遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第二十二話 場に留まる宝石達

「やはり来てしまったか……」

 

「グォオ……」

 

少し遠い目をしながら独り言のように呟いた【星態龍】。

そんな彼に【スターダスト】は答えるように返し、自分を頭に乗せている友人を見下ろす。

周りは欧州人がゆっくりと行きかい、アメリカでも日本でも味わえないお洒落な雰囲気の店が並んでいる。

そんな街並みを見渡しながら聖星は微笑んだ。

 

「文句言うなって。

何とか我儘を言って2週間の短期留学って事にしてもらったんだぜ。

それに折角だし楽しもう」

 

ペガサスの突然の提案で急遽アークティック校に留学する事になった聖星。

三幻魔の事で反対したのだが、相手はビジネス面でも腕を発揮するペガサスだ。

一般市民の聖星が口で敵うわけもない。

 

「オーストラリアが良かった……」

 

「未来に帰ったら父さんに頼んで行くよ」

 

【星態龍】は何故かグレートバリアリーフを見たかったようで、せっかく留学するならオーストラリアにあるアカデミアが良いと言い出した。

それをペガサスに伝えたところ「でしたら~、いっその事2つのアカデミアに留学してはどうデ~ス?」と返って来たので丁重にお断りさせて頂いた。

 

**

 

日の光が差し込む教室の窓。

外の街はレンガ造りに対し、この学校は近未来をイメージした建物である。

古風な街並みにぽつんと佇む近未来の建物に、外観としてどうなのだと色々ツッコミを入れたいが、そこは偉い方々の間で笑顔の攻防があったらしい。

そんな建物にある1つの教室はいつもより盛り上がっていた。

 

「今日くる奴男かな。

女かな?」

 

「俺は女が良いな~

大和撫子だっけ?

ジャパニーズガールは神秘的、っていうだろ」

 

「私も女の子が良いかな。

男の子だと何を話せば良いのか分からないし」

 

「えぇ~

私は男子が良い!」

 

盛り上がっている内容は察する事が出来るだろう。

今日、ここには2週間という短さだが日本のアカデミアから留学生が来るのだ。

日本といえば決闘王武藤遊戯、その生涯のライバル海馬瀬人、その生涯の親友城之内克也。

他にも名高いデュエリスト達の生まれ故郷である。

デュエルモンスターズを学ぶ彼らにとって聖地から来た留学生はとても興味深いものである。

クラスメイトの盛り上がりにクラスの中心的存在であるヨハン・アンデルセンも笑顔を浮かべていた。

 

「俺は男だろうが女だろうが別にどっちでもいいぜ。

やっぱりデュエルが強いか!

重要なのはそこだろう?」

 

ヨハンの言葉に友人達も同意し、小さく頷く。

椅子に座りながら周りの友人を見渡していたヨハンは肩に微かな重みを覚え、そちらに目をやれば大事な家族がいた。

その精霊も嬉しそうに鳴き、ヨハンの頬にすり寄った。

と思えば精霊、【宝玉獣ルビー・カーバンクル】は独特な耳をピンと伸ばし教室のドアを凝視する。

釣られて見るとドアは開かないまま、するりと1匹のドラゴンが顔を覗かせる。

 

「(え、精霊?)」

 

デュエルモンスターズの精霊の姿にヨハンは思わず立ち上がりそうだった。

しかし周りの目があるため、立ち上がりたい気持ちを抑える。

友人の言葉に耳を傾けながらも何度もドラゴンを見るヨハン。

顔を覗かせたのは白いドラゴンで、教室内を見渡したと思ったらすぐに廊下に出てしまった。

 

「(何だったんだ、今の白いドラゴン……!

この辺りでは見た事はないし、あんなカードなんて知らない。

あぁ、くそぉ、これから授業じゃなければ追いかけているところなのに)」

 

別にヨハンだって精霊を見るのが珍しいわけではない。

街を出歩けばカードの持ち主と一緒に浮遊している精霊を見る。

だが先程の精霊は名前も知らない、初めて見るドラゴンだ。

すると教室の扉が開き、教師が入ってくる。

彼女の登場に教室内はすぐに静かになり、彼女の後に続いて1人の少年が入ってくる。

 

「あ」

 

少年の姿を見たヨハンは思わず声を出してしまった。

そのままヨハンは少年を、正確には少年の肩と頭に乗っている2匹の精霊を凝視した。

頭に乗っているのは先程の白いドラゴンで首に巻きつきながら肩に乗っているのは赤いドラゴンだ。

 

「(さっきの精霊はあいつのカードだったのか)」

 

「ルビ~……」

 

きっとあの少年が日本からの留学生。

先程までデュエルに対する強さしか気にしていなかったが精霊のカードを持っているとは思わなかった。

ヨハンは他の生徒より目を輝かせ、食い入るように少年達に熱い眼差しを向ける。

 

「皆さん。

昨日も伝えましたが、彼は日本のデュエルアカデミアから留学して来たアキラ・フドー君です」

 

そこからはテンプレ通りの紹介が行われ、彼女はアキラに目を向けた。

小さく頷いた彼はチョークを手に取り、黒板に文字を書いていく。

アルファベットに親しんだ自分達の文字とは全く異なり、角ばった文字が並んでいく。

彼は丁寧にその文字の読みをローマ字で書いてくれた。

 

「皆さん、初めまして。

先程紹介して頂いたアキラ・フドー……

日本では不動聖星です。

黒板に書いたのは母国の文字、漢字です。

俺の名前は徳のすぐれた人を意味する「聖」とstarを意味する「星」で「アキラ」と読みます」

 

日本語は覚えるのが難しい、と誰かが言っていた気がする。

理由はヨーロッパ等ではアルファベットのみを使用した文字を用いるのに対し、日本語はひらがな、カタカナ、漢字の3種類を組み合わせた文字を使う。

しかも漢字の1字には複数の意味が存在するというのだ。

武藤遊戯がデュエルキングになった時に組まれた特集で豆知識程度に紹介された事を思い出しながら聖星の言葉を聞く。

 

「たった2週間という短い期間ですがよろしくお願いします」

 

はっきりと喋った聖星はそのまま微笑み、ゆっくりと頭を下げた。

 

「では、聖星君。

好きなところに座ってください」

「あ、はい」

 

「なぁ、君!

ここ空いてるからこっちに来いよ!」

 

教師の言葉が終わった途端、ヨハンは立ち上がって自分の隣を指出す。

周りの友人達はニコニコと笑みを浮かべながら賛成するように頷いている。

突然言われた聖星は少し動きを止めたが、すぐに微笑んで頷いた。

 

「誘ってくれてありがとう。

さっき紹介したけど俺は不動聖星。

聖星って呼んで」

 

「いいって事さ。

俺はヨハン・アンデルセン。

俺の事も呼び捨てで構わないぜ」

 

自分の隣に座った聖星に笑みを浮かべながらもヨハンは2匹の精霊にも目をやる。

 

「(ドラゴンの精霊って事はこいつドラゴン族使いか何かか?

くっそぉ、早く実技の授業になんねぇかな)」

 

【ルビー】はすぐにヨハンの肩から降り、聖星の傍に近寄ってドラゴン達を見上げる。

白いドラゴンはゆっくりと音もなく机の上に着地し、興味深そうに【ルビー】を見つめていた。

すると【ルビー】がドラゴンに触れ、驚いたドラゴンは慌てて後ろに下がる。

それが面白く感じたのか【ルビー】はじりじりとドラゴンに近寄り、対してドラゴンはゆっくりと下がる。

 

「おい、【ルビー】」

 

流石に拙いと思ったヨハンは隣にいても分からないくらい小さい声で【ルビー】を呼ぶ。

聴覚が優れている【ルビー】はその声に反応してヨハンに振り返った。

すると聖星の右手が白いドラゴンをすくい上げ、自然に頭の上に避難させる。

 

「え?」

 

その一連の動作を見ていたヨハンは思わず聖星を見る。

聖星は聖星で突然声を上げたヨハンを不思議そうな表情で見た。

 

「どうしたんだ、ヨハン。

俺の顔に何かついてる?」

 

「あ、いや……」

 

傍から見れば、頭を掻くために右手を動かした。

そう思っても疑問に思わないくらい自然な動きだ。

しかし彼は間違いなく白いドラゴンをすくい上げた。

 

「なぁ、聖星」

 

「何?」

 

「君さ、カードの精霊って信じる?」

 

真剣な表情ではなく、冗談を尋ねるような軽いノリで聖星に話しかける。

もし彼の返答が望むものでなければ笑って誤魔化そう。

期待しながらヨハンが尋ねると聖星は小声で返した。

 

「信じるも何も、今俺の肩と頭に乗ってるよ」

 

**

 

ヨハン・アンデルセン。

【宝玉獣】に選ばれしデュエリスト。

ペガサスからその少年がこのアカデミアに在籍しており同じクラスだというのは予め聞かされていた。

最初は誰だろうと思ったが教室に入った途端、肩に精霊を乗せた少年がいたためすぐに分かった。

 

「(ヨハンの目が凄く輝いていて眩しい)」

 

「(精霊を見る人間というのはほんの一握りだ。

数少ない存在と出会えて興奮しているのだろう)」

 

暗に見えていると示唆するような発言をした途端、ヨハンの周りが輝きだした。

初対面の聖星でも喜んでいると分かるくらいのオーラである。

休み時間になってある程度クラスメイト達と言葉を交わしたがやはりヨハンと話すのが殆どだろう。

 

「こいつは【ルビー・カーバンクル】。

そいつらは?」

 

「赤いのが【星態龍】。

白いのが【閃珖竜スターダスト】。

それにしてもまさかにカードに選ばれたデュエリストと同じクラスになれるなんて思わなかったよ」

 

「俺もまさか精霊が見える奴が留学して来るなんて思わなかった。

俺はずっと小さい頃から見えたんだ。

聖星もそうだろう?」

 

「俺?

