遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第二十六話 Darkness

 

十代を締め上げて闇のデュエルについて詳しく聞き出した聖星は安心した。

故意に危険な事に首を突っ込んだわけでもなく、本当に偶然巻き込まれたようだ。

しかし彼が呑気に「【墓守の長】からもらったんだぜ~」と割れたペンダントを見せてくれた時は一気に血の気が引いたものだ。

つい【星態龍】と【スターダスト】を見たが2体とも警戒している様子はなく、大丈夫だと信じた。

 

「ま、これで何とかなるだろう」

 

「あぁ、組み始めた時と比べたら上達したって」

 

「全戦全敗の俺に向かって言う台詞か?」

 

デッキをシャッフルしている十代と微笑みながらお茶を飲んでいる聖星に取巻は拳が震える。

背後にいる同室の翔と隼人は同情の眼差しを取巻に向けていた。

聖星に勝てた喜びの余り、そのハイテンションさで取巻にも勝負を挑んだ十代。

新しいカードをデッキに入れたのは取巻も同じなので快く受け入れたのだが……

 

「ありえないだろう!

ライフをあと200まで追い込んだのに【強欲な壺】、【天使の施し】、【ホープ・オブ・フィフス】!

【バブルマン】が墓地にいるから油断した!

さっきのデュエルだってライフを100にして場には【スカイスクレイパー】、手札には【融合】、【融合解除】の2枚のみ、【強欲な壺】、【天使の施し】、【天よりの宝札】、【ミラクル・フュージョン】は全部墓地、墓地のモンスターは2体だから【ホープ・オブ・フィフス】も来ないだろうと踏んだら【E‐エマージェンシーコール】!?

【エアーマン】からの【バブルマン】サーチ、はい【Zero】来た!

ふざけんな!」

 

「へへっ、最後にヒーローは勝つってな」

 

「俺はお前のヒーローがダークヒーローにしか見えない……

ヒーローって何だ」

 

机に突っ伏している取巻は恨めしそうに十代を睨み付ける。

すると誰かのPDAが鳴り、皆はその人物に目をやる。

持ち主である聖星はすぐにポケットから取り出し、皆に微笑む。

 

「悪い、ちょっと外す」

 

「誰からだ?」

 

「鮫島校長から。

何でも俺にお客さんだって」

 

すぐにメール画面を閉じた聖星はデッキを片づけ、荷物を取る。

一体彼に客とは誰だろう。

疑問に思った翔は十代達の顔を見る。

それに対し十代と取巻は何となくだが客が誰だか予想がついた。

しかしその客の目的は十代達の想像とは違うものだった。

 

**

 

「夜行さん達が、行方不明……?」

 

客として画面に映し出されたペガサスの言葉に聖星は目を見開いた。

 

「イエ~ス、他にもペガサスミニオンのデプレ、リッチー…

Mr.フランツを含むカードデザイナー達も行方が分からなくなっているのデ~ス」

 

ここ数日、インダストリアルイリュージョン社の関係者が続々と姿を消している。

1人くらいなら事故に巻き込まれたのだろうかと心配したが人数が増えるにつれペガサスや他の幹部、社員達もただ事ではないと気付いた。

すぐに調査に乗り出したが、調査員は誰一人として情報を掴む事が出来なかった。

 

「一体彼等の身に何があったのか、分かりまセ~ン。

バット、夜行が行方不明になった日、共に行動していた月行の言葉でついに事の真相が把握できたのデ~ス」

 

「本当ですか?」

 

社員が次々と行方不明になっているせいで険しい表情だったペガサス。

しかし聖星がそう言葉を発するとさらに眉間に皺が寄ってしまい、まとっている空気が重くなる。

その瞳には何かの迷いがある事を鮫島校長は気づいていたが聖星は気づかず、ただ彼の言葉を待った。

 

「社員達が見つけた時には夜行の姿はどこにもなく、意識がもうろうとしている月行が倒れていたのデ~ス。

月行は最後の力を振り絞り、彼らにこう言いました。

闇のデュエル、と」

 

「え?」

 

まさかの言葉に聖星は耳を疑った。

この場で話を聞いている鮫島校長もまさかの展開に微かに声を零した。

その声が聞こえなかった聖星は震える声で尋ねる。

 

「じゃあ、まさか月行さんは……」

 

「ユーの考えている通りデ~ス。

体に異常はありませんが意識が戻らず、今も病室で眠り続けていマ~ス」

 

間違いない、月行達は闇のデュエルで負けたのだ。

だが何故インダストリアルイリュージョン社の社員達が被害に遭わなければならない。

しかも1人だけではなく立て続けに襲われている。

聖星はその理由に心当たりがあり、ペガサスの瞳を真っ直ぐに見つめながら呟いた。

 

「まさか……

俺がシンクロ召喚を使ったから?」

 

「まだ断定はできまセ~ン。

バット、可能性としてはそれが1番高いようデ~ス」

 

「っ……」

 

ヨハンを救うためにタイタンとのデュエルで【閃珖竜スターダスト】を召喚し、タイタンは再び闇に飲み込まれた。

三幻魔復活を目論むセブンスターズが未知な召喚法、しかも闇をかき消す力を持っている存在を放っておくわけがない。

シンクロ召喚とは一体何なのか、彼らが詮索するのは当然の事。

事の内容に【スターダスト】と【星態龍】はすぐに現れ、聖星を見下ろす。

 

「聖星ボーイ、ユーが気に留める必要はありまセ~ン。

もしユーが【スターダスト】を召喚していなければアンデルセンボーイが敵になっていたかもしれないのデ~ス。

そうなってしまえばユー達は更なる苦戦を強いられてしまっていたはずデ~ス」

 

「はい、分かっています……」

 

