遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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さぁ、ついにあれを使用しますよ。
そして今回はかなりぶっ飛んでいるお話です。
とてもぶっ飛んでいます。


第二十話 石版より語られる魔と光★

「【星態龍】」

 

ゆっくりと呼ばれた名前。

自分自身のカードが置かれている机を見下ろす子供に【星態龍】はあまり働かない表情筋が引きつったのを覚えた。

ちなみにカードの隣には見事な凹みが出来ている。

おい、誰だ、こいつに金属を凹ませる程の力を与えた奴。

あ、遺伝か。

等と現実逃避をしている【星態龍】に対し聖星は声に全く似合わない微笑みを浮かべながらお願いした。

 

「手加減するつもりはないんだ。

俺が指定するカード、全部出して」

 

人間は怒っていても笑う事が出来る。

改めてそれを思い知った【星態龍】は自分の隣で聖星の微笑みに困惑している白いドラゴンを見た。

 

**

 

時を遡る事数時間前。

取巻の盗難事件がまだ片付いていないというのに、月行と夜行の兄弟に強制的に渡米させられた聖星。

飛行機の中で聖星は何故今回ペガサスから呼ばれたのか事情を説明してもらった。

 

「シンクロ召喚への反対意見?」

 

「今更か」

 

聖星の言葉に双子は同時に頷く。

流石双子。

こんなところでもシンクロするのか、と場違いな事を考えながら2人の話を詳しく聞いた。

 

「はい。

シンクロ召喚はレベルの合計分のモンスターを融合デッキから特殊召喚するものです。

その特徴上、下級モンスターが有利になる召喚法なのはご存知ですよね」

 

「ですが、今のデュエルモンスターズ界はステータス主義。

攻撃力が高ければ良いという考えを持つ者が多い。

残念ながらインダストリアルイリュージョン社内でも、そのような考えを持つ者が多くいます」

 

「そして大した攻撃力もない下級モンスターが活躍する召喚法を企画する必要はない、という意見が上がっているのです」

 

「そこで、反対派の代表と賛成派の代表がシンクロモンスターを使用したデモンストレーションデュエルを行う事になりました。

賛成派代表にはとある条件で戦っていただき、反対派が勝てばシンクロ召喚プロジェクトの中止が決まります」

 

この時代特有の反対意見に聖星と【星態龍】は開いた口が塞がらなかった。

シンクロ召喚は簡単に言えばレベルの足し算。

しかも召喚法の中には「チューナー以外の○○モンスター2体以上」という制約がつく場合もある。

シンクロ素材を3体以上必要としてしまえば下級モンスターが必要となるのは必須だろう。

それが気に食わないとは流石ステータス主義。

 

「そう都合よく進まないとは思いましたけど…………

意外なところから反対意見が出ましたね」

 

「ふん。

ある意味正しい判断だな。

シンクロ召喚の登場でデュエルの環境は高速化が進み、融合、儀式、アドバンス召喚が衰退していった。

それを知っている私としてはその反対意見は無碍に出来ん」

 

「(知ってる、って。

【星態龍】は初期に開発されたシンクロモンスターじゃないだろう。

どこで知ったんだよ?)」

 

「ネットだ」

 

自分の首に巻きつきながら真顔で返してくる【星態龍】の言葉に聖星は首をかしげる。

彼はネットを使う事が出来たのだろうか。

いや、何もないところからカードや家具を出したりするのだ。

電脳世界を多少操作するくらい出来るのかもしれない。

 

「そこでペガサス様は賛成派の代表として貴方をご指名したのです」

 

「え、俺が?」

 

月行の言葉に外を眺めていた聖星は思わず振り返った。

この時代でシンクロ召喚を1番理解しているのは聖星。

そんな彼に白羽の矢が立ってもおかしくはない。

 

「出来ますよね?」

 

「……夜行さん、顔が近いです」

 

「出来ますよね?」

 

「……はい」

 

**

 

「おぉ!

聖星ボーイ!

待っていましタ!

突然呼び出してしまい申し訳ありまセ~ン」

 

インダストリアルイリュージョン社に着いて早々に通された部屋にペガサスはいた。

扉を開ければ深く椅子に腰を下ろしていたペガサスが立ち上がり、両腕を広げて聖星を出迎える。

日本人にはあまり馴染のない歓迎法に聖星は少し抵抗感を覚えながらも、ペガサスのように両腕を少しだけ広げた。

そして熱烈なハグを頂く。

 

「事情は夜行さん達から聞きました。

シンクロ召喚のためです。

地球の裏側からでも飛んできますよ」

 

「サンキュー。

本来なら私が彼らを説得すべきなのですが、バット、この目でシンクロ召喚の素晴らしさを目にしない限り彼らは納得しないのデ~ス」

 

「分かりました。

シンクロモンスターがどれ程画期的な召喚法か、必ず証明して見せます」

 

「期待しています、聖星ボーイ。

月行、夜行。

彼を部屋に案内してくだサ~イ」

 

「はい」

 

ペガサスに対し深く頭を下げた月行と夜行。

彼の言葉に従い、聖星は2人のあとについていくことにした。

流石はインダストリアルイリュージョン社の本社と言うべきか設備は整っており、壁は殆どがガラス張りで1つ1つの部屋で何をしているのか分かるようになっている。

首に巻きついている【星態龍】は周りを見渡しながら3人の会話に耳を傾ける。

 

「あ、そうだ。

夜行さん。

月行さん。

あとでデュエルしてくれませんか?」

 

「私達とデュエル、ですか?」

 

「はい」

 

「私は構いません。

夜行、お前はどうする?」

 

「新しいシンクロ召喚とやらにも慣れる必要がある。

聖星さんがシンクロ召喚を使うデッキでデュエルするというのなら構いません」

 

冬休みの間、暇な時間を見つけてはペガサスミニオンの月行達とデュエルをした聖星。

モンスター効果の発動を封じる【エンジェルO7】にはかなり手古摺った。

【魔導教士システィ】と【ヒュグロの魔導書】のコンボで殴りに行こうとしたが、罠カードの妨害でなかなか倒せない。

夜行のデッキでは【獣神機王バルバロスUr】、【神禽王アレクトール】、【神獣王バルバロス】の3体が並んだときは肝が冷えたものだ。

今回はどんなデッキで彼らに挑もうか。

そう考えながら楽しげに言葉を交わしていると、首から微かな重みが消えた。

 

「あれ?」

 

不意になくなった重みが気になり、目をやれば【星態龍】がとある部屋の前で浮かんでいた。

その黄色の瞳は真剣に何かを凝視しており、聖星もつられてそちらに目を向ける。

そこにあったのは1つの巨大な石板だ。

人の数倍の大きさを誇る石版には様々な文字が刻まれ、巨大な竜と複数の小さな竜、1人の人間が祈りを捧げる姿が描かれている。

 

「どうかしましたか、聖星さん?」

 

「あの石板、どうしたんですか?」

 

「あぁ、あれですか。

あれは南米のアンデス山脈から発掘されたものです。

時代を調査したところ、約3000年前の物だとされています」

 

「……3000年。

かなり古いですね。

あの石板、どうするんですか?」

 

デュエルモンスターズの起源はエジプトで、カード達はそこにあった古代の石版に描かれたモンスター達を基にして生まれたと聞いている。

だからあれがエジプトから発掘されたものなら納得はいくのだが、アンデス山脈とはどういう事だろう。

純粋な疑問を尋ねると夜行が答えた。

 

「あの石板からサンプルを採取し、カードに組み込んでいるんです」

 

「え?