いや、俺は去年かな。

突然【星態龍】が見えるようになってさ。

あの時は俺、頭がおかしくなったのかなって思って焦ったなぁ」

 

親元から引き離され、いきなり異世界での1人暮らし。

他の人には見えない存在が見える等、非現実的な事が1度に起きて驚いたものだ。

困惑しながらもしょうがないなぁ、の一言で笑った聖星はそれからすぐにシャーク達の中学校に転校した。

1年程前の話なのに随分遠い昔のように思えてしょうがない。

 

「見えなかった奴がいきなり見えるようになるなんて事もあるんだな」

 

「あぁ。

でも丁度転校先の中学にも見える奴が3人くらいいて助かったよ」

 

「3人!?

そんなにいたのか!?

日本って凄いな」

 

「何か、俺が転校して来る前に色々あって見えるようになったんだってさ」

 

「色々?」

 

「流石にそこまでは聞いてない。

けど、曰くつきの場所でデュエルしたら見えるようになったって」

 

遊馬はともかく、小鳥とシャークはバリアンと名乗ったベクターとのデュエルが切っ掛けで見えるようになったらしい。

思い出しながら話すと【ルビー】が再び【スターダスト】にちょっかいを出しにいった。

それを【星態龍】が尾を2匹の間に入れて止めさせる。

 

「曰くつき?」

 

「詳しくは教えてもらってないんだ」

 

「へぇ。

面白そうだな。

そいつらにもカードの精霊は一緒にいるのか?」

 

「あぁ、いたよ。

俺は直接言葉を交わしたことはないけど」

 

遊馬とアストラルが持っていた【№】達には己の意思があるように思えた。

しかし彼らを厳密に精霊と定義するのは正しいのかと問われれば疑問だが、どうせ会う事もないと思ったため、いたと肯定する。

すると再び【ルビー】が【スターダスト】にちょっかいを出した。

 

「こら、【ルビー】」

 

「随分と悪戯好きなんだな」

 

「普段はこんな事する奴じゃないんだけどな。

悪い」

 

【スターダスト】に目を向けて申し訳なさそうに笑うヨハンに【スターダスト】は首を横にする。

別に気にしてはいないようだ。

ヨハンに咎められた【ルビー】は不満そうな顔をする。

するとヨハンのデッキホルダーが光り、中からネコ科のモンスターが現れた。

ネコ科のモンスターは険しい表情を浮かべ、前脚で軽く【ルビー】をどつく。

 

「ちょっと【ルビー】。

おいたがすぎるわよ。

デッキに戻りなさい」

 

「ルビ~……」

 

紫の宝石を身に着けている彼女の言葉に【ルビー】は大人しくデッキに帰る。

見送った彼女は少し困ったような表情を浮かべて聖星達に顔を向ける。

 

「ごめんなさいね、【ルビー】が迷惑をかけちゃって」

 

「俺達は気にしてないよ。

な、【スターダスト】」

 

「グルゥ……」

 

「そう。

私は【アメジスト・キャット】よろしくね」

 

「俺は聖星。

こっちは【閃珖竜スターダスト】に【星態龍】」

 

微笑めば【アメジスト・キャット】も笑みを浮かべて返してくれた。

彼女は少しだけ頭を下げ、そのままデッキに戻って行った。

 

「それよりさ、次の実技授業、俺とデュエルしようぜ聖星!」

 

「あぁ。

むしろこっちからお願いしたいくらいだよ」

 

なんたってヨハンとデュエルするために留学してきたようなものだ。

デュエルのお誘いにあっさり乗った聖星は小さく頷いて微笑んだ。

 

「って事で先生、次の授業、俺と聖星でデュエルします!」

 

「何を言っているの、アンデルセン君。

対戦相手はもうすでに決めています。

駄目です」

 

「そこをなんとか!」

 

「駄目です」

 

聖星が頷くと同時に他の生徒と雑談をしていた担任にヨハンが叫ぶ。

元気のいい声だが当の彼女は真面目な顔で駄目だと言い張った。

しかしヨハンは2度も駄目だと言われても、はいそうですかと素直に聞くような少年ではない。

 

「先生!」

 

「駄目と言ったら駄目です」

 

「ヨハン、昼休みでもデュエル出来るから……」

 

「何言ってるんだよ。

俺は早く君とデュエルしたいんだ!

昼休みなんて遅い、遅い!」

 

この瞬間から担任とヨハンの攻防が始まり、授業のチャイムが鳴り終わるまで続いた。

ギリギリまで粘り、勝利を勝ち取った少年の白熱ぶりには周りから拍手が送られるほど。

彼の粘り強さに聖星はつい微笑み、【星態龍】は呆れた表情を浮かべ、【スターダスト】も尻尾で机を叩いて拍手を送っていた。

 

**

 

「うわぁ、なんか周りのギャラリー凄いな……」

 

「なんたって留学生がデュエルするんだ。

それくらい人は集まるさ」

 

自分達のフィールドを囲う生徒達の数に聖星は圧倒される。

まぁ、留学生がデュエルするのだから注目されるのはおかしくない。

転校した初日もこのような感じにクラスメイトが集まった。

懐かしいなと思いながら聖星は振り返る。

 

「あ、そうだヨハン」

 

「何だ?」

 

「さっき言い忘れてたけど、日本のアカデミアにも見える奴が1人いるから」

 

「まさかの4人目!?

聖星、出会いすぎじゃないのか?」

 

「そうかもな」

 

異世界だけではなく、日本のアカデミア。

更に意図的とはいえこの場所でヨハンとも出会った。

ゆっくりと目を閉じた聖星はすぐに顔を上げ、ヨハンを見る。

目が合うとヨハンも不敵に笑い、声を張り上げた。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺が貰うぜ、ヨハン。

ドロー。

俺は【魔導書士バテル】を守備表示に召喚」

 

「はっ!」

 

「【魔導書士バテル】の効果発動。

このカードが召喚、リバースした時デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】を手札に加える」

 

加わったのはサーチ効果を持つ淡い紫色の書物。

それを手に持った【バテル】は何枚かページを捲り、何かを考えるかのように顎に手を置く。

聖星が使用しているカードの名前にヨハンは首を傾げた。

 

「【魔導】……

あれ、もしかして君のデッキって魔法使い族?」

 

「主軸は魔法使い族だよ」

 

「へぇ。

【スターダスト】達がいるからてっきりドラゴン族かと思ったぜ」

 

「まぁ、ドラゴン族も何枚か入ってるかな。

俺はさっき手札に加えた【グリモの魔導書】を発動。

このカードはデッキに眠る【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加える効果を持つ。

【グリモの魔導書】は1ターンに1度しか使用する事は出来ないし、同名カードを加える事は出来ない」

 

「1ターンに1度しか発動出来ず同名カードのサーチが出来ない……

色々な制約があるんだな」

 

「…………なかったら【神判】が酷い事になるって」

 

「ん?

何か言ったか?」

 

「え?

何も」

 

ヨハンの言葉に聖星は微笑んで誤魔化す。

だが1ターンに1度しか使用する事が出来ないという制約はとても重要だ。

とあるカードはその効果がなかったため猛威を振るったと記憶している。

しかも【魔導書】には発動した分手札が増え、デッキが減る【魔導書の神判】もあるのだ。

当然の制約だろう。

 

「俺が加えるのは【セフェルの魔導書】。

こいつも1ターンに1度しか使用する事が出来ない。

しかも俺の場に魔法使い族が存在しないと発動出来ないんだ」

 

「今、聖星の場には魔法使い族の【バテル】が守備表示」

 

「そう。

俺は手札の【アルマの魔導書】を相手に見せ、【セフェルの魔導書】を発動」

 

「え?

何で俺に見せたんだ?」

 

「【セフェルの魔導書】の発動条件さ。

このカードを発動するために幅の魔法使い族の存在だけじゃない。

手札に存在する【魔導書】を相手に見せる必要もあるんだ」

 

「へぇ」

 

「そしてこのカードは俺の墓地の【魔導書】と名の付く通常魔法カードの効果をコピーする」

 

「コピー?

