灰色の世界に囚われた少女   作:ひばりの

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第9話

 竦む肩に、ポンと手が置かれる。

 

「大丈夫だ」

 

 ……ディーノだった。私の後ろに回って、相手に緊張する私をサポートしてくれるようだ。

 

 まだ強張る体をゆっくりとほぐすようにして、ディーノがそう声をかけてくれる。それに私はハッとなって、相手の顔をもう一度まっすぐに見つめ直してみた。

 

「落ち着いて、いつものお前らしくいろ。こいつらはオレと同じで、お前のことを大切に思ってくれる仲間だ」

 

 ディーノの言葉に騙されたと思って、思いきって相手の目を見つめてみる。

 

 男の人は、まっすぐで温かい微笑みを、私に向けて魅せてくれた。

 

 彼の包容に負けて、口から思わず言葉が洩れてくる。

 

「アカネ…… です……。よ、よろしくお願いします」

「ハハッ、うん。よろしくね、アカネちゃん」

 

 いつの間にか彼と繋いでいた手が、ディーノみたいに大きくて、あの時のように安心した。

 

 こんな積極的なことをして、自分でも自覚して顔が赤いのに、そこにディーノがさらに追い打ちをかけてくる。

 

「よく出来ました」

「…………うるさいっ」

 

 睨みを飛ばしたけど、大して相手にされなかった。私も男の子のようにヒットマンでも目指そうか。

 

 私と彼のやりとりを、傍から他の二人に見られているのもなんだか落ち着かないので、もう遠慮もやめて私は気になることを彼らにひとつ、訊いてみる。

 

「あの、さ…… サワダ…… ワサダ……?」

「ああ、みんなツナって呼んでるから、ツナでいいよ」

「……ツナ、その…… 初めて会うのに、まるで以前から私のことを知っているような口振りなのは…… どうして?」

「えっ!? いやっ、それは……」

 

 二人共、会ってもいない私のことを知っている風にして、しかもディーノがくれた名前まで知っているなんて…… 怪しい。それにこの反応は、一体何を隠そうとしているんだろう……。

 

「ア、アカネちゃん。気を悪くしないで聞いてほしいんだけどさ、オレたちが君を知っているのは、そこのディーノさんが文通で毎回アカネちゃんのことを自慢して……」

「わぁぁあああッ!? ツナッ!! それアカネに言うなッ! オレのトップシークレットだぞッ!!」

「ディーノさん…… そこで日本語喋っちゃうのはずるいですよ」

「つーか、日本語に変えたところで大体は感づかれてるぞ。お前」

 

 三人がまたニホンゴで何やら話し込んでいる。でも…… そんなのはもう関係ない。

 

「…………ディーノ」

「ギクッ。いや、アカネ…… 待てよっ。話せば解るから、なっ?」

 

 今はもう、彼の笑顔には騙されない。ヒットマンになんてならずに、今もうここでエンツィオを使って全てを終わらせよう。

 

 じりじりと逃げていくディーノに、私も手にエンツィオを構えてじりじりと歩いていった。すると横からいきなり邪魔が入ってくる。

 

「まあまあ、お二人共落ち着いて! 今日はせっかくのあの人の晴れの舞台なんですから!」

 

 ツナが間に入ってきて、いいところだったのを呆気なく邪魔される。あと少しだったのに……。

 

「助かったぜ、ツナ……」

「ディーノさんもしっかりしてください。女の子に何ビビっちゃってるんですかッ」

「はッ!? い、いや別にビビってねえさ!」

「答えが怪しすぎます。もう、パーティーでもオレに花束なんか渡してくるし…… 相変わらずのドジっぷりですね……」

「いいや、今回ドジッたのはテメーだぞ。ツナ」

「は?」

 

 ディーノがさらに挙動不審になったと思えば、落胆していたツナが男の子の言葉にポカンとしだした。何この茶番みたいな展開…………。

 

