新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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新たな協力者

 あの後、鈴仙を抱えて逃げたのび太は人里や迷いの竹林の北に位置する霧の湖周辺まで逃げてきていた。

 

 雨宿りできそうな巨木の根本に鈴仙を寝かせる。死人のような顔色をしているのに気付いたのび太は急いで応急手当に取り掛かる。

 

 思いの外鈴仙の出血が酷く、手持ちの包帯だけでは足りなかった。

 

 のび太は自分で学んだ薬学と、永琳から学んだ薬学の二つを使い、周りに生えている植物から、鎮痛効果と止血効果が高い薬草を採取し、簡易的な痛み止め薬と止血剤を作り、それを使いやすいように塗布剤に加工する。

 

 のび太は鈴仙の服を脱がせ、斬られた患部に薬を塗り、包帯を巻いて処置する。

 

 出血は殆ど止まったのだが、さっきまで流していた血の量が多く、雨によって体が冷えたことも原因だろうが、心音が弱くなってきていて危険な状況だ。

 

 「くそっ、死なせる物か!!誰一人死なせないってあの時決めたんだ。」

 

 処置が終わったためか、鈴仙の顔色がほんの少しだけ良くなった。

 

 気を抜いたのも束の間、今度はのび太の脇腹辺りに痛みが走る。のび太が脇腹を確認すると、細い針が幾つか刺さっていた。のび太はそれを引き抜くと、引き抜いた場所から血が流れる。のび太が天狗に反撃しているときに、霊夢が放った物だ。

 

 (流石博麗の巫女というだけあるか・・・何のためらいもなく撃ってきたか。)

 

 鈴仙に包帯と薬を全て使ってしまったため、のび太には止血する手段がない。右手で抑えて少しでも出血量を抑えるが、それでも足りない。

 

 「ハハハ・・・情を捨てるって決めたけど、やっぱり僕は非情に成りきることは出来ないや・・・」

 

 のび太は巨木にもたれ掛かり、意識が遠のいていくのを感じながら、遠くの空を見ていた。

 

 (この数ヶ月の間、ドラえもんが居たころと同じくらい楽しかったなぁ・・・)

 

 のび太の意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔の館、紅魔館のメイド、十六夜咲夜は霧の湖の湖畔を歩いていた。青と白を基調としたメイド服を身に纏い、頭にもカチューシャを身につけている。理由は、自分の主にこの場所に行ってとある人を助けろと命じられたからだ。

 

 咲夜は一瞬命令の意図を理解出来なかったが、主の持っている能力を思い出した彼女は特に反論することなく了承した。

 

 「お嬢様のことだから、何かあるとは思っていたけど、これは一体。」

 

 指定された場所に着くと、そこには人が二人、巨木にもたれ掛かっていた。片方は女性で怪我をしているのか、背中の辺りが血で滲んだ包帯が巻かれていた。ここで処置されたのだろう。彼女が着ていたと思われる服がそばに置かれ、この場で調合された薬の瓶が転がっていた。

 

 もう片方は少年で、女性の肩にもたれ掛かる形で倒れていた。おそらく彼女の処置をしたのだろう。手が血で汚れていた。しかし、右手で抑えている脇腹の怪我は処置されておらず、少年が倒れている場所に血溜まりを作っていた。

 

 近くに針が落ちていた。咲夜はそれに見覚えがあった。博麗の巫女、博麗霊夢が使っている封魔針だ。

 

 「霊夢にやられたのね。ってことはこの子がワイリー様かしら。」

 

 咲夜は先日、霊夢が幻想郷を守るために協力しなさいと頼みにきた時に自分の主が断ったことを思い出した。その時咲夜は一つ命じられたことがあった。

 

 『ワイリーにもしもの事があったら、彼の手助けをしなさい。彼はこの幻想郷にいずれ起きる異変の解決に必要な存在よ。』

 

 咲夜は怪我をしている二人に近づくと、一瞬でのび太達と姿を消す。後には血溜まりが乾いた後しか残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「う~ん・・・ここは。」

 

 鈴仙が目を覚ます。体を起こすとそこは、永遠亭とは違うよう屋敷だった。赤を基調にしたカラーリングをした洋館だった。

 

 (確か私はワイリーさんを庇って・・・どうなったんだっけ?)

 

 しばらくの間意識がなかったので、記憶が曖昧になっていた。

 

 「怪我が・・・治ってる?」

 

 包帯が巻かれ、きちんと処置されているためか、斬撃で切り裂かれたはずの背中に痛みを感じない。

 

 「気がついたかしら?」

 

 鈴仙が寝かされていた部屋に咲夜が入ってくる。咲夜は鈴仙が着ていた服を洗濯して持ってきた。しかも斬られた箇所は修繕されてあった。

 

 「貴方は確か・・・咲夜さん・・・ってことはここは紅魔館ですか?」

 

 鈴仙はベットから出て、立ち上がろうとするが、上手くバランスが取れずによろけてしまい、立っていることすら困難な様子だった。

 

 「血を流しすぎたのよ。しばらくは大人しく寝ていないとダメよ。」

 

 咲夜は鈴仙をベットの上に寝かせる。

 

 「すみません・・・咲夜さんが怪我の治療をしてくれたのですか?」

 

 「違うわよ。私は血で汚れた包帯を替えただけ。お礼は隣で寝ている彼に言いなさい。」

 

