遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第三十話 冷酷になれない子供

夜が明け、朝になったはずなのに空は薄暗く、今にも雷が鳴りそうである。

そんな中、十代と吹雪がいるため皆は自然と保健室に集まっていた。

ベッドに横になっている十代は悔しそうな顔をして叫ぶ。

 

「くっそ~、よくもクロノス先生を!」

 

「闇のデュエル……

聖星の言うとおり、危険なデュエルだったんだな」

 

三沢は万丈目が持っている人形を見つめながら呟く。

何の変哲もないただの人形が、デュエル終了と同時にクロノス教諭の形になってしまった。

最初はあまりの出来事に脳が理解することを拒否し、今朝起きたときは夢だったのではないかと期待したものだ。

しかし万丈目の手の中にあるそれは確かに熱を持っており、昨晩の出来事は夢ではなかったのだと突きつけてくる。

 

「まぁ、カミューラはまだ良心的だよ。

俺が経験した闇のデュエルは負けたら闇の世界に飲み込まれたり、死んだりするようなものだから。

人形になるくらいならまだマシ」

 

「人形になるところのどこがマシなんだ?」

 

マシという発言に三沢と万丈目が眉間に皺を寄せる。

死ぬことも人形に魂を封じ込められることも、闇のデュエルと関わりのない三沢達からしてみれば同等なのだろう。

今回のパターンがどれ程幸せなのか聖星は答える。

 

「人形や魂をカードに封じられるタイプだと、その術をかけた相手に勝てば元に戻るパターンが殆どだ。

二度と帰ってこれないよりはマシだろ?」

 

「そうだな……」

 

聖星の言葉に三沢は小さく頷き、安堵の笑みを浮かべる。

永遠にこのままだとどうしようかと思ったが、元に戻る方法があり、それが勝つことならば勝つしかない。

すると万丈目が立ち上がり、クロノス教諭の人形をポケットにしまう。

 

「ふん、つまり勝てば良いって事か。

簡単じゃないか。

この万丈目サンダーにかかればな」

 

つまり、次は自分がカミューラと戦うと言いたいのだろう。

彼のやる気が満ちあふれる言葉に星態龍は真面目な顔で答える。

 

「気持ちは分からんでもないが、あのカミューラの事だ。

次の対戦相手に選ぶのは間違いなく丸藤亮だろう。

仮に万丈目が立候補したとしても、2度も私の好みじゃない男を差し向けるの!?と怒り狂いそうだな」

 

「どういう意味だ、貴様」

 

「星態龍、万丈目はやる気なんだから」

 

だが、その光景が簡単に想像出来てしまうのは仕方が無い。

万丈目自身も昨日の様子を思い出し、カイザーが選ばれてもおかしくないと考えている。

しかしだからといって自分が対戦相手として見られていないというのは気に入らない。

 

「フン。

実際誰が選ばれるか分からんだろう」

 

空中を睨み付けている万丈目と、その万丈目に苦笑いを浮かべている聖星。

会話が成立しているように見えるが、何かが足らない会話は、精霊を見る事が出来ない人にとっては違和感を覚えるものだ。

三沢は完全に頭上に疑問符を浮かべており、墓守の件で理解がある取巻は十代に小声で話しかけた。

 

「遊城、万丈目と不動は誰と話しているんだ?」

 

「ん?

あぁ、聖星の精霊の【星態龍】だ。

すげー格好いいんだぜ。

お前も後でカード見せて貰えよ。

……あれ?」

 

「どうした?」

 

「そういや俺、聖星に【星態龍】のカード、見せて貰った事ないな」

 

ベッドに横になりながら十代は首を傾げ、【星態龍】のカードを1度も見せて貰ってない事実に驚く。

聖星と出会ってからすでに半年以上は経っているというのに、何故かもう見た気になっていた。

彼と過ごせば必ず【星態龍】がおり、言葉を交わしているからだろうか。

 

「けど、次は誰がデュエルをするか決めておいた方が良いかもしれないな」

 

「聖星の言うとおりだ。

聖星と十代の話を聞くと、彼らは人質を取る事に躊躇がない。

クロノス教諭とのデュエルでは幸いと言えば良いのか、人質はとられなかったが、次もあぁなるとは限らないからな」

 

「ならば俺が行こう。

向こうは俺を所望しているらしいからな」

 

「っ、お兄さん!」

 

声を荒げる弟の声にカイザーは表情を変えない。

翔は十代が闇のデュエルで酷いダメージを負う姿も、クロノス教諭が負けて人形に変えられる姿も見ている。

実の兄が鍵を守るためとは言えあんな恐ろしいデュエルをするなど、弟ならば黙ってはいられないだろう。

 

「翔、お前の気持ちも分かる。

だが俺は、俺を守るために散ったクロノス教諭のためにも戦わなければならない」

 

「けど……」

 

「心配するな」

 

「……お兄さん」

 

それ以上、翔は何も言えないようだ。

兄の実力についてはこの場の誰もが知っている。

そのカイザーが行くと言っているのだ、反対する意見や自分が行くという声は上がらなかった。

すると保健室の扉が開き、皆の顔がそちらに向かった。

 

「おやおや、皆ずいぶんと酷い顔じゃない」

 

「トメさん」

 

「どうしたんすか?」

 

保健室に入ってきたのはトメさんである。

彼女はカゴと手に持っているトレーを机の上に置き、カゴを開けた。

カゴの中には水筒やジュース、トレーの上にはおにぎりやドローパンが置かれている。

トメさんお手製の差し入れに十代や翔は目を輝かせ、明日香は困惑顔で彼女に尋ねた。

 

「あの、トメさん。

ここは保健室ですよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。

鮎川先生の許可はとってあるから」

 

「トメさん、これ食べて良いのか??」

 

