遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第二十三話 襲撃、闇のデュエリスト★

デュエルアカデミア・アークティック校に留学してから1週間がたった。

授業の後にまた別の生徒とデュエルをした聖星は【墓守魔導】を使用し、ヨハンや他の生徒を驚かせた。

まさか複数のデッキを持っているとは思わなかったのだろう。

今日も授業が終わり、自室に戻った聖星は時刻を見てPCを立ち上げた。

そしてインダストリアルイリュージョン社へ通信を始める。

 

「これが今回の報告だ。

夜行と月行、他のペガサス・ミニオン達が行ったテストデュエルの結果が以下の通りとなっている」

 

「ありがとうございます、フランツさん」

 

画面に映っている人から受け取ったデータを開く聖星。

早速目を通すが、その内容に顔が曇る。

シンクロ召喚を使うデュエリストと使わないデュエリストの結果だが、まだ使わない方の勝率が良い。

 

「やっぱりチューナーとシンクロモンスターの種類が少ないからあまり良い結果ではありませんね」

 

「慣れというのもある。

月行は【武装転生】等で墓地の活用には慣れているし、トークンはシンクロ素材にも出来るからそれほど苦ではないのだろう」

 

確かにペガサス・ミニオン達の中では月行の勝率が1番良い結果となっている。

やはり高レベルモンスターを生贄召喚または融合召喚する事に慣れている彼らに、いきなりシンクロ召喚は無理なのだろう。

しかも場にチューナーモンスターを出したとしても非チューナーモンスターがいない状況にもなりやすいようだ。

デュエルの内容も細かく記述しているデータを閉じ、フランツに目をやる。

 

「それにしても珍しいですね、貴方から俺に報告があるなんて……」

 

「ペガサス様やミニオン達は今度インダストリアルイリュージョン社主催のデュエル大会の準備で忙しい。

他にもカードに埋め込む石板、財宝、遺跡等の発掘もあるからな」

 

「あぁ、そんな話がありましたね。

確かエド・フェニックスやドクターコレクター、エックスが参加するようですね」

 

「あぁ」

 

最年少プロデュエリストや獄中でカード犯罪に協力するデュエリスト。

プロデュエリスト界でも異質なデッキを扱うデュエリスト。

当然その中には歴史に名を残す者も存在する。

是非現役の彼らと会い、欲を言えばデュエルをしたいものだ。

 

「サインも欲しいけどやっぱりデュエルだな…………

今はどこの遺跡を発掘しているんですか?」

 

「南米アンデス山脈だ。

そこで発掘された石板を見た事はあるだろう」

 

「あぁ、あれですか……」

 

聖星が星竜王から【スターダスト】を与えられ、さらには三幻魔復活のお告げを受けた。

きっとあの場所にはもっと詳しい手掛かりがあるかもしれない。

だからペガサスは更にあの場所の発掘に取り掛かっているそうだ。

 

「ところで、今そちらでは何やら不可解な事件が起こっているという情報が入っているが?」

 

「あ、はい。

謎のデュエリストによる無差別事件ですね」

 

ここ最近、意識不明のデュエリストが病院に搬送されるという事件が相次いで起こっている。

狙われたのはプロデュエリストやある程度名前が通っているデュエリスト。

彼らの共通点は未だわからず、警察や世間は無差別の犯行だと認識している。

 

「気を付けたほうが良い。

貴方は仮にもシンクロ召喚プロジェクトのアドバイザー。

貴方に何かがあれば我が社への損害は計り知れないからな」

 

「はい。

暗くなってからは外出を控えています。

無差別事件は人通りのない路地裏等で起こっているので外出しなければ安心ですよ」

 

安心させるように微笑む聖星だが、暗い中1人でスーパーに向かっている彼と遭遇した事があるフランツはため息をついた。

流石に聖星も馬鹿ではないと信じる事にし、別の話題に移す。

そんな聖星達を見守っている【星態龍】と【スターダスト】は窓の外を見た。

 

**

 

「聖星。

最近意識不明のデュエリストが続出している事に関してどう思う?」

 

「どう思うって……

いい感じはしないな」

 

デッキをシャッフルしている聖星はヨハンの問いかけに答える。

ヨハンはいつもより険しい表情でテレビを凝視している。

映っているニュースキャスターは昨晩、また無差別事件が発生したと報道しており内容を淡々と話している。

 

「搬送されたデュエリストは意識を失う直前、何者かとデュエルしていたらしい。

恐らくデュエルをした直後に何かをされ意識を失ったんだろう」

 

「普通のデュエルで人が気絶するような事は絶対に起こらないし、そう考えるのが普通だな」

 

普通のデュエル。

しかしそのデュエルが普通でなければどうだろう。

デッキをケースにしまった聖星はここ最近の2体を思い出す。

2体はとある一瞬だけ目が鋭くなり、そのまま外を睨み付ける。

だが本当に一瞬だけでまばたきをするといつも通りに振舞っているのだ。

 

「(【スターダスト】も【星態龍】も何でもないって言い張っているけど、絶対に何かあるよな)」

 

十代が闇のゲームをした時だって【星態龍】は気配を感じておきながら何でもないと聖星に言った。

あの時の雰囲気と最近の【星態龍】は全く同じである。

つまり被害者達は闇のデュエルをして敗北したと考えるべきだろう。

 

「犠牲者が出るのは夜中の0時以降。

それで聖星。

無理を承知で頼みたい事がある」

 

「頼み?

今の会話の流れを考えると真実を突き止めたいから付き合ってほしい、であってる?」

 

「あぁ。

流石聖星!

話が早くて助かるぜ。

で、どうする?」

 

「もちろん協力するさ。

でもさ、どうやって見つけるつもりだ?

被害者がデュエルをした場所に共通点はない。

闇雲に探しても見つからないかもしれないぜ」

 

「何言ってるんだ聖星。

俺とお前の2人だったら確かに無謀だけど、俺達には心強い味方がいるだろう?」

 

「味方?」

 

女の子が見たら黄色い声を上げそうな笑みを浮かべるヨハン。

そんな彼の周りにいる【宝玉獣】達は皆一斉に頷いた。

成程、それなら2人からいっきに11人になるわけだ。

納得している聖星は自分の胸ポケットにしまっている【星態龍】と【スターダスト】に目をやった。

 

「私は反対だ」

 

「【星態龍】?」

 

突然現れた【星態龍】はヨハンに向かってそう言う。

彼の言葉にヨハンは怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「ヨハン。

私と【スターダスト】は【宝玉獣】より高位の精霊。

そいつらが感知できないような事でも感知できる」

 

いつもより険しい表情を浮かべながら話し始める【星態龍】の言葉にヨハンは口を閉ざす。

しかし緑色の目はまっすぐ彼に向かっており、表情は真剣そのものだ。

 

「無論、無差別デュエリスト襲撃事件で何が起こっているのかも私達は感じていた」

 

「なっ!?

……感じ入るのなら、どうして助けに行こうと思わなかった?

もし助けに行けば犠牲者を助ける事が出来たかもしれない」

 

「そのデュエルは闇のゲームだ」

 

「闇のゲームだと……?」

 

「あぁ。

それは普通のデュエルとは異なる。

デュエルのダメージが現実のものとなり、敗者は闇に飲み込まれる禁断のゲームだ。

時には周囲にも影響が出る。

恐らく闇のデュエリストが犠牲者にデュエルを挑んでいるのだろう。

それを助けに行ってみろ。

聖星の身に何かあったらどうする?」

 

聖星はただでさえ自分の都合で振り回し、さらには三幻魔復活を阻止する使命を背負っている。

あの世界でも充分に傷ついたのに、これからも傷つくかもしれない。

しかも闇のデュエルとなれば直接闘うのはデュエリストの聖星だ。

もうこれ以上危険な事には首を突っ込まず、平穏に暮らしてもらいたい。

そう願っている【星態龍】にヨハンは返す。

 

「俺だってデュエリストだ。

闇のデュエルがどんなものかは聞いた事がある。

だからといってこれ以上犠牲者が出るのを黙ってみていろっていうのか?

