新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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幻想郷が生き残るか、外の世界の悪魔が生き残るか・・・幻想郷の運命を賭けた戦いが始まる。


亡者

 地獄という物があることは知っているが、今、目の前に広がっている光景は、地獄よりも地獄なのだろうか?

 

 白狼天狗の犬走椛は、目の前の光景を見て、そうとしか思えなかった。手も足も震えて動かない。

 

 さっきまで、仲間達と冗談を言い合ったり、仲の良い河童と将棋で遊んだりと、いつもと変わらない一日を過ごしていた。

 

 だが、それは無情にも崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、椛が己の能力『千里先まで見通す程度の能力』で、妖怪の山近くの巨大な草原に妖怪の山程ではないが、大きな山が出現したのを確認したことだ。

 

 その山の麓に見慣れない建物がたくさんある街から、こちらに大量の人影がこちらに向かってくるのを確認した椛が仲間の白狼天狗達を引き連れて、追い返しに行った。

 

 人の群れは、既に妖怪の山の麓まで来ていた。数はざっと数えて、100から200人くらい居た。皆、俯いていて、顔がよく見えない。

 

 「止まれ!!ここは我ら天狗達が住む山だ。人間は引き返せ!!」

 

 白狼天狗の一人が、人間の群れに刀を向けて警告する。だが、人々は歩みを止めず、警告した白狼天狗に近寄って行く。

 

 「おい、聞いているのか!?」

 

 警告していた白狼天狗が先頭を歩いていた人の肩を掴む。しかしその人間は信じられない行動に出た。正確に言うと、人間の形をした何かだった。

 

 白狼天狗が肩を掴まれ、首筋に噛み付かれる。絶叫を上げる白狼天狗は押し倒され、鋭い歯が首筋に突き刺さる。それに気付くと同時に、後続の者達は一斉に押し倒された白狼天狗に襲い掛かった。

 

 腹に、腕に、足に次々と歯が突き立てられ、食い千切られ、飲み込まれる。

 

 “人が妖怪を襲って食う”、という本来ありえざる光景が目の前で起きた。

 

 「お、おい!!何をしてる!?」

 

 目の前で惨劇を見ていた白狼天狗の一人が、侵入者達を止めようと近づく。しかし、その白狼天狗の顔が凍りつく。

 

 目の前の人間は、崩れた顔を持ち、腐臭の漂う手を伸ばしてこちらに向かってくる亡者だった。

 

 その亡者が白狼天狗に噛み付く。

 

 「撃て、撃て!!奴らを追い返せ!!」

 

 異常に気がついた後続の白狼天狗達が応戦する。刀を持っている者は直接亡者に斬りかかり、そうでない者は弾幕で亡者達を攻撃する。

 

 数は天狗達の方が少ないが、弾幕という遠距離から攻撃する手段を持っているため、亡者達は思うように先に進むことが出来ない。

 

 「くらえ!!」

 

 その隙に、武器を持っている天狗達が接近し、亡者の体を直接斬り裂く。体を一閃して亡者達の体から血が

吹き出す。

 

 普通の生物ならこれで致命傷を与えることが出来るためこれで終わるのだ。

 

 相手にしている者が本当に生きていたのなら。

 

 「な、なんだこいつら!?」

 

 弾幕が体に当たろうが、体を斬られようが、生き物なら致命傷になるような傷を負っても亡者達は進軍を止めない。

 

 天狗達も必死で応戦するが、全く歩く速度を落とさず、数も減らない。亡者達に決定打を与えることができず、徐々に追い詰めれれる天狗達。やがて、一番前に立って攻撃していた白狼天狗の前に亡者が接近すると、亡者達はその白狼天狗に噛み付く。

 

 「ギャアアアァァァー!!」

 

 瞬く間に亡者達に取り囲まれた白狼天狗の絶叫が響き、それに肉を食い千切る音が続く。これによって、白狼天狗の隊列が崩れ、次々と白狼天狗達が亡者の餌食となる。

 

