遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第十四話 千載一遇のチャンス

見渡す限り溢れかえっている人の数。

目の前を行きかう人々の腕には決まって自分達の剣を身に着けている。

同じ剣を持つ聖星は首を左右に振りながら人の波の中にただ佇んでいた。

 

「お~い、聖星~!」

 

人波の中から聞こえた自分を呼ぶ声に聖星はそちらに顔を向ける。

するといつものように眩しい笑顔を浮かべながらこちらに足を向ける友人を見つけた。

彼の姿を確認した聖星は安堵したかのように微笑んだ。

 

「十代、やっと見つけた」

 

「いや~、わりぃ、わりぃ。

まさか寝坊しちまうとは思わなくってさ」

 

「本当、メールが来たときは呆れたぜ。

まぁ、十代らしいっちゃらしいけど」

 

「どーゆう意味だよ、それ」

 

「だって十代、月一試験でも寝坊しただろう?」

 

「うぐっ!

それを言われると何も言い返せません…………」

 

やっと互いの姿を認識した2人は冗談交じりで言葉を交わす。

そして自分達の周りを見渡しこれから起こるイベントに対し胸を躍らせた。

 

「よぉし、絶対に優勝するぞ!!」

 

握り拳を作り、誰よりも意気込む十代。

アカデミアで見る時以上に気合が入っており、どれほどこのイベントを楽しみにしていたのか分かる。

さて、ここまで十代が張り切っているイベントというと「優勝」という言葉で分かると思うが……

 

「頑張れよ、十代。

なんたって優勝賞品はまだ発売されていないレアカードのプレミアムパック。

しかも10パックも貰えるんだからな」

 

冬休みといえば12月下旬から始まるもの。

その時期は世間一般でいえばクリスマス、お正月という1年の中で誰もが活発になる時期である。

そして今回十代が参加する大会は新年を祝して海馬ランドで開かれるデュエル大会。

新年早々のデュエル大会のせいかいつも以上に優勝景品が豪華であり、参加者もかなり熱が入っているようだ。

 

「ちゃんと十代の勇姿はカメラに収めておくから全力で行ってらっしゃい」

 

「あぁ!

…………え、聖星は出ないのかよ!?」

 

「あぁ」

 

勢いで強く頷いたが十代は言われた言葉をやっと理解し、勢いよく聖星に振り替える。

それに対し聖星は微笑むだけ。

 

「だってレアカード入りのパックが10パックだぜ!

準優勝でも5パック!

何ででないんだよ!?」

 

「俺、目立つの嫌だし」

 

「だ~!

じゃあなんでお前を誘ったのか意味ねーじゃん!」

 

「ごめんな」

 

記述しなくても分かるとは思うが、この大会は公式試合でテレビ中継されるのだ。

つまりデュエルしている姿が映像として記録され未来永劫残り続ける。

そんなものに未来人である聖星の姿が映ってしまえばどうなるか考えただけで頭が痛くなる。

申し訳なさそうに微笑む聖星に十代は肩を落とし、見るからに落ち込んでしまう。

しかし流石は十代というべきかすぐに切り替えたようだ。

 

「しょうがねぇな。

じゃあ無理に誘ったのに付き合ってくれたお前への礼に、パックをゲットしてくるぜ!」

 

「え、良いの?」

 

「あぁ。

県外なのにわざわざ来てくれたんだ。

これくらいはするって」

 

十代としては全力でデュエルを楽しみ、決勝戦で聖星を倒して優勝をするつもりだった。

彼との公式でのデュエルを楽しみにしていた分残念だが無理に強要する気は十代にない。

笑顔でそう言った十代に聖星はふにゃり、と笑みを浮かべて嬉しそうに礼を言った。

 

「じゃあ俺は選手登録してくるぜ。

聖星はどうする?」

 

「俺はあのベンチで待ってるよ。

ついでだから何か飲み物買っとこうか?」

 

「マジ?

じゃあコーラ頼む!

金は後で払うからさ!」

 

「お金は要らないけど、パックは頼むな」

 

「おう!」

 

そう言った十代は受付へと走って行った。

取り残された聖星は売店へと向かい、コーラの他に何か良いものがないか探す。

すると隣の人とぶつかった。

 

「あ、すみません」

 

「いや、別に、って不動?」

 

「え?」

 

慌てて謝罪すると何故か名前を呼ばれ、思わず顔を向けると見知った顔があった。

 

「取巻?」

 

「何だ、お前もデュエル大会に参加するのか?」

 

そう尋ねる取巻の左腕にはデュエルディスクが嵌められている。

彼もこの大会の参加者なのだろう。

聖星はすぐに首を横に振って否定した。

 

「いや、俺は十代に誘われて来ただけ。

大会には参加しない」

 

「はぁ!?

何言ってるんだよ、お前!

今回の大会に優勝すればレアパックが貰えるだけじゃない!

あの武藤遊戯さんとデュエル出来るんだぞ!!」

 

「え?

ごめん、今なんて言った?」

 

「だから、優勝したらキング・オブ・デュエリストの遊戯さんとデュエル出来るんだ!」

 

聖星は自分の耳を疑い、慌てて持ってきていた小型のノートパソコンを立ち上げた。

十代から誘われた時、簡単に大会の情報は調べた。

その時伝説のデュエリスト、しかもデュエリストの頂点に立ち神のカードを操る決闘王と戦えるなどどこにもなかったはず。

自分が見逃したとは考えにくい。

すぐに公式ホームページに飛び、目的の情報を探した。

 

「……なお、優勝者には武藤遊戯とデュエルする権利が与えられる。

更新日は昨日……」

 

前日に更新された情報を知るわけがないだろう!

ホームページに表示されている文字を読んだ聖星は心の中で悪態をついた。

何故そんな重要なことを昨日更新したのか。

その理由は旅に出ていた武藤遊戯がたまたま童実野町に戻ってきて、たまたまそれを知った海馬社長が彼に頼んだからだ。

本当に頼んだのか、無理やり参加させたのか真実は当事者のみ知る事だ。

そんな事を知らない聖星は悩んだ。

 

「(どうしよう。

決闘王とのデュエルだぜ。

この時代では生きる伝説。

でも俺の時代じゃもうデュエルする事はできない人だ。

つまり今回の大会は千載一遇のチャンス。

この機を逃したら絶対に後悔する。

でも大会に出場したら【魔導書】のデッキを使わないといけないし、俺の事が公式に記録される。

そうなったら未来に帰った時何か影響があるかもしれない。

…………こうなったら偽名を使う?

いや、ここには十代と取巻がいる。

下手をしたら明日香や大地達も来ているかもしれない。

そんな知り合いがいる中で偽名なんて使ったら怪しまれるし、でも本名で参加したくないし……!

でもデュエルしたい!!)」

 

一生に1度しかないキング・オブ・デュエリストとのデュエルをとるか。

未来の自分の安全をとるか。

2つに1つ。

聖星は傍から見てもわかるほど悩んでいた。

友人の恐ろしいくらいの悩みっぷりに取巻は怪訝そうに首をかしげる。

 

「……………………る」

 

「は?」

 

「この大会。

出場する」

 

「まぁ、普通そうだろうな」

 

「というわけで取巻。

俺、選手登録してくるからコーラとメロンソーダお願い」

 

「はぁ!?」

 

「あ、お姉さんこれ代金です。

お釣りはいりません」

 

「なっ、ちょ、おい、不動!」

 

自分に2人分の飲み物を押し付けた聖星は人波にあっさりと消えてしまった。

姿が見えなくなった友人に取巻は盛大にため息をつく。

 

**

 

「えぇ!?

