でも今回登場なし(残念)
誰…… 誰が………。
全てが灰と化した場所に、私だけがひとりぼっちで座り込んでいた。土地さえ、粉々の灰のように崩れてしまいそうなほど、脆い場所。
どうして私、こんなところにいるんだろう……。
ひとりぼっちで、こんな侘しい世界の真ん中にいるの……?
それに――…… この景色、どこかで―――
その時、悪魔の囁きがそっと告げた。
"素晴らしい。なんて美しい世界の終わりなのだろう。真の世界の終わりは、これ以上に美しいのだろう"
背後から、そんな悍ましい声がする。全身が硬直して、後ろを振り返れない。瞬きのひとつも返せない。
世界の、終わり……? 世界が終わるなんて、そんなこと……。
"君に手を差し伸べて正解だったよ。小娘でも、この星の輝きある野望に見事貢献された"
気配が、ふと立ち上がったような気がする。
" "
聞きなれない単語が聞こえた。
もう覚えていないけど、かつての私の名前だったのかな――……。
"では、また会おう。その時は、君たちにも素敵な世界を見せてあげよう"
――その言葉を告げて、男は消えた――
――――世界は、私一人になってしまった。
「………誰…… あの、男の人……」
「はっ……?」
虚ろげに、そう微かに零した私を、獄寺さんが半ば呆けた顔で窺っている。でも、それも気にならないくらい、夢の内容に気を取られていた。
はっきりと鮮明に覚えている。枯れ果てた、灰一色の世界。謎の男が言っていた"世界の終わり"――……。
世界が終わってしまうのだろうか。どうして……。
あの男…… どうして私のことを知っていたの。
男が最後に言った言葉が、ずっと頭から離れない。
「おいっ、お前、まさか記憶が――」
「……夢で」
「はぁ!?」
解らない。何も。記憶がない私には…… 何も……。
「っ…… とにかく! クソチビッ! てめぇ今すぐ教室戻ってちゃんと自己紹介して来い! できねえなら晩飯抜きだっ!!」
「えっ……」
こんな時に、どうして自己紹介…… そういえば、ここはどこだろう。ベッドの上……? どうして私、寝てたの?
確か並盛小学校に編入してきて、クラスのみんなに挨拶しようと教壇に上がって、自己紹介しようとしたところで倒れて――…… って……。ああ、なるほど。大体の経緯は察した。
確かに獄寺さんの言う通り、早いところ戻らないとまずい。迷惑かけちゃったし。でも獄寺さん、クソチビって…… 何それ。自分がちょっと背高いからって、何その差別。酷い。大人のくせして背は高いけど差別して。誰かいないの、ここ。誰かいたいけな少女の心に精神的暴力を振るったことでこの人を逮捕してください……。
「お前、オレが言ったことちゃんと聞いてねのかよ……」
「……そういえば、獄寺さん、何か叫んでたような…… かなり熱狂的に」
「あ゛ぁっ!! もう何も言うなッ! 次なんか吐きやがったら果たすッ!」
「えぇーっ!?」
なんでなんで!? ダイナマイト構えられてるのッ!? そういえば、獄寺さんはマフィアの世界ではスモーキン・ボムという異名で恐れられていて、ってそんなことは別にどうでもよくて、怖いっ! 獄寺さんじゃなくてダイナマイトが! お願いだから仕舞って……!