 「も、もうダメだ!オレ達も食われちまうんだ!」

 

 「いやだ!死にたくないぃぃ!!」

 

 亡者達が一歩前進するごとに、絶望する者、絶叫する者が一人増える。武器を捨てて逃げ惑う者、我を無くして亡者の群れに突撃する者、その場から一歩も動けなくなる者。パニックになり、隊列が崩れた白狼天狗の小隊は既に壊滅に近い被害が出ていた。

 

 そして亡者達は椛にも襲い掛かった。呆然としていた椛は、亡者が目の前に来た時にようやく気付く。首に噛み付かれる前に腕で首を庇う。そのため腕に噛み付かれ、椛の細腕に激痛が走る。

 

 「ッ・・・この!!」

 

 椛は亡者の体を振りほどき、持っていた剣で亡者を斬る。見事な太刀筋で亡者の体を縦に真っ二つに斬り裂く。

 

 しかし、一体斬っただけでは亡者の群れの勢いは落ちない。倒した亡者を踏みつけて、後ろから次々と亡者が増えてゆく。

 

 「はあああああああ!!」

 

 椛は大剣を振り回して攻撃する。喰われまいと足掻く。

 

 前から、横から、後ろから亡者が椛に迫る。後ろの亡者に対して椛は即座に体を反転させ、剣に反転した時の力も加えつつ亡者を横に斬り裂く。斬られた亡者は腰から上と下にわかれて地面に倒れる。

 

 「こんなところで・・・死にたくない・・・」

 

 椛はただ無我夢中に、生き残るためだけに剣を振るった。雑念を消し去り、近くに来た亡者を斬る。

 

 やがて、椛の周りには斬られたゾンビ達が足の踏み場が無い程大量に転がっていた。

 

 粗方亡者達を斬り倒した椛は、周りに広がる光景に驚くしかなかった。

 

 「あ、ああ・・・」

 

 周りには自分が斬った亡者の山が広がっていたからだ。意識がなかったとはいえ、自分が行ったことが恐ろしくなる。

 

 「椛!!危ない!!」

 

 生き残っていた白狼天狗の一人が叫ぶ。

 

 考える暇を与えずに一人の亡者が迫る。気がついた疲労を見せながらも椛は剣の切っ先をその亡者に向ける。

 

 が、その亡者の顔を見た途端、椛の顔色が変わった。

 

 「そ、そんな!?」

 

 椛の剣を持つ手が震え出す。その亡者が先程亡者達に食い殺された白狼天狗の一人だったからだ。さっき食い殺されたはずの天狗達が次々と起き上がる。そして今度は喰われる者から喰らう者へと変わった白狼天狗達が椛を襲う。

 

 「お願い!!来ないで!!斬りたくない!!」

 

 剣を降ろし、叫ぶ。しかし既に一度死んで知性が無くなった亡者には、椛の声は届かなかった。

 

 一番最初に食い殺された白狼天狗らしき亡者が椛の組み付く。椛はなんとか白狼天狗だった亡者を振り解いて突き飛ばす。しかし、その後ろからもさっきまでの間に食い殺された白狼天狗達が椛を狙ってまだほんの少し温かい腕を伸ばす。

 

 多数の亡者達で椛の視界は埋まる。仲間だった天狗達の亡者を斬ることができず、剣を手放し、己の最後を予感したのか、顔を両腕で覆う。

 

 だが、椛の服に亡者達の腕がしがみ付いた所で、亡者達の動きが止まった。

 

 「・・・・?」

 

 いつまで経っても訪れない最後に、椛がそっと腕を降ろす。そこには、椛に食いつこうとした瞬間のまま、停止した白狼天狗の亡者達の姿が有った。

 

 「な、何が・・・」

 

 椛が亡者達の様子を確認すると、全ての亡者の額に小さな穴が開いていた。程なくして力を失った亡者達の胴体が崩れ落ちていく。椛も力が抜けてしまい、地面に座り込む。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 椛は声がした方へ振り返る。そこには、前に山の警備をしている時に見かけたあの少年がいた。手には、にとりの工房で見たことがある外の世界の武器を持っている。

