新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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決意

 A.D.199X年 7.28

 

 僕達は夏休みの初日にドラえもんにとある無人島に連れて行ってもらった。

 

 誰にも邪魔されず好きなことをやって思う存分バカンスを楽しんだ。

 

 そして、帰宅の日・・・

 

 三日も見ていない家族の顔が見れると思うとなんだかうれしい気分になる。

 

 だけど、待っていたのは悪夢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間にピンクのドアが現れ、そこから子どもが3~4人と一体のロボットが現れる。ドアの向こうには、綺麗な海と広い砂浜が見える。

 

 「うわぁ~すっげー楽しかったぜ!!」

 

 「あ~やっとママに会えるよ。」

 

 「いざ家族の顔を何日も見ないとなると恋しい思いをする物ね。」

 

 今まで一緒に冒険して来た友達との会話が、100年以上経った今でも鮮明に蘇る。

 

 「じゃあ僕は久し振りにミーちゃんに会いに行ってくるよ。」

 

 ドラえもん。勉強もスポーツも碌に出来なかった僕にいろんな夢を見せてくれた青いロボット・・・僕が今まで頑張ってこれたのも、全部君が隣に居てくれたからだと思う。

 

 僕はドラえもんやジャイアン、スネ夫と別れる。

 

 あの時僕は宿題の事を言われるのが嫌で、帰ってきたばかりなのに昼寝をした。その判断が、あの事件で生き残ることができた要因の一つになるとは思いにもよらなかった。

 

 一階に降りて見たが、人の気配が全く感じられない。この時間なら誰かいるはずだ。全く音が聞こえないそれは、まるで人がいなくなって放置された廃屋のそれとそっくりだった。

 

 それどころか、家の外からも人の営みが全く感じられなかった。

 

 ふと気が付くと、台所の方から布が擦れる音がした。

 

 僕は微かに音が聞こえたママがいると思われる台所へと向かう。

 

 「ママ!!ただいま!!」

 

 台所には何日も会っていなかったママがいた。座り込んで何かをしているようだ。それと同時に、グチャというような、何かを貪る音も聞こえて来た。

 

 「ママ・・・どうしたの?」

 

 声を掛けても返事が帰って来ない。

 

 「ねぇママったら!!」

 

 それと同時に何かが弾ける音が家に響く。赤い液体が壁や床に飛び散る。

 

 「!!」

 

 僕は何かが床に転がったのに気が付く。恐る恐る確認するとそれは人の顔、それも今まで自分と一緒に暮らしてきたパパの顔だった。

 

 顔の半分の皮膚は既に無く、左目が飛び出ていた。

 

 背後の僕に気がついたのか、ママが振り返った。口の周りには飛び散った赤い液体と同じ物が着いており、歯も赤く染まっていた。恐らく赤い液体は血なのだろう。目からは既に生気が感じられない。

 

 「あぁぁ・・・うぅ・・・」

 

 人間とは思えないような呻き声を上げながらママだった者は、異臭を漂わせる腕を突き出し、のび太を捕らえようとする。

 

 僕はとっさに近くにあったママがいつも使っている包丁を手に取り、それでママの体を切り裂いた。

 

 家の包丁は何故か異様に切れ味がよく、ママがカボチャを三昧におろしていたのを見たことがある。

 

 そんな包丁で体を数箇所斬られたママは次第に動きが鈍くなり、最後に頭に斬った。それが決め手となり、床に倒れ伏し、小さく呻き声を上げた後動かなくなった。

 

 「ママ・・・?嘘だよね?」

 

 「本物のママはどこかにいるんだよね?」

 

 僕の呼びかけにママは反応しなかった。ママが死んだ事はわかっていたけど、それでも僕はママを呼び続けた。

 

 「返事をしてよ!ママ!!」

 

 一向に返って来ない返事に僕は虚しく、そして悲しくなった。

 

 「ううっ・・・」

 

 ここで泣いていても仕方がない。僕は、生き残るために人がいそうな場所に行くことにした。ここからなら学校が一番いいだろう。

 