だが責任を感じられずにはいられない。

あの時はヨハンを助ける事しか頭の中にはなく、シンクロ召喚をした事で誰かが被害に遭う等全く思い浮かばなかった。

冷静に考えれば分かる事だし、自分がタイタンの立場なら敵の情報を手に入れるために行動するだろう。

 

「セブンスターズは社員達からシンクロ召喚について聞き出し、詳しく知っている可能性がありマ~ス。

今後の戦いはとても厳しいものになるかもしれまセ~ン。

充分気を付けてくだサ~イ」

 

「はい」

 

「そしてシンクロ召喚についてですが……

ユーはこの戦いにおいて【スターダスト】だけを使うつもりなのか聞かせてくだサ~イ」

 

「本音を言うと……

歴史の改変について考えるとシンクロ召喚自体使いたくはありません。

しかし【スターダスト】は三幻魔の復活を阻止するためにここにいます」

 

それにもしかすると今後攻めてくるセブンスターズもヨハンの時のように人質を取るかもしれない。

その時対抗出来るのは肩に乗っている【スターダスト】だけ。

【星態龍】も高位の精霊だからある程度の防御は出来るそうだが【スターダスト】の方が力は強い。

 

「ですから相手の出方によっては【スターダスト】を召喚すると思います」

 

「出来る事なら【スターダスト】の出番がない事を祈りマ~ス。

しかし聖星ボーイ、事態が事態デ~ス。

シンクロ召喚の使用の制限解除を許可しマ~ス。

そしてシンクロ召喚がアカデミアの生徒の大半に知られてしまった時は~、ユーは我が社のテストプレイヤーだと公表しマ~ス。

よろしいですね?」

 

「いえ、それは止めてください。

俺が習った歴史では、シンクロ召喚のテストプレイヤーは俺ではありませんでした。

仮にテストプレイヤーと公表されてしまえば歴史が狂い、俺の未来が消滅するかもしれません」

 

「オ~、そうでした。

では、ユーは個人的にミーとフレンドで【スターダスト】はミーからのスペシャルプレゼントという事にしましょう。

少々無理はありますが、ユーが我が社の最重要機密に関わっているのは事実デ~ス」

 

「……それはそれで面倒事が増えそうな気がするんですけど」

 

十代と取巻はまだ良い。

だがあのペガサスと個人的にやり取り出来るとアカデミアの生徒に知られたら大騒ぎどころの話ではない。

そうなった時は十代と取巻もペガサス、そして遊戯と食事をした事がある事実をばらして同じ苦労を共にさせるか。

等と失礼な事を考えながら聖星は苦笑を浮かべた。

するとペガサスの表情が一変し、彼は黙りはじめる。

微かに誰かの話し声が聞こえ、恐らく部下が何か報告に来たのだろう。

 

「分かりました。

ソーリー、Mr. 鮫島、聖星ボーイ。

急遽用事が入ってしまいました」

 

本当に残念そうに肩を落とすペガサス。

それから別れの言葉を交わし、通信が切れた事を確認した聖星は鮫島校長と向き合う。

彼とも今後の事を話し、校長室から出た。

 

「それにしてもペガサスミリオン達が被害に遭ったか。

奴らは実力者を集め、セブンスターズに引き抜こうとしていた。

もしかするとデプレ達と闇のデュエルをする事もあり得るかもしれないな」

 

「グルルル……」

 

両肩から聞こえる【星態龍】と【スターダスト】の声。

彼の考えに聖星は小さく頷く事しかできなかった。

交流ある者が命懸けのデュエルをするなどやはり心が穏やかになれない。

聖星は周りに誰もいない事を確認し、自分の頬を思いっきり殴った。

 

「グルッ!?」

 

「聖星?」

 

かなり鈍い音が聞こえ【スターダスト】は慌てて聖星の前に回る。

痛む頬を堪えながら聖星はゆっくりと息を吐いた。

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、大丈夫。

少し考えすぎて、気合いを入れるために殴っただけだからさ」

 

「考えすぎ?

ペガサスも言っていただろう。

お前の責任ではないと」

 

「分かってるって」

 

にこっ、と先程自分の頬を殴った事がまるでなかったかのように微笑む聖星。

彼はそのまま背伸びをしてレッド寮に戻ろうとする。

 

「(【星態龍】の言う通りデプレさん達が敵になるかもしれない。

それにセブンスターズがタイタンのように手段を択ばないような連中だったら、アカデミアの生徒全員を人質にするような事だってあり得る。

向こう側から何か動かなければこっちは何もできない……

これじゃあ圧倒的に俺達が不利だ。

セブンスターズの本拠地が分かればこっちから乗り込むのに)」

 

セブンスターズは敵の情報を集める事が容易だ。

しかし聖星達アカデミア側は彼らの情報を集めたくてもそれが容易ではない。

争い事において手に入れている情報の差はかなりの戦力差になる。

これに関してはまたカイザー達と話し合わなければならないと考えをまとめた。

すると【スターダスト】の目つきが鋭くなり、勢いよく駆け出してしまった。

 

「え、【スターダスト】?」

 

「聖星、どうやらお前がいない間に向こう側が仕掛けてきたようだ」

 

「え?」

 

「十代達が危険だ」

 

「何で俺がいない時にっ……!!」

 

**

 

「我が名はダークネス、セブンスターズの1人。

遊城十代。

貴様が私の最初の相手だ」

 

「お、俺が!?」

 

じりじりと肌を焼く不快感。

十代はまだ良いが、隣に立っている明日香はスカートかつ袖がない制服のためかなり辛いはずだ。

足元に広がっている溶岩の泡が弾ける音とこの場の気温、そして圧し掛かってくる重圧に十代は自然と身構えてしまった。

聖星が帰ってくるのを待っていたら突然謎の光に包まれ、何故か部屋を訪れた明日香と一緒にこの火山の真上に飛ばされてしまった。

 

「何故かはわからんが、このペンダントの光に導かれた」

 

