ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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協力者を得た

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 エイトさんはククールさんとゼシカさんを連れてルイネロさんのところへ向かった。今後それぞれルイネロさんを単独で尋ねる事があるかもしれないので、顔見せの意味も兼ねてだ。

 王と姫様は宿で留守番。

 私とヤンガスさんはパルミドだ。早速ルーラでヤンガスさんとパルミドに飛び、雑多な街並みを抜けて情報屋の家へと向かった。

 どこからどこまでが敷地になっているのか判然としない道を通り辿りつくと、ヤンガスさんは遠慮なく戸を叩いて中の住人を呼び出した。

 顔を見せたのはこの街にはやや不釣り合いな、小奇麗な恰好をした眼鏡の男性。見るからに細身で、この街でやっていける風貌にはあまり見えない。

 神経質そうな細い目がヤンガスさんを見てから私に移され、一瞬値踏みするような気配をさせてから「どうぞ」と中に招き入れてくれた。

 あっさりドアが開いたと思ったが、警戒心が無いわけではないらしい。ヤンガスさんが居たからドアを開けてくれたのだろう。

 中に入ると室内には夥しい数の本が並んでおり、パルミドとは不釣り合いな様相だ。大きな街の学者の部屋と言われた方がしっくりくる。なんだか、私が想像していた情報屋とは随分と趣が異なるようだ。

 

「それで? 今度は何でしょう?」

 

 促した男性にヤンガスさんが質問に答えようとするのに待ったを掛け、私は前に出た。

 

「ここでの情報料というのはいか程なのでしょうか? 事前に確認するのを忘れておりまして」

「それは内容によります」

 

 そりゃそうか。にべもない答えだが、ごもっとも。

 

「例えば、酔いどれキントの近況なんかだとどの程度です?」

「酔いどれキント? ……ああ、あなた方とは因縁がありましたね。彼の話なら百ゴールド程度でしょうか」

 

 百。うーん……聞いてみたものの、参考にならんな。もう正面から行くか。

 

「いくつか知りたい事があるのですが、それぞれどの程度の対価が必要か先に提示してもらっていいですか?」

「もちろんいいですよ。態々そちらからおっしゃっていただけるケースは少ないですがね。私としてもその方がやりやすい」

 

 元々前払い制なのかな? まぁ話聞いて、さよならされたら丸損か。

 

「ではその方法で。知りたい事は三つあります。

 一つ目は、月影のハープがどこにあるのか。

 二つ目は、錬金、又は錬金釜について。

 三つ目は、トロデーンの秘宝について。

 どうでしょう?」

 

 指を一つずつ立てて聞いた私に、男性は机の向こう側に座りこむと「ふむ」と肘をついた。

 

「一つ目は、ニ千ゴールド。

 二つ目は、五百ゴールド。

 三つ目は、三千ゴールド。といったところですね」

 

 合計五千五百……思ったより安い気はするが、お財布的にはあんまり安くない。が、まぁいいだろう。工面できる範囲だ。

 きっちり五千五百ゴールド取り出し、男性の前に置く。男性もそれを確認し、確かにと頷いて私達に椅子を勧めた。

 

「どうぞ、少々長くなるかもしれませんから」

 

 私は軽く頭をさげ、ヤンガスさんは遠慮なく椅子に座った。

 

「まず一つ目の月影のハープについてですが、アスカンタの宝物庫にあります。国宝ですからね」

 

 わぁ。国宝だって。手が出しづらいじゃないか。

 所在が判明したのはいいが……参ったな……

 

「二つ目の錬金についてですが、大昔には頻繁に使われていた技術だったようですね。各地で錬金に関すると思われる資料が残されていますが、複数の物質を組み合わせて、全く異なる物質を創りだすという概念の様です。三つ目のトロデーンの秘宝と重なりますが、錬金を容易にするらしい錬金釜というものは、トロデーンの宝とされています。ただ、それがどのようなものであるのか、どのように使うものなのかは代々の王族のみに伝えられているそうです」

「錬金の手引書などは残されていたりは?」

「手引き……そこまでのものは無いでしょうね。各地にそれらしき文献が点在しているといった程度で、系統立ったものは失われている可能性が高いです」

 

 少なくとも、私は知りませんと情報屋の男性は首を横に振った。となると、手がかりは王が集めた本か。あとはインパスあたりで情報が出れば儲けものだな。

 