って事はまたか!」

 

ヨハンは聖星の説明を自ら口にしながら理解する。

彼の楽しそうな驚きの表情に聖星は頷く。

場に発動されている【セフェルの魔導書】は光り輝きながら墓地に存在する【グリモの魔導書】へと姿を変え、その姿も新たな【魔導書】へと変わった。

 

「俺は【グリモの魔導書】をコピーし、デッキから【魔導書廊エトワール】を手札に加える。

さらに俺は手札から【クラウソラスの影霊衣】を捨てて効果を発動」

 

【エトワール】を加えた聖星はすぐ隣にあるモンスターカードを掴み、ヨハンに見せる。

それは青色の縁を持つカードでヨハンはすぐに目を見開いた。

 

「って、それ儀式モンスターだろ!?

召喚もしてないのに効果が発動できるのか!?」

 

「あぁ」

 

小さく頷かれたヨハンは楽しそうに笑った。

儀式モンスターは通常、効果、融合モンスターと比べると種類は少ない。

しかもあったとしても半分以上は効果を持たないものだ。

それなのに手札から発動する効果を持つ儀式モンスター。

出会った事のないカードとの戦いに自然と笑みが零れる。

 

「【クラウソラスの影霊衣】は手札から捨てる事で、デッキから【影霊衣】と名の付く魔法・罠カードを1枚手札に加える。

俺が加えるのは儀式魔法、【影霊衣の降魔鏡】だ」

 

「儀式モンスターに儀式魔法……

儀式を主体にしたデッキか」

 

「正解。

俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

伏せられた1枚のカード。

しかしヨハンは先程加えられたカードの事ばかり考えた。

 

「儀式デッキか……

しかも【影霊衣】に【魔導書】。

どんなカードなのかわくわくしてきたぜ。

俺のターン!」

 

勢いよくドローしたヨハン。

手札に加わったカードを見て笑みを浮かべた彼はそのままそのカードの名前を叫ぶ。

 

「俺は手札から【宝玉獣トパーズ・タイガー】を召喚!」

 

「うおぉ!」

 

パシッ、とカードを置く音と同時にヨハンのフィールドに眩しい光が現れる。

見た事もないような輝きと共に1匹の虎が現れ、ヨハンの前に着地する。

白い毛並みを持つ雄々しい虎はヨハンに振り返りながら声をかけた。

 

「ヨハン。

今日はなんだかいつもより気合いが入っているな」

 

「あぁ。

相手は日本のアカデミアからの留学生。

それに俺と一緒でカードの精霊が見えるんだ。

楽しくて仕方ないぜ」

 

「ふっ。

だったらこの場を盛り上げてやる。

俺様に任せろ」

 

不敵な笑みを浮かべながら聖星達を見る【トパーズ】に対し【星態龍】はつい呟く。

 

「随分と血の気が多そうな虎が現れたな」

 

「おい、そこの赤蛇。

何か言ったか?」

 

「素直な感想を述べただけだ。

気を悪くしたのならすまない」

 

互いに視線が交わると2匹の間に火花が散る。

成程、どうやら彼らは合わないようだ。

しかし先に口出ししたのは他の誰でもない【星態龍】である。

聖星はすぐに肩に乗っている彼を軽くどつく。

 

「【星態龍】」

 

「【トパーズ】。

流石に赤蛇はないだろう」

 

「ふん」

 

なんとか宥めた聖星はヨハンに口パクで謝罪する。

それが伝わったのか気にするな、と返って来た。

【ルビー】だって【スターダスト】に色々ちょっかいを出していたのだ。

これくらい気にもしない。

 

「俺は手札から魔法カード【M・フォース】を発動!

【宝玉獣】の攻撃力を500ポイント上げ、貫通効果を与える!」

 

【宝玉獣トパーズ・タイガー】の元々の攻撃力は1600で魔法カードの効果により2100となる。

【バテル】の守備力はたったの400ポイント。

 

「行くぜ。

【トパーズ・タイガー】で【魔導書士バテル】を攻撃!」

 

前足に力を入れた【トパーズ・タイガー】は勢いよく【バテル】に飛びかかる。

自分に向かってくる白虎に【バテル】は目を見開き、反射的に書物でガードしようとした。

 

「【トパーズ・タイガー】は相手モンスターに攻撃する時、攻撃力を400ポイントアップさせる!」

 

「だったらダメージステップ前にリバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、墓地に存在する【魔導書】を任意の枚数除外する事で効果を発動」

 

「来るか」

 

攻撃の宣言と共に発動された速攻魔法。

聖星の場から紫色の歪みが現れ、その中からゆっくりと2枚の【魔導書】が現れる。

その2枚は別の歪みへと消えていった。

 

「俺は墓地の【グリモ】、【セフェルの魔導書】を除外して【宝玉獣トパーズ・タイガー】を裏側守備表示に変更」

 

【ゲーテの魔導書】から放たれた光は【トパーズ・タイガー】を包み込み、彼は一瞬で裏側守備表示となってしまった。

 

「へぇ。

貫通効果の対策はやっていた、って事か」

 

「(本当は【バテル】を裏側守備表示にしてもう1度効果を使いたかったんだけどね)」

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

【宝玉獣トパーズ・タイガー】の守備力はたったの1000.

突破するのは簡単な数値だ。

手札のカードを見比べた聖星は永続魔法カードを掴む。

 

「俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

俺が【魔導書】と名の付く魔法カードを発動するたびにこの場には魔力が集まり、その魔力によって俺の魔法使い達は攻撃力を100ポイントずつアップしていく」

 

上昇値はたった100だが【グリモの魔導書】から【セフェルの魔導書】、【ヒュグロの魔導書】、そして他のカードを1ターンで発動すれば攻撃力を1500以上上げる事も不可能ではない。

聖星は別の儀式モンスターを手に取り効果を発動した。

 

「手札から【ブリューナクの影霊衣】の効果発動」

 

「また手札誘発の儀式モンスター」

 

「【ブリューナク】は手札から捨てる事で、デッキから【影霊衣】と名の付く儀式モンスターを手札に加える効果を持つ。

俺が加えるのは【ユニコールの影霊衣】だ」

 

未来で猛威を振るった伝説の龍の鎧を纏った戦士。

そのカードが墓地に置かれると同時にデッキから1枚のカードが手札に加わる。

淡い青色の髪を持つ青年もまた何かの鎧を纏っている。

 

「そして手札から儀式魔法、【影霊衣の降魔鏡】を発動。

手札のレベル3【影霊衣の術士シュリット】を生贄に、レベル4の【ユニコールの影霊衣】を儀式召喚する」

 

「なっ、レベル3でレベル4を!?」

 

「そんなの出来るのかよ!?」

 

聖星の説明に一気に周りが騒がしくなる。

通常、儀式召喚に必要な生贄のレベルの数は儀式モンスターの数と同じ、またはそれ以上。

しかし今聖星がしている儀式召喚はそれの逆なのだ。

 

「【影霊衣の術士シュリット】は【影霊衣】の儀式召喚の生贄になるとき、1体で必要なレベル分の生贄になる」

 

「たった1体でどんなレベルの……

つまりレベル3なのにレベル8のモンスターも儀式召喚可能って事か。

へぇ。

聖星、本当に珍しいデッキを使うんだな」

 

ただでさえ儀式使いが少ないのが現実。

理由は例外を除けば儀式魔法、生贄モンスター、儀式モンスターと最低でも3枚のカードが必要になってしまうため。

場合によっては儀式召喚のレベルを合わせるために2枚以上のモンスターカードが必要となる。

何も考えずに手札のみで儀式召喚をしてしまえばあっという間に手札がなくなり、相手を制圧するためのカードがなくなってしまう。

プロデュエルでも危機的状況に陥りやすい儀式を使うデュエリストはいなかった。

 

「凍てつく氷に残された神の獣達、彷徨う魂を鏡に映せ」

 

静かに目を閉じた聖星が召喚の口上を呟くと、彼の目の間に淡い光が集まりだす。

その光の中から【降魔鏡】が姿を現し、その周りを4つの光が回っている。

ゆっくりと回る光を祝福するかのようにフィールドから水が沸き上がり、聖星の場を濡らしていく。

その光達は激しく輝きだし、1人の青年へと姿を変える。

 

「儀式召喚」

 

眩い光にヨハン達は腕で光を遮ろうとする。

そんな光など気にせず聖星は穏やかな声でその名を呼んだ。

 

「【ユニコールの影霊衣】」

 

「ふんっ」

 

名を呼ばれた若き魔法使いは持っている杖を振り回し、その場に佇む。

紫に近い淡い青い髪を持つ青年の登場にヨハン達は一気に盛り上がった。

 

「すげぇ、儀式召喚なんて久しぶりに見たぜ!」

 

「儀式召喚の生贄になった【シュリット】の効果発動。

このカードが生贄にされた場合、デッキから戦士族の【影霊衣】儀式モンスターを1枚手札に加える。

俺は【ブリューナクの影霊衣】を加える」

 