そう言ったダークネスは自分の首にぶら下がっている物に触れる。

それは十代が持っている闇のアイテムの片割れであった。

 

「だが欲しいのはその胸に揺れる七精門の鍵。

貴様からそのカギを奪って見せよう、闇のデュエルで」

 

「闇のデュエルだと!?」

 

「そう、闇のデュエルはすでに始まっている」

 

ふっ、と不敵な笑みを零す男を十代は睨み付ける。

するとこの場に自分達を呼ぶ声が響いた。

 

「兄貴~!」

 

「何!?」

 

自分と明日香がいる位置からかなり下の方から聞こえた弟分の声。

慌ててそこに目を向ければ青い結界に閉じ込められているルームメイトと友人の姿があった。

 

「翔、隼人!!」

 

「取巻君!!」

 

「光の壁に守られてはいるがあの檻は時間とともに消滅する」

 

つまりこう言葉を交わしている間にも時は進み、3人は危険に晒されているという事だ。

汚い手口に十代はダークネスを睨み付けて怒鳴る。

 

「ふざけるんじゃねぇ!!

あいつらはこの戦いには関係ない!!」

 

「生半可な事を言うなよ。

七精門の鍵を賭けたこの戦い、貴様には全能力を出し切ってもらう。

これはそのために用意した舞台だ。

さらに……」

 

ダークネスは懐から1枚のカードを取り出す。

文字は書かれてなく、絵柄は漆黒の闇のカードだ。

 

「貴様か私、どちらか負けた方がその魂をこのカードに封印される」

 

いや、魂ではない。

正真正銘命を懸けたデュエルだ。

そう締めくくった男に明日香は頭がついていかず、目の前の事を受け入れる事が難しかった。

 

「これが聖星の言っていた……

本当に現実なの?」

 

「まやかしかもしんねぇ。

だが俺はこんなデュエルを経験した事がある。

そして聖星は俺以上にな」

 

十代は取巻と共に【墓守の長】、【墓守の審神者】と命懸けのデュエルを行った。

あの時ダメージを受けるたびに味わった痛みは嫌でも体に染みついている。

 

「このデュエル、負けられない、絶対に!

勝負だ、ダークネス!」

 

「そうこなくてはな……」

 

「「デュエル!!」」

 

「十代……」

 

「私の先攻だ、ドロー。

私は手札から【仮面竜】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

デッキからカードを引いた十代はダークネスを守るように佇んでいる【仮面竜】を見る。

【仮面竜】は取巻のデッキにも入っており、戦闘で破壊される事でデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を特殊召喚する効果を持つ。

表示形式は指定されていないため、守備表示にモンスターを出す事も可能。

折角自分の場には高レベルモンスターが存在するのに、守備モンスターを連続で出されて戦闘ダメージを与える事が出来なかったなどよくある。

 

「(取巻はデッキから特殊召喚したドラゴンを次のターン、生贄召喚に使っている。

恐らくあいつも同じだろう。

なるべく場には残したくないが、今俺の手札に複数回攻撃できる手段はない。)

俺は【E・HEROワイルドマン】を攻撃表示で召喚!」

 

「はっ!」

 

「行け、【ワイルドマン】!

【仮面竜】に攻撃!」

 

十代の宣言に褐色の肌を持つ【ワイルドマン】は自慢の大剣を振りかざし、【仮面竜】を一刀両断してしまう。

【仮面竜】は悲鳴を上げながら砕け散ってしまうがダークネスは冷静だ。

 

「【仮面竜】の効果発動。

このカードが戦闘で破壊され、墓地に送られた時デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。

私が特殊召喚するのは【伝説の黒石】だ」

 

「な、なんだ?」

 

砕け散った欠片が一か所に集まり、そこには1つの赤黒く輝く石が現れた。

鈍い光は時々脈打つかのように輝き、この灼熱の地には似合う存在だ。

小さな石のはずなのに妙なプレッシャーを放ち、十代は無意識に汗をぬぐう。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

十代の場に1枚の伏せカードが現れ、彼のターンが終わった。

光の壁に守られている3人は十代からダークネスに視線を移す。

 

「取巻君、君ドラゴン族使いでしょ。

あのカードがどんなカードか知ってる?」

 

「いや、俺でも初めて見るカードだ。

それにしても守備力0……

あれは何かあるな」

 

「十代、きばれ」

 

「私のターンだ」

 

ダークネスの言葉とともに溶岩が弾け、1匹の竜のように立ち上る。

その光景に彼は更に笑みを深めていき、十代を見る。

 

「聞こえる、聞こえてくるぞ。

闇に身を潜め、獲物を狩るべく牙を研ぎ澄ます黒きドラゴン達の鼓動が!」

 

「黒きドラゴン?」

 

「【伝説の黒石】の効果発動!

場に存在するこのカードを生贄に捧げる事でデッキからレベル7以下の【レッドアイズ】を特殊召喚する!」

 

「【レッドアイズ】だと!?」

 

ダークネスが宣言した名前に十代達は目を見開く。

【レッドアイズ】は数十万円以上の価値を持つドラゴン族のカードで有名なのはバトルシティ4位の城之内が持つレアカードだ。

さらに武藤遊戯が海馬瀬人とのデュエルでも使用し、更に値が跳ね上がってしまったカードでもある。

そのおかげで【真紅眼の黒竜】自身だけでなく関連カードまでコレクターズアイテムの仲間入りをし、今では滅多な事では見ない。

 

「炎を纏いし漆黒の竜よ、渦巻く烈火を切り裂き、我が前に降臨せよ!