「判りました。三つ目は、錬金釜以外のもので知っている事はありますか?」

「トロデーンの秘宝ですね。それならば、封印されている杖でしょう。幾重にも儀式的魔法的封印を施され、決して触れてはならない物だと伝えられているものだとか」

「手にした場合、どのような事になるとかは」

「良くない事が起きる。とは聞いた事がありますが……おそらく魔法使いにとっては大きな力を得られる杖ではないかと。

 そもそも封印されているという事は破壊する事が出来ないか、破壊するに惜しい杖のどちらかだと考えられます。良くない事が起きるという話がある以上、破壊が望ましいのにそうされていないという事は、破壊する事が出来ない杖。杖自体がそれだけの力を秘めているのでは。と、言われているようです」

 

 その辺の考察は私も同意見だ。知りたいのはその先の事だ。

 

「その杖を手にした人物が、次々に人を殺して回っているとしたら?」

「人を殺す、ですか? 元々その杖を手にした人物がどういう者なのかによると思いますが……単純に持ち主の力を増幅しているのか、持ち主の精神に何らかの影響を与えているのか、そんなところでしょうか」

「持ち主の精神に影響を与えるものってあるんですか?」

「無い事も無いですね。武具に関して言えば多い方でしょう。温厚な人物が突然隣人に襲いかかったという逸話は多くあります」

 

 呪いの武具シリーズに近いものだろうが、戦闘時以外でも精神に影響を及ぼすとなると性質の悪さは数段上か。

 

「それと、杖という繋がりでこういう話があります。

 『闇を封じた神の杖あり。封印解かれしとき、再び闇は肉体を得て甦るであろう』

 他に『大岩に封じし闇の肉体、悪戯に触れるなかれ。闇の魂封じし神の杖、努々触れるなかれ』と言ったものがあります。どちらも古い遺跡に刻まれていた言葉です」

 

 ……抽象的だが、よろしくない感じがとってもする。

 

「その杖がトロデーンの秘宝であると?」

 

 突っ込んで聞けば情報屋は肩をすくめて見せた。

 

「可能性の話です。闇というものについては、邪神をはじめ、幾らでもその辺りに話が転がっているので話せばきりが無いですが」

「なるほど。ちなみに、その情報はおまけですか?」

 

 杖繋がりの話ではあるが、トロデーンの杖と関係があると断定出来ていない情報だ。話す必要は無かっただろうに。何か意図があるのなら先に言っていただきたい。

 男性は組んでいた手を解き、初めて苦笑を浮かべて私を見た。

 

「少々気がかりが出来まして」

「気がかり?」

「私が初めて道化師の男の話を得たのはオディロ院長が殺された事件でした。各方面に有名な御仁でしたからね。噂が回るのは早かったです。その事で誰が殺したのか知りたがるお人も多くおられました。暗殺の類を懸念されていたようですが……調べてみると、道化師の男はオディロ院長を殺す前にもう二人、人を殺していました。リーザス村のサーベルト氏。トラペッタのライラス氏。そしてそれ以前の動向を調べるとトロデーンの異変へと繋がり、それ以前の情報になるとまるで別人のような話が集まりました。貴女方の質問と会わせると、トロデーンの秘宝を道化師の男が手にし、人が変わったように殺しを続けている。という事になるのです」

 

 『どうですか?』という視線に、私は肯定も否定も返さず続きを促す。

 

「その杖が単なる力の増幅であれば、または単なる精神異常を及ぼすだけのものであるならば、殺されている人がもっと多くともおかしくない、と思うのです。そう思った時、先ほどの遺跡の言葉がちらついたのですよ。気にし過ぎなのかもしれませんが」

 

 ……なるほど。情報を得んが為のカマではないか。それならある程度話してもいいかな。

 

「私には道化師の男は何か目的があって人を殺しているように見えました。常軌を逸している雰囲気でしたが、快楽殺人者という雰囲気ではありませんでした」

 

 快楽殺人者なら私は殺されていたと思う。あの時、道化師の男はオディロ院長に固執していた。

 

「その事が私も気になって、それで情報を求めたのです。何か道化師の目的がわかるようなものが無いかと」

 

 目的が判明すれば先回りも可能だろうと思ったのだが。

 

「そうでしたか………。判りました。こちらはお返ししましょう」

 

 情報屋の男性は先程出した五千五百ゴールドを机の前に押しやった。

 

「代わりに、道化師について何かわかった事があれば教えて頂けませんか? もちろん、こちらで手に入れた情報はお渡しします」

「随分と危険視しているようですけど……そこまでされる理由が?」

 

こちらに有利と思える申し出に訝しむと、情報屋の男性は真面目な顔で首を横に振った。

 

「直感です」

 

 そう言ってから、表情を曇らせる。

 

「オディロ院長が狙われたというのがどうにも……

 あの方は人と人を繋ぐ要のようなお方でしたからね。目的があってと言うことならば、その目的は随分と宜しくないものではないか、と。胸騒ぎがするのですよ」

 

