新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~ 作:たい焼き
迷いの竹林内 永遠亭
人間の里から見て妖怪の山とは正反対に位置する広大な竹林。元々幻想郷に存在していた竹林ではなく、伝承では大津波によって幻想郷に流れ着いたと語られている。
かつては高草郡と呼ばれていた土地であり、この竹林では単調な風景と深い霧、地面の僅かな傾斜で斜めに成長している竹等によって方向感覚を狂わされるという。
また、竹の成長が著しい為すぐに景色が変わり、目印となる物も少ないので、一度入ると余程の強運でない限り抜け出せない。妖精でさえ道に迷うと言われている。
そんな竹林の中に少年が一人いた。昼寝している。静かで涼しい場所なので気持ちがいいのだろう。
(こんなにゆっくりと寝たのはいつ以来だろう・・・)
22世紀でロボット工学を研究していた時は研究に追われていた。ひたすら頭に知識に叩き込み、研究室と寝室を行き来するだけの生活だ。当然睡眠時間も短い。
だからこそ、のび太は気楽に暮らせた10代の頃、バイオハザードによって失われた少年時代や一番の友だったドラえもんを取り戻そうとしていた。
しかし、それも叶わずに人生を終えてしまうかもしれない。何故ならここは、のび太がいた22世紀とも、元々いた20世紀とも繋がっていない異次元に位置する場所だからだ。
のび太は先程聞いたこの幻想郷について思い出していた。
「幻想郷・・・ですか?」
「ええ、そうよ。」
説明を聞くと、強力な結界によって幻想郷外部と遮断されているため、外部から幻想郷の存在を確認することはできず、幻想郷内に入ることもできないそうだ。また、幻想郷から出るのも困難のようで、博麗の巫女の力を借りるか、幻想郷を作った者の一人、八雲紫の能力を使うしかないらしい。
「そう・・・ですか。」
ワイリーの肩の力が抜ける。
「なぜ、そんな所に僕が・・・。」
「さあ?それはわからないわ。」
しばらくの間、沈黙の時が流れた。風が流れ、竹林が揺れる。
「そういえば、あなた名前は?」
永琳がのび太に名前を聞く。
「僕はの・・・、アルバート・W・ワイリー。ワイリーで結構です。」
のび太はあえて自分の本当の名を言わなかった。
(偽名かしら?いや、ここで名前を偽る理由もないはず。)
永琳ものび太の名前について追求しなかった。
「それで、あなたはこれからどうするの?」
永琳がのび太に聞く。
「自分でもこれから何をしていけばいいかわかりません。ですが、この幻想郷に興味があります。しばらくはこの幻想郷に留まろうと思います。」
「そう、それならこの永遠亭に泊まるといいわ。人里に宿なんてないしね。」
人里には宿がないらしい。一つしかない人里に殆どの人間が住んでいるため、宿を作っても泊まりに来る人がいないというわけだ。
「ありがとうございます。では、しばらくお願いします。」
こうして現在に至るわけだ。幻想郷について調べたいことはたくさんある。幻想郷の歴史、暮らしている人達について、妖怪についてといろいろある。これまで宇宙人やロボット生命体などいろいろな種族と出会ってきたが、その種族についてもっと詳しく調べてみようと思ったこたはなかった。
「まあ、のんびりいこう。昔みたいにね。」
「すみませんワイリーさん、ちょっと手伝ってくれませんか?」
そんなことを考えていたら、鈴仙から呼ばれた。
「はい、今行きます。」
ここで世話になっている以上、何もしないわけにはいかない。起き上がり、鈴仙の元へ向かう。しかし、庭を歩いていると、急に体が浮く。いや、正しく言えば落ちている。のび太はそのまま穴に落ちていった。
「ちょっと!?大丈夫ですか!?」
無理もない。目の前にいたはずのワイリーがいきなり消えたのだから。鈴仙は急いでワイリーが消えた所まで駆け寄る。しかし、鈴仙もさらに手前にあった落とし穴に落ちる。
「いたたたた・・・。」
「引っ掛かったなアホが。」
鈴仙が落ちた落とし穴の上から鈴仙を見下ろす影があった。
「ちょっとてゐ!!何するのよ。」
てゐと呼ばれた少女は穴に落ちた鈴仙を見て笑っている。自分のし掛けた罠に綺麗に引っ掛かって嬉しいのだろう。
「気をつけていないからだよ。ざまーみろ。」
てゐは捨て台詞を吐いて去っていった。
その数秒後に鈴仙は落とし穴から這い上がった。
泥や砂で汚れ、落ち葉が髪についてまるで崖から転がり落ちたみたいになっていた。同じく落とし穴から抜けだしたのび太も同じである。
「大丈夫ですか鈴仙さん?」
よれよれになったうさ耳を見て、どう考えても大丈夫ではないだろう。
「それより、僕に用事って何ですか?」
「えっと、それは・・・」
先程てゐが走り去っていった方向を見ながら鈴仙はこう言った。
「あっ、そうでしたね。えっと・・・」
のび太と鈴仙は背中に大きな荷物を背負い、迷いの竹林を歩いていた。永琳が作った薬を人里に売りに行くためである。
「いつもこれを一人で売りに行ってるんですか?」
「ええ、そうですよ。」
強い風が竹林を吹き抜け、薄暗く殆ど変化のない迷いの竹林に僅かながら変化をもたらす。
「でも、僕は薬のことなんて、全然わかりませんよ?手伝える事なんてないと思うのですが。」
「いいんですよ。人里まで一緒に薬を運ぶのを手伝って頂ければ。それに、今回一緒に来てもらったのは、ワイリーさんに人里を案内しようと思いましたので。」
そんな話をしていると、迷いの竹林を抜ける。竹林の入り口からしばらく歩くと、人の声がたくさん聞こえてきた。
「着きましたよ、ワイリーさん。」
人里の門をくぐり、人里の中に入る。まず目に入ったのは大通りだ。大通りの脇には数々の商店が並んでいる。人が集まり、世間話をしながら物を売買する光景は建物の外見は違えど、のび太がいた20世紀そっくりだった。
「では、私は薬を売っていますので、しばらく一人で見学してもらってよろしいですか?後で美味しい甘味処に案内しますよ。」
のび太がしばらく里の中を歩いていた。幻想郷で唯一人々が集まる場所の為なのか、活気に満ち溢れている。市場からは商人達が自分の店の商品を自慢しあい、買い物客を集めている。
のび太は、人里に来る前に幻想郷に起きた事や妖怪について書かれている幻想郷縁起が里の中央にある稗田邸という屋敷がある事を鈴仙から聞いていた。
「それにしても広い。一体中心地までどれくらいかかるんだ・・・?」
かれこれ30分くらい歩いているが、それらしき屋敷は見えない。
「あまりゆっくりしている時間もないし・・・少し急ごう。」
駆け足で稗田邸まで行こうとすると、突然後ろから服を掴まれ、持ち上げられる。
「こらお前。慧音の所の生徒の一人だろ?サボってないで寺子屋にいくぞ。」
かろうじて後ろを振り向くと、そこには白髪のロングヘアーに深紅の瞳を持った女性がいた。髪には大きなリボンがひとつと小さなリボンがいくつかついていた。
「え!?いや、ちょっと。」
のび太は話を聞いてもらえることもなく、そのまま寺子屋に連れて行かれた。
やっと第二話投稿できました。えっ?もう一ヶ月近く間が開いている?そんなことないよ~きっと貴方疲れているのよ。
(ホントはもう少し長く書こうと思ったんだけど、これ以上遅れると流石にやばいので、キリもいいから投稿したってのは内緒ね。)