遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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今回は『男主がセブンスターズ側になり、女主が男主を救うため未来から来た』をテーマに書いています。
主人公は女主です。
あくまでifの話なので本編とは一切関係ありません。



レイジング・クリムゾン

「なぁ、お前がジャスミン・アトラスか?」

 

「え?」

 

お嬢様が通うことを許されるとあるデュエルアカデミアは下校の時間なのか品のある女生徒達がいっせいに下校している。

アメジストの瞳を持つ彼女もそのうちの1人であり、背後から聞こえてきた声に振り返った。

そこにいるのは茶髪の二十代前半くらいの青年である。

はっきり言って会ったことどころか見たこともない人だ。

 

「そうだけど、用件は何かしら?」

 

友人達はかっこいいね~、やだイケメン等と呑気なことを言っている。

父親が有名人すぎて幼少期から苦労していたジャスミンは呆れた眼差しを彼女達に向ける。

もし彼が危険な人物だったらどうするつもりだ。

警戒心剥き出しのジャスミンに青年は苦笑を浮かべて用件を言った。

 

「聖星について話があるんだ」

 

短く告げられた内容にジャスミンの眉間に皺が寄る。

この反応は予想の範囲内だったのか青年は相変わらず考えが読めない笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「ちょっとあそこの喫茶店でお茶でもしながら話さないか?」

 

「ここで話せないことなの?」

 

「あぁ」

 

青年の言葉にジャスミンは顔色を一切変えず即答した。

喫茶店でお茶というそんな安いお誘い等幼い頃から受けている。

しかし彼の口から出た聖星という名前は気になる。

友人達に目をやったジャスミンは携帯電話を取り出し、確認する。

 

「父も同席しても良いのなら構わないわよ。

勿論、来るまでここで待ってもらうけど。

良いわよね」

 

「あぁ」

 

日本人特有の苦笑を浮かべる青年は特に動じた様子もなく頷いた。

 

**

 

ヒソヒソと女性の話し声が聞こえる。

その話題は小さな喫茶店で我が物顔をしているジャック・アトラスだ。

彼の存在感はそんじょそこらのデュエリストとは比べ物にならないほどで多少変装をしていても意味がない。

尤も、娘のジャスミンと妻からしてみれば変装ではなくただの私服姿なのだが。

 

「(本っ当、せめて帽子を被って欲しいわよ。)」

 

サングラスもつけず、素顔をさらけ出しながら変装したと言い張る父に内心でうんざりしながら目の前の青年を見る。

隣に座っているジャックはいつも以上に険しい表情を浮かべてジャスミンに声をかけた。

 

「それで、休暇中の俺を突然呼び出したのだ。

用件はそれ相応のものだろうな?」

 

「お前、初対面の人間にでもそんな態度なのか。

なんか色々すげぇな」

 

ケラケラと笑う青年の言葉にジャックの眉間に皺が寄る。

青年はどう見ても自分より20歳くらい下の年齢。

知り合いでもない青年にこのように接せられたら癇に障るのも当然。

無礼者、と怒鳴りなくなるのを抑え低い声で言う。

 

「貴様、俺をバカにしているのか?」

 

「わりぃ、わりぃ。

えっと用件だったな」

 

あまりにも失礼な態度にジャスミンの機嫌も一気に悪くなっていく。

親子共々冷気を漂わし始め、只ならぬ雰囲気に周りにいる客が少しだけ遠ざかる。

それに気づきながらも青年はリュックの中から1枚の写真を取り出した。

 

「なっ…!?」

 

「え?」

 

目の前に置かれた写真、それに写っている人物にジャックは青年と娘を交互に見る。

そこには制服を着た男女が数人映っており、その中心には青年と似ている少年がいる。

そして少年の右側には行方不明となっている聖星、そして今横に座っているジャスミンが笑顔を浮かべていた。

 

「ジャスミン、貴様、車に乗れ」

 

「パパ?」

 

「オーケー、流石ジャックだな」

 

身を乗り出して問いただそうとした娘を押さえ、ジャックは財布からカードを取り出す。

何故と尋ねようとしたらジャックが視線で制し、ジャスミンは大人しく鞄を持つ。

まだ注文したコーヒーは来ていないが仕方がない。

店員の困惑気味のありがとうございましたという声と共に喫茶店から出た。

ジャックはすぐに車の鍵を開け、2人が入るのを確認したらエンジンを付けた。

 

「うわぁ、すげぇ車だな。

やっぱキングになるとこういう車も買えるんだ」

 

「貴様の無駄な感想などどうでも良い。

さっさと話せ。

この俺が場所を変えてやったのだぞ」

 

運転しながらジャックはミラー越しに青年を睨み付ける。

 

「俺の名前は遊城十代。

さっき見せた写真は俺が高校時代に撮った奴だ」

 

「何故その写真に聖星とこいつが映っている」

 

「せっかちな奴だな。

ちゃんと説明するから質問は後にしてくれよ」

 

苛立ちと焦りだろう。

様々な感情を表情に出すジャックに青年は外の景色を見る。

さて、自分は良くも悪くも説明が上手ではない。

とりあえず順序立てて説明しようと言葉を選んだ。

 

「今、聖星は過去にいる」

 

「過去?

過去に行ったって言うの、そんなの非科学的だわ」

 

「ジャスミン」

 

「……」

 

「信じられねぇのは無理もねぇよ」

 

きつく睨み付けるジャックに彼女は黙る。

説明の途中で口出しするのは仕方がないだろう。

昔の自分もそうだったと思いだしながら十代は言葉を続ける。

 

「聖星は星竜王に助けを求められ、過去にタイムスリップしちまったんだ」

 

「星竜王だと?」

 

「あぁ。

シグナーだったお前ならどういう意味か分かるだろう」

 

「何故星竜王が?

貴様が高校生の頃だというのなら、俺達に頼んでも良いはずだ」

 

かつてシグナーとして仲間と共に幾度もこの世界を救ったジャック。

世界の運命を賭けて邪神と戦い、未来を賭けて未来人と戦った。

しかし役目を終えた故にジャック達から竜の痣はなくなった。

だが、十代の年齢を考えると彼の高校時代は今から10年以内の話。

子供である聖星を過去に送り込むより、当時の自分達に助けを求める方が話は早いはずだ。

 

「あ、一応言っておくけど俺、お前より何十歳も年上だからな」

 

「何ぃ!?」

 

「嘘だと思うなら遊星に聞いてくれ」

 

「遊星を知っているのか?」

 

「あぁ。

一緒にパラドックスと戦ったぜ」

 

「なっ…!?」

 

運転しているジャックは次々と出てくる言葉に驚く事しかできなかった。

自分より幼い姿でありながら年上等信じられるものではない。

しかし過去の経験からあり得ない話ではないと判断し、冷静に尋ね返す。

 

「まさかだとは思うが……

遊星の奴、聖星が過去にいる事を知っているのか?」

 

「あぁ。

俺が教えて、聖星にはタイムスリップする事は黙っといてくれって頼んだ。

聖星の奴、自分がタイムスリップするなんて一切知らなかったしな」

 

「やはりか」

 

道理で聖星が行方不明になった時、あの夫婦は特に慌てなかったわけだ。

今でもネオ童実野シティに住んでいる幼馴染をジャックは思い出す。

自分とクロウ達はあの夫婦に心配ではないのか?と尋ねたが、当の本人達は大丈夫と返すだけ。

その理由は説明されなかったが遊星がそう言うのなら、とあの時は無理矢理納得した。

 

「それでジャスミン、お前には過去に行って聖星を助けて欲しいんだ」

 

「聖星を?」

 

「あぁ。

聖星は星竜王に頼まれ、闇のデュエルをした。

けど人質をとられて負けちまったんだ」

 

「闇のデュエル?