「あぁ。

十代ちゃんや皆のために作ってきたのさ。

何だか大変なことが起きて皆が頑張ってるって聞いてねぇ。

さ、おにぎりもお茶も暖かいよ~。

冷めないうちにおあがり」

 

優しく微笑むトメさんの言葉に皆は笑みを零した。

すると隼人のお腹から小さく音が鳴ってしまう。

隼人は頬を染めて顔を逸らしたが、皆もお腹がすいていたのかただ暖かく笑った。

微かに湯気が上がっているおにぎりに釘付けになっている三沢はおにぎりの具は何なのか聞いてみる。

 

「トメさん、具材は何があるんですか?」

 

「えっと、梅干しと……」

 

「ちょっと待った!」

 

「え?」

 

突然上がった声に皆は十代に顔を向ける。

痛む体を押さえて起き上がった十代の輝く笑顔に既視感があるのか、明日香や翔、隼人、取巻は苦笑いを浮かべていた。

それに対し聖星達は首を傾げる。

 

「ドローパンもあるんだ。

1人1人ドローしていこうぜ」

 

要は何の具が当たるかはお楽しみ、ということか。

十代らしい発言にカイザーはつい笑みを零し、万丈目は呆れた顔をしてしまった。

 

「ふっ」

 

「なんだその考えは、と笑ってやりたいが……

ここまで来ると逆に感動するな」

 

「へへっ。

じゃあ、まずは俺から」

 

十代を筆頭に皆は具が分からないおにぎりとパンを1個ずつ取っていく。

トメさんの言った通りおにぎりは先程作ったようで、炊きたてのご飯の香りが食欲をそそる。

海苔もご飯にべっとり張り付いておらずパリパリだ。

聖星は一口食べ、中に広がった味に小さく頷く。

 

「海老マヨだ。

久しぶりに食べたなぁ。

取巻は何だった、ってすっごい顔」

 

「…………」

 

しゃけ召喚!と騒いでいる十代を横目で見ながら取巻に目を向ければ、眉間に皺を寄せ、強く目を瞑っていた。

おにぎりの具でこのような表情をするものと言えばあれしかない。

明日香はすかさずコップにお茶を注ぎ、取巻にそれを手渡した。

 

「はい、取巻君」

 

「……ありがとうございます」

 

口内に残る味をお茶で薄め、もう一口食べる。

また同じ味が広がってしまうが、美味しいことには変わりない。

明日香はまだ眠っている吹雪の分を確保し、自分用のドローパンを食べた。

口に含んだ瞬間、明日香は自分が食べているドローパンの具に驚く。

すぐにパンを凝視すれば、そこには黄金に輝く卵があった。

 

「やったわ」

 

ぽろっと零れてしまった言葉に明日香は我に返る。

慌てて皆に振り返れば、思った通り聖星達から視線を浴びていた。

一気に顔が赤くなった明日香は言葉に詰まったが、すぐに慌てて声を荒げた。

 

「な、何よ!

そんなに私を見て!」

 

「いや、明日香の嬉しそうな声が聞こえたからさ。

何が当たったんだ?」

 

聖星達の耳に入ってきた明日香の声は、ここ最近聞くことの出来なかった声色だ。

行方不明になった吹雪が帰ってきたと思えば寝たきりで、さらに記憶喪失で妹である自分のことさえ分からない。

両親とすぐに会えないアカデミアにおいて彼女が抱える心労は並大抵の物ではない。

その彼女が嬉しそうに呟いたのだ、友人として少し安心する。

聖星の心境など知らず、まだ頬を染めている明日香は渋々答えた。

 

「黄金の卵よ」

 

「お、良かったじゃねぇか明日香。

お前、それ好きだろ。

前も購買部で引き当てたとき凄くはしゃいでたしな」

 

「十代、忘れてちょうだい」

 

頭が痛いと訴えるように明日香は額に手を当てる。

ここまで恥ずかしがるということは、普段では考えられない程のはしゃぎっぷりだったのだろう。

見てみたかったなぁと聖星がこぼすと、十代が小さく笑う。

 

「本当に珍しかったぜ。

確か聖星は留学していてアカデミアにいなかった時期だな」

 

「そっかぁ、惜しい事したなぁ」

 

「ちょっと2人とも」

 

いい加減にしないと怒るわよ!と言い出しそうな彼女の言葉に2人は仲良く口を閉ざす。

流石にこれ以上この話題に触れているのはまずい。

お腹も満たされて和やかな雰囲気になり、少しだけ余裕が出てきたのかカイザーが聖星に尋ねる。

 

「留学と言えば、聖星。

アークティック校ではどんなデュエリストがいたんだ?」

 

「え?」

 

「そーいやセブンスターズの事ですっかり忘れてたぜ。

なぁなぁ、聖星。

教えてくれよ!」

 

カイザーと十代の言葉に聖星は考える。

どんなデュエリストがいたかと尋ねられて真っ先に思い浮かぶのは彼だ。

同時にここ数日ヨハンに連絡していない事を思い出す。

 

「(後でメッセージ入れておこう)

どんなデュエリストですか……

やっぱり1番印象深いのは最初に友達になったヨハンですね」

 

「どんな奴だ?」

 

「ヨハン・アンデルセン。

どこか十代に似ているデュエリストだよ」

 

「俺?」

 

「あぁ。

デュエル好きでデッキのことを信じ、デュエルに関するセンスが飛び抜けている。

性格も十代を少し冷静にした感じかな?」

 

聖星の例え話に皆は簡単に想像出来たようだ。

もっと話しを聞くため質問を続けようとしたら、万丈目が思い出したようにその名を繰り返す。

 

「ヨハン?

