新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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もう何も恐くない━━━


すすきヶ原攻略戦 其の1

 鼻を刺激する血生臭い匂い、人や家が焼け焦げた匂いが充満するすすきヶ原を駆ける人影が一つあった。

 

 のび太だ。出来るだけ迅速に、同じ場所に長い間留まらないように街の大通りを駆け抜ける。目的地は研究施設の上に建つ小学校だ。かつてのび太が通っていた学校でもあり、結局卒業することなく大人になってしまった。

 

 のび太にして見れば200年振りくらいに戻ってきた故郷をもっとゆっくりと見て周りたいのだが、そんなことをしている暇があるわけでもない。

 

 大通りには数は少ないがまだ動いているゾンビもいた。ざっと数えて10体もいないだろう。

 

 のび太はそれら全てをやり過ごし、建物と建物の間に身を隠す。

 

 「こちらワイリー。チェックポイントの目前まで来た。応答を願う。」

 

 霊夢から貰った陰陽玉を取り出し、霊夢達と連絡を取る。

 

 「ああ、違う違う。君に与えたコードネームは『スネーク』だろ?」

 

 「・・・こちらワイリー。目的地付近まで来た。今後の指示を願う。」

 

 通信相手の河城にとりをスルーする。

 

 「ひどいじゃないか。まあいいや、目的地付近に敵はいないよ。安心して進むといい。」

 

 にとりはのび太の指示で前もってすすきヶ原内に存在する監視カメラにハッキング、システムを掌握して貰っていた。これによって無駄な戦闘を避けて作戦を進めることが出来るわけだ。

 

 のび太は念の為に建物の影から周りの様子を探る。再度確認したが、やはり何もいない。

 

 そこへ足音が一つ近づいてくる。

 

 「ヴァァ・・・」

 

 のび太が足音に気が付き振り返る。しかしそれも遅く、振り向いた時は既にゾンビがのび太の首に噛み付こうとしている最中だった。

 

 (しまった!!)

 

 なんとか噛まれる前に気がついたのび太は、ゾンビの首を掴んで抑える。しかしゾンビの力も強く、既にゾンビが体重をのび太にかけている状態で体勢が崩れかけていた。

 

 「う・・・ぐっ・・・」

 

 のび太は咄嗟に腰に装備していたコンバットナイフを取り出し、ゾンビの頭に刺そうとするが、一発の銃弾がゾンビの額を貫く方が先だった。

 

 額を撃ち抜かれたゾンビは力無くその場に倒れ伏した。

 

 (今の音は鈴仙さんに持たせたバレッタ82・・・まさか!?)

 

 のび太は銃弾が飛んできた方へ振り向く。そこにはバレッタを構えた鈴仙が立っていた。

 

 「あ・・・あぁ・・・」

 

 いくら既に死んだと言っても元は人だった者だ。ゾンビを人と捉えてしまった鈴仙は銃を持つ手が震え、足も震えによって立っていることが困難になり、その場に座り込んでしまう。

 

 「鈴仙!!気をしっかり持て!!」

 

 こんな人が人を食い殺すような環境では自分を見失った者から順に壊れていく。かつて自分も親を殺してしまった時や、仲間達の死の瞬間を目の前で見た時はそうなりかけた。それだけは防がなくてはと必死になりつい語尾が荒くなる。

 

 だがいくら声をかけても鈴仙からの返事はなかった。先程の銃声を聞きつけたのか周りのゾンビがこちらに集まり始めていた。

 

 「く・・・」

 

 のび太は鈴仙を抱え、ゾンビに囲まれる前にその場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太は大通りを避け、一先ず物陰が多い市街地の方へと足を進める。子どもの頃の記憶が鮮明に蘇り、その記憶は無意識にのび太を皆とよく遊んだ空き地へと導いた。

 

 土管以外何もない空き地は野球やサッカーをするのにはちょうどいい広さで、子ども達の数少ない遊び場の一つだった。

 

 土管の裏に逃げ込み、そこで鈴仙を降ろす。ゾンビを撃って倒したことが堪えて来ているのだろう。

 

 「鈴仙さん・・・ゾンビを、彼らを人と見るのはやめた方がいい。」

 

 「・・・だからと言って、そうですかって簡単に撃てるんですか?貴方は!!」

 

 鈴仙が逆上して声が怒声となって響く。のび太の言っていることは間違っていないし、鈴仙の言っていることもわからないわけではない。だがこの街の中に答えがあるはずもなかった。