何よ、それ」

 

全く話についていけないジャスミンはやっと口を開く。

シグナーの事は時々兄と一緒に聞いた事はあるが、ただジャック達の腕に痣があったという程度しか知らない。

星竜王や闇のデュエル等の知識は一切ないのだ。

 

「闇のデュエルとは生死を賭けたデュエルの事だ。

それに負けたという事は……」

 

「え?」

 

「あぁ、大丈夫。

ただ洗脳されて敵になっただけだから」

 

「どこが大丈夫なのよ!」

 

聖星が洗脳され敵側になった等、大事でしかない。

それなのに笑顔でそう答える十代をジャスミンは睨み付ける事しかできなかった。

 

「だからジャスミンには聖星を助けるために過去に行ってほしい。

いや~、洗脳された聖星はシンクロ召喚とか容赦なく使ってくるからさ。

知識のない昔じゃあ太刀打ちできたのが俺とカイザーくらいだったんだよなぁ」

 

十代の時代は融合召喚やアドバンス召喚が主流で、シンクロ召喚のような超高速デュエルは主流ではなかった。

1枚1枚の攻防を楽しむデュエルだったというのに、敵となった聖星は1ターンで何体もモンスターを特殊召喚し、鍵の所有者を襲っていった。

対策を打とうにもシンクロ召喚のシステムを聖星がろくに説明してくれなかったため、対策も打ちづらかったものだ。

 

「その時、ジャスミンが転校してきて色々アドバイスをしてくれたってわけさ」

 

その戦いが終わり、この写真を撮った。

そう締めくくった十代は懐かしむように目を細めた。

 

「貴様がここにいるという事は、こいつは無事に未来に戻ってこられたという事だな?」

 

「無事に着いたかは知らねぇけど、未来に帰ったのは間違いないぜ。

俺がちゃんとこの目で見てるしな」

 

「そうか……

ジャスミン、行け」

 

「ちょっと待ってよ、パパ。

私の意思はどうなるの?」

 

「ほう、行く気はないのか?

過去に行くなど滅多に経験できるものではないぞ」

 

「行く気があるか無いかの問題じゃないわ。

私、全く話についていけていないのよ。

突然過去に行けなんて言われても納得できるわけがないでしょう。

それに私は中学3年生、受験生よ。

じゅ、け、ん、せ、い!」

 

「大丈夫だって。

高校の知識が無くても俺と一緒に聖星のスパルタ地獄を味わうだけだからさ」

 

何が大丈夫だと言うのだ。

そう口にしたかったジャスミンはまた十代をきつく睨み付ける。

しかし彼の言う事が本当だというのなら聖星を助けなくてはならない。

だが、いくら聖星を助けるためとはいえ過去に行くなど簡単に頷ける問題ではない。

 

「それなら私じゃなくてエース兄さんに頼んでみたらどう?

エース兄さん、どうせ彼女もいないし私と違って暇でしょう」

 

「それは許さん」

 

「どうしてよ」

 

「お前が行かなければ歴史が変わり、未来が崩壊してしまうかもしれん」

 

ジャックの言葉に十代は頷いた。

子供達が生まれる遥か昔、ジャックがまだ青年だった頃、彼は過去が変わった事で崩壊しようとした未来を体験した。

もし彼女が過去に行く事を拒めば昔のでき事が再び起こってしまう。

そう危惧したジャックにジャスミンはため息をつく。

 

「分かった、やるわ」

 

「本当か、助かるぜ!」

 

「もし私が行かなくて過去が滅茶苦茶になったら後味が悪いもの」

 

はぁ、と何度目か分からないため息をつきながらジャスミンは鞄の中を漁る。

メモ帳を取り出した彼女は十代に質問をした。

 

「で、過去で私はどんなデッキを使っていたの?

父より何十歳も年上って事は、シンクロ召喚は主流になっていない時代よね」

 

「試験とか学生、聖星以外の闇のデュエリスト相手には【炎王】を使ってたぜ。

そういやお前の本当のデッキって何なんだ?」

 

「【炎王】ねぇ、昔使ってたからそれを選択するのは正しいかしら。

今は【ジュラック】よ。

貴方、過去で私の本気デッキとデュエルしていないのね。

それで、過去に行った私は誰を頼ったの?

まさか後ろ盾がいないのに学園へ入学する手続きができたのかしら?」

 

「いや、お前はペガサスさんを頼ったって聞いたぜ」

 

「ペガサスだと!?」

 

「……ペガサスって、デュエルモンスターズの生みの親の?」

 

「あぁ」

 

まさかの名前にジャスミンはペンを落としてしまった。

いくら自分が有名人の娘で、その縁で様々な芸能界、政界、財界等の有名人と繋がりがあるとはいえペガサスの名前には驚くしかなかった。

もう会う事は叶わない、この世界の基礎を創り上げたと言っても過言ではない人物。

その男性が自分の後ろ盾になるのだ。

一体何がどうなってそうなってしまうのか非常に興味がある。

 

「それとお前、アカデミアにいたときは偽名を使ってたから」

 

「偽名?」

 

「あぁ、その方が色々と都合が良いだろう?

聖星はそんな考えはなかったみたいだけどな」

 

けらけらと笑いながら当時を懐かしむ十代。

偽名を使う必要性に関しては嫌でも想像ができる。

どのような名前を使っていたのか聞こうと思い唇を動かそうとした。

 

「とまぁ、今俺が教えられるのはこれくらいだな。

後は頼んだぜ」

 

「え?

ちょっと待って、まだ聞きたい事が……!」

 

まだ解決していない疑問をぶつける前に十代の琥珀色の瞳が綺麗なオッドアイに変わる。

同時に車内に不思議な風が吹き、ジャスミンは反射的に叫んだ。

手を伸ばしてきそうな彼女に十代は罰が悪そうな顔をして笑った。

 

「いや、それがさ……

あいつも過去に来る前に俺からこれ以上詳しくは聞いていないらしいんだ。

だから話したくても話せなくてよ~

悪いな」

 

「なっ……!?」

 

両手を合わせられて謝られたジャスミンは無責任な!と叫ぼうとした。

だがそれより先に浮遊感を覚え、そのまま意識が途切れてしまった。

 

**

 

という実に腹立たしいでき事から数日が過ぎようとしている。

この時代に来た当初は右も左も分からなかったが、十代の言った通りペガサスのおかげでなんとかこの学園に潜りこむ事ができた。

十代の言葉には感謝はしているが、同時に落下する恐怖を覚えているジャスミンは元の時代に帰ったら真っ先にあの男を吊し上げようと決めている。

いくら過去に行く事を承諾したとはいえ、いきなり紐なしバンジージャンプはありえない。

思い出せれる十代の行動にジャスミンはこれから行われる紹介のため気を引き締めた。

 

「時期外れではありますが新しいお友達を紹介しよう」

 

マイクで拡張されたこの学園の校長の言葉にジャスミンは立ち上がった。

 

「本日よりオベリスクブルーに編入してきたアルテミナ・ジャスさんです」

 

名前を呼ばれると同時に姿を見せれば自然と拍手が起こる。

アルテミナ・ジャス。

十代のアドバイスを聞いて色々考えた結果、この名前にした。

ペガサスからはアルテミナと名乗るくらいならアルテミスと名乗れば良いと言われた。

テンプレといえる紹介内容を聞きながらアルテミナは友好的な笑みを浮かべる。

 

「初めまして、アルテミナ・ジャスです。

私はカブキッドのようなエンターテイナーデュエリストを目指し、それを実現するためデュエルアカデミアに編入してきました。

今日から皆さんと一緒にデュエルを学べると思うととても楽しみで仕方がありません。

日本の文化にはまだ慣れていないため失礼な事をすると思いますがよろしくお願いいたします」

 

日本人とは違う顔立ち、そして両親譲りの美貌を持つ彼女の言葉に生徒達は更に拍手を送った。

最初の掴みは大丈夫だろうと安心したが、彼女は自分の視界におかしな生徒達が映っている事に気が付く。

皆は彼女を歓迎しているようだが一部の生徒達は怪訝そうな、何かを怪しむような視線をアルテミナに送っていたのだ。

気味の悪い視線だが特に深く考えなかったアルテミナはまた笑みを浮かべてその場から退場した。

一方、転校生に妙な視線を送っていた者は小声で隣席の者に尋ねた。

 

「この時期に転校だと?