「そんなこと言われたって…… どうせ無理だよ……」
「なんでそう思うんだよ」
今からまた教室に行ったって、同じことを繰り返してしまいそう。そんな理由くらい、決まってる。
「……怖い」
「…………」
ポツリと呟いた言葉は、重い空気に沈んでいった。獄寺さんが髪をクシャクシャ掻きむしっている。
学校なんて、私にはまだ無理だったんだ。あの時は、ちょっと浮かれてただけ……。
「イケるだろ」
「……?」
頭上から、獄寺さんがそう零した。
「今のてめぇは、一人じゃねえだろ。10代目にリボーンさん、ファミリーの奴らに…… 今はオレがついてやってんだろ」
ふんぞり返って、彼はその言葉を私に叩きつけた。一瞬、この人は何を言ってるんだろうと思ってしまった。こんなことをいうのは誰なんだろうと。あの獄寺さんが、そんなこと思ってくれてるなんて――……。
不覚ながら、ディーノがくれた言葉のようで、安心してしまった。単純だな、私。
「一人なんて思って自暴自棄になってんじゃねえぞ。チビのくせして。チビは何も考えず能天気にいやがれ。たくっ」
獄寺さんは翠の瞳を合わせてくれないまま、そう唾を吐き捨てるように呟いた。
その後、アホ牛とは大違いだな、と何やら愚痴を連発している。
よく分からないけれど、それだけで十分だった。
「……ありがとう」
「は、はぁあ!? 何勘繰りしてやがんだ! さっきのは全部10代目がオレにああ言えと命令をくださってたんだよ! 自惚れんじゃねえぞ! 果たすぞ!!」
……私より、獄寺氏の方が単純そうだ。
クラスに戻り、私が来て静まった教室全体を見渡す。
「……さっきは倒れて、迷惑かけてごめんなさい」
教室に入ったら、最初に謝った。何の反応もなくて、両足が竦んでいる。それでも、怖気づいてはいられないから。こんなままじゃディーノと顔を合わせることなんてできないから。
私も、強くなりたい。
大丈夫。そばには獄寺さんがいる。辛くても、私には帰る居場所がある。だから、失敗しても大丈夫だと思えた。失敗するを前提で考えるのはどうかと思うけども。
でも、自分から動かないと何も変わらない。
「沢田茜です。これから、よろしく」
クラスのみんなに、そう名前を名乗った。みんな相変わらず反応してくれないけど、とりあえず噛まなかった……。
パンチがあまりに弱かったのか、教室は静まり返ったまま、何とも言えない空気に包まれる。いつの間にか「ここは軽はずみに口を開いちゃいけない」という暗黙のルールまでもが成立していて、一向に重たい沈黙の中、真っ青な顔で打開策を必死に絞り出していると、廊下で待っていた筈の獄寺さんが急にドアを開けて教室に乱入してきた。
「餓鬼共! このちんちくりんが今年最大級の度胸見せてやったんだぞ。オレはな、不本意ながらこいつのフォロー役までも10代目から任されてんだ。つーわけで、仲良くしねえ奴からぶっ飛ばすぞ!!」
この人、保護者のくせに
金槌で叩かれたようなショックの中、担任の先生から退室願いを申し出されているただのチンピラな獄寺さんは無視して、教室の方に向き直る。案の定、獄寺さんの乱入でポツポツと騒ぎ出していた。ここからどう出ていこう……。
「あ、あの」
私の発言で、クラス中の視線が集まる。やっぱり怖い。いろんな目に見られて、囲まれているみたい。そんな幻覚を覚えてしまうほど、身体が怯えている。
でも、負けない。昔の私とはもう違う。変わりたい。僅かでもいいから、ここから一歩踏み出すんだ――
「日本に来てから、見えてなかったものがたくさん見えるようになった。いつも人の背に隠れてばかりいた私だけど、ここなら変われる気がする。日本人って、変だけどみんな優しいから……。それに、日本文化も私は好き。着物とか、畳の和室とか、校歌って変な歌を歌う黄色い鳥とか、グリーンティーはちょっと苦手だけど…… 日本や日本の学校、あとみんなのこととか、もっと知りたいと思ってるから、その、お友達になってください……」
……これでよかったのかな。
横目で獄寺さんがあんぐり顔になってる。余計に不安になるからやめてっ……!
心の中で羞恥に叫びまくりたい。と、静かな教室にふと椅子が床に擦れる音がする。その音がした窓辺を見ると、眼鏡を掛けた女の子がこっちを見て立っていた。
「日本語、上手だね。私、クラス委員長の
女の子は自己紹介をして、にっこりと笑った。その笑顔を見て、今までに感じたことのなかった胸の熱さを覚えた。
湧き上がる感情を胸の内で噛み締めていると、拍手の音がひとつ、ふたつと聞こえてくる。ハッとして再び教室を見渡すと、それは教室全体に広がっていて、胸の熱さを堪えるなんてもうできなかった。
どうしていいのか分からなくて、わたわたとしながらドアの近くに立つ獄寺さんに救いの手を期待する。でも、あの獄寺さんが私の期待通りのことをしてくれる筈もなくて、気取った風に私に手なんか振るとさっさとその場を退室していってしまった。
獄寺もツナに会う前はぼっちだったので主人公の気持ち解ってやれると思います。たぶん。