そんな事が出来るんですか?」

 

「別に珍しい事ではありません。

ペガサス様はエジプトの石版だけではなく、古代の宝石の成分をカードに使用しています。

この石版も新たにつくられるカードの成分になるはずです」

 

「へぇ、宝石や石版から成分を取り出してカードにするだなんて。

やっぱりデュエルモンスターズは奥が深いですね」

 

何もないところから新たなカードだって生まれるのだ。

宝石や石版の成分を取り入れているカードがあったとしてもおかしくはない。

改めてデュエルモンスターズの凄さを実感していると月行が微笑みながら尋ねてきた。

 

「どうです。

近くでご覧になりますか?」

 

「え、良いんですか?」

 

「構いませんよ。

あの石板から採取した成分データはシンクロモンスターに使われる予定なので。

いずれアドバイザーの貴方も目にするはずです」

 

石版の成分データ。

想像もつかないようなデータを見せてもらえるかもしれない、という事に聖星は目を輝かせる。

へにゃ、と笑った聖星は彼の言葉に甘えて石版が設置されている部屋へと入った。

【星態龍】はすでに石版の前におり、石版を見上げている。

 

「(どうした、【星態龍】。

そんなにその石板が気になる?)」

 

熱心に石版を凝視する友人に聖星は心の中で声をかけた。

聖星の声が聞こえたのか【星態龍】は複数の眼を動かし、小さく頷いた。

 

「あぁ」

 

「(ふぅん)」

 

ゆっくりと石版の前に立つ聖星。

その大きさは近くで見れば見るほど圧倒されるものだ。

数メートルにも及ぶこの石版の縁には様々な文字が刻まれ、中央にはドラゴンを崇める絵が描かれている。

これほどのものを彫るのにどれ程の時間と労力が必要だったのだろう。

当時の事を考えながら聖星は1体、1体のドラゴンを見た。

 

「(あれ?)」

 

巨大なドラゴンを取り巻く小柄のドラゴン達。

廊下では遠目で気付かなかったが、近くで見るとその姿に見覚えがあった。

 

「【スターダスト】……?」

 

石版の一角に刻まれているドラゴン。

その姿は石版故に少し雑に描かれているが、ドラゴンの姿はどう見ても【スターダスト・ドラゴン】だった。

まさか、と思い聖星は他のドラゴンも見る。

 

「(……【レッド・デーモンズ・ドラゴン】に【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】

それに【ブラック・ローズ・ドラゴン】まで……)」

 

間違いない。

この石版に刻まれているのは赤き竜とシグナーと共に戦うドラゴン達である。

まさか彼らが描かれている石版を見る事になるとは思わなかった聖星は、遊星への土産話が出来たと内心喜びながら目を閉じる。

 

「(石版の成分をカードにするって月行さん達は言っていたけど、これから【スターダスト】達が生まれるのかな)」

 

その時だ。

 

「えっ?」

 

不意に感じた違和感。

そう、例えるならばエレベーターに乗ってゆっくりと降下する時に覚えるもの。

しかも周りは漆黒の闇が広がり、月行に夜行、それどころか【星態龍】の姿もなかった。

落下していると認識した聖星は反射的に何かを掴もうとする。

だが彼の手は何も掴まず、逆に誰かに掴まれた。

慌てて見上げた聖星はそこにいた人物を凝視する。

 

「貴方は?」

 

「落ち着くと良い。

これは我が見せている3000年前の記憶」

 

「記憶?」

 

突然現れた男の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。

だが足元に地面のようなものを感じ、恐る恐る足を伸ばす。

落下しないと分かると、聖星は安堵の息を吐く。

すると男が聖星の隣に立ち、前を見た。

途端に暗闇の世界は赤い光に包まれて燃え盛る大地を映しだし、数多くの悲鳴が響き渡る。

 

「何ですか、これ?」

 

暗雲が空を覆い尽くし、火の海となっている大地。

逃げ惑う人々に対し3体の巨人が我が物顔で歩いている。

赤いドラゴンは空を飛びながら口から衝撃波を放ち、黄色と青色の巨人はその鋭利な爪で大地を裂く。

目の前に広がる光景はまさに地獄だった。

 

「三幻魔……」

 

「え?」

 

「精霊達の命を喰らい、永遠の命をもたらす精霊達の名だ」

 

「精霊の命を喰らう?」

 

男から視線を移した聖星はかすかに人以外の悲鳴も聞こえる事に気が付いた。

巨人達が破壊を行えば行うほど、この世の精霊達は悲鳴を上げながら粒子となって消えていく。

その中には確かにデュエルモンスターズで見た事のあるモンスターも存在した。

 

「我ら星の民は竜の星に導かれ、平和に暮らしていた。

だが…………

彼らは突然この世界に姿を現し、我らの暮らしを脅かしてしまった。

それがこの混沌の世だ」

 

星の民。

男の口から放たれた民の名に聖星は聞き覚えがあった。

だが、どこだったかは分からない。

すると暗闇の空が赤く光り、巨大な赤いドラゴンとそのドラゴンに仕える竜達が現れた。

その中に【スターダスト・ドラゴン】達の姿があった。

現れたドラゴン達は3体のモンスターに戦いを挑み、地下深くに封印していく。

 

「そこで我らが神、竜の星より召喚された赤き竜の力により三幻魔達を石版に封じ込み、地下深くに封印した」

 

「【スターダスト】達が封印?

じゃあ、あの赤くて1番大きいのが赤き竜……?

って、ちょっと待ってください」

 

赤き竜の話は遊星から聞いている。

殆どの事は忘れてしまったので確証は持てないが、目の前で起こっている事は3000年前の出来事。

しかし遊星から聞いた話だと赤き竜は5000年毎の存在のはず。

 

「赤き竜って5000年毎に邪神と戦うんですよね?

それなのに3000年前にもこの世界に現れたんですか?」

 

「その通りだ」

 

「父さんから聞いた話と全然違う……」

 

「竜の星は遥か昔より存在する。

その化身たる赤き竜が5000年毎にしか舞い降りない理由などどこにもない」

 

男の言葉に聖星は黙る。

しかし、何故いきなり自分にこのようなものを見せるというのだろうか。

その理由を問おうと口を動かす前に男は悲しそうに顔を歪めた。

 

「今、この惨劇を知らない者が三幻魔達を目覚めさせようとしている。

もしそのような事になればこの世界は再び平和が乱され、混沌の世になるだろう」

 

「え?」

 

三幻魔が目覚め、この世が混沌となる。

つまり目の前で起こっている事が再び起こるという事だ。

同時に聖星は遊馬の世界で体験したバリアンとの戦いを思い出し、背筋に冷たいものが走ったような感覚を覚えた。

いくらバリアン世界の消滅と共に皆が甦り、アストラルのおかげでシャーク達も無事だったとはいえ、目の前で仲間が消えていく光景。

あんなもの、もうこりごりだ。

 

「……どうすれば良いんですか?」

 

震える声を必死に絞りだして男に問いかける。

だが男はその問いかけには答えずただ聖星に向き直った。

 

「三幻魔を封印するため再び竜の星に祈りを捧げなければならない。

だが、竜の星と共に戦う者達はまだ目覚める時ではない。

そしてかの竜達も…………

だから我はそなたをこの時代に呼んだ」

 

「え?