随分と奇妙だな」

 

「ん、そうか?」

 

「馬鹿が、一体今がどんな時期か貴様も知っているだろう。

あまりにもタイミングが良すぎる」

 

「ま、仮にお前が思っている通りだったら向こうから何か仕掛けてくるだろう。

俺はいつでも準備オーケーだぜ」

 

**

 

「(何なのこれ、全っ然、分かんない!)」

 

アカデミア用の教科書を開けたアルテミナは思わずそれを閉じようとした。

しかし現実逃避をしても意味がなく、彼女は知識0なりに頑張って教科書に書かれている意味を理解しようとした。

 

「(あいつ、私とあいつで2人仲良く聖星のスパルタを受けるって言っていたけど……

まさか聖星、この内容を理解しているの!?

嘘でしょ!??)」

 

国語は捨てた。

外国人だからという理由で漢字が分からないから全くできないと上手く言い訳ができる。

英語は多分余裕だ。

社会は全て暗記物と思えばまだ楽であるが……

 

「(せ、生物はまだ何とかなるとして数学と化学、物理なんて無理よ)」

 

今日から始まる授業内容を想像するとかなり憂鬱になってしまう。

さっぱり理解できない現実に聖星を助ける前に勉強を優先しなければいけない気がして来た。

いや、聖星をさっさと助けて彼に勉強を教えてもらうのも手か。

すると隣に誰かが立ち、そちらに目をやると金髪の少女を筆頭に3人の少女が微笑んでいる。

 

「初めまして、アルテミナ。

私は天上院明日香…

貴方の故郷じゃアスカ・テンジョウインの方が良いのかしら?」

 

「いいえ、知り合いに日本人もいるから順番は変えなくても大丈夫よ。

アルテミナ・ジャス。

後ろのお二人は?」

 

「私は枕田ジュンコ」

 

「私は浜口ももえですわ」

 

「明日香にジュンコ、ももえね。

よろしく」

 

笑みを浮かべながら手を差し伸べ、お互いに握手をしていく。

それを切欠に他の女生徒達も声をかけ、授業が始まるまでアルテミナの周りには人で溢れかえってしまった。

 

「ねぇ、アルテミナ。

昼休み一緒に食事でもどう?

その後デュエルもしたいんだけど、どうかしら」

 

「えぇ、喜んで」

 

さっそくデュエルに誘ってきたのは明日香だ。

今までの会話で彼女はこの学園内屈指の実力者だとももえとジュンコが自慢していた。

アルテミナもそんな人物からの誘いを断るつもりもなく、この時代の学生がどの程度の実力なのか知るのに良い機会だと思い快く受け入れた。

 

**

 

午前中の授業は終わり、皆はそれぞれ昼食をとる時間となった。

購買に行く者、お手製の弁当を食べている者等様々だ。

そんな中昼食を終えた一部の生徒はデュエルフィールドに集まり、これから始まるデュエルを観戦しようとしている。

いつも以上に騒がしいデュエルフィールドの様子にたまたま通りかかった十代達は顔を見合わせた。

その人だかりの中に見慣れた黒い後姿があったのでこの光景はなんなのか聞いてみた。

 

「万丈目、何だこの人だかり。

今日は何かあったか?」

 

「さんだ!

どうやら天上院さんと例の転校生がデュエルするそうだ」

 

「本当か万丈目!?

明日香とあの転校生のデュエルか~

どんなデュエルになるんだろうな。

取巻、翔、隼人、ちょっと行ってみようぜ!」

 

「って、おい、遊城!

……相変わらずのデュエルバカだな」

 

「デュエルを除いたらあいつにはバカしか残らんぞ」

 

「万丈目君の言う通りっすね」

 

「けど、あれが十代のいいところなんだな」

 

デュエル、しかも学園上位に入る実力者と転校生がするのだ。

誰よりもデュエルが好きな十代が食いつかないわけがない。

そんな友人を3人は呆れたように見送り、隼人は微笑ましそうに見ていた。

しかし彼等も例の転校生の実力は気になるところである。

一方、自分をこの時代に送り込んだ張本人がこの場にいることを知らないアルテミナは明日香に向かって不敵な笑みを浮かべる。

 

「明日香」

 

「何かしら」

 

「貴方が目指すのはどんなデュエリスト?」

 

「え?」

 

互いにデュエルディスクを装着した時、アルテミナは明日香に尋ねる。

突然の事に明日香は不思議そうな表情を浮かべた。

それに対しアルテミナは無邪気な笑顔で告げる。

 

「今朝も言ったけど、私はカブキッドのようなお客様、対戦相手……

皆が楽しめるエンターテイナーデュエリストを目指しているの」

 

「成程ね、どんなデュエルを見せてくれるのか楽しみだわ」

 

「えぇ、たっぷり驚いてもらうわ!」

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は私がもらうわよ、アルテミナ。

私のターン、ドロー!

私は【エトワール・サイバー】を召喚!」

 

「はぁ!」

 

淡い光と共に現れたのはオレンジ髪の女性モンスター。

エトワールは確か花形俳優という意味だった気がする。

そう頭の中で思い出しながら目の前で回転しながら召喚された彼女を真っ直ぐと見る。

 

「随分と綺麗なモンスターね。

貴女美人だし、とても似合ってるわ」

 

「あら、ありがとう。

カードを1枚伏せ、ターンエンドよ」

 

「(攻撃力1200のモンスターを攻撃表示かぁ。

絶対何かあるわよねぇ~)

私のターン」

 

この時代の下級モンスターの平均攻撃力は確か1500前後だったはず。

それと比べると【エトワール・サイバー】の攻撃力は低い部類に入る。

そんな彼女を攻撃表示で召喚するというのは伏せカード、もしくは彼女自身に奇抜な効果がある。

そう考えるのが自然だろう。

 

「(さて、どう魅せましょう……)」

 

ゆっくりと目を閉じたアルテミナは引いたカードを見る。

描かれている景色に彼女は口角を上げ、明日香を真っ直ぐに見た。

 

「さぁさぁ、皆さんご注目!」

 

明日香と視線を交えたアルテミナはすぐに観客達にも目をやり、大きく手を広げた。

突然声を上げた彼女の行動に皆は不思議そうな顔をする。

しかし今朝の朝礼でエンターテイナーデュエリストを目指していると言っていたため、すぐに理解したようだ。

 

「今私達がいるのは自然溢れるデュエルアカデミア!

だけど残念な事に私達がデュエルしているのは外の自然が全く見えない建物の中!

折角の環境が勿体ないわ。

そう思わない?」

 

観客や明日香に問いかけるように目をやり、皆の反応を見守る。

しかし生徒達は室内でデュエルするのが主のためあまり勿体ないとは思わない。

それくらいアルテミナも理解はしていた。

 

「だから私が室内に居ながら自然を感じられるよう、舞台を整えるわ。

手札からフィールド魔法【炎王の孤島】を発動!」

 

綺麗な笑みを浮かべてアルテミナはカード名を宣言する。

デュエルディスクがカードに埋め込まれているチップを読み込み、白い壁で覆われたデュエルフィールドは一瞬で様変わりした。

建物の外のように森が広がり、微かに煙を上げる火山が遠くに見える。

 

「……成程、これの事を言っていたのね」

 

「えぇ。

この島は【炎王】達が暮らす緑豊かな島。

このアカデミアとそっくりでしょう?