「新郎新婦の名前も書かずにボンゴレ名義で招待状を出せば、誰だってお前のことだと勘違いするぞ」

「あれ? そうだっけな―…… 招待状なんて書き慣れてないから、どう書いていいのか分かんないんだよなぁ」

「ツナ…… オメーは馬鹿かッ。ボンゴレのトップが手紙のひとつも書けねえでどうすんだ。近頃はパソコンのキーをポチポチ押すだけで碌に字も書かねえんだろ。ここはひとつ、中坊の頃の初心に還ってみるか?」

「結構ですごめんなさいやめてください」

 

 ツナが、男の子に向かって急に腰を折った。い、今…… 大人が子供に頭を下げているという衝撃的なものを見た、気がする……。な、何が起こっているの……? 私は何も見ていない……。

 

 ジャポネーゼの会話がオンパレードで、混乱の中後ろへ引き下がっていると、足が縺れて後ろにいた誰かにぶつかって、ついでに私はそのまま地面に転んでしまった。

 

「ってぇな。どこ見て歩いてんだよッ」

 

 イタリア語で、相手にそう怒鳴られた。

 

 銀髪、凄んだ眼、ギラつくピアス、ジャラジャラのアクセ、着崩したスーツ………… この人、ヤバイッ!!!

 

 恐怖に固まって言葉も出ない私を依然睨んでいるヤバイ人の隣から、聞き取れない言語…… ニホンゴで誰かが話しかけてくる。

 

「おいおい、獄寺。こんなちっせぇ女の子相手にマジになるなよなぁ」

「うるせぇ、山本。別にこんな餓鬼相手にマジになんねぇっての。つーか、オレが言いてえのはよぉ……」

「あっ、獄寺君に山本」

 

 ツナがまたニホンゴで、私とぶつかった男の人と黒髪の男の人に声をかけている。……まさかの、知り合い……?

 

「10代目! お探ししましたよ! 一人で身動きを取るのは危険ですとあれほど……!」

「や、ここボンゴレが貸し切ってるドーム会場だし……。それにほらっ、リボーンも付いてるから平気だって。獄寺君」

「り、リボーンさんがお伴されていましたかッ……! それなら安心ッスねッ!」

 

 私を怒鳴った時はイタリア語だったのに、ツナになればニホンゴで対応している……。

 

 私の目の前では私とぶつかったあのヤバイ人が、ツナにヘコヘコ頭下げている光景が見えるような…… あれかな、幻聴か幻覚……。私、ニホンゴ分からないし、きっとそうだ。私は何も見なかった。

 

 そんな銀髪のヤバイ人に向かって何を思ったのか、ディーノがその人の肩を掴んで、少し強引に自身の側へと引き寄せる。

 

「オイ、獄寺。お勤めご苦労サマだが、何か言うことはねえのかよ?」

「あぁ? んでテメーまで来てんだよ、跳ね馬。ボンゴレじゃねーだろうが」

「そっちから招待して来たんだ。来るのが礼儀ってもんだろ。それにオレんとこ以外の同盟ファミリーも、どうせわんさか来てんだろ?」

「そうですね。キャバッローネ、ジッリョネロ、シモン、トマゾ…… いろいろ招待しちゃってますね」

「まぁ、それはさて置いといて…… さっきアカネにぶつかっといて、何か言うことはねえのかって聞いてんだ」

「アカネ……? 誰だそりゃ?」

「おっ。もしかして、さっき獄寺とぶつかって、そこで転んだままの女の子のことか?」

 

 背中に何かをぶら下げているジャポネーゼの男の人の言葉をきっかけに、するといきなり全員の目が私に向けられる。……!? な、な、何ッ!? 何話してるの、この人たち……!?

 

「ご、獄寺君! アカネちゃんになんてことしてるの! 早く謝ってッ!!」

「えぇええッ!? こいつッスかッ!? つーかッ、こいつがオレにぶつかって来たんであって、オレのせいじゃね……」

「あっ? なんだ? こんないたいけな少女に、テメェは事の罪なすりつけようってか。ちょっと表出るか、獄寺」

「獄寺、早く謝っとけ。さもねえとディーノが場所構わずに仕掛けて来るぞ」

「往生際悪りぃーのなー、獄寺」

「うるせぇぞ、山本ッ!」

 

 視線を外されたかと思えば、今度は修羅場……!? ディーノの雰囲気が、なんだかさっきとまるで違うような…… 会話が盛り上がっているという証拠なのかな……。なんて考えていたら、銀髪のヤバイ人がこっちに向かって来るじゃない……! なんでッ……!?