遊戯さんも来るのかよ!?」

 

「あぁ。

ホームページにそう書いてあるから間違いないぜ」

 

「不動だけじゃなくてお前まで知らなかったのかよ……

ちゃんと大会の情報くらいチェックしろよ」

 

やった、遊戯さんと戦えるなんて、ラッキー!!と握り拳を作る十代。

聖星はどこか複雑な表情を浮かべ、取巻は痛む頭を抑える。

3人は無事エントリーが済み、大会が始まるのを今か今かと待っている。

 

「そーいやよ、今日の聖星のデッキって何だ?

カイザー相手の全力デッキ?」

 

「いや、今回は違うデッキさ。

確か十代相手にも使ったことはないデッキかな」

 

「……本当、お前どうしてそんなに沢山カードを持ってるんだ?」

 

取巻の心底不思議そうな呟きに聖星は微笑む。

暗に教える気はないと言っているのだろう。

仮に教えたところで一般人の取巻が信じるとは思えないが。

すると海馬ランド内に独特な音が鳴り響く。

そして会場に目をやると司会者らしきサングラスをかけている黒服の男性が立っていた。

 

「全国から集まったデュエリストの皆様。

本日はこの海馬ランドで開かれるデュエル大会に参加していただき誠にありがとうございます。

さて、本来ならここで永延と挨拶を述べるのが私の務めでしょうが、皆様はそのような事は望んでいないと思います」

 

彼の言う通りだ。

ここにいるほとんどの人間は早くデュエルがしたくて仕方がなく、すでに好戦的な表情を浮かべている者ばかり。

 

「それではルールの説明をします。

皆様、受付時に渡されたケースを開けてください」

 

受付時に渡されたもの。

それは名刺入れ2個分のサイズで開けばバッジケースになっている。

その中には1つのバッジがあり、十代、取巻、聖星はそれぞれデザインが異なっている。

 

「それはこの大会の参加資格。

大会の参加者はそのバッジをかけてデュエルしていただきます。

そしてバッジが8つそろったデュエリスト8名のみ決勝トーナメント進出です。

ちなみに8名になった時点で予選は終了とさせて頂きます」

 

「つまり、この大会は勝つだけじゃダメって事か?」

 

「そうみたいだな。

何としても8人以内に入れるよう時間との勝負ってわけか」

 

「まるでバトルシティだな」

 

確認するように尋ねる十代に聖星は頷く。

取巻は自分達が幼いころ開かれた大会を思い出しその時のルールと似ていると思った。

 

「では、只今より海馬コーポレーション主催のデュエル大会を開始します!」

 

「「「「うぉおおおおお!!!」」」」

 

司会者が宣言した言葉に会場は一気に沸き立つ。

その雰囲気に感化され聖星達の表情も好戦的になる。

 

「よっしゃぁ!

じゃあ俺は誰とデュエルしようかなぁ」

 

「俺は少し遠く離れた場所でデュエルするよ。

予選で不動達と当たりたくないしな」

 

「それには賛成。

折角の大会だ。

決勝トーナメントで当たりたいよな」

 

へっ、と誰よりも好戦的な笑みを浮かべている十代。

興味なさそうにクールに振る舞いながら目をそらす取巻。

微笑んでいるだけだが決して負けないという闘志を抱く聖星。

3人は一瞬だけ視線を交え、何も言わずにその場を立ち去った。

 

**

 

場所は変わって巨大なモニターが備え付けられている一室。

そのモニターには大会の参加者の様子が映っており様々なデュエルを見る事が出来る。

大きなソファに座っている大会の主催者、海馬瀬人は低レベルなデュエルの様子にふん、と鼻を鳴らした。

一方彼の向かい合ったソファに座っている青年と男性は瞳を輝かせながらデュエルの様子を見ていた。

 

「それにしても驚きデ~ス。

まさか遊戯ボーイがこの大会の特別ゲストとして呼ばれていたとは私は全く予想でなかったデ~ス」

 

「いや、今回は海馬君に強引に連れてこられたっていうか……」

 

「貴様も決闘王ならそれらしく振舞ったらどうだ。

いつまでたっても放浪しおって」

 

「僕はそんなキャラじゃないってば!

それに世界中を見たっていいじゃない」

 

世界を見る事が別に悪いことではない。

ただ海馬コーポレーションの社長として勤めている海馬としては、いつまでもふらふらしている遊戯にいい加減落ち着いたらどうだと言いたいのだ。

彼自身、自分が欲してやまないキング・オブ・デュエリストの称号を持っている。

その名を使えば世界を掌握する事もできるというのに。

遊戯はそういう事には一切興味を持たずただぶらぶらと世界中を回っていた。

 

「それでペガサス、何故ここに来た?

この俺にアポイントを取らず押しかけてきたのだ。

それ相応の理由はあるんだろうな?」

 

海馬とペガサスはソリッドビジョンの技術を与える者とデュエルモンスターズのデータを与える者という関係。

互いに与え、利益を生み出し、デュエルモンスターズを発展させる。

だから彼が日本に来る事に関しては何とも言わないが、予約も何もなしにいきなり来られるのは非常に迷惑だ。

まぁ、海馬は海馬で相手の都合など考えずに押しかけるタイプだが。

 

「海馬ボーイは相変わらずユーモアがありまセ~ン。

もう少し肩の力を抜いてはどうですカ?」

 

「下らん話はやめてさっさと本題に入れ。

貴様が自分が関わっていないデュエル大会をただ観戦するためだけに日本に来たわけではなかろう」

 

「オーノー。

遊戯ボーイ、どうすれば海馬ボーイはもっとユーモアを覚えてくれるのでしょうカ。

いい方法はありませんカ?」

 

「うん、ないと思うよ」

 

「遊戯!」

 

笑顔でペガサスに返す遊戯に海馬はつい声を張り上げる。

昔はもう1人の遊戯ばかり目が行き、彼は気弱でただの弱虫だと思っていたがこうやって言葉を交わすと遊戯も遊戯でかなり肝が据わっている。

 

「ではジョークはここまでにしマ~ス。

実はイエスタデー、私は不思議な夢を見たのデ~ス」

 

「不思議な夢?」

 

「…………」

 

「イエ~ス。

それはとても冷たく、悲しい、バット……

デュエルモンスターズの新たな可能性を示す夢デ~ス」

 

ペガサスは巨大スクリーンに目をやり、そこに映っているデュエリスト達を見る。

1人1人、その中に輝く事が約束されている原石を探すかのように。

夢の中で目を覚ましたペガサスは目の前の光景に目を疑った。

炎が上がり、死の匂いが充満する大地。

その地上を我が物顔で歩く巨大な生物。

そしてその生物に対抗しようと攻撃を繰り返す5体のドラゴンと、そのドラゴン達を遥かにしのぐ巨大さを持つ赤い竜。

 

「地上にいたモンスター達からは神に似た力を感じまシタ」

 

「神の力だと?」

 

「どういう事、ペガサス?」

 

「それは私にもわかりまセ~ン。

そして地上のモンスター達に対し、ドラゴン達からはとても神秘的な力を感じたのデ~ス」

 

鳥やトカゲ、クジラなどを模したモンスター達から感じられたのは邪悪な力。

しかしドラゴン達から感じたのはその闇を払いのける聖なる力。

一目見てあのドラゴン達は敵ではないと分かった。

 

「その時、巨大な赤いドラゴンが私にこう告げたのデ~ス。

今日、この大会にデュエルモンスターズの新たな扉を開くデュエリストが現れる、ト…………」

 

「デュエルモンスターズの……」

 

「新たな扉……」

 

ペガサスの言葉に海馬は胡散臭そうな表情を浮かべる。

いくら高校時代に非科学的な現象に巻き込まれ、多少は耐性がついたとはいえやはり夢のお告げなど信じられないものだ。

だが遊戯はかつて千年アイテムの所持者だったペガサスの言葉を真剣に考えた。

 

「だから私は全ての予定をキャンセルし、はるばる日本にまで来たのデ~ス」

 

巨大モニターに映し出されるデュエリスト達。

どれもまだ発達途上なのか幼稚なデュエルも多くみられる。

しかしとても素晴らしいデュエルタクティスで勝ち続けるデュエリストもいる。

ペガサスは目を閉じ、夢の内容を再び思い出した。

その時、勢いよく扉が開く。

 

「大変でございます、瀬人様!!」

 

「どうした磯野?