それにここに住んでいる住人達はとても愉快でね、お祭り事がとっても大好きなの」

 

一面に広がる青空に揺れる木々、微かに香る海の匂い。

そして火山。

本当に自分達の学園がある島とそっくりだ。

 

「特に今日のお客さんは可愛らしい踊り子さん。

きっと皆歓迎するわ」

 

自分の事を指していると分かった【エトワール・サイバー】は周りを見渡す。

注意深く見れば木々の影に誰かが隠れているのが分かった。

一体何が出てくるのか分からない【エトワール・サイバー】は警戒するかのように神経を研ぎ澄ます。

 

「さぁ、舞台のスターを出迎えてくれるのは誰かしら?」

 

手札からカードを1枚手に取った彼女はそのモンスターを明日香に見せる。

 

「【炎王獣バロン】を召喚!」

 

「ウォウ!」

 

緑豊かな森の中に突然青い焔が現れる。

その炎は一気に巨大化し、中から赤い皮膚を持つ獣の顔をした男が姿を見せた。

両手に持っているのは鋭い剣で彼は体中に青い焔を纏っている。

器用に剣を中に放り投げると曲芸のように自由自在に剣を使って舞い始めた。

 

「さぁ、最初に出迎えたのは【炎王獣バロン】よ!

お客さんが美人で【バロン】は喜びの舞を舞っているわ。

……でも貴方に抜け駆けされるのは少し嫌みたい。

デッキにいる皆が彼女のエスコートは自分がやりたいってさ」

 

「ウオ?」

 

「フィールド魔法【炎王の孤島】の効果発動!

私の手札・フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、デッキから【炎王】と名の付くモンスター1体を手札に加える」

 

「なっ、自分のモンスターを破壊するですって!?

何を考えているの!」

 

アルテミナの説明に【バロン】は勢い良く振り返る。

宙に舞っていた剣は地面に突き刺さり、【バロン】は嫌だと言うように大きく首を振った。

しかし他の住民達は認めないようで【バロン】は炎の中に消えていった。

 

「私はデッキから【炎王獣ヤクシャ】を手札に加えて【ヤクシャ】の効果発動!

私の場の【バロン】がカード効果で破壊された事で、彼を特殊召喚するわ!」

 

【バロン】を包んだ青い炎は赤色に染まり、真っ赤な炎へと変わった。

その炎は勢いよくふり払われ、棍棒を回しながら青い衣服を纏う男性が召喚される。

彼は礼儀正しく頭を下げ【エトワール・サイバー】を真っ直ぐ見た。

新しいモンスターの召喚に、観客である十代達はそれぞれ言葉を発した。

 

「お、かっこいいモンスターだな!」

 

「攻撃力は【バロン】と同じ1800っすね……

あれ、じゃあどうしてデッキからわざわざ【ヤクシャ】を特殊召喚したんすかね。

攻撃力が同じならそのまま【バロン】で攻撃すれば良かったのに」

 

フィールド魔法の効果でモンスターを破壊し、手札に加える。

そこで加えたモンスター自身の効果で場に特殊召喚するというのは実にいい流れのコンボだ。

しかし場にモンスターがいなくなるわけではないが増えるわけでもない。

特殊召喚したときに何か発動するのなら納得はいくが効果が発動する様子もない。

そんな翔の疑問に取巻が答える。

 

「一応破壊してデッキから特殊召喚しているからデッキ圧縮に一役買ってるだろう」

 

「あ、そっすね」

 

言われてみればそうだったと呟く翔の言葉は周りの観客たちの興奮によってかき消される。

やはり初めて見るモンスターが連続して現れるのはデュエリストとしての血が滾るようだ。

 

「【バロン】の代わりに彼が貴女の相手をするそうよ。

【ヤクシャ】、【エトワール・サイバー】に攻撃!」

 

「悪いけど、【エトワール・サイバー】の相手は貴方じゃ務まらないわ!

罠発動【ドゥーブルパッセ】!」

 

「【ドゥーブルパッセ】?」

 

「【ヤクシャ】の攻撃は私が受けるわ!」

 

【エトワール・サイバー】はするりと【ヤクシャ】の攻撃をかわし、明日香がその攻撃を受けた。

【ヤクシャ】とアルテミナはまさかの展開にわずかに目を見開く。

炎を纏った棍棒の攻撃に明日香はよろめき、彼女のライフは2200までに減少する。

だが明日香は不敵な笑みを浮かべて言い放った。

 

「そしてアルテミナ、貴女は【エトワール・サイバー】の攻撃力分のダメージを受けるのよ!」

 

「なっ!」

 

明日香の宣言に【ヤクシャ】は慌てて振り返り、自分の攻撃をかわした【エトワール・サイバー】を見る。

彼女は先ほど自分に攻撃を仕掛けてきた男などもう忘れてしまったかのように優雅に踊りだし、その華麗な舞からは想像ができないほど力強い蹴りを放つ。

とっさにアルテミナは両腕でその蹴りを受け止めたが、ライフは2800まで削られてしまう。

強烈な蹴りに笑みを浮かべたアルテミナは明日香の場に戻った踊り子と残念そうな顔を浮かべる【ヤクシャ】を交互に見比べ、肩をすくめた。

 

「あら、【ヤクシャ】は好みじゃないのね。

私はカードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

「私のターン、ドロー!」

 

デッキからカードを加えた明日香は攻撃力が上の【ヤクシャ】をどう処理しようかと考える。

いや、モンスターを相手にするよりアルテミナ自身を狙った方が早いかもしれない。

戦略を瞬時に組み立てて最善の策まで考えた明日香はその行動を移そうとする。

するとアルテミナの場で小さな炎が燃え上がり、中から先ほど仲間の嫉妬を買った【バロン】が半透明な姿を現す。

 

「何?」

 

「この瞬間【バロン】の効果を発動するわ」

 

「え、このタイミングで!?」

 

「えぇ。

【バロン】は何もせず退場するのは嫌いな子でね。

貴方達に楽しんでもらえるよう下準備を手伝ってくれるそうよ」

 

そう、【炎獣王バロン】はカード効果で破壊され墓地に送られた次のターンのスタンバイフェイズ時、デッキから新たな【炎王】と名のつくカードを加える能力を持つ。

カードの種類は指定されていないため、魔法・罠・モンスター、好きなカードを手札に持ってくることが可能だ。

デッキを広げたアルテミナは2枚の魔法カードを交互に見て、赤い雛鳥が描かれている魔法カードを手に取る。

 

「私は魔法カード【炎王炎環】を手札に加えるわ」

 

「相手ターンでも発動できるカードだったのね……

だったら私は手札から【増援】を発動するわ!

このカードはデッキからレベル4以下の戦士族モンスターを手札に加えることができる。私はデッキから【サイバー・チュチュ】を手札に加え、【チュチュ】を召喚!」

 

「はっ!」

 

光と共に場に現れたのは桃色の髪を持ち、目元をゴーグルで保護している少女だ。

標示された攻撃力は1000とこの場に存在するモンスターの中で最も低い。

ただでさえ【エトワール・サイバー】より攻撃力の高い【ヤクシャ】が場に存在するのに、それより低いモンスターを召喚するとは何を企んでいるのだろう。

アルテミナの常識だったらチューナーモンスターを召喚してシンクロ召喚につなげるが、あいにくこの時代にはまだそのシステムは導入されていない。

明日香が何を狙っているのか考えていると明日香は力強く宣言する。

 

「行くわよ!