 

 「それの答えはどこにも無い。僕の中にも、この街にも。もちろん君の中にもだ。」

 

 のび太は使ってもいない銃の状態を確認する。そうやって気を紛らわさないとこの街の中では自分の心が押し潰されそうになるからだ。

 

 「それに僕は正義のために戦っているわけじゃない。ただ昔が諦めきれないだけのわがままな子どもですよ。」

 

 鈴仙の昂ぶった感情が静まる。

 

 「そう・・・ですね・・・こうなったら最後までとことんやってやるわ!!」

 

 「よかった。やっと普段の鈴仙さんに戻ってくれた。」

 

 喜んだのも束の間、大きな音によって寄ってきたゾンビ達が空き地に集結し始めていた。

 

 「あ・・・」

 

 鈴仙ものび太も完全に油断していた。

 

 (しまった・・・さて、ここからどうする・・・)

 

 のび太は必死にここから打開する策を考えるが、それよりも先に鈴仙が前に一歩出てのび太の横に立つ。

 

 「私、いつも思っていたんですよ・・・こういった弾幕ごっこ以外でワイリーさんと共に戦いたいって。」

 

 のび太は心のどこかで鈴仙の事を足手まといと思っていたのかもしれない。だからこそ鈴仙を今回の異変解決に連れて来なかった。だが迷いを捨て、覚悟を決めた鈴仙は、自分以上に強く、誰よりも頼れるように見えた。

 

 「ワイリーさんって、彼らと向き合った時はどんな思いで彼らを撃っているんですか?」

 

 唐突に鈴仙が訪ねてきた。

 

 「僕は少年時代は彼らと同じ街に住んでいましたし、実際見たことがある人も中にはいました。僕がまたこの街に来た理由は動く死体になった彼らをいち早く解放することです。」

 

 鈴仙は黙ってしばらく何かを考えていた。そうしている内にもゾンビ達は一歩ずつ近づいてくる。

 

 「なら私は、貴方のために戦いましょう!!」

 

 鈴仙がバレッタとコルト・ガバメントを取り出す。触ってから一日程しか経っていないのに取り出す際の動作も構えも完璧で隙がない。

 

 「・・・こちらワイリー。これより相方、鈴仙・優曇華院・イナバと共に前方のゾンビと交戦する。」

 

 「えっ?鈴仙がなんだって?」

 

 のび太は向こうの返事を聞く暇がないため、陰陽玉に報告を一言だけ入れる。

 

 「・・・ははは。これで百人力、いやそれ以上かな。」

 

 のび太も装備しているグロックを取り出し、鈴仙に負けない程素早く構える。

 

 「もう負ける気がしないな。背中を預ける、頼むよ。」

 

 「はい!!」

 

 のび太と鈴仙は同時に引き金を引く。同時に放たれた銃弾はゾンビの額に吸い込まれるように飛び、そのままゾンビの額に小さな穴を開ける。

 

 狙いを定めるのと引き金を引くタイミングが一緒で、額を撃ち抜かれたゾンビが倒れる時には既に次のゾンビが9mm弾で撃ち抜かれている。

 

 一体ずつ確実に仕留めていくが、数が中々減らない。足元がゾンビ達の死体で埋まり始めた。

 

 「一箇所に火力を集中させよう。突破口を開こう。」

 

 のび太の指示で鈴仙ものび太が弾を集中して撃ち込んでいる場所に火力を集める。集中して攻撃した場所だけゾンビの数が少なくなる。

 

 「今だ!!あそこに向かって走れ!!」

 

 のび太が数が減った場所に突っ込む。鈴仙も後に続く。のび太達を目掛けて ゾンビ達が殺到する。

 

 のび太は装備をグロックからU.S. AS12に変更し、前方のゾンビに向けて引き金を引く。12ケージ弾をまともに受けたゾンビは一撃で吹き飛ばされる。先程までゾンビであふれていた道はショットガンのフルオート射撃によって一直線に切り開かれた。20発撃ち終わったドラムマガジンをのび太はすぐに取り外し次のリロードの準備に入る。そこに右からゾンビがのび太に目掛けて飛びかかる。それをしっかりと見ていたのび太は持っている空のドラムマガジンをゾンビの口の中に突っ込む。そのゾンビが怯んで後ろに下がった瞬間、鈴仙がバレッタでゾンビの頭を撃ち抜く。

 