そんな事出来るわけがないだろう」

 

「…………ならばお前達8人で探せばいい。

聖星に危険な真似はさせない」

 

「いや、俺も探すよ」

 

「聖星!?」

 

ヨハンが勝手に首を突っ込み、勝手に怪我をするのなら自己責任だ。

だからヨハンが行くという事に【星態龍】は強く反対しない。

だが聖星の言葉に彼は目を見開いた。

何故?と問う視線には応えず聖星はそのまま微笑む。

 

「ただしヨハン。

探すとしても俺と一緒に行動する事。

もし何かあった時1人じゃ不便だしな」

 

「あぁ。

そのつもりだ」

 

**

 

それから時間は過ぎ、ヨハンと聖星は見回りの警官に見つからないよう周りに気を配る。

闇のデュエリストを探しているのに職質され補導されるなどたまったものではない。

出現する時刻は0時以降と決まっているため、聖星は眠気覚ましとなるガムを噛む。

 

「お前なぁ、なんでコーヒーにしなかったんだ?」

 

「ガムの方が持ち運ぶのに便利だろう」

 

「そりゃあそうだけど」

 

ガムを噛む聖星に対しヨハンはホットコーヒーを飲む。

缶から出てくる湯気を見ながらヨハンは空を見上げる。

空には【宝玉獣】達が飛び交っており【スターダスト】も少しだけ遠い方角を調べている。

 

「けど流石ヨーロッパ……

やっぱり冬だと寒いな」

 

「日本でも冬だと寒いだろう」

 

「日本はそうだけど……

俺が通っているデュエルアカデミアは火山島に建っていて、温暖な気候と地熱のお蔭であまり寒くないんだよ」

 

「日本のアカデミアって火山島に建ってるのか?」

 

「あぁ」

 

ここは今にも雪が降ってくるのではないかと思うくらいの寒さである。

それに比べ日本のアカデミアは冬でも女生徒がノースリーブの制服で過ごせるほど暖かい。

火山島の地熱と天候は凄いと改めて思った聖星は星空を見上げた。

すると【宝玉獣】達が戻ってくる。

 

「皆、どうだった?」

 

「駄目だぜヨハン」

 

「こっちもよ。

怪しい人影なんて全くないわ」

 

「そうか…………

今は1時だ。

時間はまだまだある。

皆、今度は西地区の方を探そう」

 

「「あぁ!」」

 

力強く頷く【宝玉獣】達。

ヨハンの提案通り、西地区に足を向けようとすると突風が吹いた。

髪やマフラーが強風のせいで激しく揺れ、反射的に目を瞑る。

何だと思えば本来の大きさに戻っている【スターダスト】が聖星達の前に勢いよく着地する。

 

「グルォオ!!」

 

「【スターダスト】?」

 

「どうしたんだ?」

 

聖星とヨハンの問いかけに【スターダスト】は答えず、低い声で唸るだけ。

黄色の瞳は闇を睨み付けており皆はそちらに目をやる。

 

「どうやら現れたようだぞ、聖星、ヨハン」

 

2人の護衛を担っていた【星態龍】はデッキから現れ、同じように闇を睨み付ける。

緊張感ある2体の様子に自然と聖星達も構えた。

睨み付けている方角に存在する街灯の明かりが消え、冷たい風が頬を撫でるかのように吹く。

とても居心地の悪い風で、その風と共に足音が近づいてきた。

 

「ほほう。

【宝玉獣】の精霊が飛び交っていたからまさかだとは思ったが……

ヨハン・アンデルセン。

貴様がこんな時間に外出していたとはな」

 

「誰だ?」

 

視界もはっきりしない世界から聞こえてきた男の声。

名を呼ばれたヨハンははっきりとした声で返した。

周りにいる【宝玉獣】達はすぐにヨハンを隠すように前に出て、肩に乗っている【ルビー】は毛を逆立てる。

【宝玉獣】達の様子が面白いのか、現れた男は口の端を上げて名乗る。

 

「我が名はタイタン……

闇のデュエリストだ!」

 

真っ黒の衣装に身を包み、ウジャトの眼が嵌めこまれた仮面を被っている男。

がっちりとした体格を持っている彼の左腕には巨大なデュエルディスクが嵌められている。

警戒しているヨハン達の横で聖星は首を傾げた。

 

「タイタン?

あれ、どこかでその名前聞いた事あるけど」

 

「タッグデュエルの切欠を作った男だ」

 

「あ、そうそう。

そんな名前だったな。

確か明日香を浚って十代達を脅し、デュエルをしたインチキデュエリストだっけ?」

 

頭に引っかかった名前だが【星態龍】の言葉で思い出した。

入学して間もない頃、カイザーとのデュエルが終わった後に十代達が遭遇したデュエリストだ。

闇のデュエルで消えたはずの彼が何故ここにいるのか疑問に思いながらタイタンに目をやった。

 

「ほう……

遊城十代を知っているのか。

これはまた数奇な巡り合わせだな」

 

「知っているのか?」

 

「俺は直接会った事はないけど、精霊が見える友人が人質をとられてデュエルした事があるんだ。

そのデュエルは闇のデュエルで、タイタンは負けたから闇に飲み込まれたって聞いた。

それなのにどうしてこんな所で……」

 

初めはただのインチキデュエルだった。

ルーレットの目に細工を施し、タイタンが優位になるようなデュエルだったのに突然闇のデュエルへとなってしまった。

十代はデッキとの絆で勝利を勝ち取り、敗北した彼は闇に飲み込まれた。

聖星の説明にタイタンは懐かしむように話し始めた。

 

「確かに私は遊城十代とのデュエルに敗れ闇の世界に飲み込まれた」

 

暗い、暗い、闇の世界。

自分の周りを取り囲んでいるのは闇の魔者達。

自由に動く事も叶わず、ただ助けて欲しいと叫ぶしか出来なかった。

だが、ふと何者かの声が聞こえてタイタンに闇の力を宿した仮面を授けたのだ。

 

「そう。

私は闇の力を手に入れ、闇のデュエリストになったのだ!

ヨハン・アンデルセン。

貴様もターゲットのうちの1人。

さぁ、私とデュエルしろ」

 

「ヨハンがターゲット?」

 

タイタンは人差し指でヨハンを指し、聖星はつられてヨハンを見る。

肝心のヨハンも何故自分がターゲットになっているのか理解できず、ただ目を見開いているだけだ。

すぐに目つきを変えたヨハンはタイタンに問う。

 

「タイタンとか言ったな。

お前、一体どうしてプロデュエリストやストリートデュエリスト達を襲っているんだ?」

 

「襲っている?

ふん、私は別にあいつらを襲っているつもりはない」

 

「襲ってない?」

 

「ふざけるな!

お前とデュエルしたデュエリスト達は意識不明の重体なんだ!

これを襲っていないと言わず、どう言うんだ!?」

 

意外な返答にヨハンは怒鳴る。

怒りの表情を露わにするヨハンに対しタイタンは至って冷静に、不敵に笑うだけだ。

ただ笑っているだけなのに闇の力を持っているせいか妙に不気味である。

 

「私はただテストをしているだけだ」

 

「「テスト?」」

 

彼は闇の力を手に入れ、闇のデュエリストとなった。

実力ある者をテストして何をするつもりなのだろうか。

警戒しながらも聖星達はタイタンの言葉を真剣に聞く。

だが彼の口から信じられない言葉が発せられた。

 

「どうせ貴様は私から逃げられない。

折角だから教えてやろう。

私は三幻魔というカードを手に入れるため、実力のあるデュエリストを集めている」

 

「三幻魔……?」

 

タイタンが発した言葉を聖星は復唱する。

そしてその単語が何を意味するのか瞬時に理解した。

同時にタイタンが自分にとってどのような立ち位置に存在するデュエリストなのかも理解する。

一瞬で把握した聖星は表情を消し、デッキケースからデッキを取り出した。

 

「今まで私と戦ったデュエリスト達はその候補者だった。

尤も、実際にデュエルをしてみるとただの雑魚だったがな」

 

「それだけ?

ただカードを手に入れるためだけに闇のデュエルをしたっていうのか!?」

 

「そうだ。

三幻魔はその名に恥じない素晴らしい力を秘めているカード。

精霊の命を食らい、それと引き換えに持ち主に永遠の命を与える。

世界の征服も夢ではないぞ」

 

「冗談じゃない!

何が永遠の命だ!

何が世界の征服だ!

精霊達の命を使ってそんな事をするなんて、お前それでもデュエリストか!?」

 

ヨハンは三幻魔について何一つ知らない。

だがタイタンの説明で自分にとってとてもくだらなく、精霊達にとって危険なものだと判断できた。

自分のエゴのために精霊を犠牲にするカード。

それを手に入れるため大勢のデュエリストを犠牲にしている。

同じデュエリストとして、精霊が見える者として許せるわけがなかった。

ヨハンは怒りのままデュエルディスクを腕に嵌め、起動させる。

 

「良いぜ。

タイタン!