【宝玉獣】デッキのヨハンか?」

 

「あぁ。

知ってるのか?」

 

「話程度だがな。

古代ローマの君主、ユリウス・カエサルは自身の覇権を知らしめるために、世界中から7つの宝石を集めて石版を作ろうとした。

だが、その宝石をローマに運ぶ途中、嵐に遭い、海の底に沈んだ。

それをペガサス会長が探し当て、宝石の成分を使って作り上げたカードが【宝玉獣】だ」

 

「へぇ、詳しいな。

十代は知ってた?」

 

「いや」

 

聖星は自分が通っていたアカデミア中等部の教科書に載っていたから知っていた。

だが、この時代ではそこまで【宝玉獣】は有名ではないため、十代達は知らないと思っていたが万丈目は違うようだ。

 

「以前、万丈目グループはペガサス会長から【宝玉獣】のカードを買い取ろうとした事がある。

それで詳しいだけだ」

 

「そうだったんだ」

 

確かに成り立ちの関係上、【宝玉獣】は世界に1枚しか存在しないカードと言っても過言では無いだろう。

海馬瀬人が持つ【青眼の白龍】とまではいかないが、そのカードを持っている事はこの世界においてかなりのステータスとなる。

ここ最近政界、財界に進出しようとしている万丈目グループが欲しがるのも納得できる。

 

「ヨハンは【宝玉獣】達に選ばれる程のデュエリストだよ。

何度もデュエルしたけど、ヨハンはとても強かった。

手札が0なのに次の瞬間には5枚になったり、モンスターはいなかったのに一気に4体になったり」

 

「……どこかの誰かさんを思い出すような内容だな」

 

ヨハンとのデュエルで真っ先に思い出した事を伝えれば、何度も十代のドロー被害に遭っている取巻が遠い目をする。

当の本人である十代は彼の様子に気がつく事もなく更に目を輝かせていた。

 

「すげー!

【宝玉獣】のヨハンかぁ、デュエルしてみたいぜ!」

 

「ふん、デュエルするといってもどうやって会いに行くつもりだ?

留学か?

十代の頭では無理だろうな」

 

「うっ、そりゃあないぜ万丈目」

 

十代の実力ならば留学してもおかしくはないが、問題は学力と生活態度だ。

平気で授業中に居眠りをしたり、宿題をやらなかったり、真面目とは言えない十代が留学できる可能性は低い。

彼自身その自覚があるのか、冷や汗を流しながら頬をかく。

 

**

 

それから再び夜は訪れ、カイザーは城を訪れた。

湖に浮かぶレッドカーペットを歩いて門をくぐれば薄気味悪い場内が出迎えてくれた。

どちらに進むか迷えばコウモリ達が誘うように導いてくれた。

 

「よく来たわね、カイザー亮」

 

大きなホールに出たと思えば頭上から声が聞こえる。

そちらに目を向ければカミューラが不敵な笑みを浮かべていた。

彼女は目だけで彼が立つべき位置を示し、カイザーはその場に立った。

その様子を聖星達はPDA越しに見守っていた。

 

「ルールはお分かりね。

勝者は次なる道へ、敗者はその魂をこの愛しき人形に封印される」

 

「「デュエル!!」」

 

互いに表示されたライフポイント。

先に動いたのはカミューラだ。

 

「私の先攻、ドロー!」

 

勢いよくカードを引いた彼女はカードの名に笑みを浮かべる。

 

「私は魔法カード【手札抹殺】を発動。

お互いに全ての手札を捨て、デッキからカードをドローします」

 

今お互いの手札は5枚。

彼らは全ての手札を墓地に捨て、5枚カードをドローした。

カミューラのデッキはクロノス教諭とのデュエルで分かるとおり、墓地からの蘇生を得意とするアンデット。

彼女が発動したカードに聖星は険しい顔を浮かべる。

 

「どうした、聖星?」

 

「いや、丸藤先輩ってたいてい初手に融合出来るよう【サイバー・ドラゴン】を握ってるからさ……

もし今ので全部墓地に送られていたら、面倒な事になるよ」

 

カイザーとは何度もデュエルしているが、最初のターンで【サイバー・エンド・ドラゴン】か【サイバー・ツイン・ドラゴン】のどちらかが召喚されるケースが多い。

それを考えると今墓地に捨てられたカードが【サイバー・ドラゴン】と融合の効果を持つものだと辛い。

 

「そして【ヴァンパイア・レディ】を守備表示で召喚。

カードを場に1枚伏せ、ターンを終了」

 

「俺のターン」

 

カイザーは先程墓地に捨てられたカードを思い出す。

あのカードがあれば手札に存在するカードを活用することが出来る。

 

「手札から魔法カード【サイバー・リペア・プラント】を発動。

俺の墓地に【サイバー・ドラゴン】が存在するとき、機械族・光属性モンスターをデッキから手札に加える。

または墓地の機械族・光属性モンスターをデッキに戻す事が出来る」

 

カイザーの後ろに半透明のモンスターが姿を現す。

そのモンスターは【サイバー・ドラゴン】であり、聖星の読み通り墓地に捨てられていたようだ。

これで条件はクリアし、カイザーはあのカードの効果を使用する事が出来る。

 

「俺はデッキから【サイバー・エルタニン】を手札に加える」

 

手札に加えたカードに翔は首を傾げた。

彼は兄弟であるが故にカイザーのデュエルを見る機会も多く、デッキの中を見たこともある。

 

「あれ、お兄さんのデッキに最高レベルの【サイバー】モンスターっていたっけ?」

 

「俺もカイザーの高レベルモンスターは融合モンスターしか知らねぇな」

 

翔の言葉に賛同するよう十代も呟く。

 

「【サイバー・エルタニン】は通常召喚出来ない。

墓地に存在する機械族・光属性モンスター全てを除外して特殊召喚する。

【サイバー・ドラゴン】2体と【サイバー・ドラゴン・ドライ】を除外し……」

 

カイザーの背後が光り輝き、2体の【サイバー・ドラゴン】と【サイバー・ドラゴン・ドライ】が姿を現す。

3体のモンスターが次元の狭間に飲み込まれ、代わりに巨大な渦が出現した。

機械が起動する轟音と共に渦の中から【サイバー・エルタニン】が顔を出す。

その巨大さにカミューラは思わず一歩下がった。

 

「このカードは……

融合じゃない上級【サイバー】モンスター」

 

「【サイバー・エルタニン】の効果。

このカードが特殊召喚に成功したとき、フィールド全てのモンスターを墓地へ送る」

 

「何ですって!?」

 

「【サイバー・エルタニン】!

