遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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今回はデュエルがないため、めちゃくちゃ短いです


第三十六話 新しい刺客の足音

 

うららかな昼下がり、授業もない休日を彼等は好きに過ごしている。

尤も、孤島に設立されているアカデミア内で出来る娯楽と言えば限られており、好きに過ごすにも限界があった。

それでも彼等は青空の下でカードを並べ、あれやこれやと議論を繰り広げている。

赤と紫に近い青の制服を身に纏っている少年達は周りの視線など一切気にしておらず、実に楽しそうだ。

 

「これとこれを組み合わせると、ほら。

このコンボってどうだ?」

 

「それ、すげー良いかも!

待てよ、十代。

そのコンボが出来るってことは、こっちのカードを間に挟むと……」

 

「おお~!

そういうコンボもありだな!」

 

一脈相通ずるデュエリスト同士の盛り上がりは大きく、それを眺める事しか出来ない翔は小さくため息をついた。

 

「……すっかり仲良しっすね~、兄貴とヨハン君」

 

「まるで遠い昔から一緒にいた友達みたいなんだな」

 

胡坐をかきながら頬杖をついている翔が零した言葉に同意したのは同室の隼人。

ヨハンが留学してからまだ4日程しかたっていないというのに、あの2人の意気投合っぷりは驚きだ。

十代との会話量だって、翔と隼人が交わした量を軽く超えている自信がある。

つまらなさそうな表情と物寂しそうな表情を浮かべている彼等に対し、遅れてこの場にやって来た聖星は苦笑を浮かべるしかない。

 

「十代とヨハンは性格も似ているし、デュエルバカ同士、通ずるものがあるんだよ」

 

元々聖星はアークティック校に留学した時、彼等が出会ったら絶対に仲良くなるという確信があった。

彼の予想通り、2人は出会ってまだ数日しか経っていないというのに、昵懇の仲にまで関係を構築している。

微笑ましい事だと十代達を眺めていると、聖星を見上げていた翔は不満そうに首を傾げる。

 

「そういう聖星君は寂しくないんすか?」

 

「え、何で?」

 

まさかの翔の問いかけに聖星は目を丸くし、翔と同じように首を傾げた。

不思議そうな表情を浮かべる同級生に翔は「マジっすか」と言葉を漏らし、しばらく思案する。

太陽光に照らされている整った顔には本当に分からないと書いてあった。

さてさて、これはこの同級生が鈍いのか、それとも本当に心の底からそう思っているかのどちらだろう。

まぁ、前者だろうが後者だろうがここまで言葉を投げかけた以上、後戻りすることは出来ないのも事実。

頬杖を続ける翔は数日前の十代と聖星の様子を思い出す。

 

「兄貴はこの間まで聖星、聖星って呼んでたのに、今じゃヨハン、ヨハンだよ。

そりゃあ、聖星君はヨハン君とも友達だけど、のけ者にされている感じしない?」

 

「あ~、そういう事」

 

自分にとって仲の良い友人達が、自分をきっかけに友達になる。

それがとても良いことであるのは間違いない。

だが、その結果、友人達と自分の間に距離が生まれ、孤独を覚えるケースもある。

憧れの同級生がぽっと出の人間に奪われるのは充分寂しい事だが、そちらの方が寂しさはもっと強いはずだ。

現状そのポジションになっている聖星はどうなのだろうか。

翔の言い分を理解できた聖星は微笑みながら首を横に振る。

 

「いや、全然。

のけ者って言われても、ヨハンは十代の部屋に行く前に俺の部屋に寄って誘ってくるし。

十代がブルー寮に来るときも、十代は真っ先に俺の部屋に来るしなぁ」

 

今日はI2社の報告書に目を通すから先に合流してほしいと頼み、十代とヨハンは聖星を抜いてコンボ議論をしているに過ぎない。

翔が危惧しているのけ者扱いを受けている気は一切せず、そこまで寂しさは覚えていない。

 

「むしろ俺としては、あのまま十代と仲良くしてくれた方が助かるかなぁ」

 

「え?」

 

「どうしてなんだな、聖星」

 

「だって、十代の勉強会をするとき、手伝ってもらいやすいだろう」

 

「しっかりしてるっすねぇ、聖星君」

 

今のところ、勉強会の教える側は神楽坂、取巻、聖星の3人で行っている。

教えてもらう側は問題児の十代、最近は成績が良くなってきた翔、隼人だ。

6人であーだ、こーだと話しながら勉強会をするのは楽しいが、やはりもう少し助っ人が欲しいのも本音である。

ヨハンの頭の良さはアークティック校で知っているので、役者不足ではない。

まさかそっち方面で十代とヨハンが仲良くなっている事に満足しているとは思わず、翔と隼人は何とも言えない顔を浮かべる。

すると、背後から声がかかる。

 