特殊召喚【真紅眼の黒竜】!!」

 

「ゴォオオオオ!!」

 

ダークネスが高く手を上げると十代達の足元で音を立てていた溶岩が一気に膨れ上がり、粘り気のある溶岩をまき散らしながら漆黒の竜が舞い降りる。

鋭い真紅の瞳に赤い光を反射して輝く黒い皮膚。

口元から覗く銀色の牙も赤色に染まっており、黒きドラゴンの姿をさらに威厳ある姿へと変えている。

目の前に現れた伝説のカードに十代は一気に鼓動が高鳴り自然と笑みを浮かべてしまった。

 

「手札から魔法カード【竜の霊廟】を発動。

デッキからドラゴン族モンスターを1体墓地に送る。

この時送ったモンスターが通常モンスターだった場合、私は更にドラゴン族を墓地に送る事が出来る」

 

「え、デッキからドラゴン族モンスターを?

何で、折角場に【真紅眼の黒竜】がいるんだよ」

 

「デッキ圧縮と墓地からの蘇生、または除外のコストと考えるのが妥当だな」

 

ダークネスが発動した魔法カードに翔は怪訝そうな表情を浮かべる。

彼が知っている限り墓地にドラゴン族を送る事に意味のある行動は【死者蘇生】と取巻が持っていた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】くらいだ。

それに対しドラゴン族使いの取巻は彼の目的が理解できる。

問題は彼がどんなカードを墓地に送るか。

それはオレンジ色の縁を持つモンスターカード。

 

「私は1枚目に【真紅眼の黒炎竜】を選択する」

 

「効果モンスターを選んだか」

 

「これで彼はもう1枚墓地にドラゴン族を送れない…」

 

彼の選択に十代と明日香は静かに呟く。

先程の説明でてっきり2枚送ると思っていたが、彼が選んだのは通常モンスターではなかった。

安堵感を漂わせる2人にダークネスは笑みを深める。

 

「残念だな遊城十代、その読みは外れだ」

 

「何!?」

 

「私は2枚目に【真紅眼の飛竜】を選択する」

 

「なっ、どういう事だよ!?」

 

「さっき貴方が選んだのは効果モンスター!

通常モンスターじゃないはずよ!」

 

男自ら1枚目は通常モンスターでなければならないと説明したのに、彼の行動はその言葉に反する事だ。

理解が追い付かない対戦者、そして観客達を嘲笑うように説明する。

 

「それが可能なのだよ。

デュアルモンスターである【真紅眼の黒炎竜】ならな!」

 

「デュアルモンスター?」

 

「そうか、その手があったか!」

 

「取巻君、デュアルモンスターって知ってるの?」

 

「あぁ。

まだあまり市場には出回っていないが最近出始めた新たな特性を持つモンスター達だ。

効果モンスターでありながらデュアルモンスターは墓地、フィールドに存在する時通常モンスターとして扱う」

 

「えぇ、何その特性!?」

 

成績優秀者に入る取巻は無論、最近のカードについても可能な限りチェックはしている。

ネットで新たな特性を持つモンスターが出た時は当然すぐに調べた。

だがデュアルモンスターは独特な特性を持ちながらも非常に面倒なものも持っている。

 

「デュアルモンスターは場に存在する時、再度召喚する事で通常モンスターから効果モンスターに変わるモンスター。

召喚したターンにはただの通常モンスターで、次の自分のターンで再度召喚すると効果を得る。

つまり真価を発揮するのに2ターンかかるのがデュアルモンスターの特徴でありデメリットだ。

面白い効果だと思うが、手間がかかるのが欠点だな。

だからあまり見向きもされていない。

……俺も正直、ドラゴン族のデュアルモンスターは持っているけどデッキへの投入は遠慮している」

 

「けど、ダークネスはその欠点を利点にしたんだな」

 

「あぁ。

通常モンスター扱いをこんな形で生かすなんて…

流石セブンスターズの1人って事か」

 

通常モンスターとして扱うなら通常モンスターを指定するカードに使えば良い。

実に単純な事だが、単純すぎて逆に気づかなかった。

冷や汗を流す取巻から翔と隼人は十代に視線を移す。

 

「バトルだ、行け【レッドアイズ】、【ワイルドマン】に攻撃!

黒炎弾!」

 

【レッドアイズ】は自身の長い首を大きく振りかざし、口元に炎の塊を生み出す。

炎は凄まじい勢いで【ワイルドマン】を包み込んでしまった。

体中を焼き尽くす熱に【ワイルドマン】は苦痛の表情を浮かべ、無念の声を上げて消えてしまう。

爆発と同時に十代のライフは4000から3100となるが、十代はすぐにカードを発動させた。

 

「罠発動、【ヒーローシグナル】!

デッキから【E・HEROフォレストマン】を特殊召喚するぜ!

来い、【フォレストマン】!!」

 

【ワイルドマン】と変わるように現れたのは植物のような体で出来ている男性ヒーロー。

彼は守備表示となりその場に膝をつく。

新たに表れたヒーローにダークネスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ならば私はこれでターンを終了する。

だがここで墓地に存在する【真紅眼の飛竜】の効果が発動。

通常召喚を行っていないターン、墓地のこのカードを除外する事で墓地の【真紅眼の黒炎竜】を特殊召喚する!

風に導かれし黒竜よ、翼に烈火を纏い、その翼で立ちはだかる者を薙ぎ払え!」

 

【レッドアイズ】の時のように溶岩が1匹のドラゴンへと姿を変えていく。

そのドラゴンの姿は【レッドアイズ】にとても似ており、ただ違うのはダークネスが言う通り烈火を纏っている事。

その攻撃力は【レッドアイズ】と同じ2400で4つの眼に見下ろされている十代は不敵な笑みを零した。

 

「攻撃力2400のモンスターが2体か……

しかも【レッドアイズ】だろ。

わくわくしてきたぜ」

 

「おい、遊城!

一応俺達の命がかかっているんだからな!

そこ、忘れるなよ!」

 

「わぁかってるって!