騒々しいぞ」

 

「はっ、それが…………」

 

**

 

「「デュエル!!」」

 

海馬ランド内で開かれているデュエル大会。

聖星は早速最初の相手を見つけ、互いに距離をとった。

相手は自分と同じ年くらいの少年だ。

 

「先攻は俺だ。

俺のターン、ドロー。

俺は【魔導化士マット】を守備表示で召喚」

 

聖星が召喚したのは15,6歳くらいの少年。

彼は口に草をくわえ、眠たそうにくわぁ……と欠伸をする。

欠伸をかみ殺さず堂々とする姿は彼の元となった愚者のカードに相応しいだろう。

 

「【マット】の効果発動。

1ターンに1度デッキから1枚【魔導書】を墓地に送る。

俺は【アルマの魔導書】を墓地に送る」

 

効果の発動を宣言すると【マット】はとても面倒くさそうな表情を浮かべる。

そんなにやりたくないのか。

苦笑を浮かべながら聖星はデッキを広げ【アルマの魔導書】を墓地に送る。

 

「さらに魔法カード【天使の施し】を発動。

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる。

俺は【魔導鬼士ディアール】と【ヒュグロの魔導書】を墓地に捨てる」

 

「え、何で上級モンスターを墓地に捨てたんだ?」

 

聖星が捨てたカードにレベル6のモンスターに少年は首をかしげる。

レベル6なら生贄が1体ですむので次のターンに召喚が可能だ。

それなのに聖星は捨てた。

教える気はないのか聖星は微笑みそのまま続ける。

 

「さらに永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

【魔導書】と名の付く魔法カードが発動するたびに魔力カウンターをのせる。

俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加える。

俺は【セフェルの魔導書】を加える」

 

「随分と魔法カードばっかり使うなぁ」

 

「そういうデッキだからな。

そしてこの瞬間、【魔導書】が発動した事で【エトワール】に魔力カウンターが乗る」

 

【マット】の前に現れた1冊の書物。

それは淡い紫色に輝きを放っていたが、次第にその光は黒ずんでいった。

 

「手札から【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を見せる事で発動できる。

手札の【魔導書院ラメイソン】を見せ、墓地の【魔導書】と名の付く通常魔法をコピーする」

 

「通常魔法のコピー?

えっと、君の墓地にある【魔導書】は……」

 

「通常魔法は【アルマ】、【ヒュグロ】、【グリモ】の3枚。

けど俺はさっきサーチに使った【グリモの魔導書】をコピーするぜ」

 

「……って事はまた【魔導書】を?」

 

「あぁ。

俺は【魔導書士バテル】を手札に加える」

 

「え、モンスターカード?」

 

「【グリモ】は【魔導書】と名の付くカードならなんだって手札に加えていいんだ」

 

【バテル】は魔法カードという制限があるが【グリモの魔導書】にはそんな制限などない。

あるとしたらせいぜい同名カードを加えないという点だ。

同時に【エトワール】の魔力カウンターが2つになる。

 

「俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

パチッ、とフィールド魔法ゾーンが開きそこにカードをセットする。

すると凄まじい轟音が鳴り響き聖星の背後から巨大な建物が現れる。

建物の周りには魔力カウンターに似た球体が浮遊しており一目見て魔法使い族に関係のあるカードだと分かった。

そして【エトワール】の魔力カウンターが3つになった。

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる。

俺は【ロード・オブ・ドラゴン‐ドラゴンの支配者】と【神竜ラグナロク】を墓地に捨てる」

 

「うん?」

 

少年が捨てた2枚のカード。

それはあまり聞きなれないカードだがどこか聖星の中に引っかかった。

【ロード・オブ・ドラゴン】はドラゴン族のサポートカードとして記憶している。

【ラグナロク】も通常モンスターのドラゴン族だ。

だが頭の中で何かが引っかかり、喉のところまで何かが来ているような気がする。

 

「(なんかあの組み合わせで何かあったよな……

あれ~?)」

 

「そして俺は魔法カード【龍の鏡】を手札から発動!!」

 

「あ。

【キングドラグーン】」

 

「そうさ!

俺は墓地の【ロード・オブ・ドラゴン】と【ラグナロク】を除外し【竜魔人キングドラグーン】を融合召喚する!!」

 

墓地から合われた魔法使いとドラゴン族。

2人は互いに合わさるかのように歪み、その歪んだ影が巨大なドラゴンを生み出す。

 

「グォオオオ!!」

 

特殊召喚されたのは手に笛をもった竜人。

融合前の姿とは違い凄まじい威圧感を放つドラゴンに聖星は冷や汗を流した。

【キングドラグーン】は攻撃力2400と少し低めだが効果はドラゴン族を対象にする効果を全て封じてしまう。

しかも【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】のように手札からドラゴン族を特殊召喚するのだ。

 

「【キングドラグーン】の効果発動!

1ターンに1度、手札からドラゴン族を特殊召喚できる!

俺は【ホルスの黒炎竜Lv6】を特殊召喚する!」

 

「ゲ」

 

堂々と宣言されたドラゴンの名に聖星は自分の場を見る。

【ホルスの黒炎竜Lv6】は自身に対する魔法効果を無効にする。

まだ【Lv6】は大丈夫だが問題はさらなる進化系のモンスターだ。

何とかしたいというのが本音だが生憎伏せカードが悪すぎる。

 

「ところでさ、このフィールド魔法にはどんな効果があるんだ?」

 

「え?

【魔導書院ラメイソン】は俺のスタンバイフェイズ時、墓地の【魔導書】をデッキに戻すことでデッキからカードを1枚ドロー出来るんだ」

 

「1枚ドロー!?

つまりこのまま残すわけにはいかないな……

手札から速攻魔法【サイクロン】を発動!!」

 

「え?」

 

少年が発動したのは相手の魔法・罠カードを破壊するカード。

すると【ラメイソン】に風が吹き、雷を纏った突風が吹き荒れる。

それは数か所にも発生し【ラメイソン】の建物を次々と吹き飛ばした。

その光景を見ている聖星は上手く言葉が出なかったがカード処理を行った。

 

「破壊され墓地へ送られた【ラメイソン】の効果発動。

このカードが相手によって破壊され墓地に送られたとき、墓地に存在する【魔導書】の枚数以下のレベルを持つ魔法使い族を特殊召喚する」

 

「えぇ!?

まだあったのかよ!??

俺の早とちり!」

 

「あぁ……

ちゃんと確認はしような?

そして俺の墓地には【ラメイソン】を入れて5枚の【魔導書】が眠っている。

よって俺はレベル2の【見習い魔術師】を守備表示で特殊召喚」

 

「はっ!」

 

「【見習い魔術師】の効果発動。

このカードが特殊召喚に成功したとき、魔力カウンターを乗せることができるカードに魔力カウンターを乗せる」

 

「今君の場には【エトワール】があるから、これで魔力カウンターは4つ目か」

 

「あぁ」

 

これで聖星の場のモンスターは2体。

少年の場にもモンスターは2体だが彼はまだ通常召喚を行っていない。

仮に通常召喚で3体になっても【見習い魔術師】にはリクルート効果があるので暫くは持つだろう。

 

「行くぜ!