【ユニコール】の前に現れたのは赤と青の髪を持つ少年。

彼はニカッと歯を見せ、何かの呪文を唱えだす。

すると彼の足元に何かの紋章が現れ、氷のようなオブジェがその紋章から出てくる。

氷はすぐにひびが入って割れてしまい、中から【ブリューナクの影霊衣】が姿を見せる。

 

「そして俺は【アルマの魔導書】を発動。

このカードがゲームから除外されている【魔導書】を1枚、俺の手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】を選択」

 

【アルマの魔導書】の背後に歪みが現れ、その中から紫色の書物が降ってくる。

書物は金色に光りだし、そのまま1枚のカードとなって聖星の手札に来る。

役目を終えた【アルマの魔導書】は淡い緑色の輝きとなり、【魔導書廊エトワール】の魔力となる。

 

「手札の【グリモの魔導書】の効果発動。

デッキから【トーラの魔導書】を手札に加える」

 

手札に加えたのは魔法使い族に魔法または罠カードの耐性をつける速攻魔法。

ヨハンの伏せカードを警戒したうえでの選択だ。

 

「行くぜ、ヨハン。

バトル」

 

「さぁ、来い!」

 

「【ユニコールの影霊衣】で裏側守備表示の【宝玉獣トパーズ・タイガー】に攻撃」

 

静かな声で宣言すると【ユニコール】は杖を振りかざし、裏側守備となっている【トパーズ・タイガー】に向かって魔法を放つ。

光ながら表側守備表示となった【トパーズ・タイガー】はその魔法によって氷漬けとなり、そのまま爆発する。

攻撃反応型の罠ではなかった事に安心していると、爆炎の向こう側に黄色の光が輝いた。

 

「え?」

 

爆発の時に生じる光とは違う光。

ゆっくりと煙が晴れていくと、ヨハンの場に威勢のいい【トパーズ・タイガー】の姿はない。

だがその代わりに照明の光を反射して輝く1つの宝石が場に存在した。

 

「宝石……?」

 

何故、宝石が存在する。

一瞬伏せカードの効果かと思ったが、未だに伏せカードは伏せられている。

ならば【トパーズ・タイガー】の効果か。

そう考えているとヨハンが不敵な笑みを浮かべた。

 

「残念だったな、聖星。

【宝玉獣】は破壊されても宝玉として場の魔法・罠カードゾーンに留まる能力を持つ。

つまり、戦闘破壊だけじゃ無駄って事だぜ!」

 

「……これが【宝玉獣】……」

 

破壊しても場に留まり続ける。

しかもこんなに綺麗な形でだ。

自然と聖星も笑みを浮かべ手札のカードを掴んだ。

 

「だったら俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「俺のターン!」

 

声を張り上げたヨハンは勢いよくカードをドローする。

自分が引いたカードにヨハンは笑い、そのカードを発動した。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

俺が捨てるのは【宝玉獣アメジスト・キャット】と【アンバー・マンモス】だ」

 

墓地に送られたのは2体の獣族モンスター。

その中には先程【ルビー】を引きずって行った彼女もいる。

 

「さらに手札から【宝玉の恵み】を発動!

墓地に眠る【宝玉獣】2体を宝玉として俺の場に出す!」

 

「え?

っていう事は【アメジスト・キャット】と【アンバー・マンモス】が場に戻ってくるのか」

 

「そういう事!」

手札交換に使用し、墓地に捨てたカードを宝石として場に出す。

実に無駄のないコンボだ。

そう思っていると紫色の宝石とオレンジ色の宝石が光りを発しながらヨハンの場に現れた。

これでヨハンの魔法・罠カードゾーンには伏せカードを含めて4枚存在する。

 

「手札から魔法発動、【レア・ヴァリュー】。

俺の場に宝玉が2個以上あるとき、相手はその中から1枚選び、選んだ宝玉を墓地に送る。

そして俺はデッキからカードを2枚ドロー。

さぁ、選んでくれ聖星」

 

「【トパーズ・タイガー】を選ぶよ」

 

聖星が選択した【トパーズ・タイガー】は輝きを失い、そのままデュエルディスクから外される。

 

「【トパーズ】、お前の犠牲、無駄にはしないぜ」

 

「当たり前だろう、ヨハン。

お前らも。

ヨハンを負かすような事になったら承知しない」

 

仲間の犠牲に敬意を払うようにヨハンは呟き、半透明の姿で場に出た【トパーズ・タイガー】は誰かに向かって言い放つ。

彼の姿が消えるとヨハンはカードを2枚ドローし、再び笑みを浮かべた。

 

「さらに【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドロー!」

 

「(あれ、なんかデジャブ…………)」

 

1ターンにドローカードを3回も発動した。

聖星自身、している事もあるがどうしてもこの流れは日本にいる十代を思い出してしまう。

 

「魔法カード【宝玉の導き】を発動!

俺の場に宝玉が2個以上ある時、デッキから【宝玉獣】を特殊召喚する!

来い、【宝玉獣サファイア・ペガサス】!!」

 

ヨハンの声とともに現れたのは深い青色の宝石。

その宝石は光り輝くと青い角を持つ純白のペガサスとなった。

知的そうな瞳を持つ【サファイア・ペガサス】は聖星の場に存在する【ユニコール】、肩と頭に乗っている2匹のドラゴンに目をやった。

 

「ヨハン。

どうやら面白そうな少年と戦っているようだな」

 

「あぁ」

 

数少ない儀式使いに精霊のカードを持ち、さらには自分達の姿を認識できる。

これを面白いと言わずなんと言うのだろう。

 

「【サファイア・ペガサス】は召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時デッキから【宝玉獣】を宝玉として場に出す事が出来る。

俺は【ルビー・カーバンクル】を選択。

サファイア・コーリング!」

 

【サファイア・ペガサス】の青い角が輝きだし、その輝きはヨハンの場に赤色の宝石を出現させた。

 

「俺は魔法カード【宝玉の契約】を発動。

俺の場の宝玉を1つ目覚めさせる!

頼む、【ルビー】!」

 

「ルビビッ!」

 

発動されたカードの力により【ルビー】は宝石の殻を破り、中から姿を現す。

その攻撃力はわずか300と【ユニコール】よりかなり下である。

 

「(俺の場には【エトワール】の効果により攻撃力が2500になっている【ユニコール】がいる。

それなのに攻撃表示での特殊召喚。

これは何かあるな…………)」

 

「【ルビー】の効果!

こいつが特殊召喚に成功した時、俺の場の宝玉を可能な限り特殊召喚する!」

 

「って事は……

【アメジスト】と【アンバー・マンモス】が……」

 

「そーいう事!

【ルビー】、ルビー・ハピネス!」

 

【ルビー】はやる気の表情を出し、全身の毛を逆立てて宝石がついている尾を高く上げる。

その尾から赤い光が結晶となっている2体に向かって放たれる。

先程のように宝石はじょじょにひびが入っていき、中に眠っていた精霊が目を覚ました。

 

「来い、【アメジスト・キャット】!」

 

「にゃあ!」

 

【アメジスト・キャット】は軽い体を一回転させて着地する。

 

「【アンバー・マンモス】!」

 

「うぉお!」

 

【アンバー・マンモス】はその巨体を勢いに任せて着地した。

 

「あら、聖星、ヨハン。

早速デュエルしてるの?」

 

「当ったり前だろ!

日本のデュエルアカデミアからの留学生。

しかも俺と同じなんだ。

いの一番に挑まない理由がないぜ」

 

「ヨハンらしいな」

 

「へへっ」

 

実に楽しそうに笑いながら言葉を交わすヨハン達。

その様子は見ている側も和むような会話で聖星も自然と笑みが浮かんだ。

自分は一目があるときは表情を変えず心の中で【星態龍】と会話している。

しかしヨハンは普通に言葉を発し、言葉を返す。

 

「(ヨハンって凄いなぁ……)」

 

「(感心するような事か?

相手の場にモンスターは4体。

攻撃力は圧倒的に【ユニコール】が上だが、全員攻撃表示だ。

少しは警戒しろ)」

 

「(いや、俺だったら堂々とあんな風には会話できないから羨ましいなぁ、と思って)」

 

「(遊馬とアストラルも堂々と会話していただろう)」

 

「(そりゃそうだけどさ)」

 

「手札から魔法発動!」

 

何を仕掛けてくるか分からない中、ヨハンの声に聖星は現実に引き戻される。

彼の場を見れば1枚の魔法カードが表側表示になっていた。

それは【野性解放】。

 

「俺の場の獣族モンスター1体の攻撃力に、その守備力を加える!

俺は【サファイア・ペガサス】を選択。

【サファイア・ペガサス】の攻撃力1800に守備力の1200を加えるぜ!」

 

「つまり攻撃力は3000.

【ユニコール】を上回った」

 

「そーいう事だ!

バトル!

