新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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始まりの始まり・・・


本編
歴史の孤独な闇の果てに


22世紀 とある研究所

 

 人が寄り付かないその場所の地下で、一人の年老いた男がいた。男は目の前の作業台に置かれた赤いロボットを夢中になって作っていた。部品をひとつひとつ丁寧に組み立て、ネジを締める。まるで自分の全てを込めているようだった。

 

 男の名はアルバート・W・ワイリー。本当の名は別にあるのだが、今はあえて名前を伏せておこう。

 

 かつて彼は世界に宣戦布告した。努力をしても追いつけない本当の天才達を見返し、ある目的を実現させるために。

 

 ロボットを作り、時にはロボットを奪い、暴走させ破壊活動を繰り返した。

 

 しかし、その計画全てがことごとく失敗した。エリート達が作ったロボット、「ロックマン」によって。

 

 いつの間にか彼は世界征服という目的を忘れ、ロックマンの打倒に執念を燃やし、自分を見失っていた。

 

 彼は打倒ロックマンの妄執を果たすために、いつか見た赤いロボットを作る事にした。

 

 最後の部品を取り付け、あるプログラムを赤いロボットの記憶装置に埋め込む。ロボット破壊プログラム、すなわちロックマンを始め、全てのロボットを破壊させ、22世紀を滅ぼさせるプログラムである。

 

 調整が完了し、ついに完成した赤いロボットを見て男は微かに笑みを浮かべた。

 

 「ついに完成した・・・。僕の技術全てをつぎ込んだゼロが。」

 

 従来のロボットよりもより人間近い体格で、赤い装甲を身に纏っている。

 

 「これは間違いなく僕の最高傑作だ。だけど、こいつは所詮紛い物。君には到底及ばないよ。」

 

 ワイリーはその昔、20世紀のとある小さな町で起きた生物災害で出会ったレプリロイドの事を思い出していた。

 

 「でも、目的を、ロックマンを倒すには、本当の22世紀を取り戻すためには、君の力が必要なんだ。」

 

 ロボット破壊プログラムを埋め込み、そのレプリロイドがワイリーに託した武器、ゼットセイバーをゼロのそばに置く。ワイリーはゼロを起動するため、スイッチに手を伸ばすが、スイッチに手が届くことはなかった。

 

 「ゲホッ...ゲホゲホ。」

 

 ワイリーはここまで殆ど睡眠をとらず、不眠不休でゼロを作っていた。自分の命が残り少ないとわかっていたからだ。装置の上に手をつき、咳き込むと同時に吐血する。ワイリーは残っている力全てを振り絞って、起動スイッチを押した。

 

 そして、ゼロや他のロボット達の設計図、それと彼が見た本当の22世紀にあった数々の夢を叶える道具や、記憶を頼りに書いた、人とロボットが平和に暮らす理想郷の設計図を時間によって失われないように封印する。いつか、自分の考えを理解してくれる人が本当の22世紀を実現してくれる事を祈った。

 

 「頼むよゼロ。僕の代わりに世界を・・・。」

 

 「ドラえもんの22世紀を取り戻してくれ!!」

 

 それから間もなくワイリーは気を失った。今までの疲れがたまっていたからである。そのままワイリーは深い闇に中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、ワイリーは目を覚ました。まず目の前に見えたのは木でできた天井だった。懐かしかった。コールドスリープで22世紀にやってきてからずっと木製の建物を見ていなかったからだ。

 

 そこでワイリーは布団で寝かされていた。これもまた懐かしく感じた。それどころか、自分の視界に映っている物全てが懐かしかった。自分がいた20世紀には当たり前の物だったが、22世紀では存在しない物だからだ。

 

 「どういうことなんだ・・・?20世紀に戻って来たのか?」

 

 ワイリーは布団から出て立ち上がる。少し頭が重いが気分はよかった。何故かわからないが体が軽かった。それに背が縮んだ気がする。とりあえず部屋から出ようとすると、手をかけた襖が開いた。

 

 「!?ちょっと大丈夫なんですか!?」

 

 部屋に入って来たのは一人の少女だった。頭にうさみみがあるのが気になるが、ブレザーを着ていた。

 

 「・・・はい、大丈夫。それより、ここは一体どこだ?」

 

 ワイリーは混乱していた。さっきまで22世紀の自分の研究所にいたはずなのに、目を覚ましたら20世紀と思われる場所にいたからである。

 

 「ここは、永遠亭です。貴方さっきまで竹林の中で倒れていたんですよ。」

 

 説明によると、ワイリーはこの永遠亭の周りの迷いの竹林内で倒れていた所を偶然彼女が発見し、永遠亭に運び込んでくれたのだという。研究所で意識を失ったはずなのに何故竹林の中で倒れていたのかは分からないが、とりあえず現在この近くに研究所はないようだ。

 

 「治療してくれてありがとう。すまないが、今は持ちあわせがない。代金はまた今度でいいかな?」

 

 そう言うとワイリーは少女の横を通り過ぎ、部屋から出る。

 

 「えっ?どこに行くんですか?しっかり休んでいないと・・・」

 

 「すまないが、もう行かないと。僕にはまだやるべき事が残っている。」

 

 少女の静止を聞かずに、立ち去ろうとすると、前から誰か来た。格好からこの永遠亭の女医だよ思われる。

 

 「どうやら目覚めたようね。」

 

 「!?・・・貴方は?」

 

 「私は八意永琳。隣のその子は鈴仙・優曇華院・イナバよ。」

 

 ワイリーは彼女達の名前など、どうでも良かった。早く研究所に戻って研究を再開しなければならないからだ。

 

 「拾っていただいてありがとうございます。ですが早く戻らないと。」

 

 「待ちなさい。薬が効いてまだ本調子ではないずよ。急いでいるみたいだけど少し落ち着きなさい。」

 

 時間が無かった。もうすぐで尽きるこの命。こんな所で無駄に使うわけにはいかなかった。

 

 「こんな老いたじじいの僕でも死なせたくないということか?そうで無ければ貴方は余程の物好きか?」

 

 今のワイリーの発言のどこかがおかしかったのだろうか、二人は首を傾げている。

 

 「老いた?私はどう見ても貴方が10歳くらいの少年にしか見えないわよ。」

 

 「!?」

 

 その一言でワイリーの表情が一変した。

 

 「す、すみません。どこかに鏡はありませんか?」

 

 「そこです・・・」

 

 ワイリーは急いで鏡で自分の顔を確認する。そこにはあの時、あの事件が起きた小学生の頃のワイリーの顔が映っていた。眼鏡をかけた冴えない男の子の顔だ。

 

 「一体どういうことだ!?戻っている。あの頃に。」

 

 何が起きているかわからなかった。ただ、ひとつわかることは、自分が今こうして生きているということだ。

 

 「落ち着きなさい。まずはここが何処なのか、どういう世界なのか、まずは知りなさい。」

 

 「ここでは何ですし、別の部屋に案内します。お茶でもいかがですか?」鈴仙が何処か別の部屋に案内してくれるようだ。

 

 (………これ以上考えても無意味そうだな。)

 

 ワイリーは落ち着きを取り戻し、鈴仙の提案に応じることにした。

 

 (これからどうしよう。やることもたくさんありそうだ。)

 

 しかしこれは、後の幻想郷で最悪の異変として語り継がれる物語の序章に過ぎなかった。


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