【キングドラグーン】で【見習い魔術師】を攻撃!」

 

【キングドラグーン】から放たれた光線を浴びた【見習い魔術師】。

彼は全身を焼くような熱に顔を歪め粉々に砕け散る。

 

「【見習い魔術師】の効果発動。

このカードが戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下の魔法使い族をセットする事が出来る。

俺は2体目の【見習い魔術師】をセット」

 

「だったら【ホルスの黒炎竜】で【魔導化士マット】を攻撃!」

 

【ホルス】は大きく翼を広げ、天に向かって羽ばたく。

鋼の翼はその重さなど感じさせないほどのスピードを生み出し、あっという間に【ホルス】は大空に高く羽ばたいた。

大きく息を吸い込んだ【ホルス】は炎を息を吐き【マット】を燃やし尽くす。

 

「エンドフェイズ時だ。

【ホルスの黒炎竜Lv6】の効果発動!

このカード墓地に送ることで【ホルスの黒炎竜Lv8】を特殊召喚する!!!」

 

「グォオオオ!!!」

 

「うわぁ、来ちゃったよ……

俺達の天敵」

 

フィールドに残る炎は【ホルス】の体中を包み込んだ。

その炎の勢いは激しくなり、中からさらに美しく巨大な力を手に入れた【ホルスの黒炎竜Lv8】が現れる。

【ホルスの黒炎竜Lv8】は魔法の発動と効果を無効にし破壊する効果を持つ。

魔法カードを多用する聖星の【魔導書】デッキにとっては最悪なカードだ。

しかも罠カードで対処したくても【キングドラグーン】の効果でドラゴン族はカードの対象にならない。

未来では【ホルス】も【キングドラグーン】もあまり見なかったため、デュエルに召喚されるまですっかり忘れていた。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

にっ、と爽やかな笑顔を浮かべる少年に聖星も笑い返す。

どうやら彼も十代と同類の人間のようでデュエルする際とても好感が持てる。

だから純粋にこんな状況でも楽しいと思えるのだ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引く聖星。

引いたカードは【ディメンション・マジック】。

折角強力なモンスターを破壊出来るカードを引いたというのに【ホルスの黒炎竜】のせいで発動したって無駄だ。

どうしようかと思いながら聖星は墓地を確認した。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示に召喚。

【バテル】の効果発動。

召喚に成功した時デッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える。

俺は【トーラの魔導書】を手札に加える。

そしてセットされた【見習い魔術師】を反転召喚

【見習い魔術師】の効果で【エトワール】に魔力カウンターを乗せるぜ」

 

セットされた状態の【見習い魔術師】は光の中から現れ、大きく杖を振り回す。

すると宝石に彼の魔力が集まり【エトワール】に5つ目のカウンターが乗る。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンだ!」

 

勢いよくカードを引いた少年は聖星に笑いかけ、力強く宣言する。

 

「【キングドラグーン】の効果発動!

こいつの効果で手札から【マテリアルドラゴン】を特殊召喚する!

行くぜ、バトルフェイズだ!

【ホルスの黒炎竜】で【見習い魔術師】に攻撃!!」

 

口元に高熱の炎が集まっていく。

その炎により美しい【ホルス】の鋼が綺麗なオレンジに染まっていく。

準備ができた【ホルス】は勢いよく炎を吐き出し攻撃表示の【見習い魔術師】を攻撃した。

 

「くっ!!」

 

攻撃力3000の攻撃。

【見習い魔術師】の攻撃力は400のため聖星のライフは2600も削られ、残りはたったの1400だ。

 

「【見習い魔術師】の効果。

デッキから【見習い魔術師】をセットする」

 

「次に行くぞ!

【マテリアルドラゴン】で【魔導書士バテル】に攻撃!」

 

「罠発動、【マジカルシルクハット】」

 

「げ!」

 

「効果は知ってるよな?」

 

「あったり前だろ!

デッキから魔法・罠カードを選んでモンスターとして裏側守備表示に特殊召喚するカードだ。

しかも場のモンスターも裏側守備にしシルクハットの中に隠しちまう」

 

「正解。

魔法カード【ヒュグロの魔導書】と罠カード【ブレイクスルー・スキル】を選択し、裏側守備でセット」

 

聖星が宣言すると【バテル】の両サイドに2枚のカードが現れる。

すると巨大な?を描いたシルクハットが3体のモンスターを隠し、ランダムに動き始める。あまりの速さに少年は目が追い付かず、どこに【バテル】が隠れているのか分からなくなった。

 

「っ、【マテリアルドラゴン】、真ん中のカードを攻撃だ!」

 

体中から黄金の槍を放つ【マテリアルドラゴン】。

その槍は真ん中のシルクハットを串刺しにし、中に隠れているモンスターを破壊する。

シルクハットは砕け、中にいたモンスターが露わになる。

 

「残念。

破壊されたのは【ヒュグロの魔導書】だ」

 

「なら【キングドラグーン】で右側を攻撃だ!!」

 

最後に残ったモンスターは口から炎を吐き出し右側のカードを破壊する。

そのシルクハットに隠れていたのは【バテル】で、彼は苦しそうに顔を歪め、無念の声を上げる。

 

「【バテル】の効果発動。

このカードがリバースした時、デッキから【魔導書】を加える。

俺は速攻魔法【ゲーテの魔導書】を加える」

 

最後の力を振り絞り、【バテル】は聖星に【魔導書】を託す。

モンスターの意思を受け取り聖星はデッキからカードを加えた。

 

「あちゃぁ……

ライフを削れなかったか。

俺はこれでターンエンド」

 

彼の言葉とともにバトルフェイズは終了し、場に残っていた最後のシルクハットが破壊される。

 

「俺のターンだな、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星は手札を見る。

手札だけではなく、墓地にもカードが揃った。

小さく頷いた聖星はしっかりと3体のモンスターを見た。

 

「行くぜ。

まずは【見習い魔術師】を反転召喚。

このカードの効果で【エトワール】に6つ目の魔力カウンターを乗せる。

そして罠カード【無謀な欲張り】を発動」

 

「え!?」

 

聖星が発動したのは罠が張ってある場所に男が近づくシーンが描かれている通常罠。

そのカードの名前に少年は身に覚えがあるのか警戒するように聖星を見る。

 

「俺はデッキからカードを2枚ドロー。

けど、これから2ターンの間はドローフェイズをスキップしなければならない」

 

やはりデッキの特性上、手札のカードが不足がちになる。

だからドローソースを入れているのだが大抵はデメリット効果つきのカードばかり。

しかし【無謀な欲張り】なら【ラメイソン】がある限りドローフェイズをスキップされても痛くないと思いデッキに投入した。

 

「さらに墓地に眠る【魔導鬼士ディアール】の効果発動。

墓地に存在する【魔導書】を3枚除外し、特殊召喚する」

 

「墓地のカードを!?

実質ノーコストの蘇生じゃないか!」

 

「さ、【ディアール】、出番だぜ」

 

伏せカードしかない聖星の場に【ヒュグロ】、【アルマ】、【グリモの魔導書】が現れ円を描き出す。

その円は魔法陣となり闇の輝きを放ち、禍々しい瘴気が溢れ出てきた。

瘴気は巨大な翼、立派な角、人が持たないものを持つモンスターを生み出した。

 

「グォオオオ!!!!」

 

「今、俺の場には魔力カウンターが5つたまった【魔導書廊エトワール】が存在する。

確か【ホルスの黒炎竜Lv8】は特殊召喚される前に発動された永続魔法の効果までは無効にできなかったよな?」

 

「あぁ」

 

「【ディアール】の攻撃力は2500.