【サファイア・ペガサス】で【ユニコールの影霊衣】を攻撃!

サファイア・トルネード!」

 

【サファイア・ペガサス】の周りに赤いオーラが現れ、彼の攻撃力は3000となる。

そのまま【サファイア・ペガサス】は大きく翼を羽ばたき【ユニコールの影霊衣】に向かって風を叩き付ける。

強風の重圧に【ユニコール】は険しい表情を浮かべ、苦しそうに砕け散った。

そのまま風は聖星に襲い掛かり、彼のライフを500ポイント奪う。

 

「くっ!」

 

「【アメジスト・キャット】、【魔導書士バテル】に攻撃!

アメジスト・ネイル!」

 

「にゃあ!」

 

戦闘態勢に入った【アメジスト・キャット】は低い姿勢になり、一気に飛び上がる。

攻撃力1200の彼女は【バテル】を押し倒し、そのまま彼を鋭利な爪で切り裂いた。

 

「さらに罠発動、【キャトルミューティレーション】を発動!」

 

「あ、伏せカードってそれだったんだ」

 

ヨハンが発動したのは1匹の獣から魂が出ている罠カード。

場に存在する獣族モンスターを1体手札に戻し、その後同じレベルの獣族モンスターを1体特殊召喚する効果を持つ。

バトルフェイズ中の特殊召喚となるので、当然攻撃の参加も可能である。

 

「俺は【サファイア・ペガサス】を手札に戻す。

そして戻したモンスターと同じレベルのモンスターを手札から特殊召喚する」

 

「(【野性解放】を使用したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

けど1度手札に戻した事でその効果は無効になり、【サファイア・ペガサス】は破壊されない。

しかも特殊召喚されるモンスターは同名カードでも可能だから…………)」

 

「特殊召喚、【サファイア・ペガサス】!」

 

「はぁ!」

 

「(だよな)」

 

再び場に現れたペガサス。

しかも彼の効果は特殊召喚でも使用できる。

【野性解放】で強化して相手モンスターを破壊し、【キャトルミューティレーション】で手札に戻して破壊をリセットし、特殊召喚。

そしてデッキから【宝玉獣】を呼ぶ。

実に理想的なコンボである。

 

「【ペガサス】、サファイア・コーリング!」

 

青い光によって導かれたのは緑色の宝玉。

向こう側まで見る事が出来る程澄んだ緑色を持つという事はエメラルドだろう。

他にどんな宝石があるのだろうと考えているとヨハンの声が響く。

 

「【サファイア・ペガサス】でダイレクトアタック!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

「また手札誘発効果!」

 

【サファイア・ペガサス】は再び羽ばたき、上空から聖星に向かって風を叩き付ける。

しかしその風以上の轟音がフィールドに響き、背中にブースターをつけているかかしが聖星の前に出る。

風はかかしに直撃し、聖星には届かなかった。

 

「【速攻のかかし】は相手モンスターのダイレクトアタック時、手札から捨てる事でバトルフェイズを強制終了するんだ」

 

「あぁ~

ちくしょう、折角大ダメージを与えるチャンスだったのになぁ。

俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

カードを伏せたヨハンは聖星の手札を見る。

今、彼の手札は1枚。

このドローで2枚となり、その2枚でこの状況を変えなければならない。

 

「(さぁ、どうやってこの状況をひっくり返す、聖星?)」

 

「俺のターン、ドロー。

手札から【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、手札の【影霊衣の大魔道士】と【影霊衣の降魔鏡】を墓地に捨てる」

 

「え、儀式魔法を?

何を考えてんだ?」

 

聖星のデッキは儀式が主軸の構成。

その儀式に必要な儀式魔法を墓地に捨てるという事は普通に見たら愚かな行為だ。

しかしそれは言い換えれば儀式魔法より優先すべきカードが手札に存在するという事。

そう考えたヨハンだが、その読みは残念ながら外れている。

 

「墓地に存在する【影霊衣の降魔鏡】の効果発動」

 

「なっ!?

墓地から魔法カード!??」

 

「俺の場にモンスターが存在しないとき、墓地に存在するこのカードと【影霊衣】と名の付くモンスターを1枚除外する事でデッキから【影霊衣】と名の付く魔法・罠カードを1枚手札に加える。

俺はさっき墓地に捨てた【大魔道士】を除外する」

 

墓地から現れたのは【影霊衣の降魔鏡】と大柄の魔道士。

2枚のカードが歪みへと吸い込まれるのを確認した聖星は新たな儀式魔法を加える。

 

「俺が加えるのは儀式魔法【影霊衣の反魂術】」

 

加えたのは1人の女性が描かれている儀式魔法。

新たな魔法カードに次はどんなカードが来るのかヨハンは待った。

すると聖星の背後に大きな歪みが現れる。

と思えば先程除外された【大魔道士】が姿を現す。

 

「何だ?」

 

「除外された【大魔道士】の効果さ。

こいつは除外された時、デッキから【影霊衣】モンスターを1枚墓地に送る事が出来る。

俺は【影霊衣の術士エグザ】を墓地に送る」

 

宣言したのは人の形をした獣のようなモンスター。

青い体に武器を装備したモンスターはそのまま墓地へと送られる。

 

「そして俺の墓地にはもう1枚【降魔鏡】がある」

 

「へぇ。

一気に2枚もサーチか」

 

「あぁ。

俺は墓地に存在する【エグザ】と【降魔鏡】を除外し、儀式魔法【影霊衣の降魔鏡】を手札に加える。

そして除外された【エグザ】の効果発動」

 

再び開かれた除外ゾーンへの歪み。

【降魔鏡】はすぐに吸い込まれていったが、【エグザ】はその場に留まった。

 

「【エグザ】は除外された時、除外ゾーンに存在する【エグザ】以外の【影霊衣】モンスターを特殊召喚する。

戻ってこい、【影霊衣の大魔道士】」

 

聖星の場に【影霊衣】の紋章が現れ、その光の中からゆっくりと【大魔道士】が姿を現す。

攻撃力は1500だが【エトワール】の効果を含めて1700となった。

 

「手札の【ブリューナクの影霊衣】の効果を発動。

デッキから【ヴァルキュルスの影霊衣】をサーチ。

そして3枚目の【影霊衣の降魔鏡】を発動」

 

「何?

(今あいつの手札は4枚。

そのうち2枚は儀式魔法、1枚はさっき加えたレベル8の【ヴァルキュルスの影霊衣】。

今場にはレベル4の【影霊衣の大魔道士】しか存在しない。

つまり残りの手札はレベル4またはそれ以上のモンスターか)」

 

これで聖星の手札には儀式魔法だけになり、実質0枚になる。

どんなモンスターを召喚するのかと思うと、聖星は笑みを浮かべた。

 

「残念だけどヨハン。

【影霊衣の降魔鏡】で使用される生贄モンスターは【影霊衣】モンスターに限り、俺の手札、場だけじゃなく、墓地のモンスターでも可能なんだ」

 

「何だって!?」

 

聖星の説明にヨハンだけではなく、周りの生徒、【宝玉獣】達も目を見開く。

 

「墓地でも発動できる魔法カードに、墓地のモンスターも生贄に出来る儀式魔法か。

初めて見るな……」

 

「滅茶苦茶なカードじゃないか」

 

「流石日本からの留学生……

私達の常識を悉く覆していくわね」

 

「ルビィ~」

 

手札で発動する儀式モンスター。

墓地で発動する魔法カード。

墓地のモンスターも儀式に使える魔法カード。

どれもこれも今までの常識にはないものばかり。

周りの驚く反応に聖星は微笑み、墓地に存在する【影霊衣】を呼び出した。

 

「俺は墓地のレベル4【ユニコールの影霊衣】を除外し、場のレベル4の【影霊衣の大魔道士】を生贄に捧げる」

 

聖星が宣言すると【降魔鏡】が場に現れる。

その周りには8つの光が存在し、半分は淡い水色、もう半分は暗い水色である。

8つの光は1つとなり【ユニコール】の儀式召喚時以上の輝きを放った。

 

「嘲笑う幻影を手に入れし魔術師よ、闇の幻影を希望へ繋げる光に変えよ。

儀式召喚。

【ヴァルキュルスの影霊衣】」

 

「ふんっ」

 

光の中から現れたのは厳つい表情を浮かべる男性。

彼は【ユニコール】とは違い、力強く持っている杖を振り回さずそのまま地に着ける。

だが威厳ある姿に【ユニコール】以上の雰囲気を感じ取り、圧倒されてしまう。

 

「さらに俺は魔法カード、【儀式の準備】を発動。

デッキからレベル7以下の儀式モンスターを加える。

俺は【グングニールの影霊衣】を加える」

 

新たに加えたのは1人の女性のカード。

先程加えたもう1枚の儀式魔法で特殊召喚したいところだが、どうもそれは出来ない。

【エトワール】の効果で攻撃力が200ポイントアップし、3100となっている【ヴァルキュルス】を見上げてからヨハンに目をやる。

 

「行くぞ、ヨハン」

 

「それならバトルフェイズ前に永続罠【宝玉の集結】を発動!」

 

「【宝玉の集結】……?」

 

ヨハンが発動したカードに聖星は首をかしげる。

そのカードには7体のモンスターが描かれており、そのうちの5体はこのデュエルで姿を見せてくれた精霊達だ。

 

「俺の場の【宝玉獣】が効果または戦闘で破壊された時、デッキから新たな【宝玉獣】を特殊召喚するのさ」

 

「え?