 

 彼は私のもとまでやって来ると、膝を折って目線を合わせて、流暢なイタリア語で私に一言。

 

「す、すまなかったッ!!」

 

 …………何が、なんやら……。

 

 周りがうんうんと頷く中で、頭を下げたヤバイ人を見て、一人状況に追いつけなかった。

 

 とりあえずディーノによって再び立ち上がった私は、転んだ時についた服の汚れをひとまず払う。白だから、汚れが目立たないといいけど……。

 

 服の心配をしていたら、銀髪の人が私をジト目で見てきた。その目には私へのとてつもない恨みが込められていそうで、迂闊に目を合わせられない。同じ銀髪なのになぁ、この人苦手……。

 

「つーか、こいつ一体何なんですか……? 全ッ然見たことねえ顔なんスけど……」

「そういやぁ、オレも初めてみるなーって思ってた」

「ああ、この子はね……」

 

 ツナが二人に何か言おうとしたところで、ディーノがふといきなり私の頭を掴んで、私には聞き取れないニホンゴで彼らに何かを告げる。

 

「こいつは、キャバッローネの庭に咲いたフィオーレ…… 期待のホープってわけだ。名前はアカネっていうんだ。よろしく頼むな」

 

 たぶん、私の紹介あたりをしてくれたんだと思う。紹介を終えた後、彼らに向かって普段のようにニコッと笑いかけていた。

 

「……あれ? ディーノさん、それってちょっと話が違うんじゃ……」

「いいや、違わねえぜ」

 

 何かを発言したツナに、すかさずディーノが言葉を返している。ツナはその後何かを考え込むようにして、少しして何かを理解したようにディーノに頷き返した。

 

「……ねぇ、ディーノ」

「んっ?」

「頭、そろそろ重いんだけど」

「えっ? あぁ、悪いな。ちょうどいい高さにあったから、つい」

 

 苦笑して、いつもの笑顔を浮かべた後でディーノが頭から手を離した。

 

 これですっきりした…… けど、どうしてなのか満足しない。

 

 周りも私たちの会話に苦笑する中で、その時またもや知らない声がする。

 

「クフフ…… みなさん、お揃いのようで。何やら楽しそうですね」

「あっ、骸」

 

 霧を掻い潜って出てきたのは、ニホンゴを話すイタリア人らしきオッドアイの男の人だった。

 

「あのさ…… 態々幻覚で霧を作ってからのラスボスみたいな感じの登場、いる?」

「クフフ…… 分かっていないのですね、沢田綱吉。術士にとって登場の仕方とは……」

「長くなるから割愛だぞ」

「ちょっと待ちなさい、元・アルコバレーノ!」

「その呼び方、やめろ。殺るぞ」

「だから君たち場所を考えてからお互いに挑発してくれるかな!?」

 

 あの霧の人の登場で、また騒がしくなって来た…… と思ってまた憂鬱になっていたら、霧で隠れていたそれが露わになって、私は胸を撃たれた。

 

「あれ……? ところで骸、クロームは一緒じゃないの?」

「僕の可愛いクロームでしたら、慣れないお酒にダウンしてしまい、今は彼女の友人たちと別室にて休憩を取らせています」

「あぁ…… そ、そう」

「ん? アカネ? どうした、なんかいいもんでも見つけたか?」

「…………うん、見つけた」

 

 冗談混じりに聞いてきたディーノの問いに、私は至極真面目に答えたつもりだった。一瞬ディーノが拍子抜けた声でこちらを見た気がする…… 気のせいだ。

 

 私がさっきからジロジロ見ていたから、あっちも私に気づいたようで、イタリア語で話しかけてくる。

 

