ドラクエは5か6までしかしていません   作:send

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遅くなりました。


魔物を集めた

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「それにしても、あんた胆が据わってるよな。盗賊のアジトに居るってのに」

「……それなりに緊張しているつもりですが」

 

 この男、自分の服装に自覚が無いのだろうか。覆面レスラーだぞ。覆面レスラー。盗賊のアジト云々はともかくとして、そんな男を前に緊張しない方がどうかしている。憮然として返すと呆れた目を返された。

 

「それでか?」

 

 そう言われると私の主観を主張しようとも納得されない事が明白じゃないか。どう答えろと? 『テヘペロ。うっそ~☆』とか言ったらいいのか?

 本当に言ったら変人奇人評価に拍車がかかりそうなので呑み込むが、釈然としないものが溜まっていく。

 ちょっぴり仕返し出来ないかなぁと考えていると、残念ながらエイトさん達が出てきてしまいその機会は失われた。

 

「無事に交渉が終わったようで何よりです」

「え? あれ? もしかして聞こえてました?」

「いえ。こちらの方から、もとより返却の意志があったことを伺いましたから」

 

 目を瞬かせたエイトさんの視線を覆面男へと誘導すると、エイトさんの視線を受けて男は苦笑しながら頷き肯定を示した。

 私は苦笑いをしているエイトさんにククールさんを含めた男性陣の服が入った包みを、ゼシカさんには個別の包みを渡した。

 

「着替えは……その姿だとパルミドが妥当でしょうかね?」

「だと思います。他の町だと人目につくでしょうから」

「わかりました。すでに馬車の用意はしてありますので、一旦私は姫様と陛下をお連れしてドニの宿に飛びます。明日朝にパルミドへと飛びますのでそこで集合しましょう」

「あ、パルミドに来るのは待ってください。ドニまで僕が迎えに行きますから」

 

 おお。エイトさんに危機管理能力が芽生え始めたようだ。

 

「了解です。では明朝に」

「はい」

 

 エイトさんは他のメンバーを呼んで早速ルーラを唱えて飛んでいった。それを見届けて私も姫様に声を掛け、治安の問題と嘯いて以前に王と姫様だけで留守番をしてもらったドニへと飛んだ。

 馬車ごと飛ぶ事に、ルーラを唱えてから危険ではないかと思い至って血の気が引いたが、馬車だけ落ちていくというような事はなく、私が触れている姫様も馬車も無事に地面へと着地した。体感としては非常にスリル満点だが、安全面は思ったよりも充実した魔法なのかもしれない。思い返してみれば浮遊感はあるものの風圧を感じた事は一度も無いのだ。何気に優秀?

 眠気でとろくなった頭でそんな事を考えつつ宿を取って姫様のハーネスを外し、王を部屋へと休ませるともう一度ゲルダさん宅前へとルーラで飛んだ。

 

「さて、と」

 

 方角を確認して一路南へと足を向け、ほどなくして海岸を見つけた。張り始めた脹脛をぺしぺしと叩いて伸びを一つ。

 トーポさんはエイトさんのところへと戻ったので、ここには私一人。まぁなんとかなるだろう。

 

「メ………レミーラ」

 

 メラを唱えようとして途中で止めて、レミーラを唱える。

 メラは瞬間的な明かりには使えるが持続性は無い。レミーラは持続性がある変わりにある程度の時間が経たなければ消えてくれない。夜道で印になるようなものを煌々とつけているのは宜しくないかと思い自粛してきたが、探し物をするとなるといちいちメラを散発し続けるというのも面倒だ。

 私は頭上に浮かんだ光源を従えて、海岸線をてくてくと進む。ちらほらと眠っている魔物の姿が見えたが近づくとどうなるかわからないので距離は保ったまま、眠っていない相手はいるだろうかとキョロキョロしながらさらに歩き回る。

 

「しっかし……こっちが眠くなってくるな」

 

 あっちもこっちも寝てるので、私まで眠くなってくる。実際動きっぱなしなので体力的な疲れがあるのは確かだ。今は深夜三時か四時か。日の出までそう時間もないだろう。

 朝になればエイトさん達と合流するので居眠りさせてもらうとして、探索を打ち切るのは夜明けが限界といったところか。

 

「そういえばザメハって普通の眠気にも効くんだろうか……」

 

 一瞬唱えそうになったが、過去に炎上したプロジェクトの応援にまわったとき、所謂栄養ドリンクとか、眠気覚まし、活力増強のようなものを飲んで、身体が疲弊しているのに目だけが冴えているという苦しい現象に見舞われた。あれはかなり辛い。とりあえず「鼻血が出そうです」と上司に無意味に報告しまくるようなハイな有様をここで晒したくない。

 ふわぁとあくびをして目を擦り、足を止める。

 

「そう簡単に見つかるわけないか……」

 

 トーポさんが発見できるというのも、ある意味奇跡的な話だ。

 明日は姫様の声が聞こえるかもしれないという件について確認する必要があるし、情報屋の件も確認したい。やりたい事は多いのにそれを行うだけの体力が無いのが何とももどかしい。

 

「ま。高望みはせず出来るところから、だな」

 