場のカードは減らず、デッキは減る永続罠?」

 

「ま、そういう事になるな」

 

ヨハンの言葉に聖星は少しだけ考える。

恐らくあのカードを発動したという事はヨハンのデッキにはまだ【宝玉獣】が眠っている。

7体のうち4体はモンスターゾーン、墓地、魔法・罠ゾーンに1体ずつ。

つまり最後の1体がデッキに残っているはずだ。

 

「(けど攻撃力300の【ルビー・カーバンクル】がいるんだ。)

【ヴァルキュルスの影霊衣】で【ルビー・カーバンクル】に攻撃」

 

「【アンバー・マンモス】の効果発動!」

 

「え?」

 

「俺の場の【宝玉獣】が攻撃対象になった時、攻撃対象を【アンバー・マンモス】に変更する!」

 

「っ!」

 

杖を振り上げた隻眼の【ヴァルキュルス】は【ルビー・カーバンクル】に魔法を解き放つ。

水色に輝く魔法は真っ直ぐ【ルビー】に向かうが、巨体の【アンバー・マンモス】が前に出てその攻撃を受けた。

 

「ぐぅうう!!」

 

体中に電撃が走るような感覚に【アンバー・マンモス】は苦しそうな声を出し、粉々に砕け散る。

同時にヨハンのライフが4000から1400引かれ2600となる。

受けたダメージで体がよろけるが、ヨハンはすぐに立ち直り場を見た。

【宝玉の集結】の隣には宝玉となった【アンバー・マンモス】がいる。

 

「すまない、【アンバー・マンモス】……

【宝玉の集結】の効果によりデッキから【宝玉獣】を特殊召喚する!

現れよ、【コバルト・イーグル】!」

 

ヨハンが名前を呼ぶとデッキから深い青色の光が溢れ出し、それが1匹の鳥へと姿を変える。

大きな茶色の翼を羽ばたかせたモンスターは旋回しながら叫ぶ。

 

「よっしゃぁあ!

やっと出番きたぁ!!

待ってたぜぇえ!!

もう、俺が出る前に決着がつくんじゃないかって焦ったぁ!!」

 

「(テンション、高いなぁ……)」

 

「(馬鹿丸出しともいう)」

 

「(失礼だぞ)」

 

どうやらやっと場に出してもらえたのが嬉しいらしく、【コバルト・イーグル】は大げさと言いたくなるくらいのハイテンションで喋り出す。

ダメージは与えたが、結局モンスターの数は減っていない。

次のターン、どのように動いてくるか予想はつかないが聖星は動いた。

 

「だったらメインフェイズ2に【ヴァルキュルスの影霊衣】の効果発動。

場と手札のモンスターを2枚まで生贄に捧げ、捧げた分だけデッキからカードをドローする。

俺は場の【ヴァルキュルスの影霊衣】と手札の【グングニールの影霊衣】を生贄にし、カードを2枚ドロー」

 

場に存在する【ヴァルキュルスの影霊衣】は杖で自分の周りに円を描き、光柱が立つ。

同じような光も手札の【グングニールの影霊衣】を包み込み、聖星はデッキからカードをドローした。

 

「手札から儀式魔法【影霊衣の反魂術】を発動。

手札の【影霊衣の術士シュリット】を生贄に捧げ、墓地に存在する【影霊衣】を儀式召喚する!」

 

「墓地からの儀式召喚!?」

 

「【シュリット】は【影霊衣】の儀式召喚に必要なレベル分の生贄となる。

【シュリット】のレベルは3で【グングニール】のレベルは7だけど儀式召喚させてもらう!」

 

手札から現れた【シュリット】。

彼の目の前に【影霊衣】のシンボルマークが現れる。

ボロボロとなっているそれに【シュリット】は自分の命を吹き込むかのように光を分け与え始めた。

 

「闇に閉ざされ眠りにつく氷の竜よ、滅びの鎧となり今ここに甦れ!」

 

【シュリット】の体が半透明になっていくにつれ、傷だらけだった紋章は修復されていく。

それを中心に眠っている女性が現れ、ゆっくりと目を覚ます。

すると女性の衣服は氷のような冷たさを纏う鎧となり、彼女はそのまま立ち上がった。

 

「儀式召喚、【グングニールの影霊衣】!」

 

「はぁ!」

 

氷の翼を広げた【グングニール】はそのまま杖をヨハン達に向ける。

だがヨハンは自分達に向けられる敵意より、彼女が場に出てきた方法に目を輝かせた。

 

「凄い、新たな儀式モンスター!

しかも墓地からの儀式召喚だなんて!

聖星って本当に面白い奴だな!」

 

「ありがとう。

そう言ってくれて嬉しいよ。

これで俺はターンエンド」

 

「いいや、まだ終わらせないぜ。

エンドフェイズ時、【宝玉の集結】のもう1つの効果発動!」

 

「え?」

 

「このカードを墓地に送る事で、俺の【宝玉獣】と聖星のカードを手札に戻す!

俺は【サファイア・ペガサス】と【グングニールの影霊衣】を選択する!」

 

ヨハンの言葉に【サファイア・ペガサス】の角が光り、彼は大きな翼を羽ばたかせる。

何度も羽ばたかせる事でさらに強い風を生み出し、【グングニール】を吹き飛ばそうとする。

もしこの効果を通せば聖星の場にモンスターは存在せず、ヨハンの場にはモンスターが3体となる。

 

「流石にそれは遠慮したいな。

リバースカードオープン、速攻魔法【トーラの魔導書】」

 

「それはあの時加えた……!」

 

「このカードは俺の場に存在する魔法使い族モンスターに魔法または罠カードの耐性を付けさせる。

【グングニールの影霊衣】に罠カードの耐性を付ける。

悪いけど、手札に戻るのは【サファイア・ペガサス】だけだ」

 

強風により重い鎧ごと吹き飛ばされそうだった【グングニール】だったが、目の前に現れた書物が発する光に守られる。

そのまま【サファイア・ペガサス】は飛び立ち、ヨハンの手札に戻る。

 

「ちぇ。

モンスターを手札に戻せなかったか……

だったら俺のターン、ドロー」

 

仮に【グングニールの影霊衣】を手札に戻せて入れば【サファイア・ペガサス】を通常召喚し、ダイレクトアタックをしてライフを0にする事が出来た。

そう簡単にいかない事に残念そうに呟くが、内心はこうでなくてはと興奮していた。

 

「【宝玉獣コバルト・イーグル】の効果発動。

俺の場の【宝玉獣】を1体、俺のデッキに戻す。

戻れ、【ルビー】」

 

「ルビッ!」

 

ヨハンの言葉に【ルビー】は赤い光となってヨハンのデッキに戻っていく。

これで彼の場のモンスターは【コバルト・イーグル】と【アメジスト・キャット】の2体のみとなってしまった。

魔法・罠ゾーンに存在する宝石は名前がまだ分からないエメラルドと【アンバー・マンモス】の2つ。

 

「(【ルビー】は特殊召喚された時、宝石となっている【宝玉獣】を目覚めさせる。

【サファイア・ペガサス】は召喚、特殊召喚に成功した時デッキ、手札、墓地の【宝玉獣】を結晶として場に出す効果……)」

 

ヨハンの手札には【サファイア・ペガサス】。

デッキには【ルビー・カーバンクル】。

ヨハンが次のどのような行動を起こすか嫌でも分かる。

 

「(あれ、でも今ヨハンの場に【宝玉獣】は2体。

【サファイア・ペガサス】を召喚、【ルビー】を特殊召喚したら残りのモンスターゾーンは1つだから……

あのエメラルドの宝石がどんなモンスター効果を持っているかによるな)」

 

「【サファイア・ペガサス】を召喚。

そして【ペガサス】の効果で【ルビー】の宝玉を魔法・罠ゾーンに置く。

さらに魔法カード【命削りの宝札】を発動。

手札が5枚になるよう、デッキからカードをドローする」

 

「ここで手札増強カード……」

 

「魔法カード【宝玉の契約】を発動!

【アンバー・マンモス】を特殊召喚する!」

 

「はっ!」

 

宝石となっている【宝玉獣】を目覚めさせる魔法カード。

それをヨハンは【ルビー】ではなく、【アンバー・マンモス】に使用した。

再び現れた巨体のモンスターを聖星は見上げる。

 

「さらに【野性解放】を発動!

【サファイア・ペガサス】の攻撃力に守備力を足す!