そのデュエル、受けて立つ!」

 

この男をこれ以上野放しにするわけにはいかない。

元々そのつもりだったヨハンだが、精霊の命に係わる事を聞かされ更に使命感に燃えてしまった。

熱くなっている友人に聖星は声をかける。

 

「待った、ヨハン」

 

「何だよ聖星。

危ないから下がっていた方が良い」

 

「このデュエル。

俺に譲ってくれ」

 

「は?」

 

隣から聞こえた言葉にヨハンは聖星を見る。

聖星はヨハンではなくタイタンを真っ直ぐと見ており、彼の腕にもデュエルディスクが嵌められている。

 

「何を言っているんだ。

奴の狙いは俺だぜ。

ここは俺達がデュエルをする!」

 

ヨハンの言葉に【宝玉獣】達は強く頷く。

一切引く気がない友人に聖星は微笑んだ。

しかしその笑みはすぐに消えて無表情となり再びタイタンに目をやる。

 

「ヨハン。

さっき言っただろう。

俺の友達が浚われて、こいつに脅されたって。

あのデュエルの後、あの男のせいであいつは色んな目にあったんだ」

 

人質となった明日香は恐怖を味わい、十代に関して責任を覚えていた。

十代だって彼のせいで危ないデュエルをした。

もし一歩間違えれば十代がタイタンのようになっていたかもしれない。

それだけではなく倫理委員会に責任を押し付けられ、退学にもなりそうになった。

言いたい事が一気にあふれ出し、上手く言葉が見つからない。

ただ目の前にいる男を叩き潰したい。

自然と険しい表情となった聖星は小さく呟いた。

 

「それに三幻魔に関しては俺の仕事だしな」

 

「何?」

 

微かに聞こえてきたヨハンの声を無視し、聖星はタイタンを真っ直ぐに見る。

 

「タイタン。

俺があんたの相手になる。

文句は言わせない」

 

「何を言っている小僧。

貴様のような子供…………

っ!?」

 

ターゲットではない聖星など眼中にはなかったタイタン。

だから彼の申し出など一蹴するつもりだったが、彼の仮面越しの眼に【スターダスト】の姿が映る。

闇ばかり映していた視界の中一際輝く純白のドラゴン。

すぐに自分に対してどのような存在か判断できた。

 

「…………成程。

随分と強力な精霊を従えているようだな」

 

いや、強力というより厄介という方が正しい気がする。

心の中で呟いたタイタンはデュエルディスクを構えた。

 

「良いだろう。

その力、我らの計画に支障になるかもしれん。

貴様はこの場で闇に葬り去ってやる」

 

「「デュエル!!」」

 

開始の宣言と同時に闇が3人の周りを覆っていき、閉じ込められる。

夜のヨーロッパの街並みは一切見えず、ただ暗黒の世界が広がっていた。

周りを見渡したヨハンは険しい表情のまま聖星を心配そうに見る。

 

「先攻は私だ、ドロー!

私は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

そして【デーモンの騎兵】を召喚する」

 

「ハッ!」

 

タイタンの場の闇から突如渦が発生してその中から槍を構え、青い肌を持つ馬に乗った騎兵が現れる。

赤い目を持つ【デーモン】は手綱を引っ張り、繋がれている馬を大人しくさせた。

表示された攻撃力は1900.

 

「【デーモンの騎兵】……

(確か【デーモンの騎兵】はカード効果で破壊された場合、墓地から【デーモンの騎兵

】以外の【デーモン】を特殊召喚する効果を持つ。

つまりさっき捨てたカードは【デーモン】の可能性が高い)」

 

先攻1ターン目から攻撃力1900のモンスターを召喚するのは悪くはない。

だが聖星としてはそのモンスター効果の方が厄介に見えた。

聖星はすぐに自分が記憶している限りの【デーモン】のモンスターを思い出す。

 

「私は手札から【デーモンの将星】を特殊召喚!」

 

「グォオオ!」

 

【デーモンの騎兵】の隣に現れたのは雷を身にまとい、骨の鎧をつけ赤い体を持つ悪魔。

【デーモンの将星】は大きく自分の両腕を広げ、青い眼で隣にいる【デーモンの騎兵】を睨み付けた。

突然睨み付けられた【デーモンの騎兵】は驚いたようでゆっくりと傍から離れる。

だが逃がしてくれる様子はなく、【デーモンの騎兵】をその大きな手で掴む。

 

「な、何をしているんだ?」

 

「【デーモンの将星】の効果だ」

 

「え?」

 

「小僧の言う通りだ。

このカードは私の場に【デーモン】と名の付くカードが存在する時手札から特殊召喚する事が出来る。

尤も、同時に私の場の【デーモン】を破壊せねばならないがな……」

 

「今あいつの場には【デーモンの騎兵】が存在する。

これで特殊召喚の条件はクリアしているんだ」

 

【デーモンの将星】はそのまま【デーモンの騎兵】を持ち上げる。

拳に捕えられている【デーモンの騎兵】は逃げようと必死に足掻いているが、敵う様子が無かった。

そのまま【デーモンの騎兵】は苦しそうな悲鳴を上げ粉々に砕けてしまう。

 

「この瞬間、【デーモンの騎兵】の効果発動!

このカードがカード効果で墓地に送られた場合、墓地から【デーモンの騎兵】以外の【デーモン】を特殊召喚する!」

 

「(やっぱり……

墓地にいた)」

 

「蘇えるが良い、【戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン】!!」

 

タイタンは人差し指を立てて手を高く上げる。

その先には暗雲が渦巻き、青い雷が轟く。

すると地面が大きく裂き、中から巨大な悪魔が姿を現す。

 

「グォオオオオオ!!!」

 

「で、でけぇ……」

 

「【将星】の倍くらい?」

 

墓地から蘇った悪魔の大きさは聖星が呟いた通り【デーモンの将星】の倍ほどある。

カードのイラストでは【デーモン・ソルジャー】達が跪いていており、彼らの数倍以上の大きさだったはずだ。

やはりデュエルだとある程度小さくなるのだろうと場違いな事を考えている聖星は自分の手札を見る。

それに対しヨハンは口元に笑みを浮かべていた。

 

「1ターン目から攻撃力3000と2500のモンスターが並んだ。

流石プロデュエリストを倒すだけの実力はあるという事か」

 

「私はこれでターンエンド。

さぁ小僧。

貴様のターンだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札に存在する【魔導法士ジュノン】の効果発動。

手札に存在する【魔導書】を3枚見せる事で彼女を特殊召喚する」

 

「いきなりレベル7のモンスターを特殊召喚だと!?」

 

「え?

レベル6とレベル8を特殊召喚したあんたが驚くのっておかしいだろう?」

 

明らかに驚いた表情を浮かべるタイタンに突っ込みを淹れながら聖星は自分の手札に存在する【魔導書】を見せる。

そこに現れたのは【グリモの魔導書】、【トーラの魔導書】、【魔導書の神判】だ。

3枚のカードは回転しながら天へと昇り、その場に淡いピンク色の魔法陣が描かれる。

 

「特殊召喚、【魔導法士ジュノン】」

 

闇に覆われている世界に差し込む淡い光。

その魔方陣の輝きは一気に激しくなり、轟音を轟かせながら光の柱が立つ。

内側から亀裂が入り割れた柱の中から勇ましい表情をした【ジュノン】が姿を現せる。

 

「俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動する」

 

「【魔導書の神判】……?

新たな【魔導書】か!」

 

「このカードが発動したターンのエンドフェイズ時、俺はこのターン発動された魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える事が出来る。

さらにその枚数以下のレベルの魔法使い族モンスターを場に特殊召喚出来る」

 

「何ぃ!?」

 

ヨハンは初めて見る【魔導書】に目を輝かせ、タイタンは目を見開く。

聖星は慣れた反応なので特に気にせずゲームを続けた。

 

「そして【ジュノン】の効果発動。

1ターンに1度、手札または墓地に存在する【魔導書】を除外する事で場のカードを1枚破壊する。

俺は墓地に存在する【魔導書の神判】を除外して【ジェネシス・デーモン】を破壊する」

 

墓地から現れた【魔導書の神判】をデッキケースにしまい、玉座に座っている【ジェネシス・デーモン】を睨み付ける。

【凶皇】の名を見てみる限り【教皇】が由来なのだろう。

【教皇】に対し【ジュノン】は【女教皇】の地位に就く存在。

普通のデュエルだったらもう少しこの2体の対決を楽しむ事が出来たというのに。

残念だと思いながら聖星は宣言する。

 

「【ジュノン】、閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

「はぁあっ!」

 

聖星の声に【ジュノン】は手に魔力を集め、それを【ジェネシス・デーモン】に向ける。

大きく手をかざし勢いをつけてそれを放った。

向かってきた魔力は【ジェネシス・デーモン】を貫き、そのまま彼の体中にひびが入る。

指先まで響き渡ると体内から光が輝きだしそのまま爆発した。

 

「くっ!

だが、【デーモンの将星】の攻撃力は【魔導法士ジュノン】と同じ2500!

このままでは相打ちだぞ小僧」

 

「それくらい分かっているさ。

俺は手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

このカードの効果によりデッキに存在する【魔導書】を手札に加える。

俺は【セフェルの魔導書】を加える。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【トーラの魔導書】を見せる事で墓地に存在する通常魔法の【魔導書】の効果をコピーする。

俺は【グリモの魔導書】を選択する」

 

「くっ……!

