二話目です。投稿した勢いで書いたら出来ました。
「くあぁ……っん」
IS学園ではコマ数限界まで授業をするために入学式の日から既に授業は始まる。当然ながら俺も例外ではなく、入学式後の授業を終え、授業の間の休み時間となっていた。
いやあ、見事に世の中女尊男卑だから、それに真向から喧嘩を売るような存在が現れたらそりゃあ、気になりますよね。教室には一夏と一組クラスメートがいるのだが、隣の席の子以外遠巻きから眺めるばかりでとても気まずい。隣の子も隣の子で見れば目を逸らす、話しかけてというオーラはそのままに。廊下に眼をやれば朝と同様にギャラリーがたくさんいる状況。弾よ、お前の言うとおりだった。女子校で男が一人というのはキツイ………………誰でもいいから助けてくれ。
「ちょっといいか」
聞き慣れた声がする。顔を上げてみればポニーテールの方の幼馴染が腕を組んで立っていた。でかい。
「一寸どころか十寸でもいい。話聞くからこの場から逃してくれ!」
睨むように俺を見ていた箒の手を取り、教室から足早に逃げ出す。手を取る時に触れたことは箒が何も言わなければ黙っておこう。
校舎の最上階に位置する一年生の教室からは、すぐに行ける場としては屋上が最適であった。当然ながら、幸い屋上には誰もいない。
「ふぅっ、ここならいいだろう。悪かったな、いきなり手握ったりして痛くなかったか?」
「だ、大丈夫だからそう言うなら手を離してくれ……」
箒の手をさすりながら顔を覗きこむと頬を朱に染めていた。心なしか声にも力がない。
「ん? ああ、悪い悪い」
「あっ……」
なんだ? 離して欲しかったんじゃないのか。名残惜しそうな顔すんなよ。
「そういえば」
「なんだ?」
ふと思い出したことがあった。
「改めて、全国優勝おめでとう、箒。表彰台に立ってるお前はすごく綺麗でカッコ良かった」
そう、箒とは六年ぶりの再開なんかじゃなかった。話とかをしたわけじゃないけど。
「……そういえば、あの時見ていてくれたのだったな。その、ありがと、な」
「おう、どういたしまして。剣道やめてさ、勉強ばっかやってたんだけど、ふと箒のこと思い出してさ、箒が剣道を続けていれば会える筈だし、会えなくても剣道の試合見れるから、息抜きに行こうって思って、行ったら決勝まで進んでるんだもんな。ホントすげえよ箒は」
「あ、あまり煽てるな。なにも出さんぞ……」
既に赤かった頬は熱を帯びだしており、顔全体が赤くなっていた。何気なしに頬に触ってみる。
「い、一夏!? なにを、っんん」
綺麗な黒髪は跳ね上がり、徐々に箒の頭は上を向く。ちょうど犬猫が顎下を撫でられているようなそんな感じ。さわさわ。
そんな感じで箒で遊んでいて、腕時計を見れば始業二分前。チャイムが鳴り終わるまでに座っていなければあの悪魔がお怒りになる。
「っと、そろそろ時間だ、戻ろう」
「あっ……、んんっ、そ、そうだな。早く行くぞ」
頬から手を離すと、手を握っていた時のように名残惜しそうな顔と、なにか言いかけたような声がした。今のはそういうのじゃないと思いたいけど、もしかして、箒はそういう、なにかをされて喜んじゃう、端的に言えば、Mな方、なのか? もしそうなら、ちょっと………………滾るわ。考え出したら犬に見えてきた。今度撫でてみよう。
悪魔の打撃は箒を守って二回受けました。
二時間目の休み時間となった。俺は先ほどの授業を許可をもらって録音していたので、それを聞きながら一度ノートに書いた内容を再度、別のノートにまとめ直していた。流石は国防を担う者たちを育成する学園、といったところか。この学園で学ぶものは、普通の高校と同じものからIS理論、国防に関することなど多岐に渡る。
自分を除いたこの学園の生徒は、小、中とISの授業を受けてきているのに対し、俺はつい一ヶ月前に参考書を渡され、学び始めたばかり。つまりスタート位置が違う。わかりきっていたことだが差がでかすぎる。予習復習は当然だが、喰らいついていくにはあの手この手使いながらじゃなきゃ無理だ。
「ちょっとよろしくて?」
お嬢様口調である。テンプレートに沿った外見を想像し、見て、ドツボにはまる。金髪の緩やかな縦ロール、透き通るような白い肌。でかい。白人さんのようだ。
「ん? ああ、いいぞ。確か、セシリア・オルコット、オルコット嬢でいいか?」
「あら、私の名前はご存知のようですわね。唯一男性でISを操縦できると聞いてましたから、どれほどの者なのかと少しばかり期待していましたが、礼儀は弁えているようですわね。まあ、私は優秀ですから、あなたのような方でも優しくしてさしあげますわ」
優しさとは一体なんだろう。高圧的な態度をとって相手と会話することなのか。
「ISのことでわからないことがあれば、……泣いて頼んでくれば教えてあげないこともなくってよ。私は、入試で唯一教官を倒したエリートなのですから」
「まあ、その時は泣かねぇけど頼むわ。てか、入試で教官倒したとか言うの俺もだからオルコット嬢だけじゃないぞ」
「わ、私だけだと聞きましたが?」