貴方が俺をこの時代に呼んだって……

俺は【星態龍】が間違えてこの時代に来たんですよ」

 

「精霊の道を歪める事など、我らが竜の星の力の前ならば簡単だ。

本来ならばもう1年早くそなたをこの時代に呼ぶつもりだったのだが……

そなたが異世界に行っているなど予想外だった」

 

苦笑を浮かべているのだろう。

声に隠れている微かな感情変化に聖星もつい苦笑を浮かべてしまった。

もし【星態龍】の都合で遊馬達の世界に行っていなければ、自分はもっと早くこの時代に来ていたらしい。

どうやら自分は相当摩訶不思議な現象に巻き込まれる運命のようだ。

異世界に飛び、過去の世界に来て復活を阻止して欲しいなど遊星も真っ青のレベルである。

 

「(あ、でも父さんの事だから無事に成し遂げそう)」

 

「かの竜達はまだ目覚めない。

だから代わりにその竜がそなたの力になる」

 

「竜?」

 

男がとある方角に指をさす。

そこには巨大なドラゴンがおり、静かに聖星を見下ろしている。

しかし上手くその姿を認識する事が出来ない。

 

「我は『星竜王』……

星の民を導き、竜の星の英知を受け継ぐ者。

そして、不動聖星。

そなたは…………」

 

「え?」

 

ゆっくりと紡がれた言葉。

同時に意識が遠くなり、視界が黒く塗りつぶされていく。

再び感じた浮遊感に聖星は手を伸ばそうとした。

 

「聖星!」

 

「っ!?」

 

隣からはっきり聞こえた声。

慌てて見れば険しい顔をしている【星態龍】が見下ろしている。

ゆっくりと息を吐いた聖星は周りを見渡し、ここは石版を研究している部屋だと分かった。

突然周りを見渡した少年に月行と夜行は首をかしげる。

 

「どうかしましたか、聖星さん?」

 

「急に黙り込むだなんて。

それ程これに感動したのですか?」

 

「……あ、はい……」

 

夜行の言葉に聖星は否定しようとしたが、どうせ信じてもらえないだろうと思い苦笑を浮かべながら微笑んだ。

その笑みに2人は違和感を覚えたようだが、深く追及して欲しくなさそうな目を浮かべる聖星に何も言えなかった。

もう1度目を閉じた聖星は石版を見上げ、そこに刻まれているドラゴン達を見つめる。

 

「(今の夢か?)

って、あれ?」

 

先程見た事を整理しようと思ったが、右手に違和感を覚えそこに視線を落とす。

そこにあったのは1枚のカード。

デュエルモンスターズの絵柄が描かれているが、自分はこんなものを持っていた記憶はない。

一体何のカードだと思い裏返すとそこには聞いた事もない、だが見た事あるモンスターの姿が描かれていた。

 

「【閃珖竜スターダスト】?」

 

間違いなくこれは【スターダスト・ドラゴン】の姿。

だが聖星の知る【スターダスト・ドラゴン】とは差異がありすぎる。

名前、絵柄、属性、効果。

あまりの違いに驚きながら、先程のビジョンは夢ではなかったのだと分かり【星態龍】に目線で問いかける。

【星態龍】はただ難しい顔を浮かべた。

 

「…………大方、赤き竜が何かしたのだろう。

ご丁寧にそのカードには精霊も宿っているようだ」

 

「え?」

 

「姿を出せ。

まぁ、突然の事で戸惑うのもわかるがな」

 

【星態龍】が尾でカードをペシペシと叩く。

するとゆっくりと半透明のドラゴンが現れ、緊張気味に聖星と【星態龍】を交互に見る。

その姿は間違いなく今手に持っているカードに描かれているドラゴンだ。

よく観察すると遊星の【スターダスト・ドラゴン】とは若干色が異なり、妙な模様がある。

 

「……俺、こっちの方が好きだな」

 

「グゥ!?」

 

あ、こいつは人の言葉を喋れないのか。等と思いながら口パクでよろしく、と伝えた。

左右にいる天馬達は1枚のシンクロモンスターを眺める聖星に首をかしげるが、どう声をかければ良いのか分からなかった。

 

「おや、そこにいるのは天馬兄弟ですね。

それと……

賛成派代表の少年か?」

 

背後からかかった声に振り向くと、癖毛のある眼鏡の男性がそこにいた。

彼の登場に月行と夜行の空気が一瞬だけ震えた。

敏感に感じ取った聖星は仲が悪いのか?と疑問に思いながら微笑む。

 

「初めまして。

不動聖星です」

 

「私はフランツ。

インダストリアルイリュージョン社でカードデザイナーをしている。

……代表ですからどれ程の方が来ると思ったら、こんな子供か」

 

にこやかに自己紹介をしてくれたフランツ。

だが、最後の言葉は明らかに相手を見下すような意味合いを含めた言い方だった。

それに気づいた月行はすぐに言葉を放つ。

 

「Mr.フランツ。

確かに彼はまだ子供ですがシンクロ召喚のアドバイザーであり、海馬コーポレーションのデュエルディスクプログラムのアドバイザーでもあります」

 

「えぇ。

彼のご活躍は耳にしている。

とても優秀な頭脳を持っているようですが、しょせんは子供だろう。

あぁ、そういえば申し遅れたが私が反対派の代表だ。

つまり君と戦うデュエリストだ」

 

「反対派…………」

 

成程。

聖星は目の前の男とデュエルをするという事か。

どんなデッキを使うのだろうか。

少し気になり、簡単に探ろうと思って彼の言葉に耳を傾ける。

 

「聖星君。

今、世間はどのようなカードを求めていると思っている?」

 

「どのようなカードを……?」

 

一体突然何を尋ねるのだ。

そう疑問に思いながらも考えてみる。

自分がデュエルする側として、どのようなカードを求めるか。

思い浮かぶのは笑顔でデュエルをしている友人達。

彼らの姿に聖星ははっきり答えた。

 

「デュエルを楽しめるカードですね」

 

バリアンとの戦いで誰もが笑顔を失いそうになった。

だが、アストラルと遊馬のデュエルは本当に楽しかった。

あの場に立っているわけでもないのに、彼らの本当に楽しそうな感情が伝わってきてこちらも楽しくなってきたのを覚えている。

デュエルとはそういうものである。

だから聖星はそう答えた。

しかしフランツは嘲笑うかのように口の端を上げる。

 

「これだから子供は……

それは違う。

今、世間が求めているのはより強いカードだ。

強いカードは見る者を魅了する事が出来る。

それなのに、使えないカードに活躍の場を与えて何の意味があるのかね?」

 

「…………使えない……

……カード?」

 

「これはペガサス様から頂いた企画書だ」

 

そう言ってフランツは1冊の冊子を取り出した。

ある程度の厚みはあるが中身は知っている。

アドバイザーでもある聖星も持っているものだ。

 

「確かに彼らを活躍させるためにシンクロ召喚は画期的な召喚法でしょう。

しかし世間が求めているものとは圧倒的に違う。

こんな役に立たないカード達を使うシンクロ召喚を企画する理由が分からない」

 

付箋が張り付けてあるページを見せるフランツ。

彼が見せてくれたページには攻撃力が低い、と言われて見放されている【レスキューキャット】、【カードガンナー】等のモンスター達が載っている。

その写真を指で叩きながら説明するフランツに対し、聖星は右手を動かそうとした。

瞬間、夜行がその手を掴む。

 

「っ、夜行さん……」

 

「いけません」

 

聖星にしか届かないような声で呟く夜行。

ゆっくりと息を吐いた聖星はそのままフランツを睨み付ける。

 

「何ですか、その目は?」

 

「貴方にとって自分がデザインしたカードは何ですか?」

 

「何?」

 

「もしそのカード達が弱いから、っていう理由で見向きされなければ貴方はどう思うのですか?

心が痛まないんですか?」

 

彼はカードデザイナーなら様々なカードを生み出しているはずだ。

その中には弱いという理由で見向きもされないカードもあるはず。

なければ、それはそれで優秀だと認めよう。

しかし先程の発言はいただけない。

 

「デザイナーにとって自分がデザインしたカードは子供みたいなものじゃないんですか?

その子供達が活躍出来なくて、悔しいと思わないんですか?

けどシンクロ召喚はそんなカード達でも活躍できる……

勝利へと繋がる希望になる事が出来るんです。

それなのに、弱いカードに目を向ける必要はない?

貴方、それでもカードデザイナーですか」

 

彼は世間が求めるのは強いカードとも言った。

強ちそれは間違ってはいない。

だが、間違っている。

 

「それにカードっていうのは強ければ良いってものではありません。

強すぎる力は必ずしも尊敬や羨望の眼差しの対象になるわけがない。

ゲームバランスを崩し、全てに疎まれる存在になります。

そんなの生まれてきたカードが可哀そうです」

 

「疎まれる?