 僕は気分を落ち着かせ、靴を履いて、恐らくもう戻ってこない住み慣れた家に別れを告げて、家のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家から出ると、そこは僕が住んでいたすすきヶ原ではなかった。辺り一面が焼け野原になり、耐え難い腐臭や焦げた匂いが漂ってきた。

 

 「何だこれは・・・!一体何が起こっているんだ!?」

 

 僕が今の惨状を理解したのとほぼ同時に僕の右から悲鳴が聞こえる。その方向へと振り向くと、男が数人のゾンビに囲まれて食い殺されていた。ゾンビ達は、殺した男を寄って集ってかぶり付いた。

 

 僕は表札の下で力尽きている警官を見つけた。既に息は無く、血まみれで倒れていた。手から落ちたと思われる拳銃とその弾が十数発を見つけた。

 

 射撃が得意な僕なら使いこなせると思ったが・・・

 

 「お、重い!?こんな鉄砲、まともに使えっこないよ!!」

 

 「それに弾も簡単に見つかるなんて思えない。」

 

 実際よく考えてみると、問題の方が多かった。

 

 「ダメだ!!これで戦うことよりは、逃げることを考えよう!!」

 

 僕はズボンのポケットに拳銃をしまい、人の街から亡者の街へと変わり果てたすすきヶ原の街をひたすら走り始めた。ただ生き残るために・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「つまり、彼も被害者の一人だったのよ。」

 

 のび太が出て行った部屋の中で、さとりが皆の前で第三の眼で見た光景を話した。

 

 「ちょっと待ってよ!!なんで普通の人間が100年以上も生きていられるのよ!!」

 

 納得がいかない者達が、さとりの話を遮る。ただの人間が100年以上も、その上見た目が子どものままで、歳を取っていないからだ。

 

 「彼の心の中を覗いたら、かなり長い間空白があったわ。長い間意識がなかったようね。」

 

 「なるほど、コールドスリープを使って100年先の未来に行ったのね。」

 

 永琳がさとりが話した僅かな情報から答えを導き出す。

 

 簡単に言えば体を仮死状態にして肉体の状態を保ったまま、未来へ行く一方通行のタイムトラベルというわけだ。

 

 「それで歳を取らずに100年後の未来に行ったと・・・」

 

 「だとしても、目的は何?戻れないのにわざわざ未知の世界に行く理由が無いわ。」

 

 霊夢が話に横槍を入れる。さとりが説明しても、分からない事が多すぎて理解出来ていない者も少なからず居た。

 

 「・・・少し、ゆっくりと聞いて頂けますか?」

 

 さとりが近くにあった座布団に腰を掛ける。

 

 「昔、といっても今ならほんの5年程度前かしら?外の世界に一人の少年が居ました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議から抜けたのび太は、一旦人里辺りまで戻ってきていた。

 

 (やることがない・・・)

 

 のび太は今回の異変に対し、積極的に介入するか、あくまで自分は情報を与えるだけで、直接異変解決には赴かないことにするかどうか迷っていた。

 

 霊夢の結界によって完全に幻想郷と遮断されたあの街から、T-ウイルスもゾンビも出てくることは無いだろう。

 

 外の世界で起きた異変の後始末を幻想郷の住人に押し付けるのも気が引けるが、幻想郷の問題に首を突っ込む必要もないのでは、という考えが、のび太に迷いを生じさせていた。

 

 (寺子屋に行くか・・・そういえば慧音さんが、異変で人里は閉鎖してるって言っていたな・・・適当に散歩して帰るか。)

 

 人里は現在、人どころか虫一匹入る隙間も無いほど厳重な警備の下に置かれていた。

 

 人里の門の横を通り、迷いの竹林の方へ歩いてゆく。

 

 人里の近くの畑まで来たが、異変の影響で人が寄り付かなくなった畑は今はそこまで荒れてなくても、所々に雑草が生えていた。

 

 そんな光景を横目で見ながら、のび太は迷いの竹林へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに訪れた竹林だが、これといって変わった事はなかった。それが逆にのび太を安心させる。