「誰の勉強会だ?」

 

「っ、お兄さん!」

 

「カイザー!?」

 

「丸藤先輩」

 

突然聞こえて来た声に3人は慌てて振り返り、自分達のところまでやってきた青年の姿に驚く。

カイザーは他の生徒にも大きな反応を返される事が多いため、特に焦った様子もなく聖星達を見下ろす。

翔は実兄、聖星はよくデュエルする相手という事ですぐに復活したが、唯一関りが薄く、臆病な隼人だけが数歩程離れた位置まで下がっていた。

 

「お兄さん、どうしたんすか?」

 

「あぁ、ヨハンにデュエルを挑みに来たのだが……

どうやら今はデュエル出来なさそうだな」

 

ヨハンが留学してから、カイザーは何度かヨハンにデュエルを挑もうとしてきた。

しかし、教師や同級生からの頼み事、授業などが重なって中々時間が取れなかったのだ。

そして今日こそはとやってきたのだが、当の本人達は楽しそうに語り合っており、邪魔をするのは忍びない。

せめてデュエルの約束だけでも取り付けないかと考えていると、兄の気遣いは無駄だと言うように翔は言い放つ。

 

「兄貴とヨハン君だよ、お兄さんが誘ったら喜んでデュエルするっす」

 

「そうですよ、丸藤先輩。

ちょっとヨハンを呼んできますね」

 

「だが、聖星、あれだけ白熱しているところを中断させるのも……」

 

真のデュエルバカを舐めてはならない。

そもそも聖星だってヨハンとカイザーのデュエルを見てみたいのだ。

カイザーの言葉をまるっと無視した聖星は2人の名前を呼びながら駆け寄った。

 

「ヨハ~ン、じゅうだ~い、丸藤先輩がデュエルしたいって」

 

「「マジ!!??」」

 

「マジ」

 

聖星の言葉に2人は反射的に立ち上がり、目を輝かせながら奥にいるカイザーを見つめる。

純粋な後輩達の眼差しにカイザーは微笑み、ゆっくりと歩み寄った。

 

**

 

ヨハンとカイザーのデュエルが終わって数日。

聖星はヨハンと一緒に取巻の部屋の前までやってきた。

ブルー寮へ昇格した当初はあまりの豪華さに傷つけたらどうしようとノックしづらかったが、既に慣れてしまい、遠慮なくノック出来るようになった。

 

「取巻、一緒に授業行こうぜ」

 

しかし、いつもの取巻ならばすぐに声を返してくれるのだが、数十秒待っても部屋の中から返答がない。

怪訝そうな表情を浮かべた聖星とヨハンはお互いの顔を見合わせる。

 

「【ルビー】、悪いけど取巻の様子を見てきてくれないか?」

 

「ルビッ」

 

さて、どうしようかと聖星が考えるより早く、ヨハンは肩に乗っている【ルビー】に頼む。

家族からのお願いに【ルビー】は任された!という表情を浮かべ、あっという間に部屋の中に入っていった。

いくら取巻が精霊を見る事が出来ないとはいえ、堂々と部屋に入っていく後姿に聖星は苦笑を浮かべるしかない。

 

「ヨハン、けっこう大胆だな」

 

「もしかすると風邪で寝込んでるかもしれないだろ?

それに、取巻の事だから小言を言ってきてもそこまで怒らないって」

 

確かに取巻ならば呆れはするだろうが、怒ってくるイメージはあまり湧かない。

むしろそれは万丈目がやる反応に近い気がする。

それに声を返せないほど寝込んでいる可能性も無きにしも非ずである。

すると、すぐに【ルビー】は部屋から出てきてヨハンの足を登り始めた。

 

「お帰り【ルビー】。

それで、取巻のやついたか?」

 

「ルビビィ」

 

定位置まで戻った【ルビー】はヨハンからの問いかけに首を横に振った。

つまり、この部屋の主は不在という事だ。

自分達を置いて先に教室に行くなど珍しいものだと思い、聖星は顎に手を当てながら呟く。

 

「あれ、取巻、今日は何かあったっけ?」

 

別に取巻は委員会に所属しているわけでも、教師から何か頼まれたわけでもない。

一体どうしたのかと不思議に思いながら2人は教室へと向かった。

だが……

 

**

 

「これは一体どうしたことにゃ?」

 