 商売を別としても動いておいた方が良いと判断したというわけか。

 実際にあの道化師と会ったら、その胸騒ぎというのも増すのではないだろうか。あの異常性というか奇怪な様相というか、平和ボケしている私でも不安を掻き立てられるのだ。

 

「情報共有については異論ありません。ただ、一つ協力をお願い出来ますか?」

「何でしょう?」

「オディロ院長が殺された時、私達はその場に居ました。ですが、信用が無いため十分な防衛を敷けなかったのです」

 

 果たして、あの道化師を前にどんな防衛を敷けば良いのか。正直答えは見つからないが、それでもあの時のように、それぞれの立場の者が独立して動くよりはマシだと思う。

 

「ですので、これから伝手が必要となった時に協力していただきたいのです」

 

 情報屋は顎に手を当て、ふむと頷いた。

 

「場合によりますが、わかりました。可能な限り対応しましょう。それなりに伝手はあるつもりですから、どうぞお役に立ててください」

「助かります。それと、これは道化師が言っていた事ですがーー」

 

 オディロ院長が殺された時の事を感情を殺して思い起こし、なるべく忠実に道化師が言っていた内容を伝える。

 情報屋は眼鏡の奥で目を細め眉をしかめた。

 

「このチカラ……これで用はない………明らかに目的がありそうですね。殺害された人物に共通点は無いように思っていましたが……調べてみましょう」

「助かります。調査はからっきしなので」

「人間、それぞれ得意分野がありますからね。持ちつ持たれつですよ」

 

 情報屋はチラリとヤンガスさんを見ると微笑んだ。

 もっと足元を見られるかと思っていたが、予想に反して良い関係を結べたようだ。

 まぁそれはそれで良いとして。いくつか別件についての情報を買い上げ、ついでに追加で情報収集を依頼する。いくら優先する事があるとはいえ、忘れるわけがないのだよ。

 頭の中で計画を練っていたら若干ヤンガスさんに引かれたようだが、何に引かれたのか不明なのでスルー。

 

「そうそう。少し前、面白い話を聞きました」

 

 欲しい情報も得たので礼を言って戻ろうとして、情報屋の言葉に動きを止める。

 

「丁度、オディロ院長が殺された前後、教会を訪れていた者の傷が癒えたそうです。教会にいた者は例外なく。

 その時噂されたのが女神の使いという女性です。黒髪に旅人風の姿で小さな魔物を従えていた不思議な女性は、教会を襲った悪党から教会を守るためオディロ院長の祈りに応じて女神がつかわした」

「……それが私だと?」

 

 『さあどうでしょう。黒髪の女性など多いですからね』と、情報屋の男性は肩を竦めて見せた。

 気を付けろという事なのだろう。善意の忠告に軽く頭を下げる。

 

「噂の元がなんとなく想像出来ました。重々注意します」

 

 溜息を堪えて礼を言い、ハテナ顔のヤンガスさんに何でもないと誤魔化してトラペッタへと戻った。

 宿に入るとエイトさん達も戻っており、そちらでも月影のハープはアスカンタにあるらしい事が判明していた。さすが不思議世界。おそるべし占い。

 ただし、国宝とまでは判明していなかった為、貸してもらえるのかという疑問が生じた。

 とは言っても必要なわけで。とりあえず話だけでもしてみようという事で、アスカンタの王と面識がある面々が城へと向かった。

 例のごとく留守番組となった私は荒ぶる錬金釜と相対したり、これまで調べてきたインパスの結果や、王が持ち帰った本の内容で有用そうなものを纏めた。姫様は私がしている事を興味深そうに見ていたが、王は日曜大工でもしているのか、荷台の中からトンカンと何やら音を響かせている。若干嫌な気がするが、止められる自信もないので見ないフリと言う名の現実逃避に走る。

 時間が出来たら何かと世話を焼いてくれる女将さんの手伝いでもするかな、と考えているとエイトさんが戻ってきた。

 他のメンバーはおらず、エイトさんだけという状況にデジャブを感じ顔が強張るが、何とか解して迎える。

 

「どうされました?」

「実は、アスカンタ王に月影のハープをいただける話まで出来たのですが……」

 

 え。まじで? 国宝くれるの?

 衝撃の内容だった。

 




一年もほったらかしにしていたというのに、拙作をお待ちいただいていた事に驚きと共に感謝を感じております。
こんなにも更新が遅れたのは、実は家族が一人増えまして、睡眠もままならない状況下にあったためです。最近ようやく生活リズムが出来てきたところですので、今後も更新は不定期になるかと思いますが、細々と完結まで続けていきたいと思います。

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