遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第五話 特技披露

 

「え、翔がラブレターを?」

 

「あぁ。

それもクロノス教諭からだ」

 

「…………クロノス教諭ってショタコンだったんだ」

 

今日の授業も全て終わり、十代とのデュエルで使ったデッキを崩していた聖星は【星態龍】からの話に驚いた。

語った事は今日の体育の授業中、男子更衣室で置き去りだった【星態龍】が見た事である。

なんとあのオシリス・レッドを忌み嫌っているクロノス教諭が翔へラブレターを送ったそうだ。

意外すぎる事を聞かされた聖星は何とも言えない表情を浮かべて小さく頷く。

そういえば今日の授業で翔がフィールド魔法について聞かれ貶されていたが、あれはあれでクロノス教諭なりの愛情表現だったのだろうか。

 

「一応言っておくが、宛先人は十代で差出人は明日香という娘になっていたぞ」

 

「へ?」

 

今後クロノス教諭に気を使って翔との会話の機会を増やそうか。

そうすれば2人の仲が良くなって、いや、だが翔の気持ちも……

等と1人で考え込んでいた聖星は思わず振り返る。

 

「クロノス教諭が翔にラブレター。

だけどそれは差出人が明日香で宛先人は十代。

あ~…………」

 

「教え子を陥れようとしているようだな」

 

クロノス教諭は実技試験の時本気のデッキでデュエルしたにもかかわらず十代に敗北した。

そして今日、翔を貶していた時十代の言葉によって大恥をかいた。

つまりクロノス教諭が十代を嵌めようとする動機は十分にある。

 

「つまり十代の代わりに翔が罠に嵌る、って事か」

 

これは面倒な事を引き起こしてくれたものだ。

聖星は頭を掻きながらもその場から立ち上がり、翔達の部屋へと行く。

 

「十代、翔、隼人、いる?」

 

「お、聖星じゃないか。

どうした?」

 

「聖星君」

 

ノックしてから入れば3人が各々自由にしていた。

十代はデッキの編集で翔は椅子に座っており、最後の同居人である隼人はベッドで横になっている。

聖星は皆に軽く挨拶をしてまっすぐ翔へと向かった。

 

「翔、さっきから聞こうと思ったんだけどさ。

君、何か良い事あっただろ?」

 

「なっ、なっ、何言ってるんすか聖星君!!」

 

「面白いくらい動揺してくれたな。

で、何があったんだ?」

 

「なっ、何にもないっすよ!

うぎゃっ!」

 

翔と同じ目線まで屈んだ聖星は優しく微笑みながら言う。

だが翔は彼の口から放たれた言葉に大袈裟に両腕を振り回し、そして椅子から落下する。

尻餅をついた翔は痛い……と呟いて聖星を見上げる。

少し申し訳なさそうな気がするが大事な友人を護るためだ。

悪く思わないでくれよと心の中で思いながら首を傾げる。

 

「もしかしてラブレター?」

 

「ギクッ!!!」

 

「誰から?

どこで?

明日香?

更衣室??」

 

「っ!!

言わないっす、絶対に言わないっすよ!!」

 

次々と当てられていく事に翔は冷や汗を流して聖星には自分の心が読めるのではないかと疑った。

しかし素直に話すわけにはいかず、翔は聖星達から背中を向ける。

すると興味を持ったのか十代も参加してきた。

 

「何だ、翔。

お前、ラブレター貰ったのかよ?

見せてくれよ」

 

「絶対に嫌っす!」

 

「良いじゃねぇかよ、別に減るもんじゃねぇだろ」

 

背後には聖星。

隣には十代。

自分より体が大きい同級生からの質問に翔は断固として答えようとしない。

だがそんな態度はさらに好奇心を刺激させ余計に気になってしまうもの。

十代はデュエル時とは違う意味での不敵な笑みを浮かべ翔の名前を呼ぶ。

 

「しょ~お?」

 

「あ、兄貴には関係ないっす!!」

 

「確かに十代や俺には関係ないぜ。

でも立派な校則違反だし、一応確認しとかないとな」

 

「「え?」」

 

聖星が言った言葉に2人は同時に振り替える。

隼人もこちらを伺うように体を起こした。

 

「だってさ、翔は更衣室でラブレターを貰ったんだろう?

