を襲う。

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 ステイルが配置した数百のルーンによって超速再生する炎の巨人が、盾の様に竜王の殺息を受け止める。

 しかしそれはジリ貧だ。

 この程度、再生を阻害する術式を組まれれば即座にお仕舞い。現に魔神は瞬く間に対応するだろう。

 

 そして直後、そのブリュンヒルドがドラゴンの一撃を切り裂いた。

 

 ブリュンヒルドの持つ大剣はただのクレイモアではない。

 柄は黄金に着色され青い宝玉が埋め込まれ、鞘は金色の打紐で巻き上げられていた。

 その霊装の持つ効果は伝承に準えて二つ。

 

 一つは、破損しても自動で修復するという特性。

 これは一度破壊され、その後もう一度造り上げられた事から適用されたもの。

 それ故にブリュンヒルドは本来強度で劣る神裂の七天七刀と打ち合い続ける事が出来たのだ。

 そして此処で最も重要なのは二つ目の能力。

 

 それは竜に関する一切を殺し尽くすという、竜殺しの伝説になぞらえた効果である。

 

「―――――『竜殺し(グラム)』ッ!」

 

 北欧神話において悪竜を滅ぼした戦士王の宝剣は、竜に関する魔術に対して絶対の効果を発揮する―――!

 しかしこれは何度も使える剣ではない。

 何故ならバルムンクのモデルになった魔剣グラムは、オーディンのグングニルよって破壊されているからだ。

 そんな明確な弱点を、魔神が見逃すはずはない。

 魔神の瞳がギョロリと動き、

 

「七閃!!」

 

 それを防ぐ為にインデックスの体勢を崩さんと、直ぐ様神裂の七本のワイヤーによる斬撃がコンクリートを切り裂いていくがインデックスはまるで翼が生えた様に飛翔した。

 否、比喩ではなかった。

 

「そんなんアリかよ……!?」

 

 インデックスの背後には、血のように赤い天使の巨大な翼が展開され、そのまま空に飛翔する。

 そして再び、インデックスの周囲に白い光が漂い始める。

 その数は三つ。先程弾いた光が何一つ衰えている様子も無く、ご丁寧に帰還していた。

 

「フレイの剣……北欧神話の不敗の武具の再現か……」

 

 神々が戦い、死んでいく北欧神話で唯一敗北する記述が無い、敵を自動操縦で拭滅する不敗の剣。

 しかし魔神の攻撃はそれだけに留まらなかった。

 

「『硫黄の雨は大地を焼く』完全発動まで後五秒」

 

 三つの光の剣の更に背後。

 火の矢の様な炎が、弾幕の様にビッシリ展開される。

 先程上手く竜王の殺息を受け流す事に上条は成功したが、しかしそれは極めて直線的で単一な線の攻撃だったからこそ。

 あれほどの数の火矢に襲い掛かられたらどうなるか。

 仮に上条が正史の10月30日の様に上手く受け流す事ができたとしても、音速で動ける神裂達は兎も角、ステイルは確実に死んでしまうだろう。

 しかも。

 

「嘘……だろ……!?」

「そんな……ッ」

 

 止めと言わんばかりに、罅割れの様にインデックスの眼前に赤い亀裂が発生する。

 亀裂からギチギチと軋みを上げ、幾つもの刃が絡み付いている一振りの槍が覗いた。 

 その絡み合った刃先に、雷、炎、氷、暴風。様々な属性の力が収束していく。

 あれが放たれれば、上条の知覚を超えた破壊をもたらすだろう。

 対処するには確実に幻想殺しがいる。しかも他の魔術を気にする余裕は無いのは間違いない。

 

 だがアレを上条が受け止めようとすれば他の魔術が確実に上条を殺す。

 それはこの戦いの敗北を意味していた。

 

「クッソ…………!!」

 

 一つ二つ攻撃を防いだ処で意味は無い。

 10万3000種類もの魔術の知識を用いて、ほぼ無尽蔵に魔術を振るう。

 一対万でもまだ足りない。

 一対四など笑い話にも為らない。

 

「アイツに辿り着く事も出来ないのか……!?」

 