心配すんなよ」

 

「……はぁ、遊城の奴」

 

痛む頭を押さえながら取巻はため息をつき、【墓守】の一族達とのデュエルを思い出す。

あの時自分は仲間と自分の命を賭けられデュエルを楽しむ余裕が全くなかった。

しかし隣で一緒に戦っていた彼は何と余裕があったのだ。

命懸けのスリルを楽しむ等普通なら考えられないが、十代のデュエル馬鹿っぷりを考えると逆に納得してしまった。

 

「さぁて、どうやってその2体のドラゴンを倒そうか……

俺のターン、ドロー!」

 

先程受けたダメージのせいでドローした時体に鈍い痛みが走った。

それに気づきながらも十代はその痛みから目をそらし、ダークネスを見据える。

 

「俺は【フォレストマン】の効果でデッキから【融合】を手札に加える。

魔法カード、【融合】を発動!

手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合!

いでよ、マイフェイバリットカード【E・HEROフレイムウィングマン】!!」

 

「はぁ!」

 

「さらに魔法発動、【ミラクル・フュージョン】!

墓地の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合!

現れよ【Great TORNADO】!」

 

【フレイムウィングマン】と同じように風を司る英雄が姿を現す。

彼が登場すると同時にフィールドに突風が吹き荒れ、ダークネスのモンスター達の攻撃力は半減してしまう。

これで【レッドアイズ】達の攻撃力は1200.

【フレイムウィングマン】達の攻撃力を下回った。

 

「【フレイムウィングマン】、【真紅眼の黒炎竜】に攻撃!

フレイムシュート!!」

 

「させん!

罠発動、【攻撃の無力化】!

バトルフェイズは終了させてもらうぞ!」

 

勢いよく飛び上がった【フレイムウィングマン】は自慢の脚力で【レッドアイズ】を攻撃しようとする。

しかしカウンター罠の効果で彼の目の前に奇妙な穴が生まれ、いつの間にか【フレイムウィングマン】は十代の場に戻された。

 

「ちぇ、だったら俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「私のターンだ。

ドロー」

 

自分の場には攻撃力が半減しているモンスター。

【真紅眼の黒炎竜】はまだ再度召喚扱いではなく、効果を使えない。

それに対し十代の場には攻撃力2000以上のモンスター。

どうしようか、と考えていると引いたカードの名に口角が上がった。

 

「遊城十代。

貴様は2体の【レッドアイズ】をどう倒そうか思案していたな。

確かに2体ならば方法はあっただろう。

だが【レッドアイズ】が3体立ちはだかった場合、貴様はどうあがく?」

 

「3体……!?」

 

「まだ【レッドアイズ】を持ってるっていうの!?」

 

ダークネスの言葉に十代と明日香は目を見開く。

結界に囚われている3人も彼の言葉に何て言えば良いのか分からない。

驚きのあまり固まっている観客達に気を良くしたのかダークネスが纏っている闇がさらに強くなっていく。

その彼の手に握られているカードへと集まり、ダークネスは高らかに叫んだ。

 

「私は【真紅眼の黒炎竜】を除外し、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を特殊召喚する!!」

 

「……え?」

 

ダークネスの言葉に呼応するかのように【真紅眼の黒炎竜】の翼の炎が激しく燃え上がる。

その炎はその体を包み込み、漆黒のドラゴンを隠した。

炎の下に隠れた黒い皮膚はゆっくりと硬化し、漆黒とは違う輝きを手に入れる。

 

「黒き鎧を纏いし烈火の竜よ、その炎を取り込み、黒き鎧を鋼の鎧へと変えよ!」

 

銀色の輝きを手に入れたドラゴンは自分が纏っていた炎を振り払い、赤い眼と自信に刻まれている赤いラインを光らせる。

溶岩の光により照らされるこの場所でその赤は更にドラゴンの美しさを際立たせている。

 

「グォオオオオオ!!!」

 

閉ざされた空間で反響するドラゴンの咆哮は十代達の体を震え上がらせた。

しかしそれは恐怖からではない。

何故だ。

何故目の前にこのドラゴンがいる。

その思いが頭の中を占め、誰もが【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】と取巻を見た。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】……?

何で……

こいつがここに?」

 

そう呟いたのは十代だったのか取巻だったのか、はたまた両方だったのか。

誰の声なのか正確には分からない。

それだけ目の前のドラゴンの登場に衝撃を受けたのだ。

 

「え、え、え、あれって取巻君が持っていたのと同じ!?」

 

誰よりもいち早く正気に戻ったのは翔で、翔は取巻を揺さぶる。

体に受けた衝撃で彼もハッとし、ダークネスを睨み付けた。

 

「おい、貴様!

貴様だったのか、俺の部屋に侵入して【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を奪ったのは!!」

 

「ほう、このカードは元々貴様のものだったのか。

何処から入手したのかは不明だったがこれは私のデッキを更なる高みへと導いてくれた。

我が黒き竜達を総べる【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】……

礼を言わなければな」

 

ダークネスの言葉に取巻は言葉を失う。

直接盗んだのは彼ではない。

しかし彼の為に盗まれた。

否定されればまだ別のカードだと心を落ち着かせることは出来たが、肯定され、更に返す気はないと取れる発言に頭に血が上る。

顔を真っ赤にした取巻は立ち上がりさらに怒鳴り散らす。

 

「ふざけるな!

それは俺のデッキの要なんだぞ!

礼を言うくらいなら返せ!!」

 

「返す?

貴様は鍵の所有者に選ばれなかった。

という事はこのドラゴンを操るのに値しないデュエリストだ。

何故そのお前に返さねばならない?」

 

「ふざけやがって……!!」

 

「取巻君、駄目だよっ!!」

 

「光の壁が薄くなってる!

今出たらまずいんだな!」

 

確かに世界の命運を賭けたこのデュエルに【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は相応しいだろう。

だからといって自分のカードを奪って良い理由にはならない。

結界の外に出そうになる取巻を翔達が抑える。

騒ぐ取巻に興味をなくしたのかダークネスは十代に向き直った。

 

「無駄な時間を消費したな」

 

「おい、ダークネス!