 鈴仙は隣に目を遣る。隣のベットでは青ざめた顔をしたのび太が寝かされていた。

 

 「ワイリーさん!!大丈夫ですか!?」

 

 「待ちなさい。貴方だって血が足りなくて(ろく)動けないでしょう?大人しくしていなさい。」

 

 鈴仙はベットから起き上がり、のび太の元に駆け寄ろうとするが、咲夜に取り押さえられる。

 

 「だけど!!私が今生きていられるのは、ワイリーさんのおかげです。血が足りないのなら、私の血を輸血すれば・・・」

 

 鈴仙は自分の腕を差し出し、今にも自分の血を抜きそうな勢いで、近くにあった永遠亭が配っていた救急箱から注射針と空の血液パックを取り出し、自分の血液を抜こうとする。

 

 「馬鹿!!そんなことしたら、今度は貴方が死ぬわよ!!」

 

 「落ち着きなさい。貴方が今できることはそんなことではないわ。」

 

 のび太よりも小さな子どもが部屋の中に入ってきた。見た目とは裏腹に、貴族らしい落ち着いた雰囲気が漂っている。背中には蝙蝠(コウモリ)を思わせるような羽が生えている。

 

 「お嬢様!!この兎を止めてください。」

 

 咲夜は今にも自分の血を抜いて、輸血用の血を作ろうとしている鈴仙を羽交い締めで抑えている。

 

 「血なら私達の食料の血を使えばいいわ。大丈夫、彼は助かるわ。。」

 

 この館の主、レミリア・スカーレットが鈴仙を落ち着かせる。ようやく落ち着いたのか、暴れなくなり、咲夜がベットの上に寝かせる。

 

 「・・・貴方は霊夢達の味方じゃないんですか?」

 

 鈴仙は暴れたため、力なくレミリアに聞く。

 

 「ちょっと違うわ。私は幻想郷の味方であっても、今の霊夢達の味方ではないわ。」

 

 部屋から出るために、体を反転をしてドアに向かう。

 

 「今貴方にできることは、体を休めて次に備えることよ。わかったら大人しく寝ていなさい。」

 

 レミリアは咲夜を連れ、部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、レミリアは自分とその妹の食料として貯蔵していた血の一部を輸血用の血としてのび太に輸血した。

 

 血液型やその他諸々の問題は、鈴仙が調べたため、輸血する血がのび太の血液型に合わないという問題はなくなった。

 

 輸血が終わった後も、のび太は目を覚まさなかった。顔色は元に戻り、呼吸も落ち着いて来ていたためもう大丈夫なのだろうが、それでも鈴仙は一睡もせずに付きっきりで看病していた。

 

 「ワイリーさん・・・」

 

 ワイリーの手を握り身じろぎ一つせず、そばで睡魔によって目が虚ろになりながらも、鈴仙はのび太の無事を祈っていた。

 

 そんな鈴仙の様子を、扉の影からレミリアと咲夜が覗いていた。

 

 「そこで思い切ってキスを・・・」

 

 「咲夜?部屋に入らないの?」

 

 「待ってください。今良いところでしょう?」

 

 「え?何が?」

 

 (お嬢様・・・まだまだ子どもですね。)

 

 咲夜は口には出さず、ただ深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けた。冷え込みが激しい季節になり始め、秋の終わりを告げている。

 

 鈴仙はいつの間にかベットに突っ伏して寝てしまっていた。目を覚まして体を起こすと、体から掛け布団が落ちる。

 

 「うん?誰がこれを・・・」

 

 掛け布団を誰がかけたか気になったが、まずはベットで寝ているワイリーの様子を確認するが、そこに寝ているはずのワイリーがいない。

 

 「あれ?ワイリーさんがいない!?」

 

 鈴仙は辺りを見渡すが、すぐにやめる。自分の前にあった窓の前に彼は居たからだ。

 

 「おはようございます。鈴仙さん。」

 

 ワイリーのいつもと変わらぬ元気な声が鈴仙を安心させる。

 

 「ワイリーさん!!」

 

 鈴仙は涙目でワイリーに抱き付く。

 

 「おっと。」

 

 ワイリーは鈴仙が飛び込んできたので受け止める。

 

 「れ、鈴仙さん。どうしたんですか?」

 

 「ワ、ワイリーさんにもしものことがあったら、私・・・う、うえぇぇ・・・うう。」

 

 鈴仙は無意識のうちに抱き締める力を強める。そのため、ワイリーの脇腹にかかる力が強くなる。

 

 「鈴仙さん、やめてください。まだ痛いんですよ。」

 

 結局鈴仙が泣き止むまでこのままの状態が続いた。

 

 「鈴仙さん。」

 

 鈴仙が顔を上げてワイリーの方を見ると、戦闘中の鋭い目ではなく、いつもの優しい目で鈴仙を見ていた。

 

 「ご迷惑おかけしました。」

 

 「はい。」

 

 二人はしばらくの間、そのままでいた。




ご愛読ありがとうございます。どうも、たい焼きです。

なんだか、12話の閲覧数が他の話に比べて多くないですか?

お主らもやっぱりこういうのが好きなんだな・・・

順調に閲覧数、お気に入り登録者、感想数も増えております。感謝の極みでございます。

それでは次回、またお会いしましょう。

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