これで攻撃力は3000だ!」

 

「はぁああ!」

 

再び赤いオーラに包まれる【サファイア・ペガサス】。

彼の体が一回り大きくなり、【グングニール】は一歩下がる。

今、【グングニールの影霊衣】の攻撃力は魔力カウンターが3つたまっている【エトワール】の英知を受けて2800.

攻撃力3000は僅かながらも真正面から闘って敵わない相手だ。

 

「それは勘弁。

【グングニールの影霊衣】の効果発動。

手札の【影霊衣の舞姫】を墓地に捨て、【サファイア・ペガサス】を破壊させてもらう」

 

「何?」

 

「【グングニール】、滅びの祈り」

 

【グングニール】はその場に杖を突いて膝を着き、何かの呪いを呟き始める。

攻撃力が上昇し、一回り大きくなった【サファイア・ペガサス】は突然地に伏せ氷漬けとなる。

 

「畜生、無理だったか……

だったら俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドロー」

 

ゆっくりとカードをドローした聖星は引いた2枚の中に見慣れたカードの姿を見つけ、微笑んだ。

 

「魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【ヒュグロの魔導書】を手札に加える」

 

場に現れた【グリモの魔導書】は淡い光を発しながら赤色の書物へと姿を変える。

それと同じカードが聖星の手札に加わった。

役目を終えた【グリモの魔導書】の英知は新たな魔力カウンターとなり、上空へと浮かび上がる。

これで【エトワール】に乗っている魔力カウンターは4つだ。

 

「魔法カード【埋葬呪文の宝札】を発動。

このカードは墓地に存在する魔法カードを3枚除外する事で発動できる。

俺は【グリモ】、【アルマの魔導書】、【儀式の準備】を除外。

そしてデッキからカードを2枚ドロー。

魔法カード【ヒュグロの魔導書】を発動。

このカードの効果により俺の場の魔法使い族1体の攻撃力は1000ポイントアップ」

 

今、聖星の場に存在するのは【グングニールの影霊衣】。

彼女は氷の翼を大きく広げ、攻撃力を一気に上昇させた。

表示された攻撃力にヨハンは呟く。

 

「今【魔導書廊エトワール】には魔力カウンターが4つ。

それで【ヒュグロの魔導書】を発動すればさらに1つ増え、【グングニールの影霊衣】の攻撃力は2500から4000になる」

 

「そういう事だ。

さらに【グングニールの影霊衣】の効果発動。

手札の【影霊衣の万華鏡】を捨て、左側の伏せカードを破壊」

 

聖星がカードを指定すると、【グングニール】はそのカードに向かって攻撃する。

カードはじょじょに氷漬けとなっていく。

だがヨハンは不敵な笑みを浮かべてそのカードを発動させた。

 

「残念だな。

速攻魔法【E・フォース】!

宝玉となっている【ルビー・カーバンクル】を特殊召喚する!」

 

大きくEと書かれているカードの発動により、【ルビー】の宝石が再び輝きだす。

砕け散った欠片と共に場に現れた【ルビー】は宝石の付いた尾を高く上げる。

 

「【ルビー】の効果で【サファイア・ペガサス】を特殊召喚!」

 

「はぁ!」

 

「それなら【グングニールの影霊衣】で【宝玉獣アンバー・マンモス】に攻撃!」

 

「かかったな!

罠発動、【宝玉の陣-琥珀】!

【アンバー・マンモス】の攻撃力は俺の場の【宝玉獣】の攻撃力の合計分となる!」

 

「え?」

 

大きく杖を振りかざす【グングニール】。

しかしヨハンの発動したカードの効果により、【宝玉獣】達の宝石から光が放たれ【アンバー・マンモス】へと集まっていく。

 

「【アンバー・マンモス】の攻撃力1700に【ルビー】の300と【アメジスト】の1200、【コバルト】の1400、【サファイア・ペガサス】の1800を足すから……

攻撃力6400?」

 

「そういう事だ!」

 

光は【アンバー・マンモス】の額の琥珀へと吸い込まれていき、彼の巨体がさらに巨大となっていく。

【グングニール】の攻撃を【アンバー・マンモス】は鼻で弾き飛ばし、そのまま勢いをつけ【グングニール】を踏みつぶした。

その瞬間、爆発が生じ聖星のライフが3500から2400削られ残りのライフが1100となる。

 

「くっ……!

だったらメインフェイズ2だ。

俺の場にモンスターが存在しない事により墓地に存在する【影霊衣の反魂術】の効果発動。

【影霊衣の大魔道士】と一緒に除外し、デッキから儀式魔法【影霊衣の反魂術】を手札に加える」

 

「それも【降魔鏡】と同じように儀式魔法を手札に加えるのか……!」

 

正確にいえば【影霊衣】と名の付く魔法カードを加えるのだ。

しかし聖星が知っている限り【影霊衣】と名の付く魔法カードは儀式魔法しかないので、あながち間違いではない。

 

「ゲームから除外された【大魔道士】の効果によりデッキから【影霊衣の戦士エグザ】を墓地に送る」

 

「あれ、待てよ……

確か聖星の墓地には3枚目の【降魔鏡】があったよな。

しかも除外したモンスターと、その効果で墓地に送ったモンスターはさっきのターンのモンスターと同じ。

という事は……」

 

「ヨハンが考えている通りさ。

さらに墓地の【影霊衣の降魔鏡】の効果を発動。

【エグザ】と【降魔鏡】を除外し、デッキから儀式魔法【影霊衣の万華鏡】を手札に加える。

そして【エグザ】の効果により、除外されている【影霊衣の大魔道士】を特殊召喚。

カードを1枚伏せて、ターンエンド…………」

 

「【大魔道士】の攻撃力は【エトワール】の効果を含めて2000。

【サファイア・ペガサス】よりちょっと上かぁ。

俺のターン、ドロー!」

 

ドローしたカードを見ながらヨハンは先程のターンを思い出す。

本来なら【宝玉の陣-琥珀】の効果により、相手モンスターを破壊するだけではなく3000以上の戦闘ダメージを与える事が出来た。

しかし聖星が【グングニールの影霊衣】の攻撃力を1100上げた事で彼のライフは上昇値と同じ数値分残ってしまった。

一筋縄ではいかないと思いながらカードを発動した。

 

「俺は手札から装備魔法【宝玉の解放】を発動!

【アンバー・マンモス】の攻撃力を800ポイントアップ!」

 

「罠発動。

【和睦の使者】。

これで俺の場のモンスターは戦闘では破壊されず、ダメージも受けない」

 

「だったら俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

【アンバー・マンモス】の攻撃力を1700から2500にすれば攻撃力2000の【影霊衣の大魔道士】を突破する事は出来る。

だがあのようなカードを発動されてはバトルしても無意味である。

ターンエンドと宣言した時、聖星が安心したように微笑むと肩にいる【星態龍】が聖星を尾で軽く叩いた。

【スターダスト】は叩かれた部分を撫でている。

和む光景にヨハンはつい笑みを浮かべてしまったが、同時に疑問に思った。

 

「(それにしてもかなりターンは経過しているのに一向に【スターダスト】と【星態龍】を召喚する様子がないなぁ。

何でだ?)」

 

魔法使い族デッキと問えばドラゴン族も入っていると返してきた。

てっきりそれはあの2匹を指している事だと思い込んでいたが……

不思議そうに考えていると、目の前にいる【宝玉獣】達と【星態龍】達を見比べてある考えに至った。

 

「あれ、もしかして聖星。

【スターダスト】達を召喚するカードがデッキに入ってないんじゃないのか?」

 

「え?

どうしてわかったんだ?」

 

まさかの問いかけに聖星は首をかしげる。

自分の予想が当たっていたことにヨハンは真面目な顔になり、自分の家族と彼の仲間を交互に見る。

 

「やっぱりな。

【スターダスト】達には戦う闘志が全く見えない。

【宝玉獣】達のように俺を見守る感じはするが、どちらかというと周りのように傍観者のような雰囲気だ。

普通気付くぜ」

 

「へぇ」

 

確かにエクストラデッキにこの2体のカードがあれば、【星態龍】達も今か今かと闘う気ではいただろう。

しかし最初から入っていない以上、自分の出番はないと分かっているので傍観者として会話する事しかない。

 

「そう、【スターダスト】と【星態龍】を召喚するためにはとあるカードが必要なんだ。

けどそれが使えなくてさ」

 

「何で?