「ほぉ…… 見かけないお嬢さんですね。どちら様でしょうか」

「……初めまして、アカネです」

「! ア、アカネが初めて自分から名乗った……!?」

「アカネ、ですか……。一日の中でほんのひとときにしか拝むことのできない、まどろみのような茜空…… その年齢にして掴みどころのない貴女には、お似合いの名です」

「……ありがとう」

 

 お礼を言うと、変な声でその人が笑った。……あっちではそういう笑い方が普通なのかもしれない。

 

「その髪型、面白いね」

「……それはどういう意味でしょうか」

「素敵ってことだよ」

「「「!?」」」

 

 率直に言ったら、彼ではなく周りがなぜかざわめきだした。全部ニホンゴで何を言っているのかは聞き取れないけど…… なんかちょっと引かれてる……? なんで?

 

 男の人も少し驚いたような顔をして、その後はすぐに笑みを湛えて私に返した。

 

「クフフ、そうですか……。ありがとうございます。この髪型の素晴らしさが解るとは、その歳にしてよく出来たお嬢さんだ」

「骸ーッ! それ以上アカネに近づくなぁーッ! テメーなんぞにアカネは渡さねえからなッ!!」

「えっ、ちょっとディーノ……!?」

 

 彼との話の途中にディーノが引っ張ってきては、男の人にニホンゴで何かを叫んでいる。こんなディーノ、イタリアで一緒にいた時は見たことがなくて、びっくりした……。

 

 ディーノによって私と離された男の人は、ツナたちとニホンゴで何かを話していて、彼らに何を言われたのか蹲って急にクフクフと連呼しだした。様子を見ようとしたら、そこにディーノから肩を掴まれて止められる。

 

「ディーノ?」

「いいか、アカネ。あいつは危険な奴だから、あいつだけには何があろうと絶対に近づくんじゃねえぞ」

「えっ、だけどあの人…… 絵本で見たパイナップルの妖精さんにそっくりだし……」

「はっ? …………そ、それでもだ。あいつは絵本の妖精とは違って、悪い妖精なんだ。火柱で人を炙るし、毒蛇を出すし、鴉で人を喰わせる奴だ」

「でも、ディーノがくれた名前を褒めてくれたし……」

「――ッ、それでもダメだッ!」

 

 結局、ディーノの言い包めに乗せられて、ついその時は頷いてしまった。お陰で妖精さんとはその後話すことは叶わなかった。残念……。

 

「ハーハハハッ! 極限に楽しそうではないか、諸君ッ!」

「わっ、お兄さん!」

「笹川了平…… これのどこが一体楽しそうなのですか?」

「お前以外の奴らは結構楽しんでるぞ」

「……クフン」

 

 お腹も空いてきたから、ディーノと一緒に何を食べるか料理を眺めていると、またニホンゴが飛び交ってきた。私はニホンゴ分からないし、料理を選ぶことに専念しよう。

 

「あっ、お兄さん。この度はご結婚おめでとうございます。ディーノさんたちもイタリアから遥々お祝いに来てくれましたよ」

「オオーッ、そうか! 極限に嬉しいぞーッ!」

「ブッ! 新郎って、お前だったのかッ!?」

「……ディーノ、汚い」

 

 口に含んでいたグラスの中身を、ディーノがいきなり吹き出したので冷静に咎める。料理につたらどうしてくれるの。幸い料理は無事だったけれども、また今度は何だろう……。

 

「どうした、跳ね馬! 極限に顔色が悪そうだぞ!」

「いや…… オレちょっと抜けるわ……」

「ムムッ、どうした? 極限に体調でも悪いのか? なら我が相棒の我流で治療してやるぞ!」

 

 男の人が懐から何か箱のような小さいものを取り出して見せた。何だろうと、ディーノの手に引かれながら覗き込む。

 

 サッと今度は指輪のようなものを指に嵌めて、手を握る。すると、その指輪から黄色いピカピカした炎みたいなのが吹き出して……――――!??