要は強いカードを持つ者への嫉妬だろう。

それならその者達のために新たなカードを作ればいい」

 

「………………どうやら貴方には口で言っても無駄なようですね」

 

「それは私の台詞だよ。

ま、夢見がちな子供らしい考えで立派だと思うがね」

 

では、失礼。

そう告げたフランツは軽く頭を下げ、背中を向けた。

コツコツ、と靴の音が静かに響く。

その背中を見送りながら聖星は自分に宛てられた部屋へ向かった。

そして冒頭に戻る。

 

**

 

それから翌日。

デッキを完成させた聖星はデュエルディスクにデッキをセットした。

そしていつもより分厚い融合デッキもセットする。

普段はあまり融合デッキを使わない聖星だが、シンクロ召喚を使うとなれば話は別だ。

この時代に則り、無制限で使用させていただきます。

そう、無制限に。

 

「聖星さん。

大丈夫ですか?」

 

「はい。

一晩考えたら頭が冷えました。

今では清々しいくらい爽やかな気分です。

もう、本っ当に」

 

「…………そ、そうですか」

 

デュエル前に声をかけてきたのは月行だ。

あの後、デッキのテストデュエルを双子に付き合ってもらった。

初めは上手く回らなかったが、彼等とのデュエルのおかげでかなり戦えるようになった。

戦略の幅が広いというのは本当に嬉しい事だ。

ちなみに夜行は寝不足でまだ出社していないようだ。

 

「デッキは、あのままですか?」

 

「はい」

 

「……そうですか」

 

真剣な顔で頷いた聖星に月行は顔を歪める。

そして昨日、聖星がフランツに言った「強いカードは疎まれる」という言葉を思い出した。

 

「聖星ボーイ」

 

「ペガサスさん……」

 

「ユーに全てを託しマ~ス」

 

「はい」

 

「それでは。

只今よりシンクロ召喚プロジェクト賛成派と反対派のデモンストレーションデュエルを開始したいと思います。

両選手、前へ!」

 

司会進行役はこの為だけに海馬コーポレーションから来てくれた磯野という男性だ。

バトルシティ決勝トーナメントでも彼が司会をしてくれたので、これほどの適任者はいないらしい。

しかしよくアメリカまで来てくれたものだ。

そう思いながらデュエルディスクを起動させる。

 

「今回はシンクロ召喚の有用性を証明するため、不動聖星選手にはメインデッキに使用できるモンスターは攻撃力1000以下という条件で戦っていただきます。

不動選手、構いませんね」

 

「はい」

 

「では、デュエル開始!!」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺がもらいます、ドロー。

俺は【王立魔法図書館】を守備表示で召喚」

 

聖星の場に淡い光が集まり、そこにはたくさんの本棚が現れる。

場所を示すような名を持つモンスターがどのような形で登場するのか気になったが、まさか本棚とは。

 

「そして手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動します」

 

「【魔導書の神判】?」

 

「聞いた事もないカードデ~ス。

聖星ボーイはまだ【魔導書】のカードを持っていたのデ~ス。

一体どのような効果なのでショウ?」

 

「ペガサス様、聖星さんとのデュエルであのカードをご覧になられていないのですか?」

 

「イエ~ス。

月行、ユーは違うのですカ?」

 

聖星が発動した速攻魔法。

2人の魔法使いらしき男女が1人の魔法使いの前と共に描かれている。

未来のカードだと聖星から説明を受けたペガサスは、何度も聖星とデュエルをした。

その彼でさえあのカードは初めて見たのだ。

ペガサスの言葉に月行は顔を引きつらせ、昨晩のテストデュエルを思い出す。

 

「…………えげつないカード、とでも言っておきましょう

私個人としては使ってほしくないカードですけど」

 

「ホワット?」

 

聖星なりの考えがあってあのカードを使用しているのを月行は理解しているつもりだ。

大人として別の道も示そうと夜行と2人で説得を試みたが、どうもこの子供は嫌な意味で意思が強く1度決めたら曲げない。

ましてや時間があまりにも短かった。

月行の後半部分を聞き取れなかったペガサスは怪訝そうな顔を浮かべ、何でもありませんと言った。

 

「このカードの効果はエンドフェイズ時に発動するものです。

エンドフェイズ時、このターン使用された魔法カードの枚数まで、俺はデッキからこのカード以外の【魔導書】と名の付く魔法カードをデッキから手札に加えます」

 

「何?

つまり君はエンドフェイズ時に手札が増えるのか……?」

 

「はい。

そして魔法カードが発動した事で【王立魔法図書館】に魔力カウンターが1つ乗ります」

 

【王立魔法図書館】の頭上に1つ淡い緑色の球体が浮かび上がる。

このカードは自分または相手が魔法カードを発動すれば最大3つまで魔力カウンターを乗せる効果を持つ。

あれが魔力カウンターなのだろう。

 

「手札からフィールド魔法【魔法都市エンディミオン】を発動します」

 

フィールド魔法カードを専用に置く場所が現れ、そこに1枚のカードをセットする。

すると大地が大きく地響きを鳴らし、ソリッドビジョンの光が幻想的な魔法都市を形成する。

聖星が良く使う【魔導書院ラメイソン】は金属の塔を中心としたフィールドだった。

しかし【魔法都市エンディミオン】はレンガ造りの街のようで、城壁の周りに魔力を宿す場所が設けられている。

城壁に囲まれたフランツは周りを見渡す。

 

「【魔法都市エンディミオン】の効果。

このカードは互いに魔法カードを発動するたびに魔力カウンターを乗せます」

 

「成程。

君の今回のデッキは【魔力カウンター】を軸としたデッキ、という事か」

 

「まぁ、そんなところです」

 

【魔法都市エンディミオン】を発動したことで【王立魔法図書館】に2つ目の魔力カウンターがたまる。

それを見ながら別のカードを発動させた。

 

「さらに魔法カード、【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てます。

俺は手札の【ブークー】と【ハリケル】を捨てます」

 

「【ブークー】と【ハリケル】だと……!?」

 

聖星が見せた2枚のモンスターにフランツは驚く。

彼だけではなく、周りにいる反対派の者達も自分の目を疑った。

【ブークー】と【ハリケル】は共に魔法使い族の通常モンスター。

しかし壁にもならない低ステータスで、活躍した記録はほぼないと言っても過言ではない。

 

「いくら攻撃力1000以下のモンスターのみの使用しか許されていないとはいえ、何の効果も持たない通常モンスターを使うなど。

余程夢見がちのようだな」

 

「先日俺は言ったはずですよ。

彼らは勝利へと繋ぐ希望だと。

もうお忘れですか?」

 

シンクロ召喚は見向きもされないカード達を使用する事をコンセプトに企画している。

このデモンストレーションはそれを立証するデュエルだ。

彼らを使わず、誰を使うというのだろう。

そして【天使の施し】の発動により、【王立魔法図書館】には3つ目、【魔法都市エンディミオン】には1つ目の魔力カウンターが乗った。

 

「【王立魔法図書館】には3つの魔力カウンターがたまりました。

よって、【王立魔法図書館】の第二の効果発動。

このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除き、カードを1枚ドローします」

 

ゆっくりとカードを引く聖星。

墓地にモンスターは存在する。

後はあのカードさえ来てくれれば良いのだが……

次のドローに期待するか、と思いながら別のカードを発動させる。

 

「そして手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加えます。

俺は【セフェルの魔導書】を選択します」

 

魔力カウンターを失った【王立魔法図書館】だが、新たに魔法カードが発動された事で淡い光を宿す。

それは【魔法都市エンディミオン】も同じで2つ目となる。

 

「魔法カード【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を1枚見せる事で墓地の【魔導書】と名の付く通常魔法の効果をコピーします。

俺は【ネクロの魔導書】を見せ、【グリモの魔導書】を選択。

デッキから【魔導書の神判】を手札に加えます」

 

聖星の流れるように慣れた手順にフランツは眉間に皺を寄せた。

本来なら先攻1ターン目はモンスターを召喚し、カードを伏せるだけで終わるはず。

それなのに聖星は魔法カードを多用に発動させていた。

 

「フィールド魔法【魔法都市エンディミオン】の効果発動。

1ターンに1度、魔力カウンターを必要とする効果が発動する時、代わりにこのカードの魔力カウンターを使用できる。

俺は【魔法都市エンディミオン】から3つ取り除き、【王立魔法図書館】の効果を発動。

デッキからカードを1枚ドローします」

 

「魔力カウンターを代わりに出すフィールド魔法だと!?