まさかまだカードになってないとか?」

 

「そんなところ」

 

この時代では例外を除きシンクロ召喚を使わない。

慣れている召喚法を封じるのは少し寂しいが、発表されていないのに使用してしまえばどうなるかは分かっている。

納得いかないような顔を浮かべるヨハンだが聖星はそのままターンを進める。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は【マンジュ・ゴッド】を召喚。

【マンジュ・ゴッド】の効果は知っているよな?」

 

「あぁ。

常識中の常識だぜ」

 

場に現れたのは恐ろしい表情を浮かべる灰色のモンスター。

召喚に成功した時、デッキから儀式魔法、儀式モンスターのどちらかを加える事が出来る効果を持っているため儀式デッキでは多くの場合投入されている。

 

「【マンジュ・ゴッド】の効果によりデッキから【ブリューナクの影霊衣】を手札に加える。

そして【ブリューナクの影霊衣】を墓地に送り、デッキから【グングニールの影霊衣】を手札に加える。

さらに儀式魔法【影霊衣の反魂術】を発動。

場に存在するレベル4の【影霊衣の大魔道士】とレベル4の【マンジュ・ゴッド】を生贄に捧げ、墓地より【ヴァルキュルスの影霊衣】を儀式召喚する」

 

2体の前に現れた傷だらけの紋章。

彼らはその場で力を分け与えはじめ、紋章の傷が修復していく。

そして2体が粒子となって消え去り、代わりに隻眼の魔法使い族が現れた。

 

「再び俺の前に現れろ、【ヴァルキュルスの影霊衣】」

 

「ふんっ」

 

再び儀式召喚された魔法使いは【エトワール】の効果を含めて攻撃力は3300.

【ルビー・カーバンクル】を攻撃すれば残りのライフが2600のヨハンは敗北する。

 

「罠発動、【宝玉の砦】!」

 

「え?」

 

「俺の場に存在する【宝玉獣】1体につき、1000ポイントとして数え、その合計以下の攻撃力を持つモンスターはこのターン攻撃宣言をする事が出来ない」

 

今、ヨハンの場には【宝玉獣】が5体。

つまり攻撃力5000以下のモンスターは攻撃できないという事だ。

【セフェルの魔導書】と【ヒュグロの魔導書】があれば5000等簡単に超えるのだが、残念な事に手札が悪い。

 

「あちゃ~……

だったら俺は【ヴァルキュルスの影霊衣】の効果発動。

場の【ヴァルキュルスの影霊衣】と手札の【グングニールの影霊衣】を2枚生贄に捧げ、デッキから2枚ドロー。

これでターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!

【サファイア・ペガサス】でダイレクトアタック!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

先程と同じように【サファイア・ペガサス】の風を【速攻のかかし】が受け止め、【速攻のかかし】が爆発する。

数ターン前に見た光景にヨハンは悔しそうな表情を浮かべた。

 

「またダイレクトアタックを防がれたか……」

 

「手札から発動って結構厄介だろう?」

 

「あぁ。

だが、それ以上に楽しいぜ!

俺は手札を1枚伏せ、これでターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星。

彼は自分のデュエルディスクのボタンを押し、とある事を確認する。

そして引いたカードと手札のカードを見食らべ、小さく頷いた。

 

「手札から儀式魔法【影霊衣の万華鏡】を発動」

 

「遂に発動されたか、3枚目の儀式魔法!」

 

【影霊衣の反魂術】とは異なり、【シュリット】が描かれている儀式魔法。

そのカードの登場にヨハンは拳を握った。

 

「この儀式魔法は他のカード違ってね、融合デッキのモンスターを生贄に儀式召喚するのさ!」

 

「融合デッキのモンスターで儀式召喚!?」

 

「俺は融合デッキに存在するレベル4の【カオス・ウィザード】を生贄に、レベル4の【ユニコールの影霊衣】を儀式召喚する」

 

場に現れた1つの鏡。

それは4つの鏡へと増え、強い輝きを持つ光を反射して七色の光へと変えていく。

まさに万華鏡の名に相応しい輝きである。

その光から現れた【ユニコール】はゆっくりと目を開いた。

 

「(【ユニコール】の攻撃力は【エトワール】の効果を含めて2800.

とにかく今は攻撃対象を変更する【アンバー・マンモス】をどうにかする事が優先だな。)

行け、【ユニコール】。

【ルビー】に攻撃」

 

「【アンバー・マンモス】の効果!

攻撃対象を【アンバー・マンモス】に変更する!」

 

【ユニコール】が目を細めて【アンバー・マンモス】を見上げ、高く飛び上がり杖を振りかざす。

【アンバー・マンモス】もそれに応えるように構え、目だけを動かしてヨハンを見た。

 

「リバースカード、オープン!

速攻魔法、【ハーフ・シャット】!」

 

「なっ!?」

 

ヨハンが発動したカードの名前に聖星は目を見開いた。

1体のモンスターが攻撃を受けようとしている場面を描いているカード。

そのカードを聖星は何度も見た事があるのだ。

 

「(【ハーフ・シャット】、父さんが使っているカード……

場のモンスターを1体選択し、その選択したモンスターの攻撃力を半分にする代わり戦闘での破壊を無効にする速攻魔法。

もうこの時代にあったんだ)」

 

「悪いな聖星、【ユニコールの影霊衣】の攻撃力は半分になってもらうぜ!」

 

「っ!」

 

【ユニコールの影霊衣】は発動されたカードに目を見開き、一度地面に着地する。

彼の体は見る見るうちに小さくなり、攻撃力が2800の半分である1400になる.

装備魔法の効果により【アンバー・マンモス】の攻撃力は2500.

そして聖星のライフは1100.

 

「迎え撃て、【アンバー・マンモス】!!」

 

「うぉおおおおお!!!!」

 

後ろ足で立ち上がった【アンバー・マンモス】はそのまま重力に任せ小さくなった【ユニコール】を踏み潰す。

その時に地面が軽く揺れ、聖星のライフは0となった。

デュエル終了のブザーが鳴ると聖星は深呼吸をし、【星態龍】と【スターダスト】を見る。

 

「グルゥ……」

 

「惜しかったな」

 

「留学初日だから勝ちたかったんだけどなぁ……」

 

留学生として日本のアカデミアの恥にならないよう、話をつけてくれたペガサスの顔に泥を塗らないようせめて初戦は勝ちたかった。

しかし儀式デッキの常識をある程度覆したデュエルは出来た。

今回はそれでよしとしよう。

そう結論付けた聖星はヨハンを見る。

 

「聖星。

最後の儀式召喚凄かったな!

墓地からの儀式召喚でも驚くのに、まさか融合デッキのモンスターを儀式召喚の生贄にするなんて!

あんなカード初めて見たぜ!

やっぱり留学して来るだけはあるな!」

 

「だろう?

俺も初めて見た時はこんなカードがあっていいのか?って疑問に思ったから」

 

「あぁ。

【スターダスト】達と戦えなかったのは残念だったが良いデュエルが出来たぜ」

 

「俺も負けたけど良いデュエルが出来て良かった。

ところで、あの緑色の宝石は誰?」

 

「【エメラルド・タートル】の事か?」

 

「わしを呼んだか?」

 

「あ」

 

声がした方を見れば、すでにソリッドビジョンではなく半透明の姿となっている【宝玉獣】達が揃っている。

その中には見た事のない宝石を背負っている亀がいた。

 

「わしが【宝玉獣エメラルド・タートル】。

成程、近くで見れば見る程良い目をしとるのぉ。

そのドラゴン達も実に頼もしそうな目だ」

 

「不動聖星だ。

【エメラルド・タートル】も他の皆も、改めてよろしく」

 

のそのそと歩いて近寄ってくる【エメラルド・タートル】とデュエルで戦った精霊達に目をやり、聖星は微笑みながらそう述べた。

 

**

 

それから何時間たったのだろう。

人々が眠りにつく夜の街。

せいぜい点いている明かりは街灯くらいだ。

寒い風が吹き、視界も悪い路地裏でそれは響いた。

 

「うわぁあああ!!!」

 

辺りに響く男性の悲鳴。

だが周りの住人達はその悲鳴に気づかず、誰も起きた気配がない。

それもそうだろう。

男性がいる空間と住人達がいる空間の間には歪みがあり、遮断されているのだから。

悲鳴を上げた男は地に伏せ、何かを呟く。

そんな姿を別の男が見下ろし静かに吐き捨てる。

 

「ふん。

この程度の実力で候補者だった等笑える。

闇のゲームのルール通り、貴様の魂は闇へと飲み込まれる……

尤も、その行き先は当初の予定とは全く異なるがな……

これも貴様の実力がなかったせいだ。

恨むなよ……」

 

言い終わった男は黒いコートを翻しそのまま立ち去ってしまった。

 

END

 




お、おかしいな、私はヨハンが勝つのは【宝玉の陣-琥珀】の効果にするつもりだったのに何故あのカードに出番を奪われた!?
どういう事だ!?

【影霊衣】の扱いが下手くそですみません。
今回のデュエルで召喚する【影霊衣】モンスターは魔法使い族だけと条件を付けて書いたのでこんなデュエルになりました。

さて、12月6日は遊星ストラク発売日
声はかなり大人になっていましたね。
あまりにも貫録のある声に遊星ではなく敬意を払って遊星さんと呼びたくなる。
ってか呼ばせてください。


それにしても【魔導書】成分少ないな…
後半とかほぼ【影霊衣】。
速攻のかかし「おい、俺はどうなる?」

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