コンステレイション・シージュ!!」

 

【サイバー・エルタニン】は口を大きく開け、無防備な【ヴァンパイア・レディ】に標準を合わせた。

自分に向けられた4つの砲口に彼女は大きく目を見開く。

放たれた砲撃はか弱い美女に集中し、あまりの熱量に一瞬で蒸発してしまう。

場から消え去ったモンスターに目もくれず、カイザーは次のカードを発動した。

 

「くっ……!!」

 

「更に俺は、手札から【サイバーロード・フュージョン】を発動」

 

「そのカードは!」

 

発動されたカードの名にカミューラは思い出す。

確かフィールドと除外ゾーンに存在する決めらモンスターをデッキに戻し、融合する効果を持つ。

彼の場にモンスターは【サイバー・エルタニン】のみだが、除外ゾーンには特殊召喚のコストで除外された【サイバー・ドラゴン】が2体。

 

「除外されている【サイバー・ドラゴン】を融合し、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を融合召喚する!」

 

「キシャアアアアアア!!」

 

突き刺すような光と共に特殊召喚されたのは2つの頭を持つ機械族。

【サイバー・エンド・ドラゴン】と違って貫通効果は持っていないが、その効果はがら空きのフィールドにとっては最悪だ。

 

「【サイバーロード・フュージョン】を発動したターン、俺は【サイバー・ツイン】でしか攻撃出来ない。

だが、【サイバー・ツイン】は2回攻撃を行える」

 

「攻撃力2800の2回攻撃!?

今私のライフは4000……」

 

「お前に次はない。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】!!」

 

カイザーの怒りの攻撃宣言に呼応するよう、【サイバー・ツイン】は高い機械音を鳴らす。

口の中心にエネルギーが集まり、エネルギーがまとう電気の音が聞こえる。

2つの首は自分の体内を巡る力を凝縮し、カミューラに向けて勢いよく放った。

 

「手札から【ヴァンパイア・フロイライン】を特殊召喚!」

 

【サイバー・ツイン】の攻撃がカミューラに届く前に1人の女性がフィールドに現れた。

彼女は傘を畳み、その場に跪いている。

【ヴァンパイア・フロイライン】は攻撃宣言時、手札から守備表示で特殊召喚する効果を持つ。

その守備力は2000であり、【サイバー・ツイン】の敵ではない。

 

「【ヴァンパイア・フロイライン】の効果発動!

ライフを払い、その数値分だけこの子の守備力をアップする!」

 

カミューラが説明したカード効果にカイザーは眉間に皺を寄せる。

彼女のライフは4000から3200に減少し、同時に【フロイライン】の守備力が2000から2800にアップする。

攻撃力と守備力は同じ、よってモンスターは破壊されず、互いにダメージはない。

その様子を見て十代は残念がり、三沢は一筋縄ではいかないと呟く。

 

「あちゃ~、防がれたか」

 

「流石は闇のデュエリスト。

にそう簡単に勝たせてはくれないか」

 

「魔法カード【一時休戦】を発動。

互いにカードを1枚ドローする。

カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

機械音が鳴り、カイザーの場に1枚の伏せカードが現れる。

一切表情を変えずデュエルを続ける彼の姿勢にカミューラは笑みを浮かべた。

 

「ゾクゾクするわ。

1番タイプだと思っただけはあるわ」

 

「悪いが、俺にも好みがある」

 

「つれないお方。

だからこそ、手に入れがいがあるというものですわ。

私のターン」

 

カイザーの場には攻撃力1500の【サイバー・エルタニン】と2800の【サイバー・ツイン・ドラゴン】。

【ヴァンパイア・フロイライン】はライフが尽きない限り何度でも守備力を上げ、戦闘破壊される事は無い。

だが、あの帝王を相手にしているのだ。

きっと次のターンには【フロイライン】を攻略する一手を打ってくるだろう。

 

「墓地に存在する【馬頭鬼】を除外し、墓地に存在する【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を特殊召喚!」

 

「フフフ」

 

特殊召喚されたモンスターの姿に十代達は険しい顔をする。

クロノス教諭は彼女に何度もモンスターを奪われ、最後のターンも【古代の機械究極巨人】を僕にした【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に敗れたのだ。

万丈目は忌々しくそのモンスター効果を思い出す。

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は自分より攻撃力の高いモンスターを装備カードにするんだったな」

 

これでカミューラが【ヴァンパイア】と名の付くモンスターを召喚するとカイザーのモンスターは奪われる。

 

「さらに墓地の【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動。

これにより手札の【ヴァンパイア】は生贄が必要なくなりますわ。

【ヴァンパイア・スカージレット】を召喚!」

 

召喚されたのは灰色の髪を持つ美青年だ。

【ヴァンパイア・ロード】とは異なる美貌を持つ青年の登場に、ここに女生徒がいれば黄色い声が上がっていたに違いない。

横に並んだ【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】と【スカージレット】は黄色の光を纏い、効果が発動した。

 

「【ヴァンパイア・スカージレット】の効果を発動しますわ。

このカードが召喚に成功したときライフを1000払い、墓地の【ヴァンパイア】を特殊召喚する。

蘇りなさい、【ヴァンパイア・ロード】!」

 

「はっ!」

 