女生徒が男子更衣室に入ったって事になるし……

立派なセクハラだよ」

 

男子が女子更衣室に入ったらかなり大騒ぎになるのと同じように、逆パターンでもかなりの騒ぎになるのだ。

常識的に考えて学校側からなにかの処罰が与えられるだろう。

そう淡々と語ると翔の顔はみるみるうちに青くなる。

 

「え、じゃ、じゃあ明日香さんどうなっちゃうんすか!」

 

「とりあえず、まずは本人確認から始めないとな」

 

「え?」

 

ポカン、としている翔達を放っておき聖星は生徒手帳を取り出す。

そして明日香の生徒手帳へ通信した。

数秒間は通信音が聞こえたがすぐに繋がったのか目的の人物の顔が映る。

 

「こんにちは、明日香」

 

「聖星じゃない。

どうしたのよ?」

 

「なぁ、明日香。

ちょっと聞きにくいんだけど、君……

今日男子更衣室に入った?」

 

「なっ!?

何言ってるのよ、私がそんな事するわけないじゃない!」

 

心外だわ!と可愛い顔を真っ赤にしながら言ってくる彼女に聖星は頷く。

本当は知っているのだがこれは一応確認だ。

今すぐ切りそうな勢いの彼女を落ち着かせるため簡単に言う。

 

「翔宛てに明日香名義のラブレターがあったらしいんだ。

しかも受け取ったのは男子更衣室のロッカー」

 

「え?

私じゃないわよ」

 

「そんなぁ!?

だって、ここに明日香さんの名前が書いてあるっすよ!!」

 

電話越しの明日香の言葉を聞いた翔が悲痛な声を上げ、ラブレターを見せる。

確かにそこには今夜女子寮の裏に来てほしいという内容があった。

聖星が読み上げると明日香が難しい表情を浮かべている。

 

「……そこ、お風呂がある場所よ」

 

「あぁ……

つまり呼び出して覗きの容疑をかけようって事か」

 

「そうみたいね」

 

重苦しい声で言われた明日香の言葉に翔が青を通り越して白い顔になる。

ラブレターをもらって天にも昇るような気分で指定された場所に行ったのに覗き扱い。

そうなっていたかもしれない自分の未来を想像し眩暈がした。

 

「あと翔。

これ、十代宛て」

 

「えぇえ!??」

 

すでに精神的に疲れた翔に追い打ちをかけるのは悪い気がした。

しかし犯人を特定するためにはどうしても本当の宛先人をはっきりさせる必要がある。

彼らの会話を全て聞いた明日香はだいたい予想がついたのか深いため息をつく。

 

「……成程、クロノス教諭ね」

 

「俺もそう思う」

 

「へ?

どうしてここでクロノス教諭が出てくるんだ?」

 

「……十代、本気で言ってるのか?」

 

デュエルに関してはかなり頭の回転が速く、友人に恥をかかせた相手にきつい言葉を投げかける程の思考があるというのにどうしてこういう単純な事が分からない。

もしかすると十代は自分の事に関して無頓着なのだろうか。

若干信じられない目で友人を見たが、聖星はすぐに立ち上がって明日香に伝える。

 

「じゃあ明日香。

俺は今から証拠を集めるから、コンピューター室に来てくれないか?

あそこならスキャナーがあるだろう?」

 

「え、良いけど。

何をする気?」

 

「だから証拠集め」

 

「……ごめんなさい、貴方が何をしようとしているのか理解できないわ」

 

「来れば分かるって」

 

なんたって自分はあの不動遊星の息子なのだ。

コンピューターに関しては彼に直に教え込まれたため、例え時代遅れの設備でも立派な証拠を集めるのは簡単だ。

通信を切った聖星は輝く笑顔で振り返る。

 

「さ、十代達も行こうぜ。

俺の特技見せてあげるからさ」

 

**

 

すぐにコンピューター室に向かった聖星達。

そこには寮が近いという事もあり、すでに明日香が到着していた。

しかも何故か明日香と仲のいい枕田ジュンコと浜口ももえまで一緒にいた。

 

「あれ、一緒に来たのか?」

 

「当然よ!

もしかしたら私達が入浴している時に覗かれたかもしれないのよ!

犯人をとっ捕まえて校長の前に叩きだしてやるわ!」

 

「ジュンコさんと全く同意見ですわ」

 

話しを聞けば彼女達も明日香から事情を聞いているようだ。

いくら十代を嵌めるためとはいえ、関係ない自分達が巻き込まれるのだ。

女性として許せるはずもなくジュンコとももえの背後には炎が燃え上がっていた。

 

「一応言っておくけど、今から俺がする事は犯罪だぜ。

それに関して黙っておくことと口裏を合わせてくれる事。

この2つを約束してくれるのなら見ても良いけど」

 

「え?」

 

犯罪という言葉に明日香達は聖星から離れる。

一体何をする気!?と表情で語ってくる3人に素直に話した。

 

「スキャナーで手紙の文字をコンピューターに取り込んで筆跡を照合する。

その時、犯人かもしれない人の文字をアカデミア内の監視カメラの映像から拾うんだ」

 

「お前、そんな事できるのかよ?」

 