またデッキからサーチする気か、小僧!」

 

「ご名答。

俺は魔法カード【ヒュグロの魔導書】を手札に加える。

そして【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードの効果で【ジュノン】の攻撃力は1000ポイントアップ」

 

「1000ポイントアップ……

つまり攻撃力3500だと!?」

 

赤い光に包まれる【魔導書】は【ジュノン】に新たな英知を授け、彼女の攻撃力を3500にする。

力を手に入れた【ジュノン】は目を閉じて新たな呪文を詠唱し始めた。

 

「【ジュノン】、【デーモンの将星】に攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!」

 

彼女の両手に集まる赤い光。

それは徐々に大きくなっていき、【ジュノン】は閉じていた目を開けた。

凛とした水色の瞳は自分より大きい【デーモンの将星】へと向けられ、その魔力を放つ。

【デーモンの将星】は光の魔力を真正面から受け、どろどろと溶けていってしまう。

その時の光はタイタンも降り注ぎ、闇に慣れた彼の目に多大なダメージを与える。

 

「ぐぅうう!」

 

聞こえてくるタイタンの苦しそうな声。

【ジュノン】はその様子に満足そうな表情をし、聖星に対しウインクする。

それに聖星は手を上げて応えた。

これでタイタンのライフは4000から3000となり、ヨハンは強く頷こうとした。

 

「よし、一気にライフを1000ポイント削っ……あれ?」

 

突然視界が歪み、上手く立つ事が出来ない。

まるで風呂上りに体験する立ち眩みのような感覚だ。

咄嗟に頭を抑えたヨハンは何とか倒れず持ちこたえる。

 

「どうしたヨハン!?」

 

「ヨハン、大丈夫か!?」

 

周りにいる【宝玉獣】達はすぐにヨハンの異変に気づき、彼を心配そうに見上げる。

家族の言葉にヨハンは笑みを浮かべた。

 

「あ、あぁ。

ただ眩暈がしただけ……」

 

だが言葉は続かなかった。

 

「何だ、これは……?」

 

ヨハンは自分の手を、いや、手があるべき場所を凝視した。

【宝玉獣】達も何かを叫んでいるが、今のヨハンには上手く聞き取れなかった。

流石の聖星も様子がおかしい事に気づきヨハン達に振り返る。

 

「ヨハン?

どうし……ヨハン!?」

 

振り返った聖星は自分の目を疑った。

先程まで自分を心配そうに見ていたヨハンの体が一部なくなっているのだ。

これは闇のデュエル。

ライフポイントはその名の通りデュエリストの命であり、ライフが減ると減った本人の肉体に何らかの影響を及ぼす。

しかしタイタンではなくヨハンに影響が出ている。

信じられない現実に動揺していると背後からタイタンの笑い声が聞こえてくる。

 

「ふふふふ、ふはははは!」

 

「タイタン、お前……

ヨハンに何をした?」

 

気に入らないほど高笑いをしているタイタンを睨み付ける聖星。

怒りに満ちた表情で自分を睨み付ける子供にタイタンは笑みを浮かべたまま謝罪する。

 

「すまない。

そういえばこの闇のデュエルの説明をするのを忘れていたな。

このデュエルのライフポイントは通常通り、我らデュエリストの命。

だが私のライフが減れると同時にその小僧の肉体も闇に喰われる」

 

「……え?」

 

「つまり私が負ければその小僧は闇に飲み込まれ、新たな闇のデュエリストになるという事だ」

 

「なっ!?

ちょっと待てよ、何だよそれ!

そんなの卑怯だろ!」

 

「ふん。

負けても良いのだぞ。

デュエルに敗北し貴様は闇に飲み込まれ、その後は傷ついたあの小僧を私がテストすれば良いだけの話だからな」

 

「くっ…………!」

 

こんな不条理な闇のデュエルの内容など、聞いた事もない。

聖星は十代達の事も、三幻魔の事もあるからこのデュエルを申し出た。

だがその理由の中にはヨハンを危険から遠ざける事も入っている。

それなのにこんな結果になってしまうとは誰が予想できたか。

腹立たしさに聖星は顔を歪め、手の皮膚に爪が食い込むほど拳を握りしめる。

この現状に苛立っているのは彼だけではなく【宝玉獣】達も同じである。

 

「つまりあの仮面男はヨハンの命を盾にしているという事か」

 

「そういう事だ。

先程あの男は【スターダスト】の事を邪魔になりうる存在と言っていた。

あの男が勝てば【スターダスト】達を闇に葬り去る事が出来、聖星が勝てばヨハンが手に入る」

 

「どっちに転んでも彼にとっては美味しい展開って事?

最っ低な人間ね」

 

「ルビィ~!!」

 

ヨハンの傍に寄り添っている【宝玉獣】達は聖星以上の怒りを露わにしていた。

今すぐにでもタイタンに襲い掛かりそうな彼らは必死に自分を制御している。

爪が地面に食い込み、歯を食いしばっている【宝玉獣】達の姿さえもタイタンは涼しい顔で流していた。

 

「……【ヒュグロの魔導書】の効果で強化された魔法使いが相手モンスターを破壊した時、デッキから【魔導書】を手札に加える事が出来る。

俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を手札に加えて、そのまま発動する」

 

デュエルディスクから光が発せられ、闇のフィールドが一面魔法を学ぶ機関へと変わっていく。

薄暗い空は快晴な空へと変わり、相手の姿がはっきり見えるようになった。

タイタンの実に愉快そうな顔が嫌でも目に入り、聖星は深呼吸をして顔を伏せる。

 

「(落ち着け……

落ち着くんだ……

ここで焦ったら駄目だ。

焦ったら変なミスをする。

冷静になるんだ)」

 

聖星は目の前で消えていくロビンやアンナ達の姿を思い出しながら冷静になるよう自己暗示をした。

このデュエルは自分の命だけではない、ヨハンの命までかかっているのだ。

些細なミスさえ許されない。

同時にこの世界にはいない後輩の後ろ姿も思い出した。

 

「(遊馬だったらどうする?

どうやってこの状況を乗り越える?)」

 

遊馬だったら最後まで諦めず、皆を助ける道を探す。

そしてその信念でそれを現実にして来た。

頼りになる後輩の凛々しい顔を思い浮かべ、真っ直ぐとタイタンを見た。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。

そしてエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果発動。

このターン俺が発動した魔法カードは【グリモ】、【セフェル】、【ヒュグロ】、【ラメイソン】の4枚。

よって俺はデッキから【グリモ】、【ゲーテ】、【魔導書廊エトワール】の3枚を手札に加える」

 

聖星がカスタマイズしたデュエルディスクは指定したカードを勝手に取り出してくれる。

出てきた3枚のカードを手札に加えた聖星は第二の効果を宣言した。

 

「そしてデッキからレベル3の【魔導教士システィ】を攻撃表示で特殊召喚」

 

「はっ!」

 

「【システィ】、エンドレス・アンジェ」

 

特殊召喚に成功した【システィ】は祈るように膝を着き、そのまま光の中へと消えていく。

場に現れたと思ったら消えた女性にタイタンは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「【魔導書】が発動したターンのエンドフェイズ時、【システィ】は真価を発揮する。

彼女を除外する事でデッキに眠る【魔導書】とレベル5以上の闇または光属性の魔法使い族モンスターを1体手札に加えるのさ」

 

「な、何ぃ!?」

 

「俺は【魔導書の神判】と【魔導法士ジュノン】を手札に加える」

 

遺された【システィ】の天秤に2枚のカードが乗せられ、それは聖星の手札へと加わる。

 

「ちぃ。

手札が1枚になったと思えば4枚になり、更には6枚だと?

ふん」

 

だが1ターンでデッキのカードをかなり消費している事でもある。

聖星は先程【魔導書の神判】も手札に加えていたため、次のターンも発動するはずだ。

これではデッキ切れを起こすのは遠くない話。

この勝負はデッキ切れで着くかもしれないと思いながらデッキに指を置いた。

 

「私のターン、ドロー!」

 

勢いよくカードを引いたタイタン。

自分の手札に来たカードに不気味な笑みを浮かべ、そのまま発動する。

 

「私は手札からフィールド魔法【伏魔殿-悪魔の迷宮】を発動する」

 

「なっ、【デーモン】の名を持つフィールド魔法!?」

 

「ほう、どうやらこのカードの事は知らないようだな。

このカードは私の場の悪魔族モンスターの攻撃力を500ポイントアップする場所。

貴様らを絶望の淵へと追いやる地獄の二丁目だ」

 

「(【デーモン】に関係するフィールド魔法は【万魔殿-悪魔の巣窟】だけだと思っていたけど……

まだ他にもあったのか。

しかも【デーモン】の名前を持つっていう事は……)」

 

新たなフィールド魔法が発動したことで【ラメイソン】の建物にひびが入り、空も割れていく。

青空の隙間から先ほど以上の禍々しい色の空が見え、大きな音を立てながら【ラメイソン】は崩れ落ちていく。

残骸がフィールドに広がりながら地面が激しく揺れ、巨大な建物が出現した。

 

「私は手札から装備魔法【堕落】を発動する。

このカードの効果により貴様の女教皇は私の傀儡人形だ」

 

「しまった……!」

 

タイタンが発動したのは【デーモン】と名の付くカードが存在する時相手モンスターのコントロールを奪う装備魔法。

聖星が【ジュノン】を見ると、彼女の周りに闇の瘴気が纏わりつき苦しそうに膝を着く。

 

「っ、ああっ……!?」

 

「【ジュノン】!」

 

痛む頭を押さえていたが、彼女の肌はゆっくりと薄暗くなり純白の衣服は黒へと染まっていった。

そのまま彼女は赤い目で聖星を見下ろしタイタンの前に移動する。

この時聖星の脳裏に女教皇の逆位置の意味が過ぎった。

 

「さらに私は【トリック・デーモン】を守備表示で召喚する。

行け、【魔導法士ジュノン】、小僧にダイレクトアタック!!」

 

「フフッ。

アハハハッ!!」

 

実に楽しそうに笑う【ジュノン】。

しかしその笑みは狂気が含まれている笑みである。

向かってくる攻撃に聖星は抵抗する事も出来ず、彼女の魔法に包み込まれた。

 

「うっ、うわぁあああ!!」

 

「聖星っ!!」

 

体中を走る痛み。

電撃を受けたような衝撃に聖星は膝を着く。

ライフが1500まで削られたが、そんな事を気にしていられる程余裕ではない。

 

「くっ…………」

 

「ふはは、どうだ小僧。

闇のデュエルの味は?