 のび太と鈴仙が一箇所に火力を集中させた結果、ゾンビの包囲網に一箇所の穴が出来た。のび太と鈴仙はそこから脱出し、後ろのゾンビ達が追ってこれない距離まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 ゾンビの溜まり場となった空き地から決死の覚悟で脱出したのび太と鈴仙は空き地からしばらく離れた場所で束の間の休息をしていた。

 

 「なんとかなったな・・・」

 

 のび太は涼し気な顔をしているが、実際はギリギリだった。もしかしたら鈴仙がいなかったらあそこで死んでいたかもしれない。

 

 「なんとかなりましたね。」

 

 「ああ。」

 

 のび太は横で汗をかき、疲れている鈴仙と拳を交わす。

 

 「少し休みたいですね。」

 

 「それならいいところがありますよ。」

 

 のび太と鈴仙は立ち上がり、死者が歩き周る街を再び歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてのび太と鈴仙は1軒の家の前に来た。何の変哲もない普通の家だ。表札には『野比』と書かれている事を除けば。

 

 (野比・・・ってことはここはワイリーさんが育った家・・・)

 

 のび太がその家に入っていく。鈴仙も後に続く。

 

 「おっ・・・お邪魔します。」

 

 中は決して広いとは言えない家だったが、鈴仙は何故か安心感を感じた。広すぎるよりもこういった家の方が逆に落ち着く。

 

 のび太は洗面所に居た。電気を付け、蛇口をひねり水と湯が出ることを確認する。

 

 「よかった。まだ水も電気も通っている。」

 

 水道と電気がまだ使えるということはここを当分の間、拠点として使えるということだ。食料は飲食店やコンビニから拝借すればいい。この街がバイオハザードが起きてからどれくらい経ったのかはわからないが、ゾンビの数から推測して恐らくのび太達が脱出してから然程時間は経っていないだろう。

 

 「鈴仙さん。シャワーでも浴びてきたらどうですか?」

 

 「へ?」

 

 いきなりのことで鈴仙は反応に困った。

 

 「まだ先は長いですし、休めるときに休んでおいた方がいいですよ。」

 

 「それなら・・・お言葉に甘えて。」

 

 鈴仙が浴室の中に入っていくのを確認すると、のび太は台所へと向かった。

 

 そこには無残な姿で殺された父と自分の手で殺めてしまった母の姿があった。父は頭部が胴体から離れて殺されており、見るに耐えない姿だった。

 

 「ママ、パパ、やっと戻ってこれたよ。」

 

 のび太は母を担ぎ、庭へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭上から降り注ぐ温かい湯が体に付いた泥や血を落としていく。

 

 「ふぅ・・・」

 

 汚れと一緒に疲れも無くなっていく気がする。実際に戦ったのは先程のゾンビの群れから逃げる時だけだが、紫達の目を欺くために能力を使って自分の姿を消していたため妖力の消費が激しかった。

 

 鈴仙は自分自身の手を見た。自分の手が何かに怯えるように震えていた。人の形をした物を人と重ねて見たからか、まだゾンビを撃った時の事がトラウマのように頭の中で鮮明な映像として何度も再生された。

 

 「私にも、やっと戦う理由ができた。」

 

 いつも時間稼ぎや適当に負けて逃げていた私が戦う理由。愛する彼を守り抜く事。そのために危険を冒してまでここに来たからには、つまらない理由で引き返すわけにはいかない。

 

 「例え私が死んでもワイリーさんだけは守り通すわ。」

 

 もう迷わない。鈴仙は自分で決めた目的を頭と心に刻み込むよう呟く。

 

 「ワタシモ・・・チカラヲ貸スワ・・・」

 

 鈴仙以外に誰も居ないはずの浴室から声が聞こえた。少女の声だったためのび太ではない。

 

 「誰、誰かそこに居るの!?」

 

 浴室の外も見渡したが誰もいなかった。この時鈴仙は声の持ち主を人と勘違いしていたため手元のブレスレットが紅く光った事に気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太は人が入れるくらいの穴を二つ掘り、そこに母親と父親を埋葬する。

 

 (しばらくの間、さよならだね。)

 

 両親の墓の前で手をあわせ弔う。次にのび太は2階に上がって何か使えそうな物がないか物色する。使えそうな物を探す度に想い出深い懐かしい物が見つかる。

 

 「子どもの頃に戻ったみたいだな。いや、もう戻っているのか。」

 