この勝負、俺が勝ったら【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を返せ!」

 

「ほう?

良いだろう、敗者にこのカードは相応しくない。

だが貴様はこの私に何を賭ける?」

 

「俺はこのペンダントの片割れを賭けるぜ!」

 

「……良いだろう」

 

十代の胸に揺れるもう1つのペンダント。

それはダークネスの胸にも揺れている。

共鳴し合っているそのペンダントを1つにする事で何が起こるのか。

それは十代にそれを授けた【墓守の長】以外誰にも分らない。

 

「私は【真紅眼の黒竜】を生贄に【真紅眼の闇竜】を特殊召喚する!」

 

「っ、4体目の【レッドアイズ】……!」

 

しかも【レダメ】同様【ダークネス】の名を持つドラゴンだ。

ダークネスの場にいた【真紅眼の黒竜】は炎の中に消え、代わりに赤い宝玉が埋め込まれ、6つの羽を持つドラゴンが現れる。

纏う闇は【レダメ】以上に禍々しく明日香は背中に氷塊が走った気がした。

 

「このモンスターは【真紅眼の黒竜】を生贄にした場合のみ特殊召喚出来るモンスター。墓地に葬られたドラゴンの無念を晴らすため、自身の攻撃力を上げる効果を持つ。

今私の墓地にドラゴン族は3体。

よって攻撃力は3300だ」

 

「十代の【Great TORNADO】を超えた……」

 

「さらに私は【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果により、墓地から【真紅眼の黒竜】を特殊召喚する」

 

「グォオオオ!」

 

並んだ3体の【レッドアイズ】。

攻撃力はそれぞれ2400,2800,3000となっている。

十代はゆっくりと息を吐き、自分達を見下ろす3体のドラゴンを見上げた。

 

「【真紅眼の闇竜】で【Great TORNADO】を攻撃!!

ダークネス・ギガ・フレイム!」

 

「罠発動、【ヒーロー・バリア】!」

 

口から放たれた炎はまっすぐと【Great TORNADO】に向かっていく。

食らったらひとたまりもないと分かる攻撃に【Great TORNADO】は構えた。

同時に十代は罠カードを発動させる。

 

「これで【TORNADO】にその攻撃は届かないぜ!」

 

「ふっ。

ならば【レッドアイズ・ダークネスドラゴン】で【フレイムウィングマン】に攻撃!」

 

「くっ……

【フレイムウィングマン】!」

 

向かってきた攻撃を受けた【フレイムウィングマン】は一瞬で破壊された。

爆風はそのまま十代を襲い、彼の体は炎に包まれた。

 

「うわぁああああ!!!」

 

「十代!!」

 

体を焼き尽くすような熱に十代は悲鳴を上げ、明日香は近づこうとするがそれが出来ない。

炎はすぐに消えたが彼の体には酷いダメージを残してしまった。

十代の息は荒く、彼はその場に膝をつく。

しかしそれも一瞬で十代はすぐに立ち上がった。

これで十代のライフは2400となった。

 

「【真紅眼の黒竜】、【フォレストマン】を攻撃!」

 

十代を心配そうに見ていた【フォレストマン】は一瞬だけ反応が遅れ、そのまま炎に燃やされてしまう。

意識が飛んでしまいそうな十代は気を取り直すかのように頬を叩く。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

痛む体を必死に黙らせ、十代はドローする。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動する。

デッキから3枚ドローし、2枚捨てる。

俺は【スパークマン】と【クレイマン】を墓地に捨てるぜ」

 

墓地に送られたのは【サンダージャイアント】の融合素材になるカード達。

十代の手札に【融合】がないのだろうか。

いや、仮にあったとしても3体も並んでいる【レッドアイズ】をどうにか出来るとは思えない。

傷だらけの十代を取巻達はただ見守ることしかできない。

 

「さらに【ホープ・オブ・フィフス】を発動!

墓地の【ワイルドマン】、【フレイムウィングマン】、【スパークマン】、【クレイマン】、【フォレストマン】をデッキに戻し、2枚ドローする」

 

デッキに指を置いた十代はゆっくりと目を瞑る。

神経を集中させているという事は、彼はこのドローに逆転の一手を賭けているという事になる。

つまり今の手札に逆転のカードがない。

勢いよくドローした十代は強く瞑っている目をゆっくりと開けた。

 

「(よし!)」

 

自分の手札に来たカードに十代は口角を上げた。

 

「手札からフィールド魔法、【摩天楼‐スカイスクレイパー】を発動!」

 

フィールド魔法ゾーンにカードがセットされるとデュエルディスクが光り、十代の周りに華やかに輝く高層ビルが現れる。

地面を揺らしながら現れたビルに【Great TORNADO】は飛び乗り、マントを靡かせながら【レッドアイズ】達を見下ろした。

 

「バトルだ!

【TORNADO】で【真紅眼の闇竜】を攻撃!」

 

十代が選んだのは攻撃力が最も高い【真紅眼の闇竜】。

彼の選択に翔は叫んだ。

 

「な、なんで!?

次のターンまた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果で復活しちゃうんだよ!」

 

「いや、それは大丈夫だ。

【真紅眼の闇竜】の特殊召喚条件を聞いてみると、あのモンスターは特殊召喚モンスター。

例え1度召喚されたとしても墓地からの蘇生はないだろう」

 

「【Great TORNADO】の攻撃力は2800.

【真紅眼の闇竜】は自身の効果で3000.