 真の魔神の前に、高々異能を打ち消す右手や聖人など、届かなければ意味が無い。

 そして、死神の鎌は振り下ろされる。

 先ずは燃える硫黄の弾幕。豊穣神の三対の勝利の剣。そして『槍』の相転移砲。

 火矢の豪雨が降り注ぎ、上条達に絶望を齎す初撃は―――――――

 

 

「『吹き飛べ』」

 

 

 ――――しかし上条達に届くことはなかった。

 

『………?』

「な、何が……?」

 

 硫黄の雨は、まるで見えない巨大な拳で横合いから殴り付けられたように吹き飛ばされ、消滅した。 

 ――――その男に逸早く反応したのはステイルだった。

 

 現れたのは、白いスーツに緑の髪をオールバックに整えた長身の男。

 その男を、ステイルと神裂はよく知っている。

 何故ならその男は、自分たちより先に絶望した男だからだ。

 

「何故……、何故貴様が此処にいる!? ――――――――アウレオルス=イザードッ!!」

 

 その男は正史において、『吸血殺し(ディープブラッド)』の少女を巡る戦いで出会う筈の、先々代のインデックスのパートナーだった男。

 

「必然。この一夜が満願成就の夜であるのは、貴様達だけでは決してないという事だ」

 

 かつてたった一人の教え子を救うことが出来なかった『教師だった男』は、二年前にやり遂げる事の出来なかった壁に挑む。

 

「――――――警告、第六章第十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考の変更を行います」

「さぁ禁書目録よ。この二年間で磨きあげた我が錬金術の全て、その消えない記憶に刻み込め!」

 

 本来の歴史では決して報われることの無かった男が今、戦いの舞台に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――アウレオルス=イザードがインデックスと出会ったのは、上条と出会う前日。

 第一七学区に存在する三沢塾の宗教団体を乗っ取り、『黄金錬成』の為の2000人での『偽グレゴリオの聖歌隊』を実行する直前だった。

 

「………は?」

 

 三沢塾ビルの入り口で、二年前に見た姿から幾分成長していた白い少年神父が、何時の間にか立っていたのだ。

 

『えっと……へるぷみー!』

 

 かつて自身を救って自身が救えず、そして今度こそ救う筈の『生徒』の助けを求める声に、アウレオルスは警戒や防衛手段をかなぐり捨てて駆け出した。

 

 そこからは彼にとって驚天動地の連続だった。

 首輪や幻想殺し。先代のパートナーという、これまでの努力とか諸々を台無しにする情報をサラッと告げられ、しかしアウレオルスは愚直だった。

 

『自分は何も覚えていない。知ってるだけで前の自分とは別人だ。でも、それでも尚、自分は貴方を「先生」と呼んでも良いだろうか――――?』

 

 アウレオルスのやる気メーターがカンストした。

 ローマ正教を裏切り世界を敵に回した自分を、また『先生』と呼んでくれる。

 喪われたインデックスの記憶はもう戻らないが、それでも彼は嬉しかった。

 

 本来2000人の何度も死亡してしまう生徒達を使用せず、一日掛けて超能力者である生徒以外の、魔術を行使しても問題が無い者を集め、更に自爆予防の為の術式をインデックスの助言で追加した結果、思考したモノを現実にする『黄金錬成』を、言霊を現実にする『玉音錬成(ルアハ=マグナ)』に昇華させた。

 そして今―――――。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「『軌道変更、砲撃は歪曲する』」

 

 魔神(インデックス)の放った相転移砲撃は言葉通りに空間ごと歪曲し方向を変え、虚空を吹き飛ばし、

 

「『消滅指定、豊穣の剣は奪われ消える』」 

 

 豊穣神の不敗剣は、神話通りに使用者の元から消えてなくなった。

 

「俺の右手に集めてくれ!」

「敢然、気を付けろ!『攻撃収束、指定「幻想殺し」』!!」

 

 落下してくる硫黄の豪雨は全て上条の右手に集まり、打ち消していく。

 絶望的だと思っていた魔神の攻撃は悉く防ぐことに成功する。アウレオルスの参戦は、言葉にするだけで魔神の攻撃に対処できる玉音錬成はそれだけの規格外の価値がある。

 ローマ正教やイギリス清教の反応が怖いが、今はその存在は頼もしかった。

 