「あれじゃないのか? 情報規制。初めて乗ったISで教官を倒した男とか色々まずいだろ」
俺の言葉がとどめの一撃となったのかオルコット嬢は考えることをやめたかのように動きを止めた。こっちは勉強してる最中だったってのに話しかけてきてなにも言わなくなるとか迷惑以外の何物でもない。
「なあ、それ以上用ないなら勉強しててもいいか?」
「っ!! ちょっ、ちょっと待ちなさい。どういうことですの!? 私だけではありませんの!?」
「ちょっと落ち着けよ、うるさいから」
「これが落ち着いて――」
始業のチャイムだ。貴重な勉強時間がなくなった。
「……っ、また後できますので逃げないことですわ!! よろしくて!?」
くんなよ、俺の貴重な勉強時間潰しやがって、どういうつもりだよったく。
内心で悪態をついていると姉さんと山田先生が入ってきた。教壇に立つ姿はさながらこれから演説を始めようとする独裁者のようだ。
「この時間では諸君らが実践で使う装備の解説などを行っていきたいと思う。が、その前に再来週に行われる、クラス対抗戦に出場する代表者を決めなければならないのでこの時間を使って決めるぞ」
この授業は山田先生もノートを取るほどなのだからよほど大切な内容なのだろう。対抗戦ってのはなんだ? 大体は名前から想像がつくが。
「簡単に言ってしまえば、クラス委員長だ。生徒会会議、委員会への出席が主な仕事だな。対抗戦は教師側の目で見れば、各クラスの実力推移の基準となる。競争は成長を生むことになるからな。自薦、他薦は問わんぞ」
クラスの代表とか俺には一番縁遠いものだな。ここでなんて更に縁遠いものになる。まあ、黙って見てるのが一――
「はいっ、織斑くんがいいと思いますっ!」
「私も織斑くんを推薦します!」
「なんっでだっ!!」
「黙れ織斑。他にいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
理 不 尽 !!
何なんだこの独裁者は。理不尽にも程がある。おかしいじゃん、俺、男! まだほとんどISについて知らない男!
「ちょっと待ってくれ、おれはんなもんやる気は――」
「黙れ、と言ったはずだ、織斑。他薦されたものに拒否権はない。わかったらとっとと席につけ」
例えなんかじゃねえ。この姉は完全に独裁者だ。悪魔だ。発言することすら許されないのか。姉への恨みつらみを吐き出していると、後ろの方から机を叩く音と椅子を引きずる音が聞こえた。
「待ってください。そんなの納得がいきませんわ!」
オルコット嬢であった。意見が合うとは思わなかったな、いいぞ、がんばれよ。
「このセシリア・オルコットに、一年間男が代表という屈辱を味わえと仰るのですか!? そんなの我慢なりません!!」
あん? こいつは、あれか? この女尊男卑の世の中で、行き過ぎたまでに男を卑下する馬鹿女と同種か?
「実力から行けば、私がクラス代表になるのは必然のこと。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! 私はIS技術を学びにきたのであって猿と一緒にサーカスをやりにきたのではありません!」
身振り手振りを交えてのオルコットの熱弁は加熱していく。本当に男がお嫌いなようだ。
「大体、私は文化としても後進的な国で生活すること自体、耐え難い苦痛で――」
「その辺にしておけよ、セシリア・オルコット」
これまでは声に出さずに我慢してきたがもう限界だ。
「お前は今なんて言った? 後進的な国っつったか? 目の前にいる教師が、それを背負って立った世界最強だってことを忘れたか」
「っ……それは」
「俺はな、憧れてるんだ。織斑千冬という最高の姉に。気高き最強に。自分の周りを守り切った最強に。姉さんが背負ったこの国を馬鹿にするのは、姉さんを馬鹿にしたのと同義だ。てめえがなにを思ってそんなこと口走ったかは知らねえ、知りたくもねえ。だけど、姉さんのことを馬鹿にしたんだ。エリートだろうが関係ねえ、どうにかしててめえに大きいの一発くれてやる」
目の前でこういうの言うの恥ずかしいけど知るか。言っちまったものは仕方がねえ。
「姉さん、ここ対抗戦やるなら模擬戦場みたいなとこあんだろ。勝った方がクラス代表とかそんなんでいいからあの馬鹿と一戦やらせてくれ。頼む」
「………………織斑、先生だ馬鹿者。そうだな、一週間後の月曜に放課後、第三アリーナで勝負を行う、それまでに双方準備を行っておくように。それでは授業に入る」
落ち着け、落ち着け。俺be cool、冷静になるんだ。憤るのもいいが、今は周りとの差を埋めるために勉強だ。差があるままじゃ勝つための策も立てられん。
うちの一夏は原作同様、近くで家族を守る存在を見てますが、原作よりそれに対する憧れが強いです。
とまあ、こんな感じの二話目でした。
勢いで書ければ、セシリアとの戦いも明日、明後日には上がるんじゃないかな、わかりません。
セシリア嫌いじゃないよセシリア。でも、一夏にShame on you(恥を知れ)とか言わせようとしたのは内緒だ。