【エトワール・サイバー】でダイレクトアタック!!」

 

「あら、直接攻撃モンスターだったの?」

 

「いいえ、【ドゥーブルパッセ】の効果よ。

あのカードの対象になった私のモンスターはこのターンのバトルフェイズ、貴女にダイレクトアタックができるわ!

さらに【エトワール・サイバー】は相手プレイヤーに直接攻撃する時、攻撃力が1700にアップする!

【エトワール・サイバー】!!」

 

アカデミアの女王にふさわしい気迫で叫ぶと、その勇姿に応えるよう【エトワール・サイバー】は舞い始める。

先程と同様に【ヤクシャ】に全く目もくれなかった彼女は勢いよく回転し、アルテミナへ直接攻撃する。

再び迫ってきた踊り子の迫力につい反射的に目をつむってしまう。

 

「くっ!!」

 

放たれた蹴りは前ターンの蹴りより力強く、削られるライフ量も多い。

これでライフは1100となった。

 

「【サイバー・チュチュ】でダイレクトアタック!」

 

「え?」

 

「【サイバー・チュチュ】は貴女の場に存在するモンスターの攻撃力が【チュチュ】より高いとき、相手プレイヤーにダイレクトアタックできるのよ!」

 

「な、ちょっと待って!?」

 

まさかの直接攻撃を可能にする効果にアルテミナは焦ったように叫ぶ。

今【サイバー・チュチュ】の攻撃力は1000で、彼女のライフは1100。

もし【チュチュ】の効果が【エトワール・サイバー】と同様に攻撃力を変動させるものならこの攻撃で終わってしまう。

伏せカードを発動させようと思っても、今の条件では発動することができない。

 

「ヌーベル・ポワント!」

 

「ぐっ!!」

 

再び受けた攻撃にアルテミナはその場に膝をつく。

ライフポイントの表示が100まで削られると同時に周りの歓声が一気に湧き上がり、

 

「すげぇ、天上院さんが押してる!」

 

「明日香さーん、頑張って!」

 

「何だよ、押されっぱなしじゃねぇか」

 

「いくら編入できるほど実力はあっても、天上院さんには及ばないってことかもな」

 

耳に届くのは優勢な明日香に対する励ましの言葉とアルテミナの現状に対する失望の言葉。

だが明日香はこの学園でも指折りの実力者のため、例え敗北しても当然の結果として受け入れるだろう。

この学園の生徒達はそうかもしれない。

だが、彼女は違うのだ。

 

「(やばい……

甘く見てたわね)」

 

膝を着いているため顔を俯かせているアルテミナは口元に弧を描く。

エンターテイナーとは見る者を魅了するデュエルを見せ、勝利を掴む。

父の背中を見ながら育ったアルテミナは当然そのような考えを持っていたし、当然かなりの負けず嫌いである。

さらに闘争心に火が付いた彼女は改めて気を引き締めて顔を上げた。

同時に明日香と目が合い、ブルーの妖精は不敵な笑みを浮かべて問いかけてくる。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ。

どうしたのアルテミナ。

この学園に転校したからにはそれなりの実力があるんでしょう。

まさかこのまま終わりだなんて言わせないでよ」

 

「安心して、それだけはないわ。

【ヤクシャ】、貴方だって守り神と一緒にバカ騒ぎしてないのに負けたくないわよね」

 

モンスター同士の戦闘もなしで、ましてやダイレクトアタックでライフポイントを削られてしまうなどデュエルとして面白みがいまいちだ。

アルテミナは明日香の問いかけに答えるように笑い、場に佇む【ヤクシャ】に声をかける。

彼女の言葉に同感なのか【ヤクシャ】は強く頷く。

 

「守り神?」

 

「それはこれからのお楽しみよ。

私のターン、ドロー!」

 

勢いよくカードをドローしたアルテミナは勝ち気な笑みを零して語り掛ける。

 

「私のライフは100。

明日香のライフに比べたら風前の灯火ね。

けど明日香、知ってるかしら。

例え小さな灯火でも、完全に消し切らなければ次の瞬間には全てを飲み込む業火へと変わるのよ」

 

100ポイントなど一瞬で消そうと思えば消す事ができる命。

しかしその小さな命が完全になくならない限り逆転のチャンスはある。

それを掴んだ時、明日香や周りの観客達はどのような表情を見せてくれるのだろう。

自分の腕の見せどころにアルテミナは力強く宣言した。

 

「私は手札から永続魔法【炎舞‐天璣】を発動!

このカードが発動した時、デッキから新たな仲間を手札に呼ぶことができる!

私は【炎王獣ヤクシャ】を手札に加えるわ。

さらに【天璣】は私の場の獣戦士族の攻撃力を100ポイントアップさせるのよ」

 

今アルテミナの場に存在する獣戦士族は【ヤクシャ】のみ。

彼の攻撃力は1800から1900へと上昇する。

その様子を見ていた男子生徒はこぼす。

 

「何だ、たった100かよ」

 

「100だからといって馬鹿にしちゃいけないわ。

獣戦士族モンスターはアタッカーが多いんだから」

 

彼の言う通り、100というのは低い数値かもしれない。

だがその100ポイント上げたモンスターの元々の攻撃力が高ければどうだろう。

時にその数値の差はデュエルの決着を決める重大な鍵となるかもしれない。

 

「さて、私達の島を訪れたのは2人の可愛らしい踊り子達。

【ヤクシャ】は振られちゃったみたいだけど他の皆はどうかしら。

貴方達をデートに誘いたい人はたくさんいるのよ」

 

「悪いけど、私のプリマ達はデートするより勝利を得る方が好きなの。

どれほど誘っても結果は見えているわ」

 

「あらあら、つれないわね。

でも、私の【炎王】達はそう簡単には引き下がらないわ」

 

「しつこい男は嫌われるわよ」

 

「ふふっ。

フィールド魔法【炎王の孤島】の効果を発動!

手札の【キリン】を破壊し、デッキから【炎王獣バロン】を手札に加え、加えた【バロン】を自身の効果で特殊召喚!」

 

見えるように前に出したのは炎を纏う一角獣。

青い炎に包まれながら消えたと思えばそのカードは先程の赤い獣へと変わる。

そしてその獣はアルテミナの場に荒っぽい舞を披露しながら現れた。

碌な説明もなしに次々に起こるでき事に十代と隼人は顔を見合わせる。

 

「ん、何だ?

いったい何が起こったんだ?」

 

「さっきの【バロン】が破壊されて【ヤクシャ】が特殊召喚された状況に似てるんだな」

 

「【バロン】は【ヤクシャ】と同じように場の【炎王】がカード効果で破壊された時、手札から特殊召喚できるのよ。

尤もこの効果は【炎王獣】共通の効果だから【キリン】にもあるけどね」

 

「【炎王獣】の共通の効果?

という事は毎ターン、貴女がモンスターを破壊すれば手札の【炎王獣】は特殊召喚されるっていうの?」

 

「えぇ。

もしバトルフェイズにモンスターを破壊しても、手札に【炎王獣】がいればすぐにモンスターは出てくるって事」

 

「くっ……」

 

明日香が使用するモンスターは先程アルテミナが思った通り攻撃力が低い部類に入る。

だから相手ターンの攻撃は【ドゥーブルパッセ】やモンスターを破壊するカードで対応していた。

だが、破壊されても手札から特殊召喚されるようでは破壊してもきりがない状況になりうる。

アルテミナの言いたい事が理解できた明日香は難しい顔を浮かべた。

 

「同時に破壊された【キリン】の効果発動。

デッキから炎属性モンスターを1体墓地に送る事ができるわ。

……そうね、このカードにしましょう。

そして【炎王獣ガルドニクス】を通常召喚!」

 

炎の中から現れたのは今までとは違う赤い鳥のモンスター。

そのモンスターの登場に【バロン】と【ヤクシャ】は互いに視線を交える。

と思えば【ガルドニクス】より一方後ろに下がるように動いた。

 

「行くわよ!