「征け今代の! 私の玉音錬成では今のインデックスにどの様な影響があるか解らぬ故破れん! 更に解析されればじき封じられる!! その前に片を付けろ!」

「了解!」

 

 希望が見えると同時に、上条は走り出した。

 しかし魔神は未だ遥か上空におり、上条が幾ら走った所で意味はない。

 

「警告、第二十二章第一節。敵兵の錬金術の術式の逆算に成功しまし――――」

 

 だが――――

 

「私達を忘れて貰っては困ります!!」

「ッ!」

「『墜ちろ!』」

 

 ステイルの炎が生み出した上昇気流で跳躍した神裂とブリュンヒルドが、羽ばたく血色の翼を竜殺しと対神格術式で斬り落とす。

 そして神裂達に気を取られた隙に、アウレオルスの言霊がすかさず魔神を叩き落とした。

 数十メートルの高さから叩き落とされるものの、インデックスの肉体は歩く教会によって護られるので遠慮は要らない。

 

「行けッ! 能力者!!」

 

 そして落下した魔神に、上条が右手を構えて駆ける。

 

「――――うおおおおおおおおおおォォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ――――突然だが、インデックスの話をしよう。

 彼は転生者であり、原作というこの世界の一つの可能性を知っている唯一の存在だ。だからこそ彼は仲間を集め、上条という切り札とアウレオルスという隠し札を用意した。

 原作の『自働書記』の戦いを知っている彼は、それだけの戦力と予備知識が有れば十分に対処できると考えたからだ。

 しかし彼は致命的な事を計算に入れていなかった。

「彼がこの戦力ならば十分」と考えた計算に、()()()()()()()()()()を入れることを考えていなかった。

 

 当然だろう。

 何の異能や神秘が明確に存在していない世界での一介の一般人の記憶が自分の計画に対して何の障害にもならないという判断だ。

 別の世界の。創作上の魔術や魔法や神秘の存在を。

 禁書目録の魔導書図書館と云えど不可能だと。

 

 しかし、この場には黄金錬成が存在した。玉音錬成に昇華するまでに術式を見て理解してしまった。

 そして何より、先の未来である隻眼の魔神や『グレムリン』達の、魔神達の基本能力である位相操作。

 それをこのインデックスは知っていた。

 

 魔術とは、別位相の法則をこの世界に持ち込む技術であり、超能力は『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』という名の、個々人の認識から固有の位相ともいえる法則で世界を歪める技術。

 

「――――――新たな敵兵の魔術の解析が完了しました。敵の完全排除の為、戦闘領域を構築します」

 

 策士、策に溺れる。

 彼の失敗は、この一言に尽きた。

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――『修羅道黄金至高天(Du-sollst Dies irae)』から抽出。『至高天・(グラズヘイム・)黄金冠す(グランカムビ・)第五(フュンフト・)宇宙(ヴェルトール)』、即時実行」

 

 瞬間、世界が黄金の覇道に侵食された。

 

 

 




今までアウレオルスが首輪戦で参戦する作品があっただろうか……!
というわけで今回は首輪戦前編でした。

竜殺し(グラム)
 今回ブリュンヒルドの使用する霊装として登場。クレイモアの形状の詳しい描写をプロローグでしなかったのはこれが原因です。
 有する特性は龍関係の魔術の無効化と、一度砕かれた後に造り直された逸話から自動修復機能です。
 竜王の殺息を使うのが判っていたのと、ワルキューレと同じ北欧神話なんで出してみました。
 出典は『ヴォルスンガ・サガ』です。

玉音錬成(ルアハ=マグナ)
 アウレオルス参戦を決めたから『黄金錬成』は使用者がチキンだと自滅する可能性があるので、改良しました。
 概要は、頭で考えて放った言霊を現実にする魔術で、思考のみでは発動しないようにしただけの『黄金錬成』です。


 さて、次回は首輪戦決着ですが、魔神化イン何とかがその名にふさわしい理不尽を振るいます。
 獣殿? あんなん出したら世界崩壊するんで出ません。魔術だけ他作品要素満点です。

修正点が発覚次第修正します。
感想待ってまーす。

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