けどこの効果により600ポイントアップし3100だ」

 

「やばっ!」

 

「【ディアール】で【キングドラグーン】に攻撃」

 

【魔導書】の英知を得た【ディアール】は気高き咆哮を上げる。

その咆哮は相手の場のモンスター達の体を震わせ、対戦相手の少年さえも体が震える事を覚えるほどだった。

咆哮を終えた【ディアール】は大きく剣を振り上げ【キングドラグーン】に向かっていく。

 

「罠発動、【マジシャンズ・サークル】。

魔法使い族モンスターが攻撃宣言した時、互いにデッキから魔法使い族を攻撃表示で特殊召喚する。

俺は【魔導冥士ラモール】を特殊召喚する」

 

「俺は【ロード・オブ・ドラゴン‐ドラゴンの支配者】だ!」

 

互いの場に1つの魔法陣が現れ、その中から互いに闇を司る魔法使いが現れた。

【ラモール】は感情を見せない冷たい瞳で相手のフィールドを見渡し、【ロード・オブ・ドラゴン】は無表情のまま【ラモール】を見ている。

 

 

「【ラモール】の効果発動。

こいつが特殊召喚に成功した時、墓地の【魔導書】の種類で効果が決まる。

今、墓地に存在するのは【ヒュグロの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】、【セフェルの魔導書】の3種類。

よって【ラモール】の攻撃力上昇効果が発動する」

 

「攻撃力上昇!?

【エトワール】の効果でも上がるのに、まだ上がるのかよ!」

 

「あぁ。

【ラモール】の元々の攻撃力は2000.

自身の上昇効果で2600、【エトワール】の効果で3200だ」

 

「…………マジ?」

 

「マジ」

 

攻撃力3000以上のモンスターが2体揃った事で少年の顔が引きつっている。

しかしこれも決闘王とデュエルするため。

聖星は微笑み、【ディアール】に指示を出した。

 

「【ディアール】はそのまま【キングドラグーン】に攻撃」

 

「はぁっ!!」

 

攻撃の続行を言い渡され【ディアール】は自分の数倍も大きい【キングドラグーン】を頭上から切り裂く。

真っ二つに切り裂かれた【キングドラグーン】は爆発し、少年のライフが4000から3300に削られた。

 

「そして【ラモール】で【ロード・オブ・ドラゴン】に攻撃」

 

「ふんっ!」

 

続いて攻撃宣言を受けた【ラモール】は自身のデスサイズを振りかざし【ロード・オブ・ドラゴン】に引導を渡した。

攻撃力の差が倍以上もあるため【ロード・オブ・ドラゴン】は抗う暇も苦しむ暇もなく破壊される。

これで少年のライフは2000削られ残りは1300.

 

「さらに墓地から罠発動」

 

「ぼ、墓地からぁ!?

何言ってんだお前!?」

 

普通罠カードは場に伏せる事で発動するカード。

それなのに場ではなく、カードを送る墓地で発動するなど聞いた事がない。

当然の反応かと思いながら聖星は説明した。

 

「俺が発動したのは【ブレイクスルー・スキル】。

このカードは墓地に存在するとき、俺のターンで発動できる。

相手モンスターの効果をエンドフェイズまで無効にするんだ」

 

「……相手モンスターの効果を無効?」

 

「そ、無効」

 

聖星の言葉を肯定するかのように墓地から1枚のカードが現れる。

それは何かの膜かバリアを破っているモンスターが描かれており、そのカードは【ホルスの黒炎竜】へと光を放つ。

光に包まれた【ホルスの黒炎竜】は効果を失ってしまった。

まさかの展開に少年は上手く言葉を発する事が出来ない。

 

「これで魔法カードが使える…………

俺は手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に存在する【魔導書】を3枚除外し、相手フィールドのカードを1枚除外する」

 

「除外!?」

 

「俺は【マテリアルドラゴン】を除外する」

 

墓地から除外された【魔導書】は【グリモの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】、【セフェルの魔導書】だ。

3枚の【魔導書】は【マテリアルドラゴン】を取り囲み異次元の彼方へと追いやった。

ライフポイントだけではなく、超巨大なドラゴン族モンスターを1度に2体も失った事に少年は「えー…………」と呟いている。

 

「さらに俺は速攻魔法【ディメンション・マジック】を発動。

場の魔法使い族を生贄に手札の魔法使い族を特殊召喚する。

俺は【見習い魔術師】を生贄に【魔導戦士ブレイカー】を特殊召喚する」

 

役目を終えた【見習い魔術師】は安堵の笑みを浮かべ、自分の背後に現れた棺の中に納まる。

そして棺は蓋を閉められ中からレベル4の魔法使い族が姿を見せた。

彼は鞘から剣を抜き聖星を守るために前に出る。

 

「【ディメンション・マジック】の効果はまだ終わらないぜ。

魔法使い族の特殊召喚を終えた後モンスターを1体破壊できる」

 

「破壊効果……

だから攻撃力の低い【マテリアルドラゴン】を除外したのか!」

 

折角効果を無効にしたのに聖星は攻撃力の高い【ホルスの黒炎竜】を場に残した。

どうして残したのか理解できなかったが【ディメンション・マジック】の破壊効果を聞き、やっと理解できた。

尤も【ディメンション・マジック】の破壊効果は任意効果なので【マテリアルドラゴン】で無効にはできないが。

【ブレイカー】が現れた棺の中から無数の鎖が解き放たれ【ホルスの黒炎竜Lv8】を無理やり引きずり込む。

その時だ。

 

「え?」

 

「な、何だ!?」

 

突然【ホルスの黒炎竜】が消えてしまったのだ。

【ディメンション・マジック】の破壊効果かと思ったがそれにしてはおかしい。

破壊効果では棺の中に取り込み爆発するという演出がある。

その前に消えるなどおかしすぎる。

相手の少年が何かを発動したのかと思ったが彼の様子からそれはない。

 

「あ、あれ、どうしたんだ?」

 

「おい、俺のモンスターが消えたぞ!」

 

「うっそぉ!?

私の【マロン】ちゃん!!」

 

「女王様~~!!」

 

次々に聞こえてくるデュエリストの声。

聖星は周りを見渡し自分の目を疑った。

何と他のデュエリスト達のモンスターは消えたり、アンデッド族のような容姿になったり、溶けて消えたりしているのだ。

会場内は突然の事にパニック状態になっており司会者達も困惑している。

 

「……一体どうなってるんだ?」

 

「聖星!!」

 

「不動!!」

 

「十代、取巻」

 

背後から聞こえた声に振り返れば焦った様子の2人が駆け寄ってくる。

どうやら彼らもこの事態に焦りを覚えたようでとりあえず知り合いの元へと来たという感じだ。

 

「やっぱりこっちもか!

俺のモンスターも溶けちまったんだよ。

取巻もか?」

 

「あぁ。

俺の場合はデュエルディスクが一切カードに対して反応しなくなった。

それで不動、お前はどうなんだ?」

 

「俺か?」

 

聖星は自分のデュエルディスクを見下ろし、場に出されているモンスター達を見る。

彼らは対戦相手がいなくてもそこに凛として立っており、特におかしな点は見られなかった。

 

「聖星のモンスターだけいつも通り?