成程、3枚の魔法カードを発動すれば君は【王立魔法図書館】と【魔法都市エンディミオン】のコンボにより、2枚のカードをドロー出来るという事になる」

 

「はい。

俺はカードを3枚伏せます」

 

【王立魔法図書館】の効果で5枚になった手札。

モンスターを召喚、フィールド魔法の発動、手札交換をしておきながらそれ程の手札がある。

面倒な相手だと思ったフランツは聖星を睨み付けた。

しかし聖星が3枚手札を伏せた事で2枚となる。

 

「そしてエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果発動。

このターン発動された魔法カードは【魔法都市エンディミオン】、【天使の施し】、【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】の4枚。

よって俺はデッキから【魔導書】と名の付くカードを4枚まで手札に加えます。

【グリモ】、【セフェル】、【ヒュグロ】、【ゲーテの魔導書】です」

 

「っ、手札が6枚に…………!!」

 

「そして【魔導書の神判】のもう1つの効果発動。

俺は【千眼の邪教神】を守備表示で特殊召喚」

 

4つの淡い光が禍々しい紫へと変わり、地面に紫色の魔法陣が描かれる。

その中から巨大で多量の眼を持つ魔法使い族モンスターが現れた。

攻撃力、守備力共に0のモンスター。

しかしその姿にペガサスは目を見開いた。

 

「オー、ノー!

【千眼の邪教神】デ~ス!!」

 

決闘者の王国で決闘王、武藤遊戯とのデュエルでペガサスが使用したカードだ。

まさかそのカードをこのような形で目にするとは夢にも思わなかったペガサスは子供のようにはしゃいだ。

そんな彼の嬉しそうな声を聞いた聖星はフランツに分からない程度で微笑む。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、【魔導書の神判】を発動します」

 

ドローと同時に発動された速攻魔法。

勿論フランツにそれを止める術はなく、【王立魔法図書館】には3つ目、【魔法都市エンディミオン】には1つ目の魔力カウンターが乗ってしまう。

 

「くっ……!

そういえばそれは速攻魔法だったな」

 

これではこのターン、魔法カードを多量に使用すればエンドフェイズ時にその分だけ聖星の手札が増えてしまう。

しかし、それで引き下がるほどフランツは臆病者ではなかった。

 

「私は手札から魔法カード【魂吸収】を発動!」

 

「え?」

 

「このカードはカードが除外されるたびに1枚につきライフを500回復する。

無論、除外されるのは貴方のカードでも構わない。

そして【速攻の黒い忍者】を召喚!」

 

「はっ!!」

 

現れたのは全身真っ黒の忍者モンスター。

彼はクナイを握りしめながらも腕を組みながらフランツの前に立つ。

その攻撃力は1800.

召喚されたモンスターを見ながら聖星は内心ホッとする。

 

「(【速攻の黒い忍者】……

墓地の闇属性モンスターを除外する事でゲームから除外されるモンスター。

あのモンスターを使う、って事は【マクロコスモス】や【異次元の裂け目】はないんだよな……

良かった)」

 

聖星がシンクロ召喚を行う場合、父である遊星の影響があるせいか墓地を多用する事が多い。

それなのにその墓地を封じられてみろ。

このデュエル、かなり危なくなってしまう。

 

「さらに【苦渋の選択】を発動。

私はデッキからカードを5枚選択し、貴方がその中から1枚選ぶ。

選んだ1枚は私が手札に加え、残りは墓地に送られる」

 

「(うわぁ、面倒くさいカード発動したよこの人)」

 

「私が選んだのは【異次元の偵察機】3枚、【ネクロフェイス】、【終末の騎士】だ。

さぁ、選ぶが良い」

 

「【ネクロフェイス】です」

 

「では、【ネクロフェイス】を手札に加え、残りを墓地に送ろう」

 

墓地に送られたのは全て闇属性モンスター。

しかもそのうちの3枚、【異次元の偵察機】は除外されると攻撃表示で戻ってくる効果を持つ。

あれを3枚すべて墓地に送るのは渋ったが、【ネクロフェイス】が【速攻の黒い忍者】の効果で除外されるよりはマシだと思い選択しなかった。

 

「(【ネクロフェイス】は除外された時、互いのデッキトップ5枚を除外するカードだ。

除外されるなんて止めてくれよ。

【魂吸収】が発動している時に効果が発動したら10枚除外されるから、ライフ5000ポイント回復……

いや、ある意味そっちの方が面白い?)」

 

「さて、バトルフェイズだ。

【速攻の黒い忍者】で【千眼の邪教神】を攻撃!」

 

「リバースカード、オープン。

【同姓同名同盟】」

 

「何!?」

 

「このカードは俺の場にレベル2以下の通常モンスターが存在する時発動できる罠カードです。

このカードの名前通り、同名モンスターをデッキから特殊召喚する。

現れよ、【千眼の邪教神】」

 

守備表示となっている【千眼の邪教神】の周りに禍々しいオーラが溢れ出す。

そのオーラは分裂し、2体の【千眼の邪教神】をデッキから呼び出す。

 

「だが、しょせん壁を増やしただけ!

行け、【速攻の黒い忍者】!」

 

地面に膝を着いた【速攻の黒い忍者】は狙いを定め、その場から姿を消す。

しかし次の瞬間には【千眼の邪教神】の背後で刀を構え、無駄のない動きで標的を切り裂く。

真っ二つに切り裂かれたモンスターは守備表示だったため聖星にダメージはない。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、【魔導書の神判】の効果が発動します。

貴方が発動した魔法カードは2枚。

俺は【ネクロの魔導書】、【ゲーテの魔導書】を手札に加えます。

モンスターは特殊召喚しません」

 

「おや、壁を増やさないのか?

【同姓同名同盟】を入れているという事は【ブークー】と【ハリケル】も複数デッキに投入していると思ったが」

 

「答えはすぐに分かります。

俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりと引いたカード。

これで自分の手札は9枚。

その中で【魔導書】は【グリモ】、【ヒュグロ】、【セフェルの魔導書】が1枚に、【ネクロ】、【ゲーテの魔導書】が2枚ずつ。

 

「俺は魔力カウンターが3つ乗っている【王立魔法図書館】の効果発動。

魔力カウンターをすべて取り除き、デッキからカードを1枚ドロー」

 

これで10枚。

同時に【王立魔法図書館】から魔力カウンターの光が消える。

それに対し【魔法都市エンディミオン】には3つの魔力カウンターが溜まっている。

 

「【魔法都市エンディミオン】の効果発動。

このカードに乗っている魔力カウンターを使用し、【王立魔法図書館】の効果を発動。

デッキからカードを1枚ドロー。

そして【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【トーラの魔導書】をサーチします。

さらに先程引いた【苦渋の選択】を発動」

 

「君もそのカードを持っていたか」

 

「使わない理由はないので。

俺は【ゾンビキャリア】、【グローアップ・バルブ】、【ブークー】、【ハリケル】、【スポーア】を選びます。

どうぞ、この中から1枚選んでください」

 