【炎王獣ガルドニクス】で【サイバー・チュチュ】に攻撃!」

 

「そう簡単には通さないわ!

カウンター罠、【攻撃の無力化】!

これで貴女のモンスターの攻撃は私のプリマ達に届かないわ!」

 

【ガルドニクス】は大きく口を開けて炎を吐き出す。

対象となった【チュチュ】は向かってくる炎に怯むが、その前に歪みが現れ、炎は吸い込まれていった。

【攻撃の無力化】はその名の通りどんな攻撃も終わらせてしまうカウンター罠。

これ以上攻撃できない事にアルテミナは心底残念そうな顔をする。

 

「ガードが堅いわねぇ。

これじゃあもてなそうと思ってもできないじゃない」

 

「あら、それはごめんなさい。

そんなにもてなしたいのなら、さっき貴女が言った守り神……

そのモンスターだったら考えてあげても良いわ」

 

使い手である明日香の性格が現れているのか、彼女達の瞳には勝利の文字しかない。

心強い、しかし敵からしてみれば敵に回したくはない顔をするモンスターにアルテミナは笑う。

2人の言葉の掛け合いに翔と取巻はそれぞれ零す。

 

「明日香さん、凄くノリノリっすね」

 

「なんだかんだで天上院さんもデュエル好きだからな」

 

対戦した事のある者なら分かると思うが、明日香は普段の冷静さとは異なりデュエル時にはかなり好戦的になる。

だからアルテミナが気取った言葉を使っても真正面から返すのだ。

一方十代と万丈目は真剣な表情で話す。

 

「ここまでのデュエル、まだ互いにエースを出してない。

この勝負、先にエースを出した方が有利になるな」

 

「ただでさえ残りのライフは100。

このまま天上院君が押し切るか、それとも逆転のコンボをあの女が決めるか……

どうでるか見物だな」

 

「カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

「私のターン、ドロー」

 

デッキからカードを引いた明日香はアルテミナの自信にあふれる表情を見る。

あの顔がただの虚勢か、それとも本当に逆転できる自信があるのか判断はつかない。

ただ明日香がやる事は彼女の戦略を崩し、勝利を掴む事。

その為に手札のカードを1枚掴む。

 

「手札からフィールド魔法【フュージョン・ゲート】を発動!

悪いけど、貴女の孤島には消えてもらうわ!」

 

新たに発動されたフィールド魔法の登場にアルテミナの目が僅かに見開かれる。

破壊される事で効果を発動する【炎王獣】だが、今までその効果のトリガーとなっていたのはこの孤島自身。

微かに動いたアルテミナの顔にこれが正解だと明日香は考えた。

だが次の瞬間、火山が噴火し大地が揺れ始める。

そして溶岩が島を覆うかのように多量に流れ出した。

 

「な、何なの!?」

 

「地震なんだな!」

 

激しい轟音と爆音と共に揺れる森。

フィールド魔法は場に1枚しか存在せず、2枚目が発動したらその前に存在した1枚目は破壊されるルールである。

だからこれが【炎王の孤島】の最後なのだろうか。

それにしては演出が派手すぎる。

 

「あ、アルテミナさんのモンスターが溶岩に飲み込まれていくっす!」

 

動揺している明日香達とは対照的に【炎王獣】達は冷静で流れ出る溶岩に身を委ねていた。

次々に砕け散っていく彼らの様子に皆はアルテミナを凝視した。

 

「【炎王の孤島】、そこは南方に位置する活火山を有する孤島であり幻獣である【炎王獣】達の楽園。

住むべき島を失った彼らは島と共に滅びゆく運命なのよ」

 

「滅びゆく……?

まさか全員破壊されたっていうの?」

 

意味深な台詞に明日香は自分の推測を言う。

返ってきたのは肯定を意味する笑みだけだ。

2人の様子に見学している十代はたいそう驚いたのか声を荒げる。

 

「破壊された時に自分のモンスターまで巻き込むカードかよ!?

これじゃあ場ががら空きじゃねぇか!

……あれ、でも確か【炎王獣】の共通の効果って」

 

「自分の場の【炎王】がカード効果で破壊された時、手札から特殊召喚できる。

だがあの女の手札は1枚。

そう都合よく他の【炎王獣】が来るか?」

 

先程使い手本人であるアルテミナの説明を思い出しながら確認するかのように万丈目に目を向ける。

十代の言いたい事をくみ取った万丈目はそれを無視しながらも答える。

万丈目以外にもこの事を考えている生徒はいるようで周りからそれについて話している声が聞こえてくる。

 

「舞台は【炎王】達の楽園である孤島からルールが崩れた世界へと移ったわ。

でも安心して、例え舞台が変わっても【炎王】達は可愛い子へのもてなしを止めたりはしないから!

私の場の【炎王】が破壊された事によりさっき【炎舞‐天璣】で手札に来た【炎王獣ヤクシャ】を守備表示で特殊召喚するわ!」

 

再び現れたのは棍棒を手に持つ男性モンスター。

彼は先程と同じ舞を踊り、その場に膝を着いた。

アルテミナの時代では守備表示ならばモンスターは全体的に青色になる。

それに対してこの時代は攻撃表示の時と一切色が変わらない。

未来のデュエルに慣れている彼女からしてみれば、何故あのような仕様になったのか心底疑問である。

アルテミナが今のデュエルとは関係ない事を考えている時、明日香は真剣な表情で【ヤクシャ】の守備力を見る。

その数値は200と【サイバー・チュチュ】より低い値である。

 

「(さっき【ヤクシャ】を手札に加えたのに召喚しなかったのは、私が【炎王の孤島】を破壊することを見越しての判断だったのね。

流石というべきかしら。

でも【サイバー・チュチュ】は相手モンスターの攻撃力がこのカードより高い場合、直接攻撃が出来る効果を持っているわ。

それは彼女もわかっているはず……)」

 

自信に満ち溢れるアルテミナの表情に明日香は罠があると確信した。

だがここで臆していては勝利を掴む事が出来ない。

明日香は罠がある事を承知の上でデュエルを進める。

 

「フィールド魔法【フュージョン・ゲート】は【融合】がなくても融合できるフィールド魔法よ!

【フュージョン・ゲート】の効果により場の【エトワール・サイバー】と手札の【ブレード・スケーター】を融合!

【サイバー・ブレイダー】を融合召喚!」

 

「来たぜ、明日香のエースモンスター!」

 

赤い踊り子の隣に青い踊り子が姿を現すと、2人の美女は歪みの中に消えていく。

その代わり青い髪をなびかせ、赤いゴーグルを身に着けている新しいプリマが姿を現してくれた。

そのモンスターが登場すると会場が一気に湧き上がる。

 

「(今アルテミナの伏せカードは3枚。

1番左のカードは最初のターンから伏せてあったカード。

何度攻撃しても発動するそぶりはないから攻撃反応型のカウンター罠じゃない。

けど問題は残り2枚のカード)」

 

アルテミナの場にはモンスターの攻撃力を上げる永続魔法1枚と正体が分からない3枚の伏せカードのみ。

その中の1枚はモンスターの攻撃にも【サイバー・ブレイダー】の特殊召喚にも発動されなかった。

ただのブラフだと判断した明日香は警戒しながらもメインフェイズを終わらせる。

 

「行くわよ、【サイバー・チュチュ】でダイレクトアタック!!」

 

「速攻魔法【炎王炎環】を発動」

 

「このタイミングでの速攻魔法!?」

 

明日香の宣言と同時に伏せられていた1枚のカードが表になる。

先程【バロン】の効果でアルテミナの手札に加わったカードだ。

カード名より【炎王】の関連カードだというのはすぐに理解できた。

 