「さらに【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】、【サイバー・ツイン・ドラゴン】を僕にしなさい!」

 

「ふふふっ」

 

カミューラのライフが2200になると青い肌を持つ吸血鬼の王が特殊召喚される。

さらに【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は【サイバー・ツイン・ドラゴン】の額に唇を落とし、自分の使い魔にしてしまう。

使い魔になってしまった【サイバー・ツイン・ドラゴン】のボディは美しい白銀から薄黒い灰色へと変わる。

 

「そして【ヴァンパイア・ロード】を除外し、【ヴァンパイアイジェネシス】を特殊召喚!」

 

「ぐぉおおおお!!!」

 

「【ヴァンパイアジェネシス】で【サイバー・エルタニン】を攻撃!」

 

【ヴァンパイアジェネシス】は一瞬で紫色の霧となり、【サイバー・エルタニン】を攻撃する。

見えない敵に【サイバー・エルタニン】は反撃できず、撃沈する。

 

「このターン【一時休戦】の効果で私のエンドフェイズ時までお互いにダメージは受けない。

ここで攻撃しても無駄ね。

カードを1枚伏せて、魔法カード【命削りの宝札】を発動。

手札が5枚になるようドローするわ。

ターンを終了」

 

「俺のターン。

【愚かな埋葬】を発動。

【サイバー・ドラゴン・コア】を墓地へ送る」

 

「あら、随分と可愛らしいフォルムのモンスターね」

 

「さらに魔法カード【サイバー・リペア・プラント】を発動。

効果により【サイバー・ドラゴン】を手札に加える」

 

今、彼の墓地に存在するモンスターは【サイバー・エルタニン】と【サイバー・ドラゴン・コア】2枚のみ。

しかし【サイバー・ドラゴン・コア】は場と墓地に存在するとき【サイバー・ドラゴン】として扱われる。

これにより【サイバー・リペア・プラント】の効果を使用する事が出来た。

 

「【天よりの宝札】を発動。

お互いに手札が6枚になるようドローする」

 

今、カイザーの手札は1枚、カミューラは先程【命削りの宝札】を使用したことで5枚である。

彼女は小さく舌打ちをし、渋々カードを1枚ドローした。

そして【サイバー・ドラゴン・コア】にはもう1つ効果がある。

 

「墓地に存在する【サイバー・ドラゴン・コア】の効果発動。

相手の場にのみモンスターが存在するとき、デッキから【サイバー・ドラゴン】を特殊召喚する」

 

「キシャアアアア!」

 

デッキから1枚のカードが差し出され、カイザーの場にモンスターが特殊召喚される。

これで条件は整った。

 

「手札から【パワー・ボンド】を発動!」

 

「【パワー・ボンド】?」

 

「機械族専用の融合カードだ!

手札の【サイバー・ドラゴン】2体とフィールドの【サイバー・ドラゴン】で融合!

【サイバー・エンド・ドラゴン】を融合召喚!」

 

先程デッキに戻ったモンスター達が再びカイザーの手札に加わり、彼の最強のカードへと姿が変わる。

【サイバー・ドラゴン】達は一瞬で暗闇の中に消え去り、ただでさえ不気味で薄暗いホールがさらに薄暗くなる。

すると彼の背後に光の柱が立ち、その中で黒い影が蠢く。

重い金属の翼が羽ばたく音が反響し、翼を広げきった【サイバー・エンド・ドラゴン】は咆哮を上げた。

 

「【パワー・ボンド】の効果で融合召喚した機械族モンスターの攻撃力は2倍になる」

 

「っ、攻撃力8000!?」

 

「お前のモンスターの攻撃力が4800だろうが関係ない。

【サイバー・エンド・ドラゴン】で攻撃。

エターナル・エヴォーリューション・バースト!」

 

今度こそ仕留めるという決意が見える攻撃宣言に、【サイバー・エンド・ドラゴン】は攻撃対象である【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に光線を放つ。

向かってくる光に彼女は主であるカミューラに振り返る。

 

「させないわ。

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!

攻撃表示のモンスターには全て消えて貰いますわ」

 

「速攻魔法、【融合解除】。

【サイバー・エンド・ドラゴン】の融合を解除する」

 

白銀のドラゴンは3体のモンスターに分離し、守備表示でフィールドに現れる。

全く手薄にならないカイザーのフィールドを見てカミューラは顔を歪めた。

 

「……可愛くない!」

 

「【サイバー・ジラフ】を召喚、そして生贄に捧げる。

これにより俺がこのターン受けるダメージは0となる。

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー」

 

今、カミューラの場には攻撃力2200の【スカージレット】、3000の【ヴァンパイアジェネシス】、4800の【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】。

そして守備表示の【ヴァンパイア・フロイライン】。

【サイバー・ドラゴン】の守備力は1600で、【ヴァンパイア・フロイライン】で攻撃しても倒すことは出来ない。

 

「(けど【ヴァンパイア・フロイライン】で攻撃するとき、ライフを支払えばその分攻撃力はアップする。

【フロイライン】、【スカージレット】、【ヴァンパイアジェネシス】で【サイバー・ドラゴン】を破壊して、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】でダイレクトアタックが出来るわ)

【ヴァンパイア・フロイライン】を攻撃表示に変更。

【ヴァンパイア・スカージレット】で【サイバー・ドラゴン】に攻撃!」

 

「罠発動、【神風のバリア-エアーフォース-】」

 

「【神風のバリア】?」

 

発動されたのは見慣れない罠カード。

その絵柄は炎の攻撃を弾いている様子を描いている。

名前を聞く限り、先程カミューラが発動した【ミラフォ】と似ている効果なのだろう。

 

「お前の場に存在する攻撃表示モンスターには全員手札に戻って貰う」

 

「【ヴァンパイア】を手札に!?