「ならば【ハリケル】だ!」

 

「俺は【ハリケル】を手札に加え、残りの4枚を墓地に送ります」

 

加わったのはレベル2の通常モンスター。

墓地に送られたのも殆どが攻撃力500未満のモンスター達。

しかし、彼らの真価はそれではない。

それを理解している月行は顔を引きつらせながら呟いた。

 

「Mr.フランツ……

貴方は墓地に送ってはいけないカード達を墓地に送りましたね」

 

「俺はデッキからカードを1枚墓地に送り、チューナーモンスター【グローアップ・バルブ】を特殊召喚」

 

「フッ!!」

 

デッキからカードを1枚墓地に送り、その代わりに球根のようなモンスターが場に現れた。

その攻撃力はたったの100である。

普段ならそんな雑魚モンスターが現れたら笑うのだが、聖星が宣言した名前にフランツは眼鏡を押し上げた。

 

「チューナー……

それがシンクロ召喚に必要なカードの1つ」

 

「はい。

さらに俺は手札から【トーラの魔導書】を見せ、【ネクロの魔導書】を発動します」

 

「【ネクロの魔導書】?」

 

「このカードは手札のこのカード以外の【魔導書】を見せ、墓地に存在する魔法使い族を1体除外します。

そして別の魔法使い族を墓地から特殊召喚する」

 

「魔法使い族専用の【早すぎた埋葬】。

ですが発動するとどうなるのか分かっているのかね?

モンスターを除外するという事は、私の永続魔法【魂吸収】が発動し、500ポイントのライフが回復してしまうが」

 

「たった500.

シンクロ召喚を使った高速デュエルの前では0にも等しいですよ」

 

「言ってくれる」

 

「俺は墓地に眠るレベル2の【ハリケル】を除外し、レベル2の【ブークー】を選択。

蘇れ【ブークー】」

 

「ブ~ク~!」

 

ぽん、と明るい音と共に現れた可愛らしい本のモンスター。

その姿に笑みを浮かべながら聖星はさらに説明を続けた。

 

「そして【ネクロの魔導書】の効果で蘇生した【ブークー】のレベルは【ハリケル】のレベル分だけ上がります。

よってレベルは4です」

 

「聖星ボーイの場にはレベル4の【ブークー】、【王立魔法図書館】にレベル1の【千眼の邪教神】が2体。

そしてレベル1のチューナーモンスター。

何が来るのか楽しみデ~ス」

 

レベルの組み合わせで行くと、最低レベル2.

最高レベル11のモンスターが呼ぶ事が可能となる。

楽しげにデュエルを見つめるペガサスの言葉にフランツは気に入らなさそうに聖星を見た。

 

「ふん、見せてもらおうか。

そんな雑魚の寄せ集めに何が出来るのかを!」

 

「そんなにご覧になりたいのでしたらお見せしますよ。

行くぞ、皆!」

 

聖星の掛け声に場に存在するモンスター達は強く頷く。

 

「レベル1の【千眼の邪教神】2体とレベル4の【ブークー】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング!」

 

名前を宣言されたのは4体のモンスター。

【千眼の邪教神】2体と【ブークー】は空中へと舞い上がり、1つの列をなす。

それに対し【グローアップ・バルブ】は淡い1つの星と緑色の輪となり、3体のモンスターを包み込む。

 

「天に煌めく星々に選ばれし魔術師よ、遺された力を掌握し希望への活路を見いだせ!

シンクロ召喚!」

 

聖星の叫び声と同時に背後に緑色の光柱が立つ。

光は【魔法都市エンディミオン】の青空を貫き、空中に浮かんでいる魔法の文字が一部消え去ってしまう。

光が生み出す轟音と強風により聖星のコートはなびいた。

 

「解き放て、【アーカナイト・マジシャン】!!」

 

「はぁあっ!!!」

 

光は砕け散るように壊され、中から白い衣服を羽織っている魔術師が現れる。

魔術師は踊るようにその場に降り立ち、聖星を見て微笑んだ。

そして振り返った魔術師は敵であるフランツを睨み付ける。

 

「……これが……」

 

「……シンクロ召喚……」

 

「オ~!!

ベリービュウティフゥ~ル!!

何度見てもその美しい召喚法、たまりまセ~ン!!」

 

シンクロ召喚を行う場合、殆どのモンスターが緑色の光の中から現れてくる。

その召喚する姿を美しいと称する者は未来でもたくさんいた。

聖星もそれには同意である。

 

「(でもエクシーズ召喚もカッコいいよな。

逆巻く銀河の中から現れる、っていう感じがして。

あ、これはカイトの専売特許か)」

 

オーバーレイネットワークを構築する際、モンスターが輝く渦の中に吸い込まれていく姿。

初めて見た時には感動したものだ。

少し昔を思い出しているとフランツが眼鏡を押し上げながら言葉を放つ。

 

「成程それがシンクロ召喚ですか……

しかし、せっかくモンスターを4体も使ったのに攻撃力はたったの400.

それのどこに希望への活路を見い出す力があるのかね?」

 

「【アーカナイト・マジシャン】の効果」

 

「む」

 

「このカードがシンクロ召喚に成功したとき、このカードに魔力カウンターを2つ乗せます。

そして彼女自身の攻撃力はこのカードに乗っている魔力カウンターの数×1000ポイント。

よって攻撃力は2400です」

 

「なっ……!?」

 

「まだ終わりません。

【アーカナイト・マジシャン】の効果発動。

俺の場に存在する魔力カウンターを1つ取り除くことで、相手の場のカードを破壊する」

 

「何!?」

 

【アーカナイト・マジシャン】に乗っている魔力カウンターではなく、聖星の場の魔力カウンターなのだ。

今、聖星の場には魔力カウンターを乗せる【王立魔法図書館】と【魔法都市エンディミオン】が存在する。

【王立魔法図書館】と【魔法都市エンディミオン】共に3つのカウンターが存在している。

つまり聖星は最高8枚までフランツのカードを破壊できるという事だ。

 

「俺はフィールド魔法【魔法都市エンディミオン】の魔力カウンターを1つ取り除き、伏せカードを破壊!」

 

「【速攻の黒い忍者】の効果発動!

墓地の【異次元の偵察機】を2体除外し、このカードを除外する!」

 

攻撃力を保つため、聖星が【アーカナイト・マジシャン】のカウンターを使うとは考えにくい。

攻撃力2400のモンスター等【速攻の黒い忍者】が勝てるわけがない。

フランツの宣言により【速攻の黒い忍者】は場から消えてしまった。

しかし【アーカナイト・マジシャン】は初めから相手モンスター等眼中にはないのか、伏せカードだけを破壊する。

 

「くっ……!

だがこの瞬間【魂吸収】の効果発動!

【速攻の黒い忍者】のコストとして除外されたカードは2枚、これでライフポイントを1000回復。

さらに【速攻の黒い忍者】自身が除外された事で500回復だ!」

 

ゆっくりと上昇していくフランツのライフポイント。

これで彼のライフは6000となる。

 

「【アーカナイト・マジシャン】は効果の発動に制限回数はありません。

次はそのカードを破壊させていただきます」

 

「何だと!?」

 

「【エンディミオン】から1つ取り除き、永続魔法【魂吸収】を破壊!」

 

【魔法都市エンディミオン】に宿っていた魔力の結晶が【アーカナイト・マジシャン】が持つ杖に吸収されていく。

力を手に入れた【アーカナイト・マジシャン】はその杖の宝石を【魂吸収】に向けて魔力の塊を放った。

膨大なエネルギーを受けた永続魔法は一瞬で塵となり、フランツの場は丸裸状態となってしまう。

 

「俺の墓地に存在するレベル2のチューナーモンスター、【ゾンビキャリア】の効果発動。

【ゾンビキャリア】は手札のカードを1枚デッキトップに戻す事で墓地から特殊召喚出来ます」

 

聖星の手札はまだまだたくさんある。

しかも魔力カウンターが3つ乗っている【王立魔法図書館】も存在するのだ。

コストとしてデッキトップに戻しても、すぐにドロー出来るので実質ノーコストの蘇生だろう。

 

「甦れ、【ゾンビキャリア】」

 

「グゥウゥ……」

 

「レベル4の【王立魔法図書館】にレベル2の【ゾンビキャリア】をチューニング。

爆炎の力を宿す魔術師よ、遺された力をその手に掴み、敵の戦略を崩せ!