「やり方覚えたら簡単だぜ」

 

犯人を特定する方法に明日香や翔は引きつった表情を浮かべた。

しかしこれも犯人を捕まえ、校長の前に叩きだすためだ。

明日香達はすぐに頷き約束した。

 

「じゃあ、始めようか」

 

コンピューター室の奥にあるパソコンを選んだ聖星は椅子に腰を下ろす。

彼は準備運動とでも言うように指の関節を鳴らした。

十代達はそれを見守るよう、そして他の生徒にパソコンの画面を見られないように集まる。

 

「まずは手紙を取り来んで……」

 

スキャナーを起動させた聖星はすぐにラブレターを取り込み、データ化する。

完了したらその画面は放置し、別の画面に移る。

犯人の予想はだいたい検討がついているので探す映像はクロノス教諭の授業のもの。

アカデミアのセキュリティを任されている会社にばれないようハッキングし、映像を探す。

様々なファイルや年月が書かれている文章などが現れては消え、次々と変わっていく画面に十代達は感嘆する。

 

「すげぇ、何が何だかさっぱりわかんねぇ」

 

「……これ、本当にハッキングしてるんすよね?

逆探知とかされないっすよね、聖星君??」

 

「大丈夫。

俺を信じろって」

 

「……聖星、手慣れすぎだわ。

まさか他にも同じような事をしてきたの?」

 

「まぁ、友達が困っているときとか」

 

「あんた、デュエリストじゃなくてハッカーが天職なんじゃないの?」

 

「天才ハッカーだなんて危険な香りがして良いですわ~」

 

等と言葉を交わしている間に映像を見つけ、次は拡大の作業へと移った。

拡大すればするほど荒い画面になっていくが聖星はすぐに処理をして綺麗な映像へと変える。

そしてラブレターの文字と映像の文字を照合して結果が出た。

画面に表示されたのは100%の文字。

 

「完璧に適合。

犯人はクロノス教諭だ。

あ、念のために唇も一致するか調べようか?」

 

「え、えぇ」

 

この時間、僅か10分弱。

あまりにも日常からかけ離れた早業を見せられたため、余計に短時間で完了したかと錯覚してしまう。

聖星は背伸びをしたが、ラブレターについてあるキスマークを指差して尋ねる。

明日香が頷くと聖星は生き生きとした表情で再びパソコン画面に向かった。

 

**

 

それから数時間後。

ブルー女子寮の裏側にある湖に1つの影が映る。

ゆっくりと女子寮に近づくその陰は湖から上がり、門を閉めている鍵を壊す。

そして彼、クロノス教諭は持参しているカメラを持って茂みに身をひそめた。

 

「ふふっ、好都合なこト~ニ、ここは丁度女子寮の風呂場ナノ~ネ。

これでシニョール十代は……」

 

「十代がなんですって、クロノス教諭?」

 

「ハィイ!!?」

 

背後から聞こえた声にクロノス教諭はゆっくりと振り返る。

するとそこには明日香、ジュンコ、ももえの3人が立っていた。

 

「なっ、どうしてシニョーラー明日香達がココ~ニ!?」

 

「丸藤君達から偽のラブレターが送られてきたと教えてもらったのです。

それで犯人はきっと彼が嵌められる瞬間を見るためここに来るだろうと思い、張り込んでいました。

現行犯で捕まえた方が見苦しい言い訳を聞かなくてすむと思いまして」

 

「それにラブレターに書かれていた文字があまりにもクロノス教諭の文字に似ていました。

まさかとは思いましたが、クロノス教諭。

最っ低ですよ?」

 

「これは校長に報告します。

最悪懲戒免職ですわ~」

 

明らかに軽蔑を含んだ眼差しを向ける女生徒達3人にクロノス教諭は冷や汗を流す。

この場を誤魔化すため誤解だと叫びたいが、彼女達の有無を言わさない威圧感に上手く言葉が出てこない。

しかも校長に報告となると……

 

「(あ、私の人生終わったノ~ネ。)」

 

心の中でそう呟いたクロノス教諭は即行校長の前まで叩き出された。

そしてどのような処罰が下されるかと言うと。

女生徒達の痴漢行為は未然に防がれかつ意図的ではなく、ただ1人の生徒を陥れようとし、生徒の名前を語った悪質な悪戯だと判断され半年の間減給扱いになった。

いくらなんでも軽すぎるのでは、と明日香達3人が意見を出したのだがクロノス教諭が高い地位に存在する事、アカデミアの印象の関係もありこのような処罰になったという。

記述する必要はないと思うが暫くの間明日香達が彼を見る目は冷たかった。

 

END




ここまで読んで頂きありがとうございます。
クロノス教諭の口調が難し過ぎる…


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