目の前に広がった光景に、授業の担当者である大徳寺は困ったような表情を浮かべた。

彼が担当する錬金術の授業は受講している生徒が多く、いつも教室には多くの学生がいる。

それなのに空席が目立ち、普段の6割しか生徒たちが顔を出していない。

しかも、聖星達より先に寮を出たと思われる取巻の姿もないのだ。

思い当たる事があるヨハンは隣の席に座っている聖星に目をやった。

 

「聖星、これってまさか……」

 

「セブンスターズの仕業?」

 

セブンスターズには勝つためならば平気で人質をとるデュエリストがいる。

このデュエルアカデミアが戦場になる以上、彼等が巻き込まれたって何ら不思議ではない。

カミューラのデュエルを思い出した聖星は背中に冷たい汗が流れるのを覚え、力強く両手を握った。

すると、1人の女性職員が大きな鞄を持って教室に入って来る。

 

「どうかしましたか?」

 

「これが森の中に」

 

「川田君の鞄じゃないですか」

 

彼女が抱えているのは授業に出席していない生徒の私物である。

ハンカチや鍵などの小物ならばただの落とし物だと片付けられるが、教科書や筆記用具などが入っている鞄だ。

うっかり落としましたではすまされない。

それはつまり、彼は森の中で鞄を手放さざるを得ない状況に陥ったという事。

聖星はすぐに立ち上がり、皆に声をかける。

 

「大徳寺先生、俺達、皆を探してきます。

十代、ヨハン、行こう」

 

「おう!

翔、隼人、行こうぜ!」

 

「これだけの人数が行方不明なんだ。

俺達も手伝うぜ!」

 

聖星の言葉に十代とヨハンも立ち上がり、彼らに続いて万丈目たちも立ち上がる。

探しに行く気満々の彼等に大徳寺は困ったように笑い、この授業は自習にすると宣言した。

そして、鍵を持つ者とヨハン達は鞄が発見された森の中を探索していた。

 

「皆無事だといいんですがにゃ」

 

「お~い、皆~!」

 

「取巻~、いたら返事しろ~!」

 

可愛い教え子達を心配している大徳寺を最後尾にし、聖星達はどんどん前を進んでいく。

空を見上げれば精霊達も協力しており、【サファイア・ペガサス】【コバルト・イーグル】【星態龍】【閃珖竜スターダスト】が飛んでいる。

すると、【スターダスト】がゆっくり聖星達の前まで降りて来た。

聖星は友人の傍まで駆け寄り、彼を見上げて尋ねる。

 

「【スターダスト】、何か見つけたのか?」

 

「ガルゥ」

 

聖星からの問いかけに【スターダスト】は首を曲げ、ある方角を見る。

きっとあちらに何かを見つけたのだろう。

背後にいる友人達へ振り返った聖星は、十代、ヨハンと視線を交えて小さく頷く。

そして、3人は【スターダスト】が指示した方向へ向かって走り出した。

あっという間に森の中に消えてしまった3人に対し、翔と明日香は困ったような表情を浮かべて疑問を口にする。

 

「……聖星君、誰と話しているんすか?」

 

「さぁ?」

 

精霊を見る事が出来ない彼等にとってこの反応が普通である。

彼等の中で唯一はっきり見える万丈目は頭を抱えるような仕草をし、大きくため息をつきながら進言した。

 

「とにかく、あのデュエルバカ3人衆を追いかけるぞ」

 

「万丈目の言う通りだ。

敵が隠れている可能性がある森の中ではぐれるのは危険だ。

行こう」

 

万丈目の言葉に三沢は同意し、彼等も一気に駆けだした。

 

END




お久しぶりです
めちゃくちゃ放置して申し訳ございません
就職、転勤等があって慌ただしい日々を過ごしていました
まだまだ忙しい部署に所属していますが、最近は隙間時間を見つけられるようになり久しぶりに小説を書いていみました
正直、カードも最近一切触っていないのでユーチューブで勉強し直し中です
リアルでデュエルやりたいです……
ヨハンのカードも金科玉条という1対3カードの出てきましたし、ヘルカイザーのストラクも出たんですね!

当初はヨハンVS聖星のデュエルを書こうと思いましたけど、どう頑張ってもガチ魔導が圧勝してしまう……
じゃあヨハンVSカイザーのデュエルでも、と思ったのですが……
お願いヨハン、早くレインボー・ドラゴンを手に入れて!!
デュエルのルールを忘れている&思い通りのデュエル構成が出来なかったので今回はデュエルなしです!!
ごめんなさい!!
いつか番外編で書けたらなぁと考えています。

番外編デュエル予定
十代&取巻VS墓守の長&審神者
ヨハンVSカイザー←NEW

次回、誰とタニヤっちを戦わせようか迷ってます

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