十代とかいう小僧も貴様と同じように苦痛の表情を浮かべたが、貴様はさらに苦しそうに歪んでいるな。

見ていて非常に愉快だ」

 

「くっ、そ……」

 

前から聞こえる笑い声に聖星は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

まだ体が痺れ、痛みが残っている。

体中の鼓動が頭にまで響き、脳が悲鳴を上げている。

しかも体の一部が闇に喰われて消えている状態だ。

だが倒れるわけにはいかなかった。

 

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。

さぁ小僧。

貴様のターンだぞ」

 

「俺のターン……

ドロー」

 

「この瞬間私は【堕落】の効果でライフが800ポイント削られる」

 

「くっ……!」

 

「ヨハン!」

 

【堕落】は相手モンスターのコントロールを得る代わりに、相手ターンのスタンバイフェイズ時に800ポイントライフを失うデメリットを持つ。

本来ならこれのダメージでタイタンが苦しむはずだ。

だがヨハンの肉体が更に闇に喰われ、彼自身苦痛の表情を浮かべる。

ヨハンの様子に聖星は唇を噛んだ。

 

「(これであいつのライフは残り2200……

一体どうすれば良いんだ。)

手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動」

 

聖星の背後に何処かの廊下のような場所が現れる。

悪魔達の迷宮に現れた新たな空間は異色な光景と言えるだろう。

 

「このカードは【魔導書】が発動する度に魔力カウンターを1つ乗せ、その数×100ポイント俺の魔法使い族モンスターの攻撃力を上げる。

さらに速攻魔法【魔導書の神判】を発動」

 

発動されたのはエンドフェイズ時に真価が発揮する魔法カード。

【魔導書の神判】は役目を終え、そのまま淡い光へとなり聖星の頭上へと浮かび上がる。

 

「そして手札の【ゲーテの魔導書】、【グリモの魔導書】、【トーラの魔導書】を見せる事で手札から【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する」

 

「はぁ!」

 

先程と同じように魔法陣から現れた光柱の中から【ジュノン】が召喚される。

場に出た彼女はタイタン側にいる自分の姿に目を見開き、悲しそうに表情を歪めた。

微かだが拳が震えている。

再び自分の前に立った女教皇にタイタンは冷静に考える。

 

「(あのモンスターは墓地または手札の【魔導書】を除外する事でカードを破壊する効果を持つ。

今小僧が破壊したいのは私の伏せカードまたは【堕落】のどちらか、か。

だがヨハン・アンデルセンの命を握っている以上、下手な行動は起こせまい)」

 

【堕落】は【デーモン】と名の付くカードが場に存在しなくなると自爆するカード。

残念ながら今タイタンの場には【デーモン】と名の付くカードは【トリック・デーモン】を含めて2枚存在する。

 

「そのモンスターを出されるのはちと厄介だ。

罠発動、【奈落の落とし穴】。

攻撃力1500以上のモンスターを破壊し、除外する。

【魔導法士ジュノン】の攻撃力は2500。

悪いが消えてもらうぞ!」

 

「手札から速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

俺の場の魔法使い族モンスターを1体選択し、そのモンスターに魔法または罠カードの耐性を付ける。

【ジュノン】に罠カードの耐性を与える」

 

足元に異世界へと繋ぐ穴が現れ、【ジュノン】は反射的にスカートを押さえる。

だがすぐに【トーラの魔導書】の英知の加護を受けて穴へは引きずり込まれなかった。

 

「ちっ。

逃がしたか」

 

「俺は手札から魔法カード【光の援軍】を発動。

デッキからカードを3枚墓地に送り、デッキからレベル4以下の【ライトロード】と名の付くモンスターを手札に加える。

俺はレベル4の【ライトロード・マジシャンライラ】を手札に加え、召喚」

 

「はっ!」

 

白と黄色の光と共に現れたのはロングヘアの黒髪の美女。

彼女は静かに目を開け、腕を組んでタイタンの場を睨み付けた。

俗にいう仁王立ちである。

 

「【ライラ】は攻撃表示の時、守備表示に変更する事で相手の魔法・罠カードを破壊する事が出来る。

俺は装備魔法【堕落】を選択」

 

「くっ、そんな効果があったか……!」

 

「帰ってこい、【ジュノン】!」

 

腕を組んでいた【ライラ】は両手を前にだし、【堕落】を破壊する。

自分が攻撃した魔法カードが破壊されるのを見届けた彼女は満足そうな表情を浮かべ、そのまま膝をつく。

それと共に操られていた【ジュノン】が正気に戻り、急いで聖星の場に戻った。

開放された彼女は聖星達にごめんね、と謝るように顔を向ける。

他の皆はただ笑みを浮かべ首を左右に振った。

 

「まだ終わらない。

1体目の【ジュノン】の効果、墓地の【魔導書院ラメイソン】を除外して伏せカードを破壊する!」

 

「罠発動、【デーモンの雄叫び】!

ライフを500支払う事で私の墓地の【デーモン】を特殊召喚する!

現れるが良い、【トリック・デーモン】!」

 

「っ!?

【天使の施し】で墓地に捨てた奴か」

 

宣言された名前に聖星は目を見開いたが、先攻1ターン目にタイタンが発動したカードを思い出す。

すると比較的可愛らしい悪魔っ娘がタイタンの場に現れ、その場にちょこんと座る。

可愛らしい外見だがその表情は非常に好戦的だ。

流石は未来の【デーモン】における女帝だ。

 

「…………くっ……

手札から【グリモの魔導書】を発動し、【アルマの魔導書】を手札に加える。

そして【アルマの魔導書】を発動。

ゲームから除外されている【魔導書】を俺の手札に加える効果だ。

俺は【ラメイソン】を手札に加え、発動。

地獄の二丁目は英知の都市に変わってもらう」

 

次々に発動される【魔導書】。

聖星の宣言通り、悪魔達の迷宮はすぐに崩れ去り、代わりに先程のように暖かい青空へと変わっていった。

そして発動された【グリモの魔導書】、【アルマの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】の英知は魔力カウンターへと変わり聖星の頭上へと移動する。

これで魔力カウンターは5つとなり【ジュノン】達の攻撃力は3000だ。

 

「(【トリック・デーモン】は戦闘、カードの効果で墓地に送られた時デッキから【デーモン】のカードを手札に加える効果。

あいつの場には2体。

しかも1体は【デーモンの雄叫び】で特殊召喚されたモンスター)」

 

【デーモンの雄叫び】はライフコストがあるというのに完全蘇生できるカードではない。

エンドフェイズ時に破壊されるデメリット効果を持つのだ。

だが【トリック・デーモン】は破壊され墓地に送られることで効果を発動できるカード。

 

「(今ここで【ジュノン】の効果でもう1体を破壊したらあいつの手札が2枚も増える。

それは駄目だ。)

カードを1枚伏せ、エンドフェイズだ」

 

戦闘を行わずエンドフェイズに移した聖星に【宝玉獣】達は目を見開く。

彼らが驚いているのは分かったが聖星はそのまま続ける。

 

「俺がこのターン発動した魔法カードは5枚。

よって【魔導書の神判】の効果によりデッキから【グリモ】、【ゲーテ】、【ヒュグロ】、【トーラの魔導書】を加える。

そして【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

「ふんっ!」

 

「【ライラ】の効果発動。

俺のエンドフェイズ時、デッキからカードを3枚墓地に送らなければならない。

さらに【システィ】の効果により、デッキから3枚目の【魔導書の神判】と【ジュノン】を手札に加える」

 

墓地に送られたのは【魔導召喚士テンペル】、【エフェクト・ヴェーラー】、【神の警告】の3枚。

モンスター効果を封じ、特殊召喚自体なかったことに出来るカード達が墓地に送られた事に聖星は顔を歪める。

 

「ちょ、どうして攻撃しないの!?」

 

「いくらヨハンを盾にされているとはいえ、相手の場にはモンスターが2体もいるんだぞ!」

 

「しかも守備表示だぜ!?

攻撃したって大丈夫だろ!」

 

信じられないと声を発する【アメジスト・キャット】に【トパーズ・タイガー】、【コバルト・イーグル】。

他の4体も同じ気持ちだろう。

聖星は何も答えずただタイタンの行動を待った。

 

「ふっ、ならば【デーモンの雄叫び】の効果だ。

このカードの効果で特殊召喚したモンスターは破壊される」

 

【トリック・デーモン】は自分の異変に気付いたが、特に慌てた様子もなくけらけらと笑っている。

そのまま闇に飲み込まれて消えていった。

 

「だが同時に【トリック・デーモン】の効果が発動する!」

 

「何!?」

 

驚きの声を上げたのは一体誰か。

聖星は険しい顔のまま静かに説明した。

 

「……【トリック・デーモン】は戦闘、または効果で墓地に送られた場合デッキから【トリック・デーモン】以外の【デーモン】と名の付くカードを手札に加える効果なんだ」

 

「その通り!