シンクロ召喚!」

 

名を呼ばれた【ゾンビキャリア】は醜い姿から綺麗に輝く星となり、【王立魔法図書館】の本棚へと埋め込まれる。

彼らの肉体は緑色の光に包まれ、再び強風を巻き起こした。

 

「現れよ、【エクスプローシブ・マジシャン】!」

 

「はぁ!!」

 

緑の光の中から現れたのは男性の魔法使い族。

その攻撃力は2500である。

白銀の衣を纏う魔術師は無表情のまま隣に立つ【アーカナイト・マジシャン】を見る。

互いにアイコンタクトを取り、小さく頷いた。

 

「さらに手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

これで【アーカナイト・マジシャン】の攻撃力1000ポイントアップし、攻撃力は3400です」

 

「な、なに……!?」

 

負ける。

この時フランツはそう思った。

自分のライフは6000。

【スポーア】の攻撃力は分からないが、攻撃力3400と2500の攻撃を受ければ残りのライフは100.

しかもこのターン、彼は通常召喚を行っていない。

手札には攻撃力900の【ハリケル】が存在する。

 

「さらに墓地に眠るチューナーモンスター【スポーア】の効果発動。

植物族モンスターである【グローアップ・バルブ】を除外し、【グローアップ・バルブ】分のレベルを上げて守備表示で特殊召喚します」

 

「ポアッ!」

 

【ブークー】の時と同じように可愛らしい音と共に現れたモンスター。

大きな瞳を輝かせていると、突然ふわふわの体が大きくなる。

これで【スポーア】のレベルは2となる。

 

「バトルフェイズです」

 

「何?」

 

聖星の宣言にフランツは目を見開いた。

 

「【エクスプローシブ・マジシャン】でダイレクトアタック。

シャイニング・フレイム・バーニング!」

 

自分の攻撃名を宣言された【エクスプローシブ・マジシャン】は両手に魔力を宿す。

淡い小さな光の魔力は激しく燃え盛る炎となり、フランツに向かっていく。

その炎はフランツを囲うように回転し、一気に爆発していく。

 

「ぐわぁあ!!」

 

「そして【アーカナイト・マジシャン】でダイレクトアタック!

ホーリー・マジック!!」

 

未だに爆発により煙が消えない中、【アーカナイト・マジシャン】の杖に膨大な魔力が宿る。

赤い目を細めた魔術師は杖を回し、魔法陣を描く。

描かれた魔法陣はフランツの足元にも現れ、その輝きが彼を襲った。

 

「ぐぅうう!!」

 

攻撃力2500以上のモンスターのダイレクトアタックを2度同時に受け、フランツはその場に膝を着いた。

これで彼のライフは100となる。

 

「ははっ、ははっ……」

 

「何がおかしいんですか?」

 

「いや、失礼。

やはり貴方は子供。

幼稚な思考の持ち主だ」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「私のライフは残り100.

ですが貴方の手札には攻撃力900の【ハリケル】が存在する。

もしそのモンスターを召喚していればこのデュエルに決着はついた。

折角のチャンスを貴方は無駄にした。

これを笑わずにどうしろというのですか?」

 

「………………」

 

フランツの言葉に聖星はきょとん、とした顔を浮かべる。

彼の表情に月行は目を見開いた。

まさか、本当に見落としていたのだろうか。

確かに聖星のデュエルはまだ拙い部分があり、【魔導書の神判】をスタンバイフェイズ時に発動するようになったのも自分と夜行が指摘してからだ。

 

「次のターン、【速攻の黒い忍者】と2体の【異次元の偵察機】が私の場に戻ってくる。

その3体を生贄に【ギルフォード・ザ・ライトニング】を発動してしまえば貴方のモンスターは全滅。

勝負は分からなくなってきたようだ」

 

「罠発動。

【緊急同調】」

 

「何?」

 

「俺の場に存在するチューナーモンスターと非チューナーモンスターでシンクロ召喚をします。

ちなみにこれはバトルフェイズ中の特殊召喚なので追撃が可能です」

 

「…………何、だと?」

 

今、聖星の場にはレベル2となっているチューナーモンスター【スポーア】。

そしてレベル7とレベル6のシンクロモンスター。

シンクロモンスターをシンクロ素材にしてはいけないというルールはない。

つまり聖星は新たなモンスターを呼べるという事だ。

先程とは一変し、フランツの表情は血の気が引いたのか真っ青になってしまった。

そんな彼に聖星は微笑む。

 

「すみません、期待を裏切ってしまって。

けどシンクロ召喚のデモンストレーションですから。

シンクロモンスターで止めをささないと意味ないですよね」

 

穏やかに微笑んでいた聖星はそのままカードの名前を宣言した。

 

「レベル6の【エクスプローシブ・マジシャン】にレベル2となったの【スポーア】をチューニング」

 

場に存在した2体はフィールドから飛び立ち、【エクスプローシブ・マジシャン】は半透明な姿となる。

それに対し【スポーア】は2つの輝く星と2つの輪となり、【エクスプローシブ・マジシャン】を取り囲んだ。

埋め込まれた星は8つの輝きとなり、今までにない輝きを放つ。

 

「星々の命を翼に宿す白銀の竜よ、一筋の閃光となり、世界を駆けろ!

シンクロ召喚!」

 

聖星の姿をかき消すほどの輝きはすぐには消えず、その中で何かが蠢いているのが分かった。

 

「玲瓏たる輝き、【閃珖竜スターダスト】!」

 

名を呼ぶ主の声に呼応するよう心臓の鼓動が響き、光の中で蠢くドラゴンが姿を現した。

白銀の肉体に埋め込まれる紫の宝石はまだ残る光を反射し、聖なる光を纏う。

【閃珖竜スターダスト】は【アーカナイト・マジシャン】の隣に降り立ち、自分を見上げるフランツの姿を黄色の瞳に映す。

 

「グォオオオ!!」

 

【アーカナイト・マジシャン】も【エクスプローシブ・マジシャン】も美しい風貌をしたモンスターだった。

だがこのモンスターはその2体を凌駕するほどの美しさを持つ。

誰もが言葉を失う中、ペガサスは自分の眼を疑った。

 

「アンビリーバボー……!」

 

この場にいる者であの姿を見た事があるのは聖星を除いてペガサス1人。

だからこそ理解が出来なかった。

 

「(あのモンスターは夢の中で見たドラゴンと酷似していマ~ス。

聖星ボ~イはあのようなモンスターを持っているなどミーには一言も言っていまセ~ン。

それに【スターダスト・ドラゴン】ではなく【閃珖竜スターダスト】……

一体どうなっているのです!?)」

 

自分が赤き竜の夢によってデザインしたドラゴンを聖星は【スターダスト・ドラゴン】と呼んでいた。

それなのに、そのモンスターと酷似しているドラゴンを聖星は持っている。

 

「行きますよ、フランツさん」

 

「っ!!」

 

「【閃珖竜スターダスト】、流星閃撃!!!」

 

自分に向けて大きな口を開き、輝く光を集める【スターダスト】。

その攻撃力は2500でフランツのライフを削り取るには十分すぎた。

向かってくる巨大な光にフランツは目を閉じた。

 

「ぐわぁあああ!!!」

 

悲鳴を上げながらフランツはその場から吹き飛ばされ、ライフが0となった。

 