 

「お、お兄さん! こんなところで炎を出さないでくださいよ!」

「ムッ、沢田。しかし……」

 

 ツナが男の人に慌てて何かを注意しているみたい。

 

 私も前にいるディーノの背中にくっついて、彼にすぐそこにある危険を報せる。

 

「ディーノ…… あ、あれ…… か、火事……」

「ん? ああ…… 死ぬ気の炎か。あの炎は大丈夫だから、アカネ」

 

 炎の色を見て、何か納得したように私に向かって微笑むディーノ。何が大丈夫と言うんだろう。人の指輪から火が出ているというのに……。

 

「そういえば、アカネは見るのは初めてか」

 

 ディーノがポツンと呟いた。まぁ、黄色い炎を見るのは確かに初めてだしなんで黄色いのってツッコミはあるけど、どうしてそんなに冷静でいられるの、ディーノ? 私の反応、正しいよね?

 

 ちょっとよそ見をしていたら、いつの間にか炎は消化されていた。誰かが見つけて消してくれたんだろう。男の人の手が濡れてなかったけど…… ハンカチとかで拭いたのかな?

 

「ど、どうなっているの……?」

「ハハッ、すげぇよなっ。ちょっとした手品ってところだぜ」

 

 ディーノにクシャと頭を撫でられ、機会があれば教えてやるとそう言ってくれた。

 

 その時、ディーノと話していると男の人が気づいたようで、また何か大きな声で言っている。うるさいな…。

 

「オオッ、ニューフェイスか。もしや極限に跳ね馬の娘かッ!?」

「笹川、さすがに極限の意味が分からねえよ。つーか、違げぇから!」

 

 やいのやいのと騒ぎ立つ二人の大人たちに四苦八苦してツナが間に入ろうとしていた、そんな時だった。

 

「ちょっと、あんた!」

 

 どこからか、女の人の声がする。綺麗なドレスに身を包んだ黒髪の人がヒールをツカツカと鳴らして近づいてきた。もちろん、ニホンゴだから何を言っているのかはさっぱり。

 

「オオッ、極限にオレの花嫁ではないか!」

「何ワケ分かんないこと言ってんのっ」

 

 女の人が新郎の男の人に近づいて、無愛想に何かを言ったかと思うと相手の頬を遠慮もなく引っ張り上げた。

 

「ちょっと目を離した隙にどっか行っちゃって、私にどれだけ探す手間かけさせるのよ」

「ふ、ふまんふまん……」

「ま、まあまあ、二人共穏便に……」

「沢田、あんたこんなところで何ぼけっとしてんのよ。ヘラヘラしてる暇があったらさっさと京子にプロポーズしてきなさい。あんたたち中学からどんだけ進展ないと思ってんのよ」

「えぇー!? いきなりなんかダメだしー!?」

 

 大人たちが騒いでいる。もう夜も深いっていうのに、大人はまだまだ元気だな。私の肩にいるエンツィオはもうおねむらしい。微かに地響きのような安らかな寝息が聞こえてくる。

 

 ここで、今まで黙っていたあのヤバイ人が、我慢ならずに勢い良く拳を握り締めて言い放った。

 

「つーかよ! なんっで10代目を差し置いてこんな芝生野郎が先に結婚なんかしたりすんだよ! オイッ、芝生頭!」

「ムッ、それは極限にオレが先にプロポーズを決めてしまったからだ!」

「堂々と答えてんじゃねーよ! なんだよ、そのこっ恥ずかしい内容はよぉ!」

「極限に素晴らしいことではないかッ! タコヘッド!」

「あんたは羞耻心とか知ってなさいよ、馬鹿ッ!」

「わぁああッ! もうやめて口論しないでよぉ!」

 

 大人たちには大人たちの世界がある。私は外からそっと見ておこう。

 

 12時を報せる鐘の音が会場内に響き渡るも、気にする大人たちは誰もいなかった。

 

「じゃあ、ツナ。オレたちは先にホテルに帰らせてもらうからな」

「え? は、はいっ。ディーノさん、それじゃあまた……」

 

 ……ううん。たった一人、寝落ちしてしまった私をおぶって、ディーノが会場を後にして行った。

 

 


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