尤も【トリック・デーモン】の効果は1ターンに1度しか使えんがな」

 

「あ、しまった……

1ターンに何度でも使える効果じゃなかったんだ……!」

 

すっかり勘違いしていた聖星は目を見開く。

てっきり何度でも使える効果だと思ったから聖星はバトルフェイズを行わなかったというのに。

冷静になれと自分に言い聞かせた直後にこのような失態を犯すとは。

面白いくらい表情を変えた聖星にタイタンは笑った。

 

「ほぉ。

どうやら小僧、貴様はこのカードが1ターンに複数回発動できると思っていたようだな。

勉強不足だぞ」

 

「くっ……!

(何で勘違いしていたんだよ……!!)」

 

「私はデッキから【デーモンの将星】を手札に加える!

私のターン!」

 

加えられたのは【デーモン】が存在する時特殊召喚出来るレベル6の【デーモンの将星】。

今彼の場にはもう1体の【トリック・デーモン】が存在している。

 

「私は手札から【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする。

私の場に【トリック・デーモン】が存在する事により、手札から【デーモンの将星】を特殊召喚する!

【デーモンの将星】がこの効果で特殊召喚された時、私の場の【デーモン】を破壊する!

当然選択するのは【トリック・デーモン】だ!」

 

「速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に存在する【アルマ】、【グリモ】、【ヒュグロ】を除外し、場のカードを1枚除外する。

俺は【トリック・デーモン】を選択!」

 

【トリック・デーモン】の効果は墓地で発揮する。

だから除外すれば彼が新たなカードを手札に加える事は出来ない。

自分の背後に現れた異世界の入り口に【トリック・デーモン】は驚く。

【デーモンの将星】は先程のように【トリック・デーモン】を握り潰そうとするが、それより先に彼女は異世界へと吸い込まれてしまった。

 

「ちっ。

カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星。

彼は手札に来たカードを見て顔を歪め、ヨハンを見る。

タイタンのライフは残り1700.

いくら自分より多いとはいえ彼の体の半分以上は消えていた。

聖星の体も半分以上存在せず、自然と今まで以上の焦りが出てくる。

 

「(どうすれば良い?

俺が勝てばヨハンは闇に堕ちる。

けどタイタンが勝てば、あいつはすぐにヨハンを狙う)」

 

何度考えても突破口が見つからない。

自分がヨハンを犠牲にして勝つか、タイタンが勝つか。

今自分の目の前に置かれている選択肢はそれしかなかった。

目を強く握った聖星は両腕を下げて唇を噛みしめた。

すると背中を何かに突かれる。

 

「【スターダスト】……?」

 

「グルルルル……」

 

振り返れば半透明姿の【スターダスト】が聖星を見下ろしていた。

【星態龍】とは異なり人の言葉を話せない彼はただ静かに鳴いているだけ。

だがその黄色の瞳が何かを訴えている事だけは分かった。

聖星は【スターダスト】を見上げながら尋ねる。

 

「……本当?」

 

「グォ」

 

短く返された声。

だが今の聖星には十分すぎた。

 

「俺は【ラメイソン】の効果を発動。

墓地に存在する【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローする。

そして【ジュノン】の効果を発動!

墓地の【セフェルの魔導書】を除外し、右側の伏せカードを破壊!」

 

「残念だが外れだ!

罠発動、【デーモンの雄叫び】!

ライフを500支払い、墓地より【デーモンの騎兵】を特殊召喚する!」

 

タイタンのライフがさらに500削られ1200となる。

同じようにヨハンの体も消え【アメジスト・キャット】の悲痛な声が聞こえてきた。

だが今はそちらに目をやる余裕はない。

場に【デーモンの騎兵】が特殊召喚されるとタイタンはデュエルディスクのボタンを押す。

 

「さらに罠カード【激流葬】を発動!

これで私達のモンスターは全て破壊される!」

 

「手札から【トーラの魔導書】を発動!

【ライラ】に罠カードの耐性を付ける!」

 

発動されたカードから怒涛の勢いで多量の水が押し寄せてくる。

【ライラ】は【トーラの魔導書】の英知で身を守る事が出来たが、【ジュノン】達はあっさりと飲み込まれて破壊されてしまった。

 

「だが【デーモンの騎兵】が破壊された事により、私の墓地の【デーモン】が甦る。

特殊召喚【戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン】!!」

 

「グォオオオオ!!!」

 

【激流葬】で荒らされた場に再び現れた【凶皇】。

赤い目を光らせながら聖星を見下ろしている【ジェネシス・デーモン】は玉座に座り、威厳ある姿を見せる。

その攻撃力は3000。

攻撃力1700、しかも守備表示の【ライラ】ではどう考えても勝てる見込みはなかった。

しかし【ジェネシス・デーモン】が現れた事で聖星は自然と笑みを浮かべてしまった。

 

「何を笑っている?」

 

「何って、ただ勝利を確信しただけさ」

 

「何?」

 

「今貴方の手札は0。

場には【ジェネシス・デーモン】のみ。

これで確信しない方がおかしい」

 

見たところ彼のデッキは【デーモン】デッキ。

だが直接攻撃を防ぐ【バトル・フェーダー】や【クリボー】が入っている可能性もある。

しかし今タイタンの手札は0.

それらのカードは握っていない事は明らかだ。

【天使の施し】で墓地に捨てられたカードも【ジェネシス・デーモン】と【トリック・デーモン】。

【ネクロ・ガードナー】等を心配する必要性もない。

 

「ほう。

私に勝つと?

つまり貴様はあの小僧の命より自分の命をとったという事か。

薄情な小僧だな」

 

先程まで自分の命と友の命を天秤にかけ、苦悩していた聖星。

それが突然吹っ切れ自分の命を取った。

少なくともタイタンにはそう映った。

 

「とる?

俺は別にヨハンを見捨てるつもりなんて一切ないけど」

 

「何?」

 

敵からの問いかけに聖星は微笑んだ。

この場に恐ろしい程似合わない優しい笑みだ。

その笑みにタイタンは何故か背筋が凍ってしまう。

 

「さっきあんたは言ったね。

【スターダスト】が邪魔になるかもしれないって。

その予感は正しかった。

なんたって【スターダスト】は光を司るドラゴンだからな」

 

「光……

だと……?」

 

「俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから装備魔法【ネクロの魔導書】を発動する。

そして【ネクロの魔導書】を発動!」

 

パチン、と軽い音が響く。

場に現れたのは1人の女神と魔法使いが描かれている装備魔法。

すると聖星の前に1冊の書物が現れ、勝手に開かれる。

 

「【ネクロの魔導書】は俺の手札に存在する【魔導書】を見せ、墓地に存在する魔法使い族を1体除外する。

俺はレベル3の【魔導召喚士テンペル】を除外する」

 

聖星が見せたのは【魔導書の神判】。

普段なら最初に発動するはずだが、このターンで発動する必要性はないと感じたのだろう。

 

「そしてこのカードを装備させ、墓地からチューナーモンスター【エフェクト・ヴェーラー】を特殊召喚する!」

 

「チューナーモンスター!?」

 

「何だ、そのモンスターは!?」

 

書物のとあるページから光が溢れ出し、その中から1人の女性モンスターが現れた。

羽衣のようなものを纏っている彼女は大きな瞳を見せ、聖星を守るように前に出る。

見た事も聞いた事もないモンスターの登場。

だがヨハンとタイタン、この場にいる殆どがチューナーという単語に驚いた。

 

「卑怯者に教える義理はない」

 

説明を求めるタイタンの言葉を一刀両断した聖星。

彼はそのままカード処理を続ける。

 

「【ネクロの魔導書】で蘇った魔法使い族は除外した魔法使い族のレベル分、レベルがアップする。

【エフェクト・ヴェーラー】のレベルは1。

【テンペル】は3。

よって彼女のレベルは4となる」

 

「レベルだと?