「勝負あり、勝者、不動聖星!!」

 

今まで顔色一つ変えずにデュエルを見守っていた磯野の声がデュエルフィールドに響く。

その声を聞きながら聖星はペガサス達に振り返った。

賛成派の月行達は笑顔で聖星を見つめている。

しかしペガサスだけは神妙な顔つきだった。

 

「おめでとうございます、聖星さん。

これでシンクロ召喚のプロジェクトは予定通り進める事が出来ます」

 

「そんな……

月行さん達がデッキ調整に付き合ってくれたお蔭です。

まぁ、あまり回りませんでしたけど」

 

「1ターンに3体のシンクロモンスターを呼べたのです。

十分じゃないですか」

 

確かにシンクロ召喚に馴染がない彼等からしてみればそう思うだろう。

だがシンクロ召喚が流行している未来人からしてみれば普通の事だ。

遊星など1ターンに4回のシンクロ召喚をするなんてざらにある。

 

「本当は【トリシューラ】や【ダーク・ダイブ・ボンバー】も出したかったんですけど……」

 

「聖星さん、流石にそれは止めてあげてください。

夜行はあれで心を砕かれましたから」

 

「え?」

 

昨日のデッキ調整に付き合った月行は悪夢を思い出しそうだった。

一体何がどうなって【ブークー】や【ハリケル】達から【ダーク・ダイブ・ボンバー】になる。

しかも【ネクロの魔導書】で無駄にレベルを上げた魔法使い族を生贄に捧げ、ライフを2000近くも奪うのだ。

【トリシューラ】は何も言うまい。

 

「お見事デ~ス、聖星ボ~イ」

 

「ペガサスさん」

 

「厳しい条件下の中、よく勝利を掴んでくれたのデ~ス。

やはりシンクロ召喚はデュエルモンスターズをさらに発展させる召喚法デ~ス。

後で詳しく聞かせてくだサ~イ」

 

聖星の手を握り、激しく振るペガサス。

相変わらず過激な人だと思っていると、ペガサスの視線が鋭い事に気が付いた。

 

「ペガサスさん?」

 

「後で私の部屋に来てくれますね?」

 

お願いではなく、命令。

有無を言わせない威圧感に聖星は小さく頷く。

聖星が頷くとペガサスは優しく笑い、皆に振り返り今後の事を話し出した。

 

「(……え、なにペガサスさん。

俺、怒らせるようなことしたかな?)」

 

「【スターダスト】の事を話していないだろう」

 

「(あ、すっかり忘れてた)」

 

「石版で見た事も話すんだぞ」

 

「(あぁ)」

 

**

 

デモンストレーションも終わり、外もすっかり暗くなっている時間帯。

聖星は正直に昨日石版の前で見たビジョンといつの間にか手に入れていた【閃珖竜スターダスト】の事を話した。

 

「『三幻魔』に『星竜王』、『星の民』。

とても興味深い話デ~ス」

 

「俺が父から聞いた話では赤き竜は5000年毎に冥界の王と戦い、地縛神を封印してきました。

それなのにあの石板で俺に語り掛けてきた星竜王は3000年前、彼らは三幻魔が引き起こした混沌の世を鎮めるため赤き竜の力を借りたと言っています」

 

「赤き竜をこの星の守護神だと仮定しまショウ。

私達生者を助けるのは別におかしくはありまセ~ン。

地縛神の封印が解かれるように、三幻魔の封印も解かれようとしていマ~ス

しかも人間の手によってデス……

それを察した星竜王の魂はユーをこの時代に呼び、ユーに復活を阻止して欲しいと頼んだ。

そして赤き竜の力を【閃珖竜スターダスト】として聖星ボーイに授けた。

ここまでは合っていますカ?」

 

「はい」

 

ソファに深く腰を下ろしているペガサスはふぅ、と息を吐き強く目を瞑った。

目の前にいる少年が言っている事は嘘ではないだろう。

自分がデザインしたわけでもなく、未来でも存在しないはずの【閃珖竜スターダスト】の存在がそれを証明している。

 

「シグナーの竜はまだ目覚める時ではない。

つまり【スターダスト・ドラゴン】達は三幻魔と戦うためだけに目覚めさせるのは早すぎる、という意味でしょう。

彼等は数十年後に復活する地縛神と戦う定めデ~ス」

 

「はい。

ですから星竜王はシグナーの竜の代わりに【閃珖竜スターダスト】を託すと言っていました」

 

聖星は自分の横を見下ろした。

そこには【星態龍】と何か言葉を交わしている【閃珖竜スターダスト】がいた。

 

「それでペガサスさん、三幻魔に関して何か心当たりはありませんか?」

 

「ソーリー。

私には全く心当たりがありまセ~ン。

バット、【閃珖竜スターダスト】がデュエルモンスターズのカードである限り、三幻魔もデュエルモンスターズに関係している存在だというのは分かりマ~ス」

 

「ですよね……」

 

ペガサスに心当たりがあり、なおかつ彼がデザインしたカードの中にヒントがあれば良かった。

しかしカード等遊星やジャックのように勝手に作り出す事が出来るものだ。

もしかすると三幻魔の復活を目論む何者かが既に作ろうとしているかもしれない。

 

「ペガサスさん。

暫くの間、アメリカに残っても構いませんか?」

 

「私は構いまセ~ン。

ユーがここにいてくれれば、シンクロ召喚のプロジェクトがより一層進むでショウ。

私としては喜ばしい限りデ~ス。

ですが~、ユーの目的はそれではないようですネ?」

 

「はい。

デュエルアカデミアは孤島なので三幻魔に関する情報を集めるのは難しいと思います。

ですがインダストリアルイリュージョン社でしたら、何か掴めるかもしれません」

 

取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の行方も、神楽坂の勝敗も気になるところだ。

【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の行方ならここでも調べる事が出来るし、神楽坂の事は十代達に任せよう。

とにかく今は三幻魔の情報を集めるのが優先である。

 

「オーケー、分かりました。

では、早速ユーの部屋を手配しまショウ。

どのような部屋を希望しますか?」

 

「前回のように豪華な部屋ではない、普通の部屋をお願いいたします」

 

END

 




やっと終わった…
デュエルが意外と短く終わりましたね。
もう少し捻るべきだったかな…


【閃珖竜スターダスト】を登場させたのはただ単にそのカードを使う聖星が書きたかったからです。
それ以上の理由はない!
けどこの世界には【スターダスト・ドラゴン】がカード化される予定だし、どうしようと思いながらこじつけを考えました。(オイ
……分かっていますよ、無茶苦茶な理論だというのは。
けどこうしないと使えない……!


ゴドウィンはジャックに「3000年前星の民は竜の星に祈りを捧げ、赤き竜を召喚した。そして地上に邪神を封印した。」と話しているのに【地縛神】は5000年毎に赤き竜と戦う、という設定に変わっています。
じゃあ3000年前に戦っていた邪神の設定どうしようと考え「あ、これ【三幻魔】とかよくね?」と思いついたんです。
まぁゴドウィンは「幾度となく邪悪な戦乱が平和を脅かします。」と言っているので、3000年前に起こった『赤き竜vs邪悪な何か』の戦いは何度もあったと捉えても良いですよね。
この物語ではそのうちの1つが【三幻魔】との戦いとしています。


ペガサスは【三幻魔】の存在をセブンスターズ事件まで知らない設定にしています。
確か本編では【三幻神】や【三邪神】と違い、ペガサスが【三幻魔】を手掛けたという描写が一切ないので。
とりあえず大徳寺先生が見つけた、というのは回想で分かっているんですけどね。


矛盾点があっても所詮二次創作という事でご了承くださいm(__)m


そして今日のARCV…
終わるまでずっとハラハラしていました。
あそこまで緊張感を持ちながら見るデュエルは久しぶりです。

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