 仕事も私生活も、望みを上げるならばいくらでも出来る。それが仇となってあれが出来ないこれが出来ないと不満を抱いたり、出来ない己にジレンマを感じてストレスを抱え込むのも馬鹿らしい。

 さて帰ろうかと暗い海に向けていた視線を陸地へと戻すと、目があった。

 

「………」

 

 何だろうかこのタイミングは。都合がいいような悪いような。

 じっとこちらを見詰めるつぶらな瞳。つぶらな瞳と言っていいのだろうか? 軟体動物に対してそのような表現を使う日が来るとは思っていなかったが、たぶん一応つぶらな瞳に部類されるだろう。……されるのか? イカの目ってじっくり見ると怖くないか? いかん。本格的に頭が働いていない。

 ゆっくりと近づいてみると、地面に手に持った貝殻でぐりぐりと何かを書き始めた。

 イカのようなフォルムなのにどうして陸上で姿勢保持できるのだろうか――とか、考えてはいけないのだろう。何を書いているのか覗き込んでみると、人の顔と思われる絵があった。思わずピンクっぽい色の私の膝丈も無いちっちゃなイカを見ると、ちびイカはこちらを見上げてきた。

 

「………これ、私?」

 

 自分を指さして聞いて見ると、ちびイカはさらに絵を描き始めた。髪が長い人の顔だ。造形は砂の上では細かく描く事は出来ないが、何となく雰囲気で私なのだろうと思われた。

 イカって人の目と同じ映像を映す事が出来たのだろうか?

 

「……一緒に来てもらえますか?」

 

 とりあえず手を差し出して見ると、貝殻を持っていない触手を伸ばして私の手に巻きつけてきた。 ピトリとした感触はやっぱり軟体動物そのもので、アレ系が駄目な人だったら悲鳴を上げていただろう。

 小さいけど吸盤はあるんだなぁと思いつつ持ち上げたところで、ハタと気が付いた。

 今からモリーさんのところへ行って、こんな夜中にあの人は居るのだろうか。

 

「……いや、まぁ……とりあえず行くだけ行って考えよ」

 

 もう眠くて仕方が無いので思考を放棄してルーラを唱えた。

 果たしてモリーさんは夜中だというのに件の場所に立っていた。マフラーをたなびかせて。寒くないのかと聞くと「熱い魂の前には寒さなど些末事である」とよくわからない回答を頂いてしまった。それはともかく、言われていた魔物を集め終わったので話を聞ける事となったが、どうせならエイトさんと一緒の方が良いだろうという判断で後日伺う旨を伝えてドニの町へと戻った。あまりにも眠かったからとかいう理由ではない。頼まれたのは二人だからだ。筋は通すのが人として当然の事だ。ドニの町へとたどり着いてからの記憶が無く、気が付いたら宿のベッドの上だったとのいうのも紛れもない事実だったが……

 

「のうリツ、わしはいつ寝たんだ?」

「奇遇ですね陛下。私も一体いつ寝たのか記憶が無いのです。きっと、とても疲れていたんでしょうね」

 

 そんな会話をドニの宿の食堂で交わし、それとなく王を誘導して姫様の声が聞こえるか試してみた。が、どうも聞こえていないようだった。

 女盗賊さんのところに居た世話係っぽい男性にも聞こえていなかったようなので、それも当然なのかもしれないが、そうなるとどうして私に聞こえるのかが謎になってくる。てっきり近くに居る人間ならば聞こえるのではないかと思っていたのだが……これが『テアー』なる存在の影響なのか、それとも全く別の影響なのか……判断し難い。

 うとうとしながら王の錬金談義を聞いていると、昼前にエイトさんがやってきた。どうやらパルミドの情報屋から話は聞き終わったようで、そのまま港で落ち合う事になっていた。パルミドに姫様を連れて行きたくないという気持ちには私も王も一も二も無く同意した。

 準備をしながら聞いた情報屋の話では、道化師姿の男は海を渡ったという。そうなればこちらも海を渡らねばならないが、あいにく海の魔物が活発で北と南を繋ぐ航路以外の船は全て停止してしまっているらしい。そこで、とある荒野に打ち捨てられた船があると情報屋が話したそうだ。とりあえずそれを探してみようという事になったようなのだが、話を聞いていて思わず私は唸ってしまった。荒野に打ち捨てられた船が本当に浮かぶと思っているのだろうか、と。

 ならばもう一つの情報源となりそうなモリーさんのところへ行ってみないかと提案すると、何時の間に魔物を集めていたのだという話になり、夜中活動していたのがバレて怒られた。しかも、呆れながら怒られた。年上の貫録ゼロだ。泣いてもいいだろうか。

 などとふざけて泣いている暇は無いのでエイトさんを宥めて二人でモリーさんのところへと飛んだ。王と姫様はお留守番。王には、お留守番してください、とは言わずに所用を済ませるまで休んでくださいと伝えた。何しろ、眠った自覚が無い程疲れているのですからと追加すればあっさりと言を受け入れてくれた。うむ。姫様の純粋さは王から引き継がれているのかもしれない。

 

「リツさんも休んでいて欲しいんですけどね……」

「ここまで来てそれは無いでしょう」

 

 じと目でこちらを見ながらエイトさんは言うが、既に奇怪な建物(モリーさん宅:仮称)に来ているのだ。それは無いだろう。


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