ふん。

攻撃力ならともかくレベルを上げてどうする気だ?」

 

「この闇を消し去る光の化身を呼ぶための布石さ」

 

「む?」

 

布石という言葉にタイタンは怪訝そうな表情を浮かべる。

このターン聖星はまだ通常召喚を終えていない。

今彼の場には魔法使い族モンスターが2体存在する。

そのモンスターを生贄召喚するために呼んだというのなら分かるが、先程の答え方ではレベルも関係しているように思えて仕方がない。

自分が知っている限りレベルが関係するカードを思い浮かべるが、どうもしっくり来るカードがない。

聖星はタイタンの考えを知ってか知らずか声を張り上げる。

 

「レベル4の【ライトロード・マジシャンライラ】にレベル4となった【エフェクト・ヴェーラー】をチューニング!」

 

「「チューニング!?」」

 

羽衣を纏う【エフェクト・ヴェーラー】は目を閉じて4つの輪と白い星となる。

そのまま彼女は【ライラ】を取り囲んだ。

守備表示だった【ライラ】はカードの絵柄のように両手を広げ、自分の周りにいる星々を受け止める。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

快晴の空を突き抜けるほどの緑色の光が放たれ、光は空に浮かぶ雲を突き抜けて昇っていく。

それと共に鋭い風が吹き荒れ聖星の髪は激しく揺れる。

しかしそんな事気にもせず聖星は光の中で脈動を打つモンスターの名を高らかに叫んだ。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

名を呼ばれた【スターダスト】は己の両翼をゆっくりと広げ、光の中から現れる。

緑の光はゆっくりと真っ白な光へと変わっていき、白銀とも純白ともとれる【スターダスト】の姿をさらに神秘的に見せた。

【スターダスト】が現れた途端フィールド外を覆っていた闇がゆっくりと晴れていく。

 

「これが【スターダスト】……

なんて暖かい光なんだ……」

 

闇に体を食われているヨハンは体中の苦しさを忘れて【スターダスト】を見上げた。

【スターダスト】は黄色の瞳で聖星を見下ろしながら小さく鳴いた。

 

「グォオ!」

 

光を纏った【スターダスト】は自分の目の前にいる【ジェネシス・デーモン】とその主であるタイタンを睨み付けた。

当のタイタンは仮面越しの目を大きく見開き、何度も口を開けたり閉じたりする。

混乱している頭をやっとの思いで整理し、自分の言葉を吐き出した。

 

「し、シンクロ召喚だと!?

それにチューナー…………

そんな召喚法など聞いた事もない!

小僧、貴様一体何者だ!?」

 

自分が知っている限り、この世にある召喚法は生贄、融合、儀式の三種類。

効果モンスターで特殊な特性を持っているのはスピリットとユニオン程度。

チューナーなど聞いた事もない。

それなのに聖星はそれ以外の召喚法と特性を使った。

未知なる存在への恐怖を覚え、聖星に怒鳴った。

 

「不動聖星。

三幻魔の復活を阻止するお前の敵だ。

それで充分だろう」

 

そう断言した聖星は【スターダスト】を見上げる。

小さく頷いた【スターダスト】は構えた。

 

「行け、【スターダスト】!」

 

「グォオオオ……」

 

大きく息を吸い込むと口の中に体中から力が集まり、光が集約されていく。

その光景を見ながらタイタンは聖星を見た。

 

「攻撃力2500の【スターダスト】で攻撃力3000の【ジェネシス・デーモン】を攻撃だと!?」

 

「その答えはこれさ!

手札から【オネスト】を発動!」

 

勢いよく手札から発動したモンスター効果。

それには1体の天使族モンスターが描かれ、力強い表情で前を向いている。

すると【スターダスト】の翼が七色に輝く羽となり輝きが強くなる。

 

「光属性が戦闘を行う時、そのモンスターの攻撃力に相手モンスターの攻撃力を加える!

これで【スターダスト】の攻撃力は5500だ!」

 

「なっ、5500!?」

 

攻撃力3000を2500に加えるなど、タイタンへのダメージはダイレクトアタックそのもの。

残りのライフ1200など一瞬で消し去る事が出来る。

 

「オオオオオ!!!」

 

流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!!」

 

虹の翼を背負った【スターダスト】は光線を放ち、【ジェネシス・デーモン】を貫く。

聖なる光を浴びた【ジェネシス・デーモン】はどろどろと溶けていき地面へと崩れ落ちていった。

その光はタイタンにも向かっていき、彼の体を一瞬で包み込んだ。

 

「グッ、ガッ…………!!」

 

僅かに聞こえてくるタイタンの声。

同時に彼のライフが0になり、ヨハンの体の消滅速度が速くなっていく。

聖星はすぐにヨハンに振り返り【スターダスト】に叫ぶ。

 

「【スターダスト】!」

 

【スターダスト】の翼は元に戻るがそのまま口を開け、光を放つ。

その光がヨハンを包み込み、彼の肉体を貪っていた闇は一瞬で消滅した。

魔物達の悲鳴が聞こえたが気にも留めずヨハンの元へ走り寄る。

 

「ヨハン、大丈夫か!?」

 

「あぁ……

俺は平気だ」

 

膝を着いているヨハンは元に戻った体を確認し、聖星や【宝玉獣】達に目をやる。

皆相当心配していたようで【アメジスト・キャット】など涙目だ。

もう大丈夫だと言うように笑ったヨハンは【ルビー】達の頭を順番に撫でる。

そんなヨハン達を見て聖星は微笑み、タイタンに振り返った。

 

「タイタン。

三幻魔に関する情報を持っているなら今すぐ教えろ。

そうすれば【スターダスト】の力を使って、貴方をこの闇から解放する」

 

「この闇、から……?」

 

「あぁ。

【スターダスト】にはそれが出来る力がある」

 

本来ならタイタンは既に闇に飲み込まれている。

だが【スターダスト】の光の力のおかげだろう。

彼はまだそこに存在した。

しかしそれが後どれ程持つのか聖星には分からない。

目の前の男は聖星が欲している情報を持っているため、命を助ける代わりに情報を要求した。

 

「……三幻魔とは日本のデュエルアカデミアの地下に眠っている3枚のカードの事を指す」

 

「え?」

 

デュエルモンスターズは世界的に人気なゲームであり、プロデュエリストを育成するアカデミアは数多く存在する。

しかし、日本のアカデミアとなるとあそこしかない。

一気に激しくなった鼓動から目を背け、ゆっくりと尋ねた。

 

「日本のアカデミア?

何で……?

何であそこに三幻魔のカードが眠っているんだよ!?」

 

「それは私にもわからない。

だが、近々あの男は三幻魔を手に入れるためセブンスターズを使い、デュエルアカデミアに闇のデュエルを仕掛けるだろう」

 

「くっ!!」

 

セブンスターズ。

恐らくそれが敵の名前だろう。

しかし今は素直にその情報が手に入ったことを喜ぶ事が出来なかった。

デュエルアカデミアで闇のデュエルが行われるかもしれない。

アカデミアにいる仲間の事を思い浮かべながら聖星は顔を伏せた。

その時だ。

 

「シンクロ召喚。

未知なる召喚方。

そして光を司るドラゴン。

…………野放しにするのは危険すぎる」

 

「え?」

 

一気に低くなったタイタンの声。

周りの温度も低くなったような気がして聖星は顔を上げた。

同時にタイタンも顔を上げ、顔に血管が浮き上がり狂気に歪んだ顔を見せる。

纏っている闇の力は強くなり聖星に襲い掛かった。

 

「貴様はこのまま闇に喰われろ!!」

 

「なっ!」

 

「聖星っ!!」

 

増幅した闇は聖星に襲い掛かり、彼を飲み込もうとする。

ヨハンは声を張り上げ、聖星に向かって手を伸ばす。

しかし彼の手が届く前に飲み込まれてしまった。

声を失ったヨハンは血の気が引き、現実を否定するかのようにゆっくりと首を左右に振る。

 

「……愚かな」

 

すると聖星の声が聞こえ、彼の周りを取り囲んでいた闇が一瞬で消し飛ばされる。

【スターダスト】がヨハンの闇を祓った時のように魔物の悲鳴が聞こえ、彼は淡い光に包まれていた。

 

「なっ、弾かれただと!?」

 

「凄い……」

 

「…………あぁ。

何と愚かな事か」

 

「聖星?」

 

微かに聞こえてきた言葉にヨハンは恐る恐る名前を呼ぶ。

先程の言葉といい、今の言葉といい聖星はそんな風には喋らない。

呼ばれた聖星はそれに応えず、ただ目の前にいる愚か者に冷たい眼差しを向ける。

 

「偽りの闇を語り、闇に食われ、それだけではなく竜の子を闇に誘うなど愚かと言わずなんと言う」

 

聖星の声と誰かの声が重なり2つの声がこの空間に響く。

しかしこの場で言葉を発しているのはヨハンに背を向けている聖星だけだ。

それなのにもう1つの声も聖星から聞こえてくる。

理解が追い付かないヨハンはただ聖星を見るだけだ。

 

「闇に堕ちた戦士よ、いや、戦士の名さえも貴様には相応しくない。

人間よ、今貴様が闇に誘ったこの子供は我が叡智を受け継ぎ、かの禍を鎮めるため神の加護を受けし竜の子!」

 

「竜の子だと……?」

 

「見るが良い、我らが神の怒りを!」

 

手を高く上げた聖星。

すると闇の向こう側で何かが蠢いている。

【スターダスト】と同じくらいの大きさを持つ何かと、彼らとは比べ物にならないほど巨大な何かだ。

巨大な何かは体をうねらせながら目を光らせる。

 

「貴様は触れてはならぬ怒りに触れた。

光を司る竜の力により、裁きを下したいのは山々だが折角の闇のデュエルだ。

敗者らしく再び闇に堕ちるが良い」

 

「嫌だ……

嫌だっ、またあの世界に行くなど……!!」

 

2つの声の言葉にタイタンは顔色を変え、その場に膝を着いてうろたえ始める。

だが今となっては後の祭り。

最初は助けようとした聖星だが今はそんな気など一切ないようだ。

タイタンの足は沼のようになりゆっくりと沈んでいく。

 

「そんな、嘘だ……!