何なの、そのカード!?」

 

【スカージレット】は【サイバー・ドラゴン】に向かっていくが、見えないバリアに衝突する。

その時光がバリアに走り、その光はカミューラのモンスターを包み込んだ。

光が治まったと思えば彼女の場には誰も居なかった。

 

「…………ターンエンドよ」

 

手札に【ヴァンパイア】達が戻ったことで、彼女の手札は11枚になってしまった。

上限である6枚になるよう、カミューラは墓地にカードを送る。

 

「俺のターン、ドロー。

手札から魔法カード、【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする。

【サイバー・ドラゴン】を全て攻撃表示に変更。

バトルだ、【サイバー・ドラゴン】!」

 

カミューラの残りライフは2200。

【サイバー・ドラゴン】2体の直接攻撃で終わる数値である。

だが彼女も闇のデュエリストであり誇り高きヴァンパイア一族なのだ。

 

「カウンター罠、【攻撃の無力化】を発動!

バトルフェイズを強制的に終了させますわ」

 

またもや攻撃が防がれてしまった。

ライフもフィールドもカイザーが圧勝しているのに、最後の一撃が届かない。

返しのターンで何を仕掛けてくるか考えていると、カイザーの場に時空の歪みが生じる。

 

「何!?」

 

「ふふふ、良い顔をするわね」

 

「カミューラ、何をした?」

 

「私は罠カードを発動していたのよ」

 

「罠カードだと?

バカな……!?」

 

先程までカミューラの場に魔法・罠カードはカウンター罠の【攻撃の無力化】のみだった。

しかし、確かにカイザーの目の前にはカミューラが発動した罠カードが存在している。

そのカードの名前にカイザーと聖星は目を見開いた。

 

「【拮抗勝負】!?

カミューラの奴、そんな面倒なカード持ってたんだ……」

 

嫌なカードを持っていると感心していると、そのカードを知らない明日香は首を傾げた。

 

「【拮抗勝負】?

どういう効果なの、聖星」

 

「【拮抗勝負】……

バトルフェイズ終了時に発動できる罠カード。

自分の場のカードと同じになるよう、相手はカードを裏側で除外しなければいけないんだ。

そして自分の場にカードが存在しないとき、あのカードは手札から発動できる」

 

「そんな、手札から発動ですって!?」

 

「ってか、それも驚きだけど、裏側の状態で除外ってマジかよ!?

【異次元からの帰還】や【次元融合】が使えないってことだろ!」

 

十代の考えている通り、裏側表示で除外されるということは、除外されているカードの情報が公開されていないことを意味する。

【異次元の埋葬】や【次元融合】など除外されている『モンスター』を指定しているカードでは、モンスターカードか確認出来ないため、使えないのだ。

 

「ふふふ。

流石の貴方もこの効果には驚いたようね。

さぁ、カードを選びなさい」

 

カミューラの言葉にカイザーは自分の場を見渡し、残すべきカードを考える。

すると【サイバー・ドラゴン】3体と【サイバー・リペア・プラント】が時空の歪みに吸い込まれていった。

彼が残す事を選んだのは1枚の伏せカードである。

 

「俺は【サイバー・ヴァリー】を召喚。

ターンエンドだ」

 

「私のターン。

魔法カード【生者の書-禁断の呪術-】を発動しますわ。

墓地から【ヴァンパイア・ロード】を特殊召喚し、更に彼を除外し、【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!」

 

再び場に特殊召喚された【ヴァンパイア・ロード】は一瞬で光の粒子となり、【ヴァンパイアジェネシス】へと姿を変える。

美しい青年が威圧的なモンスターへと進化する姿は何度見ても驚きである。

 

「さらに【ヴァンパイアジェネシス】の効果発動。

手札の【バーサーク・デット・ドラゴン】を捨て、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

「はぁ!」

 

再び揃ってしまった2体のモンスター。

今カイザーを守るモンスターは【サイバー・ヴァリー】のみ。

2体の攻撃を受けてしまえばライフを大幅に削られてしまう。

 

「行くわよ。

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】で【サイバー・ヴァリー】を攻撃!」

 

「【サイバー・ヴァリー】の効果発動。

このカードを除外し、バトルフェイズを終了させる。

さらにデッキからカードを1枚ドロー」

 

「……くっ、ターンエンドよ」

 

またしても防がれてしまった攻撃にカミューラは顔を歪める。

ここまで攻撃が通らないと流石の彼女の顔にも焦りの色が出始めた。

 

「俺のターン、ドロー。

【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚引き、2枚捨てる」

 

カイザーは墓地に捨てるカードを公開し、その2枚を墓地ゾーンに置く。

そのカードはモンスターカードである。

 

「さらに魔法カード、【運命の宝札】を発動」

 

【運命の宝札】とはサイコロを振り、出た目の数だけデッキからカードをドローし、その後デッキからその枚数分除外する効果を持つ。

彼の目の前に真っ白なサイコロが現れ、ころころと転がっていく。

 

「出た目は4、よって俺は4枚ドローする」

 

「4枚も……!」

 

「そしてデッキから4枚、ゲームから除外する。

手札から【サイバー・ドラゴン・フィーア】を召喚」

 

「キュア!」

 

「【サイバー・ドラゴン・フィーア】はフィールドに存在する時、【サイバー・ドラゴン】として扱う。

さらに手札から速攻魔法【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動!」

 

【サイバー・ドラゴン】として扱われている【フィーア】の目の前に1枚の魔法カードが現れた。

そのカードはライフを代償に、手札・フィールド・墓地のモンスターで融合する効果を持つ。

 

「俺は場の【サイバー・ドラゴン】と墓地の【サイバー・ドラゴン・ネクステア】、【サイバー・ドラゴン・ヘルツ】で融合!

再び現れろ、【サイバー・エンド・ドラゴン】!!」

 

「キシャアアアアアア!!」

 

「【サイバー・エンド】ですって!?