何かおかしくないか?」

 

「こいつら以外反応しないんじゃないのか?」

 

「ちょっと待って。

魔法カード【トーラの魔導書】を発動」

 

今はバトルフェイズ。

聖星はすぐに手札の速攻魔法を発動した。

すると場にはちゃんと【トーラの魔導書】は現れ、聖星が【ブレイカー】に罠カードと宣言すれば【ブレイカー】は光に包まれる。

つまり聖星のデュエルディスクは正常に作動している事になる。

 

「不動のだけ正常に動いている??

どういう事だ?」

 

怪訝そうな表情を浮かべる取巻。

しかし十代はすぐに何かに気が付いたようで確認をとるように聖星に目をやる。

十代からの視線に聖星は小さく頷き、物陰に移動してリュックの中からノートパソコンを取り出した。

 

「不動?」

 

「多分だけど海馬コーポレーションかインダストリアル・イリュージョン社のどっちかにサイバー攻撃が仕掛けられている。

それが原因でデュエルディスクが正常にカードを読み込めなくなったんだ」

 

デュエルディスクのシステムは海馬コーポレーションが。

カードに埋め込まれているマイクロチップはインダストリアル・イリュージョン社が管理している。

聖星はすぐに両者のシステムに侵入し情報を集め出した。

 

「どうだ聖星?」

 

「やっぱり海馬コーポレーションがサイバー攻撃を受けてる。

しかも早い」

 

「マジかよ、何とかできそうか?」

 

「あぁ。

この程度なら……」

 

「って、ちょっと待て不動、遊城!!

お前達何やってるんだよ!?」

 

大丈夫、と微笑むと取巻が慌てて2人の間に入る。

急に入ってきた同級生に聖星と十代は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「え?」

 

「何だよ取巻、うるさいなぁ」

 

「うるさいなぁ、じゃないだろ!

さっきからサイバー攻撃とか何とかできるとかって、どういう事だよ!」

 

「取巻、できたらもう少し声を下げて」

 

周りの人達はほとんどが運営側に殺到しているか自分のデュエルディスクを確認しているかで聖星達に気づいていない。

しかし大声で言われて気づかれたら面倒な事になるのは明白。

だから黙ってほしいと頼んだ。

 

「あ、そっか。

お前は聖星の特技知らないんだっけ」

 

「はぁ、特技?」

 

「聖星はハッキングやプログラムの書き換えが得意なんだぜ。

聖星のデュエルディスクだけが無事だったのもプログラムがこいつのオリジナルだからさ」

 

「……………………は?」

 

何を言っているんだこいつは。

そう顔に書いてある取巻は地面に膝をついている聖星を見下ろす。

聖星はすでにPCの画面に集中しており取巻の声など届いていない。

 

「ハッキング…………?

ハッキング!?

じゃあお前、今海馬コーポレーションに侵入してるのかよ!?」

 

「あぁ」

 

短く返ってきた言葉に取巻は頭が痛くなる。

ハッキングとは取巻の中では犯罪行為であると同時にかなりの高度な技術が必要というイメージがある。

しかも海馬コーポレーションは大手企業中の大手。

他社にデュエルディスクの情報が漏れないようシステム管理はしっかりしている。

それにいとも容易く侵入しているなど信じられる話ではない。

 

「聖星、何分くらいで終わりそうだ?」

 

「簡単なウイルスだし、逆探知も同時にしているから……

あと5分くらい」

 

「簡単なのか?」

 

「あぁ。

凄く簡単」

 

尤もこの時代に生きているプログラマーやハッカー達にとっては最先端のウイルスだ。

しかし聖星は未来人のため彼らのサイバー攻撃はとても古く、対処法など山のようにあるもの。

聖星は涼しい顔で逆探知も行い一切迷わずキーボードを押す。

相変わらずの友人に十代は素直に笑って取巻は考える事を止めた。

 

「おい不動。

さっき逆探知とか言っていたけど、逆にお前が海馬コーポレーションに逆探知とかされたりしないのか?」

 

「うん、そんなの99.99%ありえない」

 

「流石聖星だぜ」

 

「……………………」

 

「あ、手順を変えてきた」

 

聖星に妨害されている事に気付いたのだろう。

全く違う方法でサイバー攻撃をし、今度は聖星自身へもその矛先が向かった。

しかし所詮古い技術。

聖星は特に焦りもせず相手のサイバー攻撃を叩き潰した。

 

「よし、終わった」

 

ふぅ、と一仕事を終えた聖星は息を吐く。

そして視線を参加者達に向ければまだデュエルディスクの不調を訴えている。

 

「聖星、サイバー攻撃は終わったんだろう?」

 

「あぁ。

終わったけど、システムの復旧中かな。

それが終わればいつも通りに動くはずだぜ。

あとはこいつらだな…………」

 

PCの画面には緑色のウィンドウともう1つ、地図を映しだしているいるウィンドウがある。

地図には赤い点が点滅しており十代と取巻はその画面を覗き込んだ。

 

「何だこの点?」

 

「逆探知先か?」

 

「正解。

あとはこいつらの居場所を海馬社長にメールで連絡して……」

 

「メールって絶対ばれるだろ!

大丈夫なのか?」

 

「平気、平気。

ダミーアドレスを使うから。

そこから俺を割り出すなんて絶対に不可能だし」

 

「…………お前、絶対天職違うだろ」

 

「あ、取巻もそう思うか?」

 

平然と高度な事をやる同級生に取巻は心底ありえないと思った。

取巻の微かな呟きに十代は激しく同意した。

 

「それよりさ聖星。

ここにサイバー攻撃をしかけた連中がいるんだろ?」

 

「あぁ、そうだけど」

 

「だったら、俺達でとっ捕まえようぜ!」

 

「え?」

 

「何を言ってるんだ遊城?」

 

「だってさ折角の大会を滅茶苦茶にしたんだぜ!

しかも海馬さん達がたどり着く前にそいつらが逃げるかもしんないだろ!」

 

新年を祝して開かれたデュエル大会。

しかも決闘王と戦えるかもしれなかったのだ。

こうなってしまえば大会が中止になるのは必然。

せっかくのチャンスを潰され、デュエリストとして黙っていられない。

そう力説する十代に取巻は強く頷く。

 

「遊城の言うとおりだ。

俺は賛成。

不動、お前はどうする?」

 

「本音を言えば行きたいけど、あまりにもリスクが高すぎる」

 

赤く光っている場所。

そこはこの海馬ランドからあまり距離もない。

だから時間的には問題はないのだが、問題は敵が何人かだ。

 

「地図で確認するとここは近々取り壊しが決まっているマンション。

一応どの部屋でウイルスを送ったのかまでは分かったけど、ハッカーが1人なのか複数なのか分からない以上たった3人で行くのは危険だ」

 

「んなもん、デュエルで倒せば良いだろ!」

 

「十代。

デュエリストの命であるプログラムにこんな事をするやつだぜ。

デュエリストとしてのプライドがあるかどうか…………」

 

「あ~~、も~~!

聖星は臆病すぎるんだよ!

とにかく、早く行かないと逃げられちまう!

俺は行くぜ!」

 

「十代!?