【スカイスクレイパー】の効果が適応するんだな!」

 

【Great TORNADO】が手を高く上げると【レッドアイズ】達の周りに強風が吹き荒れる。

その風は【真紅眼の闇竜】の肉体を切り刻んでいった。

風の鋭利な攻撃に【真紅眼の闇竜】は悲鳴を上げ破壊されてしまう。

場に吹き荒れている風はそのままダークネスを襲い、彼のライフを800ポイント奪った。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「私のターンだ。

手札から【紅玉の宝札】を発動する」

 

「【紅玉の宝札】?」

 

「このカードは私の手札に存在するレベル7の【レッドアイズ】を墓地に送る事でデッキからカードをドローする効果を持つ。

そしてデッキにレベル7の【レッドアイズ】が存在する時墓地に送る事が出来る」

 

「デッキ圧縮カードか……」

 

「手札の【真紅眼の黒炎竜】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドロー。

さらにデッキから【真紅眼の黒竜】を墓地に送る」

 

「お前のデッキ、一体どうなってるんだよ……!」

 

【レッドアイズ】は価値が高く、なかなか出回らないカード。

それなのにここまで揃っているのは【レダメ】同様誰かから盗んだのだろうか。

墓地に【レッドアイズ】が集まっていく様子に十代は笑みを浮かべてしまった。

 

「そしてリバースカード、オープン。

【真紅眼の鎧旋】。

私の場に【レッドアイズ】が存在する時墓地に眠る通常モンスターを特殊召喚する」

 

「まっ、まさか……」

 

先程送られた【レッドアイズ】達。

片方は正真正銘の通常モンスター。

そしてもう片方は墓地で通常モンスター扱いのデュアルモンスター。

 

「私は【真紅眼の黒炎竜】を特殊召喚する!

さらに【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の効果により墓地より【真紅眼の黒竜】を特殊召喚だ!」

 

【真紅眼の鎧旋】に描かれているのと同じモンスターが現れ、その隣に【真紅眼の黒竜】が並んだ。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】に2体の【真紅眼の黒竜】、そして【真紅眼の黒炎竜】……

 

「れ、【レッドアイズ】が4体……!?」

 

「さらに【真紅眼の黒炎竜】を再度召喚する」

 

再度召喚された【真紅眼の黒炎竜】は炎の勢いが増し、力が漲るのか体を震わせながら咆哮を上げる。

響き渡るドラゴンの咆哮に取巻達は険しい表情を浮かべた。

十代の場には【Great TORNADO】と【スカイスクレイパー】に伏せカードが2枚のみ。

 

「【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】と【Great TORNADO】の攻撃力は互角……」

 

「もし【Great TORNADO】が破壊されちゃったら兄貴を守るモンスターは存在しないっす!」

 

「行け【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】!」

 

大きく口を開けた【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は口に自分のエネルギーを集め始める。

集まっていく高エネルギーはビルの屋上に佇んでいる風の英雄。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は大きく翼を広げて飛び立ち、【Great TORNADO】に向かっていく。

【Great TORNADO】はすぐにビルからビルへと飛び移り、夜の街を走る。

 

「罠発動、【無敵の英雄‐インビンシブル・ヒーロー】!」

 

「【インビンシブル・ヒーロー】?」

 

発動されたのは1人のアメリカンヒーローを数多の悪役が取り囲んでいるカード。

彼の足元には彼が倒したであろう悪役が目を回している。

ヒーローの名を持つカードなので【E・HERO】関連カードなのはすぐに分かった。

 

「このカードは俺の場に存在する攻撃表示の【HERO】を破壊から守る効果を持つ。

これでこのターン、【Great TORNADO】は破壊されないぜ!

そして速攻魔法【非常食】!

【インビンシブル・ヒーロー】を墓地に送り、俺のライフを1000ポイント回復させる」

 

罠カードの力を得て破壊される心配はなくなった【Great TORNADO】は一気に振り返り、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】をまっすぐに見る。

視線が交わった瞬間【レダメ】はエネルギーを放ち、【Great TORNADO】は拳に風の力を集める。

闇を纏う炎と風の力は街の中央でぶつかり合い、激しい爆発が起こる。

その煙の中に立っていたのは【Great TORNADO】で【レダメ】はバラバラに砕け散った。

 

「チッ、命拾いしたな」

 

戦闘破壊が出来なくなった攻撃力2800の【Great TORNADO】。

そして3400まで回復してしまった十代のライフ。

ダークネスの計算ならこのターンで彼のライフを0にする事が出来た。

忌々しそうに十代を睨み付けながら笑みを浮かべる。

 

「まぁ良い。

私はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札から魔法カード、【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドローする!」

 

場に現れた緑色の壺。

それはすぐに粉々に砕け散り、十代に新たな可能性を与えた。

自分の手元に来たチャンスに彼は笑みを浮かべた。

 

「俺は手札から魔法カード【天よりの宝札】を発動!

互いに手札が6枚になるようデッキからカードをドローする!」

 

「何、ここでだと!?」

 

「俺は【融合】を発動!

手札の【エッジマン】と【ワイルドマン】を融合し、【E・HEROワイルドジャギーマン】を特殊召喚する!」

 

黄金のボディを持つ英雄は野性的な男性と混ざり合い、黄金の鎧を身にまとう英雄へと生まれ変わる。

褐色の筋肉を晒している彼はこの街には合わない風貌でありながらも堂々と【レッドアイズ】達を見上げている。

しかし攻撃力は【エッジマン】と同じ2600で何の変化もないように見える。

 

「行くぜ!