【サイバー・エンド】は【サイバー・ドラゴン】しか融合素材に出来ない。

まさか、さっきの2枚も!」

 

「そうだ。

【ネクステア】と【ヘルツ】も墓地に存在する時【サイバー・ドラゴン】として扱う」

 

再び現れた攻撃力4000のモンスターをカミューラは見上げる。

今自分のライフは2200、攻撃力の低い【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を攻撃されてもライフは残る。

カイザーがこれ以上カードを発動しないことを願った。

 

「さらに装備魔法【エターナル・エヴォーリューション・バースト】を【サイバー・エンド】に装備」

 

「【エターナル・エヴォーリューション・バースト】?」

 

「このカードがある限り、俺のバトルフェイズ中、お前はカードの効果を発動することが出来ない」

 

「あら、さっきの【拮抗勝負】がよほど効いたのかしら」

 

カミューラの挑発的な言葉にカイザーは何も返さない。

だが、この状況で不利なのは誰がどう見てもカミューラである。

その自覚があるカイザーは表情を変えずにバトルフェイズに移行する。

 

「バトルだ。

【サイバー・エンド】、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に攻撃!」

 

【サイバー・エンド】は標的である【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】に向けて口を開き、3つの首から光線を放った。

3つの光線は1つになり、彼女を一瞬で塵に変えてしまった。

その攻撃はそのままカミューラに向かっていき、彼女はその衝撃で壁に叩き付けられる。

 

「っ、きゃああああ!!」

 

背中から伝わる衝撃に苦しそうに顔を歪ませ、カミューラのライフは200となる。

装備魔法【エターナル・エヴォーリューション・バースト】は墓地に【サイバー・ドラゴン】が存在する時、装備モンスターは続けて攻撃出来る。

だが今カイザーの墓地に【サイバー・ドラゴン】は存在しない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「ふふ、ふふふ」

 

「何?」

 

壁に叩き付けられたカミューラは衝撃で髪が乱れ、美しいドレスも一部が汚れている。

顔を俯かせていた彼女はクロノス教諭とのデュエルで浮かべた醜い笑みを見せた。

 

「可愛さ余って憎さ百倍だわ!

私のターン!

お・し・お・き」

 

「っ」

 

自分に突きつけられるモンスターの笑みにカイザーは思わず後退った。

 

「手札から魔法カード【幻魔の扉】、発動」

 

「【幻魔の扉】?」

 

カミューラの背後に風が巻き起こり、地面が裂けていく。

裂け目からこの世の物とは思えない声が聞こえてきた。

だがその声はカイザーの耳には届かず、その声をかき消すほどの轟音と共に石造りの扉が出現する。

悪魔を象った飾りがついている扉は禍々しいオーラを纏っており、【スターダスト】は目を鋭くさせて唸り始めた。

 

「グルルッ!!」

 

「あれは、闇のカードかっ!」

 

「え?」

 

「本当か、【星態龍】!?」

 

PDAで見守っていた聖星は【星態龍】の言葉に目を見開く。

十代と万丈目も彼らの会話は聞こえていたが、聞き慣れない単語に反応が遅れた。

顔が豹変したカミューラは変質した声でカードの効果を宣言する。

 

「【幻魔の扉】。

このカードはまず相手フィールドのカードを全て破壊することが出来る!」

 

地を這うような声で宣言すると、扉がゆっくりと開き、向こう側の光によって【サイバー・エンド】が破壊される。

あまりの眩しさにカイザーは思わず腕を上げ、光の先を見つめる。

 

「もっと良いことを教えて差し上げますわ。

このカードはデュエル中に使用したモンスターを条件なしに特殊召喚することが出来るの」

 

「なっ!?」

 

「そう。

【融合解除】したとはいえ、貴方が1度でも使用した【サイバー・エンド・ドラゴン】でもねぇ」

 

「バカな!

モンスターの全滅だけではなく、無条件の特殊召喚を行えるカードだと!?」

 

「もちろんその代償は高いわよ。

このカードの発動条件、それは私自身の魂!

私がデュエルに負ければ、私の魂は【幻魔】のもの!」

 

通常のカードにおいて強力なカードの発動に伴う代償はライフやモンスター等である。

しかしその代償が魂とは、流石闇のカードというべきだろう。

すると美しい顔に戻ったカミューラは悪戯を思いついた子供の笑みを浮かべる。

 

「なんだけどぉ、せっかくの闇のカードなんだから、もっと闇のデュエルらしく使わせて頂きますわ」

 

「闇のデュエルらしく?」

 

「ご覧なさい!」

 

カミューラの声と同時に彼女の頭上に複数の影が浮かび上がる。

力なく空中に浮かんでいる人達の姿に聖星は目を見開いた。

 

「夜行さん!?

それに、フランツさん、デプレさんにリッチーさん、皆まで!?」

 

そう、カミューラの頭上に浮かんでいるのは行方不明になっているIS2社の社員達である。

彼らは闇のデュエルに敗れたと考えられ、今ペガサスが依頼した探偵達が必死に探しているはずだ。

その彼らがここにいるということは、フランツ達とデュエルした闇のデュエリストはカミューラという事になる。

 

「せっかく集めた魂の1つを無駄にしちゃうけど、貴方が手に入るのなら安いわ」

 

「魂を無駄に?