「私の場の【ヤクシャ】と墓地のモンスターを入れ替えさせてもらうわ!」

 

【サイバー・チュチュ】がアルテミナに向かおうとすると、膝を着いていた【ヤクシャ】が立ち上がり炎に包まれた。

【ヤクシャ】を包み込んだ炎はそのまま消えていった。

明日香が難しい顔を浮かべていると、アルテミナは再び語り掛けるように言葉を発した。

 

「孤島は消え去った。

そこに住む【炎王獣】達もね。

だけど彼らは完全には消えない。

例え何度滅んでも、その炎は廻るのよ」

 

淡々としたアルテミナの言葉が会場に響く中、熱気をまとった風がフィールドに吹き始める。

その風は全てカードを発動した彼女の背後に集まっていった。

するとその風は一気に膨張し、炎の渦へと変わっていく。

凄まじい熱気と轟音と共に炎の渦は竜巻のように荒れ狂い、天井に向かっていく。

 

「煥発より生まれし孤高の神、焔の鎧をまとい、大地を照らせ!」

 

赤と黄色が混じった色を持つ炎は高い位置で自身の形となり、大きく翼となる部位を広げる。

翼を広げた事でその炎が何になろうとしているのか分かった観客達はどんなモンスターが現れるのか期待した。

それに応えるようアルテミナはモンスターの名前を高らかに宣言する。

 

「特殊召喚、翡翠の炯眼、【炎王神獣ガルドニクス】!!」

 

「クォオオオ!!」

 

己の名を呼ばれると黄色の炎の中から鎧をまとい、青、黄色、赤、緑と多彩な毛を持つ1体の巨大な鳥が姿を現す。

巨大な鳥はゆっくりと火の粉と共に舞い降り、自分を見上げるプリマ達の姿をその翡翠の瞳に映しだした。

ただそこに存在するだけだというのに彼女達は押されるほどの威圧感を覚えてしまう。

流石は神の名を持つ獣というべきだろう。

 

「これが【炎王】の守り神……」

 

「攻撃力2700のモンスター!?

一体いつの間に墓地にいったんすか!??」

 

「【炎王獣キリン】の効果の時なんだな」

 

「すげー!!

何だよあの無茶苦茶かっこいいモンスター!!」

 

今まで召喚された【炎王獣】達とは比べ物にならないくらいの巨大さを誇るモンスターの登場に会場は【サイバー・ブレイダー】の時と同じくらい盛り上がった。

 

「それが貴女のエースなのね、アルテミナ。

けど忘れたの?

私の【サイバー・チュチュ】はこのカードより攻撃力の高いモンスターが存在する時ダイレクトアタックができるのよ」

 

「えぇ、確かに可愛い顔をして侮れない効果を持っているわ。

けど【炎王】の守り神が降臨したのよ。

まずは【サイバー・チュチュ】をもてなしましょう。

罠発動、【燃え上がる大海】!!」

 

「(最初のターンから伏せていたカード……!

まさか【ガルドニクス】が発動条件だというの!?)」

 

アルテミナは自分フィールドの1番右側に存在するカードを発動させた。

表になったカードには噴火を起こした島を守るかのように並ぶ【炎王】、そして彼らに敵意を向ける海のモンスターが描かれている。

その絵には輝きを放つ【ガルドニクス】が存在し、瞬時に【ガルドニクス】専用カードかと考えた。

 

「私の場にレベル7以上の炎属性モンスターが存在する時、フィールドに存在するモンスターを1体破壊する!」

 

「なっ!!」

 

「当然選択するのは【サイバー・チュチュ】!」

 

破壊対象を選択した途端【ガルドニクス】がイラストのような輝きを放ち始める。

その輝きは口元に集まり、大きな炎として【サイバー・チュチュ】を襲った。

向かってくる炎の攻撃に【チュチュ】はなす術もなく飲み込まれる。

 

「きゃあぁ!!」

 

「【サイバー・チュチュ】!」

 

破壊されるときの悲鳴と明日香の叫び声を聞きながら、アルテミナは口角を上げる。

本来なら【燃え上がる大海】のデメリット効果で彼女は手札を1枚捨てなければならない。

しかし【ヤクシャ】を特殊召喚した時点で彼女の手札は0のため捨てる必要はなかった。

ダイレクトアタックを可能とする【サイバー・チュチュ】を失い、明日香は手札を見る。

少しだけ思考を巡らせた彼女は手札から1枚カードを掴んだ。

 

「手札から魔法カード、【ハンマーシュート】を発動!」

 

明日香が発動したカードは【ゴブリン突撃部隊】が頭上から振り下ろされたハンマーに叩き潰されているシーンを描いている。

色々と損な役回りを描かれている彼等の状況から分かる通り、碌なカードではない。

このカードは場で1番攻撃力の高いモンスターを破壊する効果を持つのだ。

 

「これで【ガルドニクス】には退場してもらうわ!」

 

明日香の力強い声と共に上空から巨大なハンマーが現れ、【ガルドニクス】を粉々に砕く。

目の前であっさりと破壊された【ガルドニクス】にアルテミナは僅かに目を見開いた。

折角エースを召喚したというのにこうも簡単に破壊されるとは思わなかったのだろう。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

明日香はこれ以上何もできないと判断したのかターンを終了させる。

 

「明日香さん、手札全部使いきっちゃったっすね」

 

「けど、明日香さんの場には【サイバー・ブレイダー】と伏せカードがあるんだな。

少なくても次のターン、負けるとは思えないんだな」

 

「前田の言う通りだ。

それにアルテミナのエースカードはいなくなった」

 

「手札は0、そしてライフは100……

場には伏せカード1枚と【炎舞‐天璣】のみ。

これは本当に首の皮1枚でつながっている状態だな」

 

「けど見てみろよ取巻、万丈目、あのアルテミナって奴の顔。

この状況が楽しくて仕方がないって顔だぜ。

まだあいつは諦めてない。

一体どんなデュエルを見せてくれるんだろうな」

 

万丈目達のようにアルテミナの場からエースが消え去った事に安堵している生徒は大勢いる。

その声がちらほらと聞こえてくるが、そのような状況だからこそ盛り上がるものだ。

口角を上げたアルテミナは不敵な笑みを浮かべて明日香に向かって宣言する。

 

「ラストターンよ、明日香!

私のターン!!」

 

勢いよくカードを引いたアルテミナはそのカードの名前に笑みを浮かべた。

そのカードの枠は緑色で、この場をにぎやかにするには十分なカードだ。

手札が1枚に増えるとモンスターゾーンに火の粉が現れ、それは空中で渦を巻きながら凝縮する。

 

「この瞬間【炎王神獣ガルドニクス】の効果発動!

カード効果で破壊された守り神は輪廻を廻り、現世へと蘇える!」

 

「何ですって!?」

 

「蘇るって……

つまり【ミラフォ】や【炸裂装甲】で破壊しても帰ってくるっていう事なんだな!」

 

「攻撃力2700もあるモンスターを正面から攻撃するより魔法・罠で除去する方が早いけど、除去してもすぐに蘇るなんて打つ手がないっすよ!」

 

「蘇えれ【ガルドニクス】!!」

 

手を高く上げると炎の渦は火柱となり、その中から【ガルドニクス】が姿を現す。

再び現れた炎の鳥の姿に明日香は難しい顔を浮かべた。

 

「さらに【ガルドニクス】の第2の効果発動!

守り神が再臨した時、フィールドに存在する全てのモンスターは破壊される!」

 

「全てのモンスターを!?