助けて、誰かっ!

助けてくれぇえええ!!!」

 

必死に聖星に向かって手を伸ばすタイタン。

足元の沼は意思があるかのように獲物を取り込んだ。

その光景にヨハンは目をそらし、耳も塞ぎたかった。

 

「…………恨むのなら闇を語った己の無知を恨め」

 

獲物を飲み込んだ沼は跡形もなくなり、もうそこには存在しない者に向かって呟く。

 

「虹の加護を受けし少年よ。

怖い思いをさせてしまったな」

 

突然話しかけられたヨハンは驚いたのか肩を跳ねさせる。

しかしすぐに真剣な表情となって怖気づかず聖星に、いや、聖星に乗り移っている誰かに尋ねた。

 

「あんた、聖星じゃないな……

一体何者なんだ?」

 

タイタンとのやり取りを見る限り敵ではないようだ。

しかしいくら精霊と交友があるヨハンでもこのような事態は生まれて初めてだ。

警戒しても仕方がないだろう。

低い声で尋ねられた言葉に聖星は振り返り、黄色の瞳でヨハンを見る。

そして笑ったと思ったら膝から崩れ落ちた。

 

「聖星!?」

 

糸が切れたかのように倒れた聖星にヨハンは叫び、慌てて近寄る。

顔は蒼白になり冷や汗もかいている。

どう見ても良い状態ではない。

ヨハンは舌打ちをして、聖星を背負った。

 

**

 

ぼやける視界。

だんだんと焦点が合い始めたのか目の前に広がる世界がはっきりと映しだされる。

目に入ってくる天井が自分の知らない物だと分かると聖星は不思議そうな表情をし、上半身を起こそうとした。

だが思うように力が入らず、上手く起こせない。

 

「やっと目が覚めたか、聖星!」

 

「あれ、ヨハン……

ここ……

誰の部屋?」

 

「俺の部屋だ。

聖星、デュエルの後何かに憑りつかれて倒れたんだぜ」

 

「え?

憑りつかれた?」

 

聖星は記憶の糸をたどって自分がどこまで覚えているのか思い出す。

言われてみればタイタンからアカデミアに三幻魔が眠っている情報を聞き出した以降の記憶がない。

どういう事だと考えていると【星態龍】が姿を現す。

 

「恐らくあれは星竜王だ」

 

「星竜王?」

 

「星竜王はお前に三幻魔の復活の阻止を依頼した。

そのお前が闇に飲み込まれそうになったから一時的にお前の体を乗っ取り、闇を祓ったのだろう。

現に聖星、体が思うように動かないはずだ」

 

「そうなのか聖星?」

 

「少し重いなぁとは思ったけど。

言われてみればあまり動かないかな」

 

これ程の疲労感はインフルエンザに罹った時以降だろう。

あの時の気怠さに何となく似ている。

明日の授業にはきちんと参加できるかどうか、そしてペガサスに三幻魔の事を報告できるようになるか心配した。

 

「(アカデミアの地下に三幻魔が……

これは留学を止めて早く戻った方が良いな)」

 

なんだかんだでアークティック校の生活を楽しんでいた聖星。

紹介してくれたペガサス、受け入れてくれた校長先生、そしてここの友人達に心の中で詫びながらため息をつく。

するとヨハンが眉間に皺を寄せた状態で自分を見下ろしているのに気が付いた。

 

「ヨハン?」

 

ベッドに横たわっている聖星は首を傾げて名前を呼ぶ。

ヨハンは聖星の目の色が元の緑色に戻っている事を確認し、真剣な表情で尋ねた。

 

「聖星。

星竜王や【スターダスト】って一体何の事だ?

それにチューナーモンスターにシンクロ召喚。

そんな召喚法、俺は一度も聞いた事もない」

 

「(やっぱり聞いてくるよな)」

 

闇のデュエルで何かあった時のためと、今回は精霊の力が宿る【閃珖竜スターダスト】と【星態龍】のカードを入れてデュエルした。

ヨハンの目の前でシンクロ召喚してしまう可能性も出てしまったが安全には代えられない。

彼自身ペガサスと繋がりがあるのでシンクロ召喚の事を知っても正式に発表されるまで黙ってくれると思っていた。

しかし星竜王に関しては完璧な誤算である。

 

「ヨハン達は星の民について知ってる?」

 

「いや、知らない」

 

「南米アンデス山脈に存在した民族の事だ。

その神の英知を全て掌握し、神と崇める竜の星に祈りを捧げ、民を導くのが星竜王」

 

石版の中で聞いた星竜王の事をゆっくりと話す聖星。

ヨハンの周りにはいつの間にか【宝玉獣】達も姿を現し、聖星の言葉に耳を傾けている。

 

「今から3000年前、この世界に三幻魔という凶悪な精霊が現れた。

彼らは精霊の命を吸収しながら暴れまわったんだ。

そこで星竜王は神と崇める竜の星に祈りを捧げる事で神の化身である赤き竜を召喚し、三幻魔を封印する事に成功した」

 

「赤き竜……」

 

聖星が星竜王に乗っ取られている間、闇の向こう側で蠢いていた影。

確かに最も巨大な存在は赤い光を放っていた。

あれが聖星のいう神なのだろう。

 

「けど三幻魔の封印を誰かが解こうとしている。

星竜王は俺に封印を守るように依頼して来た。

【スターダスト】は三幻魔に対抗するため星竜王から授かった精霊なんだ」

 

重い体を起こしながら聖星はデュエルディスクに手を伸ばす。

融合デッキから【閃珖竜スターダスト】のカードを取り出し、ヨハンに渡した。

手渡されたカードを見たヨハン達はその姿に思わず声を漏らす。

 

「これがシンクロモンスター……

【スターダスト】に似合っているな」

 

「だろう?」

 

「で、このシンクロモンスターっていうのは?」

 

「今インダストリアルイリュージョン社で極秘に開発されている新たな召喚法に必要なカードさ」

 

「新たなシステム!?」

 

「あぁ」

 

それから聖星はシンクロ召喚の方法。

必要なチューナーモンスターの事。

自分自身がシンクロ召喚プロジェクトとデュエルディスク開発のアドバイザーである事をヨハンに話した。

それを聞いている間のヨハンは本当に子供のように目を輝かせていた。

先程まで闇のデュエルで傷ついていたはずなのにまるで嘘のようだ。

輝く瞳を向けられながら説明を終えるとヨハンは表情を一変させゆっくりと告げる。

 

「聖星。

俺も日本のアカデミアに行く」

 

「え?」

 

突然言われた言葉に聖星は思わず聞き返した。

先程も言った通りこれは聖星が星竜王に頼まれた事でヨハンには一切関係がない。

 

「ヨハン。

これから日本のアカデミアは闇のデュエリスト達が襲撃してくる。

そこに留学するって事はどういう意味か分かって言っているのか?」

 

「当たり前だろう。

三幻魔が復活すれば精霊達が危ない。

それに友達のお前が1人で危険な目に遭うかもしれないんだ。

こんなところでのんびりとデュエルなんて出来るわけないぜ」

 

「駄目だ。

ヨハンの気持ちは嬉しい。

俺には【スターダスト】達がいるから闇の力なんてそんなに脅威じゃない。

けどヨハンは違うだろう?」

 

「確かにそうだ。

だがお前が止めても俺は行くからな」

 

力強い声で断言したヨハン。

聖星は上手く言葉が返せず絶句してしまう。

どんどん頭が痛くなっていくような気がして仕方がない。

痛む頭を押さえながらどうしようかと考える。

 

END

 




中二?
大好物ですがなにか?
星竜王の意思も聖星が負けて闇に飲み込まれるのなら助けないでしょうけど、今回はタイタンが負けたくせに仕掛けてきましたからね。
ヨハンを賭けた不条理なデュエル。
ああいう闇のデュエルも出来るような気がするんだ。


わーい、変なフラグが立っちゃったよー(棒読み)
アニメ沿いって何だっけ?
いやタグにオリジナル展開有って書いてあるからセーフか?
あれ、これヨハンが参戦したらセブンスターズ編カオスだ。


そういえば万丈目グループがアカデミアを買収しようとした話がありましたよね。
買収関連でシンクロ召喚に関する契約を万丈目グループが独占しようとする、っていう案が浮かんだんですけど…
そもそもペガサス会長が万丈目グループをまともに相手にするだろうかと思って止めた。
社長のように風変りではないはずだし。
いや、だがペガサスだってデュエリストだ。
デュエルで決着をつけると言われたら聖星に頼んでデュエルするのか?


それにしても次の制限リストが凄い事になりましたね。
うわぁ~
【羽箒】なんて持ってねーよ。
【現世と冥界の逆転】はあるからまだ良しとしよう。
だが【羽箒】、エラッタせずに帰ってくるとは何事だ。


映画も相棒と社長メインのようですし、ちょっと楽しみです。
他の世代のキャラも出ないかな~
十代とかジムとか遊星とか遊馬とかベクターとか出ないかな~


次回はセブンスターズ編突入です。
さて、誰をダークネスと戦わせるか。


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