どういうことだ、カミューラ」

 

「ふふっ。

彼らの中の誰かに私の身代わりを頼むだけよ」

 

「っ!!」

 

「そうね、彼にしましょう」

 

そうカミューラが呟くと、ペガサスミニオンの1人、夜行が【幻魔の扉】の前に運ばれる。

 

「彼の魂を生贄に【サイバー・エンド・ドラゴン】を特殊召喚!!」

 

夜行の体が半透明に薄れていき、肉体から引き離された魂が【幻魔の扉】の中に吸収されていった。

同時に光り輝く扉の奥からカイザーの【サイバー・エンド・ドラゴン】が現れる。

自分のエースが敵に回り、見下ろされている状況に彼は眉間に皺を寄せた。

どうすれば良いのか思考を再開させるとカミューラが笑った。

 

「この【サイバー・エンド・ドラゴン】を倒してご覧なさい。

蘇るために生贄に捧げられた彼の魂は二度とこの世界に戻れなくなる。

それでも良いのかしら?

ねぇ、世界を守る英雄さん」

 

その言葉にカイザーは思わず舌打ちをした。

 

「(俺の場に伏せられたカードは【ドレインシールド】。

このカードを発動すれば【サイバー・エンド】の攻撃を無効にし、【サイバー・エンド】の攻撃力分ライフを回復する。

だが、このターンを生きながらえ、次のターンに勝機を掴んだとして……)」

 

カイザーの勝利と同時に、このデュエルで名前も知らない彼が犠牲になる。

この戦いに身を投じる時に覚悟を決めたとしても、それはあくまで自分が犠牲になる場合。

勝利のために赤の他人を切り捨てられるほど冷酷な青年ではなく、仕方のない犠牲だと割り切れるほど大人ではない。

彼らのデュエルを見守っていた翔は叫んだ。

 

「何なんすかあれ!

あんなの、お兄さんが手出し出来るわけないよ!」

 

「くそっ、カミューラの奴、何で正々堂々とデュエルしないんだ!」

 

十代も今までに見たことがないような顔を浮かべ、怒りを露にしている。

彼も翔や隼人、取巻を人質にとられたが、あくまで十代を本気にさせるため。

同じ人質でも天と地ほどの差がある。

 

「……俺が」

 

「え?」

 

不意に聞こえた声に十代は隣にいる聖星を見る。

 

「俺がシンクロ召喚を……だから、全部……

……も……俺のせいで……」

 

「聖星……」

 

十代だけではなく、ここにいる鍵の所有者はIS2社の社員が行方不明の事を知っている。

カイザーを窮地に陥らせている間接的な原因が自分にあるのだ。

微かに聞こえてくる呟きに十代はさらに顔を険しくした。

カミューラを睨み付けているカイザーは静かに口を開く。

 

「聖星、十代、皆。

後は頼む」

 

PDAから聞こえてきたその言葉に翔達は目を見開いた。

 

「っ、ダメだ、お兄さん!!」

 

「行くわよ、カイザー亮」

 

カミューラからの言葉にカイザーは何も返さない。

彼は両手から力を抜き、真っ直ぐと彼女を凝視する。

 

「【サイバー・エンド・ドラゴン】でダイレクトタック!!」

 

カミューラからの宣言に対し、【サイバー・エンド・ドラゴン】の動きは鈍い。

ゆっくりと3つの首をカイザーに向け、音を立てながら口を開く。

口内に存在する砲口にエネルギーが集まり、七色の光が輝き始めた。

その光は勢いよく放たれ、カイザーに直撃した。

同時にライフが0へカウントされる。

 

「くっ……」

 

ライフが0になった途端、体から力が抜けていった。

カイザーは立つことが出来ずその場に膝を付き、その瞳から光が消える。

敗者の体から薄暗い光があふれ出し、その光はカミューラが持つ人形に吸い込まれた。

クロノス教諭の時と同じように人形はカイザーの姿に変わった。

するとPDAの画面にカミューラの顔が映る。

 

「っ、カミューラ!」

 

「鍵と人形は頂いたわ。

安心なさい。

私のコレクションの1つとして大事に扱ってあげるわ」

 

手に持っているのは人形に封印されてしまったカイザーの姿。

その人形を見せつけられると画面は砂嵐となり、何も映らなくなる。

 

「そんな……

お兄さん……」

 

PDA越しに兄の変わり果てた姿を見て、翔はその場に膝を付く。

涙を浮かべて悲しむ姿に聖星は思わず目をそらし、下唇を強く噛んだ。

隼人と明日香は翔と同じ目線まで屈んだが、上手く言葉が出てこない。

十代はショックを受けている2人を交互に見て思わず叫んでしまう。

 

「何だよ……

何なんだよ、これって!」

 

「兄貴?」

 

「デュエルって、楽しいはずのもんだろ!

なのに、何で翔が泣いて、聖星が苦しまなきゃいけないんだ!

カイザーやクロノス先生があんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」

 

デュエルとは皆を楽しませるためのツールであり、皆と繋がるために大切なゲームである。

どれ程すれ違おうが、デュエルで心と心をぶつけ、真意を知り、絆が生まれる。

そんなデュエルを十代は何度もしてきた。

だから、このように現実に納得できない。

 

「皆、次は俺が行く」

 

「聖星……」

 

「これは俺にも責任がある。

だから行かせてくれ」

 

重苦しいその言葉に皆は何も返せなかった。

 

END




前半の和やかな雰囲気と後半のシリアスさの温度差、どれくらいあるのか。
カミューラは目的のために魂を集めているので、カイザー以外の魂を持っていてもおかしくないと思いこういう展開にしました。
カイザー1人で挑みに行くと、人質要員があの場にいないので……

・カミューラの分身が瞬間異動で翔を浚う
・コウモリが保健室を襲撃して翔を浚う

この2パターンも考えましたが、今回の展開にすると行方不明になったIS2社の社員達の行方が分かり、聖星にプレッシャーを与える事も出来ます。
それで次は聖星とカミューラのデュエルですが、聖星が使うデッキはどうしようか考え中です。
素直にガチの【魔導書】デッキでいくか、社員達から情報が漏れているかもしれない【シンクロ】デッキでいくか。
または聖星本来のデッキを使うか。
1番楽なのは【魔導書】なんですけどね。

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