 

 のび太は特に目的もなく歩いていたが、気が付いてみると、のび太のお気に入りのあの場所に辿り着いていた。

 

 弾幕による焦げ跡がまだ残っていたが、それ以外は何も変わっておらず、爽やかな風と決して眩し過ぎない程度に差し込む光が心を落ち着かせ、嫌なことを忘れさせる。

 

 (やっと戻って来れたよ)

 

 前に聞いたのだが、ここは竹林に住む生き物達が集まる場所であると同時に、のび太が幻想入りした時に倒れていた場所でもあるそうだ。心が落ち着く理由もよくわかる。

 

 のび太は昔のように腕を組んで仰向けになる。

 

 しばらくの間何事もなく時間が流れた。のび太は久しぶりに昼寝をしていた。しかしそれを遮るように、足音が聞こえてきた。

 

 ゆっくりと近づいてくるが、敵意や殺気は感じなかった。

 

 「やっぱり鈴仙さんでしたか。」

 

 足音の主は鈴仙だった。彼女がここにいるということは、会議は終わったのだろう。

 

 「やっぱりって・・・。のび・・・ワイリーさん、気づいていたのですか?」

 

 「あの街にいれば、嫌でもこんなふうになりますよ。」

 

 のび太は鈴仙と向き合うために体を起こす。

 

 「あと、僕はワイリーですよ。今はまだね。」

 

 「元に戻る気は無いのですか?」

 

 鈴仙はのび太がいる木陰まで行き、のび太の隣に腰を掛ける。

 

 「僕はまだワイリーですから。失われた時代を取り戻さなくちゃいけない。僕とっては始めからそのための戦いだった。」

 

 のび太の目は鈴仙ではなく、どこか遠い場所を見ているように見えた。

 

 「ここは本当にいい所ですね。」

 

 不意にのび太が鈴仙の方へ向き直って言った。

 

 「ええ、私も月から始めて来た時に思いましたよ。」

 

 「月・・・ですか?」

 

 「私も、師匠も姫様も元は月に住んでいました。」

 

 鈴仙がもう何十年も前のことを話しだした。

 

 「私は月に居た頃は綿月様の姉妹のペットとして飼われていました。厳しかったのですが、今思えば大切にされていたんだと思います。」

 

 「もうだいぶ昔ですが、一度だけ人間が月にやってきた時があったんです。」

 

 のび太はその出来事に覚えがあった。

 

 (あの時代ならアポロ計画のことか。)

 

 「真っ先に立ち向かわなければならないのに、人間達が怖くて逃げ出して来たんです。そのことがどうしても忘れられなくて・・・今でもずっと後悔しているんです。」

 

 鈴仙の様子がおかしいのに気がついたのび太は鈴仙の顔を覗きこんだ。鈴仙の顔は、涙と後悔で溢れていた。

 

「私は取り返しのつかないことをしてしまった。それが何十年も前からずっと心から離れないんです。」

 

ふさぎこんで泣いている鈴仙にのび太は何もしてあげることもできなかった。

 

しばらくして落ち着いた鈴仙に、のび太は語り始めた。

 

「つらいと時は逃げてもいいんですよ。」

 

「え?」

 

のび太の予想外の答えに気が抜け、のび太の顔を見上げる。

「僕だってあの街に住んでいた時は何をやってもダメで、いつも厄介なことから逃げ続けて来ました。」

 

鈴仙に代わって今度はのび太が語り出した。

 

「だけど、どんな時にも絶対に逃げてはいけない時があるんですよ。それが今だ。」

 

「 ・・・鈴仙さんのおかげでやっと決心がつきましたよ。」

 

のび太は鈴仙の方に振り向く。

 

「僕が直接あの街に入って、核を封印してきます。」

 

のび太の決して大きくないが、決意に満ちた言葉が竹林の中で響いた。




少し遅くなりましたが、うp主は元気です。

次回はとあるゲームの発売を記念して、短編を一つ上げてからの投稿になりそうなので、遅れる可能性があります。

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