 

 「あ、貴方は・・・」

 

 「貴方達の長から頼まれて救援に来ました。」

 

 少年は椛に手を差し伸べる。椛はのび太の手を借りながら立ち上がる。しかし立ち上がった瞬間、少年の後ろに亡者が迫っていた。

 

 「危ない!!」

 

 椛が叫ぶと同時に少年はまるでそこにいるのがわかっているかの様に振り向かずに銃を持つ腕だけを後ろに向け、引き金を引く。銃弾は亡者の額に突き刺さる。亡者は動かなくなり、やがてゆっくりと後ろに倒れる。

 

 「こいつらは頭を破壊すれば倒せます。残っている数もそう多くありません。今からこいつらを殲滅します。手伝ってください。」

 

 生き残っていた白狼天狗達はそう多くなかった。残っている者も、亡者達との戦闘で噛み付かれたり、引っ掻かれたりしていた。

 

 「・・・よし、あんたに俺達の命を預けるぞ。指示を頼む。」

 

 一人の白狼天狗が前に出る。まだ若い天狗だった。

 

 「では、まずは・・・」

 

 少年が来てから亡者達を全て倒すまでに大した時間はかからなかった。決して近づかず、一定の距離を保ちつつ、的確に頭を狙って弾幕を放つ。この作戦に切り替えると、先程までの状況がひっくり返った。

 

 亡者達を全て倒してホッとしたのか、椛は力が抜けて地面に座り込んだ。そして、先程亡者に噛まれた腕に目をやった。その部分が異様に痒かった。

 

 そこに、先程の少年が寄って来た。少年は椛の腕を手に取る。

 

 「え!?何を!?」

 

 少年は戸惑っている椛に構わず、服の袖を血で滲んでいた所までを(めく)る。袖の下には、亡者に噛まれた痕がくっきりと残っていた。大した傷ではないのだが、普通ならしばらくすれば血が止まる程度の傷なのだが、血が止まっていない。

 

 「噛まれたのですね?」

 

 「えっと・・・これは・・・」

 

 椛は先程の戦闘で気がついてしまった。亡者に噛まれた者は亡者になる。それが恐ろしかった。だから誤魔化そうとした。現実から目を背けるためと、自分が自分でなくなることが怖いからだ。

 

 「噛まれたのですね。」

 

 「はい・・・」

 

 だけど、目の前の少年には誤魔化しは効きそうになかった。

 

 「私も、あれと同じようになるのでしょうか?」

 

 椛はさっきまで仲間だった者の死体に目を遣った。

 

 「はい。多分、後二、三時間ってところでしょうか。」

 

 椛はそれを聞いて、絶望の淵に追い詰められた。

 

 「あの・・・お願いがあります。」

 

 椛は自分の剣を少年に差し出す。

 

 「これで私を殺してください。あんな姿になるのは嫌ですから。」

 

 椛は少年が剣を振る所を見て、恐怖するのが怖くなり、体を後ろに向ける。少年は剣を受け取ると、その剣を地面に突き刺す。

 

 「貴方はとっても運がいいみたいですよ。」

 

 少年は人里の方の空を見ていた。椛も気になってその方向を見る。誰かが此方に向かって飛んで来ているが確認できた。もう少し詳しく見ると、兎の耳を持ったその人も見たことがあった。

 

 「ワイリーさん!!T-ウイルスの治療薬とワクチンが完成しました~」

 

 「そうですか。間に合ってよかったです。」

 

 ワイリーと呼ばれた少年は、自分の居場所を詳しく知らせるために手を振った。

 

 椛も噛まれた他の生き残りの白狼天狗達は一先ずお互いの無事を喜び合った。




最近少しずつ忙しくなってきて、投稿ペースも遅くなって来た今日この頃・・・

まあ、今までが早すぎたって考えればいいのかな?

これからもこんな感じで不定期更新になりますので、よろしくお願いします。

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