 残念ながら使える物はなかった。のび太は最後にドラえもんが狭い部屋の中で寝る場所の代わりにしていた押入れを開く。

 

 殺風景で布団以外何もない寂しい場所だが、のび太の目は一つの白い物に釘付けになった。

 

 それはドラえもんがひみつ道具をしまっている四次元ポケットが何らかの理由で紛失・故障した際に使う『スペアポケット』だった。ひみつ道具を一から作れない今、ひみつ道具がある場所はこれの中しかない。のび太はほんの僅かな希望が見えた気がした。しかし、未来どころか外の世界と完全に遮断されたこの世界でひみつ道具が使えるかという問題が微かな希望を砕いた。

 

 (なんだっていい。この状況を打開するチャンスだ。)

 

 のび太はほんの僅かだがその希望に賭け、ポケットの中に手を突っ込む。すると手はポケットの底に付く事なく吸い込まれていくように入った。そして手に何かが当たるとのび太は腕を引き抜く。手にはドラえもんが大好きだったどら焼きが握られていた。

 

 「は・・・ははは・・・」

 

 のび太は幻想郷を傷つけることなく安全にこの街を消滅させる方法を思いついた。そしてそれを実現できる道具を手に入れて歓喜に震えた。

 

 「あの・・・ワイリーさん?」

 

 風呂から上がった鈴仙がのび太の笑い声に気が付き、二階に上がってきた。服の洗濯が終わっておらず、体はバスタオルが一枚巻いてあるだけである。

 

 「鈴仙さん、やったぞ。幻想郷を救う一手が見つかったんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のび太と鈴仙は街全体を探索し終え、最後に残った場所である学校の校門の前に立っていた。

 

 「後はここだけだな。」

 

 「ええ。早く探索して帰りましょう。」

 

 鈴仙も気合が入っていた。

 

 「気を付けなさいよ。最後の最後で失敗したら恥ずかしいわよ。」

 

 「学校内とその下の施設の監視カメラにハッキング完了。これでバックアップの準備も整ったよ。」

 

 陰陽玉から紫やにとり達の声が聞こえてきた。

 

 「ありがとう。それよりそのポケットだけはなんとしても守ってくださいよ。それが異変を解決できる切り札ですからね。」

 

 のび太は紫のスキマ経由で結界の外、紫の手元にポケットを送っていた。

 

 「じゃ、最後に一つ。絶対に生きて帰って来なさいよ。」

 

 異変解決の役を譲ってくれた霊夢の声が最後に陰陽玉から聞こえた。霊夢の異変にかける想いを受け継いだのび太と鈴仙にはその言葉の真意が理解出来た。

 

 「絶対に生きて帰る。いい言葉だな。」

 

 「最初からそのつもりですよ。任せてください。」

 

 のび太は陰陽玉をポケットにしまい、学校の方に向き直る。

 

 「さぁ、行こうか。」

 

 「はい!!」

 

 決して油断はしていないが、のび太は鈴仙が隣に居ることで緊張し過ぎることなく適度に余裕を持って学校の中へと突入する。




いよいよラストに近づいて来ました。

おそらく後10話もないと思います。案外長い物だね。

さて、次回作の候補がいくつか浮かんでいますが、投票制にしたいと思います。

一つは一作目と同じ東方Project✕ドラゴンボールで主役はベジットか未来の孫悟飯で行きたいと思います。

(え?一作目の更新はまだかだって?あれぶっちゃけもう書きたくないからほぼ放置状態です。修正不可能の域まで行ってしまったから。)

もう一つはこの作品と同じく東方Project✕バイオハザート。主役はオリキャラで行きたいと思います。例としてこの作品と一度コラボしたことがあるホーシー氏の『東方絶希録』と同じ形式ですね。といってもオリキャラはとあるキャラをオマージュするから分かる人が見れば一発で特定されると思うよ。

もう一つは完全新作で東方Project✕ガンダムシリーズ。一人のキャラに重点を置くか、複数の作品の中から何人か一度に幻想入りするかで迷っていますが。

東方Projectが必ず入っている理由は、主が好きだからという理由で何か不満があるかな?シンプルかつ単純で一番説得力があるだろ?

投票形式は感想で書いてもらうっていう形式にします。

『東方✕◯◯がいい』って書いて頂ければそれで一票とします。

一票も入らなかったら主の独断で決めちゃうからな。後悔しても知らんからな?

それではまた次回お会いしましょう。

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