って、取巻までぇ!」

 

難しい考えが苦手な十代はそのまま聖星に背中を向け一気に走り出す。

聖星はすぐに止めようと思ったが取巻も一緒に行ってしまったため止めるタイミングを失ってしまった。

すぐに人ごみの中に消えてしまった2人に聖星は頭を抱えたくなった。

 

「どうする、聖星?」

 

「あの2人だぜ。

行くしかないだろ」

 

もし犯人が武器を持っていたらどうする気なんだ。

聖星は深いため息をつき、海馬にメールを送ってすぐにその場から走り去った。

 

**

 

同じ時刻、海馬コーポレーションのコンピュータールームにいる人達は我が目を疑った。

それはこの会社の社長である海馬も同じだ。

磯野から突然サイバー攻撃を受けているとの報告が入り、慌てて駆け付けた。

そうしたら彼の言う通りこの場はサイバー攻撃の対応に追われ騒然としていた。

 

「……馬鹿な、一体どうなっている?」

 

海馬は自分が打っていたPCの画面を凝視した。

そこにはウイルスは完全に排除したという文字が並んでいる。

 

「(このウイルスは今までにはない最新のもの。

そしてこの場にいる誰もがそれに対処できなかった。

認めたくはないがもう少しで我が社のシステムは乗っ取られていただろう。

だが、いきなり外部から何者かがハッキングしウイルスを破壊した……)」

 

あり得ない。

海馬の中にこの5文字が浮かび上がり上手く言葉を発する事が出来ない。

だがここは大企業の社長というべきか彼はすぐに威厳ある態度をとり、未だに動けないでいる部下達に指示を出す。

海馬の言葉にオペレーター達は我に返り次々とキーボードを打っていく。

 

「(我が社の社員が総力を挙げても対応できなかったサイバー攻撃を短時間で無力化した。

恐らくそいつの頭脳はこの中の誰よりもずば抜けている。

でなければそんな芸当は出来ん。

一体何者が…………)」

 

彼らが必死にシステムの復旧に勤しんでいる間、海馬は逆探知を開始した。

そして今まで自分が出会った、または耳にしたなかで該当する人間がいないか思い出す。

だがそんな人物など思い浮かばない。

逆探知もされないよう、対策も完全に施されている。

身元を特定されないための徹底した対応に海馬は口元に弧を描いた。

 

「(このまま野放しにするのは惜しい…………)」

 

だが、手掛かりが全くない。

諦めの悪い海馬はどうしたものかと思考を切り替えた。

すると1人のオペレーターが海馬を呼ぶ。

 

「どうした?」

 

「はい、今不審なメールが届きました」

 

「メールだと?

見せろ」

 

「はい。

スクリーンに出します」

 

PCに向けていた視線を大画面のスクリーンに映す。

そこには届いたメールが表示された。

メールには短い文章と地図が乗っており、それを読み終えた人達は再び騒ぎ出す。

 

「クズ共の居場所だと?

ふぅん。

実に面白い事をしてくれる。

おい、このメールの送り主を特定しておけ。

俺はここに向かう」

 

「はっ!」

 

「モクバ、車の用意をしろ」

 

「分かったよ、兄様!」

 

**

 

「くっそ、一体どうなってやがる!」

 

「おい、お前の自信作だろ!?

何で効かねぇんだ!?」

 

「誰かが妨害したんだよ!

畜生、一体どこのどいつだ!」

 

廃墟となっているマンションの広間で2人の男が揉めていた。

彼らはPCの画面を凝視し、ERRORの文字を見続けた。

ウイルスを作り出したハッカーは何度もキーボードを打ち、再び海馬コーポレーションにサイバー攻撃をしかける。

しかし何度繰り返してもERRORと表示されるだけ。

すると勢いよく扉が開く。

 

「なっ!?」

 

「誰だ!??」

 

振り返れば高校生くらいの少年が3人そこにいた。

彼らは険しい表情を浮かべ現れた少年、聖星達を睨み付ける。

 

「お前達だな、こんな事したのは!」

 

「なっ、どうしてここが分かった!?」

 

「こっちには天才ハッカーがいるんだ!

逆探知なんて楽勝なんだよ!」

 

「天才ハッカー……?

そうか、お前達かっ!!」

 

「俺の自信作を台無しにしやがって!!」

 

2人の男は悔しそうに顔を歪め聖星達を睨み付ける。

聖星は冷静に男達を観察し、彼らが武術に長けているか考えた。

しかし雰囲気や体格、筋肉からそれはないと判断する。

あとは武器を所持していないかだ。

 

「海馬コーポレーションにお前達の事は伝えた。

すぐに職員や警察が来るはずだ」

 

「くっ、小僧の分際で!」

 

取巻の言葉に男達は顔を真っ赤にし、左腕を前に出す。

そこには彼らには似合わない白銀の翼があった。

 

「へっ、デュエルか!

やってやるぜ!」

 

「誰が行く?」

 

相手は2人。

自分達は3人。

取巻は聖星と十代に目だけやり静かに尋ねた。

彼の問いかけに聖星は一歩下がる。

 

「俺はパス。

2人に頼めるか?」

 

「は?」

 

「おう!」

 

意外という表情を浮かべる取巻に対し、十代は軽く手を上げる。

確かに聖星も奴らをデュエルで叩き潰したい。

だが彼らが最後まで大人しくしているという保証もない。

だから聖星は彼らが不穏な動きをしたらすぐに対応できるようにした。

 

「俺達の怒りを思い知れ!!」

 

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ!!」

 

「折角の大会をめちゃくちゃにしたんだ……

ただで終わると思うなよ……」

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

広い部屋に4人の声が響く。

十代の相手は小柄の男性で、取巻は体格の良い男性を相手にする。

 

「俺のターンだ!

俺は生け贄なしで【可変機獣ガンナードラゴン】を召喚する。

カードを一枚伏せターンエンド」

 

「ギュアアアア!!」

 

小柄の男性は怒りに任せてカードを引き、モンスターを召喚する。

現れたのは機械族のモンスター。

レベルは7なのだが生贄なしで召喚する事が出来る効果を持つ。

巨大なモンスターはすぐに半分くらいの大きさになり聖星は伏せカードに目をやる。

 

「(【ガンナードラゴン】か。

生贄なしで召喚した場合攻撃力と守備力が半分になるデメリットがある……

って事はあのカードは【スキルドレイン】か【禁じられた聖杯】?)」

 

デメリット効果により攻撃力が半減してしまうカードだがモンスター効果を無効にすれば攻撃力は1400から元の2800になる。

他に考えられるのが場から除外するもしくは表示形式を変更にするカード。

まさかウイルスカードを伏せてはいないだろう。

仮に伏せていたとしても十代のデッキは融合が主力の【E・HERO】デッキなので、発動されても大した損害はないはずだ。

するとメールを頼りに車を走らせた海馬と何故か乗ってきた遊戯、ペガサスの3人が到着する。

 

「ホワット!?

子供ではありませんカ。

どうして私達より先に来たのでショウ?」

 

「ふぅん、恐らく俺宛にここにサイバー攻撃をしかけた連中がいることを知らせた連中だろう。

そして逃亡しようとするクズ共を足止めしているといったところか」

 

「彼らを捕まえられるかは十代君達に掛かっているんだね」

 

彼らは窓の外から中の様子を見て気配を殺す。

窓から覗いて見えるのはデュエルをしている4人の姿。

まさか少年達が犯人だとは思えず、海馬は男2人に軽蔑の眼差しを向けた。

デュエルモンスターズの創始者と伝説のデュエリストが自分達を見ているとは夢にも思わない十代は勢いよくカードを引く。

 

「俺のターン!

手札から速攻魔法【サイクロン】を発動する!

悪いが、伏せカードには消えてもらうぜ!」

 

「ならライフを1000払い【スキルドレイン】を発動!

これで【ガンナードラゴン】の攻撃力は元通りになる!!」

 

「(やっぱり【スキルドレイン】か。

【サイクロン】はチェーン1で【スキルドレイン】はチェーン2だから、まずは【スキルドレイン】の効果は適応され場のモンスター達の効果は無効化される。

そして【サイクロン】で破壊され、モンスター効果を使う事ができるようになったけど……

【ガンナードラゴン】の攻撃力が2800に戻ったなぁ)」

 

一瞬だけだが自身の呪縛が解け【ガンナードラゴン】は巨大化する。

そして攻撃力に似合う凶暴さを取り戻し十代を見下ろす。

 

「これで【ガンナードラゴン】の攻撃力は2800!

