灰色の世界に囚われた少女   作:ひばりの

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第6話

 遠い暗闇から、声が聞こえる……。

 

「…………どう……んだ……」

「本当に……」

「ああ………に、反応が……」

「……これで…………レなんぞ……」

 

 

 

 ――あっ…… あいつ……。

 

 ――まただ…………。

 

 ――……最低。

 

 ――この、人殺し。

 

 ――お前が…… 消えればよかったんだ。

 

 ――いなくなってしまえ…… お前なんか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは……――私の、記憶…………?

 

 そう受け入れるには、言葉にし難い思いが、悲しみが、私の胸の内を締め付ける。

 

 張り裂けそうなくらい後悔を知って、一旦目を瞑った。

 

 こうすれば、全て紛らわせるような気がして……。

 

 記憶にない思いは、流してしまおう――……。

 

 こうして目を瞑っていれば、また彼が助けに来てくれると、甘い薄い期待をしながら――

 

 まだ、複数の声がしている。全員、知らないおじさんの声だ……。何かをヒソヒソと話し合っている。生憎内容は聞き取れないけど…… 壁を挟んだ向こう側で話しているみたい。だから声が籠っているのか。そして私は、どこか分からない一面暗闇にいて、体の自由を奪われている状態。紐とガムテープで手足や口元を塞がれていて、どんなに足掻いても誰にも届かない現状。これはやっぱり、望み薄かな。

 

 無駄な抵抗は体力を消耗するだけなので、早いうちに諦めておく。起こることのない希望に縋るほど、子供でも愚かでもない。どうして私がこんな目に遭わなければならないのかは分からないけど、思いの外この状況下で冷静でいる自分に感心していた。

 

 もう、悟っているのかな。ここから、抜け出せないことを――助けなんて、待っても来ないということを――……。

 

 自分でも、知っていて悲しくなってくる。少しでも、期待していたいんだ。あの笑顔に、彼がまた笑いながら手を差し伸べてくれることに――……。

 

 やっぱり、自分は愚か者だったんだと、目の熱さを覚えて歯を食いしばる。

 

 ――……もう、何もかも嫌だ…… こんな気持ちになるのなら、私なんて消えてしまったら…………。

 

「――――すまん」

 

 息を切らして、壁の向こうから聞こえてくる、優しくて安心する声――……。

 

 無機質な重い音を立てて、外と隔てていた壁が取り除かれていく。そして知った。私が隔離されていたのは、普通車のトランクの中だった。だからゆっくりと、トランクの蓋が上に向かって開かれていく。

 

 眩い光と共に、待ち焦がれていた彼の姿が現れる―――

 

「ッ………… ディーノッ……」

 

 口のガムテープを剥がされて、堪えきれず呟いた。

 

 朦朧とする意識の中で、意識が途切れるまで、ディーノが強く抱き締めてくれたことだけを鮮明に覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカネを無事に保護し、アジトへ搬送して行くのをディーノは見届けた後に、地面へと倒れ込む素知らぬ男たちに構わず問い質す。

 

「おい、聞いてんのか。てめーら、どこのファミリーのもんだ。どうしてアカネを攫ったりした」

 

 彼が名を挙げたその少女の前では決して見せることのない、普段の彼からはかけ離れた殺意の眼差しに、地べたの男たちは全員が慄いた。鞭を手に、己らと格差をみせつける巨大ファミリーのボスに、震え上がらない者はいなかった。

 

「ッ………… だ、れが…… キャバッローネの若僧なんぞに、情報を漏らす、か……」

「そうか」

 

 刹那、男の悶絶が廃棄された工場の空間に響き渡る。ディーノは数度己の武器で彼らの体を容赦なく痛めつけ、自白がないか様子を窺ってみた。

 

 しかし、ディーノの考えをこの男たちは遥かに超えて、狂気じみた眼を剥き出しにして呟く。

 

「ハァ…… ハァ…… おぉ教えてなるものかッ……。こ、これはっ…… 世界を手に入れるための、血眼になってようやく手に入れた情報なんだっ…………。お、お前らに渡すくらいなら………」

 

 カチャリと、身に覚えのある音を聞いて、冷静に事を見つめていたディーノもそうはいられなくなった。

 

「!? オイッ、待て! 何をする気だッ!」

 

 すかさずディーノが制止を呼びかけたが、すでに手遅れだった。

 

 銃声を奏で、次の瞬間ディーノの足元には血達磨の男たちの死体だけが横たわっていた。

 

 その悲惨な光景を一人その場に立って眺めて、彼の拳は急激にわなわなと震えだしていた。

 

「何なんだ、一体…… どうしてそこまでする必要があんだよ……」

 

 今更尋ねても、屍に答える術はないことは承知している。ディーノは歯痒い思いを押し殺し、しばらくした後に一人工場跡地を去って行った。

 

 


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