という事は!」

 

「これが、私達に出来る最高のもてなしよ!!」

 

自信満々な笑みで宣言された破壊効果に明日香は【サイバー・ブレイダー】を見上げる。

【サイバー・ブレイダー】も目の前に現れた【ガルドニクス】の危険性を察知したのか後ろに下がる。

蘇生した守り神は自身の翼を大きく広げ、空中へと飛び上がると同時に炎を吐き出した。

頭上から炎を浴びた【サイバー・ブレイダー】は苦痛の声を上げながら破壊され、その炎はフィールド全体を覆い尽くす。

目の前を焼き尽くす光景に明日香は誰にも聞き取れない声で呟く。

 

「そんな……」

 

何かが燃える音が聞こえる中、呆然とする彼女とは対照的に不敵な笑みを浮かべるアルテミナは言い放つ。

 

「言ったでしょう明日香。

例え小さな灯火でも次の瞬間には全てを飲み込む業火になるって。

さらに【バロン】の効果によりデッキから【炎王の急襲】を手札に加えるわ。

尤も、このカードの出番はないと思うけど」

 

「(出番がない?

わざわざデッキからサーチしたのよ。

無駄なカードを手札に加えるとは考えられないわ)」

 

「行くわよ!

【炎王神獣ガルドニクス】でダイレクトアタック!!」

 

「ラストターンにはさせないわ!

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!!」

 

大きく口を広げた【ガルドニクス】は光を纏いながら口元に炎を集める。

このダイレクトアタックを受けてしまえば明日香のライフは0になってしまうが、明日香もそう簡単に負けるつもりはなかった。

勢いよく発動された【ミラーフォース】は使い手を守るかのように聖なる結界を明日香の場に出現する。

しかしその結界は赤く輝き、砕け散ってしまった。

 

「どうして、何が起きているの!?」

 

「無駄よ、明日香」

 

「え?」

 

赤い光を発しながら散っていく【ミラーフォース】からアルテミナの場に目を移すと1枚のカードが表側表示になっていた。

それは紫色の枠を持ち、何かのモンスターが背中を向けながら奥で炎の球が存在している光景が描かれている。

初めて見るカードだが、あのカードが【ミラーフォース】を破壊したのだと嫌でも分かった。

 

「【フレムベル・カウンター】。

このカードは墓地の炎属性を除外する事で相手が発動した魔法・罠カードを無効にし、破壊するの。

よって【ミラーフォース】は【ガルドニクス】の攻撃を返せないわ!」

 

「くっ!!」

 

悔しそうな顔を浮かべる明日香に対し【ガルドニクス】は感情を読ませない黄色の瞳でフィールドを見下ろしている。

口元に集まった炎は【サイバー・チュチュ】を焼き払った時より数倍の大きさへと成長していた。

明日香のモンスターは存在せず、唯一の伏せカードも無効となった。

アルテミナはこのデュエルの決着をつけるため高らかに叫んだ。

 

「【ガルドニクス】、レイジング・ノヴァ!!」

 

アルテミナの宣言と同時に炎は吐き出され、真っ直ぐと明日香に向かっていく。

攻撃力2700のダイレクトアタックに明日香の姿は炎の中に消え去る。

体中を包み込む炎の熱と衝撃に彼女は強く目を瞑り、その衝撃を耐える。

ライフポイントが0へと削られる音と炎の音が混ざり合い、ゆっくりと【ガルドニクス】は姿を消していった。

 

「……はぁ、何とか勝てた」

 

誰にも聞こえないよう呟いたアルテミナは明日香に目をやる。

正直なところ、ライフを100まで削られた時は焦ったものだ。

勝てる自信はあったが、もし先程のターンでカードを2枚伏せられていたら先程引いた魔法カード、【真炎の爆発】を使ってモンスターを増やしていただろう。

【真炎の爆発】から顔を上げたアルテミナはデュエルディスクの電源を切り、明日香に歩み寄ろうとした。

 

「あ、貴方……!」

 

「え?」

 

足を動かそうとした瞬間、視界の端に映った男子生徒の姿に反射的に指をさしてしまう。

彼女の驚いた表情に周りの生徒達は指をさした方向へと目を向ける。

そして皆の視線は十代へと集まった。

 

「……へ、俺?」

 

「兄貴。

アルテミナさん、兄貴を見て驚いているっすよ」

 

「何だ、十代。

貴様あの女と知り合いか?」

 

「え?

俺に外国人の友達なんていないはずだぜ……

ってか、会った事あるか?」

 

十代は必死に自分の記憶の糸をたどり、アルテミナに関する情報を思い出そうとする。

しかしどれだけ思い出そうとしても彼女と出会った記憶が出てこない。

以前、万丈目とのデュエルが報道されたが、その時に彼女は自分を見たのだろうか。

それならば十代だけではなく隣にいる万丈目にも反応を示すはずだ。

首を傾げる彼に対しアルテミナは頭を抱える。

 

「(そうよ、ここは過去の世界。

彼が私を知らないなんて当たり前じゃない。

私だって彼を全く知らないし……)」

 

恐らくこの後聞かれる事はどこで十代を知ったのかだろう。

ここで知り合いがいたと思ったけど全くの他人だったと言えば良いのだが、残念な事にその考えはアルテミナには思い浮かばなかった。

ペガサスから聖星と十代は友人同士だと聞いており、聖星から聞いたという事に決めた。

 

「貴方、遊城十代でしょう。

聖星から少しだけ話を聞いているのよ」

 

「聖星って……

お前、聖星の事知ってるのか!?」

 

「えぇ、父親同士が幼馴染なの。

その縁でね。

何度もデュエルしたわよ」

 

「マジかよ」

 

マジよ、と十代の言葉に返したかった。

しかし十代を含め周りの生徒達の表情が一瞬だけこわばったのが見えたため、返す事が出来なかった。

聖星が既に闇のデュエルで敗れた事もペガサスから聞いている。

彼等の心境を察しながら次にかけるべき言葉を探していると、それより先に十代が目を輝かせた。

 

「なぁ、アルテミナ!

聖星から俺の事を聞いてるって事は、俺は強いデュエリストだって知ってんだろ。

次は俺とデュエルしようぜ!」

 

「うわ、流石兄貴。

いきなりのデュエル宣言っす」

 

「そんな遊城に良い知らせだ。

あと10分で授業が始まる」

 

「えぇ、嘘だろぉ!??」

 

取巻の言葉に十代は自分のPDAを取り出して時間を確認する。

確かにあと10分ほどで午後の授業が始まってしまう。

流石に残り時間で満足できるようなデュエルが出来るとは思えず十代はがっかりしたかのように肩を下ろす。

目の前で一種の漫才を始めた同級生達にアルテミナは明日香に振り返る。

 

「彼等、いつもこんな感じなの?」

 

「えぇ。

騒がしいでしょう。

でも一緒にいて楽しいのよ」

 

「ふぅん」

 

女子校に通っていたアルテミナとしては共学の雰囲気というものは新鮮である。

明日香から再び十代達に目を向ければ、十代は万丈目、取巻と何か話している。

十代の発言に万丈目が突っ込みを入れ、バカバカしいコントをする2人に取巻は呆れた眼差しを向ける。

未来のアカデミアではなかなか見なかった光景だ。

 

「(聖星の事に関しては放課後でいっか……)」

 

どうせ放課後には鮫島校長から呼び出され、改めて自分はセブンスターズと戦うためにインダストリアルイリュージョン社から来たと自己紹介をするのだ。

その時に聖星について話せばいい。

そう結論付けたのだが、次の授業が錬金術だと思い出して一気に血の気が引いてしまった。

 

「……ねぇ明日香」

 

「何かしら」

 

「明日香って勉強得意?」

 

「え?」

 

「お願い、教えて」

 

END

 




おい、エンタメデュエルしろよ


最初の方はちゃんとエンタメしていたはずなんですけどね、後半は殆どしていないという
魅せるデュエルを書くというのは本当に難しいですね
改めて遊戯王の脚本を書いている方の構想力は凄いと実感しました

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