どうだ小僧!

これで俺の勝ちだ!」

 

「へっ。

だったらその攻撃力をもう1度半減させてやるよ」

 

「何?」

 

「俺は手札から魔法カード【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に捨てる!

俺は【E・HEROワイルドマン】と【フェザーマン】を墓地に捨てるぜ!

そして、【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【フェザーマン】と【ワイルドマン】を融合し、【E・HERO Great TORNADO】を特殊召喚する!

荒ぶる風を巻き起こし全てを吹き飛ばせ!!」

 

墓地に存在する2体の英雄は異空間の彼方へと飛ばされるが、彼らの力を合わせた英雄が突風と共に舞い降りる。

荒々しい風を纏いながら現れた英雄にペガサスは目を見開いた。

 

「なんですか、あの【E・HERO】は!?

ミーの知らない【HERO】デース」

 

「え、ペガサスも知らないの!?」

 

「イエース……

一体あのボーイはどこであのようなカードを……」

 

「【Great TORNADO】の効果発動!

融合召喚に成功した時相手モンスターの攻撃力を半分にする!」

 

「なっ、そういう事か!」

 

先ほど十代が言った言葉を理解した男は目を見開く。

【Great TORNADO】はすぐに風を巻き起こし、【ガンナードラゴン】を後退させる。

荒々しい風に怯んだのか【ガンナードラゴン】は怯えるかのように縮こまる。

 

「さらに【融合】を発動!

手札の【スパークマン】に【クレイマン】を融合させ、【サンダージャイアント】を特殊召喚!」

 

「はっ!」

 

「【サンダージャイアント】で【ガンナードラゴン】に攻撃!」

 

【サンダージャイアント】は巨大な両腕に稲妻を走らせ、その力を凝縮する。

電気の音を発しながら光る球体は彼の手から放たれ【ガンナードラゴン】を破壊した。

攻撃力が1400に戻った【ガンナードラゴン】は一瞬で感電し、砕け散る。

同時に男のライフが1000ポイント削られて2000になった。

 

「……そんな、まさか……」

 

「【Great TORNADO】でダイレクトアタック!」

 

「うわぁああ!!」

 

「ガッチャ、楽しいデュエルだったぜ!」

 

衝撃によって吹き飛ばされた男に対し、十代は笑って言う。

いつも通りの彼の決め台詞に聖星は微笑んだ。

いくら相手が相手でもデュエル自体は好きだからそう言うのだろう。

 

「遊城も終わったようだな」

 

「取巻。

お前も凄かったな。

【大嵐】、【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】、【一族の結束】、【速攻召喚】で相手のライフを0にするなんてさ」

 

まずは相手に先攻を譲り、伏せカードを全て【大嵐】で破壊。

【苦渋の選択】でドラゴン族モンスターを墓地に送ってドラゴン族を通常召喚。

その後【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を特殊召喚。

【レッドアイズ】の効果でドラゴン族を特殊召喚し、追撃として【速攻召喚】を使用。

しかも【一族の結束】で攻撃力を上げているという。

素直に褒められた取巻は当然だろうという表情で言う。

 

「はぁ?

それくらいしないと俺の気が収まらないんだよ」

 

「だよな」

 

一生に1度しかないチャンスを無駄にされたのだ。

表面上は冷静だが腹の中では怒り狂っていたのだろう。

ワンキルなどまだ温いレベルだ。

そう思っていると男の1人が立ち上がり、声を張り上げた。

 

「この、糞ガキ共!」

 

「え?」

 

「っ、遊城!」

 

「十代君!」

 

部屋に響く声に後ろに振り返ると男が十代に向かってナイフを振り落す。

突然の事に取巻と遊戯は彼の名を叫び、十代は体が動かないのかナイフを見る事しか出来なかった。

すると間に聖星が入り、男の手首を掴んで強く引っ張る。

引っ張られた事で男は傾き、聖星は無表情のまま男の顔に膝蹴りを食らわせた。

 

「ガハッ!?」

 

男は鼻から血を流し反動で後ろに倒れそうになる。

だがこれで終わるはずがなく男の懐に入り込んだ聖星は強く握りこぶしを作り、勢いよく叩き込んだ。

カエルが潰れたような声が聞こえたが容赦はせずそのまま踵落としで相手を沈める。

土埃が舞い、地面とご挨拶をしている男はピクリとも動かず聖星はもう1人の男に振り返った。

そして素早く気絶させる。

一瞬の出来事に上手く言葉が出ない取巻達。

だが十代だけは目を輝かせながらすげー!と騒ぐ。

 

「さっすが聖星だぜ!

なぁなぁ、今のどうやったんだ??」

 

「どうって、え、普通に」

 

「普通であんな事できるわけねぇだろ!」

 

「そうかぁ?」

 

「…………お前、本当に腕っ節が強いな」

 

何度か聖星の拳を受けた事がある十代は映画のワンシーンのような格闘術に興奮している。

それに対し取巻は龍牙先生の事を思い出し、引きつった笑みを浮かべた。

こんな反応に慣れっこな聖星は気絶した2人を何で縛ろうかと考えた。

すると拍手が聞こえてくる。

 

「お見事デース」

 

「うん、凄かったよ3人共!」

 

「え?」

 

別の入り口から聞こえてくる声。

自分達以外の声に一瞬だけ警戒したが、声の主を視界に入れると間抜けな声を出してしまう。

それも仕方ないだろう。

何故なら拍手を送ってくれた人達はあまりにも有名人なのだから。

 

「ペガサスさんに遊戯さんに、海馬さん……?」

 

「本物……?」

 

「何でこんなところに?」

 

まさかの登場人物に全く気付かなかった3人は固まる。

ペガサスと遊戯は友好的な眼差しを向けているが、海馬だけは異なり聖星に対し厳しい眼差しを向けている。

それに気が付いている聖星は背中に大量の冷や汗を流した。

 

「(あ、俺どうしよう)」

 

END

 




ここまで読んでいただき有難うございます!
遂に遊戯達の登場です!
遊戯や海馬と関わらせるにはこれしか手はないだろう!と思いこのような形にしました。


Qデュエル大会で遊戯と戦うんじゃないんかい!
Aそれじゃあ社長が興味を示しません
 彼のデュエルディスクはカスタマイズ済みでも外見は一般のデュエルディスクと同じだから

Q社長はヘリだろ!
Aヘリじゃプロペラ音で気づかれます
 結果、聖星は身を隠します
 今回は身を隠す暇がなかったよ、やったね!


さぁ次回はアンケートで決めたデュエリストとのデュエルです!
アンケートでは遊戯への票が1番多かったので、遊戯とのデュエルを書きたいと思います。
(うわぁ…構成が大変だ。)
これにて対戦相手へのアンケートとオリキャラに対するアンケートは締め切らせて頂きます。
2人目のオリキャラは長編には出さない方針で行きます。
投票してくださった皆様、有難うございました!


今更ですが聖星の年齢について。
シャークさんって14歳ですよね。
聖星はシャークさんと同い年。
ゼアルの制服を見ると1年は赤、2年は緑、3年は青。
つまり聖星は中学2年生。

ZEXALⅡにトリップ&帰還:中学2年生(14歳)

帰還直後アカデミアの入学試験を受ける

アカデミアは秋入学
(本来なら中学3年生)

冬休みで正月が過ぎた←今ここ

つまり聖星、エドと同い年なんです。

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