【ワイルドジャギーマン】で【真紅眼の黒竜】を攻撃!」

 

自分の持っている剣を大きく振り上げる【ワイルドジャギーマン】は攻撃対象とした【真紅眼の黒竜】を一刀両断した。

切り裂かれたドラゴンは苦しそうな声を上げて爆発する。

自分に向かってくる爆風にダークネスのライフは3200から3000になる。

 

「くっ……!!」

 

十代を下回るライフに攻撃力でも劣るドラゴン達。

しかしあと攻撃出来るのは【Great TORNADO】のみ。

仮に【融合解除】等のモンスターを特殊召喚するカードが来ても負けはしない。

十代が発動した【天よりの宝札】で手札に来たカードを見下ろしながら十代のターンが終わるのを待つ。

彼の考えが分かったのか十代は不敵に笑った。

 

「残念だったな。

【ワイルドジャギーマン】は相手モンスター全てに攻撃する事が出来るんだぜ!」

 

「なっ!?」

 

気が付けば【ワイルドジャギーマン】がまた剣を構えていた。

低く屈み、飛び上がる準備をしているモンスターにダークネスは一歩下がる。

 

「インフィニティ・エッジ・スライサー!!」

 

十代の声と同時に【ワイルドジャギーマン】は走り出す。

彼は目にも止まらぬ速さで次々の【レッドアイズ】達を切り裂いていく。

ダークネスの場に残っていた2体の【レッドアイズ】達は成す術もなく破壊されていった。

これで彼のライフは2600.

 

「【Great TORNADO】、ダイレクトアタック!!」

 

「ぐぅぁあああああ!!!!」

 

ダークネスの前に立った【Great TORNADO】両腕を高く上げ、竜巻を引き起こす。

目の前で起こった竜巻にダークネスは勢いよく吹き飛ばされた。

同時に彼のデッキからカードが散らばってしまう。

叩きつけられた彼はそのまま動かなくなり、ライフポイントが0になる。

デュエルの終了を意味するブザーが鳴った。

 

「十代が、勝った……」

 

響き渡る音に明日香は零す。

彼女は緊迫するデュエルが終わった事に安堵し、十代の元に駆け寄ろうとした。

その前に十代が膝を着いてしまう。

 

「十代!」

 

デュエルの最中、本当に苦しそうにしていた彼が倒れた事で明日香は血の気が引く感覚を覚えた。

慌てて手を伸ばしたがその前に視界が光で包まれる。

 

「っ!」

 

反射的に目を閉じた明日香は周りの涼しさに違和感を覚え、ゆっくりと目を開けた。

そして自分達がいる場所に目を見開く。

 

「え?」

 

先程まで自分達は火山の中にいた。

肌が焼けるような空間は赤い光で満たされていたのに、今目の前に広がっている光景は寒気を覚える夜の山。

火山の山頂付近なのか木々はなく、山肌が剥き出しである。

 

「……一体、どういう事?」

 

十代の寮に入ったと思えば火山に移動し、そして次は山頂付近に移動している。

闇のデュエルに瞬間的な移動。

明日香は痛む頭を抑えながら周りを見渡し十代の姿を見つける。

傍に駆け寄り、膝を折れば後ろから声が聞こえてきた。

 

「遊城!」

 

「兄貴!」

 

「十代!」

 

「取巻君、翔君、隼人君。

皆無事だったのね」

 

「天上院さんも無事でなによりです。

それで遊城は?」

 

「十代も無事よ」

 

結界に閉じ込められていた3人の無事な姿に明日香はやっと力を抜いた。

しかし取巻は相変わらず険しい表情で十代を見下ろしている。

翔と隼人はすぐに十代の傍に寄り、必死に声をかけた。

だが闇のデュエルのダメージが原因なのか目が覚める気配がない。

 

「取巻、十代、皆!」

 

「聖星……」

 

新たに加わった友人の声。

顔を上げた明日香達は下からやってきた聖星とカイザーの姿を捉えると手を振った。

後は聖星達に任せて大丈夫だと思った明日香は未だに倒れているダークネスへと足を向ける。

 

「不動、遊城が!!」

 

何度声をかけても反応を返さない友人に取巻は焦った声で叫ぶ。

多くは語らなくとも十代の傷を見て聖星は強張った表情を浮かべた。

 

「闇のデュエル、したんだな……」

 

「あぁ。

それだけじゃない。

遊城の対戦相手が俺の【レダメ】を持っていたんだ!」

 

「何だって?」

 

取巻の言葉に聖星は耳を疑った。

この時代に存在する【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】は聖星が【星態龍】に出してもらったもの1枚のみ。

それを持っているという事はダークネスが盗んだという事。

 

「分からないの?

吹雪兄さんよ!!」

 

「え?」

 

背後から聞こえた明日香の声。

一体何だと思うと彼女が涙を流し、対戦相手だったダークネスを抱きしめていた。

ダークネスの仮面は地面に転がり、その素顔にカイザー、そして取巻は目を見開く。

 

「吹雪先輩……!?」

 

「吹雪?」

 

彼の口から零れた名前を聖星は繰り返す。

その名は以前、十代の話題に出てきたことがある。

廃寮に入った時、十代は行方不明になっている明日香の兄の写真を見つけた。

その写真には洒落た書き方で天上院吹雪と名前が書いてあったそうだ。

 

「明日香のお兄さんがセブンスターズ?」

 

動揺を隠しきれない取巻の顔を見ながら呟くと彼に頷かれる。

十代の周りにいる皆は信じられないという表情をし、声を殺しながら泣く明日香と意識のない吹雪を見つめた。

 

END




お久しぶりです
一体何か月ぶりの更新なんでしょうね……
【レッドアイズ】の新規が出ると知り、裁定が出てからの執筆
長かった(ゲンドウポーズ)

今回はダークネスvs十代のデュエルです
折角新規カードが出たのですから【真紅眼融合】とか出したかったのですが無理でした
【真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン】はダークネスのコンセプトに合わないと思ったので最初から登場させるつもりはありませんでした
私としては【メテオ・ブラック・ドラゴン】を出したかったのにorz

そして行方不明になったインダストリアルイリュージョン社の社員達
普通敵側が正体不明のシステムを使用したカードを使って来たら調べますよね
なのでこのような形になりました
さて闇のデュエルで敗れた人達は!?
夜行は、月行はフランツ達はどうなる?

次回はカミューラの話にしたいと思っています

では失礼いたしました

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